魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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これを書いている時にはLAGOONの『君の待つ世界』とかルパン三世のテーマ。はたまた緋弾のアリアなどをヘビリピで掛けながら書いていた。

蛇足である。(失礼)

新話どうぞ。


第112話『夏休み 怪盗旅団プリズマスターズ』

 

 

 南盾島はちょっとしたパニックに陥っていた。愉快犯の可能性すら高い怪盗の予告。それに一喜一憂して、どこにプリズマキッドが出るかで、観光客たちも浮き足立つ。

 

 この事態を受けて入島制限を出したものの、第一陣は踏みとどまれず―――更に言えば、報道陣、マスメディアは、その強権的な―――実に『権力』を笠にきた報道の自由という権利の下で、入島してくるのだ。

 困り果てた南盾島基地司令部だが、それでも『ここ』に入ってくることは『間違いない』と見ていた。

 

 

 予告状に描かれていた「海神の巫女の涙」……海神―――『わたつみ』……巫女――――『調整体魔法師』。そういうことを分かっていた。

 

 末端の兵士の大半は詳細には知らされていないものの、基地司令や高級将校たちは、プリズマキッドとプラズマリーナ改め『プリズマリーナ』の狙いが分かっていたのだ。

 

 それゆえ厳重な警備や、いざという時のROE(交戦規定)すら解除されての厳戒態勢にざわつく。

 そうしていたのだが―――司令部に乗り込んできた国際警察の鬼刑事の剣幕は、基地司令たちをどよめかせる。

 

「間違いなく!! プリズマキッドは、ここに現れます!!! 南盾島基地―――こここそがキッドの狙っている『海神の巫女の涙』があるところなのです!!」

 

「おっしゃることは理解しました。ミスター・ゼニガタ―――しかし、なぜそこまで言い切れるので、そもそもここには……軍需の補給物資ぐらいしかありませんよ?」

 

「カンです―――いや、そもそもキッドの目的はビッグジュエル以上に、多くの違法魔道実験で出る災禍からの『宝物』こそが目的なのです」

 

「……違法魔道実験ですか……確かに、この基地にも魔法師の軍人はいますが……後ろに控えている千葉警部の家の門下生もいるぐらいで………違法魔道実験と言われても心当たりは無いのですよ」

 

 その言葉に、ゼニガタの後ろにいた千葉寿和は―――眼を鋭くして反撃をする。

 

「魔道実験そのものは『法』では禁止されていません。寧ろ、軍隊に入った魔法師の中には強化措置を受けて力を増したい、強化したいと考える者もいますからね」

「でしたら―――」

 

「ですが、ここに来る前に魔法師協会及び十師族経由で『未成年魔法師が軍に不当に拘束されている』という通報も受けているんですよ。

 我々、警察と軍の『縄張り』の問題ぐらいは十分承知しています。が、―――だからといって内々のことで済ます。などという『治外法権』が許されることはありませんよ。これが、事実ならば、我々はここに強制捜査を入れる」

 

「……言いがかりですな」

 

『『何もやましいことが無いと言うならば! さっさと『南方諸島工廠』という施設に案内しろ!! どちらにせよそこが一番豊富な『品物』があるところだろうが!!!』』

 

 のらりくらりの司令官にキレたゼニガタと寿和の言葉に、同行人である稲垣も焦るが、もはやこの基地が『真っ黒』であることなど明白なのだ。

 

 大亜の原潜―――『ハイナン』が、歯車のようなものでザクザクに切り裂かれた状態で見つかったのだ。ハイナンが見つかった海域や、沈没した時刻など様々に調べていくと、この南盾島基地の対空ミサイル艦が巡航していたことが判明。

 

 そして十師族などからの通報―――。何より寿和が、エリカの叱責を受けてしまったと言う門下生たちとの会話―――証拠能力は低くとも、それでも証言の裏付けにはなる。

 

 そうして真っ黒な南盾島基地が―――更に真っ黒になった。いや比喩表現では無い―――事実、司令官室―――火器管制官たちがはらはらと見守っていた一瞬に、電源が落ちたのだ。

 停電を起こした南盾島基地に誰もがざわつくも、ゼニガタ警部だけは違っていた。

 

「キッドだ―――!! いくぞチバ、イナガキ!!!」

「やれやれ―――南の島でバカンスとは行きそうにないな」

 

