魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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な、なげぇ。カウレス君(偽)の説明を引用したとはいえ、すっごい長くなってしまった。

そして九校戦も長い……早く夏休み編(劇場版+)をやりたい。

時間を巻き戻せればなぁと思う平成が終わりそうな今日この頃。

新話をお送りします。


第96話『九校戦――時の魔法(偽)』

 ―――Interlude―――。

 

 

「単純なサイオンによる領域干渉程度でしかなければ、君ら2人でも問題なく用立てられるが、更なる問題は―――ズバリ言えば、この魔法だ」

 

 第六試合。凡そ最後に行われたミラージの本予選の中で、もはや試合は終了も間際―――ワンサイドのパーフェクトゲームで終わらせようと言う恐ろしい目論見が出そうだったのだが、大会委員からの意地腐れな光球の出現位置。

 

 これに他の高校が飛びついた。だが―――完全に反対側に陣取り蝶の羽を休ませていたイリヤにはまず取れない場所……物理的限界を超えた位置に対して、何かの魔法が発動。

 四つの魔法陣が、イリヤの周囲に現れて―――そして『加速』を果たして光球を叩いた。周囲はまるで狐に抓まれたかのような静けさである。

 

 モニターに映っていたものを見ていた人間たちも沈黙。当然だ。こんな加速は得てしてあり得ないからだ……。

 

「物体……及び生体の『加速』『移動』というものを論じる時に、『外側』(すはだ)にかかる圧力のみが論じられる。無論、そこから内側(ないぞう)にかかる負担もあり得るだろうが、原則を申せば、ベクトルが掛けられるのは外側だけだな」

 

「……もしも移動魔法がとんでも無ければ、心臓や血管の一つでも意図的に暴走させればいいだけだからね。それが容易に出来ないからこそ将輝の『爆裂』のように、『あれこれ』と術式があるわけだよ」

 

「魔法師にはある程度のレジストスキルとして意図せずとも出る『想子障壁』が出来上がる。これらが強ければ強いほど相手からの『圧力』を減じられるわけだ―――常識だろう?」

 

「田舎モンなんで申し訳ないね」

 

 三高の2人からの指摘におどけて応えてから、その常識が崩されるような理屈が申される。

 

「相手からの圧にせよ。己にかかる圧にせよ。魔法師の肉体は、簡単に『内側』(ないぞう)にすり抜けない様に出来ている……しかし、この女がやったことは、ただ一つ。己の全てを加速させた」

 

「全て―――ですか? もしかしてそれが『クロノスローズ』の正体……」

 

 

 マジックフェンシング競技における先輩後輩……己の先達の奥義の正体を掴めると思って立ち上がる愛梨に対して、正体を告げる。

 

「簡単に言えば時間の操作。限定された空間における『時間の加速』。肉体を『物理運動』で加速させているのではなく、『時間流の操作』で『加速』させているんだ」

 

『『『なっ!!!!???』』』

 

 全員……リーナを除いてだが、顔を驚愕させている。一高が誇る鉄面皮ボーイ(最近あやしい)たる達也ですら、眼を思いっきり見開いて驚きを表現しているのだ。

 

 予想外というほどではないが、まさかの「時間(とき)」の操作である。大なり小なりのエイドス改変を主とする魔法にとって、時間の経過は『結果』で示しているのだから。

 

 氷の弾丸を作るという作業にせよ、炎と氷の領域を分けて発生させる術も、全ては己の魔法で現象にかかるもの、費用、人員、『時間』全てを「スキップ」させたことで出来上げる『結果』でしかない。

 時間をかければ現代技術(テクノロジー)で似たような現象は発生させられる。それを一瞬で用立てられる人間が魔法師であり、魔法師と言う名の世界全てをイカサマにかける詐欺師なのである。

 

 だが……この女の魔法は、『己の時間』を『操作』した結果で現代魔法の詐欺(イカサマ)を更に超えてきたのだ。

 現代魔法師と言う『シロサギ』を食らう『クロサギ』も同然であるのだから……驚愕もひとしおというものだ。

 

「質問なんだが、刹那。何故『時間操作』だと気付けたんだ?」

 

「ページ462を参照――――そこに書いてあるからさ」

 

 言葉で何のことだか―――と思っていた面子の中から四十九院沓子が、エルメロイレッスンの教科書に魔力を通して462頁を開いた。

 

空間時流制御(タイム・オルタレイション)……」

 

 その表題を読み上げたあとの沓子のテキストの音読によって、全員が脅威を認識していく。つまりは―――本当に『時間を制御』しているのだ……。

 

