魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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と言う訳で幕間の最後。

そして色々とあったのですが、ちょいと性質の悪い風邪にかかりまして、更新が遅れて申し訳ありませんでした。

などと言っているとツイッターにて磨伸先生が大変なことになっていました―――本当にお大事にですよ。太田垣先生も腱鞘炎で休載していましたが、利き手を骨折ですからね。

本当にお大事にして、またひむてん、特異点渋谷を見れる日を待っています。

期せずして呼符でカーマを当てたというのに、大奥に入れぬアホ野郎がお送りする新話どうぞ。

すまねぇフレンズのみんな―――せめてレベルだけはマックスのサクランサーとサクラシン(語呂悪っ)をリストに上げておくからよ……(涙)



『南の島での後始末』~さよならなんて言わねえぜ!~

「―――と、まぁ。そういうことです。三度目のミーティアライト・フォールの阻止は出来ませんでしたが、結果として『わたつみシリーズ』全体が交信していた宇宙人のおかげで、彼女たちの遺伝構造は正常化したと思われます」

 

「人類悪……根源接続者……アウトサイダー、神代文明の衰退……そして宇宙人か―――我々が生きてきた世界は随分と脆く出来ているものだ……」

 

「その捕食遊星ヴェルバーだが、飛来するまでに何年ぐらいかかりそうなのかね?」

 

『ヴェルバーの発信器―――即ち管制塔の役割を担っていたセファール・アルテラ及びセファール・アルキメデスの消滅までにヴェルバーがいるだろう天の川銀河に信号を放ったとしても、凡そ千年ぐらいはかかるんじゃないかな?

 まぁ、個人的な推測で申し訳ないが、場合によっては、あれ(ヴェルバー)は多くの星舟を撃ち出してくるから、その数次第では、一晩と経たずに地球は滅びるよ』

 

 あっさり。あっけらかん。と言う魔法の杖に、誰もが何を言っていいのか分からない。というかこの魔法の杖はいわゆるトランシーバーであり、何処かに誰かがいるのではないかということも考えたが、そんなことをする必要は無かった。

 

 即ち自称『万能の天才精霊カレイドオニキス』こと『ダ・ヴィンチちゃん(?)』は、魔法の杖に宿る意識であることは間違いないのだ……後に『パラサイト』という『真性悪魔』に似たものと相対することになる魔法師たちだが、この時はカルチャーショックが強すぎた。

 

 

「なんにせよ。事態は丸く収まったではありませんか。キッドやリーナに『扮装』しての作戦遂行も、いい感じに島民の皆さんの心証を和らげたのですから」

 

「そうは言いますが、もうちょっと何か出来なかったのか?」

 

「その場合、我々はアルキメデスの『子孫』―――ウォーク・アイズデッドの準備万端な『工房』に挑んで、マジックトラップで誰かは死んでいたかと、まぁ推測ですが」

 

 

 しかし、事態を表ざたにしない場合、沿岸部を焼き払うことで更に島のモールにも多大な被害が予想された……。どちらが良かったかは未だに判断は着かない。

 だが導かれる形で、わたつみシリーズが『ヒーロー』『ヒロイン』と慕ったプリズマキッド、プラズマリーナが現れたことがプラスの要因になれたのだと信じたい。

 

 

「ゼニガタ警部は、何かありますか?」

「本官はプリズマキッドの専任捜査官です。『コスプレ趣味のハイスクールステューデント』を逮捕する趣味はありませんな。特にアナタ方、十師族の意向で海軍基地に乗り込んだことは、日本の官憲との折り合いでしょうから。そこは言わないでおきましょう」

 

 コスプレ趣味……呟くようなリーナの言葉を誰も否定しないし、否定できない。そういう体でいなければ、まぁここは乗り切れない。

 

「ですが、キッドに扮装したこやつらは大変なモノを盗んでいきました」

「それは?」

 

 面白がるような四葉真夜の言葉。もうオチは見えたが言わせておこう。なんせゼニガタだし―――。

 

「ニホン人全員の心です。キッドは『義賊』という心証は拭いきれませんな」

 

 それを言いたかっただけだろ。と言ってやりたいが、まぁ場の空気を読んで言わないでおいた。

 そうしてゼニガタ警部は一旦の退場となった。ここから先はデリケートな話題になるのだろう。用意されていたミネラルウォーターに口をつけて喉を湿らせておく。

 

 

