魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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ようやく終わりが見えてきたぁ。次話で終わるはずですが、拾い損ねた伏線とかどうだったろうなとか思いつつ、新話お届けします。


第100話『九校戦――祭りの終わり(前)』

 

 御殿場市内に入ろうとしていた、ロマノフ王朝の遺産を駆使した新ソ連の魔法師達―――直接戦闘向きではないものの、搦め手が厄介な連中を封殺したイリヤ率いる九大竜王……神代秘術連盟の連中は、後処理にやってくるだろう日本の国防軍の前に『略奪』をしていた。

 

 インペリアルイースターエッグ。雷像の槍。マンモスの遺骸……極北の地で生けるままの化石から作られた象牙の剣などを掻っ攫った後は―――最後の仕上げとなった。

 

「リズ、そっちはどう?」

 

 水獣スイナを使って全員を打ち据えた水納見ユイの声が響き、苦笑しながら答える。

 

「もう終わるよ。アタシ達の手助け無しでアレだけの幻想のキメラを殺すとか少し気に入らないけど……ま、あのカノジョさんとの連携が上手だったということで―――やるわよアーチャー!」

「委細承知です。お嬢様(マスター)

 

 霊体化を解いてリズの横に出現する、アーチャーのサーヴァント……に『据えた』英霊『ヘラクレス』。

 かつて自分の生れの片方『アインツベルン』は最強の英雄をバーサーカーにして運用していた。

 

 その意図は明白であった。しかし、ゴーストライナー(境界記録帯)たる大英雄ヘラクレスの霊基は強大であり、大聖杯―――ユスティーツァ様の『奇跡』で、彼はこうしている。

 

 そんなヘラクレスが握る弓は、彼の巨大さに設えたもの。

 

 普通のモノではなく、アーチャー用に特注で作り上げたもの。弓の材質もオリハルコンやヒヒイロカネなどの合金の剛金で作り上げたもの。

 

 弓弦すら幻想種の体毛などを『なめして』、その上でアカガネで整えたもの―――それが力いっぱい引き絞られる。獲物を狙うヘラクレスの眼。

 

 それだけでリズの足場が崩れ去ろうとしているが、ヘラクレスの神域に達した弓術は過たず解き放たれた――――。

 

 音を置き去りにする弓―――音速の壁を越えて矢が飛んでいった証だ。ただ一つ弓弦の鳴り響く音の後に、遠く……20㎞以上も先の標的に着弾。

 

 遠くの方で轟音が鳴り響く―――落雷が近くに落ちたかのような音だが―――。

 

 

「仕留め切れなかったわね」

「はい。ですが力は相当に消耗させたはずです。追撃はどうしますか?」

「アレに自棄になられて、『尾っぽ』を『三本』も出されては困るわ―――後の事は刹那達に任せましょう。特にキリスは明日のモノリスもあるんだしね」

「俺としては、いずれは『俺たちの側』に立ってくれるはずの刹那君に手助けしたいんだがね」

 

 会話の内容は剣呑そのもの。しかし気楽な調子で言いながら、弟への手助けを終えて、イリヤ・リズは九大竜王を引き連れて御殿場まで去っていく。

 

 もはや九大竜王をどこも無視は出来ない。そして十師族の権勢もいずれは衰えるだろう……。

 

 その予感を胸に、既存権力とは違う山となった人間達は戦場から消え去るのだった……。

 

 

 † † †

 

 

「仮に『冠位』(グランド)クラスの『弓兵』がいるんだとしたらば、アレなのかな?」

 

「……放たれたのは矢だった。しかも八王子クライシスの時に放たれたものと同じ類―――つまりイリヤ・リズは、あの時からお前を見ていたのか……?」

 

「のようだな。さて―――『逃げた』とは思うが、一応確認しに行こう」

 

 もはや通常の魔法戦闘をしたとは言い切れない惨状。最後の矢に関しては恐ろしいほどの威力。

 

 山道のコンクリート舗装の擁壁を奥深くまでめり込ませた結果。もうもうと立ち込める煙の先にコヤンスカヤはいるはずなのだが、刹那は『逃げた』と断言した。

 

 達也はその宣言を信じても急いで向かおうとしたが、コヤンスカヤと体でやり合った柳の身体は相当に疲労している様子。

 

