魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
あれだな。やはりグレイたんがやってくるんだな。もしくはヘファイスティオンとかアクセルオーダーの続編として、『何故か』存命しているケイネス先生と、その下でプロフェッサー・カリスマなどと呼ばれながら―――
『一杯付き合えウェイバー。スラーにある赤提灯の店でもいいぞ』
『存分にお付き合いしますよ。ケイネス先生。日本の酒も結構乙ですから』
うん。ありえねぇ(笑)
というわけで新話どうぞ
『かつてセファールが地上を蹂躙した後、最後の力を振り絞った『星』は『神々・精霊・人』それらの願いを束ねて、『聖剣』と化し、聖剣の担い手の手を以てセファールを討たせた』
「神話のプロトタイプだな。世界は
『その通り。だが討たれたはずのセファール……そのコアに当たる『宇宙人』は、歩みを止めずある地域に辿り着き、そこにて永い眠りに着いた―――、
詳しい所を省くが、その後に彼女を見つけた遊牧民族は、彼女を王として仰ぎ、部族の長の息子を弟に据え、民族の王であり、文明の蹂躙者としてユーラシア大陸を制覇することになる』
「チンギスハンか?」
『惜しいねタツヤ。あの辺りの民族は、血が混合し過ぎてモンゴロイドとしての祖が誰だったのかすら分からないんだが、そんなチンギスハンよりも先に、
歴史―――世界史の勉強となったオニキスの言葉。続く限りでは、それ以前に匈奴地方にて起こった英雄がいるとするオニキス。
その言葉で思い当たる者が出てきた。
「フン族の王―――『アッティラ』か?」
『ピンポンピンポン♪卓球―――♪などと小粋に言ってみたが、その通りだよ。幼き幼児の姿にまで退化していた彼女から、セファール及び巨神アルテラの時代の記憶は薄れていき、ただその破壊衝動の果て……赴くままに西方アジアからロシアに『北行』していき、ついには東欧にまで差し掛かった『破界王』……』
十文字会頭の慧眼に関して、お道化て答えたオニキス―――。だがそれでは納得できない面子は多い。知られている限りのフン族の王アッティラの最後は、酒宴の席での出血多量が下での死亡だったはずだ。
無論、人づての話でしかないわけで真実は違うだろうということは、誰だって分かっている。多くの歴史上の人物が伝えられている通りの最後を迎えたとは、一概には言えない。
豊臣秀頼の係累が島原の天草四朗になったり、先程出たチンギスハンとて、奥州に逃れた源義経が更に逃げた末、モンゴルに渡った後の子孫ではないかとも伝わっているのだ。
眉唾な俗説もあれば、信じられるものもある中―――まさか『宇宙空間』に逃れたなど……誰が想像出来ようか―――。
「ココアたち曰くだけど、魔法の投射実験の際にあの巨神と繋がり合って、助けを求めたんだって、その際に『声』を上げられるようにしたとも聞いたわ」
「そうか。南盾島からレオなどに飛ばしていた声―――叫びは、その時に授かったものだったのか」
「ときのローマ教皇レオ一世の起こした『奇跡』……まぁ教会系統の魔術によって、アッティラに己の『正体』を自覚させた。
バチカンの秘密文書によれば、そういった事があったそうだ。あのローマから撤退を決断させた会談は、そう『秘密裡』に伝わっている」
アビゲイル・スチューアットから特急で送られた来た、バチカンに対するハッキングデータによれば、そういうことだった―――『この世界』におけるアルテラは、そうして己を自覚した……。
やがてそんな
そうして多くの不和が起こり―――アルテラは、自分を育ててくれたフン族及びフン帝国の行く末を案じつつも、自分無き後は『弟』に全てを任せた。
その後に……己の『遺骸』に走り、そしてこの『地球』からの撤退を開始した。
己の存在が、地球に良くない影響があると思ったのか。あるいはどこかの『世界線』から流れてきた『記憶や想い』―――暖かなものが、彼女を破壊神としなかったのかもしれない。
愛華さんとは真逆だ……。
同じものを見て執着を覚えたもの。
同じものを見て終着を知ったもの。
その違いが、彼女を封印して宇宙に逝かせたのだ。ただ―――もしも、フン族のように自分を呼び覚ますものがあれば、こうして来臨することも考えていたのかもしれない。
いい文明。わるい文明。
九亜達を泣かすことがあれば、彼女は軍神として全ての魔法師を切り裂いていただろう。
『恐らくアルテラは、己の力をココアたちに『生命力』として分けるはずだ……。霊基が分裂しつつあるようだからね』
「なんて慈悲深い……そんなことも出来るのか?」
(壊すことしか出来ず、言われるがままに殺してきた私のワガママなんだ―――頼むよ『ダ・ヴィンチ』……『この子たち』は―――生かしてあげたい)
全員の頭に響く声。その声こそが、九亜と会話しながらも発された巨神アルテラの声だと理解出来た。だが、ダ・ヴィンチとは誰の事だ?
