魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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今回の話はあるところで、ヘビリピで『Five』を聞いてくれていたらば嬉しいと思ったりなんだり、

ツッコミどころは多々あれども、読んでいただければ幸いな最新話。どうぞ。

休日はいいですねぇ。特に家にこもってのカンヅメ作業は、特にいいです。(爆)


第104話『Seconds――(fate)』

『あきらめるな。生きろ』

 

 強い意志を持った魔力の波動(こえ)だ。九人の中でも、一番の『力持ち』たる15番目のシリアルナンバーでありながら、『四亜』(しあ)と名付けられた子は、その声に持ち直していく。

 

 己が己でなくなる様な感覚。機械の中で、全てが混ざり合う中でも自分は、『四亜』であると自我を確立しながら、他の『姉妹』たちを叱咤できるぐらいに、意志を立て直される。

 

 それが魔法式の『安定』を齎す。つまりは実験は―――。

 

(シア! あまりがんばり過ぎるな!! 君がこれ以上やれば―――)

 

 江崎という自分の担当官が、機械の外から声を発する。以前は妹がいたと話すその人が、四亜を見る度に涙を流すこともあったことを思い出す。

 以前語ってくれた通りならば、江崎の妹が、魔法の制御に失敗して事故で死んだことによる『哀れみ』である。

 

 そうだと分かっていても、今はこのチャンスに懸けるしかないのだ。

 

(九亜。もう一つにも『飛ばす』よ―――)

(うん。きっと来てくれるよプラズマリーナは!)

(プリズマキッドもね。だから今は―――)

 

 この実験を『滅茶苦茶』にするだけだ。

 その二人に追随するように『一亜』(ひとつ)『二亜』(ふたつ)……姉妹たちは、文字をひっくり返して『あい』、『にあ』と呼んでいるのも続いてくる。

 

 大型の機械。CADの中に収められて、脳を同一にされても、『私はここにいる』と、星を呼ぶ少女達の必死な叫びが―――宇宙空間にある金属の塊に干渉を掛けた時―――。

 

 

 ―――刹那は覚醒を果たした。

 

 北山家の別荘。それぞれに広々とした個室が用意されており、寝汗を掻くことも稀な空調の中でも寝汗を掻いていた。

 

 必死な叫び。そして見えてきたビジョン。

 鳴り響く端末のコール。時刻は既に深夜を回っていた。窓辺から覗く月と星の輝く夜空を確認してから端末のコールに答える。

 

 そして、バランスからのエマージェンシーに応えるべく即座に準備を整える。

 

「オニキス」

『ああ、キミにも聞こえるよな。私にも聞こえたよ……待っていたまえ!! 『マシュ』な子たちよ!! この万能の天才が、君達の元に行くのだから!!』

 

 

 オニキスの宣言に力強さを持ちながら、いまはまだだが、現在は少女の『願い』に応じて、落ちてくる『戦略軍事衛星』を叩き潰す。

 窓を開け放ち、基礎的な魔術で砂浜に着地。自分が落ちると同時に、他にも同じ音が聞こえた。

 

 自分と同じく窓から飛び出たリーナ。エマージェンシーコールか、それとも……分からぬが、金髪の髪を解いたままに出てきた彼女と、やるべき事は一つだ。

 

 

「迎撃ポイントは、ここから近いわ。飛べば一瞬」

 

潜水艦(ニューメキシコ)を呼び出すほどではないな。待機させておいてくれ」

 

「オッケー……では行きましょうか」

 

 端末を操って、恐らく総隊長権限で『WAIT』とでも打ったのだろう。権力の濫用を見ながらも―――。オニキスは、滞りなく準備をする。

 

 多元転身の準備をする魔法の杖。並行世界から多量の魔力を伴っての、それは久々のものだ。

 

『長い間。真なるプラズマリーナを読者(?)の皆様方に見せられなかったが、私が来たからにはもう安心!