『狐が持つ概念毒の可能性もある。シルヴィア。これを用量に従って投与したまえ』

 

「はい。不安なのは分かりますが、大人しくしているように」

 

 カレイドステッキがどこからか出してきたアンプル。どうやら、栄養剤と解毒剤のミックスポーションのようである。

 一度だけ少し苦い顔をした餓狼のような柳連大尉だが、ともあれ自分の体の状態は分かっているのか、大人しく専門家の治療を受ける様子。

 

「我々は、コヤンスカヤの状況を確認しに行きます」

 

「頼むよ」

 

 どうやら大人組はとりあえず残るらしい。大変な戦闘の確認の他に、恐らく刹那の秘術。宝剣のサンプルを欲している様子だが―――。それらが、砕けて『砂粒』へと還っていく様子を見た達也。

 

 あちらの狐は容易く『尻尾』を見せるが、こちらの狐は、あまり証拠を残さないようだ。

 

 そうして移動系魔法ではなく、浮遊飛行や早駆けのルーン、忍術と……現代魔法を軽く無視したもので赴くと―――そこには、くり貫かれて焼き固められた竪穴……中には原始人ではなく、何かの置き土産かのようにエッグ()に挟まった便箋。

 

 可愛らしいが今は憎らし過ぎる……古めかしい便箋(デフォルメ狐イラスト)が挟まっていた。

 罠の反応が無い事から、即座に中身を検分。

 

『今日の所はワタシの負け。けれどワタシ諦めません!! もっと『ご主人様』の為に世界を焼き尽くすための方策を色んな方に授けて、そして『世界』が終わるように、これからも努力していきます!! 

 そして―――喜ぶがいい『少年』。君の『願い』はきっと叶う。

 そこ(滅んだ世界)で『ナギ』と『ナミ』のように、子づくりしまくるがいいのだ。キャットとの約束でフォックスとの宿命を忘れるなよ☆

 なんちゃって♪ 茶目っ気残しつつ、お節介焼き(トラブルメイカー)のタマモ・ザ・フォックスは愉快に去るのだった―――。更になんちゃって♪♪』

 

 最後まで……末尾にあるキツネのデフォルメキャラまで読んで、震える刹那とリーナ。横で見ていた達也は頭を抑えている様子。

 

「破り捨ててぇ……」

 

「タツヤ、分解したら?」

 

「そう言う訳にもいかない。一応の証拠品だからな。

 そしてお前が、こそこそオソマツブラザーズを使ってアンティナイトをガメている以上、これは貰っていくぞ」

 

 新ソ連の用意したトラックに乗せられていた物品の大半……その中でも対魔法師用の物品を使い魔であるガルゲンメンラインだかアルラウネだかを使って回収していたことを指摘すると、くっそ下手くそな口笛を吹く刹那の姿。

 そして共犯だったらしくリーナまでそんな動作であり、達也としては呆れるよりも先に苦笑してしまうのだった。

 

『バレッバレだな。あれは『宇宙人の砕片』だからね。あまり人の手に渡っているのもよろしくないんだよ。さて目覚めて一発目が狐との戦いとか―――まぁ、色々あった様子だしね。

 あまり彼是小言は言わないでおこう――――ただいま。二人とも』

 

『『お帰りなさい。オニキス』』

 

 起き上がれば何か涙でも流すのではないかと思えたのだが、そこまで劇的な再会ではなく、唐突ながらも感動とか悲嘆とか激情とか、そういうものを置き去りにして『いつも通り』になってしまった印象だ。

 

 だが、そういうものなのかもしれない。人生とは出会いと別れの連続。されど、『本当の別れ』などそうはない。本当は刹那も分かっていた。

 

 託されたものを絶対に繋いでいく。その意志があれば『再会』することはあるのだ。

 死んでしまった人を悼み、それでも自分にあるものは未来に繋いでいくものだから。

 

 

『後ろを振り向く暇はないな。そのことを理解したかな?』

 

「ああ、背中を押されたから―――俺はここにいる」

 

『喪失』の起源に囚われて動かずにいた自分はいない。あの時から違った自分を見てくれる魔法の杖の言葉に返したことで、再会の挨拶は終わった。

 

 終わったことで――――。

 

 

「その魔法の杖とやらはどうやって浮いたり飛んだり、ついでに言えばどこから音を出しているんだ。お前の記憶映像で見せられた時からの疑問が多すぎたが、こうして見ると更に理解不能だぞ」

