魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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恐らくアトランティスから出てくるだろう海洋系の英霊。

うん―――お前かーい!(笑)イアソンが出てくることは、若干予想していた。

だが、まさかの「ぱっぴー」さんが担当。いやぁ保志さんと言えば主役級の有名どころなキャラが多いし、私の印象では、シンフォギアの忍びマネージャー、Phantomのインテリヤクザと落ち着いた役やってるような気がしていたが……。

うん、情けない役どころも早口と同じく保志さんの真骨頂だな。

ミサヤの水樹さんに続きリオの保志さんも出演のFGOは、破竹の勢いですねぇ(ごますり)

長々とした前書き、失礼しながらも新話どうぞ。


第132話『遠坂刹那の溜息』

 

 

 八雲との会話を終えて数日間……事態は刹那向きというよりも、自分向きなものばかりになってしまった。

 

 

 ホームサーバーへのクラック。購買に行った際のスクーターによる襲撃。

 

 全てが刹那向きではないが、少しだけ不穏なものを感じさせていた。その間、刹那が何をやっていたか……と言えば、まぁいつも通りではあった。

 

 ただ、そのいつも通りの中に小学生高学年程度の幼児がいることが、少しだけ怪訝さを覚えさせた。

 

 それは達也も知っている在日華僑の女の子―――五番町飯店の孫娘であった。エルメロイレッスンを見に来る面子の中では最年少かもしれない。

 

 若干オープンな講座だからこそのフリーではあるが、かなり構われていることに少しだけ怪訝な視線もあったが、まぁ些事である。

 

 

 そうして、論文コンペに提出する理論の実証実験日に至ったわけであるが……。

 

 

「刹那哥々(にいさん)、これでいいですか?」

 

「ああ、上出来上出来。んじゃ蒸そうか」

 

「是!」

 

 などと、屋外で一緒に饅頭を蒸すリーレイの姿があったりするのだった。その横では金と銀の金属ゴーレムメイドたちが、忙しなく動いて給仕係をせっせと行ってくれていた。

 

 達也とてあまり言いたくないのだが……カオスであった。

 

 ともあれ、屋外で饅頭を蒸すという実験に支障はないのかという刹那の懸念を払しょくするかのように、達也は海鮮饅頭を喰らい、そして実験科目に対する全ての事項を高速でこなすのだった。

 

 

「リーレイちゃんか。何だか、すごい魔法道具を使っているね」

 

「あれを使って車に擬態させたり、船に変化させたり―――まぁターミネーター2のT-100○ですからね」

 

「伏字の意味が無いなぁ」

 

 体表の色を完全に変えることは出来ない辺りは、若干の限界もあるだろうが……。

 

 実験器具の建付けを確認していた五十里啓が、そんな風に言ってきた。それ以上に……何というか―――。

 

 

「あいつの場合、何でか知らないが、年下の子に好かれるんですよね」

 

 南盾島でのわたつみ達のことを考えるに、最終的に、九亜にも四亜にも少し怖がられるばかりだった達也としては、何か言い知れぬものがある。

 

「嫉妬?」

 

「流石に俺だけ怖がられていれば、少しは」

 

「達也君の場合、リアリズムでニヒリズムな考えで発言すること多いし、まぁ何かね―――これ以上は言わないでおくよ」

 

「語るに落ちてます」

 

 五十里のフォローにならないフォローを受けつつも、最近のことから用心だけは怠らない。

 

 そもそもリーレイも容疑者であることは間違いないのだ。―――スクーターに関しては別口だろうが。

 水蜜桃を利用した桃饅頭を食べる五十里の作業効率もアップしていき、全ての実験は成功に終わった。理系畑ではないエリカの茶々入れがありつつも、概ね成功に終わった。

 

 拍手喝さいが降り立ち、イベント終了の体であった時に、何かに気付いたらしき面子を見たが、その前に刹那が、リーレイと内緒話をしていた。

 

「アレが―――『チョウ』の手先?」

 

「かもしれない。捕えてみるかい?」

 

是啊(うん)、おじい様を戦場に戻すのは許せない」

 

「ならばやってしまえ」

 

 その言葉を受けて、リーレイは銀と金を前面に置いて、下知を飛ばした。

 

「トリムマウ!」

 

 呪文なのか『名前』なのか分からぬが、その言葉で壬生、桐原、そしてその後を追っていったエリカ、レオを追い越して、銀と金の柱が幾つも伸びていく。

 

