魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
お気に入り100人突破ありがとうございました。
そして、投稿した日は逆光の発売日―――フライングでゲットした人達―――実に羨ましいぞ(泣)
回復と戦跡後の修復が終わると同時に、動き出したスターズの隊員たち。あるものは用意されていた車で、あるものは徒歩などを使って―――現場へと急行した。
ウインスロップ―――ディア島。様々な曰くつきの場所の近く―――近くには『魔女裁判』で有名な『セイレム』まであるこの近くにてヘヴィ・メタル・バーストという戦略級魔法が使われたことは間違いなかった。
しかし、荒れ狂う雷雲の限りを見て、少しの観念を覚えた者達。歓喜を覚えた者達、慚愧に覚える者――――。全てが、次の瞬間には違った意味で震えた。
突如の砲撃。艦砲の音を聞いたものたちは何故に―――。と思う。
21世紀、否、20世紀末期の頃には既に時代遅れの『廃物』として軍人達には認識されたそれが、火を噴くなど22世紀を迎えようとしている自分達に、『先祖返り』を強要するようなもの。
空中に浮遊している鉄の船は何の冗談だと思う。それよりもアビゲイルからの連絡で砲撃されたのがリーナと刹那が乗っていたクルーザーであることが全員を戦慄させた。
「そんな……シールズ准尉!! アンジェリーナ!!!」
出会って日が浅いとはいえ、少しだけ情を寄せられる存在に思えた少女を呼びかけるシルヴィア。だがセツナ・トオサカの手際を知っているだけに―――ベンジャミンは何も心配せず。
ぶおん! そんな風の音で気付くと目を向けたそこにはリーナを抱きあげているセツナの姿が――――。
「リーナ!!」
「大丈夫です。けどセツナ今のは―――」
「簡単に言えば『転移』。やり方は秘密だ」
言いながら港の岸壁から見上げる鉄の船は――――実に圧巻であったが、趣味の悪い代物だと刹那は思う。
空は死後の魂を運ぶものたちの領域―――鳥たちの生きる『大地』である。そんな所を我がもので制するなど神々の神器や神獣であれば、いざ知らず―――。
そんな風に考えているとオニキスが、疑問を投げかけていた。
『さてと……次弾を撃ってこないね――――ミスター、連中の狙いは分かるかな?』
「恐らくだが当初は、セツナ君を狙って動いていたはずだ。魔法怪盗プリズマ『キッド』は、彼らにとっても知りたい存在だろうからな」
『そこにリーナ嬢の戦略級魔法が放たれて、少し戸惑いつつも更に言えば『消耗』していたはずのキミたちが全快で港に押しかけてきて、さてどうしたものか―――というところかな?』
カノープス少佐の推論に対して補足すると納得できる理屈であった―――しかし、突入作戦は無理だろう。
張られている障壁の数は対『軍』クラスの城壁―――どれだけの『魔法師』で運用しているのやら―――。
「『ブルー』辺りだったら魔弾をぶっ放して、落ちろやオラ-、とか言ってきそうだけど……」
『人間戦艦だからね彼女。人体に無害なローエングリンです。とか言いそうだ……さて、それで刹那。君ならば同じ『魔法使い』としてどうする?』
嫌味な質問である。オニキスは――――ここで脅しをかける為にもリーナ以上の『魔法』を見せろと言っている。
しかし―――、それをすれば……。
(乗船員は皆殺しだろうな……それだけはしたくない)
何より、今日は彼女の『デビューライブ』も同然。
姫だきをしていたリーナを地面に下してから、嘆息一つ。あちらの決意が定まる前に―――こちらから引導を渡してやる。
ただ……何というか―――。
「もうちょっと武器っぽい外見にならないかなぁ……」
