魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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今回、ちょいとオリジナル設定と曖昧な語彙力がありますが、暖かい眼で見てくれれば、幸いです。

エクレールという単語からして彼女はフランスのハーフだと思うんですけどね。(苦笑)


第93話『九校戦――妖精決闘の裏側にて』

 新ソ連の特殊部隊『オヴィンニク』は、この極東の地において、最終的には本国の命令が翻ることを願い続けた。

 

 祈る―――などという『無神論者』にあるまじき態度に誰もが粛清をすることは無かった。何故ならば目的である九校戦における魔法師達の身柄は絶対に奪えないと分かっていたからだ。

 

 ともあれ、下った命令には従わなければなるまい。会場に一般人を装って送り出した改造死体兵器『コシチェイ』……無頭龍の構成員や、ジェネレーターという生体兵器を元にしたそれが稼働すれば……その混乱に乗じることも出来よう。

 

 

 そういう目論見で動かそうとしていたコシチェイの大半に催眠誘導波を送ったのだが―――全ての反応が無い。

 大まかに言えば放った波を受信するものがいないのだ。

 

 どういうことだ? そう感じてコシチェイ以外に送り込んでいた……欧州―――ドイツ圏のプレス(報道)を装った工作員に連絡を取る。

 

 取ろうとして、そちらも反応が無い事を悟ったオヴィンニク。この時点で本国に連絡を取ろうとすれば良かったのだが、それでも彼らの頭には成功か失敗か、生か死か……そういった二者択一しかなかったのだ。

 そんな彼らの目論みを全て消し去ったのは、ただ二人のツインスターであった。

 

 

 ……動き出そうとしていた改造兵士を見つけることは容易だった。魔力の色からしても生者と死者の違いは分かる。

 

 大柄な男。観客席の端の辺り。末席というほどではないが、中段ほどに座り込んでいる男を見つけた刹那は、男の後ろに座り込んだ。

 

 遠坂刹那が座っていることなど誰も分からなかった。そもそも、そこに人が座った事実すら認識されなかっただろう。

 

 同時に大柄な男も分からなかった。……だが、座り込んだ以上はやるべきことは一つ。

 

 宝石を溶かした指を男の席の背凭れに着ける。着けると同時に十字を刻むような指の動き。

 

 転写された魔法陣。疑似的な『死のルーン』が背凭れ越しに男に放たれた……。

 

「……っ―――」

 

 末期の断末魔すらもなく一度だけ痙攣してから首を落として眠りこけるような男。確認するまでもなく『死者再殺』が完了。

 死後硬直が始まる前に、独立魔装が扮する『医療スタッフ』に運び込んでもらう。

 

 魔法陣は消え去ったが見られても困るので念入りに消しておく。信頼はするが信用はしない。そういうことだ。

 

 もう一人。柱の陰にいたコシチェイを見て、それとなく動く。足音を消して歩く。

 忍び足という技法を魔術無しでも出来るようにと言われた最初はバゼットだったが、本格的に身に着いたのは村で自分を使いパシリにしてくれた男からだろう。

 

 音をさせずに歩行をする技法。歩くのに余計な力を入れずに進むということを見せつけられたからだが―――。

 

(まぁあの人みたいに『殺せる』眼があれば、必要な技法だけどな)

 

 本物の魔術師の工房に入り込む時に、この手の技法が必要になるとは思えない。しかし―――大アリーナの柱に寄り掛っていた中年の男。柱を介してルーンを転写。

 

 これで十人……十人目の男を柱に縛り付けておきながら、同じく独立魔装に処理を任せる。

 

「これが上級死徒の屍食鬼ならば、瘴気や腐毒を吐き出しているところなんだが……まぁここで灰に帰すわけにもいくまい」

 

『いつもながら手際いいですね、セツナ君。これで始末したコシチェイは十体……新ソ連は戦争でもする気なんですかね?』

 

「だとすれば、奴らは虎の尾を踏んだことを後悔するね……『魔王』には勝てないということを、思い知るよ」

 

 どうでもいいことだが、『四葉達也』に勝てるものなどいないだろう。奴はどんな状況に陥っても『勝ちを拾う』。

 

 そもそも『敗北』の必定がないのだから……。

 

「リーナ。そちらは?」

 

『四体―――しかし、死体を動かすとかどう考えても正気じゃないわね……』

 

「イルカに電極埋め込んでスパイにしようなんて考えを持っていた連中なんだ。今さら人倫に囚われないだろうさ」

 

『USNAもセツナがいなければ、そればかりになっていたかも……』

 

 スターダストのメンバーに対する処置に意見具申したことを言っているリーナに苦笑する。

 

