言峰綺礼に拾われた少年   作:クガクガ

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部活

 「遅い」

 

 開口一番、花蓮が言ったのはそれだった。

 

 「ごめん。少し友達と話してたんだ」

 

 花蓮は自分の教室の前で士郎を待っていた。

 

 「――まあ、そりゃ目立つよな」

 

 周りの視線が先ほどから花蓮と士郎に集まっている。主に花蓮に集まっていると言った方が正確かもしれない。なんといっても彼女はハーフだ。冬木は外国人の多い市ではあるが、やはり身近にそのような自分とは違う人種の人間がいると興味が引かれるのは仕方がない。さらに言えば花蓮は白髪。目立つのも当たり前である。

 

 「行こう」

 

 気にしていても時間の無駄。二人は多くの視線を尻目にしてさっさと移動する。

 

 

***

 

 

 「何にするの?」 

 

 二人は券売機の前でどれを食べるか迷っていた。

 

 「カレー…かな。日本に来てからも食べてないし、シエルさん来ないから食べる機会減ってたからな」

 

 「――なら、私もカレーにします」

 

 去年のあの日…約半年ほど以降シエルがイタリアに遊びに来なかった為、二人がカレーを食べることは少なくなっていた。

 

 「…元気かな。あの人」

 

 「一応手紙は一か月一回くらいのペースで送ってきてるんだから問題ないでしょう。また向こうでもカレーをたらふく食べてますよ、多分」

 

 「それもそうだな」

 

 シエルが遊びに来なくなったのは未だに日本にいるためだった。詳しい話は聞いていないが、手紙を見る限り無事に体の不死性は消え、どうやら親しい友人もできて楽しく生活をしているらしい。

 

 「俺らも日本にいるわけだし、暇ができたら会いに行くか」

 

 「そうですね」

シエルもつい最近日本に来て初めて送られてきた手紙に書いていた。両者暇ができたら会いましょうと。

 

 二人は券売機で食券を二つ購入して、カウンターでカレーを受け取った。

 空いている席を適当に探し座る。

 

 「そういえば鈴奈はどうしたんだ?」

 

 今日は一緒に登校しなかったが、鈴奈も教会から学校に来ているはずだった。

 

 「同じクラスじゃないので」

 

 花蓮はC組、鈴奈はA組だ。クラスが違う。

 

 「そうか…。一人なら誘えばよかったかな」

 

 孤児院の子供達とは一か月以上も同じ場所で生活している。すでに赤の他人なんて認識ではない。家族のようなものだ。心配はもちろんする。

 

 「鈴奈はしっかりしているから、大丈夫だと思いますけど」

 

 「確かにそうだけど、これに関してはそういう問題じゃないだろ……」

 

 鈴奈は花蓮の言う通りしっかりしている。おそらくあの孤児院では一番だろう。しかし問題はそこではない。

 

 「まあ、仕方ないか」

 

 今更教室にいるか不明なのでひとまず鈴奈のことは諦めることにした。

 

 「――ここでも視線が集まるな」

 

 先ほどの教室前と同様、いや人の多い食堂ということもあってかそれ以上に二人に目を向ける人が多かった。

 そこに一人の少女が、

 

 「――あ、見つけた言峰くん」 

 

 「遠坂」

 

 周囲の視線を二人でカレーを黙々と食べているところに、今朝と同じ様子で凜が話しかけてきた。

 『ミスパーフェクト』とも呼ばれている凜は言うまでもなく有名人だ。つまりは二人にさらに視線が集まる。

 

 凜はそんなこと全く気にしていない様子で、並んで座っている二人の反対側の席に腰を下ろした。

 

 「昼食は?」

 

 「これよ」

 

 凜は売店で販売しているサンドウィッチをテーブルの上に出して開封し始める。彼女の今日の昼食のようだ。

 

 「いつもそういうのなのか?」

 

 「違うわ。いつもは妹が作ってくれてる。あの子私と違って朝強いから」

 

 「ふーん。……それでその妹は来たのか?」

 

 今朝凜が昼までに来たら紹介すると言っていたのを思い出した。

 

 「来てない。まあでも昔からよくあってことだし大して心配する必要はないと思うけど」

 

 「……」

 

 朝の士郎の予想は当たった。やはり凜の妹は体調をよく崩すらしい。

 

 「持病か?」

 

 「そうね。十年前からずっと。どこか悪いところがあるわけでもないのに度々体調を崩すの」

 

 「病院とかで見てもらってないのか?」

 

 「もちろん見てもらったわ。でも異常なしだって言われるからどうしようもないでしょ。多分体調崩しやすいっていう生まれつきの体質か何かでしょうね」

 

 「…そんなものか」

 

 「そんなものよ」

 

 家族の在り方はそれぞれ違う。花蓮がよく体調を悪くしていても士郎は毎回相当な心配をするだろう。心配の度合いも家族によって異なるのだ。

 

 「いたいた。おーい、遠坂…って、言峰もいるじゃない」

 

 新たに現れたのはこれまた有名人。ついさっき昼食の誘いを断った綾子だった。彼女も凜とは違い、食堂の定食が昼食のようだった。

 

