魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
小百合さんの達也に対するアレコレが多すぎた。カットしてもよかったかな?と思いつつも入れておかないと、意味不明になってしまう。
というわけで最新話どうぞ。
一高から帰ってきた達也は深雪と共に、望まぬ来客を家に入れていた。
正直言えば達也も会いたくは無かったが、義理の母であり、達也の『勤め先』の上司である以上は、それなりの対応をしなければならなかった。
司波小百合。旧姓 古葉小百合―――父・司波龍郎の愛人であり、実母・深夜が死ぬと同時に戸籍を入れた―――何とも間の悪いことしかしない女性だった。
「それで用件はなんですか? 正直言って、俺もあなたと話すことで深雪の機嫌を曲げたくないので、早めにお願いしますよ」
「相変わらず―――あなた達は私が嫌いなのね……」
「世間一般的に、前妻が死んで半年後に籍を入れるなんて、実に拙速でみっともないことだと思いませんか? 俺としては、小百合さんがもう少し間をあけてくれていれば、何事もなかっただろうに、と思いますよ」
ご近所さんが、この司波家をどう思っているかは分からない。葬儀そのものも殆ど四葉の方で行い、昔―――地方の田舎などでやっていた『御知らせ』などで近所の方にも葬儀出席を。
……という慣習こそ廃れたが、一応は母もいたことがある家なのだ。その姿が無くなれば、勘繰る人もいる。
そして残された兄妹に違う年齢―――母親と同じくらいの女性が来れば、まぁそういう目線もあるだろう。
そんな世情の倫理観というものは、目の前の若作りの女性にとっては知らないモノだった。
「あなた達にとっては半年……けれど私にとっては16年間なのよ―――その気持ちを察することも出来ないっての?」
「……俺の友人ならば、何か気の利いたことでも言えるんでしょうが、そういった感傷とは無縁なので」
「―――暖簾に腕押しとはこのことね。まぁいいわ。それじゃ本題に入るけど、あなたにはすぐに高校を中退して、本社の研究室を手伝ってほしいのよ」
「それは不可能です。深雪のガーディアンとしての義務は、あなたの要求よりも上位に位置することだ」
遠慮のない要求に対して、遠慮のない拒絶。擦り合わない感情。お互いにお互いの事情など知ったこっちゃないという、ジャブパンチの撃ち合いだった。
「あなたが進学しなければ、他が手配されたでしょう」
「本家―――四葉の方から聞いていないんですか? 『それ以外のこと』も要求されているんですよ。俺は」
その言葉にただでさえ切れ長―――ともいえる小百合の眼が鋭くなる。
「……『悪い友人』に唆されているようね?」
嘲った言葉。底意地の悪さが見えている言葉に、達也は『感情的』に噛みつく。
「―――俺の友人をあなたに値踏みされる謂われはないですね。ともあれ―――そういうことですよ。それが後々はFLTの利益に繋がるとは思えませんか?」
沈黙。
沈黙。
恐らく小百合としても、そこを出されるとは思っていなかったのだろう。
魔力量だけは立派な親父―――龍郎にとって、エルメロイレッスンは文字通り天啓にも等しかっただろうから。
もっとも……今更魔法師としての栄達を望むには、達郎は若干疲れ果ててもいるだろう……。
などと、息子らしく内心でのみ親父の身体を気遣う達也に、ため息を突く小百合。それは納得したのか諦めたのか、ともあれ小百合は違う案件を持ってきた。
ハンドバッグ―――何かのブランド物かもしれないが、達也には分からぬセレブリティなものから宝石箱を取り出し、慎重な手つきで蓋を開けて中身を見せる。
そこにあったのは―――『あれ』以来、うんざりしたくなる聖遺物の一種でもある勾玉であった。
ドリームゲームとはまた別系統だろうが、この手の物にはしばらく関わりたくなかったのにこれである。疫病神め。ぐらいの呪詛を込めた視線で小百合が苦しめばいいのに、と思いつつも構わず話を続けてきた。
曰く、この
更に言えば、この案件は国防軍絡みのもので、FLTとしても断り切れず受けた―――というが、どうせ名誉欲に眼が眩んでのことだろうと達也は踏んだ。
その証拠に、牛山もいる第三課ではなく本社研究室に出向するようにしたい辺りに、生臭い思惑を感じた。
しかし……この勾玉はある意味、刹那の言う『独占状態』を解消する一助にはなるだろう―――もっとも、魔法式を保存するという機能を発揮する為に魔法師が必要ということは、違うのではないかという話も感じる。
「もう一度問いますが、何でこんな案件を受けたんですか?」
「…………国防軍としては、USNA所属の魔法師『刹那・トオサカ』の真似をしたいようです。
何より、その他にもレリック使い『プリズマキッド』の存在が脅威に映った―――そういう理由説明でした」
頭が痛くなるほどに友人関連の案件であり、海鮮饅頭を追加してもらうことが決定した瞬間である。その上で自分の知りうる限りを伝えておく。
「刹那の宝石魔術は、かなり煩雑なものです。呪刻を刻み、その上で採血した己の血を垂らすことを何か月どころか何十年とやることで、魔力と魔法式を保存しておくものです。これとは似て非なるものです」
だが、懸念そのものは真っ当とも言える。しかし、勾玉以上に金がかかる魔術を使う刹那が、そこまで魅力的になるだろうか?