そんな疑問を置き去りに話は続く……。
「人間の
ヒトは一人じゃ生きていけないよ。九亜の姿にかつての自分を認め、けれど助けてあげたいと思ったんだろうな」
『魔法使い。アナタがかき集めてくれた私の身体を
『ココア、アナタを助けたものを尊重します。アナタに色彩を与えたものに、敬意を表して――――この身を―――』
九亜たちわたつみシリーズに訴える言葉と、こちらの頭の中に響く言葉とがリンクした時、意識の外にあった存在が―――動き出した。
忘れていた―――と言えば、その通り。
だが、これだけの巨神を相手に、あの星からのバックアップ一つ受けてるか怪しいサーヴァントに何かできるとは思っていなかったのも事実。
即ち―――一切の容赦ない奇襲がアルテラを襲うのだった……。
背後から胸を貫く大槍。
宙づりにも見えた浮遊が解かれたのか、膝から崩れ落ちて海の中に沈みこもうとするアルテラに対して―――。
「深雪!」
「――――」
達也に言われる前から用意していたのか、アルテラが水没しようとする前に手を掛けられる場所を与えることが出来た。
深雪の手によって南盾島の近海が凍てつく……。同時に、哄笑を上げるアルキメデスに対して、怒りのドラゴンボイスと剣弾が撃ち込まれる。
「アンタはぁぁっ!!!」
咆哮は、裏声でありながらも怒りのままに、アルキメデスを直撃。それを追うかのように、刹那の放った魔剣が追撃として撃ち込まれる。
盛大なまでの魔力の放射に全員が慄いたが、即座に行動を開始しなければならない。
キャスター・アルキメデスの実力は英霊と言うに相応しい。時間を掛けさせては刹那以外に対処不可能な存在になることもあり得る。
飛行デバイスが無くともカレイドライナーとしての衣服は、イメージさえ確固たるものであれば飛行を可能とする。
この中で、いの一番に飛び出した刹那とリーナ以外に、飛行が可能なのは『十文字』『七草』『美月』『レオ』―――の四名だけであって、その他の面子は達也がFLTから急遽取り寄せた飛行デバイスを持たせることで対処していた。
カレイドライナーの飛行とは、現代魔法の理屈ともまた違うものであったのだ。
もっとも刹那曰く『魔力を固めて足場にする』なんてことも出来るらしいが―――ともあれ、現代魔法の担い手は飛行デバイスを用いて、飛んでくる。
深雪、ほのか、雫が筆頭であり、達也手製のデバイスでも飛べなかった幹比古とエリカは、氷の足場を利用して滑るようにやってくる。
基地から四十メートルは離れた所で槍に貫かれた巨人―――あまりにも現実感を失いそうな光景に眩暈を覚えながらも、その傷の治療をオニキスは行おうとしている。
「無駄だ。レオナルド・ダ・ヴィンチ! その槍は星舟の欠片を基材にして作り上げた『神霊の槍』だ!! 簡単には抜けず、抜いたところで、巨神は死ぬ!!」
『神霊の槍!? 刹那!!』
「『カイニスの槍』だ!
「無論ではあるが、このような氷―――我が力によって砕いてくれる!!
