魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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待てヒシリさんや、例えサウナ(イギリス式風呂?)に入っていたとしても、眼鏡を外してはいかんですよ。眼鏡を装着しなされ(マテ)

未だにひむてん最新刊を変えていないアホが送る最新話どうぞ。


第127話『魔宴の破曲』

 名乗り口上―――ではないが、因縁つけの口上を言った後には、襲い掛かるレオ、エリカ、リーナ。

 

 完全に辻斬り万歳すぎるが、それでも戦闘状態に入ったサーヴァント相手に待ちなど―――死ぬようなものだ。

 

 中華式の武骨な銅剣を手に持ち、こちらを見上げる女が消えた―――と見えるぐらいの瞬動。

 

 最初に斬りかかられたエリカが反応出来たのは若くとも武芸者としての直感に従って、剣を抜き放ったからだ。

 

 受け止めたその一撃の重さは尋常ではなく、全身が痺れて五臓六腑が裏返るぐらいの衝撃を受けた。

 

 サーヴァントの一撃を受け止めたことで残土が崩れて山が消失。大山鳴動の文字通りに、足場を崩されて後ろに宙返りの要領で退くエリカに代わるように出てきたのは、リーナである。

 

 既に何処かの英雄を『夢幻召喚』した彼女が、紅い槍を振るって虚空を踏みしめながら牽制の射突を幾重にも刻む。

 

 足場が不安定にも関わらず振るわれる打突は残像さえ霞む超常の理。受け止める銅剣はそれらを難なく捌く。

 

 その都度、夜の闇を散らす火花が咲き誇り、着地するまでに応じた剣合は、十を超えた―――そして、落ちた瞬間を狙って武骨な手甲を起動させてレオが迫る。

 

 桃髪のチャイナドレス姿の横から狙った攻撃、拳の一撃は脾腹に捻じり込む威力を備えている―――轟音を響かせて吹き飛ぶ女だが……効いちゃいないことはレオにも分かった。

 

 まるでゴツイ岩の塊に拳を合わせたような衝撃―――感じた時点で通用させるには、ルーンを幾重にも重ねる必要を感じて、いざとなれば『巨人』の力を使うことにした。

 

 レオが吹き飛ばした隙を狙って、今度はエリカが跳ぶ。先程は合撃で呆然としていたが、とにかく責め立てる。鋼の刀剣―――武骨そのもの……鍔も飾りも無い刀剣を使って、女に斬りかかる。

 

 

「無駄と言うものだな。私の『仙丹』を突き崩すには、技術はともかくとして功夫(クンフー)が足りな過ぎる。

 私の身を切り裂きたくば、崑崙の仙術剣士『黄天化』『玉鼎真人』でも連れてくるのだな…………!!」

 

「ご高説どうも! 要は宝貝(パオペエ)クラスの武器がありゃいいんでしょう?」

 

「それを用立てられるヤツがいるからな! こっから先は地力+道具で戦わせてもらうぜ!!」

 

 銅剣を肩に掛けて余裕を持っていたサーヴァントの口を閉ざさせる形でエリカとレオが攻撃を叩きこむ。

 

 現在の大蛇丸は、九字の兼定と融合させられたことで、概念武装としての側面も有している。

 それは本来的には『封印』されているもので、エリカの任意の判断で、『ガワ』を剥いでその側面を見せられる。

 

 そうすると、大蛇丸には本来は無い薄紫色の魔力の光剣が出来上がる……それらは、確実に生命として『上位』の存在に傷を着けられる得物だ。

 

 

「成程、莫耶の宝剣ほどではないが、それなりにはやるようだな……面白い―――相手をしてやろう!!」

 

「ツェルベルス・パンツァー!!!」

 

 エリカとの斬り合いを楽しもうとした所に、入り込むレオの拳。(しん)に響くいい拳だ。おまけに切り刻まれるような痛痒すらある。

 

 流石に何発も身で受けるわけにはいかず、銅剣を振るって一撃にして『三打』を刻む拳を弾く。

 