考えるに、この案件―――陸軍ではなく海軍関連だろうと思えた。
「無理なの?」
「無理です。これを『複製』するぐらいならば、刹那がやっているように、宝石や鉱石に込めることに尽力した方がマシですよ。とはいえ、似て非なるモノのためにも開発第三課に回しておいてください」
「!!……あなたの魔法は、こういう時に役立つと思っていたのだけど―――こんな時に役立たないとは。ならば結構よ! 帰らせていただきます!!」
そう言って、先程の恭しい手つきとは反対に、宝石箱を乱暴に閉じてからハンドバッグに叩き入れる小百合は帰る様だが―――『行きはよいよい。帰りは恐い』という故事を知らないのかと思う。
護衛しようかという言葉に対しても、険のある視線で要らないと言われては―――とりあえず一度は引き下がるしかなかったが、ともあれ―――こういったものを持つ以上、どんなことになるか分からない。
そういう想いで、深雪を少しばかり慰めてから、フォローをしに行くことになるのだった……。
そんな達也たちとは別の地域にて―――そのレリックに関わりある一件が始まろうとしていた……。
† † † †
「何度見てもイカガワシイ仕掛けね」
「フフ。君は
……まぁ現代社会において『情報』の痕跡そのものを完全に消せない以上。衛星写真による個人特定の方が便利な気もするけどな」
気取った貴族的魔術師……主に、時臣祖父を意識してトレースした言動をしてみたが、即座に現代魔術師としての意識と考えが上回り、そんな言葉で打ち消されるのだった。
「ただ本当の意味で『規格外』の存在を手繰る際には、こっちの方がいい。魔力針を用いた
どれだけ隠蔽していたとしても、その存在量だけは隠しきれないからな」
母が第四次の『戦争』の際に、『コトネ』『サツキ』という友人を助ける際に持っていた方位磁針のようなものを改良したバージョン……通称『ドラゴンレーダー』。
アニムスフィアのミニチュア
「寿和さんは不法入国者を取り締まる過程で、サーヴァントの襲撃を受けた。しかし、不法入国者の大半は口封じなのか、対軍宝具の轢殺を受けて死亡。
ただし全員を殺すことは出来ずに、生き残りがアジア系の外国人であることは間違いない」
「つまり……アジア系の組織の誰かがサーヴァントを使役しているってこと?」
「単純に考えれば、な。そもそも俺からすれば、ここまで爛熟した情報社会で、そんな不法入国なんて真似をして足を踏み入れても、どこかで『足』が付くんじゃないかと思うんだが」
「それもユビキタス社会が得た
南米からの不法移民というものが、地続きゆえに幾らでも入ってこれる、未だに北米大陸が抱えている現状にもリンクしてくるゆえに、リーナはその手のことに詳しい。
現在の合衆国がメキシコを含めた連邦制度を維持しているのは、そういった側面もある。まぁその際に大規模な『麻薬戦争』を行いもしたそうだが……多大なまでの鉄血を以て、それらを収めたようだ。
歴史の裏側にあるちょっとしたことに想いを馳せると―――自分もそういう存在なのかもしれない。いるはずのない異物。何とか溶け込もうとしてきたが、隠している秘密の大きさゆえに、まだまだかもしれない。
「ヒビキから聞いたんだけど、ハンバーガーってバランスが大事だそうよ。確かに味の決め手はハンバーグだけど、それを受け止めるべきパンにも相応の役割があるそうよ」
「そりゃまぁな。調和ってそういうものだろ? 達也の大好きな海鮮饅頭に使ってる皮の酵母も、かなりいいものだしな。むぐっ」
作り置きでも美味しく食べられるように―――そういう気遣いがされた、アーネンエルベの看板娘が作ったハンバーガーを口に突っ込むリーナ。
中々の美味。そういうものだからこそ美味しく食べたいのだが……言いたい事は分かってしまった。
「次にワタシのことを忘れたらば、抱きついてチューして、ついでに言えば、愛のエスケープをして、『こっこ』が六人はいる家庭を即時に作るわよ!」
「と、とんでもねーこと言いやがるこのアマ!? 無茶ぶりにも程があるぞ! ……悪かったよ。けれど、現実にサーヴァント召喚なんて法則を確立させてしまっている以上、何かしらの影響を及ぼしているんじゃないかと思うんだよ」
