魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第85話『九校戦―――決戦前の晩餐会』

「えー今日は色々と我々一年男子の為に尽力してくれた女子の皆さんには感謝の限り、光井と里美もミラージ決勝までやって疲れている中、チアリーダー服で応援してくれて感謝の限り。ありがとう」

 

 なんだってこんな所―――用意された一高専用の壇上にて演説みたいなことをしているんだろうと思いながらも、言うことは大体決まっている。

 

「男子の応援も会頭や風紀の先輩方を筆頭に男気溢れてました。我らモノリス・メンバー一同、気合いと共に緊張もしました。が、いい緊張と気の引き締めいただきました。ええ、完全にゴマすりです!! 分かってるだろこんちくしょー!」

 

 どっ、と笑いも取りつつ、そんな所で納めようとしたところ、七草会長から茶々入れが入る。

 

「ちなみに刹那君のベストチアリーダーは誰? 女子として私、気になります!?」

 

 茶々入れにしては随分と穏やかなものである。一番バストがすごかったのは誰だとか聞かれると思っていただけに即答である。

 

「当然マイハニー・リーナです。キュート&セクシーのホットガールで、俺の気合も有頂天でしたから、今すぐにでも一条のように七高に単独で攻め入ろうと思いましたよ」

「キャー♪ そこまでマイダーリンに求められると、ワタシも困っちゃうわよ♪」

 

 全然困っていないリーナの台詞はともかくとして各々が今日の最終戦をプレイバック。

 七高との戦い―――渓谷の水を増水させて己のフィールドにした戦いにて、全員が難儀する中。『黄金魚』という魚雷を生み出して七高のサーファーたちを撃墜したことを思い出す。

 そんな演説を傍から聞いていた七高は、その黄金魚によって壊乱させられていたことを思い出して、あれは愛の力だったのか。と思って悔しく思う。

 

「あと不満点を申し上げれば―――五十里先輩ですかね」

 

「えっ!? 僕!? 何かダメだったかな……?」

 

「ちょっと遠坂君! ウチの啓に何の不満点があるってのよ!!!」

 

 実際の所、全員がいぶかしむ。五十里啓もまた応援団服を着て応援してくれていたというわけではないが、まずまずやってくれていたというのに―――。

 

「不満というわけじゃないんですが―――五十里先輩は『自分の性能』を活かして応援してほしかった」

 

「その心は?」

 

 五十里啓の真剣な顔での問いかけに刹那は答える。アホな答えが披露される―――。

 

 

「まぁ、チアリーダー服を着ての応援であれば、中条先輩もあそこまではっちゃけなくて良かったのではないかと、ぶっちゃけ『男の娘』してほしかったですね」

 

『『『『『!!!!!』』』』』

 

「ちょっと―――!! なんで皆して『しまった! その手があったか!!』なんて顔してるんだよ!?」

 

「これはうっかりしていたわ……五十里君の持ち味を活かさせてあげるべきだったわ」

 

「会長―――!!!」

 

 普段から女顔であることをあれこれ言われる五十里啓だが、ここまで全員から思われて面白くはない。

 急いで男らしさを意識させるために直談判をする。

 

「会頭!! 明日は僕も応援団服を!! 学ラン着ます!! 伴宙太(?)も同然の応援してみせます!! 押忍!!」

 

「むぅ……しかしだな。五十里。女性陣が全員でサイズはどれがいいかとか検索し始めたぞ。筆頭は千代田だ」

 

「カノーーン!!!」

 

 婚約者から裏切りが行われつつも、ともあれ色々と笑いを取りつつ、全員の気持ちの摩擦……その解消をした上で―――。

 

 なし崩し的に紙コップを持ち上げると、全員が察した。遂に『いただきます』の時間なのだと―――。

 

 ごくりと喉を鳴らす一高生達を見ながらも、最後の締めくくりをする。

 

「では今日の健闘を称え、明日の勝利を祈願して、モノリスリーダーである達也君に代わって烏滸がましくも、私から一声を上げさせていただきます……乾杯!!!」

 

