魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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というわけで、横浜編のリライト第一話です。

私生活で少しばかり急激な変化があったりして最近、かなり疲れたんですが、まぁ何とか―――なるのかなぁ(苦笑)しつつも、ともあれ新話をお送りします。

磨伸先生も骨折から復活を遂げたのだ。磨伸映一郎復活!! などとコールしたくなりながらも、私も少しばかりがんばってみようかと思います。




横浜騒乱編~~Fourth order 仙界神話大戦~~
第122話『天使の休息―――(前)』


 新生徒会及び、新役員の選出が終わって初めての休日。2095年の10月8日土曜日。

 ……地球規模の寒冷化で寒さに忌避感がある世代であっても、冬の前の『秋』という季節は物思いに耽ることが多い。

 

 そんな風に黄昏たい思いの下でも色々とやることや、書かなければならない資料は多いのだが、同棲している恋人の『どっか出かけたい』というプシオンを、彼女のブルーアイズから感じて苦笑。

 

 仕事は後回しでも構わないだろう。(言い訳)喫緊では無い。(自己都合)よって―――裸ワイシャツでだらけていながらも、その美貌に変わりのないリーナと共に出かけることにするのだった。

 

 

「あっ、もちろん外出着は裸ワイシャツではないから、楽しみにしていたユーザーの皆さん申し訳ないね」

 

「何のハナシよ!?」

 

 色々と申し訳なかった想いで読者サービスしたかったのだが、それは恋人によって遮られた。ちくせう。

 

 そんなこんなでコミューターを利用してやってきたのは、毎度おなじみとも言える横浜。都内ではなく、お洒落な街で恋人と過ごしたいという人々におすすめのデートスポット。

 

 その地位が未だに揺るがないのは、多くの人々の営みがあるからだ。地元を盛り上げていきたい。東京に負けないという想い。

 何より、世界的に大幅な人口減少が起きた上に、『地方』という概念が無くなり、殆どの人間が、インフラが整う首都圏ないし県庁所在地付近に住んでいるのだ。

 

 人口ゆえの『パイ』の奪い合いは続くのである……。

 

 

「さーて、今日はどの映画にチェックしちゃおうかな―――♪ ううん……『眼鏡の神様の言う通り』でもしようかしら?」

 

「ダメだ。それだと『イギリス超特急~魔眼蒐集列車の怪~』(エイチョウ)とかに成りかねない」

 

「むぅ。確かにB級シネマとしては大変『笑える』……ジョーズが竜巻に乗ってやってくるぐらいに笑えるかもしれないけど、今は違うものが見たいわね」

 

 横浜でも一番の商業総合施設。いわゆるショッピングモールのシアターラインナップを見るに、帯に短し襷に長し……流石に『冬』という季節の封切を狙ってか、この時期は落ち着いたものが多い。

 

 夏ぐらいからロングランを飛ばしているものも無いので、どうしたものやらな気持ちである。

 

 リーナ共々若干の空腹迷子ならぬ映画迷子。こういったことは往々にしてあるものだ。

 とりあえず雨避けで電車を乗り継いで郊外のモールに行ったらば、見たい映画は時間ではなかったりする。

 

 幸いながら席の空きと時間も余裕がある。だが、そういう時にこそ何が見たいのかが決まらないのだ。

 

 悩ましげに腕組みして考え込むリーナの姿に、周りの男共が声掛けしそうになる都度、遮るように話を振る刹那の努力が繰り広げられる。

 

 そうこうしている内に、『ネコアルクメタルス~FINAL WARS~』『えいがのセイバー(顔)さん~社長の暴走は止まらない~』『戦姫絶唱カゲトラギア 恕乃抄』が、候補から消え去る。

 

 

「むううう決まらないわね。……こうなったらば、セツナが決めて!! 未来のダンナ様たるアナタに従うわよ。目指せリョーサイケンボ♪」

 

「リーナ、日本語の意味分かってる?」

 

