魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
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「なるほどこいつは素晴らしい!! 流石は魔法使いの杖!! そこにシビれる!あこがれるゥ!」
『アビゲイル、君の理論も大したものだ!! これこそ人類の夜明けだよ!! 人間賛歌は勇気の賛歌!!』
呼ばれた部屋にやってきた刹那とリーナの目の前には、刹那の眼からすれば随分と発達したパソコンを操って何かの調整を行っている科学者と空飛ぶ杖の先。
科学者が昂揚するごとに火花があちこちで散る。何かの溶接作業かよ。と思いながら眺めていたが……。
おかしな話ではあるが、目の前の作業風景を見ていると、大河おばちゃん(ヤング)と『見知らぬロリっ子』が、親父の両腕をガトリングガンに改造しているものを『思い出す』。
まずは脳改造からすべきである。
虎ッカー(?)最大の敗因は最強の敵を自らの手で作り出したことにあり―――などなど考えつつ、刹那の両腕もまた『ガトリングガン』から『ショットガン』までなんでもござれであったりする。
そんなわけで丸い輪っかに星の顔(?)腕部分に相当する羽を使って、色々やっているオニキスと赤毛の科学者の少女を見ていた刹那。
母親ほどではないが、それでも機械に明るくない刹那には分からぬが、まぁともかく―――この状況は一言で言えば―――。
「なんでさ」
日本語だったからか、リーナは不思議そうな顔をしていた。一応片言ながらも、日本語も使えるそうだが、彼女の耳には『NANDESA』とか、何かの機関の名前のように聞こえたとかなんとか―――。
ともあれ、刹那はこうなった原因、顛末を思い出す。それは―――。ヴァージニア・バランス大佐との交渉から三日経った現在日時の昼間辺りのことだった。
† † † †
今日も今日とてリーナ先生の教導の元、この世界の歴史から一般教養。ついでに言えば、この世界の魔法理論を叩き込まれつつも、時折基地内に併設されたPX(Post Exchange)―――スーパーマーケットで必要な材料を買ってきて、スイーツを作ることで機嫌をとっていたのだが……。
「「博士(オニキス)の様子を見てこい?」」
「ええ、まぁ最初は私が行こうと思っていたのですが―――」
そういって小さい端末。恐らく音声を記録するタイプのものだろうを前に出してきたシルヴィア少尉は、それを再生して事態を説明してきた。
『我がUSNAの科学力は世界一ィイイイイイイイ!!!』
『生きているならば―――水晶大蜘蛛だって殺して見せる!!』
その二言が永遠にリピートされていた。とりあえずオニキスのは無理だ。アレは『死の概念』ないから。
だが、もしかして―――件の言葉だけではあるが、会話をした博士の開発品とやらならば―――。まぁとりあえず、困惑しきってこめかみを抑えているシルヴィア少尉の心労ぐらいは取り払わなければいけないだろう。
「そう言えば、大佐との会合以来見ていなかったな―――そのアビゲイル・ステューアットなる科学者先生の所に行っているのは間違いないでしょうが」
「ええ、本来ならばこのフェニックス基地ではなく、ロズウェルの『本部』で開発したかったのですが、どうにもここを気に入ってしまって……」
「ご迷惑お掛けします」
天才二人が組み合わさると、こんなことになるのかい。もはや天災であろうと思える。ともあれ、リーナ専用の
「ワタシも行くわよ。流石に実物がどんなものになるのかぐらいは知りたいもの」
「それではお願いしますか」
シルヴィアの先導を受けて部屋の外に出る。軍隊候補生の寮というのは21世紀に生きていた時代とあまり変わらないかと思っていたが、魔法師が特殊なのかそれともアメリカ全体がそうなのか―――ともあれ、四人以上の共同部屋生活などといったことは、とりあえず無い。
リーナの部屋に居候させてもらいつつも、他の所を見るとそんな感じであった。
無論、王国制や貴族制の国家と違って民主政体の兵士たちというのは、それ自体が『選挙権と被選挙権』を持った『有権者』なのだから、これを無下に扱うことが、いずれは兵士の遺族会や退役軍人たちを激怒させて更に言えば人権団体がくっつけば面倒である。
だからこそでもあるが、同時に言い知れぬ『何か』を感じる。それは―――時計塔の
