魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
九校戦を長く書きすぎたなぁ(涙)
本当ならば続きも含めて挙げたいのですが、若干もう少し書かなければなりませんので、もうしばらくお待ちを。それだと12000文字を確実に超えるので、やみなべさんのLost codeほど卓越出来ていないので見辛いだろうとか、色々言い訳しつつも(苦笑)
ここ数日のランキング入りの感謝も込めて、新話お届けします。
いつの間にか切れていた唇の血を拭って、それを『触媒』に呪い払いを刻んで
そして―――。全体を確認しておく。一番には、腕をだらんと下げた達也からだ。
一条の圧縮空気弾を局部に撃ち込まれて『復元』も中々効かない。効かない理由は―――『刹那』にあった。
「腕見せろ。いくらおまえでも『難儀』するだろ?」
回復術を感覚が無くなってしまっているだろう腕に掛けておく。こうして触ると痛まし過ぎるものだ。完全に骨と筋が離れている。
腕をまくれば内出血の青あざばかりだろう。あえて見ずとも回復術は掛けられる。
「悪い……油断していたわけじゃないよな。何故ああなった?」
「恐らく一条が着込んでいたコートには『防御』のルーンが仕込まれていた。もしくは『復活』のルーンがな。てっきり
四高の悪辣な仕掛けである。しかし、やられて見ると実に見事すぎた。こちらも勝利に急いていたのだろう。
いつもの達也ならば相手の攻撃からの不意打ちで仕掛けてもおかしくなかったのに……。
「すぐに追撃する。辛いだろうが、あちらも辛いはずなんだ。気張って突き進むぞ」
「プランはあるのかい? 二度は通用しないだろう?」
幹比古のもっともな言葉。達也は、この場に来て作戦立案の下駄を刹那に預けてきた。ならば―――やるべきことは一つ。
「モノリスやって
『『『『無しだ!!』』』』
「血気盛んで何より。俺とてコードの打ち込み出来ないから、やりたくない」
何より刹那に出来ないことがあるのだから、そっちは無しとなる。となれば三高を完全に叩きのめす。
とりあえず意見の一致はあったのだが……。達也に折れた方の腕で肩を叩かれた。
「後でブラインドタッチ教えてやる」
達也に慰められながらも両腕の回復は万全らしく草原に落ちた拳銃型CADを取り上げる様子。
一条たち三高は、魔法師やそれなりのアスリートからすれば殆ど目と鼻の先―――、凡そだが400m弱といったところか、あちらも最後の作戦確認。
悠長な。と言うかもしれないが、お互いに下手に攻撃したりすればカウンターを取られる。
そして、お互いのダメージもそれなりに重篤だ。レオ、幹比古、太助も結構なダメージを負っている。
吉祥寺の魔法や火神の術による細かなダメージがあるのだ。疲労困憊と言えるのは幹比古だろうが、もう少し踏ん張ってもらいたい。
「大丈夫だ。僕はまだ走れる―――気遣わないでくれよ」
「分かった。存分に走ってもらう」
「す、少しは温存も必要じゃないかな? ……やっぱり現代魔法においては、体力とか筋肉とか必要だよな」
ムキムキの幹比古―――略して『ムキヒコ』計画の進行を食い止める義理も無いので、少しだけビビっている幹比古を認識しながらも、プランを固めておく。
「メインフォースは達也、幹比古、レオ、バックアップに太助―――」
「刹那は?」
「俺は『輸送機』の役割だな。奴らの喉元までお前たちを送り届けてやるさ」
達也の言葉に対して、刹那は獰猛な笑みを浮かべながら―――"要はばれなきゃいいんだよな"と悪だくみをしておく。
あちらにはレギュレーション違反ギリギリ……『五人揃えての増幅術式』という『戦隊物で言う所の合体技』で、すり抜けられてしまったのだ。
これも九島のジジイに言わせれば『工夫』の範囲かもしれないが、個人が使うにせよ集団で使うにせよアウトだろうに。
レッドフラッグを挙げない審判団。奈良判定の別バージョン。『静岡判定』といったものを食らったのだ。
誰が見ても、完全な勝利で全てを終わらせてやる―――。そういう意図での笑みを浮かべておく。
『右腕の刻印』を七割解放、接続を完了させ、弾倉に弾丸を込める要領で、魔術回路を五割解放。
三高陣営の間では、『スーパー刹那』などと呼ばれている姿が見えた事とサイオンの高まりが収束していく様子を見るのだった。