 見ると男の手甲には、歪な刃物が備えられていた。構えが大仰なのは迂闊に縮こまるとその歪な刃物が、自分を傷つけるからだろう。

 

 左右から攻撃を仕掛けて、絶対に■■■を真ん中から逃さない剣と拳の饗宴。

 

 剥がれた港の路面を更に引っぺがす人外魔境ながらも、格闘ゲームのハメ技のような戦いを演じていた理由は、ただ一つだった……。

 

 

『状況から察するに、ライダー相当のサーヴァントの『戦車』は、呼び出す暇さえ与えさせなければ、宝具の展開は、ないはずだ』

 

 刹那曰く、騎の英霊にとって宝具とはやはり『乗り物』であるらしく、ただそんなものは簡単に、そもそも『現代の街中』で展開出来るわけがない。

 

 更に言えば経験則上、戦車相当の宝具を呼び出すとはサーヴァントによる『召喚術』も同然らしく、どうやっても『簡易』に出来たものではないのだ。

 

『知りうる限りでは、ゼウスへの供物であった戦車を宝具とした英霊は、宝具ではないが、得物―――剣などを掲げて『宣言の呪文』と共に『虚空』を切り裂くことで、神牛と戦車を召喚していたそうだ』

 

 集中して一定の大がかりなモーションを必要とする以上、動きを縫い付けろ。とのこと……。もっともダ・ヴィンチ曰く『口笛一つで三頭立ての戦車を呼ぶヤツもいるよ』という追加情報もあった。

 

 つまり相手が『本気』を出す前に、心臓を穿てという話であり―――。

 

(なーんかなー。確かに驚異的だけど、『本気の英霊』(マジモノ)っていうのと戦ってみたくもなるわよね……第一、和兄に土を着けたのは、戦車を使ったライダーなんだからさ)

 

 決して白兵戦でも気が抜ける相手ではないが、エリカからすれば、欲して止まない戦いでは無い。糸……弦を巻き付けて動きを拘束しようとする間隙を突いたものは脅威だが……。

 

 それでも、すぐさま剣弾が飛んできて拘束が解かれて―――加速からの斬撃を受ける。これ以上の速度を出すには、戦車しかないのだろう……。

 

(刹那君には悪いけど、さぁ出してみなさいよ!!!)

 

 そんなエリカのウォーモンガ―すぎる思考は…………。

 

『などと言うはずだからさ。二人とも、エリカが手抜きとまではいかずとも、『挑発』するような真似をしたらば、即座に攻撃の頻度を変えろよ』

 

 と、エリカをハブにした所で、レオとリーナだけに刹那は伝えていた。その言葉にレオとしても苦笑いせざるをえない。

 

 実際、その通りになったわけだから先読みがすぎるタルウィ・ザリチェという南盾島で手に入れた『宝具級の武装』を組み込んだ手甲、脚甲は確実にどこのサーヴァントかは分からないが……ヒットしている。

 

 白兵戦で気が抜ける相手ではないが……それでも―――。

 

(刹那には悪いが、俺も本気を見てみたいもんだぜ。察するに中華系の英霊……それも結構古いんじゃねーかな?)

 

 人類史に刻まれる英雄の真価と戦えるならば、戦ってみたい。己がどこまでいけるかを知りたいのだ。

 

 エリカが、水を用いた斬撃―――風甲水盾の応用で手数を増やしたのを見て、「ブリッツ・パンツァー!!」閃雷轟く拳を入れていく。

 

 攻め切れているわけではないが、通用する。そしてそれを突き崩す『切り札』を持っているならばレオも見たかったのだ。

 

 そんなレオの弁えているようでいて、バトルマニアな思考は…………。

 

『更に言えば、エリカの考えに最終的にはレオも同調するはずだからさ。最後の要は君だけだな。リーナ。頼んだよ』

 

『もうっ! 最後に頼れるのは恋人たるワタシだけとか、セツナのクチハッチョウさん♪ いいわよ。パレードで二人のフェイスを変えるついでに、あのフタリの根性も叩き直してあげるから』

