魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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休日を利用しての連続投稿。

ちと長すぎて場面転換も多すぎますが、実際、特典小説でもこんな風な転換の仕方なんですよね。

カットしたり改変したんですが―――長すぎて読みづらければ、少し分割しようかと思います。


第105話『夏休み 双星のわたつみ』

 夜明け前に、いよいよ『この事態』を利用することが絶好のチャンスだと分かった研究員たちは最後の話し合いを持つ。

 

 あらゆる監視状況が取り外された三番目。三亜(みあ)の部屋にて、『江崎』『古田』『盛永』たちは、話し合う。

 小惑星ジークが、陸軍が秘蔵している戦略魔法師に消滅させられるのは当然予期していたが、それでも第二の本命たるセブンス・プレイグまで消滅させられたのは想定外だった。

 

 陸軍の魔法師がどうやってジークを消滅させたのかは、はっきりとは分かっていないが、セブンス・プレイグに対する干渉は、小笠原諸島から近い海域で行われた

 

 そういうところで撃ち落とされたのだ。はっきりとした光柱の発生。魔法師であるならば、分かる―――否、魔法師でなくても届くかもしれない強烈なメッセージ。

 

 かつて、セイレムにて観測されたものと同じ波形―――それが研究所を騒がせていた。

 

 オーロラ・サークル……戦略級魔法の番外位(EXTRA)、それが伝えたのは多分―――。

 名も知らぬ魔法師のメッセージに急かされるように、彼らは最後の話をする。

 

「サンタナに出来るのは、モールに連れ出すまでです。彼の母国は輸送手段を用意出来なかったそうですから」

 

「ココアだけでも脱出させた上で、この実験を止めるためには―――どこかの権力者に、この事態を糾弾させなければいけないんです」

 

 20世紀の頃、モロッコにて起きたあるクーデターからの監禁事件の顛末にて脱出出来た『マリカ』のごとく……。

 

 それこそがこれまで話されたことの概要である。だが、誰もが権力者との『渡り』を着けられなかった。

 如何にこの研究所に招聘されるほどに優秀な人間と言え、国外や国内の―――軍と一種の政治的対立をするだけの勢力とのパイプは無かった。

 

「ミア、大丈夫かい?」

 

「はい。古田先生……ココアとシアがだいぶ、請け負ってくれましたから、あの二人がきっと……見つけ出してくれるのだから」

 

 言うミアの容体は、あまり芳しくない。そしてあの男……『ミスター・アイズデッド』が、次なる標的としたものへの投射実験も、近々始まろうとしているのだから。

 

 手を握り、意識を保つように、ここにいるよ。と……亡くなった娘にやるようにしたことで古田は思わず泣いてしまった。

 

 何故だ。兵器である。実験動物である。作られた人間である……そうであるならば、何故こんなに可憐な存在に作らなければいけないのだ。

 犬、猫、カラス……畜生に対する慈しみが持てないわけではない。だがそれ以上に、同じ姿かたちをしていては、そんなことに使うことじたい躊躇してしまう。

 

 ただの兵器に使うならば、まだ違う動物でも良かったではないか……。

 

「古田さん……」

「盛永さん。七草家に助けてもらうことは出来ませんか? アナタはかつて七草家次男の講師をしていたこともあったと聞いていますが」

「七草君にですか……しかし、私は一介の講師でしたし、彼が卒業する前に大学を離れましたので」

「それでも―――赤の他人ではないはずです。七草家の助力が得られれば、他のみんなも助けられる可能性が高い」

 

 古田の気持ちが、他の2人、そしてここにはいない担当官たちにも分かっていた。だからこそ一縷の望みを持つにはそれしか無かった。

 そして盛永としても、可能性は薄いがそこに賭けるしかないと想った。もはや藁にもすがる想いで、七草家次男―――七草孝次郎に連絡を取る盛永。

 

