魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
景虎ちゃんを無事にゲットできたし満足満足。そして事件簿にて流れる梶浦サウンドが俺の心を癒してくれる。
ではでは、若干短いですが、あんまり投稿しないでいるのも悪いので、この辺りで新話を送らせていただきます。
お待たせして申し訳ありませんでした。(苦笑)
「―――越えていくのさ、誰もがFighter! ウルトラマンタイガー!!」
『『『YEAH―――!!!!』』』
久々の休日。何気なく出かけたいと思った四人が同時に誘い合った結果として、選んだ遊び場は奇しくも都内のカラオケ店であった。
カラのオーケストラということが発祥だの、もしくは他の語源があるだの言われているカラオケの装置は、この時代にあっても進化を続けて―――現在に至る。
軽食をつまみながら思い思いの曲を歌ったり点数合戦になったり、合いの手を『生』、『デジタル』で出したりして、楽しんでいく。
ちなみに言えば現在はエリカとレオの点数合戦であり、若干ながらレオが優勢である。
「ええいっ! さっきから主に
「悔しいのか、納得したいのか、はっきりしなよエリカちゃん」
「美月だってリーナがいないのに『役員共』の歌を歌ってるし!」
「関係ないでしょ!?」
色々とカオスなボックス内であった。とはいえいつものメンバーというには少し足りなかったりもする。
エリカが言う通り、四人ほどの男女がこの場にはいない。自分達の仲間……青臭い表現をすれば親友…というにはまだまだ付き合いは浅いかもしれないが、親しい友人であり世界を変えた人間達だ。
彼らも誘おうとしたのだが、寸前のタイミングで横浜行きのコミューターに乗ったらしいことを全員が確認して、まぁこの四人の集まりになった。
「別に刹那と達也、深雪さんとリーナとでつるんでいるわけじゃないだろうから、映画鑑賞が終わったタイミング見て誘うか?」
「片方は恋人同士の触れ合いだろうから止めときなよ。まぁ達也と司波さん…も似たようなものかな……」
一曲歌いきって飲み物を口にしたレオに何気なく言いながら、気付いてしまう事案。偶然か必然か……あの二組は、期せずしてお互いに横浜に向かったのだ。
この半年間の関係の中で気付けたこと。それは達也と刹那に近ければ近いほど分かってしまう化学反応。
2人が同時に
それが、例えどれだけ一般社会に溶け込もうと、異端は異端として認識されるらしい。
魔法科高校において『劣等生』のレッテルを貼られたまま、日々を過不足なく何事もなく過ごして、父親の勤め先の関連で技術者を目指そうとしていた司波達也。
魔法科高校において『異端者』『平均』という認識のまま、周囲の声に構わず『世界』の閉ざされた叡智を極めた先の、『何か』を求めて生きてきた遠坂刹那。
対称的なようでいて似通った二人を、目立つ世界に引っ張り出す……『闘争の世界』に送り出すのは、二人の親しい女だ。
古来より男を戦場に勢子のように追い立てるのは、『女』と決まっている。
アルスター神話に出てくるコノート国の女王メイヴ。死して尚、神々の世界にいけると信じるために作られた
戦場を馳せる男たちにとって、女というファクターは非常に重要なのだろう……。例え死んだとしても、柔らかな乙女によって死後の安堵が約束されていると信ずればこそ、古代の戦士達は戦いの日々に邁進できたのだ。
「―――と言った事を刹那は言っていたね……何か僕は怖いよ。
幹比古の懸念。それを他の三人の誰か一人でも『考えすぎ』『邪推だ』『疲れているんですね』とか、気休めでもいいから言ってほしかった幹比古の考えとは裏腹に―――。
全員が深刻な顔。そして―――おもむろにエリカが選曲したのは……。
「暗い雰囲気にしてくれちゃったミキには罰として―――美月と一緒に『神田川』を歌ってもらいます! 二人に対する応援歌だからよろしく!!」
「エリカ、無茶ぶりすぎやしないかい?……まぁレオとエリカのバトルデュエットだけで締めくくるのもちょっと嫌だし、歌おうか美月さん」
「はい。この曲、すごく転調が良くて、自然と暗い気持ちが段々と上向いてくれるんですよね」
有名な曲ではある。というかこの間の『魔曲』の授業、刹那に代わりエルメロイレッスンの教壇に立ったダ・ヴィンチちゃんが、見事に歌いきった曲である。