 

『お手柔らかに頼むよ……』

 

 

 結局の所、二人して宝具の展開を待ち望むようにして動いてきたので、今までは割り込まず、他の大亜の連中を牽制していたリーナは介入を決める。

 

 鋭い―――猛獣のような眼をした男は、変装もしておらず簡素な普段着だ。

 フード付きのパーカーを着ている男……もっともサイズとしてはXLよりも上であり、男の『厚み』を服の上からも理解させられる。

 

(スターズ本部の資料で見たことがあるわね。確か大亜連合軍のカウンターマギクス。魔法師殺しの魔法師……人喰い虎『呂剛虎』(RUU GANHOO)

 

 本当に人間でも食っているのではないかと思う程に、その男から感じるものは血の匂いばかりである。

 

 

(そしてこの案件、やっぱり軍絡みだった……けれど―――)

 

 何でサーヴァントを召喚しているのか……刹那には気にしない方がいいと言ったリーナだが、やはり気になってしまう。

 

『現代魔法』で大亜の工作員たちを牽制していたリーナだが、こと此処に至り―――まずは、大亜の連中を片付ける。

 

 ブリオネイク―――『十字架』という形態を取り、その十字架の先端を地面に突き刺して、轟雷を地面に走らせる。

 空からやってくる攻撃ばかりに対応していた工作員たちは、不意の攻撃方向の転換に対応しきれなく、感電を余儀なくされる。

 

 悪ければショック死だろう。ともあれ、ガンフーですらまともに食らったのを見れば、しばらくの行動不能は確認済みだ。

 

 同時にブリオネイクを基礎形態に戻してからクラスカードをインストール。その5秒も無い早業。流石にライダークラスに類するサーヴァントもこちらの槍の脅威は覚えていたらしく戦慄する。

 

 バトントワリングのように軽快に、物干し竿以上ものサイズを誇る得物を振り回してから狙いを着ける。

 

 少しばかり露出がある青タイツの衣装は―――クランの猛犬の力だ……。

 

 

(結構ハズカシイけれど、ここで決める! ワタシのダンナ様が求めているのは、アナタの完全な抹殺よ!!)

 

 腰を低くスタンスを取った上で。弓矢の狙いをつけるように半身を晒して、槍を構える……。

 

 そして―――その紅い槍からは特大の魔力が渦巻き、ぐにゃりとリーナごと周りの視界を歪める……蜃気楼のような魔力の発露である。

 

 紅い蒸気のような魔力は収束を果たして槍を赤く紅く朱く……光らせる―――。

 

 無論、あちらとて宝具の発動を感知しただろう。即座に阻止行動なり何かをしたい所だが、剣士と拳士は、その合図を見て否応なく『ギア』を上げていく。

 

 

「疾! 阻行止不為(邪魔をするな)!!」

 

「悪いけどパーティーは終わりね。もう少しだけ付き合ってもらうわよ!!!」

 

 付かず離れず―――されどサーヴァントの剛力の限りには、躱し回避しつつ相手を完全に逃がさない。玉のような汗を流しながらも、動きを拘束するエリカとレオに感謝する。

 

 こと此処に至れば、もはや自分の仕事に徹するぐらいは、二人とて出来る。先程までの面白がるような戦いとは違い、全力で応じるサーヴァント。

 

 剣士としてはありえざる大振りも魔人に類する存在から振り回されれば、明らかに押されてしまう。一撃一撃が、現代魔法では至れぬ境地に歯噛みしながらも―――二人はやり遂げた。

 

 だが―――最後の時は来た……リーナは、その槍の真名を解放した……。

 

 

その心臓、貰い受ける!!(Get the heart pierced)―――刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)!!」

 

 獣のように飛び跳ねたリーナの向かう先、既に二人は大きく回避を果たして左右は開けている。直線距離にして10m―――その程度。現代魔法の加速系統いわんや、神代のスペックを持った英霊の身体能力では一歩でしかない。