 私室にて使えるプライベートアドレスを用いての通信。軍部にも探知されないそれで祈る思いで、待っていたら、すぐさま返信が来た……。

 

『私自身は手が離せないので、協力は出来ません。しかし―――私以外の協力者が、小笠原にいますので、私の方からも『そちら』に話を通しておきますが、先生の方からも『こちら』に一報をお願いします』

 

 予想外に好意的な返事。

 そして『そちら』と『こちら』という単語と付随しているメールアドレス。暗号化キーの類。

 端末に『七草真由美』という人物が表示されたことで、大急ぎで暗号文を作り、真由美宛てに送信した……。

 

 

 † † † †

 

 

「ちょっと十文字君! 起きて!!!」

 

 ドンドンとあからさまにマナー違反極まるドアノックをホテルの部屋にする女。本来ならば、遮音・防音の類がかかっているドア越しに響くとは、魔法を使っているなと感じる。

 

 気付くと同時に、深夜に不意の目覚めをしてからクラシックを聴きながらの二度寝をしていた克人は完全に目覚める。

 

 時刻は朝―――。七時前。学生の本分としては正しい起床時間ではあるが、現在は高等学校の生徒としては最後のモラトリアムの一つ、夏休み。

 

 つい数週間前までは富士山を臨む場所において熱く激しく競い合う魔法戦を演じてきた克人ではあるが、こうして惰眠を邪魔されるとは、思っていなかった。

 

 だが―――七草真由美の様子が、少しばかり違うことに気付いて軽く身支度してからドアを開ける。

 

 電子式の開閉装置。それをオープンにすると、焦って飛び出るような形でつんのめる真由美を受け止めた。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ、ごめんなさいね。それよりも―――緊急事態よ。これじゃない? 師族会議で話題に上っていた事って」

 

「―――!……アポイントメントを南盾島基地に取っていたが、それよりもこっちの方が重要だな」

 

 このホテル―――小笠原諸島・父島にあるところに泊まっていたのは、何も七草真由美を気分転換に誘い出すためだけではなかった。

 十師族としての役目。即ち不当な扱いを受けている未成年魔法師に対する調査。

 

 有体に言えば軍のモルモットになっている魔法師を見つけ出すことこそが、克人がこの小笠原諸島にやってきた理由である。

 

 現在の新入生、あの騒がしくも色々と眼を離せずに、それでいながらも楽しい一年にしてもらえる『最悪の世代』たちが入学する寸前。

 

 横浜にて軍から脱走した強化措置を施された魔法師が起こした事件から、協会及び師族はこれらに対する監視を徹底してきた。

 如何に自由意志の下で強化措置を受けたとはいえ、その後のケアもほったらかしで、あのような事件を起こされては魔法師全体の心証にも関わる。

 

 よって―――師族会議において、現在の師族メンバーの関係者……親族に、一定の調査を行わせる方針を固めた。

 

 今回の小笠原諸島への監査を任されたのは十文字克人であり、サポートとして七草真由美が同行。そういう体で半分、遊びに来ていたのだが……。

 

「思わぬところから糸口が来たもんだな」

「そうでしょー。私がいなければ克人くん。基地の周りでウロウロする土佐犬みたいになっていたわよ」

「せめてそこは、ブルドッグと称してくれ……」

 

 七草に届けられたメール。恐らく暗号化されていたものをノート型の端末で解析しただろうものを何度も読み返すたびに、この事態……相当に不味いだろうと思えた。

 

「この『ココア』と『シア』という女の子たちは、今日……南盾島のモール(商店街)に現れるんだな?」

「ええ、モールで見つけた後は……何とか本土に行って匿う手筈を整えなきゃ」

 

 本土に、と言う言葉で―――思い出したかのように苦い顔をする真由美。匿うとなれば……我が家しかあるまい。

 

「弘一殿にも一応、根回ししとけ。孝次郎さんは、どうにも不精というか―――少しな」

「……分かってるわよぉ……」

 

