魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
祭りの終わりはいつでも寂しいものだ。古めかしいパイプ椅子の並びを全て撤去する作業を終えると、栗井教官が近づいてきた。
「レオナルドは、あの調子だけど、僕の苦労も考えてほしいもんだよ。マギ☆マリに代わる新たな新世紀アイドル『雪兎ヒメ』の映像が見れないじゃないかぁ」
「んなものチェックしていたんですかロマン先生? 正直、ドン引きです」
「なんでだよ!? まぁいい―――キミへの負担が増えるのは僕も担任として心苦しかったからね。
これで、だいぶ楽になっただろう」
意外とこの先生もあるんだろうな。と思えるぐらいには、気苦労が多いのだろう。だからヴァーチャルアイドルにうつつを抜かすぐらいは許してあげてもいいと思えた。
気苦労の原因の大半が刹那にあると分かっていたからでもあるが。
「―――昨今、一高に違うコースを創設するべきなのではないかという声が上がっている」
「違うコース……学科の新設ですか?」
「そう。前から魔工科―――マギクラフトを専門に扱う学科は上がっていたんだけどね」
CAD―――すなわち現代の魔法の主要ツールに対する教育が遅れているという声は上がっていたらしいが、導入に消極的だったのは、単純に魔法師の数が少ないからだった。
公称で日本の魔法師は三万人。これはどんぶり勘定であり、『隠れ魔法師』……『モグリ』というのもいるわけで実態に反映されていないのもいるが、まぁ概ねそんな数しかいない。
その魔法師にしても『使うモノ』『使わないモノ』『古式』『現代』などの区別もあるのでCADの需要というのは振るわない一面もあった。
現代でも行われている携帯端末の『買い替え』ほど頻繁ではない上に使うものが少ない以上、この分野に関してはグローバルにならなければ大幅な商業利益は無かったりする。(達也・談)
「けれど……司波の功績があまりにも凄すぎたからね……職員会議で持ちあがっているんだよ」
「結構なことじゃないですか。魔法師社会が先細るか、繁栄するかでまた見識も違いますが」
ようは「達也みたいな劣等生がいてたまるか!!」という声と同時に、彼の能力は全てレアスキルとして扱うべきだとして、それを『伸ばす』努力をしなければいけない。
そういうことらしい。
「個人的に、魔法工学科―――『アトラス』と称させてもらう学科の新設は決定事項だ。そして問題は先程言った通りだ」
「?」
「魔法師の社会が、『プラスマイナス』どちらに傾くか―――それを決めるのは、今まで拾ってこなかった『小野君』みたいなスキル持ちを伸ばせるかどうかにかかって来るんだよ」
「―――言わんとすることは分かりましたが、俺の理屈が全ての魔法師達を引き上げられるわけではありませんよ」
「だが、それでも必要なんだよ。多くの人間達を受け止めるためにもね」
国が求めるのは、戦争抑止の力としての魔法師。大雑把ながらも、人殺しに適した人材ばかりが求められているが、本来的に魔法師たちの能力は、もうちっと違うことに使うべきなのではないかと思ってしまう。
それは、達也の言うような『兵器』としての魔法師の否定でも、工学的見地に沿った魔法の目的でもない。
まぁそれに関しては……俺の密かな野望としておく。おくとして、ロマン先生の言わんとするところ、即ちBS魔法師や一芸特化の魔法師など……そういったものたち―――今まで入試で弾いていた人間達を大量に採用するという考えのようだ。
とはいえ、定員を増やすからといって、入学枠―――、一科二科との境……一科定員百名というボーダーは切らないらしい。
増やすのは二科定員……の方で、コース選択制ながらも、その差は明確にしているらしい。
魔工科に続き、第三の学科……そこの主任にロマン先生は就くそうだ。
「そこの教員に僕も就く。レオナルドも後に快諾してくれるだろう―――場合によっては、他にも当てを作っておくけどね」
「ふむ。俺もそこに?」
「キミが『学ぶこと』があるわけないだろう。孫太郎のように無双するためにも転科したいだろうが、お前は一科の牽制をしておけ」