「わたつみシリーズに刻まれた、セファールでしたか、白い巨人でありアッティラ・ザ・フンの与えた遺伝子刻印は、彼らのテロメアを一般的な人間並みに伸ばした上に、違う魔法演算領域まで与えているようですね」

「解析はこれからですが、彼女たちは―――作られた存在から、まぁ有り体な言い方になりますが、人間として世界に足を着けましたよ」

「ロマンチックな表現ですね」

「そうとしか言えない出来事ばかりだったもので」

 

 ワルキューレとなることで、世界に確固たる己を刻んだ彼女たちは、もはや調整体魔法師という括りでは捉えられない。

 

 彼女たちの高度な魔法演算領域と引き換えの、短命な寿命もまた克服された。というよりも……『上限』が設けられた。

 調整体魔法師たちの短命な寿命が『覆された』のではなく、『作られた存在』としての『ワルキューレ』が『世界』に認識されたことで、『人間の領域』がワルキューレを超えることを許さなくなったのだろう。

 

 などという推測は言わずに、後の結果次第だなと思っておく。表向きは、高度魔力体の注入がそれらを為したということで決着させた。

 そして、わたつみシリーズの『今後』に関しての話となる。

 

 

「刹那くんはどこに預けるのが一番だと思っている? ウチは大家族だからな。今さら末っ子が九人ぐらい増えても構わんよ」

「三矢殿。それは抜け駆けが過ぎますよ。ウチも女所帯だからな。今さら女家族が増えても―――まぁ将輝はちょっと焦るかもしれないが、どうだろう?」

「お二人とも、お静かに―――当初、盛永研究員から救援を求められたのは我が家です……私がこの案件に責任を持ちたい―――ダメかな?」

 

 三矢、一条、七草……三家からの求めは、どこでも正統性はあったが、やはり娘っ子がいる家庭だからこそ世話をしたいという想いが強い家庭ばかりだった。

 

 特に七草家は、『当主』の特殊な経歴ゆえに、拳を握りしめての言動だったが―――円卓会議に呼び出された当事者の一人である七草真由美は、父の『内心』を理解してかスカートの裾を握りしめて耐えている様子だった。

 だが………話はすでに決まっているようなものだった。というか誰もが、結果を理解している……。

 

「九亜たちを介して行われていた魔法式の実験は、精神同化現象の危機を招いています―――。ここは在り来たりですが、第四研究所の研究テーマにもあった通り、四葉家に預けておいた方が無難かと」

「だそうですが、皆さま方、何か反論はありますか?」

 

 治療と経過観察の為にも一時は四葉の施設に預けて―――そこから人によるだろうが、普通の学習施設や魔法学校に進んでいけばいいだろう。

 麻薬中毒者に対する処遇にも似ていたが、それでも彼女たちの社会復帰を促すならば、今はそれが最善のはず。

 

 四葉真夜は笑顔で周囲に問いかけると、五輪師が口を開いた。四葉ではなく他家に対してだが。

 

「九島殿はよろしいのですか?」

 

 精神面の治療であれば九島家も噛める節はあったのだが、真言師は首を縦に振らなかった。

 五輪勇海の言葉を受けても変わらぬ態度は何なのか―――は、どうでも良かった……。

 

「今回は四葉殿にお任せしてもよろしいかと。当事者である遠坂家『当主』もそう言っているのですから、お任せしますよ」

 

 どうでも良かった。と結論付けたところで出てきた文言に『生臭い』思惑が見えて、ため息を突きたかったが、それを押さえて素面にしておく。

 

「はい。任されました。他に異論はありますか?」

「ある。すっごいあるんだがな。四葉殿、ことは国防軍にも関わることだ。確かにアナタのところで匿うのは筋が通っているだろうけれどな……」

「七草殿の所ならば、横槍は強烈でしょうし、何か不満でも? アナタに入るだろう摩擦を軽減したいのですけど」

 

 そんな余計な気遣いをしあう『男女』―――対面で向き合う二人の様子を察して―――この場にいる第一高校の面子が緊張する。

 

 一方は父であり義父になるかもしれない相手に、一方は母の妹、即ち叔母の様子に対してである……。

 

「聞くところによれば、九亜ちゃんはともかくとして、四亜ちゃんはガーリーなファッションを好んでいるとか……」

「何故そんなことを気にするので?」

「分からないのか、刹那くん? 今の真夜の服装を見てどう思う?」

 

 眼を輝かせて、呑み込みの悪い生徒を諭すような弘一師父に特に無いまま、感想を述べる。

 