 克人の指摘に、真由美も思い出して少しだけバツが悪いが、ともあれ事態は急速に動いた。同時に直感―――としか言いようがないのだが、こういった『騒ぎ』の中心に否応なくいる面子がいる。

 俗称『達也組』。今期の一年の中でも一科二科関わらず、様々な混成集団を作り上げて目立つ組である。

 

(いるのかどうか……ニュースでも話題になっていたオーロラ現象も、奴らが起こしたと思った方がいいんだろうな)

 

 

 今日の南盾島は色々と騒ぎになっているかもしれない。

 それでも―――見つけ出すしかあるまい。それこそが十師族という日本の魔法師のマスタークラスとしての使命でもあるのだから……。

 

 

 † † †

 

 

 南盾島は海軍基地の為に整備された島である。

 

 刹那の生きている時代には、小笠原諸島の大半は天然記念物が多くあり、国家が保護する自然遺産であったのだが、第三次世界大戦―――その影響は南方への守りの意識の高まりから、この島を改造させた。

 

 人工の地盤を築き、火山の地熱をエネルギー源として活動する『補給基地』。

 現在の所はその活動は縮小したものの、補給工場の高い生産力を利用し、観光地としての経済利点を見出した上で、こうなっている……。

 

 つまりは―――ショッピングモールの併設である。昨日、ビーチでの遊びを堪能した上で、今日の目的は単純にショッピング。

 

 食料品の積み込みの為にも、クルーザーではなく北山家所有の飛行艇でやってきたのだが……そちらは自動集配の積み込みで、自分達がぶらついている間に終わっているだろう。

 

 

「うわぁ……」

 

 モールの入り口で光井が声を上げる。それを大げさに思う友人はいなかった。

 

 そこには、地中海様式と言うべきコンセプトが意識されたモールがあったのだから……。

 

 プロヴァンス風とアンダルシア風の街並みは、南国の陽気も相まって、ベストマッチであった。

 

「ここの設計者はよっぽどの洒落モノだな……」

 

「海外生活が長い刹那からしても、そう思う?」

 

「まぁ人によってはツギハギとか言うかもしれないけどな。俺は、いいと思うよ」

 

 地中海……それは、かつて自分の師が旅をした場所だ……。その匂いを覚えて、何よりこのツギハギ感が刹那にとっては嬉しかった。

 

 ノーリッジの拠点。時計塔におけるニューエイジの学生たちが多く住んでいた場所。

 刹那にとっても懐かしい『学術都市スラー』を思わせたのだから、雫の質問にも素直に答えられた。

 

「そうみたいだね。楽しそうな顔をしているし」

 

「楽しそうな顔をしていたのか……」

 

「うん。すごく楽しそうだった」

 

 マジか。まぁ確かに若干、想う所はあったが、そこまでだったとは―――。

 

 夏らしい服装の雫を隣に進んでいくと、やはり何かと『この集団』は目立つようだ。

 レオと幹比古も、女の買い物が長い事は分かっているが、まぁ付き合う様子である。

 

 流石に男が三人もいれば『引っ掛けよう』とするつわものはいない。しかし、そんなつわものが現れれば、シャットアウトは自分達の出番である。

 南盾島―――『たてしま』ということに引っ掛けて、あちこちに縞模様のシンボルのモノが多い。シマウマ、ホワイトタイガーのぬいぐるみ―――シマウマのペナントまで―――商魂たくましすぎである。

 

 などなど感想を述べながら歩いていると、『そっ』と雫が腕をからませてきた。無論、刹那の腕にだが―――。

 

「どうした?」

 

「迷子になりそうだから、離さないでいて」

 

 君、何歳? とか言うのは野暮だろうが、それを見たマイハニーが対抗するように反対側の腕に絡ませてきた。

 

