魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
まぁ一万字も詰め込むのはよくないなと思いつつ、新話どうぞ。
逆光―――歌詞を見ながら聞くと、本当に色々と感極まる歌だ。真綾さん最高!
第1話『魔法使いの昔話』
「と、まぁ―――そんな感じで偽装していたわけだ。君達風に言えばBS魔法だかSB魔法だかに属するのかな?」
「むぅ。そんな手で偽装していたなんてズルいわ。本当にあなたがプリズマ『キッド』じゃないとか、考えていたんだから……」
部屋の中にいる少年と少女。少年の方は少女に問われた―――いわゆる二大怪人の激突の野次馬の中に何故少年がいることが出来たのかを答えた。
「遠坂家のシンボルは宝石。その中でもいわゆる『幻像』を込めることができる相似石を用いた魔術『対影』で、君とUSNA軍の眼を誤魔化したわけだよ」
元々、その魔術はフィンランドの宝石の名家―――エーデルフェルトの『双子』たちが用いたものであり、本来の目的は双子の『感応』を用いた術式制御の連携の為のものであった。
爆発的な『魔力』と、偏執的なまでの『構築力』で大術式を完璧に行うためのものだったのだが……その当の天秤の一族はあることが原因で『仲たがい』をして、この魔術は失われた……。
はずだったが―――何の気紛れか、そのエーデルフェルトの家の後継者とウチの母親、その妹―――『叔母』も交えてこれらを再現。
更に言えば、『単体』でも運用可能なように術式をあれこれ改良。研磨していけば、『三つ子レベル』の『掛け算』術式も可能なのだ。
かの湖の死徒、ノルウェイを拠点としていた蒐集鬼ルヴァレに『届く』ほどのものが出来る。
(ルヴァレの三つ子―――それと同じく『三人』にはエーデルフェルトの血が入っていたんだろうな……)
はっきりとしたことは分からないが、恐らく母の祖母こそが正しく原因だ。転じて叔母にも才覚があった―――。
(ただなぁ……まぁいいや)
なんかそこから更に『仲たがい』の原因になりつつあった『父』のことを考えると―――『泥沼』であった。
「? どうかしたの?」
「いや、何でもない。まぁともあれ―――そういった魔術で虚像の幻像で誤魔化していたわけだよ」
自分を下から見上げてくるリーナの姿は、そんな『母』と『母の親友』を思い出させて、危ういところが『叔母』を感じさせる少女だった。
というかこの子は意識的なのか無意識なのか妙に男心をくすぐるようなことをしてくる。
勘弁してほしい思いもある。
「けれど
「さぁね。ただそう言う風に教えられてきただけだよ……俺としてはリーナみたいなまだ小学生程度の子が軍隊に入ってることの方が驚きだよ」
「やっぱり……そう思う?……」
「表向きは人道と人権を重んじる『合衆国』の国是からすれば、少し的外れじゃないかな?」
とはいえである……。未成年者が戦場に出るにあたって山ほどあるだろう倫理規定をするっと無視できるのもまた民主主義における個人の意思決定の範疇だからだ。
強制的に徴兵されたならばともかく、自発的に入った人間を止めるのは筋違い。もっとも色々とやかましい人権団体などはあれこれ言ってこようが……。
それでも他者が下した判断を尊重するというのは、結局の所リベラリズムの発露であって、それ以上は無いのである。
「そうよね……けどこのUSNAにおいて『魔法技能士』だけはちょっと違うのよ―――他の国、特に日本ではもう少し『リベラル』な態度らしいんだけどね」
掻い摘んで聞く限りでは、このUSNAにおける魔法師の扱いは確かに―――『悪くは無い』。異能力者たちを一堂に集めて、軍人として教育する。
特にリーナなどのように幼いころから、『センス』を見込まれた人間にはスカウトが強まる。無論、入隊するか否か最終的には家族や自分の意思次第ではあるが―――。
「私の場合、祖父が強力な魔法師の弟で、まだ今よりも小さい頃からそういった事を学んできたの、パレードっていう『身体変成』の魔法も学んだわ」
ベッドを備えた場所。その側面―――壁に寄り掛る刹那に倣うようにして同じくしてくる体育座りと俗に言われるが、それよりも楽な姿勢でいるリーナは、懺悔をする罪人のようだ。
「祖父の兄もまた軍人だったわ。私も軍人になりたいと思えるぐらいには、憧れもあった。魔法師が一番に活躍できるのも軍隊だから―――だから、この道は私が決めた事なのよ。それにあなたの国と違ってアメリカは『兵隊』に尊敬がある国だもの」
「分からなくもない理屈だ。ダグラス・マッカーサー、ドワイト・D・アイゼンハワー、ジョージ・パットン―――確かに軍人のエリート家族というのは珍しくないな」
だが―――本当に彼女に『出来るのか』?