「それでワタシを捨ててどっかに行こうとするココロがイヤだわ……セツナのバカ」
「そこまでは考えていない。リーナ、俺が信じられないのか?」
その真っ直ぐに見つめた上での言葉で沈黙するリーナ。まさかここで真剣な眼をされるとは思っていなかったのか、両手を合わせて胸の前で祈りを捧げるような姿勢を取っている。
しかも眼を閉じている。唇を突きだされているような仕草の末に―――。
「はいー。そこのお二人。こっちの気配を理解していたとは思うけど、これ以上のラブはミキと美月に悪影響だからストップよ」
「邪魔して悪いとは思うんだが、まぁ勘弁願うぜ」
などと……『築地方向』へと向かう道中にて、四人が『路地裏』から出てきて、こちらのラブシーンにケチを着けてきたのだった。
おのれ、『路地裏同盟』め。などと思いつつも私服姿。秋の装いの四人。これと似たような服でカラオケに行ってきたんだろうな。と思えるエリカ、レオ、美月、幹比古の四人が剣呑な装備を隠し持ちながら出てきたのであった。
「何をしに来たか、なんて聞くのは野暮だわな。武門の長子が辱められたからと、仇討に出るなんて古風すぎるぞ」
「似たような人を知っている口ぶりだな?」
「実家のお隣に住むヤの付く自由業の娘―――俺からすれば小母、オヤジからすれば姉貴分が、まぁそういった人だったらしい」
冬木の虎の武勇伝は、俺にとっての兄貴分たる人間に受け継がれた。どうでもいい話だな。だが、自分にとっては懐かしいものだ。
「如何に和兄が不覚を取ったとはいえ、負けは負け。勝敗は時の運と言えども、このまま千葉道場の名声が地に落ちるのは、見るに忍びないわ」
「で? 他三人は何なの?」
「フォローと応援要員、そして戦力扱い。協力してもらうわ」
嫌々という風ではないが、不遜な態度のエリカと違って、他三人は苦笑い気味……呼びつけられて、そのまま協力を取り付けられた。そんな所だろうか?
本当に千葉エリカという女は、こういう時にアレ過ぎる……。
((ボス
呆れるようなリーナと思考と言葉がリンクした瞬間だった。
「アタシだって今回ばかりは自分ひとりで、だなんて強気は張れないわよ……和兄が相対した敵が、何となく刹那君と『近い』ことは、襲った武具から丸わかりだから」
「速さを誇る現代魔法師とて、サラブレッド競走馬がトップスピードで走り込んできてまで、平静を保って魔法が使えるかというのは疑問だけどな」
「それが只のウマだったらば、そういう話だよ……
エリカとの他愛無い会話に入り込んできたのは幹比古である。感受性というか霊感が強すぎる幹比古のことだ。
横浜での一件を、遠くからも感じていたのかもしれない。
その言葉に『そうだ』と一言だけ言っておく。そして、詳細こそ分からないが、警察の事案であるべきものの中に、在り得ざる力が介在した。
「俺が受けた依頼は、とりあえず面倒な相手と一当てしておけというだけだ……倒す必要はない―――と言いたいが……」
「掛かってこられたらば、そりゃ何が何でも殺そうとするよな……」
「いぐざくとりー。そして何より俺は、まだ事件の全容が見えていないんだ」
千葉寿和警部のような魔法師の警官が動員される『捕り物』。確かに普通の銃器を装備している相手や、中には魔法師がいる可能性を考えれば、不法入国者を取り押さえる上で、動員されることは変では無い。
そう。日本警察側の動きは何ら変では無い。問題は不法入国者の側だ……。
「囮とはいえ、何故……そこまでして陸に上げていた連中を口封じしようとしたのか?」
「生きていれば、いずれは口を割られる可能性があったんじゃないかな?」
「まぁな。もしくは全容を知らされていなければ、割るほどの口も無かったかもしれない。もしくは催眠誘導で、自殺を強要することも出来たはずだ」
歩きながら考える。全員にひびき特製のハンバーガーを渡しながら、喰いながら考えるに、やはり『動機』が見えてこない。
「フーダニット。誰がやったかなど考えるまでも無い。とりあえず『アジアの某独裁大国』の腹を探られたくない、やましい連中の『一員』であることは確実だ」
