魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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というわけで、新話をお送りします。

リストラされたキャラとしては、三高の2人だったりします。一高に来るのはまたの機会ということで(苦笑)




第125話『魔宴の予感』

『五号物揚場に接岸した船から不法入国者を確認。ただちに現場に急行せよ』

 

 

 予想通り過ぎて、何とも拍子抜けしてしまう。だが、無線を通じて届いた指令に、二人の私服刑事は何事も言わずに走り出した。

 

 その速さは尋常の人間では出せない類のものであり、現れていた不法入国者の群れ―――10人ほどが見えたことで、即時に千葉と稲垣という警察省の刑事は取り押さえることに成功した。

 

 

「遠坂君考案の、この『バインド』っていう魔法は随分と使い勝手がいいな」

 

「非魔法師であれば、その身体活動を拘束して、魔法師であれば更にサイオン活動を封じ込める……非魔法師による魔法師制圧部隊でも導入されつつあるとか」

 

「ある種の鉱石に魔法式を封じ込めることが出来ればね。今はまだ実用段階ではないけど」

 

 愚痴るように言う年上の部下に、飄々と答える寿和。だが、それがある種の健全なものとも言える……魔法師を捕えるのも魔法師である以上、一種の手心が加わるという懸念は誰しもが持つものだ。

 

 その状況を少しばかり好転させるものとして、彼のエルメロイの少年は、どの勢力からも求められているのだ。

 

『十手』を持つ寿和は、言いながら……他の場所では手間取っているのか、騒音と銃声が響くのを耳にして『ト―シロ』相手にダセェ。などと少しの愚痴を内心でのみ述べながら―――。

 

 

「船を抑えよう。なんかもう骨折り損な気がするが」

 

「ダイバー装備で逃げましたかね?」

 

「ああ、(おか)の連中はフェイクだろうが、あのまま悠々とハマの港に着けておくのは――――」

 

 などと小型貨物船を抑えようと寿和が言った時に、小型貨物船が内から爆裂四散した。圧倒的なまでの爆破で二つに折れて、横浜の湾内に沈んでいく現代の造船技術の塊……。

 

 如何に魔法であれども、ここまでの威力を発揮するならば、それなりの技量の魔法師が必要だ。ただでさえ海水に浮かぶ『鋼鉄船』にして、それなりの剛性もあるものだ。

 

 情報改竄の規模も必要になるエネルギーも、人間一人を弾けさせるよりも、大仰なものになるはず……だというのに―――。

 

 

『千葉、稲垣。何が起こった!?』

 

 指揮官である二人よりも階級が上の初老の管理官が、現場に対する報告を求めてきた。あちらとてドローンなり監視カメラを使って、様子は見ているはずだが……。

 

「不法入国者たちが乗ってきた船が爆裂四散して、二つに叩き折れて沈没する寸前です」

 

『魔法か?』

 

「それは分かりません。本官の眼では、詳細なものまでは……」

 

「―――トシ君!」 

 

 リボルバー型CADの測距装置で何かを視た稲垣の声が響き、兵法家としての勘が一瞬で構えを取らせた。

 

 

 構えを取った後には、爆裂四散した船から何かが飛び出した。何かは、近づいてくるたびに詳細に分かる。分かったところで……理解は遠い出来事だったりするのだが……。

 

 

「―――■■■■■ッ!!!」

 

 

 ―――虚空に『戦車』が現れていた。現代や20世紀、21世紀初頭に運用されている機械仕掛けの『戦車』(せんしゃ)ではなく、古代にでもあった二、三頭の馬に牽かせることで進む車輪付きの台。

 

 いわゆる『戦車』(チャリオット)が飛んでいたのである。そして馬の嘶きは尋常の生物として、聞いたことがある馬とはまったく違うものだ。

 

 

「カボチャの馬車であれば、メルヘンだと言えたんだが……何だあのサラブレッド種の三倍強もの体躯の『馬』は……」

 

 様々な軛や馬具で縛られているとはいえ、それすら窮屈に思えるような体躯の馬の威圧は凄まじく……その御車ですら、とんでもない魔力を放っていた。

 

 化け物。そういう単純なまでの言葉が思い浮かぶ。

 あの南盾島の戦いで見たグリーンスーツ以上もの、魔法の理外の『超越者』がやってきたのだ。

 

 虚空を踏みしめながら、こちらを探るように見ている、御車の中で手綱を握るフードを被った人間は―――、二頭の馬に手綱を振るって下知を飛ばした。

 