『およそ万能な私であっても創造主たる偉大なる『魔法使い』の基礎設計には逆らえないのさ。さぁ―――今こそ合体の時だ刹那。君の『バグった』性能を如何なく発揮したまえ。気分はバグルオー♪』
嘆きながら―――余人には、何かの棍棒。有体に言えば巨大な宝石で出来た外連味たっぷりの『剣』を懐より取り出して起動させる。
光り輝く剣と共鳴するカレイドステッキ。
そして一瞬の強烈な閃光の後に―――スターズ隊員の眼に入ったのは、弓?大砲?鳥?―――何とも言えない『黒い』武器―――装飾たっぷりな得物を握りしめた刹那の姿であり。
きっと分からないことではある。しかしながら分かるものには分かる。全ての力を超えた『奇跡』―――
―――
『コンパクトフルオープン、鏡界回廊最大展開―――オールライト! いけるぞ!!!』
「出来れば使いたくなかった―――カレイドアロー、魔力最大装填!!」
言いながら左右に張り出した翼の翼端から張り出している弓弦を引っ張る刹那。ベンジャミンが、全員に即時の退避を命じる。そのぐらい強烈なサイオンとプシオンが刹那の周囲で荒れ狂う。
その嵐の中にただ一人佇む―――刹那は何者なのか―――しかし、とんでもないことが起こるだろう高揚感と期待感が疼く。
「セツナ―――」
「リーナ、今は離れるんですよ!!」
あれだけの強烈な力の発露。浮遊する新ソ連の戦艦にも見えたはずだ。であれば次なる行動は―――『脅威の排除』だ。
明確なまでの敵意と殺意―――上空500mでも感じるそれを前にしての魔力の嵐―――だ。砲撃が火を噴く。
古めかしい『舷側』からの一斉射撃―――。40発を超える砲弾の全てが――――。煌めく『星』によって掻き消えた。
驚く新ソ連海軍の面子。『星』が何であるかは分からぬが、何かの『魔法』かのように光が迎撃して―――着弾はおろか爆発も無く―――。
嵐の中から光が輝くのを見た。嵐の向こう側にいると叫ぶかのように―――絶望の畔に立とうと、その眼が撃ち抜くは―――。
『確実な照準だ。うちたまえ!!』
「全力射撃、まとめて吹きとべぇ!!!!」
―――選べなかった『未来』だとしても受け入れて『進んでいく』。その眼が、撃ち抜くは―――『定まった未来』。
弓弦を刹那が離した瞬間―――『弓の大砲』としかいえない『砲口』から極大の光が放たれ、上空に照準を向けていた刹那の眼の先にあった浮遊戦艦を射抜いた。
光に包まれて溶融を容赦なく強要される戦艦。障壁など紙も同然に引き裂かれ―――。
圧縮された魔力弾と魔力光線の束ねが上空の戦艦を吹き飛ばして、成層圏を抜けていかんとするまで―――光の大柱が三十秒間はたっぷり作られた。
魔女裁判で有名なセイレム周辺に現れたその光の柱は―――、住民たちを驚かせて―――世界の全てを振るわせて、合衆国から遥か『極東』のものたちにまで不意の『励起』を強要した。
『わたしはここにいる』
そう叫ぶかのようなまさしく―――悲しき咆哮があったのだから―――。
射撃のフォームを終えて一息つく刹那。港の殆どの路面がめくり上がるほどの威力と復旧作業に時間が掛かりそうな破壊の惨状。
光で消え去った浮遊戦艦。その消滅の瞬間を見ていた全員が、戦略級魔法の威力を見る。
あれは恐らく上空に居たからこその『収束』であり、かつ障壁があったからこその『集束』。
もしも海上にいる艦隊に使用するならば―――それは――――破滅的な結果をもたらす。
何人かが、純粋な『魔力』のみで、ここまでの『破壊力』を発揮できることに―――恐怖して、同時に現代における『魔法力』というものの
そんな中――――。
「セツナ!!!」
沈黙を破り、『境界』を超えるかのように、向こう側へと走る。
眩し過ぎるほどの力であり嵐の向こう側へと向かう。恐怖を振り切るかのように、その叫びに答えるかのように―――。