「ハウダニット。サーヴァント。恐らくライダークラスに類する存在による
「それだけのことをやらなければならない動機の由縁、『ホワイダニット』。なぜやったのか? それが見えれば―――」
などとリーナと共に思考を巡らしていると、おずおずと美月が手を挙げて声を掛けてきた。何か気付いたのか、言いたい事があるようだ。
「刹那君に『知られたくなかった』んじゃないかと思います……ええと、推測なんですけど、横浜港に行きました?」
「いや、何も残っていないし、既に復旧作業ぐらいは始まっていれば、入れないだろうから―――」
「だとしたらば、刹那君は現場には、『何も無い』って感じていたんですよね?」
「ミヅキ?」
何も無い―――。そう、『魔術師』遠坂刹那の思考では、既に横浜にはサーヴァントの宝具による強烈な魔力の残留で、何も探れないと『判断』して、ダ・ヴィンチとロマンの言葉に従って都内の主要街を練り歩いた。
魔力針の反応を頼りに……。いや、待て―――何かが引っ掛かる。
ついぞこの世界ではやらない方法の一つ。情報化社会だからこそ残る痕跡を『頼り』にしすぎていた。
……『探る方法』はあったのだ。つい一か月前に講義としてやった魔術の一つ。あまり刹那は好きではなかったものの、宝石魔術の必須要素。鉱石科を主とするならば、やらなければならない科目の一つだった。
「違法配信で、俺の授業もダ・ヴィンチの授業も筒抜け。そして、一か月前にやった授業を何らかの動画サイトで知っていれば―――」
「サーヴァントを使役する存在は、俺や俺の授業を受けた連中に『何もさせないこと』を命じる。魔術師ならば、『口封じ』は当たり前だが、奴らにゃキョンシーを作る技術はあれど―――」
つまり―――寿和さんを重傷に追い込み、俺の眼を嫌った存在は、明らかに俺の存在を『認識』している。
探られたくない『痛い腹』。それは表向きの自分の属している所にも通じているはずだ……。
「更に言えば、そこまで周到に、執拗に『証拠隠滅』を指示するとは、マフィアやブローカーの類じゃない……如何に警戒が強くなるとはいえ、色々と荷揚げをする港が使えなくなれば、困るのはあちらも同じだからな」
「まさか、軍ないし治安関係に類するものか……?」
想像以上に話が大きくなっていたのを感じたのか、幹比古が怯えを含ませながら口に出す。
ただの
『刹那。サーヴァントの反応を捉えたぞ。どうやら旧築地方向で、活動している様子だ。
急行して、一当てしてこい。決して、倒そうとするまでは、今は考えるな』
「無茶言うなよ―――そして、お前の言葉を聞いて、エリカが走っていったぞ!!」
『なんだと!? 確かにこちらの映像は送れるが、キミたちの状況を目視確認出来る装置は着けていなかったが、それがこんなことになるとは……!』
方位磁針に見える魔力針から出てきたホログラムのダ・ヴィンチに、バッドタイミングだと言いつつ、エリカを追う。
同時に、自分の推理を披露すると、得心した様子だ。
『確かに、『降霊術』による『探り』を忘れていたのは迂闊だった……成程、そう考えれば確かに、これだけの
ただの口封じでは、残った魂魄から何かを探れる降霊術による調査が入る可能性があった。
無論、この世界で『降霊術』なんてのは眉唾物も同然ではあるが、単純な霊的存在との会話は、あらゆる意味で、現代魔法師、古式魔法師、BS魔法師……魔術師。
全てのソーサラス・アデプトにとって、習得すべき『必須条項』であるはずなのだ……。まぁ出来るかどうかは今後次第というぐらいに、適正が低すぎる連中ばかりだったのだ。
「まだまだこの一件、根が深そうだが―――大丈夫かお前ら?」
「少なくとも、
「そういうこった。気にするなよ刹那。この間、お前ら横浜で暴れたみたいだからな。俺も暴れたい」
男子二人は随分とやる気満々すぎる……。だが、基本的に争いごとを好まないというか、明らかに戦闘系ではない美月まで引っ張り出すのは、どうかと思えた。
彼女の『魔眼』は稀少だが、戦闘用となるとライネス系統の使い方になってしまう。
「いいの? 今ならば『使い魔』着けて家に帰せるけど?」
