「士郎くん。今日は学校に挨拶をしに行きますよ」
「挨拶?」
冬木市に士郎たちが来てから数日。昼食後、皿洗いをしている士郎にディーロが話しかけてきた。
「実は私と穂群原学園の校長とは関わりがあるんですよ。君の転校手続きがすんなり済んだのはその人のおかげです。学校は休みでもこの時期は忙しいらしいのですが、今日は時間を作ってくださったようなので行きましょう」
「了解です」
仕事の手助けをしてくれたのならば礼を言わなければならない。ということで士郎は高校に行くことになった。
「二時頃に出るので準備しておいてください」
「わかりました」
時計を見て時間を確認しながら返事をする。
「士郎さん。あとは私がやるよ」
士郎と皿洗いをしている少女――平川鈴奈が残りは自分がやると言ってくれた。彼女も櫂と同じく十年前の火災によって家族を失った孤児だ。現在の年齢は十五歳。今年で十六になり、来月からは高校一年生だ。士郎よりも一つ年下だが育った環境の影響か、冷静でどこか大人びている。この教会での家事は鈴奈が中心になってやっている。
「大丈夫、まだ一時だ。それにもうすぐ終わるから最後までやるよ」
現在の時刻は一時。まだ余裕はある。鈴奈にすべて任せるのは申し訳ないので士郎も終わるまで皿洗いを続ける。
「じゃあ士郎くん。時間になったら声をかけます」
「はい」
返事をして皿洗いに戻る。今この教会で生活しているのは九人。その分洗う食器の数は多い。しかし士郎は家事をこなすのが好きなので苦でも何でもない。むしろ楽しいくらいだった。
「ディーロ神父」
鈴奈とは違う少女の声。こちらは士郎にとって聞き馴染んでいる声だったためすぐに誰から発せられたものなのかわかった。
「花蓮さん。どうかしましたか?」
「少し相談が」
深刻な内容というわけではないようだが、花蓮が自分以外の人物に相談事をするなんて珍しいので士郎は皿洗いをしながら耳を傾ける。
が、二人は部屋を移動してしまったため相談事の内容を聞くことはできなかった。
***
「似合ってますね。よかったです」
時刻は二時になり、士郎はディーロに渡された穂群原学園の制服に着替えて礼拝堂にいた。
老神父は士郎の制服姿を見て満足そうにしている。
「……ほんとですか?」
「本当です。似合ってますよ」
制服なんて初めて着るのでおかしなところはないかとつい不安になってしまう。
「そういえば今更になりますが、中学校までの勉強は大丈夫なんですか?」
士郎は七歳のころまでしか小学校に行っていない。つまりは学校でそれ以降の勉強は習っていないということ。そんな彼がいきなり高校に行っても大丈夫なのかとディーロは心配になった。
「問題ないですよ。向こうには先生がいたので」
「そうでしたね。……シャサさんでしたか」
「はい。あの人には勉強も教えてもらってました」
イタリアには二人に一般常識を教えてくれる女性がいたので高校の勉強については特に問題はない。
「神父。そろそろ時間です」
時計の時刻を確認した花蓮がディーロに言う。
時間的にはちょうどいい。だが、士郎はおかしく思った。花蓮は時間にルーズだ。いつもの彼女ならば時間が近づいてきていても何も言うことはなかっただろう。だというのに今日は普段しない報告をしている。早く自分たちに学校に行ってほしいと思っているのではないかと考えたが、そう思うような理由がないので士郎は自分の考えを心の中で否定する。
「――まあそんな日もあるか」
花蓮が何を考えているかわからないなんてことはちょくちょくあるのでそれについてどれだけ考えても時間の無駄。逆にここは、妹が時間を気にするようになってくれたとポジティブに考えることにした。
「行きましょうか」
「はい」
ここからの移動は新都でバスに乗る。そのバスで高校近くまで行き、そこからは歩く。
「鈴奈さん、花蓮さん、留守は任せます」
ディーロと士郎は教会を出て、冬木市深山町の穂群原学園へと向かった。
どのタイミングにするかは決めてませんが、本編の十年前に起きた聖杯戦争についてのお話(過去編)を投稿する予定です。