魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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プロローグが長い。

そして長い間のルーキーランキング入りありがとうございます。


ちょっとだけ仕事で失敗してしまって落ち込みながらも、何とか小説のモチベーションを上げることで、実生活も充実させたい。


そんなこんなで新話、お届けします。


プロローグ5『星が瞬くこんな夜に-Ⅲ』

 

 

「では間違いないのだな?」

 

『ヤー、件の魔法師とヤンキー(米国人)の魔法師部隊―――USNA軍『スターズ』は戦闘を行い、現在その戦闘の為に疲弊しているものと思われます』

 

 

 疲弊。馬鹿馬鹿しい言葉だ。あの封印指定にして『封印指定執行者』にとって、そのようなことはあり得ないだろう。

 

 数多の怪異、外法師――――そして『死徒』を屠ってきた相手が、神秘の薄いあのような国で敗れ去る訳がないのだ。

 

 

 隣でそれらの通信内容を聞いていた『女』は、薄く笑みを浮かべて予定通りだと気付く。

 

 

「今はまだ、ね―――けれど今に分かるわ」

 

「本艦は、これより『ヴィマーナ・システム』を起動させる―――よろしいですかな?」

 

「構いませんわ。閣下―――術式が完了次第、ワタクシは下船させてもらいますが、よろしくて?」

 

「海の男に二言はありません」

 

 

 本音としては何が何でも自分をモスクワまで連れて行きたいだろうに、しかし自分の『魔法』能力の程は、街一つを『死都』にしたことで知られている。

 

 いざとなれば自分達がグールの類となることも分かっているのだろう。

 

 

 そうして女は―――長い黒髪を棚引かせながら船の『基幹』を動かすべく魔力を励起させた。証拠隠滅の手筈は整っている。

 

 恐らく、彼からすれば『変な船』が現れたぐらいで通るはず。乗船員たちの記憶も消去される。

 

 

 何も残らず―――そしてまた女は隠れられる。

 

 

(『運命』が―――あなたを私の前に引きずり出す。その時までに、変革しておくことね)

 

 

 

 浮かび上がる『巨艦』―――海水の雨足を残しながら、新ソ連開発の『航空戦艦』は―――アメリカはボストンの沖合へと急行。

 

 その力の元となったのは―――『異世界の力』。刹那にとって逃げ出した一つの運命が追ってきた瞬間であった……。

 

 

 

 

 † † † †

 

 

 勝負は着いた。まだ倒れていない隊員もいるが、未だに手傷一つ負っていない少年と流れ出る血を止めんと蹲る総隊長代理とでは―――もはや動こうとする者はいない。

 

 

 あれだけの立ち合いを見せつけられては―――。

 

 

「まったくもって理不尽な世界だな……」

 

「心中はお察ししますよ。ただ―――これが自分の力の総量でないことも確かです」

 

「まったくもって容赦ない少年だな……」

 

 

 振り返り、ベンジャミン・カノープスという男に、声を掛けながら―――クラスカードの展開を終える。

 

 魔法少女が持つような杖―――黒いものが宙に現れると同時にベンジャミンに治癒術がかかる。

 

 

「これは―――」

 

「武器が無くなれば、消え去る『呪い』。そう捉えていただければ結構です」

 

『ケルト神話における悲劇の英雄『輝く貌のディルムッド』が手にしたマナナーンの神器の一つ『必滅の黄薔薇』(ゲイ・ボウ)の呪いは武器の破却、もしくは使用者の死によってディスペルされるもの、『私のスキル』の一つなのさ』

 

 

 自慢げに『fake』を入れてくるオニキスにナイス、と思いつつ親指を見えぬように立てる。

 

 それに対してオニキスもまた羽を使って器用に返してきた。

 

 

「予想外にして規格外だな―――それで君は何を望む? 准尉の身柄であれば、ちゃんと家の方に挨拶してから『もらっていくべき』だと思うが―――娘を持つ身としては一度ぐらい婿の顔を見たいものだ」

 

「んなっ!!!」

 

 

 父親ってのも色々いるもんだな。と感じる。娘を持つ父親の何気ない願望を聞きながらも、どうしたものかと思っているとオニキスが通信を『受けた』。

 

 

