魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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少し長いですが、まだ映画で言えば冒頭程度までしか進んでいないと言う事実。

飽きずに読んでいただければ幸いです。(謝)


第103話『夏休み 二人集まり、一人欠けて集うはいつ?』

「ようやく羽田に辿り着いたそうだ」

 

「今回はタイミングが合わなかったな。結構やきもきさせてくれるぜ」

 

 男子らしい五分丈のメンズ水着―――ショートパンツともサーフパンツとも取れるものを着ているレオが、端末に届いた連絡を達也と共に読み込む。

 

「あの二人の故郷がアメリカである以上、仕方ない点もあるさ。まぁ雫的には不満はあっただろうが」

 

 レオに返しながら、達也はチェアの横にあるアイスコーヒーを飲む。平和なプライベートビーチを一望できる北山家の別荘のテラスにて、そんなことを考えながら、スイカ割りをしているエリカ達に混ざらないレオに少し怪訝な想いがある。

 

「珍しいな。お前が、こんな所で『じっ』としているなんて」

「それじゃ俺がハムスターみたいに始終動き回っているみたいに聞こえるんだが……まぁ何というか、『小笠原諸島(ここ)』に来てから、若干調子が悪くてな」

「大丈夫か?」

「体調じゃないんだ。何というか『叫び』が聞こえるんだよ。『助けて』って声がな」

 

 若干、深刻な顔をしているレオ。ここに刹那が居れば『亡霊』の叫び(シャウト)とか言ってくるかもしれない。

 とはいえ、レオと同じく『変調』を来すというほどではないが、何か達也のサイオン流を阻害するものが放たれているのは事実だ。

 

 そして、その発信源は、この辺りの船着き島(ポートアイランド)、日本の南方の盾として名付けられた海軍の基地島でもある南盾島からであった。

 

 感受性が高いはずの幹比古や美月が、それを感じないということは、ある種の『特定の波長』に向けてだけ発信されているものなのかもしれない。

 

 更に言えばこの数か月で……如何に深雪の安全確保の為とはいえ、下劣すぎる探りともいえる行為を行った。

 黒羽家からの報告でレオと達也にある『共通点』に考えが至る。

 

 だが、それが友人の慰めにはならないので、刹那に教えてもらった集中力のアップ。精神向上の『メディテーション』を相互で行うことを提案。

 

 否も応もなく互いの肩、左右で乗せ合いサイオンの波長を互いに『平常時』へと戻していく作業。エルメロイレッスンにおいては、一人でやるよりも二人でやることで互いに術式を掛ける時の応用になると教えられたこと。

 

 それがレオと達也の調子を取り戻していた。

 

 

「サンキュー達也。結構落ち着いたぜ」

 

「気にするな。まぁ『叫び』の主が気になるならば探しに行こう。もしかしたらば―――」

 

 言葉を続けようとした瞬間、大きな音が響く。見ると、驚愕した表情でガラスコップのジュースをトレイごと落とした光井ほのか(水着姿)が眼に入った。

 どうやら飲み物を持って来てくれたようだが、衝撃的な場面を見たかのように固まる。硬直一秒後には再起動するほのかが近くにやって来る。

 

「ちょちょちょ!!! た、達也さん! レオ君も!! も、もしかしてそういうことなんですか!?」

 

『いやいや、無いからそれは』

 

 

 21世紀初頭から少し経った頃にある動画サイトで流行った「やらないか」を連想させるものだったと今さらながら思う。

 

 普段の制服姿ならばそんなことも思われないが、いまこの素肌にパーカーという状況では不味かったかと……。

 

 ともあれ、慌ててガラス片を拾おうとするほのかを見て、達也は静かにストップを掛ける。

 ガラスで指を切る心配もあったが、それ以上に見せたいものがあったからだ……。

 

「た、達也さん?」

 

スタート(再生)オーバー(開始)

 

 砕けたガラス片。その全て―――『見えぬほどに細かいもの』まで見てから、達也はエルメロイレッスンの成果を披露する。

 割れたコップはワイングラスタイプが三つ。

 