(ここは―――『檻』なのか)
疑問に対して端的にそんな感想と結論が出ながらも、このスターズ候補生の基地における研究棟はすぐに分かった。
なんせ人だかりが出来ていた。その人だかりの中心から――――。
『WRYYYYYYYYY!!!』
などとどこの吸血鬼がいるのやらな声が響いていたのだから……。
「あー……事態の解決に来ました。セツナ・トオサカです。とりあえず退いてくれると嬉しいです」
「同じくアンジェリーナ・シールズです。すみませんが、そこを通してください」
そう言われて研究者らしき人々が道を開けてくれた。その際に―――。
「あれが異世界の魔法使い……」
「どんな相手も拳一発でノックダウンのワンパ〇マン!」
「新ソ連の浮遊戦艦すらも消滅させた宇宙戦艦ヤマ〇!」
「人類を革新へと導くイノベイター!!」
もはや途中から評価が人間の枠外になってきたものだ。別に波動エンジンは積んでいない。似たようなものは用意できるかもしれないが。
ク〇ンタムバーストじみたことならば出来るかもしれないが―――まぁやる必要はない。
などと歩みを進めていくと見知った顔。栗毛のアジア人系の女性が緊張した表情をしていた。
「こ、こちらです! しょ少尉! 特務大尉ぃ!!」
「ど、どうもです。ミス・ホンゴウ……」
なんか苦手だなぁと思えるぐらいに恐縮しまくっている研究員である。この数日だけでも関わったことがあるミカエラ・ホンゴウという日系何世かは分からぬ人から少しの案内をされる。
「ロックはされていないのか……」
「それじゃ入るわよ。こういうの日本では、『
喜色満面でお化け屋敷にでも楽しげに入る気分だろうリーナ。
あんまりいい意味合いじゃないよ。と言いつつ、電子ロックなどされていない部屋の中に入ると同時に見えてきた光景が冒頭のことであった。
そして現在……。
「むむっ! どうやら当事者たちが来てくれたようだ。こうして会うのは初めましてだね。セツナ君。私がアビゲイル・ステューアットだ。よろしく」
改造人間(?)の処理を終えたのか、ようやく気付いたのか振り向いた高校生ぐらいの少女が向かってきた。
その姿は赤毛のショートヘアーとラフなシャツとパンツの上に羽織白衣―――如何にもヤンキーの科学者にありがちな格好に思えた。
だが格式を重視しない「天才」というのは、こういうのを言うのかもしれない。
シェイクハンズをしてから、リーナと共に、虎ッカー最高傑作(?)の前へと誘導される。
「ところでセツナくん。ブリオネイクという器物が『神話』においてどういうものなのか分かるかな?」
「ブリオネイクという言語の『綴り』から察するに、魔神の一族の長『フォモール』の孫にして、魔神族に対抗したダーナ神族の光神ルーの持つ神器
「PERFECTS! すばらしい!!」
アメリカ人らしい大仰な仕草と言葉で感激を示してくるアビゲイル博士に若干、気圧されつつも、未だに微調整を行っているオニキスの近くまで行く。
「リーナ専用のCAD―――君達風に言えば礼装、コードキャストとも言える『ブリオネイク』の開発と局地戦でも『ヘヴィ・メタル・バースト』を使えるようにという軍の要求はかなり酷だったよ。鬼か!? デスマーチ指揮者め!!などと呪詛を吐いていたが、あんがい早く済むものだ」
『私が持つ『未来の魔術理論』とアビーの実験力、その二つが合わさった時に、ブレーザーカノン並のパワーが生まれる』
「ああ、私が大地のエネルギーを担当して、オニキスが宇宙のミラクルパワーを集めるんだね―――」
ウチのオニキス強すぎね。つーか、どこのバイクロッサーだよ!? 内心でのみツッコんでから手術室の台にも似た場所へと赴くとそこには……。
およそこの世界での礼装―――CADというには、あまりにも実用的でないものが、そこにあった。
「え……これがブリオネイク……ヘヴィ・メタル・バーストを使うためのCADですか―――え…ええええっ……」
「なんでこんな風にしちゃうかなぁ。つーかこの『宝石』、オニキスお前これ……!」
『なんといってもリーナ嬢は『シリウス』だからね。キミだって
リーナのブリオネイク―――本来ならばカービン銃のような小銃とでも言えばいいものだったろうものは、原型はどこにいったのかと思うほどに、それは―――『星』であった。
「稀代の天才『レオナルド・ダ・ヴィンチ』が考案せし星型八面体―――通称『ダ・ヴィンチの星』、この星はあらゆる意味で不可解な意味合いを持つことで知られている数学的にも稀な図形だ」