孫太郎って何だよ? と思いつつも、一科の連中……全員が、今回の浅野のような人間ばかりではないが、下手に全ての人間がそちらに流れると、一科の中で変な反動を起こす可能性もある。
無駄な心配……と思いつつも、ロマン先生の問題点は、そこからこれまでの『二科の落第生』のような無茶なことをしての、事故や魔法能力の喪失を招きたくない。
その為にも安堵できる存在を置いておきたい。一科と二科の橋渡しではないが、どちらともつかない不可思議な『魔法使い』に任せたいのだろう。一科の
何だか時計塔の三大派閥を感じさせる……一科―――
大雑把に言えばこうなるはずだ。というか今の二科で魔工師的なものを目指していない連中は、全て第三学科に転科させられる手筈らしい。
それを望まなくても、もはや二科というものは無くなると思ってもいいはず。
「新設される第三の学科の名前は明確ではないが、『現代魔術科』……
「―――ノーリッジ……先生、アンタ―――」
「栗井先生、そろそろ職員会議の時間ですよ」
「っと、そんな時間か―――それじゃ、あんまり寄り道しないで帰れよ刹那」
疑問というよりも『疑惑』を口にする前に、廿楽先生の呼びかけで、何処かへと去っていく栗井教官。廿楽先生と談笑しながら歩くその後ろ姿に―――何故か言い知れぬ不安感が出てしまうのは、仕方なかった。
(何だか分からんが、あんまり世話焼かれすぎなのも面倒な限りだ)
そして、誰かの面影を重ねすぎても困る―――が、一色愛梨にルヴィアゼリッタを重ねた刹那の言えるところではなく、久々に連絡してみようかと思うのだった。
† † †
「改めて自己紹介させてもらおう。私の名前は『レオナルド・ダ・ヴィンチ』―――万能愉快型魔術礼装カレイドステッキVer2に人工精霊の人格として搭載されていた英霊の魂。
それが私なんだよ。今まで黙っていて申し訳なかったが、このような姿を取ることも可能なのさ。
言うなれば、魔法少女に従うマスコットキャラの人間形態と言ってもいい、気分は『人間ルナ』とか、『小々田コージ』とかそんなところ」
「「「「ダウト―――!!!」」」」
言いたくなる気分は若干わかる。
本日もまたアーネンエルベにて話し合う皆―――今回は、この前と違い光井と雫がおらず、元会頭と元会長が同席しているのが相違点である。
「刹那。確かレオナルド・ダ・ヴィンチって……男だよな? いや、どっかの違った歴史を辿った世界では、女だったという可能性もあるのだが、色々と複雑だ」
「私にとってモナ・リザ―――リザの身体は人体の理想だからね。『将星』として召喚されたとしても、私はこの姿で座から出てくるよ」
「仮装行列に端を発する古式魔法というのは、言うなれば変身魔術の類だからな。
英霊の中には、己の姿を偽って武功を挙げた存在なんかも多いよ。水滸伝における『浪士 燕青』なんかもその一人だしな」
多重人格という病理を一種の『変身技能』とした百の貌のハサン。
湖の精霊の加護により、他人に成りすますことも可能だった、裏切りの騎士サー・ランスロット。
一概に言えることではないが、英雄と言うのは大なり小なり『変身』の能力を持つ。それは人間の能力の根底には、『変化』というものが絶対的にあるからだ。
「人間ってのは案外成長するもんだ。放っておいても技術や能力が発展するのは、生命自体が一つのベクトルだからな。
しかし、そのベクトル自体が変わるってことは、そうそうない……何が言いたいかというと、かの万能の天才は、天才の名のほしいままに、そんなことも出来るんだよ」
「性転換が昔から可能な技術だったとか、人類史の一大発見だぞ」
そんな達也の嘆きに対して、詳しい説明を加える。
俗説ではあるが、ダ・ヴィンチの描いたモナ・リザは、己の女体化した姿と言う説もあったりする。
つまりは、あくまでも人類の認識では、ダ・ヴィンチは実は女だったのではないかという俗説の後押しもあり、この姿が取れる原因ともなっている。
「ジャックザリッパー……切り裂きジャックが不定形の英霊であるように、人間の認識次第では、どんな姿になるかは分からないんだよ。