「若い頃はゴスロリ服ばかり着ていたんじゃないかと思います」「me too」

 

 リーナの追撃含めて『今でも若い』とか四葉師は言い出すかと思っていたが、それは無く。弘一師の机の上で手組しての、『マダオ』な台詞が響いた。

 

「ああ、そうだ。『俺』は、九亜ちゃんやわたつみの女の子たちが真夜の着せ替え人形にされて、変なファッションセンスにならないかと危惧して、ぶぼぁ!!」

 

「余計なお世話ですよ!! 別に服装に自由を利かせるぐらいの融通は私にもありますよ!! ま、まぁ確かに……私のお古とか九亜ちゃんや三亜ちゃんは好んでくれるかな。とか考えましたが、それをアナタに講釈される謂われはありませんよ!!」

 

 そんな事を考えていたんかい。と誰もが四葉師にツッコミたくなるぐらいの心地はある。

 そしてそういう意味で言うならば、年中行事の度にあれこれとドレスや着物を着せられていた私の立場(七草真由美)はどうなるんだとか言いたくなる人間がいたり。

 

 分家の少女―――自分達(司波兄妹)にとって『いとこ』とも言える関係の少女の服装のルーツが、ここにあったかとジト汗を掻いたりするのだった……。

 ちなみに低出力のサイオン弾を食らった七草師への助けは誰からも入らなかった。自業自得である。

 

 そして四葉真夜はまだ止まらないで口を開く。

 

「第一! 私がこんなファッションを好むようになったのは!! アナタのせいじゃないですか!! すごく似合っている。とか、可愛すぎる。とか…まだ純真だった私を褒めて、更に言えば都会っ子な弘一さんが、原宿の最新モードだとか言ったからですよ!!」

 

「いや、確かにあの頃はそうだったんだよ。けれど、今の女子たちの風俗じゃないから、各魔法科高校に出てきた時に浮いちゃうんじゃないかと心配なんだ!」

 

 確かに計画上では、飛び級させての進級も考えていた。というか現在14歳ということは、今年15歳になるのか、どうなのか。その辺りは見解が別れてもいた。

 年齢通りの進学が幸運な結果を生むとは考えていないが、三亜、四亜、九亜の三人は、波長が合うのか若干大人びてつるんでいる様子だった。

 

 三名ほどで構成される『アイドルユニット』のように、わたつみシリーズと呼ばれる女の子たちは個性が違いすぎていた。

 そんな訳で弘一師父の懸念も的外れではないのだが、なんか『裏の思惑』は分かりやすすぎた。分かりやすすぎて、長女の不満がマックスとなって、黒いサイオンが室内を包み込む様子が見えるのだ。

 

 話を打ち切らせるには、二人の男女はヒートアップしすぎである。

 

 ぶっちゃけ『父親と母親の教育方針の擦れ違い』にしか見えないのである。

 

 その話をぶった切ったのは、父親の方の娘である七草真由美であった……。

 

「在り来たりですが、月に何日かは盛永明子氏などと個人的面会する機会を設けてあげればいいのでは。もちろん四葉師の監視を除いたうえで。それでよろしいんじゃないですか『お父様』?

 何も四葉師の領地まで赴いて、様子を窺いに行くこともないのでは? 無論、彼女たちの担当官との面談の際の警備体制は、我々が責任を持ちましょう」

 

「う、うむ。それが一番かな……?」

「妥当ではないかと。亜八ちゃんは、克人師兄の背中を気に入った風な所もありますから」

 

 助け船を出してほしそうな弘一師父に対して無情な一言を刹那は掛ける。

 彼女たちが心を開いている人間たちで何かをしてあげれば、四葉の『魔法師は人間兵器』という思想を押し付けられなくて済む。そういう対外的な目的を出して、弘一師父の『陰謀』を阻止しておく。

 

 ヒトの恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるのがオチだろうが。今は、生徒会長への義理を果たす方が優先された。

 

「では、みなよろしいだろうな? 行きたい所、進みたい道に行かせる。それもまた魔法師が尊重すべき人権の一つだ。

 彼女たちを尊重するならば、それを最大限サポートすべきだろうからな」

 

 今回の議長役である十文字師の言葉で全ては決した。

 刹那とリーナは、この後に報告書の形で十師族や十八家に書面の提出もあるのだが、一つのヤマを越えたことで肩の荷は若干降りた。

 

「お任せしてはいましたが、こんな結果を出されるとは予想外でしたよ」

 

「それは四葉師の想像力の問題でしょう」

 

