魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

147 / 420
前回と違って一万文字オーバー。

流れ的にはこの後は原作での千秋スクーター事件とかなんですが、とりあえずオリ主が関わらないで登場人物だけ変わったみたいなところは極力流していこうと思います。





第130話『一夜明けて一騒動』

「将星召喚の御業―――刹那は、四月の八王子クライシスで行った事をやったのかい?」

 

「似て非なるものだな。俺が俺の『セカイ』から引っ張り出したサーヴァントには、自ずと『現界の限度』(タイムリミット)がある。歩く、走るという単調活動しているだけでも結構な魔力を消費する―――本当の禁じ手だ」

 

「けれどよ。サーヴァントたるカゲトラさんは、現界しっぱなしだぜ―――いや、もう分かっちゃいるんだ……南盾島の一件で、お前はアルキメデスの言っていたことを試したんだな?」

 

 その言葉に無言で肯き、あれからオニキスことダ・ヴィンチと共に調べた結果ではあるが、『小聖杯』の如きものは存在している。

 

 か細い『外側の世界』へのアクセス権ではあるが、魔法師一人一人の肉体……特に遺伝子構造が滅茶苦茶な魔法師ほど『小聖杯』を有しているのだと……。

 

 

「遺伝子構造―――いわゆる二重螺旋構造の中に仕組まれていたんだな。最初っから魔法師開発の目的が、これだったんじゃないかと思う程にな」

 

「二重螺旋構造?」

 

「俺が知りうる限り、『これ』がないと英霊は召喚出来ない。大規模な超呪体がなくてもいい『世界』もあるかもしれないがな」

 

 そんな鎮魂歌(Requiem)調(しらべ)が奏でられる世界を観測した時の事を想いだしつつ言う。

 ランサーが置いた『馬上杯』(サカズキ)を指さして、二重らせん構造の中に『杯』があるのが要点なのだと。

 

「魔術世界では『聖杯』(ホーリーグレイル)……または『アートグラフ』と呼ばれる大規模呪体が全てなんだよ」

 

「そんなものがあれば、流石の現代魔法師でも放っておかないし、何より軍事利用もありえるんじゃ」

 

 幹比古の言葉を遮り、『才能』(ギフト)というものを重視しているエリカが口を開く。

 

「アクセスできる人間は―――もしかして『本当に限られた人間』だけ?」

 

「ああ、恐らく『能動的』な召喚じゃないはずだ。どういう切欠で、どんな召喚方法であろうとも、『デタラメ』でも通るはずがない術式が、通ってしまう時があるんだ」

 

 地上に降りてきたガンフーとフェイカーの会話から察するに、狙ってやったわけではないようだ。それは即ち、『ワケが分からない魔法式』が発動を果たして、彼の妲己三姉妹の末女を呼び出したのだ…。

 

 

「聖杯は魔法師の遺伝子の中にある……」

 

「まだ推測でしかないよ。ただ……その可能性が高いんだ」

 

 三次元構造の螺旋を二次元―――平面に映した時、捻じれる塩基構造を中心にして、少しだけ上、少しだけ下。次なる捻じれに至る前を切り取ると、そこには―――『杯』があったのだ。

 

 美月が書き上げたスケッチブック―――赤線を走らせたことで、誰もがそこに『杯』があることを理解した。

 

 

「詳しい話は省くが、サーヴァント……英霊は、本当に高位の使い魔だ。実際、アルキメデスを『偶然』か『不意』にか、呼び出したマスターはアルキメデスに反旗を翻されて殺されたほどだ」

 

「正式な契約でないと、どんなことになるか分からないか……」

 

 如何に己を鍛え上げることで『強者』になるのが目標のエリカやレオですら、英霊の力の一端どころか、丸ごとを己の『力』として行使できるならば、そうしたいと思ってしまうのだろう。

 

 若さが求めるのは、やはり純粋な力なのだから………。

 

 