そんな風に武田騎馬軍団の如き疾走を待ち構える三高とは対称的に一高の最後の声掛けは、意外なものになった。
「……進撃する前に言えばだ。達也、悪いが冗談でも
「聞こえていたのか……そして―――そこまで俺はシスコンか?」
『『『『うん』』』』
驚愕した達也の表情を見ながら誰もが全力で首肯と共に肯定の言葉を吐き出す。
何とも言えない表情をした達也の胸中は何なのか分からないが、妹離れを『双方』望んでいない以上、それは心の贅肉である。
そして刹那と深雪の相性は『最悪』とまでは言わないが、あまり良くないのだ。
仮にそんな状況があり得たとしても早期の破綻がありえる。
だが……だからといって一条との『先』を望んでいる達也はいないのだから―――やることは一つだ。
「とはいえ、達也のマイシスターは、一条をあまり好いていない印象だからな。一発ぶちのめしておくのが吉か」
「ヒトの恋路を邪魔する馬になるんですね」
「うん。それ邪魔する奴が馬に蹴られるオチだから、ちょっと違うよ」
太助の言葉に幹比古がツッコミを入れてから、左手を右腕の中ほどに添えた状態にして整える。
ブルーの魔弾発射のような体勢。腕を目いっぱい伸ばしてのそれを前に放つのは魔弾ではない。
長距離砲の発射を予期した三高の動揺を尻目に―――刹那は、『貴き幻想』を展開する。
後ろには、頼りになる仲間たち―――勝利を掴むだけだ―――。
「I am the bone of my sword.」
刻印が最大展開。魔術回路が一つごとだけに切り替わる。創造する。
この場に無いものならば、『作ってしまえば』いいだけの話なのだから―――。
現実に展開される今は無き幻想が―――花開いた。
「
そして、世界に最大最硬の『魔盾』が展開されるのだった……。
† † †
観客席の熱気は最大級の最高潮。誰もがスタンディングして、その戦いの結末を見届けんと興奮し尽くす。
「まるで十文字君の『ファランクス』みたいね。あんな『防御手段』も持っていたとは、予想を悉く崩してくれるわ」
「ロー・アイアス……名前から察するに、トロイア戦争におけるドゥリンダナを携えし投擲の英雄『ヘクトール』の攻撃を防いだ『大アイアス』の盾の名前を模った『魔術』といったところか」
意外な事に十文字克人が、そんな風にさらっと由来や由縁を説明したことに瞠目する七草真由美だが、そもそも十文字家の秘儀の一つである『多重防壁』たるファランクスの由来は、古代ギリシャの重装歩兵による密集陣形にあるのだ。
その手のことに疎くてどうするのだろうと思うが、魔弾の射手などと言われても『ザミエル』も『ウェーバー』も知らなかった真由美なので、そこは仕方なかった。
今度オーケストラにでも連れていこうかと思ってしまう。また鼻ちょうちん着けて眠られるのも嫌だが……まぁ考えの一つである。
「十文字君、すごく失礼なことを考えていない?」
「いいや全く。それよりだ。三高も『花弁の盾』を崩さんと魔法を解き放っているぞ。良く見ておけ。七草」
「ズルい―――とはいえ、見ておくわよ。同時に応援もしなきゃならないでしょ?」
戦場においてやはり注目を集めるのは刹那だ。彼の築き上げた防壁。最初は花弁が開いたようなものだったのだが、一条たち三高の攻撃を受ける度に形を変えて、今はちょっとしたドーム状に『七層』盾が展開している。
そのままに―――進撃。本当にファランクスの使い方のようだ。しかし、完全に防げるものではないのか、トラップ的に進行方向の足元に設置された魔法が発動しそうだったが―――。
吉田幹比古が地割れを起こして、魔法の発動を不可能にした。一種の定義破綻を起こされたことで、吉祥寺及び怪我を負っている中野が苦い顔をする。
『GOGO―――!! 一高!!!!』
チアリーダー達の快活な掛け声に応えるように刹那達は真正面から全ての妨害を蹴散らしながら進む。
放たれる『ローアイアス』の層が水滴でも落とされたかのように波紋が揺らぐも、一切を貫き通していない。
かといって内部にいる刹那達に、魔法式を投射しようとしてもエイドス改変の定義が悉く弾かれる。
目視出来ていたとしても、その盾は全ての情報体の改竄要求を遮断する。
『ならば、足元に魔法式を―――』
(バカが! 二度もそのような手が封印指定執行者に通じるものか!!)