「ええと……流石にここまで来て仲間外れってのは、私も癪に障りますよ?」
「「
笑顔で朗らかに『睨んでくる』美月に謝ってから、ようやくの事でエリカに追いついた。
未だに再開発や再整備などがなされず、『ほったらかし』の築地市場。そのいわゆる『場外市場』の辺りまで来て、エリカは何かに勘付いたようだ。
「結界ですね……」
「わざわざ「閉じる」ってことは、やましいことやっていますって言う証拠だな」
美月が眼鏡を外して『橙と青色の壁』と称してきたものを見るに、現在夜の10時半……完全に異界化している。
迂闊に踏み込めば、ロクでもないことになるのは間違いない。ゆえに選択の時だ……。
「簡易だが、作戦を決めよう。というかここまで当たりを引くとか、想定外すぎるからな……」
「そうでもなくない? 赤くて三倍の人も『引き』が良すぎるとか、言われているんだから、セツナもそうなのよ」
「魔術師の運命だな。望まずに歩いているだけで魔性を引き寄せ、望んで歩けば、特大の事象に当たってしまう」
犬も歩けば棒に当たるならぬ、『魔術師歩けば、怪異に鉢合う』……運命の皮肉に笑ってから顔を引き締める。
ここから先は、全力で挑まねばならぬものが待ち受けているのだ……。
「まずは『前』と『後ろ』の人員を決めよう――――」
・
・
・
・
「今さらながら派手にやったものだな。琵琶仙女……」
「
「いいや上出来だ。横浜港の一画が機能不全になれば、その分、如何に自動化されているとはいえ、いや自動化されている分、民間と官との間での『小回り』が利かなくなり、港への侵入が容易となる」
「それならば。
確かにサーヴァントたる琵琶仙女―――特徴的なチャイナドレスに身を包んだ桃色髪の女は、ガンフーの指示をこなしてくれた。
もっともサーヴァントとしての特徴として、ここまでとんでもない
商王朝、殷王朝の没落の原因ともされた美女三姉妹にして『悪女』……そう称される女が……何故、自分のような武骨な―――人殺しなどにそこまで構うのか。
理解出来ない感情を持て余しながら……今は――――。
「くそっ! なんで呂校尉だけに、あんな美人の使い魔が出来るんだ!!」
「世の中が理不尽。理不尽すぎる世界は修正してくれる!!」
完全にやっかみの視線を向けてくる部下達を、どう宥めるかを考えるも……。
多くの
その視線は、此処にはいないが、厄介になっている家主である周も同様であり、人虎という対魔法師の魔法師―――マギクス・キラーであれば良かったというのに……。
そんな考えを分かっているのか、巻きつく琵琶精のサーヴァントの眼は、『慈しみ』をいっそう持ってガンフーを見るのだった。
「急げ。流石に、日本の治安機関も馬鹿では無い。ここがブローカー共の荷揚げ場であることなど、周知しているはずなのだからな」
「御意」
漆黒の海に浮かぶクルーザーより、多くの荷物を揚げていく。そうしながらも、『人払いの結界』を張った琵琶仙女の耳が逆立つ。
エルフのような尖った耳をした琵琶仙女の耳は、ちょっとしたセンサーであり、異常を検知することに長けている……。
「ガンフー……侵入者だ。数は三人。戦闘道士級の力は軽く感じられる……!」
「流石にここも『探られる』か……敵意はあるか?」
「私の弦が震える……狙いはガンフーじゃない―――『私』だ!!」
声を上げると同時に一挙に戦闘態勢に入る
だが、荷揚げしたものの大半はダメになってしまったようだ。魔力の爆発があちこちで起こり、既に琵琶仙女の結界は砕け散ってしまった……。
そんな中、焼け焦げた混凝土。めくり上がって、一か所に寄せられて、ちょっとした小山も同然になった爆撃発破の残土の頂上に立つ三人の人間……。
雲に隠れそうな月灯りを背中に、各々の得物を手に、傲然と見下ろす姿に誰もが戦慄する―――。
「縁あって、アンタたち大亜の連中は、不甲斐ない
青髪の女子が剣呑な得物を手に見得切りをして、更に戦慄をするのだったが……。
「オマンラ、ユルサンゼヨ!!!」
そうしてから、『巨大な虹球』を見せながら、エセ日本語を発する桃色髪の女に、大亜の工作員たちは、少しだけ脱力してしまうのだった……。