言峰綺礼に拾われた少年   作:クガクガ

3 / 22
半死徒

 「――花蓮、シエルさんの話を聞いてどう思った?」

 

 皿洗いをしている士郎は、同じく横で彼の皿洗いを手伝っている花蓮に話しかける。 

 

 「どうってなに?」

 

 「死徒たちの話」

 

 「ああ」

 

 シエルから聞いた話ではアレらの数は増えていないということだった。

 

 「増えてはない。シエルがいうのだからそれは真実なのでしょう。でも確実に何かおかしくなってきている。そんなところかしら」

 

「そうだな」

 

 今のところ世界に大きな変化はない。シエルの言葉に嘘はないだろう。だが世界には必ず小さな変化が生じている。今日受けた任務がいい例になる。トリノにアレらが現れるなんて滅多になかった。少なくとも士郎たちがここに来てからは初めてのことだ。

 

 「原因はあの死徒たち……いや半死徒たちだな」

 

 死徒。この世界に存在する人とは異なる者たち。人間から後天的に変化した吸血種。彼らは今まで多くの人間に危害を加えてきた。

 聖堂教会。そして魔術協会も共に死徒を殲滅対象としている。これは昔、通常の死徒よりも上位の存在である二十七真祖のうちの一体が南米を半壊させてからだ。

忌み嫌う存在であった二つの組織が協力をして死徒たちと戦い始めてから数百年、戦いに終わりは見えない。

 

 しかしここ数年そんな死徒たちに変化が現れた。

 人間から死徒になるまでは相当の時間がかかるのだが、ここ数年で現れた者たちは死徒になるまでそれほどの時間をかけていない。現在教会では死徒化するまでに一日もかからなかった個体が確認されている。異常な変化速度の理由としては、死徒になるまでの過程をいくつか無視しているからということは判明している。

 だがその速さ故に、戦闘能力は低く再生能力もないに等しい。下手をすれば格闘技の心得がある人間なら勝てることもできる。

 

 「人間同様、死徒も進化するってことか」

 

 人間だけではない。生物であれば住む環境に適応するために進化を遂げる。死徒もそれは同じ。彼らがこの世界で生きていくために進化した可能性は十分にある。

 

 「本当に進化なの? 退化しているようにも思えますけど」

 

 「花蓮の言う通り戦闘能力は劣るけど、あいつの厄介なところはそこじゃない」

 

 戦闘能力は普通の死徒とは比べ物にならない。戦闘のプロである代行者ならば一撃で粉砕できる。そう、戦闘面においては大して厄介な相手ではない。問題は、

 

 「仲間を増やす繁殖力……いえ、繁殖よりも上書きと言った方がいいかしら」

 

 半死徒と呼称されている変化種。彼らの長所は増殖力にある。死徒化が速いということはその分多くの死徒を生み出せるということ。

 

 「このままじゃいつか人間の世界が死徒に乗っ取られるかもしれないわね」

 

 「――――」

 

 あり得ない話ではない。いつか人間とは異なる存在である死徒が、新たな人類としてこの世界で生きていく時が来るかもしれない。

 しかし現状から考えてそんなことが起こるとしてもおそらく数百年後だろう。士郎たちには関係のない話だ。

 

「――そうさせないために俺たちがいるんだ」

 

 「そうね。それが私たちの役目。でも代行者としての自分にとらわれないように。いつか身を滅ぼします。あの男のように別れも言わずに一人で勝手に死んだら許しませんから。あの時の約束は絶対に守りなさい」

 

 「……わかってるよ」

 

 「そう。ならいいです」

 

 あの日の夜にした誓いがあるのだ。士郎はそれを守らなければならない。

 なぜなら士郎にとってあの誓いこそが――――

 

 

***

 

 

 「終わりましたね」

 

 「だな」

 

 二人でやったので食器洗いはすぐに終わった。

 

 「今日はもう寝るか…」

 

 士郎は別にやることもないので今日はもう寝ようかと考える。

 

 「あら、お誘い?」

 

 「違う!」

 

 どうせいつものからかいなのだとわかっているが、否定しないわけにはいかないので声を大にして否定する。

 

 「……まあ、ともかくやることもないし寝よう」

 

今度はすんなりと花蓮は頷いた。

 

「あと明日は久しぶりに先生のところに顔を出しに行く。花蓮も来るだろ?」

 

 「その質問に選択肢はあるの?」

 

 「ないな」

 

 花蓮が行かないと言っても彼女を一人にするわけにもいかないので無理やりにでも士郎は連れていく。

 

 「でしょう? 聞いても結果は同じなんですから聞かなくてもいいです」

 

 「それじゃあ行くってことで」

 

 明日の予定は決まった。

 

 「これからは先生のところに行く機会が増えそうだな」

 

 「そうですね。去年と比べてこの一年間は私たちの仕事は減るみたいですから」

 

 緊急の招集があれば多少変わるが、現時点で判明している今後の任務の量が去年と比べると何故か少ない。もしかしたら日本での仕事に備えてという可能性がある。というのも士郎たちに任された仕事は2、3年ほどの長期にわたるものなので教会がその辺りを考慮してくれたのではないかと二人は思っている。

 

 「――寝よう」

 

 今後はともかく、最近は仕事に追われていたので体が睡眠を欲している。二人はもう寝てしまうことにした。

 




この二話で全部ではないですが世界についての説明したので次回から本番になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。