 そんな時間制御が、モニターにおけるチートのような……いわゆるどこぞの『デスラ―総統声のゲームプログラマー』が使うオーバーアシストのように働くならば、単純な飛行の『速度アップ』ではどうしようもない気がする。

 ちなみに一番、危機感を持っているのがマサキリトだったりする……。きっと前世の因縁なのだろう。

 

「け、けれど! 深雪や一色さんだって飛行魔法に何かの加速や移動魔法を重ね掛けすれば、達也さん! 無理じゃないでしょう!?」

 

「……やろうと思えばやれなくもないが、現代魔法の重ね掛けでは、破綻する可能性が高いな……」

 

「そんな……」

 

 光井の必死な訴えに、無常な言葉を掛ける達也―――技術者としてそこは誤魔化さない態度だが……『ペテン』に気付いたものが、何人かいる。

 

 結構、こういう時の達也はいじめっ子な面があると思うものが多い。言葉尻ではあるが、そこに気付かぬほどに光井は達也に依存しているのだ。

 

 最も、達也を疑うと言う行為をしている自分達が言えた義理ではないのだが……。

 

「落ち着いてほのか。お兄様はまだ結論を出しきっていないわ―――そして人が悪いですよ。お兄様」

「たまには刹那みたいな言い回しもやってみたかったんでな」

 

 自分を例に出された刹那としては、『べっ』とでも擬音が付きそうな舌出しをして達也のからかいに対抗。

 

 してから、対抗策は、あるのだ。と告げる。

 

「ようは「トウコ」と同じようなことをすればいいだけだ」

 

「なんとワシが勝利の鍵になるとは、つまり『SB魔法』に訴えるということだの!?」

 

『ザッツライト』

 

 世の中広いものであり、系統魔法の重複が術式の混線を生み出して定義破綻を起こす一方で、それらの術理に囚われぬ魔法もある。

 

『独立した情報体』という定義づけがされたものを使ったりすることで、イリヤ・リズの『時間加速』に対抗する。

 

「ただこのタイム・オルタレイション―――固有時制御というのは詳しい説明を省くが、一時の加速の後に術が解除されてしまえば、元の時間流に己の身体が戻される―――ありえざる心筋の加速が容易く肉体的ダメージを苛む」

 

「リスクがあったとしても、ここまでの加速をするならば……それは(ただ)しく正道の王道ですよ」

 

「感心しているだけじゃダメだ。ヒポグリフもまた『時間』を超える『幻馬』。その適性を出させてやるさ。

 達也と吉祥寺と栞は悪いが、紙に書きだしといたこの仕様で飛行魔法の術式を改変しといてくれ」

 

「マクシミリアンのフェザーとトーラス・シルバーの『フライ』の改変か、分かった。他にあるか?」

 

「あの桜色の杖だが借り受けられないか? つーか深雪に使わせろ」

 

「構わないぞ。ある人の形見なんで、大事に使ってくれ。そして深雪の勝利に役立ててくれ」

 

 矢継ぎ早の指示に全員があわただしく動き始める。そして、受け答えする達也は既に動き出している。この戦い。たった一人では勝てまい。

 受け取った杖に『覚えのある魔力』を感じて、その『正体』も分かったが―――何故、ここに……この『魔力』があるのか、少しばかり分からなかった。

 

「それにしても、何というか随分と尖った戦いになってきたよね……まぁ勝つ為ならば道具に拘るのは仕方ないんだけど」

 

 その言葉を出したのは、最近影が薄かった『春日菜々美』である。彼女もクラウドで達也の補助を受けていれば、という思いが強いのだろう。

 それゆえの小さな恨み言の類であると分かっていても、何となく言っておく。

 

「俺の生家―――オヤジの方の格言なんだがな。魔術師というものは己が最強である必要なんて無いんだ。イメージするのは常に最強の存在。それをトレースする」

「つまり?」

「最強たるものを()び出すか、己の魔法(わざ)で最強のモノをつくりあげればいいんだ―――」

 

 言葉の最後で、どこからか出した『白い鷹』を腕に止まらせて、杖の変形とも言える『剣』をその手に握る刹那の表情は、実に魔道の真髄に迫ったものゆえの表情であった……。

 

 

 ―――Interlude out―――。

 

 

 やはり使ってきた『タイム・アルター』の力に深雪と愛梨は驚愕する。本当に一高(三高)と共同戦線を張らなければ、この女のワンサイドゲームで終わっていただろう。

 