 女の笑顔と男の苦笑という『分かってるやり取り』(睦み合い)で、男の大半が沈み込んで絶望する。そんな周りに構わず―――そう言われれば、是非もないのだが……いいのかと思う。

 

 

「色々と優しくてワタシにムタイ(無体)な要求をしないセツナだから、『こういう場面』ではそうなのかもしれないけど、たまにはエスコートしてよ♪」

 

「全く……技能の無駄遣い。んじゃ―――『アレ』でも見るか?」

 

 紅くなりながらリーナが言ったことで、刹那は昔懐かしのシアターポスターの額縁を模したホログラフスクリーンの一つを指さした。

 そこに表示されている表題と、内容を察したリーナは……。

 

「え゛っ……!」

 

 と、先程までの鼓膜を震わせての魔法を使った秘匿猥談(未満)とは逆に、素の喉で驚きを示すのだった。

 

 

「さーてと、んじゃチケットとポップコーンやら買うぞ――♪ キャラメル味は男のコだよな」

 

「ガールズも好きよ!! ついでに言えばシオ味(ソルトテイスト)も追加よ! って本当に見るの!? けれど、一応お任せしちゃったわけだから、そう言う風にモンク着ける筋合いじゃないわよね……」

 

 置いてけぼりというか反論を許さないようにした刹那に追いつくリーナ。しかし、本当に見るのだろうか、若干震えているリーナに最終確認の時である。

 

「大丈夫? 俺はカゲトラギアでもいいよ」

 

「へ、ヘーキよ! 第一、ワタシは魔術師の家たるトオサカ家に嫁入りする女。お化け(ゴースト)を怖がるわけにはいかないわよ!」

 

 何だか姉弟子(グレイ)みたいな強がりを言うものである。自分が年下だからと、そんな風に強がって言うも、本当は『お化けは怖い』という人間を思い出したが訂正を一つ。

 

 

「ふむ。確かにお化けは大丈夫だろうが……この映画『火鉈』(KANATA)は、どちらかといえばサイコホラーの類だぞ」

 

「余計にフィア―!! そう言えばエイミィが『ミステリにおけるフーダニット、ハウダニット、ホワイダニットの三要素が意味をなさない』とか言っていたわ」

 

「そりゃ、あんな『萌え萌えな妹』が『怪物化』するようならば、意味は為さないだろうな」

 

 一度殺された方法は通じませんとか、どんな大英雄だよ。と思いつつも、オチとしては『ウルトラスーパーデラックスマン』のようなものがあるのではないかと予想しておくのだった。

 

 アゴニストガン細胞(?)が、最終的には彼女を死に至らしめるとか……。

 

 とはいえ第一章時点でそこまでは明かされないかと思う。そんな風に思っていると、少しのふくれっ面をして左腕に巻きつくリーナに気付く。

 

「もう!セツナのあくまっ子!! 上映中は、レフト(左腕)ライト(右腕)も抱きついて放さないんだからね!!」

 

 どんな姿勢で見るつもりなんだよ!? 恐ろしくも卑猥な想像をしてしまう周囲の面子を尻目に、『とある界隈』では大変に有名人な美男美女のカップルは、『シアターD3』に入っていくのだった……。

 

 そんな様子を密かに見ていた存在がいた……。

 黒絹のような髪を一つまとめにして垂らしている女の子。まだロウティーンにすらなっていないだろう年齢に見える。

 

 目尻に京劇役者のように朱を差して映えさせて、少しばかり切れ長の目が強調される意匠であり、少女の年齢を怪しいものにしていた。

 

 

「お嬢様。目標はシアターの中に入っていきました」

 

「上映作品は『火鉈』(ホォトウ)―――『シャオ』。怖いの大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です! バカにしないでよ! (イン)!」

 

「お嬢様の言う通りです銀。お嬢様は幽幻道士シリーズを百回以上見て、その都度悲鳴を上げては耐性を付けてきたお方。

 今さら、何もかもを壊す、ラスボス系妹などに恐怖を覚えはしません」

 