「けれど僕も召喚してみたいんだよなぁ。やっぱり過去の英雄となれば、その力は凄いだろうしさ」

 

「何より刹那君、時々言っているじゃないですか、『魔法師当人が最強である必要はない。魔法師が作るもので最強のモノを従わせればいい』って」

 

「そりゃその通りだけどさ……危険だぞ」

 

 だが、直接戦闘ではない方面―――研究者畑の魔術師寄りに近い幹比古と美月はそんなことを言って来て、少しばかり刹那としても頭を悩ませる苦渋の想いだが、そこに助け船が入る。

 

「仰る通りですね。英霊の中には自分よりも下の存在には就かないとか、主とは認めない系統の存在もいますから。

 私の生きてきた時代で言えば、『浅井長政』とか『森長可』とか、完全にアレですからね」

 

 アレって何だよ? と思うも、言わんとしていることは分かる……最終的には、『臣』になることを選ばず『大名』として死んだ男と―――主君の為に生きた戦国において珍しい『忠義』の狂戦士。

 

 ランサーの生きた時代とは、正しく様々な人間模様があった時代なのだろう。下にいる民たちにも武器を持たせて戦う事の是非は置いておくとしても……、そういう儘ならぬ生き方を貫いたものたちばかりだ。

 

 そんな中、刹那の影響で色々と訳知りのリーナは、肘を足に乗せて両手を頬に添え顔を支える―――一種のモテ仕草とも、言える『悩んでるポーズ』を取っていた。

 

「ワタシはナントモ言えないわー……だってパレードの応用『夢幻召喚』、『英霊憑依』の類で力を引き出しているんだもの」

 

「そこはリーナの努力と、生家の魔法を発展させたってことでいいんじゃないの? 後は刹那君との初めての共同作業ということで、お愛嬌でしょ」

 

「エリカってばオトコマエ♪ そういう所、キライじゃないわよ」

 

「女なんだけど!?」

 

 なんだこの会話。女子特有のトークの調子に、男三人は着いていけず苦笑するだけに留める。

 

「大亜の事に関しては官憲が抑えてくれればいいはずだ。如何に境界記録帯(ゴーストライナー)を従えているとはいえ、派手にやり過ぎれば動けなくなるはずだ」

 

「サーヴァントの利用は、あからさまに大きくなり過ぎだものね……」

 

 学生の身分の自分達では、そんな所だ……だが、シャオの爺ちゃんたる劉景徳の頼みの件もある。

 

 事態に大きく絡み過ぎた……最初は『寿和さんの受けた恥を濯ぐ』……雪辱戦だけだった。刹那とリーナは、『よろしくない魔性』を討滅することを目的として。

 

 その事態が絡んだのはやむを得ないが、『軍』が絡むなど想像の埒外だった。バランス辺りにウラを取ってもらっていれば、違ったかもしれないが……。

 

 

 まさかこの上、一高側に絡むなんてことは無いのだろうか? 具体的には論文コンペ関連―――。

 

 事態が大きくなれば、どうしても大雑把になっていく。それは、勢力図をスッキリさせたいという『誰か』の想いが事態を動かすからだ。

 

 例えどれだけ損害が出たとしても、敵味方の区別を完全に着けるための戦いは―――起こる。そこに、自分達はがっつり絡むことになる……。

 

 

『―――刹那お兄さん。どうか御爺様を助けてください。お願いします』

 

 

 幼子に頭を下げさせてしまうことを是とする世界など、まともでは無い―――その想いで戦うしかないのだ。

 

 

 そしてその日は、男女別々の寝所での雑魚寝(女子一同は流石にいい寝具)で遠坂邸に泊まることになるのだった……。

 

 

 居間にて、低級霊を使役して埃ひとつない清潔な空間を保っていた刹那withレオ、幹比古の男三人の雑魚寝だったが……。

 