 私が思うカレイドライナーは二人で一人。盾のサーヴァントと補欠(最高)のマスターのように、青と赤の光の巨人がいるように、私色に染めあげよう! ルーブ!!(?)』

 

「コンパクトフルオープン!」

 

「鏡界回廊最大展開!!」

 

 片手を夜空に伸ばしながら叫び、もう一方の片手を繋ぎ合わせた男女の衣装が寝間着のそれから変わっていく。

 

Die Spiegelform wird fertig zum!(鏡像転送準備完了) Öffnunug des Kaleidoskopsgatte(万華鏡回路解放)!』

 

 受けた魔法の杖が、最後の転身を完了させる。

 

 刹那が変身したその姿は、プリズマキッドの最後の活動となった際の格好。仮面を後ろに回してモノクルにシルクハットの素顔を見せながらも、決して誰かは分からない白いタキシード姿の魔法怪盗…。

 片やリーナの姿も初期のプラズマリーナの衣装と少し違って、全体的なフォルムは同じなのだが、全体的にピンクを基調としたものとなり、露出度は減だが、より『怪盗らしいフォーム』になった。

 

 一部ではプラズマリーナがキッドによって『悪堕ち』された結果なのだと、純粋なプラズマリーナファンを嘆かせたが、ともあれ―――二人は魔法怪盗としての名乗り口上は忘れない。

 

 

「愛と正義と自由を司る星、輝けるシリウスの下に生まれし美少女魔法怪盗プリズマリーナ・ツヴァイ参上!! 愚鈍な男と泥棒猫は許せない!! 愛と怒りのマジカルシャワー落とさせていただきます!!」

 

「世界に神秘あり、人の心に謎あり、夜の闇に奇跡あり。万世のミスティックを秘蔵するため魔法怪盗プリズマキッドただいま参上。未来を生きるアナタの心に『永遠の魔法』を刻み付けましょう」

 

 

 無人の砂浜で、これをやっても意味は無いな。そう思いながらも、これこそ様式美。ポーズを決めて昂揚していた所に―――。

 

 

『さっ、二人とも楽しんだことだし、さっさとロックオン・ストラトスしにいこうか』

 

「「なんで真面目―――!?」」

 

 手叩きでの気付けのように、両側の羽を使ってのジェスチャーを加えて言ってくるオニキスに若干、納得が行かないものがありながらも、二人の魔法怪盗は、飛んでいくのだった。

 

 そんな様子を、兄の無事を祈って深夜まで起きていた深雪は見ていた。

 窓を開け放ち、若干の寝ぼけ眼で見ていたのだが―――結論としては――――。

 

「……見なかったことにしよう」

 

 昼間の遊び疲れも相まって、結局眠りに落ちるのだった……。

 

 

 † † †

 

 

 半球状の大型スクリーンの内部に立ち、スクリーンに映し出されるリアルタイム―――というには流石に、光が届くタイムラグがあるので、凡そ三分前の小惑星ジークが見えている達也。

 

 その三分前ながらも、自己にある『精霊の眼』と『第三の眼』という器具を用いて、『確実』な照準を付けた達也は、風間からの合図を待つ。

 

「マテリアル・バースト、発動準備」

 

 風間の声に、達也が第三の眼の銃口を完全に小惑星に向けた。

 達也の視界に『現在時間』の小惑星の姿が結実。『準備完了』と返すと―――。

 

「質量エネルギー変換魔法、マテリアル・バースト、発動」

 

「マテリアル・バースト、発動します」

 

 風間のGOサインを最後に、遙かかなた三光年分先の小惑星に対して、魔法式が投射されるのだった。

 

 引き金一つ引くだけで、隕石破壊作業が行われる。その凄まじさを前に風間は、これを覆せるぐらいの何かがあるというのだろうかと思えた。

 

 達也にはタイムラグなく『見えていただろう』隕石の破壊作業。凡そ2トンもの岩塊が、この宇宙から消え去る作業。

 若干遅れて、最大天測機器『ヘイムダル』から送られたものを見た風間は、いつものこととはいえ、若干の安堵をしておく。

 