 

 停電したことがキッド出現の合図だと分かるとは、流石はキッドを追うことに執念を燃やした男――――。燃えるような刑事魂だ。

 司令官室から出て、非常電源に切り替わった基地内を走り抜けて、外に出ると大歓声の嵐―――基地と地続きではないものの、南盾島のショッピングモール―――その境を遮るフェンスに殺到している群衆。黄色い声が向けているのは間違いなく基地内部―――。

 

 どこだという意味で眼を向けると―――基地兵士達が巨大な投光器を当てて、侵入者を見つけた様子。

 南盾島基地―――その屋上に―――堂々とたたずんでいる姿。

 

 仮面を後ろに回してモノクルにシルクハットの素顔を見せながらも、決して誰かは分からない白いタキシード姿に赤いマントの魔法怪盗…。間違いなかった。

 ゼニガタの心に歓喜が溢れる―――活動を再開したのか今宵限りの復活かは分からないが、それでも―――嬉しかったのだ。

 

「貴様ァ! 何者だ!!!???」

 

 海兵の威勢のいい言葉。光と言葉を向けられたことで、マントを海風に棚引かせながら宣言する。

 

「今宵の月と星の美しさに反する海神の巫女の泣き顔に、我が心は痛むばかり―――

 世界に神秘あり、人の心に謎あり、夜の闇に奇跡あり。万世のミスティックを秘蔵するため魔法怪盗プリズマキッド 今宵 参上!!!」

 

 

『『『『キッド様―――――♪♪♪』』』』

 

 凄い人気だなー。と呆れるように羨ましく思ってしまう寿和。黄色い声援がモールのフェンスからも聞こえるとか、斬り捨てたく思う。

 

「―――『未来を生きる子供たち』の心を救うために―――『永遠の魔法』を刻み付けましょう……」

 

 最後の口上をルーンカードを見せながら言ってのけたことで、興奮はアップする。

 群衆が基地内になだれ込む可能性もあるか―――だが―――そんなことよりもゼニガタの見識を二人の日本人刑事は待つ。

 

 

「キッド―――!!! よくもまぁ白昼堂々―――ではないが、真夜中堂々とこんな愉快犯的なことをやってくれたなぁ!!!」

「やぁ久しぶりですね。ゼニガタ警部―――相変わらずの鬼刑事振りで、このキッド―――感無量の極み」

 

 丁寧な一礼をする魔法怪盗の笑みは崩れない。そしてゼニガタ警部は、間違いなくキッドだと確信している様子。

 しかしとんでもない男(?)だ。停電の一瞬を狙って基地内に潜入した手際は並ではない。魔法師としても超一流どころか、トーラス・シルバーやレオナルド・アーキマンが出てくるまで、この怪盗だけが飛行術式を独占していたのだから。

 

 そして、ゼニガタとの問答が続く。彼の魔法怪盗が狙うお宝は何なのかと言う話題が……。

 

「今回の貴様の目的は何だ!? この南盾島にお前が狙うような『宝物』はないはずだぞ!?」

「確かに現物的なものはありませんね。ですが、私は同時に、『魔性の脅威あるところに存在し、神秘の秘宝を盗みつづけていく!!』とも宣言していますので―――」

 

 その言葉を吐いた瞬間、キッドに対して盛大な銃撃。いくら基地内に侵入されたとはいえ、あまりに無茶な発砲だ。

 稲垣が、発砲した基地の守備隊の一人に食って掛かる。

 

「彼はまだ何も犯罪行為を侵していない!!」

「基地内に侵入した時点で不法侵入が成立している! 官憲が我々の任務に口を出すな!!」

「軍人だったらば、怪しきものを殺してもいいなどという法律は無いんだぞ!!!」

 

 

 などと言っていると屋上の硝煙が晴れて――――そこには無傷の魔法怪盗―――『達』が存在していた。

 キッドと同じく素性を隠す覆面のようなものを着けながらも、その背格好はそれぞれで違っていた。

 

「……キッドが複数!?」

「今宵のショーは、私一人では、成立しない―――海神の巫女の涙。頂戴する為に仲間を募ったのだ!! 混沌の世界を引き裂き! 全ての闇を打ち払って次世代の楽園へと導く同志!! 己が名前を叫べ!!」