遠雷のように答えたリーナの声が、刹那を気付かせて―――胸に飛び込んできたリーナを受け止めた。
「―――せっかくの「パンプス」が台無しだぞ。こんな悪路を歩くなよ」
「こんな『ぬかるんだ道』にしたあなたのせい―――だから、お互い『泥だらけ』になるのは仕方ないわ」
今さらながら、あの魔法少女だか美少女魔法戦士の衣装のままで、あの魔法を放ったのだったと気付きながら―――。
その顔を見る。何故かその顔を見つめることを
その顔に見る。何故かその顔に見つめられるのを
ここまでがんばってきた彼女にとって手に入れたもの―――『至上の宝』であるかのように見つめられて、何故そのような顔をするのだろうと思いながら、自分もそのような顔をしているのだとリーナの瞳に映る自分の姿を見て気付いた。
まだ出会って一か月も経っていないというのに―――。
その金色の髪、ブルーアイズの輝きの中で整えられた少女に―――。ここまで『心』を動かされるのか――――。
などと考えていたところ、両者の肩が掴まれて―――シルヴィア少尉がリーナを、カノープス少佐が刹那をといった塩梅。
キャピレット家とモンタギュー家の引き裂きのように―――離れ離れとなってしまった。
「准尉のプライベートにあれこれ言いたいわけではないが―――まぁ少し待ってくれ」
「は、はい」
リーナの恐縮しまくった返事。まぁTPOを弁えないものであったのは確かだ。カノープス少佐の次は―――。
「セツナくんも、あんまり女の子に気軽に触れない! セクハラですよ!!」
「申し訳ない限り―――」
なんだかフェミニズム溢れるとまではいかないが、少しだけ怒っている風のシルヴィア少尉に刹那も縮こまるのみだ。
そうしているとカノープス少佐が口を開く。どこか緊張した面持ちを感じる。
「――――我々の上官が君に会いたいそうだ。ご同行願えるかな?」
「それに関しては願ったり叶ったりですが―――その前に『要救助者』を助けましょう」
カノープス少佐―――後にベンジャミン・ロウズという名前が判明する軍人に言われて、言い返すと呆然とした様子。
どうやらあの魔法の効果が伝わっていないようだ。誰かしらサーチでもしていると思っていたのだが―――。
『簡単に言えばカレイドアローの魔力は、『無機物』のみを破壊するものであって、高度3000フィートから投げ出されたとしても『生物』であるなら、どうあっても死なないんだなぁこれが―――まぁ余波で気絶ぐらいはしているし、装備次第では『沈む可能性』もあるが、とりあえず助け出せるのは助けようか。性根の正しさに期待するよ』
オニキスの端的な―――かつ『非常識』な説明を受けた後、スターズの面々は探索系の『魔法』で海上にいる新ソ連の軍人達がぷかぷか浮かんでいることを知る。
更に言えば魔力障壁で魚一匹、クラゲ一匹すら近寄れない状態。
カレイドの魔力は、彼らにあらかじめ『浮き輪』を与えていたようだ。全員、気絶しながらもとりあえず生体反応があることを知り、地元警察などにあれこれ探られる前に彼らの身柄全てを取り押さえることとなった。
今宵、USNAの精鋭魔法師部隊スターズの活動は『人命救助』ということで幕を引き―――そして物語は新たなる局面へと移るのだった……。
それはUSNAにとって未知との遭遇というSFのごとく。異世界の魔法使いとのファーストコンタクトといえるものであった―――。
そしてまた極東においても―――『魔法使い』の叫びを聞いたものたちが、何事かと動き始めるのであった……。
これにてプロローグは終り、二話程度のUSNA編を経てようやく第一巻の内容へと進むかと思われます。
展開遅くて申し訳ありませんでした。