「そうね。だから想像力貧困な私が一つ聞きたいのだけど……」

 

 退席していく十師族の中でも最後の方まで残り、席に残っていた刹那に話しかけるシックドレスの女性。

 四葉真夜の言葉は予想外ではないが、疑問に思われるかと思う。

 

「―――逆行剣というものは、どういう魔法なのかしら?」

 

 小首をかしげるように言われても、可愛くないです。と言ってやりたい女の顔であった。

 

 † † † †

 

 

 

 ―――逆『光』剣フラガラック。魔法師にも分かりやすい言い方をすれば、この剣は自作できる『聖遺物』(レリック)なのだった。

 刹那の『魔法戦闘』の師の一人……ルーン魔術のスペシャリストでもあった『バゼット・フラガ・マクレミッツ』による教導の元、体得した秘奥の一つ。

 

 伝説にある『フラガラッハ』は、ひとりでに動き出して敵を切り殺す自動辻斬り装置のようなものだったが、若干の違いがある。

 

「フラガラックは相手の『切り札』に反応して、相手に先んじて『超光速レーザー』を放つレリックだ。

 それゆえに、相手が『エース』を出してきた際のジョーカーとして作用する武装だよ。

 迎撃概念武装―――現代魔法的に言えば『絶対迎撃剣』と言った所かな。チカ、パフェ追加」 

 

「すまん。桂木、俺の方にもパフェをもう一つお願いする」

 

「あいよー。ひびき。フルーツパフェ2つ――」

 

 接客担当の緑ツインテールが、調理担当に伝法に言ったのを聴きながら、説明は続く。

 珍しく達也もパフェを食っている辺りに、何だか変な気分になる。

 

 学校帰りでもないのに『アーネンエルベ』に来たのは、深刻な話をするときは『まほうつかいの箱』で話したい刹那なりの気遣いであった。

 

「にしても『切り札』とは、また曖昧ね……霊子(プシオン)に反応するのかしら?」

 

 切り札という意味で言えば、一番なのは剣の魔法師とも称される千葉家のエリカが一番に気掛かりであったようだ。

 

 真っ当な剣士などからすれば、あれは卑怯すぎる―――。特に対人における立ち合いでは、対抗策は無い『後の先』である

 

「だろうね。その事を理解している相手はノーマルスキルのみでバゼットと相対していたよ。もっとも、バゼットの拳の技はとてつもなかったからな。

『切り札』を出さざるを得ない状況に持っていく運びは、完璧だった」

 

 面白がるように言う刹那……その拳の技(マーシャルアーツ)が刹那に伝授されているのだろう。同時に思い出もある。

 

「それにしても時間が巻き戻った感覚があったんだけど、それもフラガラックの作用?」

 

「正確に言えば、『後に出したとしても、先んじれる』―――『時間遡及』した剣が『切り札発動前』の『心臓を貫いた結果』を残すことで、相手を倒すものだからな」

 

 カトプトロン・カトプレゴン……研究所を焼き払った魔力レーザーが『放たれなかった理屈』としては、まぁ合っている。

 

 しかし、それではあの時……あの氷海にいた皆―――リーナを除きの全員の魔法が『キャンセル』された事実が分からない。

 幹比古の後を次いで、達也がそこにツッコむと考え込む刹那。

 

「あくまで推測だが、俺がフラガラックを放とうとした時に、達也も深雪も『アルキメデス』によって起こる災害を回避しようとしたんだよな。

 つまりあの時点で、過去時制のアルキメデスの心臓は貫かれている結果は確定していたのだから――――」

 

 

 アルキメデスの宝具発動

  ↓

 達也・深雪の魔法の投射開始:目的 達也 アルキメデスの殺傷、深雪 レーザーで失われるはずの足場の持続

  ↓

 刹那フラガラックを発動・撃ち出し

  ↓

 相手の切り札より後に発動しながら過去に遡り、相手の心臓を貫く結果が『確定』

  ↓

 アルキメデスの宝具は『不発』及び発動することで起こる『物理現象』は『キャンセル』される

  ↓

 同時に、現在時制のアルキメデスや氷海に対して放たれた魔法は全て『定義破綻』を起こす

  ↓

 残るは心臓を貫かれたアルキメデスのみ

 

 

「ざっくり言えば、こういうことなんじゃないかな? 達也も深雪も、アルキメデスのミラーレーザーに対しての『インタラプト』(割り込み)を掛けようとして、俺の放った逆光剣のキャンセルに巻き込まれた形なんだろうよ」