ハハッ!! まだまだ解析のし甲斐がありそうだが、力を使うことに、酔いしれるというのもいいものだ!!! エウレーカ!!!」
上半身の衣服を脱ぎ捨てて『力』―――セファールの力を発現させつつあるキャスター。遊星の紋章が全身を侵食していく様子が見える。
肌は浅黒くなっていき、螺旋歯車が腕に纏わる。古代エジプトの金腕輪のように密着するようなタイプだ。そしてダークグレーとも言える髪が、真っ白になって背中まで伸びる。
その頭からは、セファールよりは短いが触角が生えていた―――。
もはやキャスターというクラスの枠には収まらないだろう―――完全に
腕を振り上げて、掌を上に向けたポーズ―――俗な言葉で言えば『支配者のポーズ』とも言えるものを見せていた。
空中でそんなものをすることに、何の意味があろうと構わず攻撃を開始する。先制攻撃をしたのは雫だった。フォノンメーザーを撃ち出しての先制。
「私の戦いの号砲にしては、華々しさに欠けるなぁ!!」
瞬間、魔法陣がアルキメデスの前面に展開。雫のフォノンメーザーがそれに当たり―――反射される。
驚いた雫が、撃ち出したフォノンメーザーを超えた速度に面食らって対処が遅れたが、射線を邪魔する赤い魔弾が、それらを打ち消した。
「ごめん。助かった」
「言っている暇はない。来るぞ」
「―――答えを出してあげましょう! あなた達のつまらない答えをね!!!」
ギロチンアームが、回転機械のように迫りくる様子―――その数六本。すかさず刻印神槍『キガル・メスラムタエア』が放つ朱雷の魔弾が打ち砕く。
宝具ほどの硬さがあるわけではないが、これほどの大質量を次から次へと繰り出すとは―――。
「一掃してくれる!!!!」
次にやってきたギロチンアームは36本。かなり不味いと思うも……。
刹那が、神槍を振り回して『空中』に突きたてると―――朱雷が幾重にも走り、上空からやってきたギロチンが溶け落ちる。
キャスター……違うクラスだろうが該当が分からないので、キャスター・アルキメデスが上空に存在している限り制空権はあちらにある。
爆撃機の投下のように『シラクソン・ハルパゲー』を撃ち出されては冗談ではない。
達也とリーナが挟撃するように立ち向かう。正面ではないが真下に陣取ろうとするリーナのデミドラゴンな姿に、忌まわしい顔が映る。
強化されたとしても、月世界でのトラウマはぬぐえないようである。寄りつかせまいと歯車を動かす姿が見える。
「ワタシの中の『竜』が叫んでいるわ。悪徳プロデューサーやロクな仕事をしない劇場支配人は、縊り殺すのが上策だってね!!!」
「ええいっ! 忌まわしいなっ!! 余計な知恵を付けさせて!!」
「メンバーの管理義務は怠るんじゃないわよっ!!!」
言葉と同時にソニックボイス!! 同じくアルキメデスもまた口からエネルギー波を叩き込む。
音の速度に先んじようとする光線だったが、拮抗しあい互角。相殺。その際の停滞を狙って光井ほのかは、エリリーナの後ろから出てきて、アルキメデスに視線を合わせる。
『邪眼』―――イビル・アイと呼ばれる光波振動系の魔法で、相手の意識に対して潜入を掛ける。
刹那の持つ『魔眼』とは違って『天然』ではないものの、一瞬の
対魔力においては、三騎士や騎兵などとは違いクラススキルに表示されないものの、最優の魔術師ならば魔術による干渉程度、簡単に退けられる。
しかし、状況が悪かった。アルキメデスが、エリリーナのソニックボイスを相殺した際のエネルギーの爆発で、アルキメデスも揺れていたのだ。
その隙を見逃す達也では無い。飛行魔法と体術の応用でアルキメデスに肉薄。その生身の脇腹にセブンスペインを押し当てる。
気付いて腕輪を回転させて、達也を迎撃しようとしたアルキメデス―――「遅い」。
言葉が先んじて、魔法で加速された杭が直接に圧を加える。その圧の程は、アルキメデスをロケットの如き勢いで氷海に叩き落とした。
水柱と共に氷が砕ける様子。方向は考えて『杭』を撃ち出したが、分裂著しい氷海に達也は少しやりすぎた思いである。
アルテラが氷に乗り上げることすら出来ない状況なのだ。これ以上は、拙いと思った時には深雪のフォローで氷の修復が為される。
だが―――魔法を掛けられなかった海―――冬場のワカサギ釣りの穴の如く一か所だけが残り、そこからキャスターが出てきた。
ダメージはあるようだ。しかし魔力による補正が達也の撃ち出したバリオンを無効化していく様子もある。
「たえず攻撃し続けろ!! 八王子クライシスの際のことを覚えているならば、この程度では無理なことぐらい分かるだろうが!!」
「気合いがあるのはいいが、いいのかな!? アルテラを失えば、あの『わたつみ』達は死ぬのだぞ!! 彼女らに定着した『星の紋章』は、彼女たちの自我を繋ぎとめる縁なのだからな!!!」