『『『『カンパーーーイ!!!!』』』』

 

 

 と言うや否や、殆ど全員が特定のテーブルの料理に殺到する。それを見ながら壇上から降りると、達也が近寄ってきた。

 

「やー、肩が凝ったー。壮行会の演説を任されるなんていつ以来だよ」

 

「やったことあるのか?」

 

「姉弟子や兄弟子を送り出す時にね。まぁ殆どは調理部門ばかり任されていたんだけどね」

 

 エルメロイ教室の末弟子として、こういうのは役目として押しつけられることもあった。

 

 先生の方は、そういう『気恥ずかしい』ことをしたくないどころか、栄達していく人間を素直に賞賛出来ないツンデレだったから仕方ない。

 必然、お鉢が回ることもあった。

 

 早速も竹船に積まれていた饅頭、薫り高い海鮮饅頭を頬張る達也というシュールすぎるのに答えつつ、自分もリーナが取って来てくれたエビチリを頬張る。

 

「はい。セツナ。あーん♪―――美味しい?」

 

「自分が作ったものだけど、それされると美味しさ倍増だよ」

 

 恋人同士の『あーん♪』は、最強の隠し味か……そう思っていると、何かと関わる三高陣営が、あのテーブルの中華は何かを聞いてきた。

 

「あれは刹那君の作ったものです。悔しい事に! 私も調理の六割程度までしか担当できないぐらいとんでもないものでした……お兄様の大好物たる海鮮饅頭も、最終的には刹那君の調味が決め手でした!!」

 

「そ、そう……にしてもなんでまた、晩餐会で自炊?」

 

 三高の代表として水尾佐保先輩。通称デコ先輩が深雪の勢いに押されながらも問い返す。

 どちらかといえば、深雪というよりも刹那に対するものだが………。

 

「確かにここのシェフの調理はいいものですよ。流石だと思うし、連日の熱戦で汗と共に出るミネラルと塩分を共に摂取しなきゃならないということを考えている……シェフ村上の調理は明日を戦う魔法師でありアスリートを完調させている」

「それでも満足出来なかったか?」

 

「というよりも、俺が鍋を振るいたかったんです! 達也の専属料理人としてスペシャリテを振る舞うのもいいのだが、もっといろんな料理を作りたかったんだ!! 料理人は誰しも『魔法使い』なんだ!!」

 

「そ、そうか……にしても旨そうだな」

 

 結論―――長らく厨房に立てずに、料理人としての血が騒いだ。それだけであった。結果として一高全員が十分にありつけるだけの中華洋食……慣れない和食も作って含める、少し違うが満漢全席を作り上げた。

 

 だが、そんな言動に対して倉沢という三高の三年生も、『遠坂君に言われると久々に自炊ラーメン食いたくなってきた』『手伝うわよシュウ』とかツーカーで水尾先輩と会話した。

 

 何気に恋のキューピットよろしく『金の矢』を放てたようで何よりです。

 

「倉沢、水尾、お前たちもどうだ。というか全高校で食おう。モノリスやった後で、よくこれだけの『満漢全席』(フルコース)を作れたものだと思うからな」

 

 十文字会頭の言葉に三高首脳も動き出す。毒を盛られているという可能性を考えないのか。まぁ入れてはいない。当たり前だが、最初に食うのは倉沢という技術チーフであった。

 

「疑う訳ではないが、うん。旨い―――旨いぞ!! この料理には遠坂君の魔法がかかっているも同然だ―――!!!」

 

 あんかけ焼きそばを取り分けて食い始めた倉沢先輩から、続々に各校も続いている。全魔法科高校が夢中になる料理となってくれたのは、まぁ嬉しい限りだが勢いを見ると……。

 

 

「あと三倍ぐらいは働いておけば良かったかな……」

「お前の調理スキルはとんでもないな……というかこれすら狙っていたのか?」

「別に、ご飯は大勢で食った方がいいじゃん。まぁ愛しい人と二人っきりで食べるディナーもいいけどさ」

 

 