 そうして達也に秘蔵の麦茶でも振る舞ってやろうかと思った時に、少しの事態の急変が起こる。

 

 USNAの戦略軍事衛星『セブンス・プレイグ』が、軌道を変更していくという情報。

 

「―――投射された魔法式は『2つ』だったのか……」

 

 未だに発信源こそ分からないが、どこの馬鹿かは知らないが……面倒なことばかりしてくれる。

 

「廃棄されたとはいえ、アレに搭載されている対地ミサイルは30発。その30の中には一発辺り二千発もの劣化ウラン弾を内蔵している。撃ち込まれれば、爆圧だけではなくこの上ない環境破壊兵器としての側面もある」

 

「撃たれますかね?」

 

「動力源が無いから、その辺りは大丈夫だろう……あちら側の最後の動作で、最後には太陽方向へとスイングアウトされる手はずだったが―――『時間』に余裕があるとはいえ、メテオスイーパーでは対処できないだろうな」

 

 USNAもこの事態を理解していないわけがない。もしも大気圏への突入コースでも取られていれば、劣化ウランによる地上に対する影響も考えなければいけない。

 

 その上で達也は、ガガーリンやアームストロング船長も越えた偉業を為す。

 宇宙空間に『生身』で存在しながら『分解』を叩き込む作業になっただろう。

 

 クドリャフカだかライカだか、ジョゼフ・キッティンジャーもビックリの作業をしなければならなかったが―――。

 

「USNAから緊急コール。こちらの回線に割り込んできます!!!」

 

『射撃場』にいた電子の魔女たる『藤林響子』が驚くほどに、手際がよい方法で聞こえてきた声は、どこの誰であるかを示さなかったが―――ともあれ事態を掴んでいるようだ。

 

『そちらからすれば、夜分だろうが、いや実に遅くに失礼。どうやら、そうとう切迫しているようだが、この一件は、この万能の天才が預かった!! 

 十の災いの一つ。七つ目の災いの処理は私が担当する。干渉、手助け、一切無用! というわけで、肌を悪くしないように早めの就寝を提案しておこう。以上!』

 

 一方的な宣言。そしてこちらの言葉を一切入れずにまくし立てるような言いざまに、達也を除き誰もがポカーンとした。

 

 そして一方的に回線を切られたことで、逆探知も出来なかった。

 

 だが、達也は何となく『誰』であるかを理解していた。理解していたからこそ『下手人』が誰であるかを理解していた。

 

「天測しましょう。USNAの戦略級魔法師の手際―――見えるかもしれないんですから」

 

「あ、ああ……ヘイムダルへと繋げておいてくれ。藤林」

 

「了解です」

 

 その言葉で、何となく仕事の再開となる。

 急激な落着コースを取ろうとしているセブンス・プレイグ―――十字教の人々を受け入れなかった古代エジプトに襲い掛かった、十の災いの一つを処理しようと言うのだ。

 

 見せてもらおうか。連邦に逃げ込んだ古式魔法の真髄とやらを! 俺の中の人(?)のセリフを奪った甲斐を見せてもらいたい。

 

「あのー達也君……言うのは野暮だけど最近、ものすごくボケたキャラになっているよね。

 以前の真面目一辺倒な君よりはいいのかもしれないけど、大隊一同なんかこう複雑だよ!!」

 

 なんか真田さんが言っているが気にしてはいけない。そしていつか真田さんには『こんなこともあろうかと』とか言ってもらいたい。

 

 そんな風にして友人の手際を見せてもらうことにするのだった。

 

 

 † † † †

 

 

『時間が無いわけではないので、安全策で行こう。リーナ、私を成層圏まで飛ばせるかな?』

 

「人間ほどの『質量』をオニキスは備えている訳ではないから、問題ないけど―――どうするの?成層圏では目標の人工衛星は見えていないわよ?」

 

『そこは、まぁアレだな。ご主人たるマスター・セツナの『懐』の為にも、ちょーーーと『細工』をしてくる。アレをただ処理したのでは若干もったいないからね』

 

