魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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昔は桜ルートなんて、あれだったんだよなぁ。特にエクストラ発売された頃も桜が不遇すぎて赤セイバーに『いじられる』なんてことも……。

だが草の根の如き活動が実を結んだのか、CCCでは別派生キャラが生まれたり、主役級の活躍まであったり……更に言えば『間桐人間』ではない桜の可能性が公式で出されたり―――いやぁ長かったぁ。

タスクオーナ先生は泣いて喜んでいいと思う。というわけで新話お届けします。


第86話『九校戦―――若武者たちの出陣』

『愛しの騎士ロジェロを求めて、ブラダマンテは進んでいきます。邪悪なる魔術師『アトランテ』を打ち破り、彼の持つ盾を手にし、飼い馴らしていた―――に跨りロジェロを求めて突き進むのです』

 

 母がよく読み聞かせてくれていた母の母国のサーガ、『シャルルマーニュ伝説』の一つ。

 

 絵本で描かれているブラダマンテは、愛梨と同じくサーベルを手にして、多くの困難を乗り越えていく少女騎士。その姿に憧れて、エペーをやり始めた。

 

 そしてそこに魔法が加わった時に、アイリの道は決まった……だが、それは幻想との離別でもあった。

 飼っていたセキセイインコが、いつかはブラダマンテの跨ったもののようになるのではないかと、そういう考えが無くなり―――寿命で死んでしまった時に泣いたものの、それだけだった。

 

 

 ブラダマンテ―――シャルルマーニュ十二勇士の一人であり、紅一点の存在として語り継がれる存在。

 大王の姪で、兄リナルドもまた大王の騎士として叙されていながら、姫君としての道ではなく騎士としての道を突き進みながらも、一途に愛すべきロジェロを求めて艱難辛苦を乗り越えた少女騎士。

 

 だが……愛梨は物語に出てくるブラダマンテの様にはいかない。

 

 殿を務めてアルジェリアの将軍『ロドモン』との一騎打ち。邪悪な魔術師アトランテの智謀にも……自分の前に立ちはだかる壁は大きすぎる。

 

 何より、愛しのロジェロは既にどっかの『アンジェリカ』(アンジェリーナ)に奪われているという理不尽……。

 

 

 しかし―――……それは仕方ないのかもしれない。幻想を捨て去り、家の都合で令嬢としての道を選ばされ、その反発でエペーにのめり込み……その反動で、自分と同じく鬱屈している人間を救いだしてあげたいと言う慈悲。

 

 矛盾した生き方を押しつけられて、その上で自由に生きたい人々に手を差し伸べる―――。それでは……空を飛べない。

 

 愛しのロジェロは、空を飛ぶことを恐れない。大地にいることこそが不自由で、何より―――(ソラ)にあるものを敬うからこそ、飛べている。

 

「愛梨。そろそろ決勝戦だよ」

「―――ええ、分かりました……が、こ、この衣装を本当に着るんですか?」

「中野君のやる気を上げるため、私も着るんだから」

 

「私はセルナの応援をしたいのですけど」

「それでも三高の一員なのだから、我慢しないと―――」

「トウコみたいに出来れば良かったんですけどね」

 

 モノリス・コードにて新規格というわけではないが、とんでもないことをしてムーブメントを生み出した『応援合戦』。

 それが戦う選手たちに影響を及ぼすかどうかはともかくとして、全員が戦っているという意識を生み出し、いいプシオンやサイオンを届けるというのもあるかもしれない。

 

 あのシューティングにおける一条の戦いの時のように……そして、ここに来るまで、愛梨と栞はチアリーダー服を着ることを拒んできた。

 無論、自主参加程度のものとはいえ、やるからには半端は許されない。そんな訳で『半端しそうです』と言う言葉で佐保の誘いを断ってきた。

 

 第一、一条親衛隊の熱気がすごすぎるのだから、自分たちなど要らないと思われていたが―――。ここまで来ればやるしかあるまい。

 

「まだ決心着かんのか。小娘共―――」

「前田先生」

「ちょっ、校長先生。そのジャージ姿どうしたんですか?」

 

 三高のテント室にやってきた女教師―――女傑と呼べる女は獰猛な笑みを浮かべて、何だか悪だくみをしていそうな目だ。

 