 しかし、そのガラス片の状態を戻していく。刹那風に言えば『元の形に逆行』させている。

 

 十秒もしない内に、中身はともかくとしてコップが三つほど出来上がった。寸分なく同じものが三つ出来上がっていたことに満足する。

 

「……!」

 

「レオ、すぐに乾くかと思うが、床が後々軋んでも悪いからな」

 

「了解だぜ」

 

 言葉で木造りの床に指を着けるレオ。

 今の時代ではモダンレトロな南国風の床に散らばった水気が、レオが床に刻んだ文字……これまた刹那曰く『フサルク(共通)ルーン』の一つを刻むことで、即座に木材の床から水気が消え去る。

 

「―――」

 

 絶句するほのかの姿に、若干達也としては『イタズラ』が成功した気分だ。

 これらの『魔術』は、刹那が個人的に生徒の相談に乗った結果として体得したものの一つだ。

 

 達也は、『修復』『回復術』に傾向が伸びているというアドバイスから、徹底的にこれらを学んできた。

 結果としてではあるが、ある程度の『魔力』が籠った物の『修復』も可能となってきた印象がある。無論、秘術たる『再成』に比べれば範囲や効果はそこまで凄くないが―――。

 

 あまり『大がかり』にしなくてもいい分、正直こっちの方が達也は『合っている』気がするのだ。

 

「もうお兄様も西城君も、ほのかをからかうようにそんな事をして人が悪いですよ」

 

「そんな意図があったのか達也?」

 

「すまん。付き合わせた」

 

 深雪の笑みを浮かべながらの窘めに、レオは半眼で見てきて達也は素直に謝っておいた。

 とはいえ、ほのかはまだ立ち直っていない様子であり、気付けの術でもと思った矢先。

 

「す、すごいです!! 達也さん!!! こ、こんなことが出来るなんて、やっぱり入試の時に見たサイオンの輝きは、間違っていなかったんですね!!!!」

 

「いや、そこまで大層なことか? まぁ確かに物体の修復というのは深雪がよくやる『汚れ取り』と違って難易度は――――」

 

「あなたはやっぱり一科にいるべき人間なんです!! このままいけば、達也さんだけでなくレオ君にエリカ、美月、吉田君―――いいえ、そもそも一科と二科の境すら砕けるかもしれません!!!」

 

 熱を込めて、ほのかが語る未来予想図であるが、それはあり得ないと断じた。

 そう断じれるのも達也が魔法教育というものの『融通の無さ』を知っているからだが、それでもその言葉に深雪まで眼を潤ませる辺り、深刻であると理解した。

 

 もしくは……刹那が様々な魔法系統―――『魔術系統』を披露したことを切欠に、『違う科』を創設するのも考えの一つとして挙がっている……。

 ただ講師が足りない。もしも、そんな科が作られるとしたらば―――主任講師にアシスタント講師が必要になる。一定程度は、自主学習でも賄えるが……果たしてである。

 

「先々の事は分からないよ。だから、あんまり未来に期待はしないでおこう」

 

「はい……残念です」

 

「お兄様。謙遜のし過ぎも――――」

 

 

 そう深雪が達也を嗜めようとした時に―――不躾ながらも、明らかに『達也』宛てだろう荷物を持ってきただろう国防軍の飛行艇が、若干の旋回を行ってから海上着水をする様子。

 

 不意の闖入者。ジェット飛行機の音が連れてきたのは―――恐らく厄介ごとだった。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「軍からの出頭命令だ。俺が『何者』かもあまり知られていない状態でも、ここまで性急にことを進めるとは、よほどの事態だ」

 

 実際、飛行艇と共にやってきた国防軍の士官は藤林響子。

 それとなくリーナの関係者であることも知られており、かつ『美人』であることが若干の緊張を和らげていたが、一介の高校生の集団に何の用だ―――と感じたのは『ほのか』と『雫』だけだった。

 

(若干、俺が何者であるかをみんな察しているんだろうな……)

 

 あそこまでの魔法力―――攻撃力に特化していれば、そんな疑念も無くなるのかもしれない。八王子の一件、九校戦のペアピラーズ……そういうことだ。

 