 はっきり言えば、実に『雑』な強化措置であったからだ。魔術師としての観点から見ても実に、『もう少し効率よく出来る』はずだ。

 そういう考えであったからだ。寿命を捧げても力を得るなど『ハシッシ中毒者』みたいなことは、実に見ていて『不快』だった。

 

 真理を探究する魔術師としての見方をすれば、兵隊の寿命を短くしての強化など……そうして、まずまず何故か『人道溢れる措置』を行った『最強の傭兵』だのなんだのと言われた。

 

「前にも語ったが、そいつは誤解だよ。俺は、もう少し効率よく兵隊を使えと言ったんだ」

 

 もしくはホムンクルスでも用立てればいいのに―――無理だろうが、ともあれ―――受信機越しのリーナは―――。

 

『はいはい。そういう考えなのは分かっているけれど、それで救われた人もいるんだから、その好意だけは素直に受け取っておくものよ』

 

「……分かったよ……それで残りは?」

 

 そんなちょっとだけお袋に似た言動を取られてバツが悪くなる刹那は話を転換する。

 

『あなた達がイチャイチャしている間に、柳隊員と真田隊員とで一人を追い詰めています。もう一人をお願いします』

 

 九校戦の観客が多くいる中で騒ぎを起こしたくないので、それはいいのだが、シルヴィアの笑いながらのツッコミに苦笑してから指定されたポイントに疾く向かう。

 

 試合会場の外。丁度良くも人は一人もいない場所に降り立った刹那は―――中年の男を眼に捉えた。

 

 その男を眼にしながらも男の後ろに―――少し離れてざんばらに散った赤毛に金目の少女が降り立つ。

 野性的な相を見せるその少女の真実は、自分ほどの眼ならば分かっており、無茶な変装にしか見えないのだ。

 

 毎度思うのだが、全然似合わない。どうせならば、桃色の髪にネコミミヘアースタイルにでもなればいいのに。

 

「由緒正しきガングニールの少女としてどうなんだろうな」

 

「や、やっぱり似合わないかしら……いやいや! 似合う似合わないの問題じゃないもの! 変装ってそういうものじゃないかしら!?」

 

『リーナの美貌を活かす形ではやはり怪盗ギアが……』

 

「何を言っているんですかシルヴィ!?」

 

『いやいや、ここは巫女服じみた神風怪盗ギアでも用立てれば―――』

 

「キョーコまで!? そんな着せ替え人形じみた事はロストゼロ(?)だけで十分です!!」

 

 嫌じゃないくせに変な所で真面目ぶるから、皆して弄ろうとするということを我がハニーは学習しない。

 まぁそういうところが可愛くて、魅力的なのだが……。

 

 委員長になりきれない委員長タイプと言えばいいのか、遊びに誘えばそれを満喫するのに、遊びたい動機づけに『誘い』が無ければいけないのだろう。

 

 惚気を終えてから再度、仕事に入る。

 

「さて―――確保か、処理か?」

 

『処理で構いません。もう一人、新ソ連の間者。不用心に警戒網に引っ掛かった人間がいるので、そちらは口を利くぐらいのオツムがある様子』

 

「「了解―――」」

 

 リーナと共に発した応答。挟撃の形を取られたコシチェイが、剛腕を振るおうと肉体を倍加させるも、その時には黒鍵が放たれており、同時にリーナもスパークを応用した『超電磁砲』で、黒鍵を打ち出していた。

 

 弾け飛ぶ肉体。しかし、五体の殆どを失っても這いずるような動きを見せるものを見て、刹那は即座に浄化の秘蹟を叩き込む。

 

 

「汝、魂魄無き虚ろの器。カインの末裔。墓なき亡者―――Ein KÖrper(灰は灰に) ist ein KÖrper(塵は塵に)―――!」

 

 投射される魔法陣。同時に十字架―――ホーリーアンクにも似たものがコシチェイの身体に刻まれて―――霞のように消え去る。

 

 血の一筋すら残さず消え去ったことで、そこに人がいたという痕跡は何一つ見えなくなった……。

 

「シルヴィア、状況は―――」

 

『オールクリアー。問題はありません。処理したコシチェイは熱中症辺りで処理しますので、お疲れ様でした二人とも。後の事は私達で何とかしますよ』

 

 この曇天で、そいつは苦しくないかな。と思いつつも、殊更気にすることではない―――いま、気にすべきことはただ一つ!