 年齢はまだ四十代前半―――ギリで30代だったかな? そう思いながらも、いつもならばスーツを決めている人がその姿でいることに、嫌な予感がする。

 

「栞と愛梨。お前たち二人して男子のやる気を起こさせないでいるからな。私もまだまだ『イケる』んじゃないかとか、そう考えての事だ」

『ダウト』

 

 如何に面倒見がよく色々と尊敬できる校長先生とはいえ、それはない。うん絶対にない。三高男子のテンションが駄々下がりである。

 ただ一人上がりそうなのは、甥っ子であり部活連会頭でもある前田利成であろう。というか、本当の関係は『従姉弟』らしいが、まぁそういうことだ。

 

「はっはっは。中々に私の感情を逆なでしてくれるな。ならばさっさと着ろ。そして三高男子の眼の保養になってやれ」

「先生は何かハラスメントで軍を退役したとか聞いていたんですけど?」

 

 その言葉に一度だけ苦笑してから、口を開く前田千鶴。

 

「脂ぎった背広組の連中に尻を触られるぐらいならば、戦場で踏ん張る男共の為に艶を振りまく方がいいに決まっている。第一、あれだぞ。ある意味では女は男の戦場を支えなきゃならない。芳春院さまのようにな」

 

 嘘か真か、加賀前田の出とも言われる千鶴先生は、時に戦場に赴かない女の心情を代弁することが多い。その考えは分かる。

 一度はうらぶれても、功をあげることで元の家に戻れることもある。前田利家の伝説―――それを支えた女性の話を出されると強くは出られない。

 

「分かりましたよ。確かに家どうしはライバル関係ですが、一条君及びエレガント・ファイブをきっちり応援してあげます」

「内心では遠坂刹那を応援してもいいぞ。そんぐらいの自由を制限するほどアタシも鬼じゃない」

「校長先生は行き遅れの悪魔ですもんね」

「表に出ろ一色。今日こそは決着を着ける―――!!!」

 

 ジャージを脱いだ先生の姿は―――いつも通りにキャリアウーマンなものだった。どうやら発破を掛けるためだけだったようで、愛梨と栞はちょっとだけ安心したのだが……これの前に、一条剛毅と七草弘一などに、四葉真夜と共に『チアリーダー姿』を見せていたのだった。

 

 面倒な関係であるが、グレード(世代)としては最年長である弘一と剛毅は私的な舎弟関係。同時に千鶴と剛毅も舎弟関係―――反対に千鶴は四葉の双子。特に真夜を六塚温子と同じように少しだけ尊敬している。

 起こったことが、悲劇であっても『弘一先輩』は強く抱きしめておくべきだったと恨む面もあるのが、それでも弘一及び真夜は千鶴の先輩である。

 

 とどのつまり……一条剛毅はどこでも『後輩』、『舎弟』扱いという厳しめの立場である。どうでもいい話なのだが。

 

 そんな舎弟である剛毅から、『無理しないでください千鶴先輩』などと青い顔して肩を叩かれながら言われたので、やめとこうと思った。逆に真夜と弘一が変な空気を出していたのを察して離れていたが……。

 

『いきましょちーちゃん。これ以上弘一さんに視姦されたくありません!!』

『真夜さん! そんな昔の呼び名使わないで!!! 恥ずかし過ぎる!!』

『ま、真夜―!! そんな姿を俺以外に見せないでくれ―――!!!』

 

 そんなことがあったのを知らない三高の女戦士達であったが、決勝戦の時間は近づいているのであった……。

 

 

 † † † †

 

 

「小野先生、ご苦労様です」

「乙です」

 

 やってきた久しぶりに見たカウンセラーはキャリーケース、この時代では当たり前になった電動補助付きのものを引っ張りながらやってきた。

 

「コラッ!! 目上にご苦労様、乙ですなんて礼儀を知らず時代遅れも甚だしいわよ!男子二人!!」

「戯言はともかくとして―――『例のブツ』は?」

 

 怒る小野遥を若干無視して、達也は取引の商品の納入を急かす。達也が世話になっている寺の僧侶だか忍者だかからの預かりものが、キャリーケースの中身だ。

 

「ったくノリが悪いわね。本来ならばブランシュ事件……八王子クライシスでも『連中の狙いは図書館よ!』とか、『壬生さんを救ってあげて』とか言うべき私の台詞はカット! 