 いつも通り、母譲りの低血圧で、起きるのに時間がかかる自分が寝起き直後に見た顔は、微笑み絶やさぬ『スマイル・ギャング』であって、なんか―――こう怖すぎた。

 

 ランサーのサーヴァントが、『ヤ』がつく系統の笑顔で刹那を見つめていた―――。高血圧ゆえの早起きなのだろうかと思いつつ、サーヴァントに睡眠はいらなかった。

 

 そう―――もしかしたらばランサーは昨日の就寝時から、こんな風に刹那の横で正座しながら見ていたのかもしれない。

 

 俗に『カゲトラちゃん。目怖ッ!』と呼べるものだろう。うん、なんかイヤだ。

 

「おはようございますマスター。さぁ朝となりましたよ。この時代の学寺に行くのですから、規則正しく動きましょう」

 

「ああ、おはようランサー……とりあえず牛乳飲まなきゃ覚醒しない―――」

 

 それでも最終的には受け入れてしまうぐらいには、サーヴァントとの関係が深かった両親のおかげか……。

 

 ただ……この時には、まだ予想できていなかった……ランサーを連れていくという事が、あんな結果を齎すことになるとは……。

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「制服の予備があったと思いつつも、どちらも一科用だったのを思い出して、数時間前……」

 

「エリカには、ワタシの制服は少しガフガフだったけどね。胸元(チェスト)が」

 

 それ以上は言ってやるな。と隣を歩くリーナに無言で思いながら昇降口を登っていると、少しの騒ぎが二科の昇降口付近で起こっていた。

 

 いわゆる『新制服』のお披露目であった……元々は、今年卒業する3年の二科生の人のためのサービスであったのだが、生徒達の間ではすでに噂になっており、刹那はその耳で確実に聞いた―――新制度に移行するゆえの『新制服』。

 

 魔法工学科、現代魔術科の制服を己のサイズに合うかどうか、とりあえず近いサイズで確かめてみるように―――そういうことである。

 

 もちろん、一科から魔法工学科に転科するものは出てくるかもしれないが、現代魔術科は、本当にエルメロイレッスンの延長線にあるものである。

 

 一科からの転科者は慎重にならざるを得ない。まぁ出ないと思うが……。

 

 

「そもそも、制服の発注ミスをそのままにしておくとか、あり得ねぇ」

 

「ホントウよね。時計塔では無かったの、そういうの?」

 

「そもそも魔術師にとって、礼装は時に衣類そのものに擬態させておくこともあるから、フォーマルスーツは無かったな。

 決まった衣類って意味では、ある特定の分野で功績をあげたり、年間主席、何かしらの特異魔術を進めたものとかで、『上』から認定されて支給される『ブランドガーブ』(色位の長衣)なんてのはあるけどな」

 

「持ってるの?」

 

「まぁ一応……もったいぶって言ったけど、結構、簡単に出るんだよ。別名では『魔術協会制服』なんて『蔑称』が着けられるぐらい、乱発されてるものだからな」

 

 刹那としても歯切れ悪くならざるを得なないのは、それが実情と即していないからだ。

 時代時代の『ファッションセンス』で変化するそれは、バリュエとミスティールの一種の金儲けであったりするわけだ。地方の学校ではよくある、制服の業者を指定することによる談合と変わらぬ。

 

 ちなみに言えば刹那の持っているものは、刹那の世代ではないが、お袋や親父の青春時代に流行ったイギリスを主な舞台としたファンタジー小説の制服をパクっ……オマージュしたものなのだ。

 

「いつか見せてね?」

 

「ご希望とあらば、いつでもどうぞ―――ただし家中にいる時に限る」

 

「問題ないわ―♪」

 

 などと抱きついてこられて、もしかして我慢していたのかなと思うぐらい、密着がいつもより近すぎた。

 

 だが、そんな行為の終焉は嫌でも訪れた―――来年度からの魔工科の制服、『八画の歯車』の紋章が縫い付けられているものを着ている達也と、いつも通りの一科制服の深雪―――そして、その後ろに十文字克人と七草真由美の存在を見て、苦笑してしまう。