 両腕に宿る『両親』が、なんだか『やれやれ』と言いそうな空気。そしてモールにいる男性陣の視線がきつくなるのは当然だ。

 

 こういう時に達也が居てくれれば、光井と深雪を侍らせて分散しただろうに……宮仕え(?)の彼にそこまでは言えないか。

 よって第二案を提示する。

 

「美月、幹比古の腕に絡んでくれ。視線が痛い」

「ちょっ!? 刹那、何を言っているんだよ!!」

 

 ジェラシーの視線の分散。それを願ったものに幹比古は拒否したのだが……。

 

「―――分かりました。それじゃ幹比古君。エスコートお願いしますね」

 

 意外ではないが、美月は積極性を出してきて、その『ばいんばいん』すぎる胸(命名・十七夜栞)を幹比古の腕に当てるのだった。

 

「アンタもトウコちゃんがいたらば、ああなっていたかもしれないのに残念ね」

 

「残念とかいう以前に、針の筵だろ? ただでさえ女子グループに男が三人なんだからよ」

 

 流石に腕を巻きつかせるとかいう訳ではないが、茶化すようなエリカの言動に、嘆息するレオ。2人だけの空間を作る様子を見た。

 エリカの気持ちが達也とレオの間で揺れ動く―――という訳ではないのだが、こういう風な女子に限って誰かに『横どられる』と不機嫌になる訳である。

 

(刹那くんはどう思う? レオとエリカの関係って?)

 

(個人的には、エリカと付き合い長い幹比古と『なっていない』辺りに、若干のめんどくささはある)

 

(随分と辛辣ですね。まぁ私もエリカはお兄様に懸想している面があると思っていますので……)

 

 光井の質問に答えると深雪からの指摘が入る。この二人の恋愛センサーは侮ってはいけない。

 

 そんなこんなで内緒話したりアクセサリー見たり、南国由来の鉱石……ではないが、珍しい珊瑚(コーラル)。赤珊瑚、桃珊瑚、白珊瑚などを買うことにした。

 

 何の加工も無されていないものを自分用に、加工されてアクセサリーになったものは、とりあえず女性陣にプレゼントしておいた。

 

『『『『『一番いいやつを頼むわ』』』』』

 

 珊瑚……特に赤珊瑚が魔除けの類として重宝されてきたことから、女性陣の眼が輝き、幹比古と一緒に鑑定していくことになった。

 

 二人のBGMには、何故かビートルズの「Help!」がかかっていた。気が利き過ぎな宝石店を最後に男子はギブアップとなった――――。

 

 

「お袋の買い物と同レベルだぁ……」

 

「普段のリーナは、どうなんだ?」

 

「結構、不精だよ……まぁ買わなきゃならないものを限定しているんだろうな」

 

 下手をすれば、ラフなシャツ、普通のジャージパンツ……ぼさぼさの髪でコンビニに出ることもざらである。

 

 流石に、それは姉貴分であるシルヴィアによって矯正された節はある。

 どんな話術を使ったのかは知らないが、……ここ一年間は若干、気を遣っている様子だ。

 

 レオと幹比古と共に焼けつきそうなとまではいかないが、それなりに熱された金網フェンスに寄り掛りながら、女性陣のキャピキャピしたショッピングを見ておく。

 遠くもなく、近くもなく―――いわゆる待ち合わせを装って介入できる距離にて見ていたが、やはり気になるのはフェンスの『向こう側』

 

 海軍基地の様子だ……。

 

「基地とモールが陸続きではなく、人工地盤続きではないところが、あれだよな」

 

「流石に民間施設と軍事施設をいっしょくたには出来ないよ。ただ……なんか忙しない様子だよね」

 

「同感だよ。『何か』あったと見るのが筋なんだろうけど―――緊急の離島勧告も出ないしね」

 

 大亜、新ソ連の攻撃予兆やらがあったという風ではない。それならば、ここからは見えないが戦闘機などのスクランブルがあってもおかしくない。

 