 スライムのようなぶよぶよとした粘液の塊―――先程まで食べていた饅頭のような形状を取った銀と金が、その身体から直立し、硬度を保った棘とも柱ともいえるものを伸ばしていたのだ。

 

 そして―――パスワードブレイカーを持ち、逃げて行った生徒の一人が明らかに、動揺している。

 

 既にこちらからは見えないのだが、達也の眼は尋常ではなく、単発式のスプリングダーツを放った様子まで見えていた。

 袖口に仕掛けられたそれは正しく奇襲となっただろう。神経ガス込みのダーツを撃ち落とされることと、閃光弾まで持っていたことを考えれば―――。

 

 だが、それは追って来たのが人間であればの話しであり、まさかただの―――否、恐るべき魔術礼装の触手であるなど埒外だったろう。

 

 触手は自由自在な変形と硬度の変質を以て、下手人たる女生徒を『檻』の中に閉じ込めたようだ。

 

「ウボァー……などと叫んでおります。お嬢様、下手人はどうなさいますか?」

 

 遠隔操作で触手を操っていた金というゴーレムが、畏まった調子で口(?)を開く。そしてウボァーとはレトロすぎる叫びである。

 

「連れてきて。どちらにせよ、あんなもの持ち込むのは校則違反―――ですよね?」

 

「「「いぐざくとりー」」」

 

 なんだか魔法科高校に対する認識が著しく下がっているようなリーレイの、不安げな言葉に即答する。

 即答しながら考えるに、刹那はこの事態を予想していたように見える。

 

 達也のそんな疑念とは別に、スライムゴーレムが連れてきた下手人。壬生が気付き、桐原がフォローしようとして、昨日、お節介焼きの工作員から警告を受けていたエリカとレオが取り押さえようとした人間。

 

 同時に―――達也や五十里を学外で襲った『女子生徒』。まぁ、五十里先輩のような女顔という線も捨てきれなかった下手人の尊顔は―――。

 

 

 生徒会長選挙の際に、前・会長(七草真由美)現・会長(中条あずさ)―――更に言えば現・外務担当兼給仕係(遠坂 刹那)である三人に噛みついた女子生徒。

 

 三年の一科生『浅野 真澄』が、ぐったりした様子で、そこにいたのだった……。

 

 ・

 ・

 ・

 

 神経ガスを芯弾に込められていたダーツは、正確無比を以て、銀と金の『鞭』で浅野先輩に返されていたのだった。

 

 軟鞭術に長けた『功』の限りを覚えていたがゆえの手際。それに対して、浅野は魔法に関しては確かにそれ相応。流石は一科生だったが、高速で撃ち出したダーツをそれ以上の速度で撃ち返す『体術』『外家拳』の技に抗する技量は無かった。

 

 要は、魔法技術は大したものだったが、CADも無い上に、体術の心得なくば、直撃した段階でそうなるのだった。

 

 

「まぁ不可抗力というか何というか、そんな感じで、リーレイがやらなければ、真っ先にガスを吸い込んでいたのは、木刀持っている桐原先輩か壬生先輩でしたよ」

 

「だよな……けれど、お前、浅野さんがよろしくないことしているって良く分かったな?」

 

「色々と情報源があるもので―――まぁ今回は『使い魔』の『訓練』をさせている時に、偶然にもというところだったんですけどね」

 

 使い魔―――自分や五十里が論文コンペの準備をしている間にも、当たり前の如くエルメロイレッスンはあったわけで、その中でも『使役術』の講座が開かれた日が、その日だったのである。

 

 

「高度な使い魔を操ったものだな。俺は何も気付かなかったぞ」

 

「アタシだって気付けなかったわよ!!」

 

「花音、張り合う所が違うよ―――それじゃ、その時のパペット、ファミリアなんかの授業で僕たちは尾けられていたのか……」

 

 全員が全員というわけではない。一種のピーピングにも使えるものだけに、運用は慎重にならざるを得なかった。

 

 そして実技の段になった時点で、ある程度の対象を選定。七草先輩と十文字先輩がいちゃこらしている場面だったり、ロボ研の平河が『これぞマクスウェルの悪魔―――!!!』などと巨大な恐るべき装置を作り上げている場面。はたまた小野先生が『焼き芋』を食って、ブーブー屁をこいている場面。