 

『いやぁ。こんな面白い友人が刹那にも出来るとは、これだから人生(?)は面白い。まぁ私の事を知りたければ、何処かにいるクソジジイに問い質すべきだね。お姉さんとの約束だ』

 

「お前と深雪が使っていた杖は――――恐らく俺の親父が『世界の果て』から『やってきて』作り上げた杖だ。ヒトガタをマテリアル(素材)とした『生き杖』の御業……。

 いずれ話してやるよ達也。俺の『秘密』―――それが分かれば、オニキスに対する疑問もそれなりに氷解するはずさ」

 

 それはいつになるのやら。という呆れるような視線を向ける達也に苦笑してから見上げる月のカタチ。

 

 それは『まんまる』が、少し欠けているものの―――いい輝きだった。

 流れ着いた世界でも変わらぬ星の輝き。

 

 それを見る度に、色んな人と見た夜の景色を思い出してしまう―――その中に、この場面も記録されてしまうのだから、刹那の口を衝くは一つの言葉……。

 

 

 ―――ああ、気がつかなかった。こんやはこんなにも つきが、きれい――――――だ――――――。

 

 

 そうして夜の中で繰り広げられた一幕―――いずれ起こるだろう戦いの予感を匂わせながらも、その場での闘争は終了を告げた……。

 

 

 † † † †

 

 

 明けて九校戦最終日。近場での戦いだっただけに昼間まで寝ていなくても良かったのだが、リーナに捕まったことで、時間ぎりぎりまで部屋で『よろしく』やっていたことで、上役から大目玉を食らうかと思っていたが、一高陣営が少しギクシャクした様子。

 

 何かあったのかと思う程に、一高テント内が何か気まずい空気。

 

(もしかしてワタシタチが、部屋で『にゃんついていた』ことがバレタのかしら!?)

(それとっくに公然の秘密(Girl code)だよ)

(Oh! No……イッツアジーザス。けれど本当に何があったのかしらね?)

 

 

 とはいえ、気まずさの原因は自分達ではなく、どうやら会頭と会長にあるようだった。諸々のことを話し合うために近づく2人。そんな2人を時々見ては俯く服部副会長の様子が主原因か。

 モノリスの主力2人がこの調子でいることが、最大級の原因。ともあれ、戦いとなれば徹底するだろうということで……。

 

「会頭、今日は俺も団服を着て応援しますよ」

「ああ、頼んだぞ遠坂。司波もやるんだな?」

「ええ、昨日は深雪に専念させてもらいましたので、今日は似合うかどうかは別として応援団やらせていただきます」

 

 

 そうして男子一年の代表として言っておくことは忘れないでおく。その間に十文字会頭の様子を見ると―――どうやら最高潮である。

 何があったかは知らないが、服部副会長の不調があったとしてもお釣りが来るぐらいにはいい調子。これならば九高の霧栖とやり合っても大丈夫だろう。

 

 七草会長に話しかけるリーナと深雪を見てから、この長い祭―――半年とは行かずとも『五か月』はいたのではないかという長い祭の最後を感じてしまうのだった。

 

 

 そうして時間は過ぎて―――団旗を持つレオと太鼓を叩く幹比古。昨日もこんな感じだったんだろうと思えるモノリス・コード本戦決勝リーグは始まった。

 流石に総合優勝が決まっているとはいえ、一高にもう一つ『土を着けたい』という思いでかかる他校。

 

 特に新人戦では後輩たちがやられたせいか、準決勝で戦った『三高』の勢いは強く、押し込められそうになりながらも最後には十文字会頭のファランクスタックルで仕留められた。

 辰巳、沢木、服部……意外というほどではないが、八王子の一件で責任を感じて今回の出場を辞退して、部長職も退任した三年の『杉田』に代って出ている桐原の戦いが勝負の決め手にもなった。

 

 

「服部と桐原は、会頭を慕っている節があるからね。気合いは入るよ」

 

((舎弟ってことか))

 

 応援団服を着ている五十里先輩の言葉を受けて、そんな感想を出しておく。まぁ親分に対する若頭みたいなものなのだろう。

 

 ジェネラル・ハットリとサムライ・キリハラの二大コンビの連携もあって勝利はなった。

 