当然よね!! だって敵が恐ろしく強大になって、真正面から『城攻め』してきたんだもの!!! 私の調べたことなんて意味ナッシングよ!!」

 

「何をメタいことを言っているんですか、第一、あの事件のお陰で『カードキャプターはるか』、とか『超昂閃忍ハルカ』とかになれるかもしれない切欠になったでしょ?」

 

「そりゃそうなんだけど……前者はともかく『後者』は言い得て妙ね……本当に目指そうかしら?」

 

 何気にカウンセラーの小野先生も、刹那のエルメロイレッスンの常連である。彼女の来歴は複雑……とまでは言わずとも、一応指針にはなっているようだ。

 

 そして達也から聞いた話では、その寺の人間の弟子―――達也にとっては『妹弟子』に当たるそうである。

 

「まぁとにかく渡したわよ。私を闇取引の仲介屋か何かと勘違いしているんじゃないかしら?」

「使いっぱしりなんてそんなもんでしょ。中には、こっそり隠匿しちゃうようなのもいるでしょうけど」

 

 そんな風に少しだけエルメロイ先生のことを思い出していたのだが、それが契機だったのか何なのか、ともあれ―――小野先生から追加のブツが渡される。

 

 同じく電動キャリーバッグに入れられては居らず―――、それとは違う。

 桐で作られた衣装ケース。古めかしい『着物入れ』のようなそれが後ろから出てきた。

 

 オートメーションの簡易ロボットのようなもので引っ張られてきた、それから漂う魔力に萎縮してしまいそうになる。

 

「先生、これは?」

 

 達也の疑問に嘆息しながら、『モノのついで』と言うにはデカい荷物を渡されたと言う小野遥が説明をする。

 

「九重先生が、遠坂君宛てで『個人的』に送りたいものだそうよ。使うも使わないも君次第だけど、とりあえず中身を検分してくれって言っていたわ」

「調査依頼だか、贈り物なんだか分かりませんね」

「本当にね。とにかく渡しておいたから」

 

 そんな風に疲れながら帰ろうとする小野先生、ここまで御足労願ったと言うのに、このまま帰らせるのも忍びないということで、観戦チケット(モノリス新人戦決勝)を送ることで料金代わりにすることに……。

 

 そうして大荷物を『二つ』持って、一高のテントに戻ってきた達也と刹那は、三高対策としてのものだと説明しておく。

 

「壬生先輩の『千鳥単衣』や、四高の錬金衣と同じです。ルール違反ではないし、何より戦力補助ともなります」

「それぐらいだったら俺が作っておいたのに」

「お前だと攻性防御とか付与させてやり過ぎるからな。まぁ日本の古式には古式でいかせるさ」

 

 凝り性の刹那では、間に合わないのではないかという疑問を持ち、達也は馴染みの『生臭坊主』を頼ってそういうものを求めた。

 まぁオーバーワーク気味な刹那を気遣ったわけである。

 

「随分と厳重な封印だね。札に魔法陣に刻印術式まで」

 

 興味津々の五十里啓が言う。

 実際、八雲が刹那に寄越した桐の衣装箱は結構なものだ。何年前の代物だろうかと思う程に、蓋を締めるための札は汚れているが、桐の衣装ケースは少しもくすんでいないのだ。

 

「開けりゃ分かるでしょ」

 

 その時にはどこからか出したか、刹那の右手には歪な短剣。凡そ武器としては使えないのではないかと思うものが握られており、無造作に桐のケースに一閃。

 

 物理的なサイオンの破壊が見えて、同時に札も魔法陣も全て裂けて砕かれる。

 

 何気に結構衝撃的なことをした刹那に、何人かは瞠目するが、構わずにすぐさま短剣を『隠して』……その桐のケースを開ける刹那。

 埃などが舞う可能性もあったが、それは無くそのままに、重々しい蓋を退けて―――高級和紙に包まれた中身を検分する。

 