 ソニックブームの音がここからでも聞こえるはずだが、無いのだから……若干の『予測』をしておく。だが、明確ではないのだから今は動けない。

 

 そうしていると美月が手を振って『昼食にしよう』という声を掛けてきた。

 

 その言葉でようやくの想いをするぐらいには、男子三人は腹がペコちゃんだった……燃費の悪い想いをしながらも―――。

 

 南国の食堂でのランチと洒落こむのだった……。

 

 

 † † † †

 

 

「フフフ、やられましたね。あの『姉妹たち』は、己の感応能力を使って脱出計画を練っていたようですね」

 

「呑気に言っている場合か、ミスター・アイズデッド!! このままでは実験動物が逃げ出すのだぞ!!」

 

「しかし、ここまで見事にやられると、ね―――まずは手引きしたものを見つけ出しましょう。そしてエザキ、フルタ……モリナガを拘束してください」

 

 事実、見事なまでにやられていた。2090年代の建造物のセキュリティの例に漏れず、殆どが電子制御された解除キーを用いての開閉が主である。

 

 それは、この研究所でも変わらないのだが、四番目……四亜は、そのバカでかい出力を利用して、全ての扉をひしゃげるようにして物理的な開閉を不可能にしていた。

 

 歪曲させた開閉機構の前では、電子制御も役にたたないことこの上なかった。その上で九亜の制御力で以て、ひしゃげた扉を更に魔力的な『鎹』で以て、ご丁寧に『物理的破壊』が出来ないようにしたのだ。

 

「かつて忠臣蔵における赤穂浪士たちは、吉良邸に討ち入りした際に、長屋に泊まる浪士たちを本邸内に出させないために鎹を戸に打ちつけて、封印したそうですね。

 更に言えば本邸内にある長物や弓の類を使用不可能にした上で、見事仇討をなしたとか……」

 

「綿密な下準備をしていたというのか……わたつみ達が……!!!」

 

 研究所内のハイパワーライフルなどの魔法師制圧用の武器は、四亜のポルターガイスト現象で完全に使用不可能にされていた。

 もちろん研究所内にも魔法師はいたが、その全員が研究畑の人間で『実戦経験』があるものは片手で数えるしかないのだ。

 

「まぁあまり慌てずにいましょう。ここは遙か太平洋の彼方にある島、孤島……如何に飛行魔法が開発されたとは言え、彼女たちはまだ袋のネズミですよ」

 

「………ありったけの工作機械を持ってこい。この研究所にもハンマーでも手斧でもあるだろう。なんでもいいから、この分厚い扉をぶち抜けるものが必要だ。早くしろ!!」

 

「りょ、了解です!!」

 

 研究所の警備担当の責任者。階級としては大尉相当の人間の一喝で、部下達が散らばっていく。

 その様子を見ずに、ひしゃげた扉を前にアイズデッドは、『我が身』を撫でるのだった。

 

 そこにある魔力の残滓で来臨の時は近いのだと、―――悟る。

 

 

 † † † †

 

 

「外が殺気立っている――――」

 

「ウン。私服を着ているけれど、間違いなくアーミーよね」

 

 カップルジュースを飲みほして、ご丁寧にも上に乗っていたアイスを、お互いに食べ合っていた時に、中断してリーナと刹那はつぶやいた。

 

 その言葉にテーブルに座る同輩たちが身を硬くする。

 確かに、服の上からも分かる、がっしりした体格の人間達が、あちこちに視線を向けて小走りに四方八方に散っていく。

 

 雑な隠蔽だが……『目的』は何となく分かった。そして起こったはずだと確信して、―――考えていた通り、『留守番役』に連絡。

 

 留守番役が、発するもので海神の名を持つ巫女を誘導させる。どうやら―――上手くいっているようだ。

 