右腕の刻印と共に呪言を吐いていく。吉祥寺真紅郎の浅い考えを消し飛ばすためのもの。
それはバトル・ボードにおいても三高を苦しめたものの一つ。それが『転写』される。
「偽・
吉祥寺が投射しようとした魔法をキャンセルするように地面に―――草原に祈りを捧げる聖母の『道』が作り上げられる。
バトル・ボードにおいてエリカが投射した『魔法』の『オリジナル』とも言えるもので、一高の進撃は止まらない。
接敵まで残り20mもない。そして何よりモノリスまでの距離も―――。
ありとあらゆる攻撃を弾きながら侵入してきたぺネトレイター達に三高も対処をどう取るかを逡巡するも―――。
「
その前に、刹那は花弁の盾。聖母の盾を媒介に『何か』をした。何かと言うのは誰もが何をしたか分からないからだ。
しかし、変化は急激だった。草原の戦場が、少しの土肌すらあったその場所が……。
瞬きの一瞬の間に―――。
草原が、白花が咲き誇る『海』へと変わっていた。
華、花、はな……一面が花に変わるほどの幻想的な空間。
瞠目する。驚愕する。これだけの『変化』。これだけの世界を騙す『ペテン』。どれだけの演算領域があれば出来ることだ。
そして何より―――このステージの意味は何なのか? 雪よりも真白い野花の群の中にあって、誰もが昂揚することは間違いない……。
だが、既に魔法が効くはずの盾無しの一高のメンバー達に何も出来ないほどに、圧倒的な『魔法』であった。
一歩進む遠坂刹那は少しだけ笑う。花の海を進みながら口を開く。
「最終決戦なんだ。モノリスを読み込んでの決着を望まない―――きっちりお前たちにバトルで勝って新人戦優勝を決める。その為に用意したステージだ。
殺風景な場所で勝っても―――実にあがらないな」
「そりゃこっちの台詞だ。俺たちの勝利のために、ロマンチックな演出をしてくれて感謝の限りだ………
その言葉に一条は、全員を『ブースト』させる。どうやら何かしらの準備はしてきたようだ。
だが、こちらとて無策ではない。咲き誇る花。その花弁が舞う中を突き進む一高と三高。
現代兵装に身を包みながらも、その姿に魔力を纏わせた若武者たちのバトルが始まる。
† † † †
その様子を観客席の更に上席から見ていた人間達は少しだけ呻く。
「随分と幻想的な魔法を使うものだな……現代魔法とか古式とかいう括りではないな」
「ええ、まるで……おとぎ話に出てくる『魔法使い』のようなことをするのね」
二人の元生徒の言葉に、九島烈は苦笑する。
「そこが遠坂刹那の恐ろしいところだよ。弘一、真夜……彼からすれば、我々の魔法など手妻・和妻程度のものにしか見えないのだろう」
「それは……十師族ないし『戦略級魔法師』でも同様ですか先生?」
その言葉にVIP席の重鎮は考え込み、そして十秒ほどの黙考の後に、かつての生徒であった男に応える。
「奴一人を過剰かもしれないし、何より周囲を巻き込むことを考慮にいれなければ有効かもしれんが、奴の手札にロー・アイアス以上の『防御手段』があった場合、逆撃を食らわされる可能性もある」
「現代魔法では貫けぬ『盾』……私の流星群でもどうなるか分かりませんね」
十師族の中でも追随できそうな実戦的な人間の一人。一条将輝がどうなるか次第だが、果たして……。
だが、それすらも面白い。弘一や真夜にとっては、少しだけ考えて味方に出来る男か、どうかを考えてしまうだろう。
何より真夜は何かの意図があって手元に置きたいようだが……アレは飼えない。飼えるわけがない猟犬なのだから。
唯一の救いは……アンジェリーナが、遠坂刹那の重石として、軽挙を起こさせていないことだ。
九島の家にも恐らくあの少年は寄り付きはしない―――ともあれ、決着の時は近い……そして、今にも、何だか過日の頃の生徒二人の様子になろうとしている二人を見て、どうしたのだろうと思ってしまうのだった。
(今さら回春などして―――いまの家を、家族を崩壊させたいのか弘一……?)