 最初に出てきたのは―――衣服であった……それは古めかしいとも言えるし、今にも通じるかもしれない衣服。

 衝撃吸収の為なのか、蛇腹の構造を付けた肩部。腕の筋肉を締め上げるつもりなのか、ベルトが腕を包む箇所もある……胸の中央に大きく『紋様』を付けた、特徴的な大陸式の古服と言えるだろうものを取り出した刹那は―――。

 

ナナヤ(・・・)の戦闘衣装……これをどうしろってんだよ………」

 

 ナナヤ―――『七夜』という刹那の『秘密』の一端に通じるものを聞いたが……。

 

 それ以上に、刹那の顔が……。『うげぇ』とでも言わんばかりに、げんなりしていたのだから、うん。なんかあれであった……。そんな刹那にリーナは―――。

 

「記憶の中の『シキ』(THE DEATH)とセツナは仲良さそうに見えたけど?」

 

「全然、あれだぞ。俺がバゼットと一緒に『村』に向かった時、不意の戦闘で助けてくれたのは感謝するが、その後には通訳やったり、宿に引き籠るからと、買い出ししたり、外にいるパンを持ちながら銃火器隠し持っている『シスター』の眼を誤魔化したり、状況はどうなっているかとか……『俺に『眼』を使わせた責任取ってもらうよ?』とか笑顔で言われても脅しにしか聞こえねーよ」

 

「よっぽどキライなのねー……」

 

 どうやら刹那にとっては苦い記憶らしい。どんな事態に陥って、その七夜の関係者と知り合ったかは知らないが―――あまりいい関係ではないようだ。

 

 しかし、リーナの言葉から察するに、『シキ』という……多分、『男』の使いパシリをさせられていたようだが、それが『心底嫌な思い出』ではないのか……時折、眼を眇めて懐かしそうに衣服を見ているのが印象的だ。

 

「で、これをどうしろってんだ? お前の所の生臭坊主は?」

 

「師匠……九重八雲曰く『君にあげる』。その一言だ」

 

「誰かにくれてやってもいいかな?」

 

 手紙を一読する限りでは、それしか書いていないので達也としても判断に困る。あぶり出しや何か隠された文言が無いかと思ったが、何も無い。

 

 ただ一言……それを見せると刹那も、どうしたものかと思う。しかも、その衣服の下には様々な『刀剣』が隠されていた。

 

 古めかしい暗器道具のような得物もあれば、意匠を凝らした刀剣もある。古めかしい直刀なんてのもあり、少なくとも100年、200年前では効かないものもある。

 あまりにも煌びやかな『魔力の輝き』に誰もが注目していた。が、刹那はそれらを無造作に、再び封印して仕舞おうとしていた。

 

 刀剣に関しては興味があるだろうが、今は使うものではないし使えるものではないとしていたのだが―――衣服まで仕舞おうとしているのを見て、がしっ! と幹比古とレオが刹那の両肩を掴んだ。

 

「達也の説明じゃ俺と幹比古は―――」

「プロテクターの上から『こんなもの』を羽織るわけだからね。刹那も僕たちと一緒に、『かぶこう』じゃぁないか?」

「―――カッコいいと思うぞ二人とも」

『『心にもない一言!!』』

 

 そんなに嫌なのだろうか? 装備で有用だとしても、聴衆の眼は、やはりその卦体な格好に向けられるだろう。

 錬金衣は、その煌びやかさゆえに四高ではフォーマルな装備として認識されているのだが、まぁそんなものである。

 

「それにしても邪道というかなんというか……結構ギリギリだよな」

「装備の指定をCADだけに限定しているからこそ起こる陥穽ですね。まぁ昔から―――ローマの剣闘士なんかも装備の面では『工夫』していましたし」

 

 剣奴とも称されるローマはコロッセオの剣闘士達は、自分のお抱えの貴族の要望次第で、様々な武具での戦いを『強制』されていた。

 装備指定をすることで、観客を沸かせるのも彼らの役目だが……命の取り合いをしている剣闘士たちにとっては『死活問題』

 

 明確な基準があるわけではないのだが、軽戦士であればレザー(革鎧)までを身に着けることしか出来ぬし、重戦士であれば、全身を覆い隠すほどのプレートメイルもあり得る。

 

