魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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リ「前回の話の影響か、日曜日に数時間ほど表紙が消え去ったわ! かつてカエサル強化クエストのピクト人のごとく、エイリアンの仕業ね!」

刹「無いよ。ただ単に編集部の人達の判断だろ?」

リ「石田先生渾身だろう久々の一高制服のワタシを見れたからと、つんけんしなくてもいいのに♪セツナのツンデレ」

刹「なんでさ」


果たして、一時だけ消えていた文庫表紙の真実。そして茶髪のポニーテール少女の正体や如何に―――と言いながらも、新話投稿させていただきます。


第110話『夏休み 急転そして怪盗の予告』

 その正体を看破されたとしても、変わらぬ学士の姿に―――刹那は、恐れを生み出す。

 

 砂浜に佇む男の上半身。白日の下に晒された『両腕』には、星の紋章……サーヴァントの記録やステータス情報など多くの研究から分かっていることだが……まごうことなくアンチセルである。

 

 金色と紫の帯が幾重にも走る様な紋章が、それを告げていた。これの禍々しさに比べれば、ピクト人の紋様など、然程のモノではない。

 

 まぁ―――実際のピクトがどうだったかなど刹那は知らないのだが……。

 

「サーヴァントか?」

 

「その通り! そもそも私は紀元前の人間だ。生きている訳がない! となれば、疑似的な死者蘇生を可能とする御業を使うしかないだろうが、実に分かりきっている事だ!!」

 

「どうだかな。ありとあらゆる『可能性』を考えていけば、色々と考えられる―――そしてお前の知性と人格が、アルキメデス本人であるという証明にもなりえない」

 

「だが……『魔法使い』―――君はすでに私の正体に関して察しが着いているだろう? しかし! 召喚の原理が分からないからこそ困惑している!! 答えは出ている!! この世界には時に『そういった存在』が自動的に呼び出されるのだよ!!!」

 

『見習い』を着けやがれ、と言うのはあまりこの場では意味が無いので、そこは突っ込まないでおいた。

 

 かつて北米にいた頃、オニキスと刹那の出した結論。この世界に破局的事象―――即ち『ガイアとアラヤ』の守護者が召喚されないというよりも、『英霊の座』が自分たち以外には『遠すぎる』―――という結論は覆された。

 

 いや、最初から分かっていたのかもしれない……分かっていて眼を逸らしていたことなのかもしれない……この世界にも『クライシス』は起きて、それを覆す『力』も存在しているのだと……。

 

 だが尋常の時間軸における英霊召喚の御業は、大聖杯など多くの大魔術儀式ありきで為されるものだ……だというのになぜ―――。

 

 

「いいですねぇ。あなたの中では様々な疑問が渦巻き、それを一つ一つ否定して、そして新たな可能性を見出している!!

 だが答えを出せば、簡単な事なのですよ。

 魔法師という存在が、そもそもの『孔』の形成だったのです。それゆえに―――この世界は『様々なモノ』を引き寄せる。言うなれば、この世界は最果てなのだよ!!!

 人類が己の進化を己で狭めたがゆえに、出来上がった『人工の楽園』―――私は『ある世界』の戦いで、目的を果たそうとして敗れ去った。

 そのままいけば、本来ならば『座』か、もしくは再び『月』に舞い戻るはずだった……」

 

 

 並行世界での観測結果、一度だけ大師父の指導の下、違う『カッティング』を見せられた時に……月を主舞台とした『世界』があることも知っていたが、その世界に『こいつ』はいなかった……。

 

 先を見ていなかっただけかもしれないが、ともあれ『学士』の独白は続く。

 

「だが、敗れ去った私は『ここ』に流れ着いた……そして様々な観測の結果、全てを悟った(ヘウレーカ)。……この世界もまた『可能性』なのだとね!!

 魔法使いたるあなたがいたことで、更に可能性を高めた!! そして―――、私の求めるものが、あの宙の彼方にいることを知った時に!!!

 この計画を実行した……私が望む次なる叡智の為にも、この世界に招来を求める―――。

 この世界においても、一万四千年前に猛威を振るった『ヴェルバー』のなぁ!!!」

 

 その言葉を聞いた時に、右側の刻印が『自動的』に最大展開!!! 銃弾のようなガンドを撃ち出した!!!