 オニキスの言葉で「ああ、そういうことか」と感じる。

 刹那としては『第二』の真似事―――大師父の偉業の一つ。無尽エーテル砲で撃ち落としてもよかったのだが……。

 

 そんな風に刹那が『残念感』を感じていたというのに、リーナだけは違っていた。

 

「しょうがないわね。遠坂家の後継者は、次代の子孫の為にも財を備えておくのが(セオリー)なのよね。ならばワタシとワタシの子供達が楽な生活するためにも、たんまり稼いでもらわないと」

 

『いやー、まだ15.6歳なのに良妻賢母だねリーナ。世の女性が見習うべきものだよー』

 

 身体をもじもじさせながら語るリーナ。事実とは言え、何となく納得が行かない。

 このこのっ!とでも言わんばかりに羽を肘に見立てて、刹那の腕を突いてくるオニキスに『なんでさ』とか言いたくなる。

 

 ともあれ、ジョゼフ・キッティンジャーよろしく数秒もしない内に、魔法の杖―――その基部のみが宇宙空間に飛んでいく。

 

「戻ってくる時は、どうするのかしら?」

 

「俺が『呼び寄せれば』いいだけだ。では―――奴が帰って来るまでに、準備しておくか」

 

 

 棍棒のようなごつごつした得物。知らぬものが視たならば、一見しただけでは分からぬが、それが真正の『魔法の剣』であることなどこの場にいる二人には分かり切っていた。

 

 小笠原諸島から随分と離れた海域。

 その島や岩礁すら見えぬ『真黒な海面』から然程離れていない所に、『魔法陣』による足場を形成して佇む魔法怪盗たちは、オニキスの吉報を待ちながら調整していく。

 

 

 10分……経ったかどうか分からぬ時間で――――来たようだ。

 

「コール!!!」

 

 杖を手に―――オニキスを呼び寄せる。宇宙空間からの『転移』を果たすオニキス。放射線などの変質は見えていないが―――着いた途端、『ぶへぇ』などと息を着く様子。

 

 どうやら相当な難事であったようだが、それ以上に『何か』を見たかのような様子。

 

『やれやれ。星、そして呼び寄せる。喚起、そして衰退した文明。汎人類史から枝分かれした異聞史……分かりやすすぎるな。船を撃ち出す前段階に至っているね―――』

 

「え?」

 

『いや、なんでもない。今は気にするな―――『降臨』すれば否応なく、どうにかしないといかんのだからな』

 

 

 何を見てきたのか分からぬが、少しだけ汗を掻くオニキスに疑問符を持つが、ともあれ―――『魔法』の準備をする。

 

 持ち上げた宝石剣ゼルレッチと飛んでくる黒いカレイドステッキが合体を果たして、凡そ魔法の現象としてはありえない『得物』が、刹那の手の中に、確かな形で『結実』した。

 

 

『コンパクトフルオープン、鏡界回廊最大展開―――オールライト! いけるぞ!!!』

 

「―――カレイドアロー、魔力最大装填!! 星間宇宙の衛星を狙い撃つぜ!!!」

 

 左右にある翼の翼端から張り出している弓弦を引っ張る刹那。

 

 大気の空を超えて、『宇宙』(そら)へと照準を着ける偉業。

 

 ―――星を撃ち落とす日。

 かつて(のちに)異星からの来訪者を撃ち落として、恋に落とさせた『偽神』のごとく―――その様子。嵐の中心にいる刹那の姿。

 

 あの時、何故―――ノーブルファンタズム(貴き幻想)を使わず、これだったのかを聞いた日―――いやそれ以前から、リーナは刹那に恋をしていた……。

 

 その姿を今度は間近で見ておく―――これが彼の輝きなのだと……。

 

『見えたな!? ぶっ放せ!!!』

 

「全力射撃、まとめて吹きとべ!!!! オーロラサークル発動!!!」

 