 だが、指定されていたとしても『工夫』次第である。例えば、レザーアーマーを身に付けながらも相手の装備―――特に足払い代わりに足元を掬うだろう長柄の武器を使う相手に抗する為に、金属の脛当てを着けることで対処も可能だ。

 

 革鎧で牛皮の盾だけが防具だとしても、脛当てや足を保護するものまでは難癖は着けられない。後で言われたとすれば、『だったら条文に書いとけ』ぐらいはあるだろう。

 

「上から羽織るものに難癖は着けられないでしょうが、中に着込むものはちゃんとしておかなければいけないと思いますけど」

 

「まぁな―――そういうことだが、どうするよ?」

 

「ワッペンならばある。俺も興味あるんだよ――――その戦衣(ウォードレス)がお前をどんな風に上昇させるのかがな」

 

 黒子乃太助という名アシスタントのフォローを打ち砕く、達也の無情なひと言。それを聞いた刹那は、何か言われればアウトだろうなと思われつつも、大会役員からのゴーサインがあるかどうかである。

 

 結果として―――提出したものが、『古い衣服』であったことしか分からず、お墨付きは得たのだ。

 

 そして達也の目論みも理解した。こういう『レーザーレーサー』じみているかもしれない衣装を刹那に着させることで、深雪が発動させる飛行魔法の時の難癖に対処させたいのだろう。

 

 嘆息しながらも纏った衣服―――既に『特殊なミスリル繊維』で縫い付けた一高のワッペン付きを着ると―――非常に心地良く動きにも阻害性が無かった。

 

「カッコいいわよ。何だかジャッキーチェンやブルース・リーみたいで」

「お袋は八極拳を修めていたらしいからな。ある意味先祖帰りだが……」

 

 母からは、格闘は『ルヴィアかバゼットに教えてもらいなさい』と言われた。

 母なりに、魔術と八極拳の融合に限界を感じての発言だったそうだ。

 

 極めれば、恐らくとんでもない『マジカル功夫』となりえたかもしれないが、そこには『至れない』と知ったからこそだろう。

 

 外連味ある唐装ともいえるものを身に着けた刹那を前にして、リーナの言葉を聞きながらも身体を合せていく。

 殺人貴の動きを真似るわけではないが、村―――アルズベリにおいて、『助手』として側にいたからこそ分かる、自分に出来る動きを再現していく。

 

 無手でありながらもその手に得物―――短剣を握りしめているイメージで動いていく刹那は、近くに居る林の枝葉を悉くに揺らして残心するように振り向く。

 

 林を後ろにして一言つぶやく。

 

「しかし下手だね、どうにも」

 

『『『『『どこがだぁあああ!!!!!』』』』

 

 隠れて見ていた連中が、黒とも紺ともいえる『暗色』の衣服を纏って『嵐』のように動き回った刹那に対してツッコミを入れる。

 対する刹那はドリンクとタオルをリーナから受け取って、調子は万全であると確認出来た。

 

 あとはどれだけ一条がやってくるか次第だ。そんな刹那の意思を込めた瞳に―――蒼星が照星を合わせてきた。

 

「セツナ―――ブウン(武運)を祈ってるわ」

 

「ああ、行ってくる」

 

 言葉と共に手首に金色の髪を纏わせてくるリーナの気遣いを受けながら、戦いの時は近づくのだった……。

 

 

 

 † † † †

 

 

 三位決定戦を終えて、選ばれた決勝戦のステージは草原ステージ。遮蔽物が何も無い戦場で、正面戦闘で決する舞台。

 

 古来より戦場において、『変化』が出にくいのが平原などの殆ど障害物が無い場所だ。

 そう言う所では、地力もしくは数がモノを言う。

 

 有名どころでは織田・徳川連合軍と浅井・朝倉連合軍の『姉川合戦』。マケドニアの大王『征服王イスカンダル』とペルシアの大王『戦象王ダレイオス』との決戦、『ガウガメラの戦い』。

 一大決戦の大半というのは平原決戦が多い。最後の決戦とはすっきりした場所でつけたい。それだけだ。

 