 

「んじゃUSNAの嘱託魔法師から一高生徒に戻らせてもらう前に一言いいか?」

 

『はい?』

 

「「シルヴィア姉さんとエリカの兄貴はどういう関係なのかを」」

 

『そんな事を気にしていたんですか? 彼、ナオツグ・チバは日本の国防軍における一種の『剣術指南役』ですからね。別に色恋の類があったわけではありませんよ』

 

 要は日米の『軍事交流』の一環で知り合ったらしい。詳しく聞けば、ロウズ少佐とも一戦やり合ったとか……分子ディバイダーは使わなかっただろうが。それなりにやるぐらいには打ちあえたらしい。

 

『まぁあちらが気付かなければ私も素知らぬ顔を通していたんですけどね。挨拶されてしまったので、その場面に彼のステディが現われた。そういうことです』

 

 言っては何だがエリカの兄貴はまだ防衛大学校の二年で今年『ハタチ』。そんなキャリア的にはあり得ないはずなのに、そうやって外国に行かされたりするとはよっぽどの人間なんだなと気付く。

 そうして千葉修次氏の情報を更新しつつ、引継ぎなのか真田と柳という大尉が2人やってきたことでリーナと刹那はお役御免となる。

 

 先程まで修羅場を渡って来たとは思えない図太さで会場内に戻ると大歓声が響いていた。急いで競技種目が見える所まで行くと、どうやら早速もやったようである。

 

「ワタシもミラージに出ていれば、ヴィーナス・フェザー(黄金の天使)で会場を沸かせれたのに」

「飛行魔法ではトーラス・シルバーに先んじられちまったな」

 

 もっとも先発したものが、万人に好まれるとも限らない。マクシミリアン経由で流した自分の術式も人によっては好まれるだろう。

 

「別に評価されたくてやっているわけじゃない。要は宝石代の稼ぎのためさ」

「それでもー! ワタシは……セツナが誰かに認められないのはイヤだもの……」

「ん。ありがとう。けれど俺の過去ぐらい知っているだろう。目立ち過ぎるのも考え物だ」

 

 完全に手遅れながらも、それでもあの時……先生のような苦渋の判断を降させることだけはしたくない。

 

 分かっていたことだ。天文台のカリオンの連中が、いずれは爛熟した……磨かれまくった自分を刈り取りにくることなど……。

 

「セツナ―――その時は、ちゃんとワタシも一緒よ? 絶対一人でいかないでね?」

 

 胸に入り込んできて上目遣いで言ってくるリーナ。不安げな表情をしているのに罪悪感を感じて……。

 

 しばらくは二人っきりで静かに見れるところがいいかな。と思って、強く抱きしめながら移動する。

 人払いの結界を張ってあまりいい席ではないが、それでも誰の眼も無い場所で二人で静かな時間を過ごすことにするのだったが……。

 

 流石に遅すぎるということで、深雪の飛行魔法のお披露目と言う圧倒的イベントの中でも美月以下、何人かは刹那とリーナの姿を探していたらしく。

 

 ご自慢の眼(当人は厭だろうが)で、刹那を見つけた美月が、二人して人目も気にせずイチャついているのを見て、何て友達甲斐のない奴らだと想うのだが……。

 

「いいんじゃねぇの。『所用』が少し厄介だったからだろうしな。深雪さんの方を見ていないわけじゃないぜ」

「そうね。随分と厄介な『所用』だったように見えるわ。二人して疲労していないわけではないわね」

 

 レオとエリカのフォローと同時に美月と幹比古もあえて口を噤んだが、二人の周りに少し宜しくない『サイオン』が漂っているのを見たのだ。

 

 専門用語で言えば『瘴気』『怨念』とでも言うべきものが視えたので、多分……荒事関連なのだろうと察して、ともあれそれ以上は言わないでおくことにしたのだ。

 

 そうして深雪の空中飛行と言う前代未聞の新魔法のお披露目に誰もが眼を釘付けにする中、一人の『狐』が、狂相で深雪を見ていた。

 神々から権能を全て奪っていく人理という忌まわしき『時代』。しかし、あの翼は正しく地に生まれた身で天を冒すあさましきもの。

 鳥を崇めず、天にまします神々に尊重を抱かぬ正しく……おぞましきもの―――。

 

「捻りつぶすのは容易いですが、まぁ今は特に用事は無いですしね。あんな小者娘なんかのために手を下すなど実に時間の無駄」

 

 一瞬、勘付かれそうになったが、それでも再び消え去る狐。その気配を残しつつ、いずれは訪れる厄災の一つとなるときは近いのだった……。

 

 圧倒的な憎悪。

 一瞬だけ感じたのかリーナも、眼をあちこちに向けて先程のプシオンの持ち主を探そうとしたが―――完全に日本という『特異点』からいなくなった……。

 