 

 完全にプライバシーの侵害ではあった。もっともいちゃこら2人は察して―――十文字先輩がため息突きつつ、魔弾を放とうとしたのを『見せつけましょう♪ 私こそが一高のベストカップルなのだと!』とか言って押しとどめて……。

 

 平河に関しては、友達の猫津貝や鳥飼が獲物を見つけたみたいな顔で使い魔を狙おうとしていたが、その前に「待ってろや―――!! 司波達也―――!!!」などと中指を立てる平河の姿を最後に、使い魔の映像は途切れる。

 

「なんでさ」

 

「知らないよ。というか俺の口癖を取るな」

 

 額を押さえる達也に構わず説明すると、その内でも達也をピーピングしたい面子が中心となって、パペットを飛ばしてみていると……。

 

「記録映像媒体を持たせておいて正解だったかな」

 

 言いながら、壁にひし形の結晶を投げつける刹那。砕け散った結晶が、ちょっとした液晶画面を壁に作り上げた。

 

 その画面が出したものは……達也を襲ったスクーター。ナンバーも間違いない。それを使って走り去る浅野先輩の姿を、『真正面』から取った映像が映し出されていたのだ。

 

「深雪と光井に感謝しとけよ。あいつらが、熱心にお前を襲った人間を懸命に撮って、今日にいたるまでカチコミを掛けるのを我慢していたんだから」

 

「ストーキングの成果に感謝とか、とんでもなくないか?」

 

 にべもない達也の発言に、『お兄様!?』『達也さん!?』などと嘆きの声を上げる二人だが、それにしても動機が分からない限りである。

 

 などと思っていると、際どい衣装の保険医―――風紀委員が真っ先に取り締まるべき人妻教師が、手を叩きながら解散を命じてくる。

 

「はいはい。議論と結果報告はそこまで。いまロマン先生がやって来て、治療を行う所だから、皆は保健室から出ていきなさい。

 浅野さんが意識を取り戻したらば、五十里君、千代田さんが来てね。連絡するから」

 

 一部の人間からは巷のキモカワマスコット『ネコアルク』に声が似ていることから、担当声優なのではないかと疑われている安宿怜美(あすかさとみ)保険医がやってきて、自分達はシャットアウトされた。

 

 ともあれ、これ以上は―――どうしようもない話だった。神経ガスを吸い込んで昏睡状態程度になったのは、運が良かったのだろう。

 

 後遺症の類も残らないはず―――。その時はそれだけだった。

 

 

 † † †

 

 

 関本勲なる三年生が、スズ先輩にウザく絡んできたので先生ばりの『解体術』を行って、泣きべそかかせて一週間は家から出られない位に凹ませた。

 

「どちらかといえば、アナタのお母さんが学生時代にやっていたとかいう『コンセツテイネイ』な『説得』にしか思えなかったけどね」

 

「当たり前。魔法の技術は広くオープンにして公開する一方で、知ろうとする想いや人を遠ざけるなんてことは、ただの『意地腐れ』じゃないか」

 

 もっとも、基礎理論の研究を推し進めるべきという考えは間違いではない。この世界の術式は、結果を再現することだけに熱を上げて、それが『どうしてそうなるのか』を失念している。

 

 魔術ならば、基本的には『なんでもあり』。時にそこに理屈や理論とは別種の『そうだから、そうなる』という理屈ではないものもある。

 だが最終的に、その『結果』に行き着くという過程での陥穽が多すぎるのだ。

 

 例えるならば、無限の魔力を創出するという『あり得ない理論、結果』に疑問を抱いた時に、そこには『子供』を生贄に捧げているというものもあるのだ。

 

 やっている側からすれば、1人の幼子の命1つで『千人、万人』が救われるならば、などというふざけた『屁理屈』を捏ねまわすだろうが、その是非はともかくとして、『巨大なものを作る』ということは、そういった風な『落とし穴』が存在しているのだ。

 

「成程な……結構鋭いんだな―――舌鋒も視点も」

 

「どんなことだって、そういうのは必要だろ。現代魔法は確かに、物凄い威力の術を、数秒か秒以下で放てるようにはなった」

 

 汎用型CADを操作している時の『スキ』を、どう捉えるかはともかくとして……。

 

 最終的には『古式魔法』で出していた力を、結果だけで再現したとするならば、それはお座成りな考えである。

 