『グッドイブニング。と言いつつ初めましてだね。『セツナ』くん―――、私はアビゲイル・スチューアット。そこの美少女魔法戦士プラズマリーナを『改造』した悪の科学者だ。彼女は24時間以内には君にあっておかないと死ぬように設定してある。よって今すぐ指定の場所まで連れてこなければ、彼女の身体はミートソースも同然になってしまう―――――――』

 

 

 オニキスが受信した通信内容。それを聞いた瞬間―――全員に一陣の寒い風が吹き抜けた。

 

 あらゆる意味で寒すぎたのであった……。

 

『……あ、あれー? おかしいなー。オニキスちゃん曰く、こう言っておけばセツナは、ノリノリでやってくれるとか言っていたんだけどなー……』

 

「おまえが元凶かい!?」

 

『なんというか同じ『解説役』どうし『馬』が合ってしまってね。言うなれば私とアビゲイルは、クサントスとバリオスの間柄、言うなれば竹馬の友というヤツだね』

 

 

 ギリシア神話の安売りも同然のオニキスのウマ娘(?)な称し方に頭を痛めつつも、話は真面目な方へと向かう。

 

 

『アビゲイル、キミの考案した実験を正直に話すべきだね。そこの少佐殿(Major)も、耳に入っているとの前提だがね』

 

『そうだね。やはり研究者には一定の『社交性』も必要かな―――円滑な研究には円滑な出資者が必要だ』

 

 

 若干、同意できる理屈ではある。探求の徒である魔術師にとって『財貨』はあって困るものではない。

 

 現世に生きる彼らとて『霞』を食える術を開発するよりは、普通に『俗世の食欲』で腹を満たした方が安上がりなのも事実。

 

 

 そんな風に少しだけアビゲイルという研究者に同意していた刹那だが、腹部の傷を癒したベンジャミンが立ち上がって、応える。

 

 

「ミザールから聞いてはいる。しかし―――准尉が戦略級魔法……本当に可能なのか?」

 

『少なくとも、『リヴァイアサン』よりは、スマートな結果になるかと思いますよ。あれはひどく大雑把ですからね。だから先の『大戦』では、使用されなかった』

 

「あの戦いは、覚えている……しかし、それはつまり准尉が―――『使徒』の一人となり……」

 

『起こりえる結果。受け入れるべき『称号』、そしてその『裏側』もお察ししますが―――、出来るべきことをやらないでおくのも禍根を残します』

 

 

『門外漢』には分からない会話。

 

 何となくの会話の推測で、脳内イメージを構築。

 

 プラズマリーナが今後『シン・ゴジラ』みたいな存在となって『あんぎゃー』とか叫びながら、東京を火の海と化して、冷却されるわけか。南無。

 

 

「―――シン・リナラか」

 

「何よそれ。というか何を想像しているのよ?」

 

「君が口から熱放射線を吐き出しながら日本の『首席宰相』(Prime minister)などを総辞職させる様子」

 

「どんな怪獣よ!?」

 

 

 というか、この子は普通に自分の側に寄ってきているし、ミリタリーコートを羽織っているが、下はあの魔法少女ルックなのだろう。

 

 ぷんすか怒るリーナ。側にはシルヴィアとかいう少尉さんが少し戸惑った様子。申し訳なさを感じながらも―――リーナがベンジャミン・カノープスに『私がやります』と言ってのけた。

 

 

「―――……この場に、私がいなくてバランス大佐だけの判断だけならば、知らないフリも出来たが―――」

 

「ですが! 私がこれを運用できれば―――、USNAが世界をリードできるはずです!!」

 

「准尉……私が、君をこの任務に就かせた本当の理由を知れば、そのようなことは言えなくなる。寧ろ、君は大人を軽蔑するだろう……。私もその一人に含まれる……だから、その際の咎を受けるべき『煉獄』の術ぐらいは完成を見届けるべきだろうかな?」

 

 

 何故に俺を見るのだろう。だが理由は分かるのだ。このベンジャミンという軍人は、自分と同じかそれ以上の血臭をさせている刹那を同類と見ている。

 

 

 その一方で、自分達のような『子供』に対する『情愛』も持ち合わせている。軍人としての矜持よりも人としての倫理性を重んじる人なのだろう。

 

 

 ため息一つ。話が長くなりすぎているだろうかと思いながらも準備はしておく。女にも準備が必要ならば男にも準備は必要だ。

 