「キツネかしら?」

「だろうな……まだいやがるのか?」

 

 出てこられたとすれば、『ここ』では近すぎる。しかし……どうやら消え去ったことが分かる。

 

 不味いことばかり起こりそうな予感がしつつも、最初の手勢を始末したことで状況が動いたようだった。

 

 などと、汗を拭いてから皆の所に戻ろうとした時に……。一人の女性が自分達を見ていた。

 主にリーナであったのだが……誰かに似ている。何となく刹那だけは、この時点で『正体』を察しつつも、彼女の第一声を待つ。

 

 待つ前にリーナが、同国人であると思ったのか、英語で話しかけようとした瞬間、放たれるのは―――

 

「J'aimerais des renseignements?」

 

「―――え」

 

 ―――フランス語であった。

 

 何だか気品あるマダム……魔法師相手に年齢を推測するなど無意味だが、若奥さんといった様相のブロンド美人。

 彼女の眼が、刹那とリーナを交互に移りながら、『ど、どうしよう?』という目でこちらを見るリーナに仕方なく刹那はマダムに話しかける。

 

「―――。――――。………」

 

「―――!? ! !―――!!」

 

 文字言語こそ少し怪しいが口頭でのやり取り位は簡単にできる。一応、時計塔での共通言語(コモン)として英語は必須だが、研究課題やフランス圏の人間と交流するうえで、覚えることもあったのだ。

 

 まさか東洋人(フィンランドの血混じり)が、ここまで流暢に話すとは思っていなかったのだろう。

 最初には少しの驚きを浮かべていた。

 

 聞いてみると選手関係者の観客席―――要するに来賓の観覧席はどこかという話であった。

 そこで見ることを許されるとは普通の父兄では無いと察して、それでもそこを問わずにマダムを送り出すべく、端末に位置情報を送るようリーナに頼む。

 

(ねぇセツナ……このマムってもしかして―――)

(答え合わせは後でもいいだろう。今はマダムを観覧席へ)

(ラジャ♪)

 

 そうして人助けを終えると同時に、目の前のマダムは―――。

 

「アリガトウございますネ。せつなクン、リーナちゃん。アイリにシオリちゃん達以外のお友達が出来て嬉しかったのですヨ。もちろん―――せつなクンが望むならば……そこから先はアイリの努力次第ですネー、それでは、オ・ルヴォワール(au revoir)♪」

 

 それなりに流暢な日本語……ちょっとイントネーションが怪しいが、それで返されて担がれていたことを覚える。まぁ道に迷っていたのは事実なのかもしれないが……。

 

 ともあれ自分達の目の前から去っていくマダム・イッシキに『また会いましょう』と言われて、また会うんかい。と少し苦い顔をせざるをえない。

 

「どうにも……よそのお父さんやお母さんと会うってのは、苦手だな……」

「ちゃんとシアトルのパパとママに挨拶しにいくの! それだけは最優先事項よ!」

 

 なんでみずほ先生風? などと思っていると件の人物の関係者―――、一色愛梨の出番となる。

 

 第二試合を沸かせた深雪に続いて出た一色愛梨の姿に観客もヒートアップ。今さらな話であるのだが、衣装が各校で違うのだなと感じる。

 

「前年度まではI/K(石田可奈)っていうデザイナーが、何というか……バタ臭い魔法少女的衣装でやっていたんだけど、今年度からはM/Y(森夕)っていうデザイナーの衣装からセレクトして、その上で各校のイメージカラーをオーダー出来ていたんだって」

 

「成程」

 

 バレリーナ・エトワールのような衣装を思わせつつも、どことなくキュートさを感じるのも分かる。

 ドレッシーな意匠に印象をあげないものが、デザイナーとしての格を知らせてくる。

 

 ともあれ、愛梨が持つ杖―――それが、白鳥の湖を思わせるエトワールを発現させるまで時間はかからない。

 

 ―――ゆくぞ! アイリ(奏者)!! 限定転身しているとはいえ、カレイドの力は十全だ!!!―――

 

 ―――ええ、アナタの力を貸してインペリウム!! そして『この世ならざる幻馬』をここに!! 騎士ブラダマンテ!!!―――

 

 想像であるが、そんな会話をしているだろう一色愛梨を想像してから、彼女のやろうとしていることを推測。

 

 もはや飛行魔法が披露された以上、出し惜しむなど愚の骨頂だろう。 

 そうして、第一ピリオドから、その背中に翼を生やしたエクレール・アイリの姿に誰もが驚く。

 