 

 

「そんなに仲間外れがイヤだったんですか?」

 

「「「「当たり前()(です)!」」」」

 

 四者四様の答えを聞いて―――霊体化していたランサーの警戒の念が漏れ出る。明確に気付いたのは達也だけだが……自分の背後にいる霊子と想子の塊―――小宇宙のごとき規模を視たはずだ。

 

 令呪が見える掌を後ろに見せると、警戒心を霧散させたランサー。

 

 どうやら……達也の眼を嫌ったようだ。苦笑してから『話をしたいならば、ロマン先生の教官室』と告げると、ぞろぞろと目立つ面子六人で向かうことになり、衆目を浴びたのだが、まずまずそこはもはや諦めておいた。

 

 辿り着いた教官室では大量の紙束―――2090年代という現代社会にあるまじきものに溢れた雑多な部屋。そこにて美女の面貌をした稀代の芸術家と共に、何かを演算している様子でもあったのだ。

 

「おや? ロマニ、ちゃんとロック掛けとけよー。片付けが出来ていない部屋を見られてしまったぞ」

 

「いや僕のせいじゃないだろレオナルド、とはいえ、簡略化出来た事は少しだけ有意義か……ようこそ僕のゲヘナへ―――今日は朝っぱらから仕事続きだったんで、悪いがお茶を飲みながらで構わないかい?」

 

 辺獄ってどういうことだよ。しかし朝っぱらからの仕事は、レオ、エリカ、美月、幹比古の四人のために苦心してくれた所以だろう。

 

 あのままいけば、私服登校で『あらぬ腹』を探られることになったかもしれない。具体的には、学生にあるまじき『あれやこれや』である。

 

 そんな訳で、使い魔を使っての速達で、新たな制服を一足早く届けてもらって、更に言えば不満を抱かせないように、新制服のお披露目という段どりになったわけである。

 

 

「立体的に『描かれた』ダ・ヴィンチの星―――正八面体の制服の方がかっこよく見えるんだが、贔屓じゃないですか?」

 

「そんなこと言いに来たのかい? 克人」

 

 トロンプ・ルイユ―――騙し絵で描かれた色彩鮮やかな『正八面体』を紋章に据えた『現代魔術科』の制服は、少しばかり皆の羨望の的であった。

 

 ダ・ヴィンチの芸術的感性……補色、反対色などの色相も利用して描かれたそれは、確かに少し『ズルかった』。

 

「およそ私は万能だからね。後で八枚花弁も少しリファインしてあげようか?」

 

「検討の余地ありですね。と、それもありましたが、今は―――、昨夜の築地に関してです。栗井教官。ミス・レオナルド、遠坂、クドウ」

 

「槍玉に上げないでくださいよ」

 

 無理だろうが吊し上げを食らっていい気分なわけもなく、一応抗議しておく。ともあれ、昨夜のことに関しての申し開きとなる。

 

 端的に言えば、大亜の工作員たちが動き出して、更に言えば、サーヴァントを従えていることが判明した。

 

 ざわつく四人。アルキメデスの脅威を思い出しているのだろう。実際、あのキャスターのサーヴァントを相手に十師族は、直接的な排除に出られなかったのだから。

 

 

「千葉の兄貴、君たちも何かと関わり多い寿和警部など、多くの警察庁の人間達を圧倒した『フェイカー』のサーヴァントは、大亜連合軍エースマギクス『呂 剛虎』をマスターに戴いて、戦場を荒らしまわっていった」

 

 その言葉に四人全員が、それぞれの表情だ。達也をはじめ、多くの魔法師は、目立つ存在、妙な二つ名を持つ魔法師……公認戦略級魔法師の存在は、否が応にでも、耳目と頭に叩き込まれている。

 

 中でも人食い虎に関して、即座に頭のピックアップと名前とが合致したのは、達也と克人だけだったようだ。

 