 頭を掻きながら、困った風(実際困っている)でベンジャミンという軍人に話しかけた。

 

 

「部外者の俺が口出すことでないのは重々承知ですが―――一先ずリーナが出来るその戦略級魔法とやらをやらせてから考えてもいいのでは? 逃避行に準じろというのならば、別に迷いませんし―――『可能性』は色々でしょ」

 

「せ、セツナ―――そ、そういう無責任なこと言わないで!」

 

 

 照れ隠し(?)で、ぽかぽかと人の胸板を叩くリーナ。マグニのルーン強化は続いていたというのに少しだけ痛みも感じるのはなぜか。

 

 ともあれ若人二人の決意に腕組みしての黙考10秒といった所で―――アビゲイルに場所を問うベンジャミン。

 

 

『とりあえずウインスロップまで来てくれ。そこで装備を渡す。セツナくん―――君が、彼女を連れて来てくれるかい?』

 

「……分かりました。オニキス。正確な位置情報を頼む」

 

 

 四の五の言うことでもないので、特に抵抗なく指示に従う。その前に後始末を着けるべく『宝石』を取り出す。

 

 どれにどの術式が装填されているのかは、分かりきっている。遠坂にとって宝石はシンボルなのだから。

 

 

Zurück an den Ort soll es alles sein,(杯に満たされ)Weiß verlassen das Phänomen(全ての道に世界を繋ぐ)

 

 

 戦場跡も同然となっていた公園に五つの宝石が投げ込まれ、地に融け混ざるかのように蟠る『液体』が消え去ると、意思を持つかのように砕かれたコンクリートやその下の地肌や木々などに至るまでが、本来ならばあるべき場所から『逆回し』、レコーダーの早戻しかのようになっていく。

 

 

「!? セツナ君、これは!?」

 

「ああ、そう言えばこれも『無理』だったんだな。簡単に言えば、『物体の修復』と『世界の反発力』を利用した……ざっくり言えば『万物を回復させる術』です」

 

 

 シルヴィアという……なんか雰囲気が少しだけ『師匠』に似ている女性に言いながら途中でめんどくさくて、そう言う風な説明で通すことにした。

 

 

「―――気絶していた隊員が呻きだしている……」

 

 

 ようやく『効いてきたな』と思うぐらいには、人体に対する『復調』も十分に使える。広範囲すぎて術式の複雑さも少し難儀ではあったが―――五分もすれば、全員動けるようになるだろう。

 

 

「それじゃ行くか―――」

 

「うん、けれど私は『飛べないわよ』。というかセツナは飛行魔法の術式をどうやって編み出しているのよ?」

 

「それに関してはのちのち、今は、『ハリー、ハリー』(急げ急げ)だ」

 

 

 そうして疑問符を浮かべっ放しのリーナを抱きあげてから、鮮明なるイメージを起動。

 

 刹那にとっての飛行魔術というのは、あのミス・オレンジと似て非なるものでありカレイドライナーとしての技術も解析した上でのものだ。

 

 

「え? え? えええええ―――!!!!」

 

「舌噛むことはないが、口はあんまり開けるなよ―――」

 

 

 俗な言葉でお姫様抱っこというものをされて驚くリーナに警告してから術式が起動。

 

 宙に浮く己の身体。そこから一気に『飛翔』――――眼下ではざわつく声がドップラー効果で聞こえながらも、適正な高さまで上昇した所で加速する。

 

 

「す、すごい! 飛んでるわ!!」

 

「どうだい気分は?」

 

「凄いわ。まるで前に見た『ミヤザキアニメ』みたい――――」

 

 

 ボストンの街並みを下に収めながら、BGMは―――お互いに適切にかかっている。

 

 晴れやかな笑顔を見せている少女と共に星夜の空を翔るは、宝石の魔法使いであった。

 

 

『いやぁ、リーナが羨ましいね。素敵な男の子と一緒に夜空を飛行とは―――『ルージュの伝言』はバスルームに残してきたかい?』

 

「私、口紅とかの化粧品持ってません」

 

 

 そんな浮ついた女の子じゃありません。という言外の意図を見出した刹那であったが、同じく見出したアビゲイルはここぞとばかりに口撃を開始した。

 

 