「基地から脱走者でも出たのかな?」

「だとしたらば、普通に軍服着ているはずでしょ。己を憲兵(MP)だと示す一番の方法は、軍服なんだから」

「ああ、わざわざ私服を着ているってことは、『やましいこと』がありますよ。って自供しているようなもんだな」

 

 軍人は警察機関とは違って、よほど特殊なセクションでもない限り秘匿任務に着くことは無い。

 何より刑事が警察手帳を己の身分証明であり職責に使うのと同じく、軍人は軍服が己の職責を示すのだから。

 

「ここも一応、基地内とは言え物騒だよな……」

「切り上げた方がいいかな? 食材やら買い物品の積み込みは終わっているみたいだから」

 

 刹那の呟きで誘導された雫。申し訳ない想いがありながらも、端末を確認した雫の言葉に誰もが否を唱えることは無かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 民間航空機の一つ。専門用語で言えばティルトローター機で直接、北山家の別荘がある媒島からやって来ていた面子は、無人運転のコミューターで直接発着場に乗りつけたのだが……。

 

「不用心だね……」

 

 幹比古の言葉の原因は、降りっ放しのタラップ。即ち機内への昇降口であり、階段状のそれがそのままになっていた。

 殆ど全員が、同意する中、若干違う意見を申すものがいた。

 

「まぁ荷物の積み込みとかあったのかもしれないし……俺は責められない」

 

Me too(ワタシもよ)……」

 

 北山家の航空『運転手』伊達さんに若干の過密スケジュールを押し付けてしまったのは、アメリカから遅れて合流してきた刹那とリーナなので、あんまり怒らないでくれと雫に頼んでおく。

 

 それでも、『それ』でお給料をもらっている以上は、きつくはなくとも小言は言っておく。

 そんな令嬢としての雫の言葉に、これがセレブの常識なんだなと思って苦笑してしまう。

 

 乗り込むと、やはり伊達氏は眠りこけていたらしく、若干の言葉の応酬の後に客室に戻ってくる雫。

 

 どうやら予定通り発着する前に―――客席にいたオニキスに確認しておく。

 

 

『大丈夫だ。『ハデスの隠れ兜』を持たせておいたからね。いやー機内から降りて探すのに、若干手間取ったが、見つけられて良かったよ。最初はうさんくさがられたけど……』

 

「そりゃ喋る星型の不可解すぎるドローンみたいなものがいれば、な」

 

 落ち込むオニキスに、慰めるように言っておき、どこに隠れているかは何となく分かった。あまりにも異質すぎる匂いだからだ。

 それで、いい扱いなどされていないことが理解出来た。

 

「それで、わたつ―――」

 

「チョイチョイチョイ! そこのアメリカ人ふたりとしゃべる魔法の杖。なーーーんかアタシたちに隠しているわねぇ、さっさと白状してもらいましょうか? 具体的には、奥のトイレにいる―――」

 

「エリカ。軍の検閲だ。車に乗ってこっちにやって来た!」

 

 リーナの言葉を遮るように、エリカが口を開いたが、そんなエリカの言葉を遮ったのは幹比古であった。

 

 なんだこのめんどくさい会話ゲームは、と思うもオープントップ車がいつの間にか、ティルトローターの横に着けてきた様子。

 最後尾でタラップの昇降と、扉の閉鎖を担当するレオが振り向いている様子。

 

 居丈高な声で民間人を威圧する軍人。窓からその人間を見たエリカがレオに合流する形で、押し問答をするようだ。

 

 言葉から察するに検閲しに来た二人の軍人は、千葉道場の関係者だったらしく、先程の調子を失いエリカに畏まってばかりいた。

 家柄……というか縁故を利用しての威圧的な物言い……こういう所は、刹那のエリカに対して苦手な点だ。

 

 だが、今はこの問答に感謝するしかあるまい……いざとなれば達也にエリカを養ってもらえばいいだけだ……。

 