 

「フェイカーのサーヴァントですか……? 確か、前の八王子クライシスの後の説明では、(セイバー)(ランサー)(アーチャー)(ライダー)(アサシン)(キャスター)(バーサーカー)……という七つのクラスに英霊たちを割り当てることで、巨大な『情報』(霊基)を制限していたんですよね?」

 

「ああ。だが、それとは別に『エクストラクラス』(番外位)というものも存在している。特に英霊の中でも、逸話として微妙すぎる上に、『真偽』不確かな逸話ばかりで『信仰』が不十分。だが、確実に紡いできた歴史の線上にはいた存在を、割り当てるものがあるんだな」

 

 深雪の説明に補足をしておく。英霊の中には、確かに伝説では語られていても、その実在が不確かな存在もいる。

 同時に、通常七クラスでは割り振り出来そうにない特徴を持った存在もいれば、自ずと『世界』は新たな『鎖と檻』を用いて英霊を縛り付けるのだ。

 

 

「今回のフェイカーというサーヴァントは、俗な言葉で言えば英霊の影―――伝説上で彼らに成り代わることもあった、『影武者』『偽者』とも言えるものたちが割り当てられるんだ」

 

「影武者……。そんなものまで召し上げるのか? お前の言う『世界の外側』に在るとされる『場所』は」

 

「実際、そうだから仕方ない。ともあれ、フェイカーというサーヴァントは、英霊の『偽者』『影武者』を呼び出すためのクラスだ。

 そして―――古代中国…殷王朝、商王朝ともされる国家を破滅に追いやった『三姉妹』の内の末女―――蘇妲己の妹、王貴人というものが、今回の主敵だよ」

 

「私もそこまで詳しくないのだけど……王貴人と言えば、伝説に在る通り妲己の『妹』として存在しているはずよ。

 なのに―――そんなネガティブなクラスに押し込まれるの? 何か、上手くいえないのだけど……変じゃない?」

 

 確かに偽者、影武者と言うと、王として人民から好悪の別はともかく、光を集める存在の『不穏な部分』とも言える。

 

 彼らもまた『王』として誰かの拝謁を得ている経験があるならば、そんな当てこすりみたいなクラス当ては、真由美にとってはイジワルにしか思えなかったのだろう。

 

 

「―――正確には違う。フェイカーのサーヴァントは、ある意味では、『王と同列』の存在とも言えるはずです。私は使者を通じてとは言え、甲斐の虎の影武者と謁見してきましたが、彼らも確かに『王』であったのでしょう」

 

 不意にその時―――霊体化を解いて銀色の魔力を集束させた上で、現身をとったランサーがたしなめるように真由美に言うが、いきなり現れたランサーに四人の警戒が上がるが―――構わず刹那は続けた。

 

 

「影武者・偽者―――『身代わり』。かつて……今のように往来を行き交う1人1人の顔の識別や、詳細な顔写真なんて存在しなかった時代においては、影武者を当人と見間違えることも多かったそうですよ。

 近代においても青年将校が首相の私邸を襲った時に、首相の妹婿である退役軍人を首相本人だと思って油断していたなんて事例もあるほどだ」

 

 なべて、人の姿かたちなど、真正面から見ていても錯覚するものである。

 

「ある意味、人間の認識はパレードなんか用いなくても、簡単に誤魔化せるものなのかもな」

 

「ワタシの美貌とナイスなバディは、ちゃんと認識していてね?」

 

「そこのバカップル。話の腰を折るな。岡田啓介首相と松尾伝蔵大佐は似ていたということもあるんだが、それじゃこの王貴人というサーヴァントは、妲己の影武者にもなっていたのか?」

 

「その可能性は高いよ。遙かな昔、未だに世界は魔術師を神域のものとしていた時代においては、有力な王ほど『呪い』による『呪殺』を警戒して、神官や魔術師を用意していたほどだ。