 ヤバい。狙いは―――。

 

「稲垣! バインドを解いてやれ!!」

 

「瘟瘟―――瘟―――!!」

 

 叫びがどのような意味かは分からない。だが、強烈な魔力を纏いながら、空中から飛び来るようにやってきた戦車の狙いは―――、拘束された不法入国者であり、銃刀法違反の連中であった。

 

 ロクに動けもせずに放り出していたのは不味かったかもしれないが、だがその一撃を、そんな行動を予想できていた方がおかしい。

 

 狙撃銃や収監中に殺されるならばともかく―――言い訳はいい。彗星のように飛んできた戦車の一撃で港湾施設は無残にも発破されて、犯罪者とは言え、拘束されて抵抗出来ない人間が殺されたのだ。

 

 義憤が起こる。コンクリートの砕片などでアーマーは役立たずになったが、それでも寿和は獅子吼する。

 

 

「貴様ッ!!!!」

 

(ハイ)!!! (シッ)!!!」

 

 言葉と同時に、馬も含めれば大型トラックほどもある『戦車』が。吹き飛ばした寿和に突撃を仕掛けてくる。

 

 蹄の一蹴り一蹴り、車輪の一回転、一回転が横浜港の路面から周囲の倉庫の全てを叩き潰していき、その威力を正面から受ける寿和は、当たり前の如く無事では済まない。

 

 というか殉職は確定だろう。生意気で、何事にも刃向かう妹は泣いてくれるかな? などと気楽なことを考えなければ、平静は保てそうになかった。

 

(突撃を躱して、台にいる騎兵を叩き落とす―――出来るか?)

 

 数秒しかない時間でも決めた寿和は、間一髪の瞬間で横っ腹に出ることを決めて、構えながらその瞬間を待ち望む。

 

 戦車の速度からすれば残り十秒―――と言う所で、寿和は自己加速魔法を掛けて超速の神速で動く。

 

 動いた結果、鋭角に動き横っ腹に出たはいい。いいのだが―――。横っ腹には―――。

 

 

「バカなの。アナタ? 横っ腹が弱いのは『人の世』の戦車だけ。その戦車とて―――」

 

「弩弓!?」

 

 顔を隠していた……『女』の嘲った言葉の後に気付いた寿和。

 

 歴史が示している通りに、そういうサイドウェポンが装備されて、脇腹を突いてくる騎兵や待ち伏せの歩兵を寄せ付けなかったのだ。

 

 魔力の矢が幾束も放たれて寿和を襲う。たまらず十手を長くしたうえで、腰の木刀も抜き放って対処をする。

 

 例の遠坂刹那のごとき攻撃の苛烈さで、寿和を縫い付けたまま虚空を飛び立つ戦車は―――他の所で対処していた連中を狙っているようだ。

 

 

「全隊に警告。相手は魔法の戦車だ……。威力だけならば、数分程度で横浜港を灰燼に帰すだけの、火力と破壊力を持っている。いますぐ重要参考人を連れて、この場から退避しろ!!」

 

 こんな指示でどれだけの人間が動けるかは分からない。だが、それでも言わないで後悔するよりはいい。

 

 砕け散った木刀を捨ててゼニガタ・シルバーから譲られた長十手を杖に、ボロボロの身体の寿和は、虚空にいる戦車を睨みつける。

 

 そして―――最後に見えたのが、その戦車を牽く馬二頭が―――馬ではなく『赤』と『青』の『狐』。牽いていた馬と同等のサイズに変化する様子だった。

 

 幻かもしれないが、急激なサイオン切れで意識を保てなくなった寿和は稲垣に支えられて……その場を後にするしかなかった……。

 

 

 † † †

 

 

 

 刹那とリーナが遊びに行った土曜日の横浜だが……日曜日にも横浜は少しばかり騒がしかったようである。

 

 もっともこちらに関しては昨夜のことであり、あまり考えなくてもいいかもしれないが、一時的にではあるが、寿和さんは病院に運び込まれたようだ。

 

 エリカが愚痴るように言うが、サイオン切れで意識不明になるとは、あまりいいことではない。とはいえ、他の刑事達とは違い今朝にも退院したそうだ。

 

 

「なーにが『鍛え方が違う』よ。こちらを心配させておいて、意地になるんじゃないっつーの」

「そんなもんだよ長男なんて、(弟妹)に余計な心配させたくなくて、いつでも虚勢を張るもんさ」

 