「俺の名前はプリズマキッドの盟友の一人。プリズマガンドー!!! ブシドーに非ず!! 間違いなきようお願いしておく!!!」

 

 プリズマガンドー……いの一番にそう名乗った男はキッドとほとんど変わらない体型と格好だが、面を隠すものが、戦国武将の面頬に似ているのだからブシドーと言いそうになってしまう。

 

「俺の名前はプリズマキッドのダチの一人。ブリズマパンツァー!! 肉体の頑健さは誰にも負けない!! 最強のファイターだぜ!!」

 

 割りと普通の自己紹介ながらも至極真っ当な感じのパンツァーに誰もが安堵する。ただ何となく、いい声すぎてEDの曲を任せたい。

 

「僕の名前はプリズマキッドの友の一人。プリズマエンシェント―――我が魔力の真髄を、愚鈍なる民衆に見せつけてやろう!」

 

 なんだか夏休み明けのイメチェンが不安になる『患っている』エンシェントの言葉の後には――――。

 

「オレの名前はプリズマキッドの長男役! マジレンジャーで言えばグリーンの役どころ! プリズマエメラルド! 弟分たちへの攻撃は俺が通さん!!」

「「「「あ、兄貴!!」」」」

 

 何か一人だけ宝石の名前でズルいと言いたくなるような巨漢の男。無駄に声はセクシーに決めてきて何かのコールでもしたくなる。

 

 群衆からの声援で『アトベさまー♪』というのも混じるのは、これ如何に―――。

 ともあれA級魔法師クラスの隠密行動で基地内に入り込んだ五人の魔法使いたちに、基地警備隊にも緊張が走る。

 

 その手際に『工房の奥』にいたアルキメデスも驚愕せざるを得ない。

 だが、まだ想定の範囲内―――カネマルたちが目標とした人工構造体―――彼らの名前で、『ラミエル』という……星舟が落着すれば、自分の目的は達成する。

 

 しかし―――相手は更なる戦力を引き入れていたのだ。その時―――基地内に高笑いを決める声が響く。

 

 それは遠くから出ているようで近くからも聞こえるかのように―――幻想的な『女』の声だった……。

 

 気付いた基地隊が投光器を……向ける前に注目を浴びる形で、魔法で作り上げただろうバックライトやスポットライトで己の姿を映し出す―――女が、基地の港湾設備のデリッククレーンの上に集まっていた。

 

 何で全員、高い所に上るんだろう。馬鹿なのか―――と思う前に先頭にいた一番有名な『女怪盗』……『美少女魔法戦士』とも言われる金髪の女が、声を張り上げる。

 

 『プリズマキッドだけが魔法怪盗ではないわ! アルセーヌ・ルパン、怪人二十面相(twenty face)、イシカワゴエモン―――人類史や人類の記憶に刻まれし怪盗の姿が『男』しかいないならば!』

 

 プリズマリーナ・ツヴァイという金髪をロールにしたもっとも怪盗らしい少女の言葉を受けて――――。

 

 『私達こそが、時代の先触れとなってみせます!』

 

 全体的にダークブルーの衣装…フリルが広がるミニスカートに胸元が見えているロングの黒髪の少女(マスク付き)が答える。

 

 『こんな慈悲も情けもない浮世だからこそ!』

 

 次いで赤系統の衣装―――燃える炎にも見える怪盗らしくないカラーだが、言う赤髪少女(ネコミミとマスク付き)にマッチした衣装で言ってくる。

 

 『咲かせて見せましょう華一輪!』

 

 碧色の系統の衣装―――髪まで緑色に変化した少女が、緑系統の怪盗衣装と共に花の花弁にも見える魔力を打ち上げる。ちなみに隠しきれないバストサイズは、当たり前の如く怪盗衣装で強調されていた。

 

 『『天下御免のファントムレディ―――』』

 

 『『ここに『スイサン』つかまつる―――です!』』

 

 

 相似を意識しながらも髪型の変化がある『仲良し二人組』な雰囲気の二組が初期のプラズマリーナな衣装で言ってくる。

 色は年長組が『緑色』なのに対して、若干舌足らずな年少組が『青色』のリーナな衣装である。

 

 『女の子に涙を流させる不埒な悪行三昧! 例えお天道様が許しても、私達は絶対に許さない―――』

 