 

 ペンを取り出して、丈夫なタイプの口拭きナプキンに書いた刹那の説。

 多くの人間を成程と思わせると同時に、有質量物体瞬間移動(テレポーテーション)と同じく、現代魔法における難問どころか『克服不可能』とされた時空間操作(タイムパラドックス)も行えていたのだから頭を痛める。

 

 相手の過去に干渉して『因果』を捻じ曲げるなど、とてつもない話だ。とてつもない話に気付いているのは、達也、深雪、克人、真由美の四人だけだ。

 ほのかと雫も若干の不可解さを感じているが、現代魔法で不可能な事象も古式では可能なのか? そういった狭間で懊悩している様子だ。

 

 そんな六人ほどの困惑を眼にしながら―――刹那とリーナは内心でのみ―――口を開く。

 

(なーんて滔々と語ったが……)(『ブラフ』なんだけどね☆)

 

 フラガラックには『五つの能力』がある。

 若かりし頃のバゼット―――第五次聖杯戦争でエルメロイ先生を押し退けて、参戦したというか参戦させられていた時代のバゼットでは『二つ』が限界だった。

 

 その後、諸々あって親父やお袋と関わりを持ち、そして俺を弟子であり助手に迎えた時点で、バゼットは極まった。

 

 フラガラックの五つ能力とは―――『光神ルー』が持っていた武器の総合化にも通じる。

 この場においては、フラガラックが『対人迎撃礼装』であり『後攻の絶対先制権』を持つと言う説明で収めさせておくべきなのだ。

 

 意図せずに達也と深雪の魔法までキャンセルさせたことで、疑念を持たれている事は理解している。だからこその秘密の暴露だったのだ。

 そんなリーナと刹那の内心の誤魔化しに対して、明確ではないが……確かに説明としては筋が通っていながらも…。

 

(開けっぴろげに暴露した割には……)(何かを隠されている印象ですね)

 

 幾ばくかの『隠し』をしているという印象を―――。どうしても拭えない司波兄妹であったが、何をどうツッコめばいいのか分からないのだから、仕方がない。

 イカサマを暴きたいのに、暴ける手札が無いのが、どうしても悔しい。

 

 お互いにパフェを食いながら、隣にいる女子に「あーん」をしながらも、そういった疑念は、お互いに持ち合うのだった。

 そうして色々と実家への報告をするか否か、存分に悩ませつつも、時間となったことが分かる声が響く。

 

「たっちゃん。せっちゃん。お店の前に車が止まっているけど迎えじゃない?」

 

 調理役であり、アーネンエルベの切り込み隊長(2号)である日比乃ひびきからの言葉で、ドアの外を見るとコミューターが止まっていた。

 ちなみに言えば、この愛称付けに関して深雪が何も言わないのは――――ひびきから感じる『毒気』の無さゆえ―――要するにレズっぽいのをひびきから感じているようだ。

 

 オレンジ髪がぴょこぴょこ動くひびきに感謝しつつ、支払いを終えてコミューターへ向かう。

 

「悪いな日比乃。知らせてくれて」

「チカ。ごちそうさん」

 

「「なんだか分からないけど、『アーネンエルベ』へのまたのご来店お待ちしてまーす」」

 

 

 看板娘二人の見送りを受けながら―――カウンター席にある古めかしいどころか実に骨董品な『ガラケー』がひとりでに動き出したように感じたのは、まず目の錯覚であろう。

 

 そんな事を考えながらも、自分達も見送りに行こうとコミューターに乗り込むのだった。

 

 ―――コミューターが向かった先は、長野方面に入るだろう長距離ターミナルの入り口であった。

 

 話によれば、ここにて四葉の使者とわたつみシリーズが待機しているらしいが……見ると、豪奢なリムジンタイプのコミューター三台が止まっており、そこにて『女子二人』―――、一人は特徴的なゴシックロリータの衣服を着ている子ともう一人は……とりあえず普通の衣服を着ている子を見た。

 

 この二人が四葉の使者……事前に達也から聞かされていた限りでは分家筋の人間らしい。そしてそれらとは別に、諸々の所要を終えてきただろう九亜や四亜たちが集まっていた。

 

「名前は明かせませんが、私どもは四葉に従う家柄―――海神姉妹たちの身柄の安全。確かに引き受けました。皆さま方のご尽力、無駄にはしません」

 