 だが、グレイ姉弟子との恋路を完全に応援出来ずに済まな過ぎた。ことを思い出しつつ、寿和さんに優しくしとけよ。と、エリカにとって意味が無いことを言っておくのだった。

 

 そんなこんなしていると、達也が魔法科高校の学生における論文コンペティションに選ばれたのだった。

 

 九校戦が『武』を象徴するならば、論文コンペは『文』を司るイベントであり、どちらも魔法科高校の学生にとっては欠かせないイベントであった。

 一年でありながら大抜擢。本来ならば選ばれているはずの平河小春先輩が直々に謝罪してきて、色々あって達也に丸投げした。

 

 確かに、達也の研究テーマと被ることであったから、適材適所だが、まさか三年の先輩が辞退したからこそのお鉢回りだなどとは思っていなかったのだろう。

 

 目頭を解すこと多くなった達也を少しだけ不憫に思いながらも、そそくさと退散しようとした所で……。

 

 襟首を掴まれて。『頼み事』をされるのだった……。

 

「どうせだ。刹那、お前は俺の為―――いや、全論文コンペ関係のメンバーの為にも……海鮮饅頭を作ってくれ」

 

「お前が喰いたいだけじゃないか?」

 

「ああ、その通りだ。言い訳はせん。だから俺の為に海鮮饅頭を作ってくれ」

 

「そういう美月が興奮しそうなことを近くで言うな」

 

 

 などというやり取り(美月は大興奮)の末に、論文コンペの準備においては、給仕長という仕事を拝命することになってしまった。

 

 更に言えば、今回の論文コンペは、東側国家とでも言うべき所はともかく、西側諸国にもオープンで流すそうなので、マルチリンガルである自分が通訳者(インタープリター)として翻訳する作業まで任されてしまった。

 

 そして積み重なるようにして、予備の警備部隊にまで編成されるという徹底ぶり……。

 

 

「なんでさ」

 

「最近、ミンナに対して心の税金払っていなかったからじゃない?」

 

「君に納める心の税金で、いつでも俺は高額納税者だよ」

 

「ダイスキー♪ いつでもワタシはアナタの扶養家族(ワイフ)♪」

 

 

 バカップルのあまりにも甘すぎる会話に、周囲にいた全員が久々に砂を吐いた―――。

 

 リーナが、首に抱きついて身体を密着させた時点で――――。廊下の曲がり角から違った男女が現れるのだった。

 

 

「ロマニ! 奴らを遂に見つけたぞ!! 確保するんだ!!」

 

「いや、普通に同行を求めればいいんじゃないかなレオナルド!?」

 

 まるで熊を見つけたマタギのように、正面から出てきた二人の教師。

 

 一高の廊下を歩いていたバカップルを見た彼らの行動は、即座の確保であった。

 

 高密度の魔力の布で確保するは、片方は就任して一週間とはいえ、一高の名物教師コンビとなりつつある二人だった。

 

 

「ホワッツ!? どういうこと―――!?」

 

「エメラルドを使っての、拘束術式か。しかも『法典化』されているから、ちょっとした強制の魔術だな」

 

「冷静なアナリシスどうも! とはいえ、これ原始人なんかがエモノを捕えた時の拘束(バインド)の仕方!」

 

「俺はともかくとして、リーナだけは解放してほしいんですが」

 

「安心してくれ。すぐに部屋に着く」

 

 

 そうしてロマン先生の連れ込まれると同時に拘束は解かれ、同時にソファーに落とされたことで、ダ・ヴィンチちゃんとロマン先生の要求は喫緊なのだと気付かされる。

 

 全ての作業を省略される形での話の導入は、ロマン先生が焦っている事の証明だ。時にこんなことがあったのを知っていただけに、とりあえず言う事は一つ。

 

 

「土曜日のヴァンパイアの件はありがとうございました。十三束から聞きましたが、御足労願ったそうで」

 

「ああ、その件はいいんだ。あの手のビースト症例に関しては、僕しか対処出来ないからね……ってそこじゃない! 千葉の兄貴が負傷したのは聞いているね?」

 

 横浜の件ではあったが、自分達が直接関わった案件ではないことが、この上なく不安を掻きたてる。

 

 何を言われるのか分からないが、それが土曜日に関わった少女に繋がることなのではないかという不安は―――。

 