 

「達也みたいな技術者には、釈迦に説法だろうが、技術の原理や基礎データは掛け替えのないものだ。それらは永遠に有用なものだからな」

 

「魔法を工業製品も同然に語るお前に、俺は驚きっぱなしだよ……だが、どんな物でもそういう物なのかもしれないな」

 

 実際、この手の事に関して魔術協会は一度、『やらかした』ことがあるのだ。

 

 北欧の魔術。ルーン文字を用いた魔術をマイナーであり、且つ中世期よりカバラやゲマトリアなどに傾倒するあまり、貯蔵させていたルーン文字が、完全に死蔵になっていたという経緯がある。

 この話をブルーからゲラゲラ笑いながら聞かされた時に、『そんなカビの生えたような魔術基盤を復活させたのが、ウチのクソ姉なわけよ』

 

 一切の敬意など感じさせない『魔法使い』の様子に、世の中の姉妹も色々あるんだろうと納得してしまった。

 

 

「まぁ、関本さんのことはどうでもいい。リーレイを邪険にした段で俺の腹は決まっていたからな」

 

 疲れたのか、魔導人形たるメイドに交代で抱かれてスヤスヤと眠っているリーレイの寝顔を見ながら、言っておく。

 

「あれが遠坂君の本性だと思うと、僕は何か色々だよ……。ともあれ浅野先輩によれば―――僕たち、というよりも司波君を襲った経緯はこうだ」

 

 頬を掻きながら五十里先輩が、困ったように言った後に事情説明が始まる。

 

 結局の所、あの生徒会長選挙の際の態度と同じく、一科二科の区切りが重要だったようだ。彼女は―――確かに魔法科高校の区切りで言えば一科生ではあった。

 

 そもそも、この学校に入学出来た時点でエリートだと思えるのだが、その中でも選ばれた一科生であるというのは、彼女の自信に繋がっていた。

 

 そう。例え、九校戦に出場出来なくても、論文コンペに参加出来なくても、何か特殊なタレント(才能・技能)を持ち、魔法競技でもそこまで『優秀』でなくても……。

 

 

「……『下』がいるということが、彼女を一科生として『立脚』させていた、か」

 

「ヒドイ話ですよね。けれど―――今の三年生は『上』が遠すぎたから、そういう意識が強かったんでしょうか?」

 

 幹比古と美月の指摘。

 

 今の三年生には、十師族の子息子女、百家の関係者、そして生え抜きの連中も多い中……そこに混ざれないが、己も彼らと同じ一科生であるという意識。

 多数派。有力派閥であるという意識が―――そうしたものを醸造していた。古いワインの底にたまる澱のように……。

 

 とはいえ、そんなある種の妥協した生き方が続けられる事態とはならなかった……最終学年になったこの年に、全ては変わった。

 

「だけど、そこに昨今の一高改革……巷では『古くも新しき時代を告げる鐘の音』(ニューエイジ・ビッグバン)が、一科の生徒達を焦らせた。

 もちろん、一科生達にも有用なことは多かったし、術式の熟達にも応用できた……僕もルーン魔術というものが、ここまで幅広く刻印を『深化』させるなんてびっくりだったから」

 

「巷で、そんな風に言われてるんですか?」

 

「ゴメン……()って言った。けれど一高では定着しつつあるんだよ。OB・OGの人達もそんな風に言って来てるし」

 

 五十里先輩の片目を瞑って舌を出すなどという高等技術。そこまで言われて、『何で』司波達也が狙われたのかが分からない。

 

 狙うならば、エルメロイレッスンの主催たる刹那だろうに。

 

「そこからが浅野先輩の屈折した所よ……結局、そう言う風に伸びてきた二科の中でも、司波君は更に異質に映ったらしいのよ。

 四月の風紀委員会でのこと、八王子クライシスでの戦いぶり、九校戦におけるエンジニアとしての八面六臂の活躍に、モノリス・コードでの十師族の打破」

 

 最終的にはCAD無しでもクリムゾン・プリンスを打破した手際が、彼女にはいっそう異質に見えたのだろう……。

 

 魔法発動速度が遅いからこその『二科』であるという前提を覆す―――それ以外で伸びる二科生とも違う―――正しく現代魔法師として『上位』の存在を見て……。

 

 

「今回のことになったと、歪んでますねぇ」

 