 「なんだ、あんたらやっぱり一緒に食べてたの?」

 

 綾子は凜の隣の椅子に座った。

 

 「成り行きでね」

 

 成り行きではない気がするが余計な気がしたので士郎は特に何も言うことはなかった。

 

 「へー……あれ、言峰。その子が妹さん?」

 

 「――言峰花蓮です」

 

 「ほう」

 

 まじまじと綾子は花蓮を見つめる。

 

 「似てないわね」

 

 「義妹だからな」

 

 「でしょうね。これで血が繋がってるって言われたら驚きよ」

 

 どこをどう見ても花蓮と士郎の顔は似ていないので綾子の感想は無理もない。

 

 「……」

 

 今度は顔ではなく、手、足、腰と全身を見ていく。

 

 「ねぇ…」

 

 「言っておくが花蓮は部活に入らないぞ」

 

 「あれ? バレた? 遠坂の妹も弓道に興味があるって聞いたからどうかなって思ったんだけど」

 

 自分を勧誘してきた時と同じ目で花蓮を見ていたので、士郎には彼女が何を言おうとしてるのか想像するのは容易だった。

 

 「遠坂の妹は弓道部に入るのか?」

 

 綾子の話を聞いた限りではそのように聞こえた。

 

 「興味あるみたいなことは言ってたわ。あの子に弓道は合ってると思うし、運動させるいい機会だと思うから入りたいと言ってたから全然承諾するけど…。それよりもなんで言峰くんの妹さんは部活に入らないの?」

 

 本人ではない士郎が即答したため、綾子だけでなく凜もその理由が気になり質問した。

 

 これは自分の口から言っていいものなのかと思い、横に座る妹の顔を見る。

 

 「…体が弱いんです。生まれつき」

 

 花蓮は別にそのことを気にしていないような様子だ。

 

 「だから厳しい運動ができないんです」

 

 彼女は走ることすら許されない身。文化部ならともかく、運動部なんて無理だ。体が耐えられない。

 

 「まあ、もともと運動が好きではないので入る気はありませんが」

 

 そもそも花蓮に部活なんてやる気はないのであった。

 

 「残念。でも兄貴の方はどうよ?」

 

 「まだ決めてないよ」

 

 まだ誘われてから三十分も経っていないというのにもう催促された。

 

 「士郎。部活に入るんですか?」

 

 「そうよ。弓道部」

 

 「騙されるな。まだ決まってないから」

 

 そんなやり取りを横から見ていた凜が口を挟む。

 

 「なんで綾子は言峰くんを弓道部に誘ってるの?」

 

 (確かに)

 

 それは士郎も気になった。

 

 「ん? 単純に部員が欲しいってのと、あとは勘ね」

 

 「勘?」

 

 「そ、勘よ。あんたなら弓うまそうって思ったの」

 

 「勘か…」

 

 不確かなものではあるが、勘というモノは侮れない。

 

――実際、綾子の勘は当たっていた。

 

 「――どうせ言峰くん暇なんでしょ? 入ればいいんじゃない?」

 

 勝手に暇人認定をされてるのは心外ではあったが、間違ってもないので否定はできなかった。

 

 「――花蓮、こんな感じで勧誘されてるんだが」

 

 分が悪いのでここは花蓮に助けを求める。

 

 「……部活というのは何時ごろまでなんですか?」

 

 「いつも七時前までには終わってるけど…なんで?」

 

 「いえ、特に深い理由は」

 

 部活終了時間。つまり弓道部員たちの帰宅時間が花蓮には気になった。

 

 「――! …言峰くんは可愛い妹さんに愛されてるのねぇ」

 

 凜は意地の悪い笑みを顔に浮かべる。

 

 「――遠坂、どういうこと?」

 

 「花蓮ちゃんは言峰くんと一緒に帰りたいのよね~?」

 

 なるほどと綾子は口にした。

 そして士郎の視界の端に少し顔を赤らめている花蓮が映る。

 

 「それなら大丈夫よ。部活入ってなくても終了時間まで道場にいてくれても全然構わないから。顧問も多分文句言わないだろうし」

 

 士郎が一番気にしていた、部活に入ると彼女を一人で帰らせることになってしまう問題が解決してしまった。

 

 「――弓道に興味がないわけじゃない。どちらかといえばある。でも保護者にも聞かないといけないからここで返事はできない」

 

 「保護者ってディーロ神父でしょ? あの人が駄目なんて言うとは思えないけど」

 

 「そうですね」

 

 凜の言葉に花蓮も同意する。

 士郎も同じくそれには同意だった。部活に入ってもいいかと聞いた場合、「もちろんいいよ」と老神父が即答する光景が容易に想像できる。

 

 「…とりあえず明日まで待ってくれ」

 

 こうは言ったものの、凜が言ったように神父の返事はわかりきっている。つまり士郎が部活に入るか入らないかはほぼ確定してしまったのだった。

 

 「了解」

 

 そのことを何となく悟った綾子は景気よく返事を返した。

 

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