 虹色に輝く目が睨んだ通りに、解放される弓の一撃であり『虹色光柱』の輝きは、圧倒的な威力で以て大気層を吹き飛ばして宇宙空間にある巨大な衛星に着弾。

 

 先に行われた達也の静かな戦略級魔法の発動に比べれば、何とも大味なものだが、着弾した瞬間。遅延で発動する魔術式。

 

 幾つもの大中小の魔法陣が輪切りにするように、全体に差し込まれて、歪みを来すセブンス・プレイグ―――。

 攻撃衛星としての機能を奪われたがゆえの最後の抵抗か、それとも……。

 

 ………その映像を『第三の眼』を用いて、リアルタイムで見ていた達也は、その結果を見ていく。そして聞こえる声……。

 神秘を『糾す』言葉が、耳朶を撃つ。

 

「―――聴け、万物の霊長 ―――告げる(セット)

 

 聞こえる声は達也の『幻聴』かと思うぐらいに、他には聞こえていない様子。情報次元にアクセスできる達也にだけ聞こえているような錯覚は間違いではなかったようだ。

 それはまごうことなく法則も、理も無視したもの。この世界における『魔法』とは別次元の『魔法』

 

 仮に魔法(ぎじゅつ)を人智であり世界であると称するならば、この魔法(まほう)は埒天涯の孤独である……。

 誰にも理解されない―――空想の具現化。そう達也は断じれた……。この魔法は、ロマンチックな表現をするならば、『(てん)(そと)の神の摂理』。

 

刹那(とき)を示す我が()において告げる」

 

 

 ……巻き戻しを許さないはずの『世界』に挑む業、人にも星にも含まれない(わざ)を、地上の誰が『奇跡』と呼ぶのだろうか。

 

 讃え、尊ばれない可能性の具現。されど刹那は世界に挑む。この『星』が、地上に落ちた『世界』を幾つも視た。

 この『可能性』が無かった世界を幾つも視た。『黒き魔王』がソラに佇み、撃ち落とすものも視た。

 

 正直言えば―――任せといても良かったかと思うのだが、挑んでしまったのが自分なのだから仕方ない。

 

「―――全ては(All) 違えて(fate)―――可能性は、(seconds)世界(ここ)から排除される」

 

 だから最後まで戦う。落着する星に付随していた『願い』も聞き届けた。明白な罪科であろうと星を敵に回す不遜の下―――魔法の蓋が開けられた

 

 刹那の無言での宣言通り、―――この領域、この時間軸、この『一瞬』にだけ―――第二の魔法が顕れた……。

 その瞬間、達也の眼に『赤い空』をした地球が見えたことで、声を上げて眼を抑えた。

 

 出血するのではないかと思う程の痛痒。『魔法使いのペテン』を見抜こうとした罰だろうか。

 痛む眼を抑えて達也は何とか見ようとしたが、その時にはセブンス・プレイグは、完全に『消え去っている』という結果を響子から聞いた。

 

「達也!!!」

 

「大丈夫です。ったく―――ここまでやるとは……」

 

 即座に眼のコピーが再生されて十全の身体となったが、これが……戦略級魔法『番外位』―――『極()砲』またの名を『オーロラサークル』の真価であると気付いた。

 

 ただ単に『破壊力』としてサイオンの塊を叩きつけたわけではない……。その真価は、望むものを『取捨選択』出来ると言う点にある……。

 

「藤林、真田―――観測結果は?」

 

「セブンス・プレイグ―――その質量全てが消滅しましたが……分解魔法とも違いますし、何と言えばいいのか―――」

 

「……この『宇宙』から丸ごと『セブンス・プレイグ』分の『質量』が消え去った―――そんな辺りが、適当な表現だと思います」

 

 藤林の困惑した言葉に、記録映像をリプレイした達也が、そういった表現を使っておく。使ってから即座に開発中のスーツを用いて連中の元に行こうと思い立つ。

 色々と問い質したい気分だったからだが……その前に、報告書作りがあり―――どうやら拘束を抜け出るのは、難しかった。

 