例を挙げれば、上杉謙信が一切の女を傍に寄せ付けなかったことから、実は女性であるという「想像」が為されるように、『史実』全てが『固定化』された『現実』になるとは限らないわけだ」
「魔術世界は深遠だな……」
「あのアルキメデスも、場合によっては真っ裸に髭面で『エウレーカ』とか走り回るようなものだったかもしれない」
「魔術世界は真猿だな……」
何故か知らないが達也の嘆くような言葉、最後の方にはオランウータンやニホンザルと一緒くたにされてしまう魔術世界である。
なんでさ。
「けどよ。何で今までこの形態にしてこなかったんだ?」
「精霊や悪魔とでも言うべきものを「実体化」させるってのは、かなり特別な魔術なんだ。更に言えば魔力が結構ごっそり持っていかれる。
俺がこれを覚えた―――教えてくれた相手は―――達也と深雪が100人ずつ集まって融合したような存在だったんだよ」
レオの質問にどんぶり勘定な感覚で答えると、その『たとえ話』の数値に対して妄想が広がる者一人。
「100人のお兄様と100人の私が悪魔合体―――ああっ、なんていい響きなんでしょう。それが私の響きなんですね」
絶対に違うと思うが、夢の世界にトリップした深雪を放っておいて話を続ける。
ある男に『助手』としてこき使われていた『村』での一件。
『祭り』も佳境に入ろうかという矢先、遂にバゼットの救出と同時に男の眼を『奪う』という指示をこなそうとした矢先に、絡んできたのは埋葬機関…埋葬教室のカレー(?)であった。
最終的にはバゼットとの戦いは痛み分けに終わり、仕方なしに『
その際に、『精霊の実体化』というものを教えてもらったのだ……。
「身体は大丈夫なんですか?」
「ある程度は自前でも供給できるようにしているし、あとは魔力の質次第だな」
美月の質問にそう答えると、リーナは『辛いくせに』とでも言うように、呆れた笑顔をする。
サーヴァントの現界と同じく当たり前だが、結構つらい時もある。とはいえ、『弓』が教えてくれたのが、自分の『秘奥』の効率化にも繋がったのである。
「けれどビックリですよ。万能の天才……芸術の都フィレンツェが誇る芸術家がオニキスさんだったなんて」
「フィレンツェか、懐かしいねー。ただ嫌な思い出もあるんだよ。『征服王メフメトⅡ世』の後を継いだ、オスマン・トルコ帝国の皇帝バズイヤトの弱腰から、
おのれメディチ家め。私をハブにしたから、一度はフィレンツェから追い出されたんだ」
その結果が、かの有名な壁画『最後の晩餐』という最高傑作に繋がるのだから、歴史というのは分からないものである。
「やっぱり作品制作は大変だったんですか?」
「というよりもパトロンの気を惹き、財布のひもを緩める用だからね。今みたいに画材を手軽に入手出来たわけではないから、絵の具にせよ鉛筆にせよ。当時は全てが高かったんだ。
それゆえに枢機卿や、宗教勢力なんかの宗教画の依頼は大口でもあったが――――貿易商である弟に寄生しながら、絵ばかりかけた『あやつ』が憎い!!」
「お前、印象派の画家たちに吊し上げられるぞ」
死後……後年に評価された芸術家の作品が打ち捨てられていないのは、その美を見たものの心に確かに残ったからだろう。
例え、万人の心に残らなくても、たった一人、二人の心に焼き付けば、その時―――美は完成するのだろう。
「ちなみに言っておくが、私の作品に『暗号』や『陰謀』なんてものはない、こじつけも同然だね。先程言った通り、パトロンの依頼に答えるだけで精いっぱいなんだよ」
「だそうだぞ七草」
「なんで私に言うのよ? 別に、問い質したかったわけじゃないわよ」
だが、陰謀家が身内にいるだけに、そういった質問は予期していた。というか十文字先輩の質問に不貞腐れる辺り、用意はしていたのだろう。
そんなこんなしていると、話の狭間を狙ったのか、千鍵とひびきが大きめのホールケーキを持って来てくれた。
「あれ? こんなもの頼んだかしら?」
「久々にジョージ店長が来ていることをチカから聞いていたから、まぁ―――俺たち
「会頭、会長。俺たちにとっては短い期間でしたが、重役としての勤め、お疲れ様でした」
