魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
少し短いですが新話アップさせていただきます。
終わってみると怪我人続出のとんでもないモノリス・コードの試合。
観客はスタンディングオベーションだが、やった方は歓声に応えられないほどにゾンビも同然だった。
「ああ……疲れたぁあああ」
「ゾンビのような声を出すな。とはいえ疲れたのはお互い様か」
上へ両手を伸ばし、前へ両手を伸ばす二人に、幹比古としては色々と思う所がある。
「というか、この状況で普通に立っている
幹比古からの言葉で選手控室までの通路を進んでいった一高メンバーたち……確かに、言われてみると―――。
とりあえず全員が、立って歩くぐらいには回復していた。まぁ幹比古は、若干、腰が震えている感じであるので、歩幅を合わせていた。
「疲れ切っているのは吉田君だけですよ。西城君もどうやら回復して歩いていますし」
「いや節々がスゲェ痛い……こりゃオート走行のダンプカーを押し止めた時の痛さと同じだな」
どういう状況でそうなったのか、興味はあるが……茶系の髪を掻いて『あっけらかん』というレオの肉体は、やはり混血系統の話だろう。
恐らく『マシラ』……猿神の系統かとも思うが……刹那の知識以上に、この世界は『遺伝子工学』が発達しており、そう言った話ではないのかもしれない。
結論付けて、ロマン先生の治療で五体満足の疲労困憊で歩いていた一高メンバーの前に―――勝利の女神が現れた。
艶やかな衣装のままに、待ち構えていた一人が進み出て、飛び出してきた。それは刹那の大好きな宝石の一つ。
スターサファイアの如き輝きを纏う少女であって、当然、刹那はその少女が大好きだった。そして少女の心もまた……。
「セツナ―――♪♪」
「リーナ―――!!」
スピード・シューティング決勝戦後のプレイバックのように、若干違うもお互いに抱き合うことを目的とした駆け出し。
腕を広げて抱き留める姿勢を取る刹那に素直に入り込むリーナの姿。その熱い抱擁は、もはや見慣れてしまったものであって、まるで映画のワンシーンのように絵になる『バカップル』だった。
「色々と言いたい事はあるけれども、本当にステキだったわ。ワタシのダーリンは最高の魔法使いで最高の『男』なんだから……瞬き一つすら惜しかった……」
「試合を決めたのは俺じゃないけどな。――――とはいえ、戦利品というわけではないが、はい。お土産」
その言葉で、手をリーナの頭にかざす刹那。
どこに隠していたのかガーデンファンタズムという魔法の『欠片』。白い野花が、今日はポンパドールの髪型のリーナに咲いた。
誰もが、驚いて息を吐くぐらいには見事なものが、姫だきされたリーナのアクセサリーとして一瞬で髪型に映えるのだ。
「こ、こういう小技がモテの秘訣なのか!?」
「ああいうのが許される人間であるというのが前提条件だ!」
「えー、そうでもないよ。どんな女の子でも、こういう『気遣い』は嬉しいよー」
「もしも、こういうの踏み躙るようならば、そいつは性格ブスの類なんだから、諦める指標になるね」
先輩、同級生、男女共に色々な意見や感想を述べる中、そんな喧騒など構わず首に手を回して姿勢を保持したリーナは惚けるような視線を刹那に向ける。
スピード・シューティングのプレイバックのような様子に誰もが微笑ましい表情でいたと言うのに―――今日のリーナも刹那も何かのネジが外れているのか……もう少しだけ大胆な行動に出た。
早撃ちの際には、頬を当て合うものだったのが……、次の瞬間には唇と唇が繋ぎ合っていた。
お互いに眼を瞑りながらの、分かっている二人だけのマウストゥマウス……。
恋人同士のラブキッスが目の前に広がっていたのだった……。
「―――――――――!!!!!」
「―――――――――!?!?!?」
誰もが絶句して、二の句を継げぬほどに衝撃的な場面。
あの小悪魔だなんだと言われている七草真由美ですら真っ赤になって頬に手を当てて、『アッチョンブリケ!!』などと言わんばかりの勢いである。
所詮は見せかけだけの小悪魔であって、身も心もまだまだお嬢ちゃんなのだった。
三巨頭全員が、顔を真っ赤にする……意外なことではないが、一高生全員、びっくりするぐらい思春期真っただ中。
知り合いの、しかも後輩で色々と有名人すぎて、恋人関係だと知っていても、こういった場面を直に見ると、色々とアレなのだった。
「せ、刹那! あんまり、そういう風紀に良くないことをするのは風紀委員として、よくないよ。よくないよ!!! リーナも離れる!!!」
「わ、分かったよ。リーナ……ごめん。俺も戦闘後の高揚感で少し場をかんがえな、むぐっ!!!」
雫に言われて流石に頭が冷えた刹那だが、文句を塞ぐかのようにリーナの恐るべきカモンベイビーアメリカンな情熱的すぎるキスで、刹那も紅潮するのが隠せない。