 遡れば、古代メソポタミアには『身代わり王』なんて儀式もあったぐらいだ。

 凶兆・災難・病魔―――多くの『厄』を受けてもらうために、全く関係ない農夫を王に据えて、全ての厄がされば、身代わり王を殺すという残酷な風習もあったんだからな」

 

 いつの間にか眼鏡を掛けて、エルメロイモード(達也名付け)になった刹那の姿に、考える一同。

 

 ヒドイ話ではあるが、その厄を受けた身代わりが巨大な悪霊になることを恐れて、時には「家族を三代に渡り、守護しよう」などという約定を押してから頼み込んだ例もある。

 

 食糧難に陥った曹操の軍が、兵糧部隊の責任者を殺して兵の不満を退ける際にも、そうしたやり取りはあったのだから、並べて昔から「王」だからと、全てを一存だけでは決められなかったのだ。

 

 

「ということは、だ……王貴人は、ただの替え玉じゃないのか? 魔術的な影武者……」

 

「正解だ。達也……蘇妲己と言えばあのキツネと同列視―――多分、同一の魂なんだろうけど、その蘇妲己が、己に掛けられる『呪詛』を避けるためだけに、『石琵琶』を人間にしたんだろうな」

 

 殷周伝説。中国の演義で言う所の『封神演義』において、仙人たちの敵対者に対する殺害方法は、概ね『呪詛』の類が多すぎる。

 

 これは、仙人が直接的な戦闘で相手を殺害することは、『穢れ』であるという象徴でもある。無論、演義である以上、事実とは異なる点は多いはず。

 

 だが、それでも呪詛に代表される間接的殺害魔術の多くは、中国の陰陽思想に根差したものが多いのだ。

 

 

「実際、太公望こと姜族の頭領の家系……姜子牙によって、王貴人は『呪殺』された後に石琵琶に戻されたわけだ。

 太公望の目的を考えれば、最大のターゲットは妲己である以上、王貴人は―――『身代わり』にされたと考えるのが筋だろうさ」

 

 身代わり―――何とも不穏な言葉である。もっとも名代として采配を振るうこともある以上、能力的なものも付与されていると見るのが筋だ。

 

 

「そんなものなのでしょうか? 戦姫殿?」

 

 誰の事を指すのか今一分からぬ十文字先輩の名指し……有体に言えば、なんかこの人は相手を呼称する時に畏まった名で呼ぶことが多く、若干混乱してしまうこともある。

 

 とはいえ、戦姫―――と来れば該当するのは、上半身を甲冑で覆いつつも白の陣羽織……とも言い切れぬ、着物らしきもので戦化粧をした八華のランサーだけだ。

 

「そんなものです。『壁のお人』、アレですよ。私が主に『5回』は対峙しあった戦国武将なんて、影武者として弟を立てたり、その他にも多くの影武者を謁見の場で応対させたりしていましたからね。

 自分の死は「三年隠せ」なんて言い残しても、私なんて十日ぐらいで知ってましたからね―――……ったく、死ぬならば私に討たれてこそでしょうに」

 

 語るに落ちたというべきか、その言葉だけで『真名』はおおよそ判断出来る面子。魔法師は確かに、ヒストリエという意味合いを『一般教養』的にしか納めていないが、それでも有名すぎる武将のエピソードぐらいは知っているだろう。

 

 ぶっちゃけ現在の映画館(シアター)の上映作品にも、彼女をモチーフとしたものがあるのだから。そんな少しだけ寂しげに見えて、実はただ単に『首獲りたかった』だけなんじゃないかと思うランサーの異常性を、刹那とリーナは垣間見るのだった。

 

 

「常在戦場が、日常の時代。人の命は『刹那』のごとし―――。そんな時代だからこそ、影武者、身代わりというものは多かった。

 道半ばで倒れるわけにはいかぬ、一国の領主たちは、様々なことを講じてきたのです」

 