 

 予想外の奇襲だったのか、両手を大きく広げて宣言していたアルキメデスの胸に飛び込むガンド。

 宙の彼方を見ていた眼がこちらを向き―――撃ち込まれたガンドは、刹那にも分からない効果を催す。

 

「がぱっ!!!!」

 

 吐血するアルキメデス。何人かが眉を顰めるが、何が起こったのか刹那にも分からない―――だが、次の瞬間。理解した。

 背中にある裂傷から出てくる血塗れの刃物がいくつも―――『親父』が自分の『心象世界』を叩き込んだ。そういう現象なのだと理解した。

 

 同時に好機と悟った人間達が、この場で仕留めるべく動く。だが―――次の瞬間には歯車を用いての飛行浮遊。逃げの態勢だと悟り、容赦なく―――打ち据えようとした時に―――。

 

 

「わたつみ達を生かすには!!! まだ私の協力が必要なはずだ!!! 星の紋章を解除するには、今一度のヴェルバーの尖兵の―――」

 

『ブラフだ!! 構わずやれ!!!!』

 

 一瞬、戸惑った自分達を動かすオニキスの言葉―――しかし、その時には飛び立つアルキメデス。

 

 完全に逃げられたことで、月の浮かぶ空を睨みつける全員。南盾島に向かったことは分かるが……九亜たち姉妹が呼び寄せようとしているものが、はっきりと分かった瞬間だった。

 

 

 † † † †

 

 

 ……一万四千年前―――まだ人類が未明・未開の時代。地球の文明が未成熟とも言える時代とされている『歴史』(とき)に、『それ』は降り堕ちた。

 

 超先史文明とでも言うべき人と神の『領域』の境が無く、人が人智の理…『物理法則』ではなく『神の権能』に従い世界で『繁栄』を極めていた時の話である。

 

 多くのホモ・サピエンスは願った。どうか世界を焼き尽くさないでくれ、どうか変わらぬ明日を迎えられるように―――。

 

 その願いは無残に踏みにじられる……。

 

 宇宙空間より『舞い降りて』、『神霊』となっていた神々は抗ったが、その多くは蹂躙されて地上世界からの撤退を余儀なくされた。

 一部の神々―――現在でも比較的『確かな文明』として存在を認められる古ウルク・メソポタミアに代表される『シュメール文明』の神々は、命乞いをして存続することを許されたものたちである。

 

 多くの文明と文化を滅ぼし、侵略した存在……『捕食遊星ヴェルバー』の尖兵―――アンチセル・セファール―――。

 

 そういった存在を『魔術師の世界』では確かなものとして、存在を確定させてきた……。

 

 

『現在の所、アンチセル・セファールが最初に降り立った場所は、サハラ砂漠の辺りなのではと類推されている―――実際、あの辺りは不毛の土地にも関わらず何枚もの壁画が残されている。

 多くの学者が、あの土地にかつては文明が栄えていたという証明を成している。でなければ、狩猟の様子だの、そういったものが描かれる訳がない。

 イマジネーションを想起させるには、身近なものからの着想が必要だからね。ここまでで質問はあるかい?』

 

「ありすぎるって顔をしているな――……」

 

「エイリアンやらUFOに関しては一日の長があるワタシだって、最初に聞いた時は眉唾だったわよ?」

 

「申し訳ないね。ただアビーが、『あんなもの』を持ってこなければ、何も話さなかったよ」

 

 

 夜明け―――朝食をいただいて、さぁバカンスしながら明日の準備だ。と思っていた時に、これである……色々なことが知りたいという面構えである。

 

 一堂…黒沢氏と伊達氏を除いての説明を行ったが、何を質問していいのか分からないという顔である。

 

 しかし、意外なことに―――九亜と四亜は、しゃかしゃかと美月から借りたスケッチブックに何かを描いていて―――完成したそれを掲げた。

 

 

「セツナお兄さん、リーナお姉さん。オニキスさん―――せふぁーるって、こんな風な『うさぎさん』?」

 

「何となく覚えている……星々の彼方から私達の声を聞いてくれた存在……」

 

 舌足らずな九亜の描いた絵は確かに巨大な人……薄青い身体に赤眼。そして銀髪の頭から生える長い耳……まごうこと無きセファール(白き巨人)であった。

 

 決定的である………。

 

 

「九亜たちを使って呼び寄せるのが、宇宙人だとはな……荒唐無稽と言ってやりたいんだが、論理を矛盾なく証明出来ていることから、ツッコミも入れられん」

 

「というかだ。古式魔法師や魔術師からすれば、むしろ『現代魔法』の大半というのは、そういったものに『近い』と思うんだが……」

 

「確かに俺たちの能力はSF……サイエンスフィクションの『実現化』だったろう……逆に幹比古や刹那の場合は、SF……すこし不思議……『神権化』といったところか?」

 