『キミのヘヴィ・メタル・バースト、単純な威力だけならば無限にも広がりえる力だ。しかしながらこいつを限定地域に押しとどめた威力にするとなると術者にかなりの負担がかかる』
確かにあれは、物凄い威力だった。単純に着弾地点にある『金属』がとんでもないものであればあるほど威力を増す。
重金属にある電子だか陽子だか―――一種の大容量エネルギー、極大プラズマを解き放つ術式。
基本的に刹那の魔術特性は『流動』と『固着』にあって、爆心地点にある金属のプラズマを『うんぬん』しつつ威力をとどめて一気に解放。
出来なくもないが『めんどくさいな』。と思うのである。
それだったら単純に―――『破壊』の為の魔力に切り替えて、『寝た子』を起こした方がいいだけだ。
『ブルー』ほど上手くはいかないだろうが、刹那とて『魔弾』の術ぐらいは持っているのだ……。
などなど無駄なことを考えつつも、その星を頭に象嵌されたステッキは―――まさしく魔法の杖であり―――リーナが手に持った瞬間。思った通りの形になった。
その場合、ダ・ヴィンチの星―――こと刹那にとっても『とっておき』だった『星』晶石が、『意匠』として様々なところに現れる。
アサルトカービンであれば、その色は無機質な鋼色ではなく、煌びやかな虹色にも似たものを銃口から銃把に至るまでをカラーリングする。
「形状変化に物質変換―――様々あるが、これだけでスペックオーバーじゃないか?」
『私なりにリーナ嬢の『魔術特性』を調べさせてもらったが、『変化』と『放出』―――彼女にとって己を変化させる以上に、物質を変化させることも不可能な領域ではないんだろうね』
パレードという一種の『変装』『変身』の術を見させてもらったが、なるほどと思えるものだった。
人間の能力としては中々に極まったものである。世の中には―――まぁ色々と己を変えられる人間もいる。有名どころは―――。
『まぁ安珍・清姫伝説のように―――彼女が『大蛇』に『変化』して追ってこないように気を付けるんだね』
「俺がそこまで執着されるような色男になれる自信は無いな」
安珍和尚は本当に色男だった。そうでなければ、当時の世俗的な恋愛観であるが、色恋も分からぬ姫君が夢中になるわけがない。
時代は少し進ませたとしても、織田家嫡子『織田信忠』と武田家六女『松姫』のようにもう少し穏やかな恋愛をしてもらいたい。
『いや文通で愛を育むのが穏やかな恋愛って、どんだけ純なんだよ……しかも結局一度も会えてないじゃないか』
「的確なツッコミどうも、ついでに言えばなんで星晶石を使ったんだよ?」
『使わずにいるのはもったいないね。仮に―――『遠坂家』にとって『意味』がある『宝石』だとしても、だ』
頭が痛い。貴重な宝石以上に―――それは色んな意味がある『宝石』だからだ。
五属性混合の『混沌』に至る前の『虹』を込めた石は……。
(これを刹那が刹那自身のために使うならば、ただの強力な『宝石』、けれどこれをもしも他の誰か―――そうね。例えば大好きな女の子に送る時は良く考えなさい。あんたのお祖父ちゃんもお祖母ちゃんに――――)
母の言いつけを思い出す。思い出してから―――嘆息一つ。
そうすると悪い事をしたと思っているのかリーナが不安な顔をしていた。
「セツナ―――この綺麗な宝石は使っちゃダメだったのかな……?」
「―――いや、オニキスが勝手に使ったのはどうかと思うが、まぁ俺も―――この場にいれば、これが有用だと思っていただろうからな。気にするな。ちょっとだけお袋の『言いつけ』を杓子定規に守り過ぎていた俺が悪いんだ」
「お母さんの?」
「死んでしまったからね。大事にしておくことで『本質』を見誤っていたかもな」
刹那としては、確かに宝石魔術は得意である。流石に200年の歴史で培ったものは、刹那に付属した刻印からも当然の事象である。
だが……その一方で、少しだけ好きになれない所もあるのだ。
こんな事を言えば大師父からは大笑いされるか、大笑いされるか―――ああ、やっぱり笑われるしかないかなぁなどもある。
「宝石は本来ならば装飾品なんだよな。誰かを飾ったり、何かの美しさを引き立てたり、そのままでいられたならば美しさが、輝き後世にも残っているはず―――そのはずなんだが……こうして魔術という『呪い』を掛けられた石にはいずれ砕け散るという道しかない」