 だが対策はある。この女が現在時制から未来時制に飛ぶと言うのならば、それを食い止める。そうすることで、こちらの土俵に追い込むだけだ。

 

 

「長い休憩中―――、一高のテントに行ってまで、いい策はあったのかしらアイリ? まぁ力不足に授ける策があるとは思えないけど」

 

「傲慢ですね。伊里谷理珠。その微笑み―――」

 

「消し去ってくれますよ!! 先輩!!」

 

 三者の言葉の応酬。言いながらも浮遊したままの妖精たちが、次なる光球を狙うべく眼を凝らす。

 

 凝らしながら、一高と三高の選手は杖を持ち集中する。長くは無い集中だが、それでも魔法が結集するまで時間がかかるものを、この土壇場でも発揮できる二人は天才の類だ。

 

 その魔力の動きを見たリズは『へぇ』と感心する。どうやら、少ない時間で刹那及び両陣営は何かしらを用立てたようだ。

 

 だが、それでも自分の能力に勝てるわけがない。この心筋の強さと身体の頑健さ……。母―――イリヤスフィールが聖杯戦争後にも現界させていたヘラクレス。

 そこから流れ込んできた『半神半人』の要素―――ホムンクルスと人間のハーフとして聖杯と化された母と人の生の極み、抑止の守護者にも至れた父―――『衛宮士郎』と、あらゆるものが流れ込んでいる我が身を哀れんだことなど無い。

 

(父や祖父と同じく―――私も多くの嘆きを救いたかった。多くの人々を―――天秤など持たずとも、為せるだけのことをしたかった……)

 

 しかし、遂に二つの『キョウカイ』の追っ手が自分を害そうとした時、多くの『奇跡』で私は『ここ』に飛ばされた。

 

 その意味は違えていない。この世界は『あり得ざる歴史』だ。剪定事象というほどではないが、いつ、どんなバランスで崩れてもおかしくない『異聞史』……。

 

 ならば、現れるのだ。そして現れた……まさか新興国であるアメリカに現れるとは思っていなかったが……ともあれ―――。

 

(今は、そんなことは関係ないわね―――私を受け入れてくれた四高。そして九大竜王の創始者の一人としても、この戦いは勝つ!!)

 

 次から次へと現れる光球。弓でも使えれば一瞬だが、そんなことはまず無理なので―――高速の飛翔。気流の乱流すら起こして司波深雪と一色愛梨を封じようとした瞬間。

 

 二人が追随する様が見えた。今は固有時制御を使っていないので、単純なスピード勝負。しかし、あくまで自分の得物を狙おうと言う態度。

 

 対抗しようと言う様があまりにも不遜であった。

 

 光球を何個か落としあう三者。この第一ピリオドでの勝負を捨て去ることもあり得るだろう。

 だが、あくまで二人はリズに対抗してくる様子だ。

 

 

「優雅には程遠いわね。エクレールの名が泣くわよ!」

「稲妻は、そこまで優雅ではないです! ゼウスの雷霆に代表されるように神罰の類なのですからね!!」

 

 一番、リズにとって納得してしまう理屈を言われて少しばかりスピードが緩むも―――それならば、容赦なく『クロノス』の力を使って叩き落とす。

 

「Time Alter―――Double Accel」

 

 

 二倍速の術式を展開―――慮外の動きで飛行の全てが未来時制に向けられた時に、二人の魔法師は来たと思って秘策を解き放つ。

 

 この女が未来に飛ぶと言うのならば、その動きを―――『現在』に『縫い付ける』。

 

 ヒポグリフの羽―――緑色のオーラを纏った様子に精霊の輝きを見た何人か―――その羽を盛大な羽ばたきで落としていき干渉。

 

(フェザーでこちらを攻撃するのは反則よ?)

 

 当然分かっているはず。つまりは―――式に対する干渉。確かにヒポグリフの羽を用いれば、『次元跳躍』する幻獣の性質を叩き込まれて制御は完全に無くなるかもしれない。

 

 しかし、現在に縫い付ける縁が無ければ―――、羽は『世界の修正』を受けて世界から消え去る。

 

 つまらない手を使ったものだ。結局、強い神秘で弱い神秘を打ち消す。それだけのようだ……。それをするには手札が足りなかった―――という印象を、掻き消される。

 

 その時、伊里谷理珠にとって敵としていたのは、カレイドステッキを用いて戦うエクレール・アイリだけであり、スノーに対してなど眼中になかったのだ。

 

 例え、彼女が『四葉』の魔法師であろうと変わらぬ。

 この世界で『最強』なのは『カウンター・カウンター・ガーディアン』のスペックを引き継いだ自分か、刹那()だけだ。

 

 だからこそ―――その陥穽を突いて、イリヤ・リズの世界が『固定』された。

 

(アルターが―――発動しない!?)