『だよねぇ。持っているのは色つきのリップクリームだけだもんね。しかもセツナくんと会う時には『あれがいいかな? もしくはこれかしら?』とか小一時間は悩んでいる様子だ』

 

「ちょっ! 私の私室は監視されていたんですか!?」

 

『いやただのカマ掛け。まぁ私達の前で、食堂のラックにあったファッション雑誌を熱心に見ていればね』

 

 

 分かっていたことだが、リーナはどうにも腹芸が得意なタイプではない。諜報員に向かないし、軍人としてもどうなんだろうという場面もあるが、ただ―――それでも『力だけはそれに似合わず持っている』。

 

 少し違うが『エスカルドス先輩』と同じタイプなのだろう。本人の性向に似合わないスペックを持ち合わせたがゆえの悲哀とでも言えばいいのか。

 

 

 真っ赤になった顔を手で覆っているリーナ。そんな彼女のインナーイヤー型の通信機からの「あくま」な笑い声に思わず同情してしまう。

 

 この手のタイプは刹那の周りにもいたので、本当に同情してしまう。

 

 そんな同情と勝手な値踏みをしていると違う『あくま』が笑い掛ける。

 

 

『いやいや、アビゲイル。ウチの刹那とて相当なもんだよ。いきなり『金塊』『イリジウム』『プラチナ』などを換金して最初に買ったのがこの時代のファッション雑誌及び男子御用達のアクセサリー紹介誌だったからね。私としては電子書籍だけになっていないのは少しだけ意外だった』

 

 

「紛れ込むには不自然さを消さなきゃならないだろ。……確かに心の贅肉だったよ。だが必要なことだろう」

 

 

 リーナよりは自然に取り繕った声で言えた。実際、その通りなのだから弁解も何も無い。ただ―――少しだけのカッコよさも求めたのは事実だ。

 

 流石にコート姿だけでいることが不自然さを持たすのは当たり前だから―――。何より……女の子と会うのにカッコつけないのも相手に悪いと思えたからだ。

 

 

『そうかい? まぁ何にせよ―――髑髏のパンツはどうかと思うよ? それで何が死ぬんというんだい? ジョリーロジャーのパンツでドレイクでも呼ぼうという試みかな?』

 

「おっまっえ―――!!! 俺の最大限の秘密を暴露するんじゃないよ!!」

 

 

 オニキスのとんでもない『フライデー』に対して、頭を痛めていると、いつの間にか手を退けて、こちらの下半身に視線を集中させている『星の姫』の姿が―――。

 

 

「ドクロのパンツ……」

 

「リーナ、男子にも羞恥心というのはあるので、下半身を見ないでくれ。つーかエチケットォオオ!!!」

 

 

 なんだか『くろいあくま』同志が結託して、こちらを弄ってきているのはどうかと思えたが―――ともあれ、指定された場所まで到着。

 

 話し込んでいたのは三分もないか―――。緩やかな落着を行うと同時に再度の確認。そこは海上のクルーザーであった。

 

 

 アンカーは打ちこまれているとはいえ、波で揺れるそのクルーザーは無人であり用意されていたのはアサルトカービン型のCAD。

 

 

 甲板にあったそれを見つけたリーナは、即座に確認をする。弾倉を引きずり出すように―――それに込められている術式を確認して―――。

 

 

「やっぱり重い……」

 

 

 銃自体の重みではないだろう。さらっと刹那が確認した限りでも、それは『複雑かつ巨大な術式であった』。

 

 無論、魔術で同等か―――それ以上の威力を発動させることは可能だろうが、これだけの術式を一人で発動させるとは―――。

 

 しかし、『儀仗』たるべき『銃』がどうにも不安だ。

 

 

 手出しするべきかどうか、悩みつつも―――リーナの視線に気付く。

 

 

「どうした?」

 

「―――何か複雑よ……何で今まで私に、魔法師であることを黙っていたの?―――」

 

「色々と事情がある。アビゲイル博士はもはや既知そうだが……」

 

 

 寂しげな視線でこちらを見てくるリーナに対して全てをまだ明かしきれないのは、USNAが自分をどう扱うか分からないからだ。

 

 

 しかし、逆に情報を抜き取られていたことよりも、そちらを気にするとは……。この子は本質的には自分が『他を圧するモンスター』であることを恐れているのかもしれない。

 そういった一般社会との折り合いというのは、神秘が技術と化したこの世界においてそこまで深刻でないと思っていた刹那は、少し印象を変える。

 