 結局、現状のままでは一高が一人勝ちしてしまう。別にそれでいいという話もあるかもしれないが、いずれはどこかで何かしらの同属になるかもしれないのだ。

 軍にせよ。魔法大学にせよ……そこでしこりを残すような戦い方ばかりをしていては、何かしらの軋轢になるかもしれない。

 

 独り占めの一人勝ちをしても、それが誰かの心に重石を残すのならば―――。

 

「ならば、同胞としての意識を持たせるしかないんだよ。同じものを食べて、同じ歌を口ずさみ、同じ詩吟に感動してこそ―――『同じ文化』に価値を認めてこそ、初めて人は『同胞』の意味を確認出来る」

 

「―――お前は先んじているな……お前自身が神秘の力を独り占めしているのも一つか?」

 

「お前もだよ達也。お前と深雪の『アレ』はあまりにも、な……」

 

 この大会、一応刹那がスケープゴート的に目立ってはいるが、達也もその技術力ゆえに少しばかり目立っている。

 声こそそこまで大きくなっていないが、今日のミラージ新人戦で光井と里美の対戦校から『まるでトーラス・シルバーだ……』という『少しの悔しさ』ゆえの言葉も出ていたのだ。

 

 これがもう少し違えば、達也に対しての『怨嗟の声』も同然になっていたかもしれない。

 

「そんな訳で、俺は―――お前の父親に頼まれてもいたんだよ。一条クン?」

 

「親父がそんなことを……司波さんこんばんわ。クドウさんに司波もこんばんわ。相伴に預かっていいのか刹那?」

 

 おどけるように話を向けると、一応取り置きしておいた中華。特に深雪や女性陣の『失敗作』というのを一条将輝に向ける。

 

 話に加わろうと―――というよりも、深雪と話そうと機会を伺っていた将輝に若干の慈悲を与えた刹那。

 乗ってきたことは若干嬉しいが、己と妹の所属を探られるのではないかと達也が、少しだけ警戒モードを上げる。

 

「どうぞ。遠慮なく食え。毒を盛られていると思わなければな」

 

「思うかよ! では遠慮なく―――うん。旨いな。この海鮮饅頭。しかし、どこか蕎麦を食べた際の刹那の調味と違うような……」

 

「すみません一条君。それは私が失敗して作ってしまったものなんです。どうしても土鍋の柔らかさが見極めきれなくて」

 

 瞬間、一条将輝に衝撃と魂への落雷が奔る。

 いま。自分が食べたのは―――憧れの司波深雪の『手作り』であるということに―――。

 

 知ったことで、一条の中に天啓が奔り、これぞ天佑だと感じて口を開く。

 

「いえ、先に述べた通り旨いですよ。この饅頭―――なんというかお袋を思い出す味です」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、肉親に対する慈しみを感じさせる逸品ですよ。それと金沢は海鮮でも有名なところですから」

 

 ……『盛って』言っているんじゃなかろうか。そんな気分にさせられる思春期ただ中で『盛ってる』マサキリトの発言に、達也、刹那、リーナ、吉祥寺……共にジト目となる。

 もっともそれ以外の感情で見ているのが、達也であるが。

 

「実を言うと、その海鮮饅頭、お兄様の大好物なのですが上手く出来なくて……なんで刹那君ぐらいに美味しく出来ないんでしょうか……?」

「刹那、お前。司波さんにちゃんと教えているのかよ?」

 

 なんだって俺が責められなければいけないのか。一条の言葉に反発を覚えつつも恋は盲目。

 言っても無駄なことを言うのだった。

 

「こればかりは経験と勘の世界だ……というか達也が難儀なものを大好物になってしまったのが一番だな」

 

「俺のせいかよ。けれど深雪。そこまで気にしなくていいぞ。お前が努力して作ってくれた料理ならば、全て俺にとってはスペシャリテだよ」

 

「お兄様……深雪は世界で最高に愛されている妹です。嬉し過ぎて幸せです……」

 

 一瞬にして一条から視線を切り、達也と二人だけの世界を作る深雪に対して一条は衝撃を受ける。

 