ああ、なんて中の人の歌唱力(?)の無駄遣い。ともあれ、その楽曲といい刹那の呪文といい、現代魔法の観点から離れたものが、この上なく全ての人間を高次の次元に上げていくのだ。
「「「「
何故か四人合唱で、「神田川」を「うたってみた」することになるのは、面白そうな『イベント』に参加できなかったうっぷん晴らしが多分に含まれていたからである……。
† † † †
乱戦の混戦に移行した闘争の場。横浜ベイヒルズタワーにかつて現れた軍の強化魔法師とは違って、彼らの凶暴化は、魔法の理では括りきれない『身体狂化』の類だ。
魔法と言うイデアの理を覆すために、身体の情報を全て恐ろしく『膨張』させて、尋常の魔法師では手が出ない領域に届かせた連中の脅威は分かってはいたが……。
「何だか恐ろしく雑な魔法戦になってきていますよね……」
「魔法師が人間の精神領域を拡張した存在ならば、
最近の魔法研究においても認知されつつあるビーストの眷属……その『細胞強制』とでも言うべき秘儀を用いて、強引に己の『カタチ』を変えさせられたものたちは、純粋に今後の魔法師たちにとって脅威となる。
なんせ、既にニューヨークに現れた獣は、次なる『獣』に自分の復活の芽を託した可能性があるというのだ……。これをただ単にマッチポンプの煽り……特に刹那などの魔術師たちの利権拡大に繋がる―――と見る輩は一割以下に減っていた。
ともあれ、今はヴァンパイアに対して術を仕掛ける。野生生物と同等か、それ以上の速度で動くヴァンパイアの獲得した獣性は、魔法のターゲッティングを容易にさせない。
もしくは外殻がとてつもなく硬くなった存在。『犀』『亀』という生物的なものを極端に強化したものは、単純に硬すぎて魔法が通用しにくい。
しかし通用し難いだけであり、魔力……サイオンを微に入り、細に入り、属性を調節し、全ての要素の精髄を丸く引き出すことで、通る魔法を使う。
大気中の
もっとも長年のクセはそうそう抜けずに、未だに刹那からすれば『手打ち』で『腰が入っていない』ものばかりになっているのだが……格上の存在を相手取る時だけでいいだろうとしていた。
そんな女子陣の戦いを見ながらも、ヘラジカの獣人と化した相手は容易いものではなかった。硬化強度が、完全に幻想種の中でも『魔獣』のクラスにまでなっている。
「バフォメットかパン神ならば、山羊だろうに、立派に角なんて生やしやがって……」
「ヘラジカの角は現代における凶器の一つだからな。その他にも体重を活かしたスタンプも恐ろしいな」
「……動物園にでも行くか?」
「
意外な知識披露にツッコミを入れたが、ヘラジカの男は脅威的だった。生半可な魔法や魔術では傷が着かないほどに、強化された体の全てを活かして肉弾戦を挑んでくる。
魔法がキャンセルされた瞬間にやってくる
こうなれば、有無を言わさずランクが高い魔獣殺しの概念武装で倒そうと試みる。出し惜しみしていたわけではないが、殺してしまうのだけは避けたかった。
「トレース―――」
鹿ではないが魔獣殺しの槍として有名な、持っていれば助かったはずの『破魔の紅薔薇』を投影しようとした瞬間。
「金、銀―――
先に狼の名前を持つ武器が、乱入してきた中華の魔法師の手に宿る。重量は相当なもののはずだが、銀と金という流体金属ゴーレムは自動で重量軽減の術を使っているのか、少女が鉄扇でも振るうように重量武器を難なく操る。
その乱打の勢いで強かに打ちつけられ、抉られてそれなりの痛痒を感じたのか、ヘラジカ男はリーレイなる少女に狙いを着けたようだ。
「トレース、オン」
だが、今の少女の無謀な突撃攻撃が、ヴァンパイアの強度を下げた。これならば―――。
達也に目線でメッセージを伝えながら、リーレイに向かおうとするヘラジカのヴァンパイアの横っ腹に突っ込む。
朱槍を手に超速で向かうと流石に脅威を感じたのか、こちらに振り向こうとした瞬間……。
「
次なる金銀の武器は、普通に大きな金属槌であった。平均的な成人男性1人分の打撃範囲を持った槌は破城槌の類であり、魔力の噴射と共に横殴りに殴られて頭を揺らされているようだ。
怖いもの知らずな子だなと思いながらも……。刹那は行動を止めずに、槍を『薙ぎ払った』。
「斬り捨てろ!