 その翼の色は―――金と灰―――。二枚羽の戦乙女が現われたのだった。そして、第二試合の第三ピリオドの焼き直し……というよりも、それよりも激しい空中戦が披露された。

 杖をサーベルに、預けられし翼を大空を逝く脚として、天の御使い(アンジェロ)のごとき様で以て、エクレール・アイリは、パーフェクトゲームを演じるのだった。

 

 誰もが熱狂し、驚愕するほどに容赦のない神罰を降す系統の天使は―――光球を全てを撃ち落とし終えると、与えられた御坐にて羽を休めて、剣を杖に身を休めるかのような様で以て試合を締めくくった。

 

「まさか現代魔法に『落としこんだ』フェザーを使うとは、少しばかり工夫してきたわね」

「灰の羽は、ヒポグリフのもの。昨日、成功したとおりだったが……やれやれ、努力家すぎるな。アイリ」

 

 そんな一色愛梨に対する感想を出しあっていると、こちらからは分かるが、あちらからは分かること稀なはずなのに……観客の歓声に手を振って応えていたアイリが、どうやってかこちらに気付き、指を唇に当ててウインクと共に投げ出してきた。

 

 そのジェスチャーの意味はただ一つ。投げキッスである!! その向けられた方向で男共が「俺だ俺だ俺だ!!」の大合唱。アホばかりである。

 

 そんな中、一色の視線とプシオンの方向と方角とを計算すると言うある意味、『キモい行い』をしてくれた人間の一人が仰角云々、プシオン圧力で自分の方向を計算しようとしているのを見てそそくさと退散しようとしたのだが――――。

 

「ウチの一色の女意気を無下にするなんて、それは無いんじゃないかな? 刹那」

「マサキの言う通り、ここは一つ、魔法科高校全男子の嫉妬の想いを受け取るべきでしょう」

「ということなのじゃ♪ あきらめて愛梨の愛を受け取るがいい!!」

 

 四面楚歌とは、このことか。項羽将軍の気持ちが分かる。例え韓信の策略かもしれないと分かっていても、それは多くの兵を離間させるに、正しく効果的な行いだ。

 

 いやそうではなくて、いつの間にか、ここに三高エース陣がやってきて、刹那の周りを取り囲んでいる現状。おのれマサキリト!! カーディナル!! トウコ!!! 

 

 このような状況では動くに動けない。当たらなければどうということはない。とかいうレベルではなかった。

 というか肩に手を回すんじゃないと言いたくなる。そういうキャラだっけか? と言いたくなる一条将輝の行いで。

 

『『『ト、トオサカァアアアアア!!!』』』

 

 などという怨嗟の声が届くのだった。勘弁してくれと思っていると、将輝が声を掛けてくる。

 

「お前には一色の仕立てをしてくれて感謝している。悪いが本戦ミラージは『三高』(ウチ)がもらった!!!」

 

 自信満々に言うマサキリトの言葉―――三高エース陣がこちらを見てくる様子と、緊急コールで呼び出しがかかっている自分とリーナを見て、優位性を感じているのだろうが……。

 

「そいつはいいんだがな。一条―――アイリが本戦ミラージを優勝するということは……必然的に、深雪が負けるということなんだぞ?」

 

 リーナと共に人差し指を差して、呪いでも撃つかのように一条に言う。

 

 沈黙―――十秒ほどして―――真顔から驚愕した顔に変化するイケメン君。

 

「し、しまったああああああああ!!!! な、なんてこったあああああああ!!!! 一色が勝てば俺の女神、司波深雪さんが女神の地位をはく奪されて、かといって一色が負けると三高の勝ち点が減る!! ど、どうすればいいんだぁあああ!!!」

 

 雷にでも撃たれたかのように今さらな事実に慄く一条将輝。手を戦慄かせて、こいつに選択権があることなのかと思うも脱出の機会を得た。

 

「アホか―!!! 当たり前の如く愛梨を応援せんかぁ!! 九校戦(グラウンド)に恋愛持ち込むな!!!」

「いやだ!! スポーツと恋愛は切っても切れない!! あだち〇先生の作品に倣うべきなんだ!!」

「だとしても三高は劣勢なんだから一色さんを応援しろよマサキ!! 司波深雪が完全に呂布を惑わす貂蝉。曹操を惑わす未亡人のごとくなっている!!」

 

 深雪に対する過大な評価を後ろに聞きながらも一高設営のテントに赴くべく走る。

 今回ばかりは親分の鉄拳制裁か、達也辺りから投げ飛ばされるかも……どっかの『世界線』(カッティング)の『CAD検査委員』の如くと感じつつも、歩みは止まらず向かうのだった。

 

 


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