 頭を撫でられて嬉しそうで惚けた表情をする女子と、クール系男子の微笑―――無論、その感情は喜びである。

 

 一高生にとっては日常風景ではあるが、三高にいる一条には刺激が強すぎたようである。

 

『おい刹那! この二人…本当に実の兄妹なのか!?』

 

『小声で肘打ちしながら聞いてくるんじゃねぇ。世間は狭いが世界は広い。仲の良すぎるブラコンのシスコンなんているんじゃないか?』

 

『俺にだって妹はいるが、こんな関係じゃない!! あの年頃になると『キョースケとキリノ』『キリトとスグハ(原作開始前)』みたいになるんじゃないのかよ?』

 

『知らんがな。というか最終的にどっちも兄ラブになる妹じゃないか……』

 

 一条のあまりにも素早い行動と所属レーベル(?)に違わぬ言動に、お座成りな結論で濁しておく。

 一概に言えることではないが、思春期を迎えたとしても仲のいい弟妹、兄姉なんてのはいるのだろう。

 

 もっとも刹那の知るそういった「きょうだい」「しまい」の大半は、出会えば『殺し合い』というのも無くは無かった。

 カウレスさんやルヴィア小母のような関係の人間も知らないわけではないのだが……。話に聞くところの『アオザキ』の姉妹喧嘩もついぞ見ずとも、多くの執行者の噂話として知っていたのだから。

 

 そんな蛇足の思考を切り裂くように達也が動く。それは噂に聞くガーディアンというものとしての意識なのだろう。

 

「ところでだ。刹那や深雪はともかくとして、俺はお前にそこまで自己紹介されているわけではないんだ。あまり馴れ馴れしくされるのも困りものだな」

 

「言われてみれば、こうして直に対面するのは初めてか……三高の一条将輝だ。そちらは一高の司波達也だな?」

 

「そうだ。高名な十師族の一人が、有象無象の魔法師である俺と深雪に何用だ?」

 

 なんというか、随分と冷たい応対。確かに色々と考えることが多い達也だけに、十師族の一人……しかも跡取り息子が、深雪に必要以上に接触してくることに警戒感があるのだろう。

 

 七草会長や十文字会頭の場合、どちらかと言えば頼れる後輩として接されるだけに、そこは無かったが……。一条将輝だけは違う。

 個人的な好意というものを持つのはいいが、いやそれでも何かしら『本家』からも通達が出ているのかもしれない。

 

 最近はあまり見なかった深雪に仕える『従僕』(サーヴァント)としての意識が、細かな殺意となって放射される。

 

「司波さんを有象無象だと思えないな。彼女は日本の魔法師界に降り立った女神だよ。

 それよりもお前だな。司波達也……刹那をスケープゴートにして、デバイスマネージャーとしての己の腕を隠そうという魂胆だろうが、俺たちは見抜いている。

 十七夜と戦った北山雫のCAD、光井ほのかの『太陽拳』作戦……裏で一から十まで三味線弾いているようだが、俺たちとの戦いでは、素通りはさせない」

 

 あからさまな宣戦布告。そして光井が鶴仙流の継承者であることが暴露された。

 離れたところで『太陽拳って何!? ハゲてないわよ!!』とか言っているが、気にしてはならない。

 

「別に隠したつもりはない。そして刹那が目立って俺の微力の活躍が影に隠れているだけだ。出そうとも思わんがな。それが俺の本音だ。一条将輝」

 

「……本音?」

 

 言い切る達也に疑わしい想いは拭えない。

 疑問符を浮かべると同時に半眼を向けると、疑うことはないだろうという半眼を向けられる。

 

「第一、俺は三高で言えば『普通科』の人間だ。大した人間ではない。精々CAD弄りと莫大なサイオンがあるだけの男だ」

 

 なんだろう。言えば言うほど、達也は墓穴を掘っているような気がする。

 あのアイスピラーズ・ブレイクにおいての魔法の行使は、『莫大なサイオン持ち』の達也を利用しての『深雪の魔法』ということに落ち着いた。

 もちろん、幾ばくかの演算処理や達也の特性も利用したと……対外的には言っているのだが……そうは見てくれまい。

 