 大トリを飾るかのように白の怪盗衣装を纏うウェーブかかった黒髪の女の声―――恐らく年齢は少し高めの言葉を以て最後の名乗りが入る。

 

 

 『『『『『我ら世紀末に現れし愛と正義の美少女魔法怪盗団『ファントム・スターズ』!!!』』』』』

 

 『『『『『今後も一つよろしく、お・ね・が・い・します・ネ♪』』』』』

 

 最後の方には、人差し指を唇に当ててのセリフ回しと蠱惑的な表情に群衆と一部の海軍兵士達のボルテージもアップしてしまう。

 口笛まで吹かれている辺り、深刻さを覚えてしまうキッドたち(一高男子陣)である。

 

(お前の妹、最初は乗り気じゃない風だったのに、とうとう怪盗ポーズまで決めているぞ!)

(怪盗ポーズって何だよ? まぁショータイムだ! とか言いそうな衣装ではあるが、ペルソナは出ないぞ)

 

 

 言いながらも―――リーナからの通信。最後の混乱を起こすために盗むための品物を言ってのける―――前に『四亜と九亜』に気付いたらしき声が響いた。

 

「わ、わたつみシリーズ……! やはり海神の巫女の涙とは!?」

 

(ワタシ)は、この島に流れる涙を拭うために、此処にやって来た――――七人の『わたつみ』の巫女たち―――貴様たちが奪った魔法師の少女達(海宝石)の未来―――返してもらうぞ、ソルジャーズ!!』

 

 

 男の言葉の後に合せる形で、刹那とリーナは、海軍基地全てを睨むように、はったと『眼』だけで分かる『睨みつけ』で言って聞かせた。

 

 その言葉で狼狽する兵士たち―――分からぬ者達―――。その様子の違いが部隊間に亀裂を生じさせて、ゼニガタ・シルバーの眼を鋭くさせる。

 キッドとリーナの言葉が事実だとすれば、この海軍基地に隠れているものは、とてつもない。しかし……。

 

 

「ゼニガタ警部、どうしますか?」

「予定通りだ。チバ刑事―――どちらにせよキッドは犯罪者。捕える―――同時に君たちもやりたい様にやりたまえ」

「了解です。ったくあの赤毛―――どう考えても、『身内』だが……あんな衣装に憧れがあったとは、ね……」

「トシ君。どう考えてもあのプリズマ☆サニー(仮称)が、君を睨んでいるよ。絶対にやられるよ」

 

 長十手を解き放つゼニガタと、悪い笑みを浮かべつつも、刀を解き放つ千葉寿和に警告をする稲垣もまた拳銃型CADを抜き、警戒をする。

 

 

『撃て―――!!!』

 

 激発をした兵士の号令でショック弾などの暴徒鎮圧用の弾丸が吐き出される。

 実弾すらあることで、動揺が広がるも―――魔法怪盗たちは、南盾島基地の夜空を飛び回るようにして、散開した。

 

 

「イッツア―――」

「SHOW TIME―――♪」

 

 言いながら空中で合流したキッドとリーナは、寄り添いながらも地上に向けて『魔法』の輝きを向ける。

 

 何かの手品のようにカードを取り出したプリズマキッドが、飛びながら虚空に並べて―――兵士たちの火箭に勝るかもしれない火炎のルーンを具現化させた。

 狙われた地上の兵士達は、己の消滅を予想して―――そして―――火炎のルーンを受けたことで―――。

 

 パンツ一枚を残して素っ裸になった。無論、武器は消滅―――。悲鳴が上がる。一部にガタイのいい兵士をみて歓喜の声も上がる。

 

「プリズマガンド―より授かりし忍法『まっぱだカーニバルの術』!」

「そんなもの授けた覚えはないんだが!!」

 

 

 群衆たちは、こちらのショーを見て注目している様子。マスコミたちもフェンスに乗り上げたり、ギリギリの距離でドローンを飛ばすことで撮影を敢行している。

 プリズマキッドの一挙手一投足が、軽快に兵士達を無力化していく様子が映される。プリズマガンド―もまた『棺桶』を背負いながらも、空中から魔弾を放射して兵士達を無力化していく。

 

「くそっ!! 好き勝手させてたまるか!! 全隊抜刀!!」

 

 千葉道場の剣士―――あの時、発着場でエリカと問答をしていた人間が地上に降り立ったキッドを狙って動こうとした一瞬。

 その手から刀剣型のCADが失われる。彼らの近くに降り立つ黒い魔王―――プリズマガンド―の仕業である。

 