「流石に、戦うとなればエイミィの『フライデー写真』のことは忘れるか」

 

「そうでもないかもね。服部は、やっぱり引きずっているよ……直接問えばいいのにぐらいは感じる」

 

「それで『実は付き合っている』とかいう言葉は聞きたくないんでしょうね」

 

 ともあれ、準決勝の結果で決勝は一高対九高という結果になった―――同時に三決の結果がどうあれ、九高が『準優勝』というのは確実となった。

 

「……『黒い竜』に削られすぎたな……」

 

 九高のイメージカラーに準えて、そんな感想を出しておく。『零宮』とかいう女子など若干、粒ぞろいな所があった九高の作戦勝ち。

 だからこそ―――モノリス決勝は確実に取りに来るだろうと確信しておいた。

 

 決勝戦―――下馬評を覆す何かを期待する判官贔屓的な会場。九高に対して一高のアウェー感は凄かった。

 開始前に、達也他技術スタッフ総出で色々と動き回り、会頭に『竜殺し』の魔法は授けられた―――後は彼次第だなと思う。

 

 だがそれは平時の場合のみ……ここまでの敵地に対してフィールドにいる五人の先輩たちは落ち着いたものだった……。

 

「見ておくんだよ。特に今年の新人戦モノリスメンバーは、何人が来年の本戦出場なるかは分からない―――けれど、あの五人の気持ちの持ちようこそが『力』以上に学ぶものだからね」

 

『『『『『押忍!!』』』』』

 

 五十里先輩からの、その言葉は胸に刻みつけるべきものだ。精神年齢は確かに22歳の刹那だが、やはり肉体が若返ったことで精神も幾らかの幼児化……退行をしてしまっている。

 

 だからだろうか―――純粋に彼らを『先達』として見ることが出来た。時にはかつての経験から達也のように老けた思考をしてしまうかもしれないが、刹那は概ね―――そう感じるのだった。

 

 

 始まった一高対九高の戦い。アウェーも同然の中でも三高という『味方』の声も加えて、チアダンスで盛り上げる会場。

 

 

 最終戦をするに当たっての戦いは正しく絶技の応酬であった。十文字会頭のファランクス。多重障壁の展開で突進を仕掛ける様子。

 

 全員攻撃(オールアタック)。小細工なしの正面突破に対して霧栖は竜性の霊獣を出して―――、一高校門前でのことのようにドラゴンブレスに見立てた『レーザー』で迎撃。

 

 行き足が止まることを期したレーザー攻撃を前にして、十文字会頭の防御陣は崩れない。例えその身が天空に打上げられたとしても、硬く偉大なる大地を思わせる防御は崩れず『魔竜』へと向かう。

 

 

 まるで新人戦モノリス決勝のような有様。ここに来て九高メンバーも前進を開始。自陣付近に押し込まれての戦いなど冗談ではない。フィールド中央にてぶつかり合う両校。

 

 竜の加護を得て戦う竜騎士たちに魔法使いたちが挑みかかる。強烈なジャベリン―――属性付与のサイオンエネルギーの矛が古代ギリシャの戦いの如く放られるも、それを会頭のファランクス及びリフレクターは弾く。

 

 

「お前たちにあちらの攻撃は通させん!! ゆけぇ!!!」

 

『『『『応ッ!!』』』』

 

 十文字会頭の下知を受けて、辰巳の加重魔法が鎧着込みの騎士に掛けられるが、九高メンバーの纏う『魔力鎧』は、強くはないが竜の因子を持っており、簡単には通らない。

 

 しかし―――。

 

「司ァ!! お前の棍杖(根性)と共に戦わせてもらうぜ!!!」

 

 八王子クライシスの際にマナカ・サジョウから司甲先輩に渡された棍杖。

 サムライ殺しの概念武装『夢想権之助の杖』が、十文字会頭の移動魔法で撃ちだされて、魔法式が消え去ると同時に、それは霧栖の守護をしている魔竜の逆鱗を貫いた。

 

 加重魔法を掛けた辰巳先輩の意地の一撃で―――術式は不安定化する。九高の鎧が若干の弱体化を果たす。

 

 中空で縫い付けられた棍に対して誰もがどういうことなのかを知りたがり、応じて映像を見ると画像処理された竜が見えていた。ともあれ、戦況をイーブンに戻したことで、ぶつかり合いは激しさを増す。