「ああ、お前が『昼行灯』を気取るのはいいが、モノリス・コードは地力が出る戦いだ。刹那と真正面から撃ち合うお前との戦いを俺も望むんだがな」

 

「僕も同様です。この大会で君と遠坂君にはやられっ放しだ。こればかりは取らせてもらう」

 

(こいつら……)

 

 やられた思いだ。一条にそこまで深い考えがあったか、それとも隣で副官気取りの吉祥寺の入れ知恵か。

 

 この晩餐会で、ここまで派手に衆目の前で真正面から『逃げるな』(決闘)なんて言われたらば、受けざるを得ない。

 貴族の手袋投げのつもりか……そう思う。

 

 だが、そんな中でも達也は『平常運転』だった。

 

「―――全打席『真っ向勝負』なんてのは、バッターにとって都合のいい綺麗ごとだ。俺たちは俺たちの戦いをさせてもらうだけさ」

 

「そうか。ならば、俺も俺の戦いをさせてもらう……司波さん。戦いの前に、こうして話せて嬉しかった……。けれど、これ以上は節度を保ちたい―――明日の為に」

 

「一条君……あなたは……」

 

 ―――お兄様に『勝てる気』でいるの?……そんな一条にとっては無情すぎる続きの言葉が聞こえた気がした。

 とはいえ、そんな深雪の深い信頼とは裏腹に、達也も覚醒した『一条将輝』相手には分が悪いとしているのだ。

 

 レギュレーション違反ギリギリの攻撃を仕掛けてくる一条将輝……手早く深雪作の中華『だけ』を食らってから、三高陣営に堂々と戻っていく一条の後ろ姿に思う所がないわけではない。

 

(名家の責任ってヤツか……)

 

 魔術師としてはまだまだ200年程度の浅い歴史しかない遠坂家であるが、祖父時臣の頃には確立していた家訓を捨て去った刹那なのだ。

 

 少しばかり思う所が無いわけではない。だが決めたのだ。

 

(アイツにとって一条の、十師族の家名は誇りだろうが、俺の家名とてこの世界で根付かせるためやってきたのだ)

 

 そうしてきた理由は―――ただ一つであった。隣にある綺羅星の頭を優しく触る。

 

「んっ……どうしたの?」

 

「いや、リーナの為にも頑張んなきゃな。と思っただけ」

 

 その言葉で刹那に走る気鬱を打ち消したのが自分だと分かって、髪を撫でていた刹那に身体を預けてくるリーナ。

 ほとんどしなだれかかる様な様子に周囲がざわつくのも構わなかった。

 

 一条の背負ったものの重さに負けそうになった時に思い出すのは―――ただ一人の星であるのだから。

 

「大丈夫よ。セツナは負けないわ―――そしてワタシも戦うんだから、ね?」

 

「うん。明日も応援頼むよ」

 

「それと、シルヴィに頼んだけど、あのチアリーダー服、ワタシの分とかサイズ同じようなの買い取っておくことにしたわ」

 

「その心は?」

 

「―――TOKYOに帰ったらば、あの衣装で『シましょ』?」

 

 リーナが赤くなりながらも、秘め事よろしく耳元で囁いた言葉……だが、周囲にいた深雪や達也、諸々の有象無象は聞いてしまったようだ。

 この喧騒の中でも耳年増な限りである。

 

 ともあれマサキリトの行動には困ったものである。真正面から達也に挑戦状を叩きつけてくるとは、これで逃げたら『臆病者』の誹りを受けるのはこちらだ。

 こういう時に『ピッチャー』というのは、面倒である。

 

「刹那、誓約は決勝で解けるんだよな?」

 

「そうらしいな。十師族の『監査』及び『監督』は、決勝では無くなるよ」

 

 如何に十師族と言えども、一条剛毅は己の息子の勝利のために奸計を巡らすタイプではない。

 四葉師に構ってもらいたくて、あれこれやる七草師とも違う。男らしく撃ち合うことで『勉強して来い』ぐらいのタイプらしい。

 