『言っては何だが、余計な『疑念』を抱かせること間違いないね。彼らを退けた所で、『次』にやってくるのが彼女の関係者とは限らない』

 

「分かっている。ここで『暗示』を掛けたところで、意味は無い」

 

 その気になれば、鏡面界にいてもらうことも可能だが、『彼女たち』を不安にさせたくない。

 

 せっかく外に出たと言うのに、またもや狭い所に押し込んでいるのだ……。その心苦しさから―――いざとなればの想いだったが、結局、治安関係者御用達の千葉道場の御令嬢の言葉に逆らうことは出来なかったようである。

 

「善悪はともかくとして、今はエリカに感謝するしかないな」

 

 そうして、エリカとレオが着席すると同時に―――ティルトローター機は離陸する様子。

 完全に検閲兵の眼から逃れられる高空に至った辺りで、意外なことに深雪が口を開く。

 

「それで刹那君。今度はどんな女の子を引っ掛けたんですか?」

 

「悪意的な見方と聞く者の品性を疑いたくなる解釈だが―――まぁいい。オニキス、もう暗い所に閉じ込めないでやれ……」

 

『了解だ、マスター。さぁ―――キミたちが、姿を隠す必要はない。いや、そもそも―――こんなものに囚われなくて良かったんだ』

 

 オニキスが飛んでいき、トイレの前に赴くと……その時、自動的に開かれるトイレのドア。

 

 オニキスが近づいたからと思ったが、しかし―――そうではない。

 眼がいい美月が眼鏡を外して気付いた。

 聴覚に優れたレオが足音で剣客ゆえの気配察知で気付いたエリカ―――。

 

 美月に関しては、恐らくだが『匂い』のプシオンなどが、形作られていたのだろう。

 

 人のカタチ二つで―――そして2人の少女が、己を隠していた『マント』を、外した。

 

 一人の少女が―――もう一人の少女。少し怯えた様子を庇うようにして背中に隠しながら立っていた。

 

 手前の少女と後ろの少女。姿かたちは同じような年頃。手入れもされずに伸びっ放しの髪が面立ちを知らせていないが、恐らく同じような顔だろう。

 

 誰もが驚いたが、少女達の様子は普通ではない。衣服も、先述した髪も―――明らかに『まともな生活』をしていた風には見えないのだから。

 

 

「――――」

 

「――――」

 

 怯えるような無言少女を庇う、意志の強そうな子が無言で目線を向けてきた。

 

 

「セツナ、やっぱりこの子達が―――」

 

「うん。ただ―――『九人』いるはずだったの―――」

 

 席から立ち上がり若干狭い通路にて真正面から彼女たちを見た刹那とリーナ。こちらを見た瞬間に―――何かに気付いたかのように、身体を強張らせる少女達。

 

 怯えさせたかな? と思ったのも束の間……二人は声を上げた。初めて明確な言葉を発してきた彼女たちの第一声は……。

 

 

「プリズマキッドだわ――――!!!」「プラズマリーナだ――――!!!!」

 

 喜ぶような第一声と同時に刹那とリーナに飛び込んでくる二人の少女たち。

 狭い通路でも、バランスを崩さずに受け止めることが出来たのは、彼女たちの体重が―――『軽すぎた』からだ。

 

 その軽さを……重さを感じないことに、内心での悲しみを上げていたというのに……。

 

「やっぱり女の子を引っ掛けたんじゃないですか。このロリコン」

 

「いくら達也に怒られる可能性があれども、いい加減怒るぞ!!!」

 

 

 結構切迫していた状況でもいつもの調子である深雪にそう返しながらも―――初めて喜色を浮かべる二人への抱擁は解かないでおく。

 

 この子達が何者で、どういうことなのかを説明するには、とりあえず陸地に戻らなければいけないのだから―――深雪に対する怒りをとりあえず抑えながらも、ティルトローターは北山家の別荘へと飛んでいくのだった……。

 

 

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