『上手い表現をありがとう。神秘の濃度というのは、時代を経るごとに薄くなる。

 権能……かつて神霊達が持ち振るっていた力は、『物理法則』が存在する前の『世界の法』たる力だったのだが、様々な要因……自然災害と言う形での神代のアーキテクスチャの引き剥がし、人類文明の発展……

 これらの要因が、世界の法を物理法則に転換させていく切欠となった』

 

「世界の全てを呑みこんだと言うノアの大洪水、ラグナロクと称されるアイスランドのカトラ山の大噴火、ヤハウェの裁きによる都市消失……。

 こういったものは権能の暴走とも言えるが、ともあれセファールは、そういった神霊達を駆逐して、全ての文明を蹂躙する」

 

「危険なの?」

 

「そのままに『顕現』すればな――――ただセファール自身も、『魔力』を動力源としている肉体だ……神代の頃ならともかく、『現代』でそこまで暴れられるか……?」

 

 不明ではあるが、まずまず……問題は、なんで『宙の彼方』にいるかである。詳しい事は分かってはいないが、セファールは、メロダック(原罪)を祖とする星々の祈りを集めた聖剣によって打ち滅ぼされたとも伝わるが、『この世界』では違ったのだろうか……。

 

 

『……『フン族の王』は確かに存在している。―――『彼女』は、生まれなかったのか?』

 

 なんだかエルメロイ先生のように、ブツブツと黙考しているオニキス。とはいえ、砕け散ったセファールの身体を元にして、軍神の剣を作ったのは、自分なのだ。

 

 この世界の『霊子記録固定帯』……クォンタム・タイムロックにおいてもセファールの死から始まる様々なものは観測されている……でなければルーンも通るまい。

 

 一番、違う事象は……やはり魔術協会が出来上がらず、聖堂教会も生まれず、死徒の概念も無い―――緩やかに伝えられるものだけに伝えられてきた御業があっただけだ。

 

 古式魔法が、神秘の階……錬金術による暗黒時代を経験してはいるが……、やはり最終的な「固定帯」は……『魔法師の誕生』なのだろう。

 

 そう結論付けると――――。

 

「セツナ―、アナタも結構言っていたわよ。話にだけ聞くエルメロイⅡ世のごとく、一人で黙考しながらまとめあげる作業を」

 

「いや、これは俺のお袋のクセ。というか魔術師というのは、頭の中のとりとめのない思考をまとめる際に、口舌をつかってあれこれと挙げていくんだよ」

 

 ある種の天才科学者が時々、フィクションにおいて言葉を呟きながら、黒板などに考えや数式を列挙していくのは、そうすることで思考のブレイクスルーが生まれるからだ。

 表層思考におけるまとまりのないものなど、途端に霧散する。本当の意味で必要なのは、思考ではなく口頭に言葉を乗せることだろう。

 

 そんなこんなで、セファールや色々なものに関する一応の説明を終えると―――光井は頭を抑えている様子。

 

「紀元前の数学者の蘇生、宇宙人……神様の大本が宇宙空間にいた霊体―――なんかものすごく頭が痛いわ……今日一日で私の生きてきた世界の見方が変になりそうよ」

 

「だが、現代魔法・古式魔法でもパラノーマル・パラサイトなんて存在が規定されているわけだしな。俺の私見だが魔法師は、己を人智の極みだと思いすぎている」

 

 世界には現代の人では完全に解明されない謎は多くある。セファールの存在の証明となった世界遺産「タッシリ・ナジェール」の壁画とて、人のイマジネーションの末とも言い切れないのだから。

 

 

「今やるべきことは、四亜と九亜の姉妹の救出とアルキメデスの野望の頓挫。アルキメデスに関しては、キャスタークラスだろうからな。

 何か巨大な刃物でごりごりぶっ叩けば、それで終わりだろう。翻して『世は全てことも無し』―――俺とオニキスの言った戯言なんてあんまり真に受けるな」

 

「それは無理だろうな。アルキメデスと言えば、ローマ艦隊を焼き払ったソーラ・レイだ。現代科学ではもちろん『そんなことは不可能』とされているが、英霊というのは、伝説や伝承の誇張により、『現実』に存在したアルキメデスよりも上の存在になっているんだろう?