特に家族。息子も娘もいる男は不味いだろうに、それでもこの男の執着を知っていただけに、そこに強く言えないのは溺愛していた生徒の一人だからだ。
『あの一件』以来、烈も弟子を取ることをしなかった。あまりにも壊れすぎたモノを見て嘆きだけがあったのだ。
期待を掛けすぎたからこその悲劇だとも言える―――。それを乗り越えるには―――少々、真夜は魅力的すぎる少女で、弘一は未だに真夜の
† † † †
幻想的な魔法―――花束でも作りたくなるほどに見事な野花の群。それに見惚れつつも、やはり現代魔法及び古式の魔法の理屈から若干『外れている』。
彼は己の術のことをあまり『まほう』とは呼ばない。『魔術』……古めかしい言い方だが―――そんな言葉で表現する。
彼にとって『魔法』は、違うものなのだろうか。
その答えを知っているだろうリーナは、視線をフィールドで戦う刹那に向けながら心中でのみ呟く。
(……はじめの一つは全てを変えた。……つぎの二つは多くを認めた。
……受けて三つは未来を示した。……繋ぐ四つは姿を隠した。
そして終わりの五つ目は、とっくに
されど『六番目』があるはずだと足掻く、永遠に報われない求道者―――それが『魔術師』)
だが刹那の言葉を受けて気付くこともリーナにはあった。二番目の魔法を求めて道を進み、五番目の魔法の使い手と関わってきた刹那は恐らく……。
「この宇宙の存在は、ワタシとセツナの遠い子孫の手に委ねられちゃうのねー」
『だからどんな結論だ―――!!??』
「時々、リーナも刹那君も頭の中で出した結論が突拍子も無さすぎますよね。そして何かイラッとしますね」
「えっ!? ミユキ、明日にはミラージ本戦よ。大丈夫なの? 皇家の剣(?)だけ託して、休んだら? ワタシとセツナだけでオルゴンマテリアライゼーション(?)しておくから」
「微妙なネタありがとうございますね!! ついでに言えば衝撃的な事実!!」
遠坂刹那の
「別に噛付くわけじゃないけどミユキとセツナじゃ破綻が眼に見えているわよ」
「ええ、それに関しては、私も同意です。最新の魔法師と最古の魔法師とでは目指す『奥』が違いますからね」
だが、変な話だが『最古の道』を目指す刹那と『最新の道』へ進める達也とで、若干『ウマ』が合っているというのだから人生分からない話である。
男と女とでは価値観が違うのだろうか。そんな気分にもなる。互いに欠落したものを埋めあっているのかもしれないが……。
そんな結論を放り出してから、決意をしておく。
「とはいえ、今はそんなことは、どうでもいいわね。あまりミヅキの妄想のネタを提供するのもいやだし」
「どういう意味ですか――!?」
美月の悲痛な叫びを聞きながらも、立ち上がってポンポンを握り直す。戦場にいる男たちに今の自分達に出来ることなどそれだけなのだ。
リーナと深雪……一年のクイーン・ビーが立ち上がると同時に上役も立ち上がる。
「私達も選手たちと共に戦うわよ!! 応援の声と盛り上げは絶やさないで!!!」
『『『『『YEAHHH―――!!』』』』』
七草真由美の声で一高女子の声にハリが出る。これがラストバトル。そう感じて戦場にある
「フィールドにいる選手たちは諦めていない!! 後輩たちが戦う以上は俺たちも声を張り上げるぞ!!!!」
『『『『『押忍!!!!』』』』』
十文字克人の言葉で、学ラン姿の応援団員たち(五十里啓含め)が声を上げて勝利をもぎ取れと喝を入れていく。
そして対面の三高も、ここぞとばかりに声を張り上げていく。野球の応援のように守備と攻撃で順番が変わるわけではないので、色々と声がすごいことになっていく。
『『『『『一条君ファイト!!!!!!』』』』』
『『『『『エレガント・ファイブ頑張って!!!』』』』』
『『『『かっ飛ばせ―――!! 三高!!!!』』』』
その声に急かされるように戦いは、