 

「一応、命令としてはFLTなど所属の技術者総出でかからなければいけない事態ということになっているが、『本命』は違う」

 

「はい。こちらは叔母様の同意書。十まで言わずとも深雪は理解しております。……お兄様―――頭を低くさせてしまう無礼。お許しください」

 

 

 別荘の一室。盗聴盗撮を完全に排した部屋で兄妹は響子が持ってきた書類を見て、全てを理解した。

 

 騎士が姫に拝跪するかのような姿勢で達也と深雪は相対した……豪奢な一室。時代が違えば秘め事の場所にて妹は顔を若干赤くして、髪をかき上げながら達也に近づき、その額に口づけをした。

 

 姫君のキスは呪いの解除。多くの伝説やおとぎ話に語られているように、そんな風なロマンチックな『魔法』で、達也は「おのれ(自分)」を取り戻すのだった。

 

 それは姫君の騎士が、ただ一つの『魔剣』を使うための『誓約』(ギアス)を解き放つ―――この世で残酷且つロマンある魔法であった……。

 

 

 

 † † † †

 

 端末の情報を覗きこみ、そして何気なく呟く。

 

「遅かったか……」

 

「そのようね。さて、あとはタツヤのお手並み拝見となるかしらね?」

 

「そんなところかな……問題は、わたつみという調整体の子たちのバイタルだな」

 

「―――ねぇセツナ。この子達―――助けた後はどうなるのかしら……?」

 

 不安げな面持ちのリーナ。当然のことではあるが、父も母も、様々に調整された『遺伝子』の下で作られた存在。

 自分と違って資料に出てきている女の子たちは最初からの『孤児』なのだ。

 

「吉祥寺から聞いたが、魔法師の孤児。それを預かる孤児院・児童養護施設というのは、巷間の噂だけでも、あまりいいものではないらしいな。程度の差はあれども、魔法師は普通の幼年の子供ではないのだから、扱う院長たち次第だ」

「だよね……」

「そして何より……仮に彼女らを何処かの魔法の名家が引き取るとしても、そこにもパワーゲームは働く……いい家に貰われなければ、ロクなことにはならないだろうな」

 

 

 一度はエーデルフェルトからの申し出を断った刹那なのだ。だが、刹那は己でやれるとしていた。

 実際、色々と母の教導という遺産やちょくちょく様子を見に来る兄弟子・姉弟子……師匠であるエルメロイⅡ世。

 

 彼がウェイバー・ベルベットとしていた頃……まだ未成年の頃には、同じく頼れるものはいなくなっていた。

 

 だが、それでも……独り立ち出来たのは、彼に『大魔術師になる』という信念があったからだ。

 そんな彼らと比べるには、あまりに酷すぎる……。

 

「この子達は、世の全てを知らず―――そして頼れる人もいない……悪ければ、またもや研究所送りだ」

「……」

「―――言いたい事は分かる。ただ、そうなれば……」

 

 俯くリーナに残酷な現実を『覚悟』させておこうとしたが、その前にリーナは遮るように喋りだした。

 

「セツナ、前に言っていたわよね。人が生きていくうえで……どんなに過酷な道だとしても、そこに赴くための信念があるならば、何度でも立ち上がれるって」

「ああ……」

「楽な道というわけではないけど、アナタがミス・ルヴィアゼリッタの誘いを蹴ったのは―――お父さんの背中を見たかったからでしょう……ならば、この子たちが己の道を見つけるまで見守るのも」

「―――みなまで言わなくていいよリーナ。分かっちゃいたんだ。ただ最悪な結果に対する悲観を先にしておきたかった。それだけなんだよ」

 

 やられた想いだ。だが、自分がそうだったからといって―――この子達にそれを押しつけたくなかった。そういうことだ。

 

「うん」

「会いに行けばいいだけさ。わたつみという女の子たちにも何か『名前』はあるのかもしれない。俺たちが勝手に不幸な子(シンデレラ)扱いしているだけで、何かがあるのかもしれない」

 

 言葉で笑顔を取り戻すリーナ。こんな顔を見せてくれるかもしれない。無いとしても―――綻ばせることは出来るはずだ。

 