 ならば激戦は必死だ。お前たちの言うことを真に受けずに、ロクなことになった試しがないからな」

 

「なんて露悪的な言い方。まぁいいさ。達也たちの『手助けになりそうなもの』は見繕ってやる―――。セファールが出てきたらば、もう何か違う事態にならない限り全速力で逃げろ。南盾島全体からだ」

 

『警告しておくが、あれが本気を出せば小笠原諸島の全てが海の底に沈んでもおかしくない。どういう状態で来るかにもよるんだがね』

 

 

 それはつまり……八王子クライシスの際の、サジョウ・マナカ級の案件ということだ。

 

 刹那と達也の話し合いを最後に解散となる。事態は最悪になる可能性もあるが、眉唾もので終わる―――そういうことだ。

 だが……そう言った風な杞憂は当たってしまう。それをあの事態で分かっていた面子は……それでも、そうなれば全力で戦うことを決めていた。

 

 人任せに出来ることではない―――。運命を引き寄せるには戦うしかないのだから……。

 

 

 

 † † † †

 

 

「結局のところ……大師父の予言は当たっていたな―――」

 

「逃げ出したところで、立ち向かわざるを得ないことはやってくる―――だっけ?」

 

「その通りさ……事態がデカくなりすぎなんだよな」

 

 

 だが立ち向かわなければならない……結局、何もかもが自分が来たことで発現したものであるならば、そのツケは自分で支払わなければいけない。

 

 そんなもの知らない。ただの心の贅肉だ。などと言えるほど腐ってはいないのが、何とも刹那の厄介な所である。

 

 リーナが持って来てくれたオレンジジュースを飲み、バルコニーの手すりに体重を預けつつ海にいる皆を見ておく。どうやら、大半のヒマ組は海水浴をしている様子。

 

 先程までの悲壮感を無くしてくれるいい活気である。

 

 

事態(シチュエーション)はとんでもないけど、終わってみれば『そうでもなかった』とか思えないかしら?」

 

「二つの刻印が何とか俺を生かしていた生死不安定な2ヵ月間が?」

 

フォーイグザンポー(for example)が物騒すぎ! と、とにかく! ワタシは結構、今回は簡単にいくと思うわ」

 

「その根拠は?」

 

そう怪訝な目で隣にいるリーナに問いかけると穏やかな笑顔で、説明し始める。

 

「―――って、だから……シアとココアも―――――そして声が……」

 

 

 それは、あまりにも深刻な話ばかりしている刹那達年長組に飽きて、リーナにだけ耳打ちするように四亜と九亜が教えた事実だった。

 

 全てを聞き終えるまでに、刹那の顔は―――喜色になっていく。それは正しく天啓―――全ての疑問に解が与えられた瞬間―――。

 

「!!!―――マイハニー!! 何でその事をもっと早くに言わない―――!! ああ、もうそれなら『やりようはある』!!」

 

「キャー♪ 久々のベリーホットハグ!!! こ、このタイミングを狙っていたのよ!! あそこで言えばオジャマ虫が『やんややんや』言っていたのだから!!!」

 

『コラー! そこのバカップル!! 真っ昼間から気温を上げる行為禁止―――!!!』

 

 夜だったらいいのか!? そういう驚愕を誰もがしてしまう階下からのエリカの言葉だったが、その声を遮るように、再びの飛行艇の登場。

 

 どうやら達也が要請していた独立魔装の人々の様だ。

 目的は―――捕虜としている国防海軍と、ある一室に集められている『多国籍の魔法師・非魔法師』だった。

 

 主にヨーロッパ圏が多いが、ピクト人として『改造』されていた彼らは、マルチリンガルである刹那とのコミュニケーションで、自分の姓名と出身国籍をはっきりと述べた。

 

「拉致されていた外国人達は、どこにいるのかしら?」

 

 白ワンピースのリーナと共にヘリポートに向かうと、やってきたのは独立魔装のスタッフ全員のようである。

 

 藤林響子の言葉に特に何も思わず案内する。そして確認作業―――どうやら全員が、現在でも日本とそれなりに繋がりあるICPOやユーロポールなどで捜索願が出されていた人間であった。

 

 魔法師達に関する情報はあまり多くなかったが、今回のことで個人情報が降りてきて間違いが無いとのことである。

 

 

 同時に、南盾島に連れていくのは不味いということで、追加のヘリもやってきた……。

 

 

「一応聞いておきますが、変な人体実験しませんよね?」

 

「するわけないでしょ。彼ら(行方不明者)を見つけましたということで、情報をもらったんだから」

 

「それもそうか」

 

「問題は―――彼ら=南盾島所属の兵士たちよ」

 

 捕虜に対する扱いとしては、ちょっと雑なのではないかという場所。バルコニーの下の砂浜にテントを張って、そこに縛って埋めるというのが最初の案(エリカ発案)だったが―――流石にアレ過ぎるので、久々のガルゲンメンライン登場。