この女……恐るべし。それでいながら達也も若干、眼を覆いつつも『補給作業』だと気付けた。
「な、なんで! 二回もキスするの!? しかも、今度は舌を―――」
「し、雫、落ち着いて! なんか色々とキャラが崩れているから!? ―――そうだわ。この場面! リーナと刹那君だけがキスしているから場が変になるのよ!! つまり―――私と達也さんが、あひゃああああ!!!」
「中々に斬新なアイデアだけど、ほのか? そういうのって公序良俗に反すると思わない?」
雫を諌めつつもフォローなんだか棚ボタ狙いな光井ほのかを諌めるデーモン深雪閣下の無言のメッセージ。
『お前も
何だか場が色々と混乱とピンク色の空気に染まり―――。口火を切ったのは色々と盛り上がり過ぎなチアリーダー姿の美月からである。
「吉田君……あの最後に吉祥寺さんに放った魔法って、普段からあんな風な『容姿』になるんですか?」
「い、いや……何かやっぱり、柴田さんと関わり多いから、イメージが投影されて、そうなっちゃったのかもしれない―――うん。他意はないよ。肖像権の侵害は申し訳ない」
「本当ー? そういうからにはミキは美月のことを『意識』していたからってことでしょう? 私やリーナや深雪じゃなくて美月なのは、そういうことなんじゃないの? 『おっぱい』だって『盛り上がっていたし』、美月並に」
「エリカちゃん! セクハラ禁止!!」
「僕の名前は幹比古!……って、言っても無駄だけどさ―――それを言うんならばレオがあんな風に硬化魔法をすごく出来たのは、やっぱり八王子での一件でエリカが大怪我したことが後悔にあったんじゃないの?」
流石に色々と懇意にもなることがある美月をフォローする為にも違う方向に矛先を向ける幹比古だが、言われたレオは分かっていながらも髪を掻いてから口を開く。
「矛先を俺に向けるなよ……まぁ無かったわけじゃない。そして流石に駆けつけてきたエリカの兄貴にぶっ叩かれれば、そうもなるさ」
「あー……あの時はごめんね。まさか和兄が、あそこまでアタシのことで怒るだなんて……」
「気にすんな。お前の言の割にはいい兄貴じゃねぇか」
いつものメンバーが、何だかそんな風に言い合いながらも微妙に女子と男子が意識しあって、そのオーラで満ち溢れている。ぎこちない様子である。(CV キー〇ン山田)
真由美がピノコのような表情から回復すると、あっちこっちでそんな空気である。
辰巳鋼太郎と五十嵐亜実、五十里啓と千代田花音。桐原武明と壬生紗耶香……色々と当てられすぎである。
こういう時こそ風紀委員長である渡辺摩利の出番。鬼のスケバンたる彼女が引き締めてくれると期待して―――。
「うん! 見ててくれたかシュウ!? わ、わたしのチアリーダー姿の方が良かったのか!? そ、そんなことよりもエリカの友人で私の後輩たちの活躍をちゃんと見てくれないと困る!! 困るんだからな…?」
全く以て困っていない摩利のあまりにも蕩け切った表情と言葉での端末越しの会話にツッコミを入れたいのに入れられない。
独り身ゆえの僻みと思われたくなくて、こうなれば我らが巌の如き大親分。十文字克人に『喝』を入れてもらうしかあるまい!
決めた七草真由美は、達也と深雪が抱き合っているという衝撃的な場面に若干の『アイアムアショック』を受けつつ振り向けば―――。
「お姉ちゃんがお祝いに来たわよー!
「俺が戦ったわけじゃないからな。ただ俺の試合の時にも頼めればとは思うよ」
「勝ったらね?」
「勝つさ。霧栖―――九大竜王の筆頭だろう相手にこのまま引き分けは無いな」
本戦モノリスでは九高が上がってくると見ている十文字の言葉に……少しだけ驚きながらも、それ以上に驚くのは伊里谷理珠の行動である。
「い、イリヤさん!? 他校の応援通路にやってくるって非常識じゃないかしら!? それよりも十文字君! 喝入れ! このだらけ切った空気を引き締めて明日のミラージ本戦に向けさせて」
「七草、お前がやるべきだな」
「なんで突き放す――!? ひどくない! 最近、十文字君冷たすぎるわ!!」
銀髪の少女が―――巨漢の従者……バトラーの格好をしたのを引き連れて来たのに、今度は刹那とリーナが驚いてから、何故かキスしあう。
何故に!? と思いながらも―――状況は更に混乱する前に―――。
「―――
「毎度思うけど、この方法ってどうかと思うよな」
「ワタシは嬉しいわよ。そして楽しい……シアワセ♪ すごく、ね。セツナは?」
「―――Me Too―――だよ。リーナ」
『魔力補給』。経口接触による魔力の補給。『深いつながり』を維持している男女だけに許される一種の共感魔術で、身体の魔術回路が十全に稼働しつつある。
そもそも、富士山の魔力があるので、ホロスコープの関係から魔力の供給は出来ている。それでもリーナの補給を拒めないのは、大好きな女の子に癒されたい想いがあるからだろう。