「そ、その通りよ……! だ、だから銀。頼むわよ」

 

「そう。シャオと(ジン)がそこまで言うならば、私はもう何も言わない―――ではレッツラゴー。お姉さん―――大人2枚に小学生1枚」

 

 などと銀というメイド型ガイノイドの『偽装』を施している『魔法具』は、受付用のガイノイドを人間かのように接することで周囲を偽装していた。

 

 今ではこのような受付業務も自動化及びハイテク制御されているが、その一方で来場者を安堵させるために、こういったヒューマノイドインターフェースを置くのは一種の様式美でもあった。

 

 そんなこんなでシアターの時間は迫り、D3シアターに人が入っていく。この秋、最恐のホラー映画を見るべく、怖いもの見たさで集っていく勇士たち。

 

 全ての観客を収納した結果――――一時間後には、内部にて悲鳴が上がるのだった。その多くは女子勢であり、ビックリドッキリ接近ハプニングを期待している男子は大喜び。

 

 小学生でありながら、こんなものを見たアホっ子は、二人の金銀のメイドに泣きつく始末……。

 

 現役JKは、彼氏を胸元にかき抱いて叫ぶ。

 

 

『『お前みたいな14歳がいてたまるか―――!!!!』』

 

 完全にマナー違反ではあるが、その叫びは、ヒロインでありラスボスとも言える『14歳の妹』を見た全女性陣が同意であった……ともあれ、そんなこんな(バイオレンスホラー)ありながらも、兄の腕を丸呑みにした妹『火鉈』の無敵化は止まることを知らずに―――。

 

 血と死体が散らばる病院……惨劇の跡。としか言えない場面を最後に「――――オニイチャン、いま会い(殺し)にいきます」という女優の怪演もあり、恐怖はまだ続くのだと震えた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

「スッゴイ映画だったわねー……設定上とは言え、どうやったらばあんなパッツンパッツンのバディになるのかしら?」

 

待合ソファーにて追加で買ったタピオカミルクティーを飲むリーナに苦笑しながら刹那は返す。

 

「君も似たようなものだったと記憶しているけど」

 

 実際、リーナのスタイルは出会ったころから何となく『先』が予想できていた。軍人としての訓練が早熟を生み出したのか、それとも生来のものなのか……まぁ最大級の原因は―――。

 

「アレは何処かの誰かさんが、ワタシの未成熟な身体を『超熟成肉にしてやるー』と、何も知らなかったワタシに教え込んだのが原因だと記憶しているわよ」

 

 ―――リーナから暴露されるのだった。

 言い合いながら半眼でお互いを見て―――そして……抱きしめあう……。

 

 辺りからはツッコみたいのにツッコみ切れない空気を感じながらも、恋人同士の抱擁は続く……。

 

 続いていたのだが、シアターの柔らかな待合ソファーに近づく影二つ。私服がバッチリ決まった男女。

 

「お前ら、ここは家でも一高でもないんだが……」

 

「もう少し公共のマナーを考えてほしいものですね」

 

「この声は……! 最近、ようやく『あやせルートif』が出ることが決まった俺妹の主人公「高○京介」!!」

 

「同じく今回ようやく正ヒロインになれた『新垣あ○せ』!!」

 

 電撃文庫のリーサルウェポンの登場に、緊張していたのだが、よく見ると違った。

 

 秋の装いの「恋人以上の兄妹関係」な一高の有名人であった。そんないつも通りな顔を見て一言。

 

 

「なんだ達也(ミユキ)か……」

 

「おう。赤鼻の最初期キャラに、久々に出会ったような反応をやめろ」

 

「此処にいるという事は、お前たちも映画鑑賞か?」

 

 達也のツッコミをサラッと無視して深雪に問いかけると、満面の笑みでパンフレットと限定グッズを示してくる一高副会長の姿があるのだった。

 