「ええ」

「会おう。会いに行く。それからさ」

 

 その言葉で自分に抱きついてくるリーナ。その頭を撫でる。魔術師としての倫理観、人間としての価値観……全てが綯い交ぜになるような懊悩から抜け出れた。

 

「それにしても、随分とこの子らに肩入れするよな」

「だって……女の子を助けないセツナなんて見たくないわ―――もうちょっと歳を経れば、『娘』とかを持つ身になった時、後悔しそうなんだもの……」

 

 既に遠坂家の後継ぎが『息女』だと確定的に宣ってきた……恥ずかしがるように、それでいながら悲しそうに言うリーナ。

 

 随分と『未来を先取り』しすぎではないかと思ってしまうリーナの発言に、刹那としても恥ずかしい想いは出て来てしまう……。

 それを誤魔化すように髪を撫で梳きながら、民間航空機は日本の海上を飛んでいくのだった。

 

 後にこの事が『娘二人』に告げられて――――。

 

『ココアお姉ちゃんとシアお姉ちゃんは恋のキューピットだったんだ♪』

 

 などと言われることなど、予想が着くわけがない。よって―――そんな話を民間機の中で話していると、ようやく着く小笠原諸島のポートアイランド。

 

 民間航空機の発着場がある……南盾島のそこに着くや否や、幹比古とレオに大声で声を掛けられる。

 

 北山家所有のプライベートジェットを見ながら、『叫び』が届く。

 届いたので、少し和らげるために―――秘蔵の『トパーズ』を手の中で溶かしてから、風に乗せて届けるのだった。

 

 

「聞こえてるんだな。刹那にも」

 

「まぁな……今は置いておけ。北山家の運転手を待たせたくないから」

 

 レオの海軍基地を見ながらの言葉にそう返しておいたが、次いで違う方向を見ると、幹比古がリーナの大量の『荷物』を前にして、何とも言えぬ表情をしていた。

 男らしく『荷物持つよ』とでも言ったが最後、『サンキュー! じゃあこれおネガイね――♪』などという結果になったのだろう。

 

「お、重い!? リーナ、これ何が入ってるんだよ!?」

 

「乙女の秘密よミキ。ついでに言えば下着とか水着とか色々あるからね♪」

 

「えっ!? そういうのは刹那に持たせてよ!!」

 

 まぁその通りであるが、一度言った以上は責任を取るべきである。そして重さの大半はバランスから空港便で送られてきた『アーマー』が主である。

 

「想像するまでは許すけど、匂い(アロマ)とか嗅いだらミヅキに言いつけるわよ」

 

「しないよ!!」

 

『とりあえず重量軽減の魔術を掛けるべきだね。これほどの重量物に掛けるのは至難だろうが、これも訓練だ。やってみたまえ』

 

「そ、そういうものなんですかね。『オニキス』さん―――分かりました。やってみせます!!」

 

 

 さん付けする程度には、刹那の『鞄』から這い出てきた魔法の杖に無駄な畏敬をはらっている幹比古の努力を見ながらも、最後に刹那は海軍基地の方に声を飛ばした。

 

『あきらめるな。生きろ』

 

 正確に伝わるかどうかは分からないが、それでも届いてほしい想いで思念の声を九人に届けたのだ……。

 

 そうして、再び飛行艇に揺られて北山家所有の別荘に着くや否や……。

 

 

「お嬢様を満足させる料理を作れるかどうか勝負です!!!」

 

 黒沢という北山家の家政婦との料理勝負を挑まれた。

 メニューは洋食―――疲れているとはいえ、ここで退いては、一時はエーデルフェルト家の執事であった頃の自分に土が着く。

 

「行くぞメイド王―――食材の貯蔵は十分か」

 

 そして―――戦いが終わった後には、メイド王黒沢と握手しあうことで和解した。

 この自動機械による調理が普及した時代に、これ程の使い手と戦い合えるとは、世界は広かった。

 

 ちなみにメイン判定人である雫のジャッジは『ドロー』。そういうことで終了したのだった……。まぁ皆して大満足していれば勝敗などどうでもいいのだが……。

 