そんな風に感じるのは、自分にとって失うだけの人生しか送れてこなかったからだろうか。だから何時ごろからか―――宝石に関しては出来るだけ『長持ち』するようにしてきた。
防御の為の護符や結界などに使うのは、割りと燃費はいいのだが―――。
「セツナって時々、詩人よね―――私を口説いてるの?」
「いや違うけど―――いたいっ! 何で蹴るのさ!?」
魔術師が語る時、そこには何かしかの神秘性やら物事への解釈のあれこれを付け足す時がある。基本的に魔術師は知りたがりの語りたがりが多かったりする。
実際、自分の師は概ねそういうタイプだった。刹那が師よりもものを知らないというのもあるだろうが、まぁそういうことである。
咳払いをしてから、リーナに説明をすることにした。
「と、とにかく―――誰かの役に立つならば、そいつは呪いじゃないな。だから気兼ねしなくていいよ。俺のお袋も誰かのためにこれを使ってあげなさい。って言っていたしな。リーナの役に立つならば、それは遺言違いじゃないからな」
「――――うん。ありがとう。あなたのお母さんにもそう伝えたい」
リーナの頭を撫でながら、そう言うと赤い顔しながら、頬に両手を添えながら恥ずかしそうに言ってくれたことで少しだけ撫でている『左腕』が震えたようにも感じた。
(いい子を見つけたわね。一生大切にしなさいよ)
幻聴でしかないはずなのに、そんな風に言われた気がした。本当に、幻聴なのに母の声が聞こえた気がしたのだ……。
だというのに―――。
「やれやれ局所的な温暖化がこの部屋にやって来ているようだ。実にアツい!!」
『全くその通りだね。熱源はドコダ―?』
ワザとらしくキンキンに冷えたドリンクを飲みながらアビゲイルとオニキスが言ってくる。おまけにビーチチェアをどっからか出してそこに寝そべりながらである。
『クソが!』などと冷やかしの茶化しに返したいところではあるが、そんな中―――一応、刹那とリーナが入った時点でロックを掛けた研究室のドアが開けられる。
後ろにいまだに研究員の人々――リーナと先日まで同じだったスターズ候補生もちらほら見受けられるのからベンジャミン・カノープス少佐がやってきた。
「色々と楽しい所、申し訳ないな。こういうことばかりやっていると娘が友達を連れて来たり―――ステディを連れてきた時に空気が読めない父親になってしまいそうで嫌だな……」
『『『『心中お察しいたします』』』』
娘を持つ父親の悲哀というか悲しい背中に全員が色々と思ってから、何用かと尋ねる。すると神妙な面持ちで告げるカノープス少佐。
「USNA参謀本部よりの司令だが―――セツナ・トオサカ特務大尉に、『命令』だ。頼めるかな?」
「いい加減、居候の身分が心苦しかったので―――そろそろ『お仕事』貰えて感謝しますよ」
命令なのに、頼めるか。と聞くものはいないだろう。ただ選択の余地はあった。その事に関しては十分に感謝しておく。
すると不安と少しの期待の眼をしてくるリーナを見て少しだけ宥める必要があった。
「―――セツナ……」
「君は待機。いくら『いずれは』―――とはいえ、今はまだ研修中の身分だろ?」
撫でていた左手をそのままに頭を何度か叩いて心配いらないとしておく。それに対して―――。
「ラ、ラブ臭! いやこれはラブプシオン!!」
「PSYCHEON-TRANS-AM! 通称プランザム!!」
「プシオンのツインドライブを用いてのプランザムバースト!!」
などなど頭が痛くなるようなことを言ってくる周囲の面子に青筋立てながらも、とりあえずカノープス少佐に着いていくことは規定事項だ。
これ以上やっていると離れられそうになる予感を感じてリーナから手を放して踵を返す。
そんな自分の背中に声を掛けてくるリーナ。その声音が本当に心配なものに聞こえて少しだけダメなことをしている気分になる。
「セツナ!! ちゃんと無事に帰って来てね!!」
「―――ああ、あんまり心配しなくていいからちゃんと寝てろよ」
そうして、異世界における本格的な『封印執行』というものに挑むことになる刹那。
リーナにはああ言ったが、実際、この世界の魔法師の津々浦々を全て知っているわけではないだけに、驚くべき使い手がいて窮地に立つぐらいはあるのかな。とも感じる。
如何に本格的な戦闘を行ったスターズが優秀な魔法師とはいえ―――イレギュラーな『一芸特化』『異能持ち』などが、そういったアベレージ以上のモノを突き崩す『ジョーカー』になりえるのだから……。