自分とて『バゼット』と共に様々な災禍の地に降り立ち、多くの死を見て、多くの死を与えてきた。
陰惨、酸鼻極まるその状況に―――何度か『胃のものを吐き出した』。魔術師としては堕落である。魔術師とは既に己が死を纏った存在であることを自覚すべき存在だ。
例え、己が手を下さずともその生涯は血に塗れている。そういった人生である。
「それならば、今回の事で君はどう位置づけられるんだろうな。私見だけど事務方にでも回った方がいいと思うよ」
「失礼な! ちゃんと軍人としての評価は上がったわよ!! 実戦部隊に配されるわ」
それに対してあれこれ言えることはある。厳しい現実を突きつけることも出来る。だが、それは少しばかり『大人げない行為』に思えた。
地獄を知っているから行くのをやめておけというのは老婆心であり最終的な警告だ。
だが先に思った通り。最終的な『決断』は―――リーナ自身に委ねられているのだ。
(ならば、その『手助け』ぐらいはオレにも出来るか―――)
「セツナ?」
こちらを見つめ返すリーナ。無論、刹那が見ているからこそだろうが、その青い瞳―――星の輝き。スターベリルにも似たそれを濁らせたくない。
「――――ん」
自然とその頬に触れていた。触れられたことで小さく声を上げたが、触れている手に自分の手を重ねてくるリーナ。
この頬に血濡れの跡などを誰が見たいものか―――。そう感じるほどにこの数週間の思い出が刹那の頭の中に再生されていた。
そんな風に少しだけ穏やかな時間が流れようとした時に―――。
「失礼、上司の用意が整ったので呼びに来たのだが―――出直した方がいいかな?」
「捕虜に対する格別のもてなしに、これ以上は罰が当たりそうだ。構いませんよ―――」
ベンジャミン少佐が扉を開けて入ってきた。この一応の士官室にて待つよう言われた刹那としては、牢屋に入れられないだけいい対応だと思えていた。
リーナからぱっ、と身体を離してベッドから立ち上がる。対するにリーナは少し膨れた面だが、流石に上官にブー垂れるわけにはいかないのだろう。
同じく立ち上がる。
そんな二人を見て、少佐は少しだけ苦笑をする。
「訂正させてもらうならば君は捕虜ではない。我々にとって『ゲスト』だ。無体には出来ん」
「持ち上げても何も出ませんよ。どうせ監視と盗聴はされていたでしょうからね」
当たり前の如く、反応を窺うと再びの苦笑。まぁそんな所である。別に知られても問題は無い。
問題は―――。果たしてあちらがこちらの言い値で買うかどうかだ。
それでダメならば――――。
『やめときなよー。いくら何でも現地協力者も無しに何でも好き勝手やろうだなんて、それどんなケンカ犬だよって話』
「……やんないよ。多分」
思念で語り掛けてきたオニキスに、同じく思念で返しておく。事前交渉をやっていたオニキスが、どれだけのことが出来たかにもよるのだが―――。それはともかくとして。
流石にボストンから移動して現在地アリゾナ州フェニックス――――実に北米大陸を横断したも同然の距離である。
正しく『イ・プルーリバス・ウナム』だ。
ここまであれこれ慎重をようしてやって来た人々の苦労を考えると少しだけ躊躇う気持ちもある。
最初はニューメキシコ州のロズウェルに行く予定だったのだが、何があったのか、ここリーナなどスターライトと言うスターズの候補生たちを擁するスクールに来ることになった。
かつかつという靴音だけが響く廊下を歩いていく。無機質な感じを受ける―――まるでSF作品に出てくる戦艦の通路を思わせる場所を歩きながら、一つの扉の前でベンジャミンが立ち止った。
「―――ここは……!?」
「そう。セツナ君―――口頭での理解は達者だが、この部屋の名前は分かるかな?」
リーナの驚いた声に従い、少佐に言われる前から扉の上にあるプレートを読んでいた。
「査問委員会と書いていますね―――魔女裁判に掛けられるわけか……」
「『いいや、中にいるのが『魔女』だ。慎重に進みたまえ』」
奇しくも、少佐とオニキスの声がリンクした。それだけで事態を読み解く。
「失礼致します。お客人を連れてきましたバランス大佐」
「通してください。些か疲れていますが―――粘り強いネゴシエーターでした」
オニキスはどれだけ話したのやら―――扉越しとはいえ、バランス大佐の疲れた声は真実であった。
その言葉の後にベンジャミン少佐の先導によって―――入り込むと、そこには見知った顔もいれば見知らぬ顔もいる。
リーナの表情の変遷から察するに、これがUSNAの最精鋭魔法師部隊の全戦力―――オールキャストということだろう。
正面のロッキングチェアに座り込みながらも姿勢を崩さずに見てくる美麗の女性。
佇まいはどことなく冷静に見えるが、それは上辺だけかもしれない。年齢は30代かもしれないが40代にも見えるかもしれない。
化粧で誤魔化しているのはデスクワークが長いからだろうか―――ともあれ、そこにいたのは―――確かに魔女であった。
「初めまして、異世界の魔法使いさん。長い肩書を省略させてもらうが、私がスターズの事務方のトップ『ヴァージニア・バランス』だ。以後お見知りおきを―――早速だが掛けてもらって構わないよ」
見るとバランスの対面には同じようなチェアがあった―――4mほど離れてそこにあるものに刹那は近づく。
そして―――。
「―――」
無言で虚空に『ハガル』のルーンを描くと、ばきゃっ!という音でチェアが崩れた。そして―――。
「―――」
『蘇生のルーン』の変形を描くことで、椅子を直してから『余計』なものを外す。
「お返ししますよ。同時にこれが真摯な交渉になることを願います」
「やはりこういった搦め手は利きませんね。またもや疲れそうですが―――。まぁいいでしょう。掛けてください」
程度の低い毒針―――肘掛に触れると同時に出てくる類を、薄く笑みを浮かべるバランスの足元に投げ放った。
こんなことしても、「これぐらいで済む」―――もしも時計塔の『女王』。『ザ・クイーン』なんぞにやろうものならば―――。
『不敬というのは罪。それを知らぬは更なる罪―――愚行を悔い改める暇も与えず疾く去になさい』
などとあの乗馬鞭で打擲されて死ぬだろう。つまりは―――あの女のような上役よりは全然怖くない(泣)という何の慰めなのかすら分からぬものを肝に命じながら刹那は戦いに挑むべくチェアに堂々と腰掛けるのだった。