 

『ゴアアア!!』と時々叫ぶ妖樹の化け物を見ながらの、中々にスリリングな体験の元での就寝を要請することにした。(達也発案)

 つまりは、ガルゲンメンラインに寝ずの見張り番をしてもらっていたのだ。

 

 

「ゴアアアアア!!!!」

 

「はい。寝ずの見張りご苦労さん。うん、どうやら水分は取っているみたいだな。脱水も起こしていない。ご飯は―――まぁこの人たちに連れて行ってもらってからにしてください」

 

 ようやくの面会者が来たことで海軍所属の兵士たち―――リーダー格である武田と秋山が焦燥しきった顔でも、こちらを敵意満々で見てくる。

 

 山中という軍医もガルゲンメンラインに興味津々だったが、一先ず全員の体調を見てくれるようだ。テントの中に入り数分もせずに、『魔法』を併用しての診察で専門家も大丈夫と言った。

 

 

「あなた達―――自分が何をしたのか分かっているのかしら? 未成年魔法師の軍事利用。ついでに言えば条約違反の人道蹂躙、計画に無い予算の使い道―――申し開きはありますか?」

 

 威圧的な響子の言葉に、激昂する武田と言う男。着ている衣服から背広組と思われる男が食って掛かる。そして―――最後の言葉で―――キレた。

 

 

「未成年だろうと何だろうと調整体魔法師は幾らでも作れる! 13.14歳の娘を使って! 世界をリードでき―――」

 

 言葉が途切れる。キレたのは尋問している独立魔装ではない。野次馬的に集まってきた一高の面子でもわたつみ達でもない―――もう一人の上級軍人―――といっても軍曹の秋山氏だった……。

 

 延髄を打ち、昏倒させる手際。背広組とはいえ、武田とて軍人。疲労もあったとはいえ、一撃で気絶させるとは並ではない。砂浜に倒れ込む武田を見ながら、何故という想いで見ると。

 

 

「……俺にも娘がいる……まだ10歳にも満たない子だ……最初、武田少尉から聞かされていた通りに成年魔法師が使われているだけ。そう思っていたんだ」

 

「今さら、娘さんと殆ど変らない年齢に見えたからと変節したと?」

 

「そう思ってくれて構わない……。ただ、俺とて軍人である前に人間なんだ――――どうしても許せない心の痛みもある……尊敬する桐原隊長のように、家族を持ったことで、分かってしまったんだ……」

 

 学校の先輩(後輩)の親父の元・部下だと判明した瞬間だった。まぁいいけど。

 ともあれ―――南盾島における陰謀を告げると、(気絶している武田放置)基地内で少しの案内は出来ると言われた。

 

 達也や刹那の眼ならば簡単に構造も把握出来るが、それでも手間そのものを省略出来るのはいいことだ。

 

 そして当日に案内を頼むことにするのだった―――九亜たちの医務官は殆どが拘束されたらしく、その救出も必要になる。

 

 七草会長にメールを送った盛永という人も同じく……その辺りの情報ぐらいは渡されていたことで、少しの変更も必要となった……。

 

 だが大筋の予定に変更は無い―――。

 

 

「我々を帰すので?」

 

「内通者ならば帰ってなきゃ不味いだろ。アイズデッドは、特に気にするな。アイツの狙いは俺だ」

 

 何かあれば数撃は持つ護符(タリスマン)を、捕虜である海軍兵士たちに持たせた上で、北山家のクルーザーを『奪取』して逃げさせる体で基地に返した。

 

 

「信用していいのか?」

 

「お前の見識は?」

 

「話の分かる『オヤジ』役の軍人さんは―――疑いたくないな」

 

「俺もだよ」

 

 

 全くの同意見ながらも思い浮かべている顔は違う達也と刹那。ツーカーで言い合いながら、この別荘での最後の海水浴を楽しむ―――翌日の夜の決行は変わらなかった。

 

 鳥の使い魔……カモメにウミネコを利用してのそれで、南盾島に更なる混乱が広まる―――。

 

 

 カモメとウミネコが飛来して多くの紙を南盾島にばら撒く――――。その紙の内容は―――。

 

 

『2095年 8月28日 

 

南の島に秘蔵されている『海神の巫女の涙』をいただきに、星々が輝き『降り注ぐ夜』に参上する。

 

魔法怪盗プリズマキッドwith美少女魔法怪盗プリズマリーナ・ツヴァイ』

 

 

 北米大陸を騒がせた魔法怪人が極東の地に現れることを予告していたのだ……。

 

 


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