ひびちかの電話を掛けるようなジェスチャーをしてからのクールな立ち去りを見てから、そうした裏事情を達也と共に話すと、三年二人の「やれやれ」という言葉の割には嬉しがるような表情が見れて、私達、大満足です。そんな気分だった。
「しかし、ちょっとだけ摩利に悪いような気がするわ。私達だけ、ジョージ店長のスペシャルケーキをいただくなんて」
「そっちならば、ご心配なく。次兄がアーネンエルベから同じケーキを受け取ってから、待ち合わせ場所に向かいましたので」
「千葉さんにしては、随分と気が利く対応……大丈夫?」
「アタシの事を何だと思っているんですか?」
深雪と肩を並べるブラコン娘―――そんな無言で皆の感想を述べると、幹比古は考え込んでいる様子。
何かダ・ヴィンチ=オニキスを見てから、考え込みながらケーキを口にする様子。
(美月の胸だけでなく、ダ・ヴィンチの胸にまで興味を示すか)
(意外とセッソウナシよね。ミキヒコって―――)
「何かとても不愉快な会話が筒抜け!! ち、違うんだよ。何ていうか精霊の実体化というか高位そん―――」
「この姿になると、キミのサライのような美顔が私にはちょっとばかり興味を抱いてしまうんだよね。ミキヒコ―――あとで私の工房に来ないかい? ワタシのビタミンMの補給を手伝ってくれよ」
「「「「ダ・ヴィンチちゃん!?」」」」
幹比古の顎を手で撫でながらの艶然とした様子。やられた幹比古も全身を震わせて恍惚に酔いしれているようだ……外見は美女、中身はオッサン―――其の名は『魔術師の英霊レオナルド・ダ・ヴィンチ』!
俺たちは……とんでもない英霊を呼び起こしてしまったかもしれない……。
呼び起こしたのはお前だろうが、という達也の冷たい視線が痛すぎる。
「まぁ今さらよね。アビーとセツナとオニキスとで、レオナルド・アーキマンの
「そして今度はアビーがいないというオチ。なんだよこの擦れ違いの結末。―――ともあれ、これで一息は着けそうだな」
「そうね。これからはワタシとのいちゃつきも増えるのだから、嬉しいわ―♪ 構ってマイダーリン!」
「お兄様! 副会長になったらば、私たちも二人三脚でがんばりましょう!!」
「いや、むしろ俺は刹那のサポートに回りたいんだけど」
騒がしい後輩。されどその騒がしさが少しだけ羨ましい。ここにいるのは一科二科関係なく、己の意見や意思を表明しあい、明日へと突き進み、困難に立ち向かうことをやめぬ者達だ。
そんな集団を欲していた……真由美と克人が求めたものを、いとも簡単に実現してしまう後輩たち―――若さとは力なのだろう。
今後の一高がどんな姿になるかは分からない。もしかしたらば、もっとすごい対立を生んでしまう可能性もあるだろう。
けれど―――この後輩たちを見ていると、そんなことは杞憂に終わりそうだと―――そう感じて……ストロベリーがたっぷり乗ったホールケーキを平らげていくのだった。
Interlude―――Next order―――prelude……
月が見える。満点の月の下―――階段を上がってくる人間二人―――その内一人の来訪を心待ちにしていた……。
夏を超えて秋を実らせつつある木々の梢の枯葉の様を見ながら、一杯だけ御猪口で飲むと、九重八雲は―――寺の縁側から立ち上がり、彼を出迎える。
「ようやく会いに来てくれたか―――ようこそ。最後の七夜の残滓ある場所に……鏡合わせの世界からの来訪者くん」
「来たくて来たわけじゃないんですけどね。まぁ九校戦の際の礼もしていなかった上に、業物の研ぎ直しもしたので、そのご報告を―――そんなところです」
「それでも―――君は来てくれたわけだからね。クドウの姪孫を連れてきたのも重畳―――僕が知りうる限りのことを―――いま、明かそう……」
赤い外套を纏った魔法師殺しの「魔術師」……その相手を前にして、八雲は返答を間違えれば自分は死ぬだろうことを理解していた……。
それだけの力を持った存在―――現状、最強となりつつある『八雲の弟子』を止めることが出来る存在。
アラヤの守護者―――それに選定されうる存在を前に、緊張をつとめて消そうとするのだった……。
……Next order―――prelude―――end.