 だが、最終的にそんな時代を完全に終わらせたのは、結果的には信玄の死地となった場所を収める大名だった。

 

 

 ……松平なのか徳川なのかにもよるが、『神君』を呼びだせば、『オールキュア』(全治癒術)の宝具でも持ってくるのだろうか……。

 

 蛇足で変な思考を終えると、ランサーのサーヴァントは自分と契約下にあると言っておく。

 

 

「……俺が言うのもなんだが、お前も大概無茶をするよな……」

 

「『道』を見つけたならば、そこを辿る―――魔術師界のシートン先生と呼んでくれ」

 

「本物のE・T・シートンが聞いたらどう思うやら。まぁいい。言わずとも分かっていると思うが、不用意な霊体化の解除はやめてくれよ。なんせ君の身体は、様々な意味で魔法師たちの垂涎の的だ。

 裸にひん剥いて、秘密の一つや二つ知りたいと思う輩はいるだろうからね」

 

「何をおっしゃるダ・ヴィンチ『大老』。私など、影武者も身代わりもいない―――私を縛りあげる鎖を用立てられるとは思えませんよ」

 

 

 事実、ランサーの戦闘力は大したものだ。神代の時代が過ぎ去りし時代……『魔王』という存在が神仏を凌駕して、『天魔』の限りで以て『人の時代』を日ノ本にもたらしたというのに―――。

 

 

(ランサーのステータスは、軒並みAランクだ……まるで最優のセイバー並なのは――――)

 

 

 やはり俺の魔術師としての位階が高いからか。それとも自分に流れる武士の血ゆえか……どちらにせよ――――。

 

 

「ランサークラスを手繰ったがゆえに負けた、教室の祖たる「ケイネス・エルメロイ」、俺の闘技の師「バゼット・フラガ」の汚名は―――俺が濯ぐ!」

 

「言っちゃなんだけどケイネス氏は、どうやっても死んでいたかな――。だって彼死なないと、『結果』に行き着かないもの」

 

 

 ライネスさんの如き無情な一言を発するダ・ヴィンチ。その片方では、リーナと深雪が話し合っていた。

 

 

「それにしてもリーナ大丈夫なの? 家の中に、もう一人こんな美人を入れてしまって、いくら高位の使い魔―――俄かには信じられないのだけど、あんな様(現身化)を見せられてはね……」

 

「ノープロブレム……まぁ何ていうか、ワタシ的には、美人を生活の中に入れたというよりも……」

 

「よりも?」

 

 言葉の続きを促す深雪の表情が怪訝にならざるをえない、リーナの疲れたような顔から発せられる言葉は―――。

 

 

「ビッグなキャットがやって来たような気分だわ。トイレの躾が一番、ストレスを感じたもの……」

 

「失礼な! ちゃんと「うおしゅれっと」とやらは、習得できましたよ! 私はちゃんと粗相を流せる女です! 馬に垂らした松平とは違いますよ! リーナのように片付けできない女でもありません」

 

「違うわよ! アレは着ているものを拾って道順にやってきたセツナを釣り上げて、寝台に入り込むワタシの策略よ!」

 

 そんなんで釣られるわけあるかい。などと言ってやりたいが、それ以上に驚くのは、深雪の『しまった! その手があったか!!』などと言わんばかりの顔で、ツッコミを入れるのを中断せざるを得なかった。

 

 

「という訳で、事情説明はそのぐらいでいいですかね?」

 

「ああ、俺としては、それぐらいで十分だ。七草もいいか?」

 

「まぁ納得できないところとかはあるけど、今は論文コンペを心置きなく、安堵して行えるように徹するのが重要だもの―――無理だろうけど」

 

 

 十師族の子息・子女があきらめるぐらいにはとびっきりに厭なニュースが入ってきたものだ。何を目的にしてのものかは分からない。

 

 だが―――警察機関を力で黙らせることも辞さないその考えの終局は―――何となく『目に見えていた』のだった……。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。