 そしてセブンス・プレイグが、『居なくなった』影響ではなく……『本来』ならばあり得た光景が、世界を『正す』ために、『結果』を再構築した。

 

 本来ならば、とんでもない近距離で分解されるはずだったセブンス・プレイグ。陽子と電子の放出が、大気層の空気を電離させ、オーロラを生み出す。

 

 そういう『結果』が、衛星の本来のあり方だった……。

 

 小笠原諸島近傍に突如現れた光のカーテン。どんな人間でも、その美しさの前では感嘆を禁じ得ない。そして、それがある種の世界のペテンゆえであることは誰にも気づかれない。

 

 真夏の奇跡。誰かからの贈り物―――地球の極点でなくとも見えたそれを―――九人の『アニムスフィア』は見た。

 

 研究員の中でも自分達に優しい人達が、外の世界―――……レクリエーションルームから見える星空、月夜以外の美しさに誰もが心を奪われた。

 

 

『生きろ。この世界は、綺麗なのだから』

 

 そういうメッセージを受け取り、明日も生きようと想うのだった……。

 

 

壮観(ダイナミック)ねぇ、こんな光景を真夏の夜に見せるなんて、本当にロマンチストなんだから」

 

「俺が起こしたわけじゃないさ。本当ならばあり得た結果を『世界』が再生しただけ―――余計な『お節介』のツケだな」

 

 言いながら魔法陣の上で座り込む刹那に同じく座りながら寄り掛るリーナ。上空には虹色の光のカーテン……見上げる二人の恋人たちにとっては最高のページェントだった。

 

『その結果として、この二つの『器物』を手に入れられたのだ!! さぁ後でジニ―お嬢ちゃんに高値で売り付けてやれ!!』

 

 とんでもないことではあるが、あの瞬間……疑似的な『魔法発動』―――『逆光運河・創成鋼剣』……刹那なりの秘中の秘。

 エミヤの刻印も用いて、出来上がる『魔法もどき』でセブンス・プレイグという『破滅概念』を『武装』にしたものが、二つも刹那の手元にあった。

 

 何が出来上がるかは刹那と言えども『分からない』。分からないからこそ出来上がったものが、あのセブンス・プレイグだったなどと傍から分からないものに変わることもあるのだ。

 

「バランス大佐に高値で売り付けるか……なんか『弓』が持っていたロケットランチャーだか、パイルバンカーに似ているし―――」

『きっとアレだね。名前が名前だから、転生批判の完全数を連想しちゃったんだよ♪ 刹那のイマジネーター、アーティスト根性』

「芸術はバクハツなのよね!?」

「お前ら二人とも岡本太郎画伯に謝れ!!……さてと、んじゃ帰るか―――バランス大佐からは何かある?」

 

 その言葉で端末を操るリーナ。どうやらあちらでも結果は観測していたらしい。

 

「アッパレ! もう一つ序でにアッパレらしいわよ―――これで星を呼ぶ少女(アニムスフィア)たちの救出が早まれるはずだって」

 

 連中……南盾島にいる研究所の連中は、今ごろ泡吹いて倒れているはずだろう。自信満々で放ったものが二つとも迎撃されたのだ。

 データを取るという意味では、良かったかもしれないが、そもそも軌道離脱まで出来てこその隕石爆弾だったのだろうから……。

 

 しかも、あそこまで盛大な焚火を刹那は打上げたのだ。何を目標にして『撃たれた』のか、そして何故『小笠原諸島付近の海域』なのか?

 

 様々な疑問が、日本の魔法師達の注目を、ここに集める……それだけで巣穴を燻された穴熊の如く出てくることもあり得る。

 

 そういう手筈だ……。恐らく達也は、というより日本の国防陸軍は、あの島が違った意味での『アルカトラズ』であるとは知らないのだろう。

 

 そして、それが宣告されたかのように、夜明けの南盾島に様々な動きが出るのだった……。そこにて刹那とリーナは、星を呼ぶ『ツインスター』と出会うのだった……。

 


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