 

 いやそもそもデバイスを『操作』しなければ発動できない『現代魔法』に比べれば、英雄の能力は段違いにして規格外。彼らのスペックは『生身』の状態ですら魔法師を上回っているのだ。

 

 俊敏な獣の如く身を低くしながら放たれた槍は、回避すること能わず―――いや回避したとしても、槍が『心臓を貫いた』という『結果』を強制するために複雑な軌道を以て突き進み、エリカ、レオでは完全なダメージを与えられなかったサーヴァントの硬すぎる身体を赤い槍は貫いたのだ。

 

 深々と、背面を突き出る形で血に濡れる槍、そしてその際の圧は、周囲へと放たれて朽ち果てた築地市場を更に砕く。ショックウェーブが貫いたサーヴァントの身体から放たれたのだ。

 

 虚ろな目をするサーヴァント。ここで―――もしも『サーヴァント』及び『聖杯戦争』『ゴーストライナー』に対する知識をアンジェリーナ・クドウ・シールズが有していなければ、それだけで死亡確認を済ませていただろう……。

 

 口端から垂れ出る血液の赤色は夜闇でも見えたものだ……だが、知っていたからこそ総体の完全消滅をするために、刹那に連絡をして宝具の乱れ打ちをしていただろう。

 

 拘束した上で―――だが、それは無かった――――。

 

「―――空風林(クー・フーリン)の槍とは、恐れ入ったよ―――だが招喚来々する英雄の選択を誤ったな!! 金青少女!!」

 

 虚ろな目に光を取り戻して、こちらを見てきた時には既にこちらのパレード。変身魔法は解けていた。魔眼による『強制』だと気付いた時には、リーナは、容赦なく槍から退かすべく桃髪の女の腹に蹴りを入れていた。

 

 深々と貫かれた槍から自由の身となったサーヴァント。阿吽の呼吸のごとく虚空を漂い身の上下左右すらなく飛ばされるがままのそこに宝具と魔弾の驟雨が飛んでくる。

 

 ――――『獲った』――――。リーナと刹那が確信した。

 

 

 ――――『獲られた』――――。桃髪のサーヴァントが破滅を確信した時に……獣のような咆哮が轟く。

 

 否、それは完全に獣であった……獣性魔術を発動した大亜の魔法師が、その身を巨大な白虎に変じて、攻撃から守るように、否、守ったのだ。

 

 

「―――『王貴人』! お前の宝具を開帳しろ!!」

 

「ガンフー! アナタの挺身に身心の弦は震えるのみ!!! 私の覇王愛人の為に、この一斬を以て覇道を歩む!!」

 

 覆いかぶさるようにしたルゥ・ガンフーの下で、サーヴァントは、意気を上げて宝具を披露した。事前のレクチャー通りの事態の推移と、現れたブツの巨大さに誰もが驚愕する。

 

 虚空に銅剣を一振りすることで、現れたものは……まごうことなく戦車であった。古めかしいチャリオット。どの時代の戦車であっても、その巨大さと蓄えられている魔力は、まだまだ神と人と妖との境界が、未分であった頃の時代……神代を思わせる。

 

 そして戦車を牽いている馬―――日本の競馬でも一般的となったサラブレッド種の二倍から三倍はある巨躯に、その身体には神代の馬の特徴ゆえか桃花の花弁を思わせる痣がいくつも走っていた……。

 

『ブルルルッ!!』という嘶きすらも、一種の魔力を伴っている。二頭立ての戦車に血塗れのルゥ・ガンフーと共に騎乗したサーヴァントは高らかに宣言する。

 

 

「私の宝具、『仙饗天宴の狐神桃馬』(タマモツインズ・ティアンチイアン)―――これを出させずに戦って獲れていれば良かっただろうが……これを出した以上、もはや容赦はしない―――!!」

 

 

 サーヴァントの真価にして切り札である宝具の魔力が築地一帯に雷雲のごとく撒き散らされるのだった……。


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