その言葉をブラフと断言できない。
確証は持てないが、本来ならばインターバルがあるべき戦略級魔法の投射を何度もやっているのだ―――穂波を失った達也には、未だに健康とは言い切れない九亜たちのような調整体魔法師たちが生きている道理を知った瞬間だった。
だが、その言葉を信じ切れば―――慚愧が
否定するべき刹那が何も言わないことに、達也は否定を願うも、魔術師は苦痛の表情をして朱雷の魔弾を叩き込む。
十文字会頭とて、その言葉で迷いを生んでしまう。棍杖の叩き込みは苛烈を極めつつも、若干の濁りを感じさせる……。その隙は見逃されない。
「黄金比の更に深淵―――黄金三角形―――」
絶妙な位置に配置されたアルキメデスの武装。殺戮技工の限りが、十文字会頭を襲う。ジェットスクリュー2つの放射を『一点』―――会頭の後ろの『一点』に集中させた上で、その一点から反射するように対角線上の点―――即ち会頭の正面を目指す水流放射。
その上で上方からは、ギロチンが落ちてくる。それに対してファランクスが発動。多層障壁を使ってそれらを防ぎながらの体当たり―――無茶をする。
細かな切り傷が発生する辺り完全ではないものの、その傷つきながらの突進が学士の表情を一変させる。
肩から入るショルダータックルが炸裂。
「仮にも私は英霊だ! 貴様如き人間風情に負けるものか!!」
「強がりにしか聞こえねぇよ!!」
会頭の後に続くレオの攻撃。頑健すぎる大男二人からのパンクラチオンを前にして、浮遊しながらの攻撃を放つアルキメデス。
一見すれば、互角にやり合っているように見えるが、レオも会頭も一撃ごとにサイオンの消費が激しすぎる。一撃一撃ごとに力の消耗がありすぎるのだ。
「西城!!! やれるな!?」
「押忍!! 無論ですよ!!!」
見るとレオの身体……そこに何かの『獣』のオーラが纏わりつく。獣性魔術とも言えるが、少し違う気がする……。
だが、その青と赤の煌々としたオーラが、壁か鎧のようにレオの身体を拡張している。スヴィン兄貴だったらば「匂いがゴツゴツしてモフモフしてやがる」とか言いそうなオーラかもしれない。
想像でしかないが……ともあれ肉弾戦を挑む二人に援護できる距離では無い。ヘタすればエイドス干渉であっても何かの邪魔に成りかねない。
「七草会長は、美月と一緒に細かい牽制を上空から入れてください。決して二人には当てない様に、されど本気でこちらに敵意を向けさせないように。リーナ、お前は陽動すると同時に、機あれば一撃入れる。タイミングは任せる。深雪は氷の維持」
「他に指示はあるか?」
「達也とエリカは二人の交代。無理だと思った時に無理やりでもいいから引っ込めろ。幹比古、雫、光井は―――会長と美月の交代要員。攻撃方法を単調にすれば、確実に全員やられる。つけ込まれないように」
達也が重々しく頷く前から全員が分かっていた。アレは真正の魔力の化け物だ―――。あんなものがいるなど信じたくは無かったが、それでもある以上は専門家の指示に任せるしかない。
(最弱のキャスターですら、こうなってしまうとはな。悔しい限りだ)
だが、知性あり人格がある『生体』である以上、つけ込む隙はある。その隙に強烈な一撃を叩きこめるのが、限られているのだ。
そうして達也が、了承してから気付く。刹那はどうするのかを――――。
「俺は―――『彼女の願い』を叶えにいくよ……」
九校戦でも一度だけ見た軍神短剣……セファール・セグメントというものを出してきた。
三本の刀身で構成された剣―――。それこそが、全てを決めると思えた。その時、全方位にレーザーを放射するアルキメデス。
無差別に見えて、その実、こちらと巨神アルテラを海の中に『沈めよう』とする意図を感じる。
宝具を撃たせては、全てが終わるだろう―――。
「貴様の意図などお見通しだ!! その剣を使わせるわけにはいかん!! セファールの力は全て、我が血肉とするのだ!!」
「
達也たちと行く方向を違えながら、刹那は向かう。
巨神でありながらも、宇宙人でありながらも、人々の為に戦い。ただ一人の月の王の為に戦い抜いた乙女の願いを叶えにいくことにした。
巨神アルテラの死は確定している。これはどんな世界でも違わぬ『記録帯』なのだろう……。
『滅びは新生の喜びでもあります―――私は、
『―――それでいいのかい? 君は他の世界の己を見たからこそ、自分にもそういった結末が欲しいと思って、やってきたはずだろう。
決して死ぬ為なんかじゃない。君は生きたいからこそ……だってそうじゃないと!!!』
『いいえ。月の新王だけではない……『もう一つ』見れた―――だから―――