 

 一人一殺の気合いの如く……服部副会長の多彩な魔法の『乱れ撃ち』に対して極み抜いた火竜の爪の如き『一撃』が飛び、同士討ちとなる。

 

 同じく沢木先輩も拳を放つように、空気圧―――圧縮したエアロブリットよりも高密度かつ高圧のものが放たれる。

 魔力弾かと錯覚するほどに圧縮された空圧であり『拳圧』を受けた九高メンバーだが、やった方も結構ギリギリだったらしく沢木もまた倒れざるを得なくなった。

 

「服部! よく頑張ったよ!!」

「空圧正拳の極み―――お見事です!!!!」

 

『『『『ナイスガッツ!! 服部、沢木!!!』』』』

 

 応援団の意気を上げた言葉とチアリーダー達の声援を届けると同時に、次戦は辰巳と桐原の戦い……残った三人であるがゆえに、この場に立った以上は全力を尽くすが互いにパートナーと呼ぶべき二人が欠けた状態での連携は―――案外上手くいっていた。

 

「桐原! 俺が足を抑える!!」

 

「押忍ッ!!」

 

 短い返答。意図を誰何することはない。刀身が無い剣―――そのCADを持っている桐原は、辰巳の後ろで居合い抜きの如き構えでいる。

 

 集中、そして脱力。全ての工程を終えるように桐原の剣に魔法式が纏わりつき―――そして―――加重魔法で足を止めた、ここぞとばかりに力を込める辰巳の魔法が九高の足を止めた。

 

 荒野のフィールドが陥没していく様子に、誰もが驚く様子だが、そこに桐原の高周波の斬撃が飛ぶ―――『飛ぶ斬撃』。

 先程の沢木と同じく圧力…音圧で狙ったのは―――大将首である霧栖弥一郎である。

 

 功名目的ではないが、この場における取らなければいけないものを狙った形―――そもそも桐原の『空気打ち』では、残念ながら壬生ほど達者に出来なかったのだが―――ここに来て九高―――残った二人が霧栖の前に立ち塞がり、その高周波の斬撃を受けて吹っ飛んだ。

 

「「!?」」

 

 その目的。そして自己犠牲……サクリファイスの効果はあり、溜めていたブレス……双頭の蛇アンフィスバエナを思わせるものが、辰巳と桐原を戦闘不能にした。

 

「一人を活かすために、二人が犠牲になるか―――見事な勘定計算だが好かんな」

「だろうな。俺も好かないが―――庇ってくれた後輩二人の為にもお前に勝つ! 十文字!!」

 

 最後に残ったのが互いの大将であることが全員を熱くする。霧栖のドラゴンブレスは威力を減衰させていても、とんでもない威力だ。気を抜けば一気にファランクス全てが抜かれそうな緊張感に晒されながらも、鋼の巨人を思わせる十文字克人は魔竜を倒そうとする。

 地力に差は殆ど無い。耐え凌ぐことは容易い。攻撃手段は―――。

 

「ファランクス・ヘタイロイ!!!」

 

 瞬間。十文字克人のファランクスがその異名の通りに、歩兵が持つ棹状武器の密集のように障壁から鋭利なスパイクを生やしていた。

 

 騎兵を迎え撃つために考案された重装歩兵による戦術のように長い突起ごとの突撃に対して霧栖も難儀する。この戦いに至るまで隠していた十文字克人の秘奥の一つだ。

 

 障壁の形やそれらを変える手際。遠坂刹那の手際。

 障壁を『星型』(シュテルン)『錘型』(ピュラミューデ)にして展開していたのを見てから、修練してきたものだ。

 

 

 攻防一体の防御陣を前にして、霧栖も竜の牙や爪を模したものを飛ばして対抗する。戦いはお互いの距離を侵して、どちらが先制するかに絞られた。

 

 瞬間、障壁を―――『飛ばす』十文字克人。霧栖が瞠目したのも束の間、飛んできた障壁によって対消滅する魔力の牙と爪―――そしてそれでも残ったスパイクが投げ槍よろしく襲い掛かる。

 

 一髪千鈞を引く戦い。それでも最後はやってくる。明らかに消耗しているのは十文字の方だ。肩で息をして汗を拭いながらも眼だけは、切らないでいる姿勢。

 