「私の霊基グラフに反応があったんだが、どうやら……何かしらのクラスのサーヴァントが現れた。

 そしてそいつは、横浜港の一画を灰燼に帰すほどの『宝具』ないし『スキル』を持った……尋常の魔法師、いやAクラス魔法師を動員しても勝てるかどうか分からない存在だ」

 

 ―――ダ・ヴィンチによって違う不安にリライト(上書き)されてしまう。

 

 何処で手に入れた画像なのか、ロマン先生が端末に示してきた横浜の惨状は、明らかに『対軍』宝具の類で発破されたとしか思えないものであった……。

 

 

「それで―――俺にどうしろと?」

 

「答えなんて分かっているだろう? サーヴァント―――ゴーストライナーの力は、魔法師たちにとっては過ぎたるものだ。

 そして、彼らでは対抗しようとすれば、無残な骸が折り重なるだけ……南盾島の時のように、キャスタークラスですらそうそう太刀打ち出来なかったんだ」

 

「十二分の準備をしてようやく―――といったところだったからな」

 

「この惨状……何かの駆動車輪(ホイール)で、轢壊したように見えない?」

 

 リーナに言われて画像に魔眼を投射すると『轍』のようなものが見えてきた。ただ単に捲れた混凝土の路面というだけではない。

 規則性を持った移動物体が高速で移動しながら、破壊を撒き散らしたのだ。

 

 少しだけ敵の正体が見えた……見えたことで、術の英霊(キャスター)奸智に長けたキツネ(エクストラクラス)よりもやり辛い相手だと直感する。

 

 真正面からがっぷり四つで、向かえば容易く場外に叩きだされる……だけでなく爆裂四散するだろう。

 

 

「少なくとも騎の英霊(ライダー)に相当する逸話を持った存在だと断定するよ。もちろん、聖杯戦争のデータぐらいは君も諳んじているだろう?」

 

「一応、ジモティ―だったからな」

 

「のみならずフユキの『御三家』(トライユニオン)の一角でしょう。お義母さん泣くわよ?」

 

 姑への報告を口にするリーナに苦笑しながら、これほどの大破壊を『離れた箇所』に連続で叩きこむとは、『常駐型宝具』の類だ。

 

 かつて、冬木の聖杯戦争……第五次、没落したマキリに代わり、外地のマスターとして招かれた動物科の新鋭。

 

 親父の時計塔からの出奔を誰よりも悲しんだ、魔術師の『親友』が呼び出したメデューサを正体とするライダーのサーヴァント。

 

 その最大能力は、手綱を『天馬』に()ませたうえでの真名解放からの一撃必殺突撃……。その威力は対軍宝具の類だった……。

 

 そんな系統のサーヴァントとは違い、常駐型宝具……先生にとって一番縁がある英霊。征服王イスカンダルの宝具の一つは、呼び出した『幻獣+戦車』を使っての単純な疾走……。

 

 だが、その威力はとんでもない上に、飛行宝具としての性質まで備えている……。

 

 どちらが優れているかは分からない。しかし、ただでさえ燃費食いの騎の英霊(ライダー)なのだ。

 

 その攻撃のヒット回数が多い方がいいと思うのは、俺がロード・エルメロイⅡ世ことウェイバー先生の弟子だからとか、そういうことではあるまい。

 

 きっと、多分……もしかしたら―――。

 

 

魔術戦車(チャリオット)付きの突撃宝具か……厄介だな」

 

「まだ確定ではないが、そう考えて動いた方がいい。そしてここからが本題だ……」

 

 ロマン先生曰く、この案件は非常にデリケートであり、後継ぎと目されている人間がとんでもない目にあったことで、千葉道場も気が立っているという話だ。とどのつまり、治安関係者全ての毛が逆立っているということだ。

 

 

「この事態を速やかに終息させるのは、キミの役割だと思っている……まぁ即座に始末が着けられるとは僕も思っていない。だが、一当てすることで『正体』だけはつかめるはずだろう?」

 

 確かに、それは賢明な判断だ。だが、敵が……どっからやってくるかも分からないのに、当てもなく都心近郊を徘徊しろというのか。

 

 健全な教師としては、それはどうなんだろうという視線を向けつつも、これほどの魔的な事態に友人の兄。色々と世話になった刑事さんが被害にあったのだ。

 

 出ざるを得まい。

 

「心のゼイニクよね?」

 

「全くだな。ただ―――タマにはそういうのもいいさ。それに寿和さんは、何となくリーナの『親戚筋』と縁が出来そうだし、見捨てるのも寝覚めが悪い」

 