「ええ、先程まで『えいがのセイバー(顔)さん~社長の暴走は止まらない~』と同時上映の『Fate/prototype』を見ていました」

 

 どうやらこの兄妹的には『火鉈』は、興味が湧かなかったようである。見たらみたで、達也の左腕が無くなりそうな気がする。うん、気がするだけである。

 

 胃の中でじっくり消化中とかありそうで、余計に怖いのだが……。

 

 

「お前たちは『火鉈』を見ていたと見えるな。魔法師、魔術師に関わらずああいったゴシックホラー的なものに恐怖を覚えるものか?」

 

「そりゃまぁ、実際のところ。本当にこの世でもっとも恐ろしいものってのは、何の特異性も無かった人間が、いつの間にか超人的な能力を得ることにあると思うぞ」

 

 魔術師の間にも『根源接続者』のように最初から異端ではあるものの、その特異性は当初こそ覆い隠されており、歳を追うごとにその皮は剥がれていく。なんて例もある。

 要は、誰もが『気付けない』のだ。ただの出木杉君だと思っていたらば、とんだ異端であるというオチだ。

 

 そんな先天的異常者の類とは逆に、『後天的異常者』もまた恐ろしいものだ。後付けで強大になっていく存在というのは、常識を軽く超えてくるものだ。

 

 ビーストの眷属がそれに近いのかもしれないが……。

 

 

「一見まともそうに見えるが、その実態が恐ろしいものはお前も経験してきたと思うが?」

 

「……まぁな。とはいえ、俺や深雪がホラーを見ても現実に置き換えてしまいそうだな」

 

「夢の無い男子(ボーイ)

 

「やかましい。そして……これから『どうするんだ?』」

 

 若干、後半の言葉に比重を置いた言い方。達也も察しているならば、他も察していないわけがない。

 

 金と銀の非常に凝った作りのホームヘルパー型アンドロイドを傍らに置いている幼女。中国の京劇役者のように、上瞼から眼尻にかけて朱を差している少女の注意がこちらに向いている事は分かっていた。

 

 同時にアンドロイドも少しばかり『違うモノ』であることも分かっていた。とはいえ……近辺に中華街があることを考えれば、彼女のような人種は珍しくは無い。

 

 上質なブラウスに長めのスカート。ブーツは丈夫なモノ。いわゆるジュニアファッションとしては中々にお洒落に見えるものだが……。

 

 

「どうしよう。あんな幼女にも熱烈に見られるなんて―――思わず誘惑され、あいててててて!!!」

 

「イヤだわ―♪ ワタシのダーリンは、いつからそんなペドフィリアになっちゃったのかしらー♪ お義母様と一緒に叱られたいのね♡」

 

「冗談だって、冗談だから左腕のお袋と一緒に俺を締めつけるな!」

 

 笑顔で怒るというシグルイ系の笑みを浮かべるリーナに戦慄しながらも、何かヘンな空気だから適当にファミレスにでも行くかと言うと、その辺りは友情に篤い達也らしく、了承してくれた。

 2人よりも4人。集団で固まっていれば、そうそう下手な手も打てまい。

 

 下手な手―――最悪、襲撃されることもあり得るとした結論に、殺伐としすぎだよなぁ。と己の身に苦笑してしまう。

 苦笑した瞬間、予感が奔る。それは一種の『未来視』というほどではない。一流の魔術師などが持つ鋭敏なセンサーが、事態の急変を予感させただけだ。

 

 だが、それだけで十分だ。次の瞬間……いつぞやの如く『外れた存在』が現れて、この横浜ベイヒルズタワーにて大災害を齎そうとしているのだった……。

 その証拠に―――火災が起こったらしくけたたましくサイレンが鳴り響く一方で、寒風がどこからか流れて、稲光があちこちで弾ける『ビジョン』が見える。

 

 

 それだけで知れた……犯人は複数。昼夜を問わぬ『魔法使いの夜』が始まろうとしているのだった……。

 