 

 鳥の羽と桜色の花弁が舞い散るセカイを作り上げた二人の魔法師―――良く視れば、司波深雪の背中からは桜色の花弁を纏めたらしき羽根が作られていた……。それは決して飛行の為に必要なものではないが、それでも己に羽根が付いていることが、どことなく誇らしく思える深雪。

 

(穂波さん……あなたのキセキをお借りします!!)

 

 幻想的な世界。夜空の月光の下、季節外れの桜密月と渡り鳥の羽ばたきが彩りを見せるのだった。

 

 

「面白いわ。その強烈な対抗魔法―――どこまで持つかしら?」

 

 

 その言葉で蝶の羽を一層震わせて、幻想の光を輝かすティターニアが、誅罰を加えるかのように飛翔してくる。

 

 しかし、時間加速が無くなれば、あとは地力の勝負だ。ようやく飛行魔法と言う領域の『盤上』を互先にして、戦い合う三人に負けじと他の妖精たちも飛翔を再開して光球を落としていく。

 

 第一ピリオドは、伊里谷理珠のリードで終わったが、第二・第三ピリオドに他選手の奮闘への期待を持たせる終わり方だった。戦いの火ぶたが切られるまでの休息を行うことになるのだった……。

 

 

 † † †

 

 

 未来視と過去視―――。魔術の領域であり魔眼の一種でもあるこれらは、正しく『時間』に付随する能力である。

 

 この二つ。特に未来視には『予測』と『測定』の二種類がある。

 予測は、その通りに『想像力』の世界である。しかし、その『想像力』が現実に結集してしまうのが、恐ろしい能力である。

 

 現在の九校戦の会場。この満員御礼のミラージ・バットの会場で、どこそこの工作員……強化された魔法師が一般人を襲うために起動する。

 こんなことを『想像』してしまい、現実に起こる。この未来予測を出来る人間は、この会場内の全てを『脳内』で演算している。

 

 例えば、達也の匂いに一種の香水があるところから、深雪とあのコスチュームで抱き合っていたなとか、いたいいたい! レオがトウコを膝の上に乗せて観戦している様子にエリカが若干、不機嫌気味とか、いてててて!!! と! 一見すれば全く以て関係の無い世界の情報全てを記憶・演算。

 その精度がとてつもない。

 他人、遠近に関わらない人間のコンマ一秒ずつの瞳の動き。体臭の変化、明滅するスタンドライトの光量と、黒雲が差して見える夜空の変化の一枚一枚を記憶して、その上で『未来』を計算している。

 

 無論、こんなことを意識してやれる奴がいたらば脳外科に行くか、さっさと封印することをお薦めする。なんせこんなの無意識下でやったって脳が焼き付く。人間としてのフォーマットを逸脱しているからな。

 

 

「予測は概ね分かった。ならば測定はなんだ?」

 

 

 はい。定型通りの質問ありがとうございます達也君。

 

『予測』が『受動・防衛的』な能力であるならば、『測定』に関しては、より『攻撃的』な能力といってもいいです。

 

 予測は過去から現在までのあらゆるデータを記憶し、未来の可能性を演算するものだと話しました。対して、測定はどの未来のルートに行くか、ひとまず自分が決めてしまう。

 

 決めることによって他人の選択肢を『限定』する。ここにリーナの頬があり、その左右どちらを撫でてあげようかという選択肢みたいなものだよ。

 

 

両方(BOTH)と言う選択肢もあるわよ!」

 

「勢いごんで言わんでも……」

 

 ああ、そいつは魅力的な選択肢だが、今は置いておくとしてもその右か左かでリーナの周りに何かの影響がある。右隣にいる雫が険悪な目で見たり、リーナが左手に持っているカップジュースの位置が変更されるわな。

 

 結果として、周囲の反応や行動まで縛りつけてしまう。測定という意味は、自分から手を出して未来を決定するからだ。

 理屈の上では測定は精度において予測を超える。

 自分が居合わせる場所の『未来(さき)』しか視えないが、測定が決定してしまえば、その『未来(さき)』が固定されてしまう。

 

 ――――未来を限定する効果はより決定的とも言える。

 

 刹那の締めの言葉で、全員の背中に冷や汗が奔っただろう。

 