「やわな刀だな」

 

 そりゃ分解魔法なんて仕掛けられてやわも何もあるかよ。と言いたくなるも、笑みを浮かべた魔王の言葉を受けて、剣士隊の面々を魔弾で黙らせる。

 予想通り基地外は混乱している。そんな中でも九亜と四亜がいることに気付いて、捕獲しに行った連中は少なくないが―――。

 

 

「パンツァー!!!」

「風白刃!」

 

 その前に佇むナイト二人が不埒な輩を近づけさせない。基地内は混乱しているが、南方諸島工廠と呼ばれる『研究施設全体』は―――『魔術的』にシールドされていた。

 突破するのは不可能ではないが、地上の混乱に一定の収拾をつけてからでないと、背後を撃たれる可能性もある。そう思った直後―――。

 

 

「キッド!!!」

 

 リーナの警告。背後から一直線に突きだされる長十手の一撃。受け止めるはアゾット剣。衝撃が伝わるも、構わずに押し貫こうとするゼニガタの動きは一直線だ。

 押し合いを嫌って弾くように長十手の一撃から離れる。

 

 

「相変わらずの腕前―――ですが、私の目的ぐらいは、察していても良さそうですが?」

「明らかな悪徳があるとはっきりと言えないならば、俺の任務は変わらんのだよ。察しは着いているがな!」

 

 拘束型の魔術式。手錠型のそれが放たれるも、横合いからのグラムデモリッション―――術式解体で崩れ去る。その一瞬に、挑みかかる。

 

 カレイドステッキに『刃』を発生させて、長十手と打ちあう。あまり暴れられても困るが、それでも自由にさせては―――不味い。

 

 そんなゼニガタ・シルバーの一定の無力化を……と思っていた時に、音もなく近づくは―――エリカの兄貴。千葉寿和だった。

 高速歩法を用いての接近―――側面から切りかかるとみせかけての―――後退。相対しようと方向転換した時には、長十手の攻撃が『側面』を襲う。

 

 エリカよりも『上手い』戦い方だ……自分が、自分がという意思で挑みかかるエリカとの違いはここだと思っていると、駆けつけたエリカが寿和さんを抑えにかかる。

 

 

「―――南の島まで、何の用なのよ!?」

「仕事だ。宮仕えというのはあれこれ引っ張り出されるんだ。お前こそ、ハロウィンでもないのに若い娘っ子が足を見せているんじゃない」

「兄貴面して!!」

「兄貴なんだけど!?」

 

 世の中の兄妹とは、司波兄妹だけでなく、こういったものもあるんだなぁ。などと思いつつ、その凄まじい剣戟(兄妹ケンカ)を見ていると―――。

 

「キッド逮捕だ―――!!!」

「それは勘弁願うよ!!」

『ハッハッハ。やはり怪盗たるもの追う刑事がいなければ締まらないね。しかし、そろそろかな? アキヤマの策によれば―――』

 

 プリズマステッキを使いながら、ゼニガタと剣戟を演じる。あちこちで反撃が始まろうとするも、ここには最大級の魔法師戦力が揃っている。

 何より基地所属兵士たちも、キッドの狙いが分からないことで、混乱しきっている―――攻撃すべきは本当にプリズマキッド率いる『怪盗旅団』なのかどうかを……。

 

 美月の『月鏡』からの魔弾放射で、十名ほどが沈黙したのを見た所で―――基地放送室を占拠しただろう秋山軍曹の声が響く。

 いきなりな放送に―――誰もの耳が響いて動きが止まるのを感じる。

 

『南盾島基地に所属する全兵士たちに伝える。私は基地守備隊所属の軍曹・秋山信滋! 簡潔に伝えるが、キッドは敵ではない! 彼らはこの基地にて行われている違法魔道実験を止めに来ただけだ!!!』

 

「軍曹……」「秋山先輩……」

 

 何人かの兵士たち―――恐らくこの基地にて行われている『陰謀』を知らぬものたちは、向けていた銃を降ろして放送に聞き入る。

 

 細かな銃声などは響くが、それでもその放送で、一種の停滞が起こる。

 

 

『この基地の南方諸島工廠にはまだ年端もいかぬ幼年魔法師たちが囚われており、非人道実験に使われている!! 私の言葉が信用できないものもいるだろうが、しかしあの施設が『何の目的』で使われているか知らないものばかりだったはず。

 私が知った事実を各々の端末に送信させてもらう―――。

 そして、プリズマキッドの来訪と同じく警視庁もまた『ここに査察』を入れようとしている!! 既に司直の手が回っている以上! 我々は、己の身を正し軍人としての本領を取り戻すべきなのだ!! 