 

『女泣かせがすぎるね刹那。ともあれアビゲイル―――その破壊予定の該船というのは―――』

 

『もう五分もすればやってくるよ。スターズの突入部隊は優秀だ。新ソ連の連中や協力者たちは一網打尽になっている』

 

『ふむ……』

 

 

 何か怪訝なものがあるのかオニキスは釈然としないようだ。確かに刹那も変な予感が過ぎてどうにも『落ち着かない』。

 

 ともあれ、そのリーナだけが出力できると言う戦略級魔法で破壊される該船が、刹那の眼にも入った。

 

 

 いわゆるボストンサウスチャンネルの海域。漁師の船一隻見当たらない海域に沈められる―――。沈められると言ってもそれは『形』の上でリーナの出力する魔法は全てを破壊しつくすだろう。

 

 

「セツナ、下がっていて」

 

「ああ」

 

 

 彼女の集中の邪魔はしたくない。照準装置なども形の上だけかもしれないが、型というのも重要なんだろう。

 ミラーシェード型のゴーグルを掛けたリーナは立射の体勢で照準を向けていた。

 

 

 該船はちょっとした小型客船ほどの大きさであり、あれを魔術で破壊することを考えていると―――

 

 

「へヴィ・メタル・バースト、起動式を開始します」

 

 

 巨大な術式が、刹那の眼に入ってきて、少しだけ『無駄があるな』という感想が出たが、それがこの『儀仗』ゆえなのも分かっていた。

 

 それらの術式がリーナの身体に吸い込まれ、彼女の『領域』で適切な形で呑み込まれる様子。

 

 

 敵該船との距離約2キロ―――通常のカービン銃で届く距離ではない。銃弾が通常でなければ―――当然だが―――。

 

 

『へヴィ・メタル・バースト、発動』

 

「へヴィ・メタル・バースト、発動します」

 

 

 アビゲイルの指示とリーナの言葉はほぼ同時。撃ちこまれる『式』―――波高をもろともせずに飛んだ『魔弾』の結果を見るべく、眼を『強化』。

 

 

 小型客船の機関部に撃ちこまれた式は、その役目を果たすべく即時展開。

 

 

 

 海上に雷竜、暴れ竜が荒れ狂う様―――『ゼウスの雷霆』が海を打擲する様子にも見えた。

 

 船が爆発音を上げる前に荒れ狂う稲光が、それらを圧し包み、激しく火花を散らす光の雲が広がる。

 

 

 思わず刹那ですら呆気に取られるほどの威力。しかし、その結果をみながらも―――それ以上の『脅威』を上空に見ていた。

 

 

「―――Schild des Achilles,―――― Achilles Schild,Nein」

 

 

 リーナのへヴィ・メタル・バーストによって発生したプラズマ雲。まさしく全ての生命が焼かれ死ぬだろうそれから守るべく術式を展開。

 

 

「あ、ありがとう……ベルト忘れてきちゃったから―――」

 

「その前にだ。リーナ。この世界では飛行魔法が完成していないんだったな。更に言えば『艦船』も通常は海を行くモノだけか?」

 

「へっ? ええと、うん。多分、『空飛ぶ船』なんてのは無いわよ。各国の兵器技術の大半は、21世紀前半から細々とした『進化』しかしていないから魔法師の方が―――」

 

 

 軍事に詳しくないからこその説明と勘違いしたリーナと『この世界』の常識を再確認した刹那。致命的な擦れ違いであったが余計な混乱を招かないためには、その方が良かったかもしれない。

 

 

 なんせ―――その直径2キロの破壊規模ゆえのプラズマの雲。フレア放射後の太陽周辺の様子のような惨状よりも―――理解を超えたものが『上空』に存在していた。

 

 

 鉄の船。一般的な『戦艦』のカテゴリーに代表されるものが、その船体の至る所に『文字』を輝かせて、『翼』のように展開していたからだ。

 

 

 ごうん、ごうんという重々しい音が響く中、その照準が―――こちらに向こうとしていた。

 

 

 上空400メートル程度で浮遊している鉄の船が、現代戦にあるまじき『大砲』をぶっ放してきたことでリーナと刹那の足場たるクルーザーは、爆散したのだった―――。

 

 

 


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