 別に死にそうになっているわけではないが、再び駆り出される前に、ある程度の無力化はしなければならない。

 難事ではあるが、それに際して―――ダ・ヴィンチは秘密兵器があるから安心しろと言ってくるのだった。

 

 多くの事が決まってしまったが……サーヴァントの『正体』以上に、謎な人物が目の前にいるのだった……。

 

 意を決して、刹那は口を開いた……。例えこれからの関係が拗れたとしても、聞かなければならないことと思えたからだ。

 

「栗井教官……アンタは何者なんだ?……前から聞き返したかったことだが、今まで明確に問えなかったことだ……」

 

「問いかけられたところで答えない。そういう可能性は考えないのかい、刹那?」

 

 教員机の椅子に座る栗色の髪の毛をした……教師。その本質を誰もが、ただの昼行灯だと思っている。

 

 だが、誰よりも誰かを生き返らせることに長けた『マジックサヴァイバー』であるということも、皆が分かっている。現代のアスクレピオス。

 

 どのような重傷者。はたまた、現代ではありえざる毒に対しても血清を的確に与える手際……全てが『魔術師』寄りなのだ……。

 

 

「考えたさ。けれど―――知りたいんだ。知らなければ、俺は……今度は―――」

 

「僕も『喪失う』(うしなう)かい?……」

 

「――――」

 

「遅かれ早かれのことなんだ。『僕の正体』は、いずれ分かる……ただ一つの願いを元にした『魔法』が世界に披露される時に、『僕の役目』は終わりを迎える」

 

 

 その役目が終わった時―――アンタはどうなるんだ? そういう事を聞くのが憚られる言動だ。リーナも、その事を意識して緊張していた。

 

 だが、渇いた笑みを崩して破顔した栗井教官ことロマン先生は、もう少し先の話だろうと言ってきた。あまり構うなとでも言うべき態度に、むかっ腹を立てることも出来なくなる。

 

 

「今は、この世界で英霊召喚という反則を果たした連中を封印することを考えて動くんだ……。うん。なんか深刻なことばかり言ったせいか、僕の中でバイアス調整が上手くいかない。

 ひどくないかい刹那。僕に相対する時だけシリアスムード全開で、警戒心マックスじゃないかな?」

 

「訳知り顔のくせに、何も明かさないで人を動かそうとするから、そういう対応になるんですよ。誰だってそんな風になりますよ」

 

 その言葉を言われた瞬間、悲しそうな顔と懐かしそうな顔の狭間で揺れて―――最終的には悲しい顔をするロマニ・アシュラマンの表情の変遷を見た。

 

「ぐさっ、と来る一言を何気なく放る問題児! しょ、しょうがないよ……僕は弱い『人間』なんだからさ。けれど、そんな僕だって頑張っている生徒を見て、動かずにはいられないんだ……けど『動きすぎる』のもダメなんだよ」

 

「君が『動きすぎる』と、狂いすぎるからねぇ。さっ、あとは若人たちが働く番だ。ロマニの昼行灯は、今に始まったことじゃないからね。安心して、雪兎ヒメのダンスムービーを見せさせてあげるのが、いい生徒の手本じゃないかな?」

 

 懐かしそうな顔は何ゆえかとか、聞きたい事が多すぎる。というか、こっちが聞き返さなきゃ何も答えないのか、色々と文句を言いたい気分ながらも、ダ・ヴィンチことオニキスによって、教師室からリーナ共々追い出されて、理不尽な想いを感じながら……。

 

 

「……アーネンエルベでミルクレープ食べるか」

 

「……シナモンたっぷりのアップルパイもモアプリーズ」

 

 

 何となくゲンを担ぎたくて、アーネンエルベに向かうことにした二人。

 

 かしましいオレンジ髪とグリーン髪の元、出された料理は絶品であった。もちろんグリーンの方は一切、調理には関わっていなかったりする。

 

 そしてその夜………ゲンを担いだゆえか、『運命』と出会うのだった。

 

 

『―――問いましょう。あなたが私のツルギですか? ならば、良し―――さてさてこれでも、軍神、龍とも呼ばれた身。

 たかが空飛ぶ狐2匹、地に落とせずして虎を(あざな)には持てませんよぉお!! さぁ! マスター(ツルギ)、ご命令を下さい!!』

 

 

 ―――銀色に輝く長い髪を月夜に晒しながら、七支の槍を携えた美麗の槍兵が、戦場を駆け抜けるのだった……。

 

 


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