 達也に言いながらも何を言われるかは分かっていた。

 

 

「恐らくだが、レオと火神大河。太助と藤宮。中野は全体のバックアップかもしれないが、幹比古と―――」

 

「……マッチアップ(対決)する相手が誰になるかは流動的じゃないかな?」

 

「かもしれん。だが、お前と俺とで二つの『紅星』を抑える―――」

 

 それは構わんが、それはあちらの思惑に乗ることになる―――いや乗ることこそが達也にとっての勝機なのだろう。

 

 今、その事に気付く。一条の汎用性ある魔法と違い、達也の術は全て手加減が若干不可能なものばかり。

 

 

 つまりは……。

 

(達也で消しきれなかった一条の飽和攻撃を消し飛ばせってことか)

 

 仮に、発動したとしても―――吉祥寺の『見えない弾丸』もろともに防ぐ。そういうことなのだろう……。

 

 嘆息すると同時に了承の意を示しておく。

 

「何か用意しておくものはあるか?」

 

「とりあえず今はまだいい。小野先生からの『デリバリー』が着いたらば。それ次第だな」

 

 意外な人物のことが口端に乗ると同時に、何が来るやらと思っておきながら晩餐会は―――『おかわり!!』を求める声の大きさで再び厨房に入らざるをえなくなるのだった。

 

 魔術師というよりも『中華大帝』とか『中華の覇王』な現状に色々とモノ申したいが………。

 

 

 とりあえず好評であって何より、その際にイリヤ・リズと会頭。それを牽制する七草会長……俺の中華が波乱を呼んでいて、その横では落ち込む服部副会長を中条あーちゃん先輩が慰めるなんていう様子もあったりした。

 

 人間関係複雑に入り乱れ過ぎな九校戦の裏側であった………。

 

 つーか合コンも同然であり――――。

 

「アイリ!! アナタみたいな何にも出来ないお嬢様にはワタシは負けない!!」

 

「どこの大黒〇季だ!? というよりアメリカ人の粗野な味覚でセルナのサポートは出来ません!!」

 

 厨房でもこんなバトルは勘弁してもらいたいものであったが、大助かりであり―――意外にも一色の手際は世間一般のお嬢と呼ばれているものとは少し違っていた。

 

 そして刹那の母親は、貧乏お嬢であったことを再確認するのだった………。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 モノリス・コード新人戦……決勝リーグの前夜に行われた姦しい夕食会のことを考えても早くに切り替えた選手たちは、戦いを挑む。

 

 一高 対 九高――――九大竜王の筆頭だろう『霧栖』……ある意味、本戦ピラーズで会頭に土を着けたとも言える相手の秘蔵っ子たち……。

 

 サイオンで出来上がった槍―――、一年のまだ若造でありながらも高度な『竜属性』のそれを用いた攻撃に難儀しながらも、勝ちを拾った。

 

 最終的には刹那の封印術で封殺したが……これだけの『正攻法』を用いておきながら……総合で三位でいることが、若干気持ち悪く思えている。

 

 油断できないダークホースである。

 

 三高 対 四高――――、順当とまでは言えないが、イリヤ・リズ特製の錬金衣だろうものを纏って戦う四高相手に三高は何らかの『魔術陣』で応戦。

 

 恐らく相互干渉増幅術式……反射炉の如く五人全員の意思を合わせた攻撃が、際限のない攻撃の乱舞が―――『赤い魔法使い』たちが、全てを塗り替えた。

 

 

 順当通り―――というほどではないが、下馬評を覆すほどのものがありつつも結局、予想通りに決勝に駒を進めた二校。

 

 

 一高 対 三高

 

 この九校戦……特に新人戦において凌ぎを削ってきた二校の極みの戦いが始まろうとしていたのだった……。

 

 

 





連続更新は今日で終了。ストックが尽きたのでこの後はペースが若干落ちます。ここまでは大体は予定調和、この後は結構なバトルシーンの連続になると思いますので、切りが良くなれば更新しますので、気長にお待ちください。
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