 丁寧な一礼。何だか一昨日の女性を思わせるゴスロリ少女の一礼の後に、リムジンの『助手席』から顔を出した一昨日の女性の姿。

 それに対して深々と一礼をする十文字と七草を見たことで、数名を除いて気付かされる。

 

 そのあまりにも若々しすぎる女性こそが、極東の魔王と呼ばれている『四葉真夜』なのだと……内心震えているのではないかという美月や幹比古の心中はともかくとして、九亜たちはリムジンに乗り込んでいく。

 最後まで残っていたのは四亜と九亜だった。二人は自分達と一番関わりが深かった。

 

 振り返り、少しだけ悲しげな笑顔を見せる二人。最後の別れというわけではなかったが、それでも一抹の寂しさはあるのだろう。

 

「達也お兄さん、刹那お兄さん―――みんな。みんなありがとうございました」

「キッド! 今度会う時には、マヤ先生の指導でリーナよりもイイ女になって虜にしちゃうんだから!!」

「と、シアは言っているけど、そう言う風な略奪愛ってよくないと思うです」

 

 2人のそんな様子に、最後まで苦笑してしまいそうだった。

 

『達者で』『また会おうな!』『元気でねー!』『ワタシとセツナの愛は不滅よ!』とか色々と言いながらも、九人のワルキューレの少女達を乗せたリムジンは、遂に長野方面への高速道路へと入っていく。

 

 

「みんなーーー!! 元気でなーーー!! 何かあればちゃんと言うんだよ――――!!!」

 

「俺も刹那も―――また駆けつけてやるからな―――!!!」

 

 

 見えなくなるまで手を振り、そして窓から顔を出している九人の女の子たちが安全圏で顔を出すことままならず、見えなくなってしまうまで見送りは続いた。

 

 完全に見えなくなり、誰もが悲しげな息を突く。自分達がもっと責任ある立場にあったならば、こんな風な他人任せにしてしまわなくても良かったはずなのに……。

 

 そういった悲しみだった……。

 

 

「見えなくなっちゃったね……」

 

「うん。妹が出来た気分だったけど―――そこまでは無理だった」

 

 光井と雫の言葉を聴きながらも、誰もが『子供』であることに少しの後悔を覚える。それでも、今はこうしておくのがベストだった。

 それがダメになった時は――――行くか、それとも己の手で自由を掴みとるか―――。

 

 

「方法なんていくらでもあるな。だから―――問題なんてその都度解決していけばいい」

 

「永久に片付かないものもないしな。そんなもんだろ」

 

 

 あっさりとした結論、その場しのぎの場当たり的な対処だとしても―――永久(とわ)を約束することも出来ない。

 

 完全の万全ではないからこそ世界は楽しいのだから――――。

 

 

「思うんだけど―――僕も、これまでごたごたしていて忘れていたんだけどさ」

 

「うん?」

 

 幹比古の若干、苦しそうな言葉。いったいなんなのやら―――そう考えてしまうほどには、幹比古の言い出しにくそうな言葉が気にかかり、続きを促すと……。

 

 

「二学期の始業まであと三日―――みんな、宿題終わった? で、出来れば手伝ってほしいんだよ!!って……あ、あれ?」

 

 

 全員、さっ、と血の気を引いてしまうぐらいには『うっかり』してしまう事態の発覚。確かに色々あったとはいえ、何故にここで思い出してしまうのか。

 

「……ちなみに会頭と会長は?」

 

「愚問だな遠坂―――まだ半分以上も残っている」

 

 学年トップクラスであっても物理的限界は超えられないらしく、まぁそういうことだった。ただドヤ顔で言われるとは思っていなかった。

 

「お前はどうなんだよ刹那?」

 

「問題そのものは『閲覧』した時点で解けているよ―――けどな……視線()でも思考()でも指でも『タッチタイプ』が苦手な俺では、解けても記せないんだよ……」

 

「「「「すまない」」」」

 

「全員でハモって謝んないで! 惨めになる!」

 

 泣いてしまいたくなるほどに機械オンチな刹那の弱点。幹比古の言葉で、そのまま先輩後輩全てを集めての勉強会となるのは容易な流れだった――――。

 

 時は流れる。無情にもリミットを刻みながら――――。

 

 

『波乱の一学期』を終えて、ようやく安定を迎えつつあるかと思われていた第一高校の二学期―――。

 

 世界は揺籃の中にありながらも多くの変化を刻んでいく……それを傍から見ている人間がいるのであれば、『騒乱の二学期』とでも言うべき日は近づきつつあった……。

 

 


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