カイニスの槍に貫かれて、辛うじて舟板のように氷原に掴まるアルテラは、オニキス=レオナルド・ダ・ヴィンチに語りながら、刹那に視線を向けてくる。
その視線の意味は測りかねたが、鼓動が30秒は早まるような魅惑のものだった……。何故かは知らないが、その視線に見られることが不快ではない。そういうものを知っているような気がした。
「魔法使い『トオサカ・セツナ』―――アナタの作り上げた
重い決断だ。この場で、そのような判断をすることになるなど……彼女がインヴェイダーのままならば、殺すことは躊躇わなかった。
だが、彼女は―――アルテラは、この世界に焦がれている。幾つもの記憶を見てきたが故に、命を破壊することを躊躇い自死を選ぶ……その判断に否を叫びたい。
乗せられている九亜たち調整体魔法師たちの命を活かす術は、他にもあるはずなのに……。
「九亜と交信したことをリーナから知らなければ、ここでの決断は違ったかもしれなかったな……」
「私の全てをあの子たちにあげる―――それこそが最善だというアナタの判断は間違いではありません―――だから、
その言葉に―――何かがフラッシュバック……違う。『幻視』する。イメージは明確なものとなって、刹那の脳裏に刻まれようとする。
あり得ぬ『六回目』。土蔵、『魔法陣』……秘儀を『知らぬ自分』……半人前の
「っ……」
その幻視の合間に、アルキメデスのレーザーは、遂にこちらに届こうとしている。迷う暇すら―――もはやない。だから―――。
「巨神アルテラ! 神話の時代に砕かれしその身を―――いま一度!! 砕かせてもらう!!! これは―――俺が為すべき罪科だ!!」
「来てください―――『セツナ』……」
猛烈な回転を果たして強烈な魔力の螺旋を生み出すその軍神の剣を、カイニスの槍が貫いている傷に合わせた。
安堵するアルテラの声とは正反対に刹那は―――理由も知らずに『大粒の涙』を流していた―――。
・
・
・
・
「ダメよ九亜! アナタが行ってどうなるというの!?」
「アルテラさんは、私達の為にその身を世界に供しようとしている―――私が、私達が、ここで見ていてはダメなの」
「生命は己の意思で生存を勝ち取る権利を持つ―――その意志一つで……座して誰かの助けを待つだけじゃダメなんでしょ?」
「四亜……こんな時に……」
研究員たちは、誰もがあの修羅場へ行かせたくない想いで彼女たちを止める。しかし何かに導かれるようにわたつみ達は、氷原と化した海を渡ろうとする。
止められるものならば、止めたいが―――それでも………だが―――もう二度と失いたくない想いで止めたいはずなのに、盛永も江崎も古田も……彼女たちを止められない。
そんな中に、魔法の言葉が囁かれる―――。それは『姉妹』の中でも、最初に外に出たがゆえのものか、それとも―――。
そんな2人は振り返りながら、力強い眼で―――自分達、担当官を見ていた……。
『わたしを見ていて、『
その言葉は本来ならば止めなければいけないものだった。行かせてはならない。止めなければいけない。
だが―――もはやその資格は失われたのだった。
涙をあふれさせる盛永、俯く江崎―――全てが、貴い命のありようならば……全ては止められないのだ。
輝きを見た。奇跡を見た。ほしふる夜に―――全ての奇跡が、たった一つの結果へと、収斂していく……。
虹色の光輝が巨神の身体を分解したとき……九亜を筆頭にわたつみの姉妹たちは、その身を氷海氷原へと躍らせていた。
奇蹟が始まる――――。魔法使いの手で、九つの光の塊に分かたれた巨神アルテラの身は、導かれるままに九亜達に飛んでいき―――。
わたつみの姉妹たちは、己の身を違うモノへと変えた。それはあり得ざるキセキの具現。
その頭に小さな羽根を生やし、背中に大きな翼を得て大空を逝く、世界を翔ることを許された、白いローブであり鎧を着込んだ戦士のための乙女がそこにいた……。
「カトプロトン―――――――馬鹿なっ!!!!????
宝具を『強制キャンセル』されたアルキメデスは、驚きながらも、現れた存在に瞠目する。ワルキューレの『大本』は知っている。
だが、何故この場で―――。
そんな思考ごと己の身を貫かれる。人に火を与えた罪でカウカソス山で永遠に鳥葬されるプロメテウスを想像するぐらいに光槍は、都合『九回』もアルキメデスの身体を貫き―――。
落ちていく身体を再度跳ね上げさせるような攻撃が―――地上から『双つの流星』が奔った。
11回も死んだかのように錯覚する痛苦の中でアルキメデスは、理解した。
セファール……否、巨神アルテラは―――己の身を世界に供することで…神話の時代を再現したのだと……。
ほしふる夜に―――最後の奇跡が始まろうとしていた……。