 

 † † † †

 

 

 そんな横浜にて2度目のクライシスを起こした男……女もいる集団は『ある組織』にいた信者であった。

 

 組織は世の無常を訴えて、魔法師のいない世界を目指す一種の『カルト集団』とも言えたが、それでも彼らは、彼らの『理想世界』を求めていた。

 

 魔法師の人間を逸脱した能力は、社会的な『変動』を起こしてばかりだ。かつて、白人黒人、はたまた『出身国』による『差別』『逆差別』問題と同じく根深く食い込んだものだ。

 

 どのような犯罪であれ、同じぐらいのスペックを持った存在であれば、何かしらの瑕疵を現場や遺体に見受けることも出来ようが、魔法師はそういったことを覆して『完全犯罪』も可能なのだ。

 

 魔法師が魔法を行使するために使うサイオンに『ルミノール反応』は出ないのである。だからこそ『教主様』は力をくれたのだ。尋常ならざる力を持つ魔法師たちを倒すための……『力』を……。

 

 

 この中に魔法師はいるかいないか、それを判別することは出来ない。だが、ここは魔法協会の支部がテナントとして利用してもいるのだ。

 

 騒ぎを大きくすれば、魔法師達は出てこざるを得まい。その為の混乱の発生だ。『力』を用いて、ベイヒルズタワー内部をシェイクさせた一団は、後は施設を適当に破壊していくだけだ。

 

 そうすれば―――『魔法師が悪い魔法師』を止められず被害が拡大した―――そういう図式が出来る。

 

『好きにやれ―――我々は、もはや自由だ――――』

 

 

 リーダー格の男、白人の偉丈夫がそう言った瞬間、鬨の声を上げながら多くのメンバーが己の『真の姿』を晒して、破壊と惨劇の限りを尽くそうとした矢先。

 

 

Fixierung,(狙え、)EileSalve(一斉射撃)――――!」

 

 呪弾が飛ぶ。自分達の頭上からガトリングガンの勢いで銃撃されたことで、半獣化が若干弱かった面子は、当たっただけで昏倒する。

 

 魔法師。こんな黒い球はどう考えても物体ではない以上、そういった存在であることは間違いない。

 

 

「何者だっ!?」

 

 問いかけると同時に、弾丸の飛んできた方向を見ると、そこには四人の人影があり、こちらの言葉は聞こえていたようだ。

 

「平穏なたまの休日を楽しむ、日本国民の皆さんに対する狼藉の限り―――」

 

「例えオテント(お天道)様が許しても―――」

 

「「俺たちが絶対に許さない!! 俺たち『魔法戦士愚連隊』がお前たちの悪事をしかと見届けたぞ!!」」

 

 自分達のいる所から頭上―――エスカレーターで登れば生ける吹き抜けのショッピングフロアにて見得切りをする四人の男女を見る。

 

 赤茶の髪をした少年に、金髪の少年……どちらも美形。茶髪というよりもブラウンヘアーをポニーテールにした少女と、ピンク髪をネコミミヘアーにした少女―――どちらも『美』が着くが、いたのだ。

 

 

「貴様ら―――魔法協会の手のものか!? だとしたらば都合がいい! 貴様らの首を手榴弾代わりに投げつけてやる!!」

 

「威勢がいいのは結構だがな。たかだか『起源覚醒』と『半獣化』の遺伝子付与で勝てると思われるのは、実に心外だな」

 

「大方、アルトマ・メサイア・ビーストの信仰者。眷属と言う方が正しいかしら?」

 

 ざわつく一同。白人と黒人が大半だが、一部にはアジア系もいる……そんな集団の動揺。

 

 『身体変異』のトリックの推測は、大当たりだったようだ。

 

 

「前にニューヨーク・クライシスで言っていた身体変異したという連中か? まさか『獣』が生きているのか?」

 

