言峰綺礼に拾われた少年   作:クガクガ

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登校

 強く根を張る太い木々が美しい花々を咲かせる四月。冬木市はさくら色に染まっていた。

 

 「友達はできたか?」

 

 士郎は隣を歩く花蓮に話しかける。

 もう学校が始まって一週間ほど経つ。彼女に友達ができているのか学年が違い様子を確認できない士郎は心配だった。

 

 「大丈夫です。必要ないので」

 

 「大丈夫じゃないだろ……」

 

「はあ…」と深いため息を一つ。

花蓮の性格上、質問する前から何となく回答の予想はできていたが、こうもきっぱりと友人を作る必要がないと言われると困るものだ。

 

 「鈴奈も友達いないみたいなこと言ってたし……」

 

花蓮と同じ学年である鈴奈も友人がいないと言っていた。

 

(あいつは友達ができそうだけどな)

 

鈴奈は人見知りというわけではないのに友人がいないらしい。というよりなぜかはわからないが友人を作ろうとしないらしい。櫂に聞いたところは小学生の時も中学生もそれは変わらないようだ。

 

(似た者同士か)

 

花蓮と鈴奈は思考が似ているのではと士郎は思った。

 

「…そうだ、今日昼誰か誘ってみたらどうだ?」

 

 今日からは普通に午後まで授業があり、昼食はもちろん学校で食べる。

 

 「私はあなたと食べるつもりだったのだけれど?」

 

 「……俺は構わないけど、ちゃんと鈴奈以外にも同学年に友人は作っておいた方がいいぞ」

 

 「――そう言う士郎はどうなんですか?」

 

 「俺は問題ないよ。転校生だからって周りから寄って来てくれた」

 

 士郎は既に何人か友人を作っていた。外国からの帰国子女というステータスが大きかったのだろう。自分から行かなくても初日に多くの生徒に席を囲まれて質問攻めにあった。

 

 「とりあえず花蓮。あと、鈴奈もだ。櫂たちと協力して何とかしたいけど…」

 

 士郎はそこで話すことを中断する。

 

 「あら偶然ね、おはよう」

 

 声をかけてきたのは凜だった。

 

 「おはよう」

 

 魔術師が近づいてきていることは察知していたので驚くことはなかった。

 

 「その子は?」

 

 挨拶をしながら凜は花蓮の方に視線を移す。

 

 「妹だよ」

 

 「妹?」と言いながら彼女は二人を見比べる。何を言いたいのか士郎はすぐにわかった。

 

 「――義理の妹だ。顔は似てないぞ」

 

 「ああ。なるほど」

 

 その答えに凜は納得した。純日本人である彼とイタリアと日本のハーフである花蓮では顔が違いすぎる。似てないと思われるのは当たり前だ。

 

 「それにしても妹がいたなんて驚きね。あなたの妹ってことは高校一年生か」

 

 「ああ」

 

 「なら私の妹と同い年ね」

 

 「遠坂にも妹がいるのか」

 

 「あれ、神父に聞いてなかった? 一つ下の妹要るのよ、私」

 

 士郎は初耳だと思ったが、三月にディーロと凜が話している時に桜という名前を話に出していたことを思い出す。

 

 (桜って子が妹なのか。遠坂家に二人も子供がいたなんて初めて聞いた)

 

 「あの子あんまり友達できていないようだから………」

 

 凜は士郎の方を見た。どうやら花蓮の名前を知りたいらしい。

 

 「……花蓮だ」

 

 「いい名前ね。で、花蓮さん。できれば私の妹と友達になってくれると嬉しいわ」

 

 「――気が向いたら…」

 

 やる気のない返事に凜はありがとうと言い笑顔を見せる。

 士郎にとっても彼女に友人ができれば喜ばしかった。

 

 「で、その妹はどこにいるんだ?」

 

 話題が出ているのに姿が先ほどから見えない。

 

 「ちょっと体調が悪いらしくてね。家で休んでる。治ったら行くって言ってたわ」

 

 なんでもないように凜は説明した。その様子から察するに、彼女の妹の体調が悪くなることは珍しいことではないらしい。

 

 「その子、今家に一人なのか?」

 

 遠坂家には子供しかいない。つまり凜がいなければ妹は家に一人だけということになる。

 

 「まさか。ちゃんと知り合いに面倒見てもらってるわよ」

 

 「そうか」

 

 短く士郎は答える。

 

 「――あなた知りもしない私の妹の心配をしたの?」

 