そうして再び見つめ合ってから―――イリヤ・リズが引き連れているサーヴァント。誰もが十文字会頭以上の巨漢に圧倒されつつも、この通路を手狭に感じさせる巨漢に―――。
「平野。私は大丈夫。『お願い』ね」
「畏まりましたお嬢様。ミスタ・トオサカ―――いい闘争であったよ。それだけを私は言いに来たのだ。他の戦士達も、マルスとアテナの眼を楽しませるほどに、存分に戦い抜いたいい闘争だ」
「―――こ、光栄です!! バトラー・ヒラノ!」
リーナを降ろしてから、その『執事』に頭を下げる。まさかギリシャ神話に名高き―――『あの英傑』にそんなことを言われるとは……。
ということは、森崎たちを助けてコヤンスカヤに矢を放ったのは、この人か―――。今さらながらとんでもない。
「あっ!? あの人、会場に来た初めごろに屋上にいた―――」
「うん。すごい『霊圧』だ……柴田さんを伴って夜中に修練していた時に見た人だ」
夜中の外出に付き合うとか、お前らもう付き合え。そんなセリフを言いたくなる幹比古と美月の言葉に、平野は一礼をしてから見えなくなる。
今まで富士山の魔力で撹乱されていたが、かの大英雄は、今までこの九校戦というコロッセオでありアルゴノーツの如き船を守ってくれていたのだと気付き―――再びの一礼。
それを見て満足した姉貴は、ルージュの伝言を残す。
『明日の夜。全ては変わる。イワンの襲来に支度すべし』
いつぞやの懇親会の時と同じく、ルージュの礼装を用いて空間に描く暗号文字で示す姉貴。
あれほどの戦いをやっても、まだ来るのか―――そう思いつつも、四高の代表者が去ると次に来たのが―――。
三高のチアリーダー。刹那にとって知己の存在であった。
「セルナ―――!!! 御身体は大丈夫なんですか―!? って! 何ですかこの画像は!? こんな公衆の面前で……フケツ!!!」
『『なんでさ』』
二人そろっての言葉は、不潔なわけあるか。という一致した想いゆえであった。更に言えば、誰だよ。愛梨の端末にドストライクな場面を送ったのは―――エイミィが「てへぺろ(・ω<)」などとしていたのを見て犯人を見つけた瞬間であった。
というか、チアリーダー姿で色香を撒きながらやってきた愛梨と栞、そして沓子という三高一年美少女の登場であるが、自校の男子に対する慰労はいいのかと思う。
「まぁ親衛隊いるし、一条君に私達は必要ない。藤宮君には、妹の「ゆう」ちゃんいるから」
「アラタとタイガーをにべもなく振るのが、栞と愛梨のイマドキStyleというやつじゃ」
ひどいガールだ……(寺田〇くん風)。とはいえ、そろそろ俺たちも着替えたいわけであって、更に言えば腹も減ったりしているわけでして、三高チアガールズにもお帰り願いたいのだったが……。
「将棋や囲碁ではないが『感想戦』したいんだが―――!!! というかさせろ―――特に司波と刹那!!!」
「なんで混乱に拍車を掛ける!!!???」
この短時間でも絶対に制汗スプレーと一緒にワックスで髪を整えただろう一条将輝の登場に女子が色めき立つも、その視線が抱き合っている達也と深雪に向けられた瞬間、心の吐血をするマサキリト。
「し、司波さん!? そ、その行為の意図はなんでせうか!?」
「戦い疲れて癒しを欲するお兄様に妹である私自ら―――癒しを与えているのです。先程までリーナと刹那君がやっていたことと同じです」
滔々と答えながらも、達也との抱擁を続ける深雪に一条は更に絶句する。絶句してから向けた視線の先は……。
「刹那―――!!!」
「なんで俺なんだよ!? とにかく! 一旦解散!! 夕餉の時間まで他校の選手に接触するなよ!! 元気いっぱいなのもいるだろうけど、全員疲労困憊!! それを忘れずに!!」
掴みかからん勢いの一条を制しながら一種の『気付け』の魔術。手叩きと同時のそれで、混乱を終息させる。
流石に原因は俺とリーナにあったかな。と思いながらのことであり……まぁとにかく……。
「こりゃ、達也に寿司でも握ってもらわないといけないかな」
「
達也の寿司―――九校戦編―――。最終的には『達也の寿司は(妹と)生きるための寿司なのだ』とか言われる訳である。
「せめてそこは都民として『江戸前の達』とかにしておけ」
ぽかっ。と何処からか出したピコハンでリーナと共に叩かれながらも、シャワー室は空いているかな。とか考えるのだった。
ともあれ戦いの後にも少しの混乱を起こしながらも―――結局、夕餉の時間は夕餉の時間で騒ぐことになるのである……。
何より………。頼まれてしまったのだ。
「セルナにも事情があるのは分かります。けれど―――少しのアドバイスだけでいいのです。お願いします」
一高首脳陣に頭を下げてでも、自分なんかのレッスンを欲しがる愛梨の女意気に応えなければいけないのだった……。
そして―――明日の妖精たちの戦いは始まろうとしているのだった……。
その裏で始まろうとしている暗闘もまた……火ぶたを切る時を待つのだった……。