「いいや、恐らく信仰者の中でも『初期症状』だったのが、時を置いて強大化しちまったんだな……とはいえ、疑わしいからと言って皆殺しなんて魔女裁判も同然だ……」

 

 そういった案は出ていたんだな。という達也の考えとは裏腹に、カルト集団の生き残りたちは明確にざわついている。

 

 彼らは、自分達の脅威が理解出来ていない魔法師ならば、切り裂けるなどと考えていた。魔法師達の慢心につけ込み、その『機械仕掛けの杖』(CAD)さえ十分に使わせなければ……。

 

 そういう目論みを狂わせる正体の既知に対して……。

 

 

「怯むな! 我々のことを知っていようと、我々が手に入れた力は人間種族の極致の能力! 遺伝子改造を施された魔法師には手に出来ぬ天然自然の力だ!! 

 行くぞ!! 同志たちよ!!」

 

「扇動が上手いようだが、実が伴っているかどうかだ!!!」

 

 リーダー格の男が、半獣化を果たして『ヘラジカ』のような姿を執ったのを皮切りに、戦闘がスタート。すぐさま、落下防止の超硬化ガラスの仕切りに足を掛けて飛び上がる。

 

 浮遊の跳躍とも言えるし、緩やかな落着を意図している―――なんてことはなく、空中にいる四人を害そうと、炎や雷を放ってくるので、それを躱すべく軌道も複雑なものだ。

 

 敵の分析だが、かなり『起源進行』している。もはや人体の機能を逸脱した能力を獲得している……魔法などの後天的技術による付与ではなく、先天的なものを強化されたもの。

 

 

 氷結と落雷が降り注ぐ世界に銃と剣を持つ騎士が降り立つ。鬨の声と共に襲い掛かる半獣のものたちを、次から次へと熨していく。

 

 銀色の銃から放たれる幾多もの魔弾が、巨大な『情報構造』を崩していき、その上で『分解』を仕掛ける。

 

 神秘領域にいる存在に自分の魔法を届けるために、達也が考えた分解魔法の改良版、『トライデント・ポセイドン』が、半獣のものたちを人間に戻していく。

 

 只者(ただもの)になってしまったことで、力を喪失する信仰者たち。

 

 

 そして刹那も、干将莫耶を振るって半獣のものたちを屠っていく。もちろん殺してはいない……達也のような分解魔法ではなく、干将・莫耶を『怪異殺し』の神剣として進化させたことによる効果だ。

 

 かつてはリーナの髪の毛をいただくことでしか出来なかった『神秘』の権限が、人類悪の『悪性』ばかりを斬り捨てていく。怪異殺しの神剣の真髄が容赦なく只者へと変えていく。

 

 金と銀に輝く双剣を持つ刹那と銀色の銃を持つ達也……変装した姿だが、その戦いの様子を隠れた場所で見ていた一人の少女は―――。

 

 

「イン、ジン! 行くよ!! 宝石大師に助太刀するんだ!!」

 

「委細承知即了」「了承」

 

 

 混乱と混沌の場所に降り立って、刹那達に助太刀する道を選ぶのだった……。なんでさ。

 

 

「私の名前は劉 麗蕾(リュウ・リーレイ)! 横浜中華街の中でも一番の人気飯店! 五番町の跡取り娘にして魔法師!! 

 横浜は私の街も同然!! 助太刀させてもらうよ!! 日本の魔法師サン!」

 

「気軽にシャオって呼んであげて、愛称はシャオリウだから」

 

「お嬢様には、もう少し淑やかさを持ってほしいものです」

 

 中華圏の女中の姿を模して、チャイナシニョンで髪を纏めたような姿を取る『水銀ゴーレム』の姿に懐かしさを覚えて、不覚にも眼を潤ませてしまう刹那だったが……。

 

 アルトマの眷属を倒すことは変わらないのだ……。その正体は『只者』ではないだろう『リュウ・リーレイ』という少女の助力を得て、戦闘は苛烈さを増していくのだった。

 


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