 もはや意思を手折ることでしか勝てない戦い―――火竜、水竜、雷竜……凡そ世界で生きてきたと思われる伝説の獣の力を借りての攻撃。あの時、一高の校門前での攻撃がやって来ると察した一高生達が立ち上がり、ざわつく。

 アレに対抗できるのは、カッティングセブンカラーズなどの五大属性を相殺できる存在のみ。

 

 無論、術式の相性次第だが―――その威力が解き放たれれば、会頭と言えども――――。

 

 

「会頭!!」

 

「十文字先輩!! 逃げてください!!!」

 

「十文字!!!」

 

 誰もが身の危険を察して届かない警告を放つ中……七草真由美だけが違った――――。

 

 

「勝って十文字君! アナタ自身や一高のためでなく―――私の為、七草真由美の為にも戦って! そして勝って!!」

 

 衝撃的な宣言。七草真由美のヒロインな台詞だが、それは必至なものであり鼻で笑うことは出来なかった。

 

 その言葉が届いたのか薄く笑った会頭は、その攻撃に正面突破。放たれる前に潰そうと言う浅い考えと読んだ霧栖の秘術が発動。

 

 ファランクスを次から次へと発動させて攻撃に耐え凌ぐ―――誰もを守るために戦う十文字克人の最後の挑戦であった。

 

 障壁を二、三枚貫いて襲い掛かる竜の鎌首―――サイオンの形が誰もの恐怖を煽るも止まらない。

 止まらずに十文字は動く。スパイク―――魔力の槍が、サイオンの竜を貫いていく。

 

 凡そ10mも無い距離での魔法の応酬。魔力壁が魔力竜が、ガチンコでぶつかり合い。衝突。接近戦ではないが審判の耳目を引いたが続行の判断―――。

 

 お互いが吹っ飛ばされて、それでも立ち上がり―――最初に魔法を発動させたのは―――霧栖の方であった。ファランクスの連続発動でサイオンの循環に滞りを見せる十文字を前に勝利を確信。

 

 

「終わりだ! 十師族の一つ!! お前に勝利する事で我らが花道の一歩としてくれる!!」

 

 竜牙の脅威が発動する。そして立ち上がりつつも、ファランクスの展開は不可能な十文字を前に誰もが顔を覆う中―――。

 

(勝機!!!)

 

 それを見たのは、観客席にもいたことで―――。『勝敗』は決まった。

 

「アクティベイト! アンリミテッド・ブレイズ!!」

 

 音声認識の『遅延魔法』。USNAの術式の一つ『ダンシング・ブレイズ』の『派生形』。決められたコースを移動するのではなく、ある程度、思念を利用しても質量体の操作を可能とする秘術が発動。

 

 移動魔法が掛けられたのは……霧栖の後ろにいる竜。その逆鱗を刺し貫いたままの棍杖。

 それが猛烈な勢いで落下を果たして、霧栖の背中を痛打。

 

 少し捻って脊柱への直撃は避けたが、それでもいきなりな不意打ち。そして霧栖自身は、『力』を取り戻したことでサイオン制御が乱れた。

 この勝機を逃さず、頼りになり過ぎる後輩たち、去ってしまった同輩の贈り物を元に連撃。苦しいなど言えない振り絞ることで勝つ。

 

「うぉおおお!! ファランクス!!!」

 

 最小範囲で展開させた魔力壁と棍杖が、操作されて嵐の如く霧栖に叩き込まれる。

 そして最後の一撃―――振り絞ってそれでも最後まで溜め込んでいた魔弾―――氷結するような『冷気の弾丸』が、克人の腕から出て霧栖の胸郭に叩き込まれた。

 

「お見事―――」

 

 その一撃がとどめとなって、霧栖弥一郎は、最後には賞賛の言葉を掛けて倒れ込む。ジャッジが下る。勝者は一高。

 

 苦しく重く、そして……熱すぎる戦いの終了とするには、正しく相応しい魔法師界の『不動明王』としての戦いであった……。

 

 

 そうして九校戦十日間の競技日程は終了を告げた……誰もが誰かに拍手したくなる。

 

 まだ表彰式も残っていると言うのに、祭りの終わりを感じて拍手の嵐が、歓声の渦が、先程までの敵味方関係なく降り注ぐのだった……。

 

 


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