 そんなこんなしていると、明日の予定を聞かされた上で、達也の事情を深雪からそれとなく知って―――刹那はリーナと共に浜辺へと直行するのだった。

 

 

 時刻は既に夕方―――しかし夏は日が落ちるのが遅いのが常……日本は西と東でこれまた違う訳で、東京都に区分しているとはいえ、海域及び地理的区分ではオセアニア区に位置している小笠原諸島の夕方は、まだまだ明るかった。

 

 もう少しすれば日が落ちるだろうか、そんな思いでいながらも、リーナ曰くおニューの水着……上は白のフレアレース、フリルレースのビキニ。スタイルが良すぎる彼女の魅力が完全に引き立つものに対して、下はシンプルに何の柄も無いピンク色のパンツだが、紐で結ぶ辺り、本当にこの子は……。

 意識していないのに『いけない娘』すぎて、男心をかき乱してくるのだから、困ったものである。本当は刹那的には困っていないのだが、それは胸の中に秘めとくものである。

 

『五十嵐が見たらば、血の涙を流して盗んだボード(姉貴ボード)で、公道走り回るかもね』

 

 などというエリカの評は間違いないだろう。日中であればあったはずのサングラスは無い。お洒落の度合いが少し下がっても、リーナの輝きは海の中でも色褪せない。

 

 

「きゃっ、もー……セツナのいたずらっ子ー♪」

 

「水に濡れた美少女とか絵になると思って、ぶっ! このっ!!」

 

「きゃー♪ 野獣に襲われる。これぞ『美少女と野獣』!!!……のはずなんだけど、ワタシタチに合う『タイトル』じゃないと思えるわね……」

 

「奇遇だな。俺もそう思う……。何かレオが東京の街中で芸能人と『ローマの休日』じみたことをしてこそ意味があるタイトルに思える」

 

 少しだけ海に入っての水の掛け合い。しょっぱい水を掛け合う『だだ甘』すぎる恋人たちの様子に、日中遊びまわっていた大半の人間が塩っ辛さではなく『甘さ』を覚えていたが、水の掛け合いを中断する事態に、何事かと思う。

 

 話題に出ていた西城レオンハルトはその声を聴けなかったが、ともあれ見学していた全員が怪訝さを覚えたが、それは一瞬の事。再びのだだ甘空間を形成。

 

 夕日が海中に没しようとしている中、砂浜を駆け抜ける男女。俗に言う『ワタシを捕まえてごらんなさい』をやる同級生二人。

 

 ベタすぎる―――が、この北山家のプライベートビーチの端から端へと至ろうとする駆けっこを見ていた面々……決して見えなくなるわけではないが、何となく目で追っていないと、どっかで『致そう』とするのではないかと監視の目を緩めないでおいた。

 

 

 などと言っていると、ここ最近では珍しくなくなっていた流星―――デブリの残骸が大気圏で燃え尽きながら落ちてきた。

 

 ちょっとした空を彩るページェントに全員が空を仰ぎ、お互いを捕まえたらしき二人が抱き合いながら空を見上げていた。夕焼けの空に流れるそれを―――達也も見ているだろうかと、ちょっとだけセンチになっていく……。

 

 

 † † †

 

 

 百里基地に着いた達也は、大隊の隊長である風間から説明を受ける。今回の戦略級魔法の標的を―――。

 

 

「楽にしてくれ」

 

 敬礼をしていた達也が休めの姿勢を取ると同時に、防宙司令部の一室に備え付けられているモニターに光が着く。

 

 説明役はいつも通り真田大尉のようである。

 

 映し出されたのは地球の全体図ではなく、その『上空』―――『宇宙空間(そら)』におけるものだった。

 

 地球軌道と火星軌道のモデル図。その中間にある光点。それら三つを見ながら説明を受ける。

 

「火星公転軌道と地球公転軌道のほぼ中間宙域で、小惑星の不自然な軌道変更が観測された」

 

 風間の言う『小惑星』が、モデル図に示された光点であることは、すぐに分かった。

 

「不自然、と言いますと?」

 