 今、この場でキッドの邪魔をすることは、我々が―――守るべき子供達の未来を失わせることと同義なのだ!!!』

 

 言葉と同時に何人か―――恐らく秋山氏が信頼していた軍人たちの携帯端末に『情報』が送られた。そういう電子音が響き……データが送信されたのだろう。

 

 やったのはもしかしたらば藤林響子かもしれないが、ともあれ一読した軍人たちは意気消沈をする……。こんなことが自分達の足元で行われていて―――それで何も感じられないわけがない。

 

 感じないものは――――。

 

 

「惑わされるな! 秋山がどれだけのことを言おうと、これは海軍参謀本部も認めたことだ!! 軍の上位の権限を帯びた特務である以上、何者にも優越される!!」

 

 ―――最初からこの陰謀に加担していたものだけだ。

 

 尉官クラスの一団が、他の士官たちを威圧するように言うが、そんな高圧的に言った時点で、この非人道実験を認めたようなものだった。

 

 そして―――この事態に―――。動くものがいる……。

 

 一人の士官……倒れ伏した人間の端末を開いた刑事たちが、眼を鋭くする。

 

「成程。拝見させてもらったが、こいつは随分ととんでもないな―――。稲垣! 部隊を基地内に入れろ!! 悪いが、ここまでの証拠や嫌疑がある以上、この基地内の全兵士及び職員は監禁及び未成年者略取・誘拐の容疑者だ!!

 全員、武器を捨てて、そこを動くな! 身柄を拘束させてもらう!!!」

 

「どうやらキッド。お前を捕えるのは、後にした方が良さそうだな」

 

 長十手とステッキの押し合いを止めるゼニガタ警部に感謝する。

 

「ご理解いただけて何よりです」

 

「―――後で、お前が実家から持ちだしたとか言う戦国甲冑を見せろよ『少年』。―――今まで『少女』との『夜遊びデート』を見逃して補導もしてこなかったんだからな」

 

 当たり前だが、ばれていたようである。舌を出して、イタズラがばれた後のバツの悪さを消す。

 

 苦笑した顔をする『とっつあん』に申し訳ない想いをしながらも―――やはり出てきた様子―――。

 

 兵士達が、突入してきた警察の機動部隊に拘束される寸前に―――。空にいきなり―――いくつもの歯車が出現する。

 

 その歯車の一つには思案顔の―――実にイヤな顔があった……。まるで椅子に座っての思考をするかのような学士の姿……完全なる解答を持つもの―――シラクサの数学者がいたのだ。

 

 

「やれやれ、とことん使えないソルジャーズだな……しかし、此処で混乱を起こしてくれたことでカネマルのケツに火が点いたのでね。

 ある意味では感謝すべき筋合いなのだろうが――――………やはり、幾らかは無力化しておくのが適当な解答といったところか」

 

 不規則な動きをするような歯車の多くだが、それが天体運行の動きにリンクしていることに気付くものはいない。

 

 未だに現代魔法では実現できない物質転移で現れた男に、誰もが動けない……。そして―――。

 

「しかしセファール降臨のカウントダウンは始まった。この場で『魔法』の輝きを奪取する!! 

『レガリア』に代わる世界へのアクセス権―――貴様が贄だ!! 『魔法使い』」

 

 言葉と同時に南方諸島工廠と言う名の『研究所』付近から、多くのピクトウォーリア―――恐らく死体を使ったものと幾つもの『箱』……キューブでクロスを描いたような機構が顕れる。

 

 完全な工房に対する防衛体制を見たキッド=刹那は、ルーンのグローブを嵌めなおしながら、宣言する。

 

「シラクサの数学者! キャスター・アルキメデス!!! お前が持つ完全なる数式の全て―――『封印』(破綻)させてもらう!!!

 

 

 ――封印指定執行者の力強い言葉が、夜空の下に響き渡るのだった……。

 


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