 何より―――大会委員としても、このまま十師族が何かを出来ないままと言うのは不味いと思ったのだろう。一条選手の得意な距離を活かせる戦場を選んだ……。

 

 しかし、一条にとって得意な距離は同時に―――今大会の嵐の男―――遠坂刹那にとっても得意な距離であったことを失念した。

 

「どう考えても『忖度』された結果だよな。このステージは」

 

「だとすれば渓谷ステージが良かったけどね」

 

 嘆くような将輝のテンション。まだ会場に入りはしていないが、プロテクターのチェックを密に行い、四高からの贈与物のチェックも掛ける。

 

 そうしながらも最後には納得して戦いに移行する将輝に、全員が全幅の信頼を寄せる。

 

 最後に受け取った特化型CAD、倉沢がフルチューニングしたものを全員が身に着ける。

 

「バッチリだな。ありがとうございます倉沢先輩」

「礼ならば一高に勝ってから言ってくれ一条。それからだよ」

「ええ、もちろんです。最後に勝つのは俺たちだ」

 

 意気を上げる一条が赤いコートを纏う姿。まるで、シューティングにおける刹那の『コート』のようなそれは四高……イリヤ・リズから直接ではないが、間接的に譲られたものだ。

 

 同じく中野新と火神大河も赤系統のコートを纏い、藤宮と吉祥寺は緑系統ながらも若干、青に近いものを纏う。

 

 別に戦利品として奪ったわけではないが、それでも託されたものだ。単純に『ブースター』的なものであると言われて確かに―――これはいいな。と思えた。

 

「軍が開発しているアーマースーツの後継機とやらにも使えるかな?」

 

「USNA軍が採用しているレオナルド・アーキマンの作品、『オルテナウス・アーマー』は、未だに日本に納入されていないからね」

 

 ジョージが出したプロテクターの名前は、同盟国であるはずの日本に提供されていてもおかしくないものだが、その性能は正しく次世代型のもので、露骨に提供を渋られたという経緯もある。

 

 軍関係者は何としても欲しているしライセンス生産もしたいのだが……現在はムリで、独自開発されているものが、日本の国防軍の標準装備になると言う話である。

 

 とはいえ、今はそんなことはどうでもいい話だ。やるべきことはただ一つ―――勝利あるのみ。

 

 

「行くぞ!!」

 

「「「「オウッ」」」」

 

 威勢よく尚武を掲げる三高の若武者が戦場へと赴く――――。

 

 

 迎え撃つ一高は、三高とほぼ同時に草原ステージに着陣した。お互いにかなり卦体な格好をしており、嘲弄の言葉が出るならば両方に在りえた。

 

 両校が眼と鼻の先と言ってもいい見える距離で、相対しあう。両者は格好に関してあれこれギャラリーから言われつつも、眼だけはがっつり相手を向いていた。

 

 ―――全員いい眼をしている。

 

 九島烈が、そんな風に両校の選手たちを評する。両者の距離は凡そ『800メートル』。

 通説だけで言えば、姉川合戦に於ける浅井長政と織田信長のお互いの本陣の距離と言われている……。

 

 その距離を踏破して、果たしてどちらが勝つか―――。

 

「では、この老骨の虚ろな眼で君達の魔法の輝きを見せてもらおうか」

 

 瞬間―――試合開始のブザーと同時に一条の長距離飽和爆撃―――。中間地点から放たれるだろう魔法陣の圧―――まさかこの距離からと思われていた時に―――。

 

 渦巻くような魔法陣の全てを撃ち落とす古めかしい『矢』――――半物質化した魔力の矢が魔法陣をガラスのように打ち砕く。

 モノリスの更に後方に陣取った遠坂刹那が、刻印弓―――天牛金弓(グガランナ・ストライク)から矢を放ったようだ。

 

 ―――いきなりキングはとれねぇだろうよぃ―――。

 

 そんな無言の言葉を吐くような刹那に対して、一条は薄く笑い―――全員で進撃を開始する。同時に一高も刹那を置いて、四人が進んでいく。

 

 お互いの長距離砲の撃ち合い。

 

 古めかしくも戦艦の礼砲・答砲のごとき撃ち合いを以て、開戦の狼煙は上がったのだ――――。

 

 

 

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