 「神父からお前に親がいないことは聞いているからな。それに一応友人の妹なわけだし多少は心配するだろ」

 

 「そう。ま、あなたにとってはそれが当然なのね」

 

 まるで士郎の考えがおかしいかのように凜は話していたが、士郎からしてみれば彼女の問いの方がよくわからなかった。

人を助けるのは当たり前。全く知らない人物の心配をしてはいけないなんてことはない。

 

 (…これが常識のはずだ)

 

 これが士郎にとっての従うべき常識だった。

 

 「昼までにあの子が来たらあなたたちに紹介するわ」

 

 三人は並んで高校までの道を歩いた。

 

 

***

 

 

 「――さて」

 

 午後の授業は終わり昼休みになった。

 

 「花蓮のところに行くか」

 

 花蓮と昼食を食べるために士郎は席を立ち、教室の扉へと向かう。

 

 「言峰」

 

 そこで士郎の背中に声がかけられる。

 

 「なんだ、間桐」

 

 振り向くと士郎のクラスメイトである少年――間桐慎二がいた。

 

 「一緒に昼食でも食べないかって誘いだよ。どうだ?」

 

 「悪いな。今日は先客があるんだ」

 

 士郎は慎二の誘いは断った。別に彼のことが嫌いというわけではない。単純に花蓮の優先順位が何よりも上なだけだ。

 

 「また今度誘ってくれ」

 

 「ああ」

 

 先客があるなら仕方ないか、と言って慎二は数人の生徒を連れて教室から出て行った。

 

 「――――」

 

 間桐慎二。他の生徒や凜からの話を聞いたところ、彼はクラスの人気者であり優等生だという。

 今昼食に誘ってきたように、転校して来て士郎に最初に話しかけてきたのも彼だった。

 

 「間桐家の人間……。まあ今の一族の状態から考えると警戒する必要はないか。あいつは回路すら開いてなかったみたいだし」

 

 士郎も教室を出て花蓮のもとへ向かう。

 

 昼休みのためか廊下を歩いている生徒が多い。視線がいくつか向けられているが話しかけてこないので気にせず歩く。

 

 (友達ができやすいって利点はあるけど、無駄に注目されるのはなんか嫌だな)

 

 士郎がしてきたのは世界の裏側での生活だったのだ。今まで多くの人間に自分の姿を見られるなんてことはなかった。

 

 「よ! 言峰」

 

 「美綴か」

 

 少女――美綴綾子。周りからの認識では文武両道の美人で有名人。慎二と違いクラスメイトではないが、彼女は士郎の友人だ。

 

 「今から食堂?」

 

 「そうだけど」

 

 「なら一緒に食べない?」

 

 こちらも昼食の誘い。ありがたいことだが、

 

 「――悪いな。もう一緒に食べるやつがいるんだ」

 

 こちらも断った。士郎は昼食を共にしても構わないが、花蓮はそう思わない可能性が高い。

 

 「へぇ、遠坂とか?」

 

 「いや、妹だよ」

 

 「……そういえば慎二が騒いでたな。言峰って名前のハーフの美少女が入学したって。それがあんたの妹か。ていうかもしかして言峰ってシスコン?」

 

 「違う」

 

 「ははは。冗談よ」

 

 綾子は士郎をからかい楽しそうに笑う。

 

 「聞きたいことあったけど、約束があるなら仕方ないか」

 

 「……聞きたいことがあるならここで聞くぞ」

 

 「いいの?」

 

 「いいけど手短に頼む」

 

 まだ余裕はある。花蓮を少し待たせることになるが綾子の話を聞くことにした。

 

 「――言峰ってなんかスポーツしてた? というよりなんか部活に入る気ある?」

 

 「――――」

 

 仕事内容的に体は相当動かしているが、まともなスポーツなどしたことがない。

 綾子には素直に「ない」と答えた。

 続いて部活に入る予定があるかと聞かれて、士郎はこれも「ない」と答えた。

 

 「なら、弓道部入ってみない?」

 

 「――――」

 

 これは予想外の誘いだった。

 

 「部活に入ってないと高校生活暇よ」

 

 部活というものに興味がないわけではない。しかしここですぐに決断できない。

 

 「考えておくよ」

 

 「わかった。できれば今月中に決めて欲しい」

 

 「了解」

 

 綾子とは別れ、士郎は花蓮がいる1年C組へと足を進める。

 




遠坂家だけでなく間桐家にも変化が起きています。おそらく前編では詳しくは掘り下げませんが。
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