「ウレシソウに言わない―――理屈じゃどうしようもない感情(エモーション)の動きが、タツヤに瑕疵(キズ)を与えたいという動機に繋がった、と」

 

 リーナに耳を抓られて、軽率な発言だったかな。と思うも、それだけやはり司波達也は異質な存在にしか見えないのだろう。

 

「……変な表現だけど、浅野さんは一科の『劣等生』なのかもしれない……やっぱり誰しも、スポットライトを浴びた存在になりたいから、ね」

 

 そして、浴びている存在がどうしようもなく妬ましいならば、何かしらの『失墜』を求める……。

 

 これがもしも二科にいる生徒ならば、同級、上級だろうと、光井はリーレイを起こすような大声を上げていたかもしれないが……。

 

 俯いて考え込むような態度であり、色々な考えが渦巻いているのだろう。

 

 

「……結局、生き方が―――どうしようもなく不器用だったんだろう。刹那が前に言っていたことを半分借りるならば、『何もかもを放り投げて、妥協と堕落で生きていくこと』が出来ない人なんだろうな……」

 

 そんなこと言ったかな? という達也への疑問を刹那は覚えつつも、一科の代表のつもりか、何か感じることがあったのか、千代田委員長が神妙な様子で口を開く。

 

「それは、仕方ないわね……私も陸上競技で短距離走の選手だけど、ここ(一高)では一番速いけど……都大会に行っただけで、周りのレベルの高さに『そうしなければならない』。

 走ることは、駆け抜けることは……魔法以上に大好きだったけど、好きなものでは一番になれない。トップクラスの選手になれないことを知った時に、悔しさが出て来た……なんでこんなに努力しているのに、私の脚は速くならないんだろうって」

 

 それでも千代田花音は、陸上競技から『逃げる』ことをしなかった。少なくとも魔法競技で自分の特性を活かせたとしても。

 例え、都大会で光を浴びる『臙条 巴』というオリンピック確実のスプリンターがいたとしても……。

 

 逃げずに挑戦したのである。五十里先輩が、千代田先輩の頭をそっと抱き寄せる……砂を吐きそうな場面を見たとしても―――。

 

 だが、それにしてもまだ疑問は尽きないだろう。

 

 ホワイダニット(どうしてやったか?)フーダニット(だれがやったか)は証明された。だが、ハウダニット……どのようにしてやったかが解明されていない。

 

 神経ガス含めてのダーツ、液体燃料ロケットなんて『物騒』極まるものを、『どこで調達』したか、という疑問は彼方に消えたようだ。

 

 そして、その疑問に対する答えを―――刹那とリーナは持っていた。持っていたからこそ、歩いていると見えてきたトランスポートにて、コミューターを呼びだして横浜への道を登録した。

 

 

「んじゃこの辺でお別れだな。リーレイを送りに横浜駅まで行ってくるよ」

 

「ああ。劉師傅に『海鮮乾貨』、ごちそう様でしたと言っておいてくれ」

 

「了解」

 

「「本日のお嬢様の相手―――ありがとうございました」」

 

 畏まった一礼をしてからリーレイをリーナに預けた金と銀の金属ゴーレムは、スライムのような形状になり、無人の交通システム、その荷物入れに勝手知ったる風で入った。

 

 そうして達也たちと別れた三人だが、ここまであからさまな工作活動をしてくるなんて、予想外だった。

 

 力押しで来るならば、それ相応の力で対処できるが…………。

 

(軍略とは、そんなものです―――相手を十全の状態で動かさせないために、硬軟織り交ぜて掛かってくる―――)

 

 今日の演習場で渡辺摩利、十文字克人を叩きのめして、訓練してみせたランサーの声が響き、苦笑する。

 

 人生とは戦いの連続。人は死ぬまで誰しも幸福な人間だとは言えない―――全てを終えるまでは気を抜かず、謹んで生きていかなければならないのだから。

 

「どーも俺の周りには、一度本気で決着をつけにゃならん連中が集まるらしいな……」

 

「要するに―――『類は(フレンド)を呼ぶ』ってことよね? 安心して、ワタシもその一人♪」

 

 あんまりにあんまりなリーナの結論だが、人生などそんなものでしかなくて……どうしようもなく自分の左手を擦るその手の柔らかさに、安らいでしまうのは隠せなかった。

 


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