豪邸という言葉がふさわしい内装の家の居間。その部屋に設置されたソファに士郎と花蓮は並んで座っていた。慣れない雰囲気のために士郎は少しそわそわしてしまっていた。
「遠坂。別に家に呼んでもらわなくてもよかったんだけど…」
士郎がいるのは遠坂邸である。
彼はヴェルデ騒動の日の夜に遠坂凜から家に来るように電話で呼ばれたのだった。
「電話で話すよりも実際に会って話した方がいいでしょ」
聖職者の二人の正面のソファには同じく二人の魔術師が座っている。遠坂凜と遠坂桜だ。
「ここは学校とかと違って一般人は出入りしない。今からする話は魔術関係というか、非現実的なことだから綾子みたいな一般人がいない方がいいわ。それにうちには結界があるから盗み聞きされるような心配もない」
冬木教会にも結界はある。士郎が設置したものだ。しかし士郎とは違い本当の魔術師が展開した結界内での会話の方が安心できる。
「でもわざわざ今日にする必要あったか?」
解散してからまだ数時間。ディーロに今回のことを報告して一時間ほどで凜から連絡を受けた。
「早ければ早い方がいいでしょ。あなたの場合、死徒を滅ぼす代行者なんだからなおさら。私も管理者ではないけど冬木の魔術師としてあんな危険な奴は放っておけない」
「――そうだな」
凜の言葉は正論だ。
今回の騒動の原因は強力な力を持つ死徒、リカルドだ。
近接戦闘、魔術においても相当な実力があることがわかっている。士郎が今まで見てきた死徒の中でもトップクラスの強者だろう。一般人に被害が出る前に、早急に対処する必要がある。
「今一番気になるのは死徒の目的ね」
目的が判明すればリカルドの行動が読める。そうなると対処がしやすくなって助かるのが。
「モール内であいつは血を集めるのが目的って言ってた。おそらく死徒の吸血衝動とは別にな」
「血?」
「そうだ。それとあいつは聖杯の場所を俺に聞いてきてたが、多分それが目的ではないと思う。大聖杯が破壊されたことは知ってたみたいだしな」
リカルドは冬木市の大聖杯が破壊されたのを知ったうえで聖杯のありかを聞いてきた。つまり彼の目的は聖杯ではない。
「そうね。ないのがわかってるのにここまでくる必要はないもの。それよりも血…か」
「何かわかるか?」
「――正直わからない。血は何らかの儀式に使うのかもしれないって考えたけど、そんな儀式をわざわざ冬木市でやる理由が理解できない」
「ちなみに血を使う儀式っていうのに心当りは?」
「まあ、血を扱う魔術儀式なんていくらでもあるわよ。色々あるがゆえにその死徒が何をしようとしてるのかわからないの」
判明しているのはリカルドが死徒としての本能とは別に血を欲しているということだけ。それから彼の行動を導き出すのは難しい。やはり情報が不足している。
「あんた代行者でしょ。リカルドに関しての情報はないの?」
「――花蓮、どうだ?」
リカルドという名前の死徒は初めて聞いた。士郎は隣に座る白髪の少女に知っているかどうか尋ねる。
「私も聞いたことはありません。というよりも私と士郎は厄介な立場な上に、基本的に実働部隊のようなものなので、教会から個々の死徒に関する情報はほとんど回ってきません。彼らのことを私たちに聞いてもほぼ無意味です」
「立場って…。ああ、そりゃ、教会所属なのに魔術を使ってるんだから当然か…」
士郎と花蓮の教会での立場は極めて特殊だ。それは凜が言った通り彼らが魔術を使用するからというのも理由の一つである。
滅ぼせと命令をされたら従う。役割としてはそれだけの存在。内部の事情は教えられることがないので、シエルなどの友人や知り合いから聞いている。彼らはあくまでただの兵器なのだ。
「ディーロ神父にリカルドのことは伝えておいたから調べてくれると思う」
「そう。ならリカルドに関しては後日にした方がいいかもしれないわね」
「だな」
手詰まりだ。分からないことをいくら考えても時間の無駄。この日はこの辺りでいいだろうと区切りをつける。
「じゃあリカルドの話は終わり。次に移るけどいい?」
「いいぞ。結界が破壊されたことについてだろ?」
「そうよ。よくわかったわね」
「俺も気になってたんだ。ちょうどいい」
リカルドの強力な結界は一瞬で破壊された。
それをしたのは代行者の士郎と花蓮でもなく、魔術師の凜と桜でもなかった。
「桜は見れなかったのよね」
「はい。顔は見えませんでした。ごめんなさい…」
「謝る必要はないわよ」
桜の話ではフードを深くかぶった人物が結界に軽く触れていたらしい。体格的に女性だと言う話だが、肝心な顔は確認できていない。
「遠坂、あの結界を一瞬で破壊できるような魔術師は冬木市にいるか?」
「――いる。一人だけ」
「それは――」
士郎の言葉を遮るように、玄関からチャイムが鳴り響いた。
「私が行きます」
桜がソファから立ち上がり、居間から出て玄関へと向かった。
「来たわよ。噂の魔術師が」
「今来たのが?」
「ええ。桜が見覚えがあるって言ってたからもしかしたらと思って声をかけておいたの。女性って条件もクリアしてる。私の顔見知りよ」
チャイムを鳴らした人物は家の中へと入ったようだ。桜ともう一人の人物の足音が廊下からしているのを士郎は聞き取っている。足音は近づき、やがて居間の扉へ。そして開かれた。
最初に桜、その後に彼女は姿を見せた。
「あなたは…」
「――呼ばれて来てみましたが、神父さんもいたんですか。こんばんは」
居間に入ってきた女性。士郎と桜は彼女のことを知っている。一か月以上前に一度出会っていた。
「知り合いなの?」
お互いの反応を見て凜はそう思った。
「一度道を教えてもらったことがあるんだ」
「へえ、偶然ね」
しかしその時に彼女から魔術師並みの魔力は感じなかった。
「――結界を破壊したのはあなたですか? そもそも、あなたは何者なんですか?」
投げられた質問に女性は順番に答えていく。
「――ここなら隠す必要はありませんね。結界を破壊したのは私で間違いありません。何者かについては…そうですね…。凜ちゃんと桜ちゃんのお姉さん兼魔術使いの砂川愛梨です」
砂川愛梨。それが女性の名前だ。
彼女の苗字は士郎も知っている。
「砂川って名前は知ってるかしら。一応説明すると冬木市に居を構えてた魔術師の家系ね」
「待て、砂川家は…」
砂川家。遠坂と同じく由緒正しい魔術師の家系。士郎が調べた情報では、十年前の第十次聖杯戦争で、砂川一族は全滅したとされていた。
「ええ、壊滅しました。私は唯一の生き残りです」
「この人は第十次聖杯戦争で生き残ったセイバーのマスター。実質的な勝利者よ」
「私は勝者なんかじゃないですよ。ただの何の力もない凡人です」
あの地獄を作り出した第十次聖杯戦争の意生き残り。リカルドの結界をいとも容易く破壊した魔術師。それが彼女、砂川愛梨。
「そういうわけでよろしくお願いしますね。神父さん」
その時に愛梨のみせた顔は、幼い少女がみせるような可愛らしい笑顔だった。
次はおそらく過去編が投稿されると思います。最近は別のfateの小説を書いているのでLost Holy Grail中編についてはいつになるか不明です。なるべく早く投稿するように努めます。