「軌道が突如内側に折れ曲がったそうだ」

 

 地球の公転方向に表示されていた光点が内側へ急激に軌道を変え、地球を表す円盤が四十五度ほど進んだところで光点と重なった。

 

「当該小惑星2095GE9、コードネームは『ジーク』。これが地球に衝突する可能性が高まった」

 

「確率はどの程度なのですか?」

 

「現段階で90%以上と計算されています」

 

 真田の答えに、それはほぼ確実に落ちてくると言うことだ。と断じる。

 だが如何に小惑星とはいえ、サイズ次第では燃え尽きる可能性がある。

 

 地球の大気層は、外宇宙からの『来訪者』をシャットアウトする最後の防壁なのだが……。ジークの直径が最長で120メートルもあるとすれば、その期待は薄い。

 

 何よりこの現象の不可解さ。

 21世紀に至る前から天体観測の技術は上がっており、地球に衝突する『だろう』軌道を取る物体は、何万光年も先から観測されているはずなのだ。

 

 それを覆すのは『超越的な意思』の介入を仮定しない限り、現代の人類が持つ技術での干渉を可能にするものは、魔法と言う名の『技術』以外にありえない。

 

「ジーク大気圏突入による破壊規模は『ツングースカ大爆発』に匹敵するか、これを上回ると予想される」

 

 1908年6月。シベリアのエニセイ川支流、ポドカメンナヤ・ツングースカ川上流上空で起こった隕石の空中爆発。その威力はTNT火薬換算で5メガトンに達すると推測されている。

 隕石の空中爆発としたが、22世紀に入ろうとしている現在も様々な学会で真相を完全に『これ』だと言い切れない科学ミステリーだ。

 

 被害規模は、当時のソ連の科学グループの調査を元に、最終的には広島原爆の300倍以上の爆発力だと証明された。

 

「更に悪いことに、ジークが空中爆発を起こす確率が最も高いのは東シナ海上空だ」

 

 隕石の予想落下軌道、爆発による被害範囲が表示される。

 

 三通りの軌道情報が出されて、その『ずれ』の中で、一番まずいのは南北ではなく―――日本海側にずれた場合だ。

 

「日本海側にずれれば、九州地方に甚大な被害が生じる。この事態を放置することはできない」

 

「はい」

 

 声に出して相槌を打っておく。確かに運まかせに出来る事態ではない。こと此処に至れば否も応も無かった。

 

「よって、大黒特尉に命じる。マテリアル・バーストを以て、ジークを破壊せよ」

 

 命令に敬礼で答えると、堅苦しいのに苦笑したのか相好を崩して風間は口を開く。

 

「すまんな。夏季休暇のバカンス中に、呼び出してしまって」

 

「そこはお構いなく。自分とてこの事態。放ってはおけませんから」

 

「藤林から聞いたが、遠坂君とミス・アンジーがいなかったそうだが」

 

「あの二人はUSNAに帰国していましたから、知人の結婚式に出ていてガン〇ムに襲撃されているのではないかと冷や冷やでしたよ」

 

 ガ〇ダムって何だよ。と真田と風間が汗を浮かべながら、達也の発言に驚愕した。

 要するに一番の『遊び相手』がいなくて暇ではないが、刺激が足りなかった―――そんなところだろう。

 

「もしかしたら、なんだけど……もう一つ違うものが落ちてくる可能性が高い―――こちらはUSNAのメテオスイーパーが対応するらしいけどね」

 

 USNAという言葉に真田が思い出したのか、ついでの情報を告げてくる。確度が高いわけではないが、それでも不味いものが変な軌道を取っているとの情報。

 

 USNAの廃棄戦略軍事衛星が緩やかに落着しようとしているとのことだ。その言葉に、達也は一瞬にして事態の『予想』を立てた。

 

 

「成程。ですが物事には『想定外』が付き物ですからね。―――そちらに関しては、『お手並み』拝見といきましょう」

 

 

 達也の言葉に『who is this?』とは、二人も言わなかった。そして達也の予想通りならば、USNAの戦略級魔法師の実像が見えるかもしれないのだから―――。

 

 

 


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