過たず朱槍は、鹿角を2本とも根元から消失させ、その上で、走り抜けてリーレイを保護した刹那の後ろから急接近して『零距離』での接触射撃。
達也の分解魔法が尋常ならざるヴァンパイアの強化を解く。
力の源たる鹿角を奪われれば、達也が『分解』させなければならないものも存分に見える……そういうことであった。
ヘラジカの男が破れたのを皮切りに、リーナの『テスラ』を食らって全身を痺れさせた一団。深雪の『氷弓』を食らって全身に寒気を与えられ震える一団。
期せずして遭遇した戦闘の幕切れとしては、ヤマもオチも無いものだった……。
「さて―――どうした……おい達也? お前何をやっているんだよ?」
「警戒すべきは、ヴァンパイアじゃない……。この少女の方だ」
シルバー・ホーンの照準装置をリーレイという少女に向けたことで、メイドゴーレムたちは臨戦態勢を達也相手に解いていない。
両腕を剣に変えて刺し貫く意思を感じる……忠実なメイドの人格データは余程の忠臣なのだろう。アッドやトリムマウ―――、刹那の魔法の杖とは大違いだ。
「お兄様。やめてください。リーレイちゃんは、純粋に私達を助けたいと思ってくれていたと、私は考えますよ」
「それでなくとも、いきなり銃を向けるヤツがいるかよ……お前がシャオちゃんを穿つならば、俺がお前にガンドを撃つぞ」
「―――流石に、お前の病魔呪弾をもう一度喰らって深雪を心配させるのも忍びないな……」
刹那の人差し指を向けた後の言葉を受けて、CADを仕舞う達也。本当にコイツは……時に狂犬になるので少しばかり心配になる。
抑えるべき深雪の言葉が若干効いていないことが、四葉の精神改造の術を知らせるが……魂のカタチだけは変えられない。
それを呼び覚ました刹那こそが、達也に若干の責任を負わなければならないのだろう。
「イロイロと言いたい事は多いのだけど―――そろそろ魔法協会の責任者たちが来るんじゃないかしら?」
「長話する暇はないか。俺たちはともかく、シャオちゃんは変装していないからな」
面が割れては不味いだろう。一種の記録装置に関しては、情報工作のエキスパートたる四葉に任せておけばいいだろう。
というか入学前の横浜でも、そんなことをやっていたと聞いているのだから……。
リーナの忠告であり進言を受けると同時に、即座に逃走を開始。やってきた魔法協会の重役の一人『十三束 翡翠』女史は、襲撃を掛けてきたテロリスト全員が魔法攻撃で昏倒して、最近になって登録された魔法……『抗魔布の拘束帯』―――身体機能及び魔力循環を阻害する『バインド』という『魔術』で捉えられていた面子を発見。
同時に、『誰がやったのか』を探ろうとするも、どこからか既に情報操作が掛けられて、映像も画像も全てサルベージ出来なかったのだ。
しかし―――『完全に隠そう』として『完璧に隠す』。……そういった偏執的なまでの周到さが、隠した相手の素性を物語っていた。
(人間のやることには、どうしても、どんなことにでも若干の『いいかげんさ』が出てしまう。それは時にヒューマンエラーとして大きなものにもなり得るけど、大抵は『好い加減』でやっているということよね)
即ち、この情報操作をやった存在は、己を人間以上の存在。自分達、魔法師こそが人間以上の存在であると日ごろから喧伝して、容易に多くの人間に尻尾を掴ませない存在。
完璧ゆえの『漏洩』―――四葉家が絡んでいるということに、翡翠は深々とため息を突いてから、彼らの症状を見てもらうためにも、ドクターロマンに連絡を入れるよう協会員に指示するのだった。