 未来を固定する。そんな事が出来る人間ならば、確かに思い通りに生きられるかもしれない。

 

 だが、それは人間全ての『努力』の有無を正しく否定する行為だ。

『パンドラの箱』に残された最後の希望……そう、『未来は定まっている』という『厄災』が解放されてしまっている人間なのだろう。

 

 

「そして、過去視に関してだが『測定』と『予測』に殆ど違いは無いんだ。まぁ中には、『望んだ過去』を『ピンで留めて』『浮かび上がらせる』というとんでもないものもあるがな」

 

「で、これが一色と司波さんの魔法のトリックにどう繋がるんだ?」

 

「リーナ、よろしく」

 

 思案顔で質問してきた、実にイケメンポーズが似合う一条将輝に対して、刹那はリーナにあることをさせる。その時に、リーナは電子ペーパーの類だろうが、その巨大版になるように表示される端末を頭より上まで掲げた。

 まるで格闘技におけるプラカードを持つラウンドガールのようなポーズだが、映し出されたものは中々に興味深いものだ。

 

『未来』と書かれた章段から樹形図―――少し複雑なものが、『現在』にまで伸びて、『現在』から砂粒のように黒い点が落ちていく先は『過去』

 

 時間の漏斗……そう言えるかもしれないものがあった。

 

「簡単に言うが、宇宙のエントロピーと同じく時間というものは『一方通行』だ。即ち、一粒ずつ、未来から現代に滑り落ちた砂粒が、過去の山へ落ちていく。

 時間もある種のベクトルを持って絶えず変化をしているということが分かる」

 

 言葉と同時に刹那は、手に持っていた砂時計を一方に落としていく。

 その様子は、刹那が何かをしなければ、そのまま流れ落ちるままだ。

 

「イリヤ・リズの時間加速を止めるには、このベクトルを止める必要性がある。砂時計の『外側』にいる俺ならば、簡単にこれをとめることは出来る。

 これが密閉型でなくて古めかしい板式のものであれば、更に止め板で塞げばいいだけ。落砂をな」

 

「深雪たちは、この砂時計の中にいる。砂時計の中にいるものが―――時間の流れ―――加速を止めるには……砂時計の口を手で止める?」

 

「そう。仮にこの砂時計の中がミラージのフィールドだとして、その中にいる深雪たちが砂を積極的に落としていくリズを止めたければ、何かしかの方法で加速を止めるしかなかった。

 その方策として……詳しく説明すると面倒だが、ヒポグリフという『現在時制』にしか存在しないものを使って『領域干渉』をして、深雪が持つ杖から出る桜色の花弁……あの時、ピラーズのペアバトルでやってくれた『魔法』の二重の『領域干渉』で、『現在時制』に『固定』させたんだ」

 

「なんだか随分と『ふわっ』とした説明ねー」

 

「しゃーないだろ。本当に詳しく説明すると、ヒポグリフがどんな『幻獣』なのかまで説明しなきゃならないんだ。ともあれ、深雪が桜の花弁で羽の固定化をしている限り、タイムオルタレイションは使えない、が……二人が力尽きれば元のワンサイドゲームだ」

 

 エリカの半眼での言い方に対して腐るように答えて眼鏡を外すと、最後の締めが良くなかったにも関わらず、一斉に拍手が起こる。

 

 拍手を向ける方向が違う。

 そして思わず授業モードになってしまったことを反省。主役はミラージ・バットの人間であると、手を差し出すようにフィールド内に向けておく。

 

「エリカはああ言ったが……ああいった認識は、お前の故郷で『普通』のことなのか?」

「新理論云々でないかどうかであるならば、それを用いての術式を開発しなきゃならない。そして俺にとって『時間操作』は、かなり煩雑だ。『魔術』ではなく……『高い領域』になってしまう。

 それよりも達也―――あの杖だけど――――」

 

 

『さぁあああ!!! 会場内のドローンなどで拾えた遠坂刹那の説明が入ったことで、この戦いの趨勢は既に三人の美少女達に委ねられていることが分かりました!!! 

 前代未聞の魔法のオンパレード!! その結末は、どうなるか―――!! 眼が離せない第二ピリオドの開始まで残り1分!!! 眼を離さずに女神たちの戦いに見入りましょぅう!!!』

 

 ミトの大音声の実況で途切れた言葉―――そして達也の苦渋の表情を見て、あまり今は突っ込んで話すことではないと空気を読んで、試合の観戦に集中するのだった……。

 

 


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