魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
今話を読んでいただければ、何となく程度には分かります。最初は『北山雫の動揺』とでも思いましたが、まぁどうぞ。
追記 サブタイトルを追加しました。2019年8月8日。
「しくじりましたな。周先生」
「確かに、そして閣下の御懸念は重々理解しているつもりです」
キツネとタヌキの腹の探り合い。品川のとある料亭の一室で、中国人の男三人とが対面しあいながら話したことは、本国の作戦に繋がることであった。
現地の人間を煽ることで、反動主義勢力にするやり方は、いつの時代でも行われてきた『間諜合戦』の一つだ。しかし、相手がこちらの思惑通りに動くとは限らない。
そして相手に応対する相手が、尋常ならざる存在であれば―――呆気ないものだ。
「まさか、劉師傅のお孫さんが『偶然』にも一高にいて、あの『宝石太子』の教えを受けられていた上に、私どもの邪魔をするとは思いませんでしたよ」
大仰に肩をすくめるツーピースのしっかりした身なりの実業家。そんな道化の芝居じみた動作を受けながらも、陳は少しばかり深刻になる。
「……閣下は、我々と袂を分かつおつもりなのか?」
「さて、私も陳閣下の御心を本当に分かっているとは言えませんので、何とも―――人の心とは並べて、水面に広がる波紋のように分からぬものですから」
返された言葉に、陳祥山としては内心で不満を溜め込んでしまう。
「まぁ隠居された『老人』を引っ張りだせば、こうなりましょう。そちらはともかくとして―――身元などを明かしていなかったとはいえ、『少女』の方は、私の方でどうにかしましょう」
「あなたがそう言うのであれば、大丈夫なのでしょう。ただくれぐれも、『万が一』が無いように願いますぞ」
言ってから酒を煽った陳を見ながら、崑崙方院の次席道士―――周公瑾は、『俗物が』と思いながら呼び鈴を鳴らして、陳に『毒酒』を煽ってもらうことにしたのだ。
呼び鈴がなると同時に、日本の料亭には付き物の―――催しの一つを与えておく。
「先生、何が――――」
雅楽の音色が響き、分かっているのに動揺した様子を見せた陳に薄ら笑いを見せながらも、日本の豪奢な着物を身に纏った―――『桃毛』に『金目』の女が、楚々と座敷に入ってきた。
その入り方は、こちらの意識がそれた一瞬だ。襖を開けた瞬間すら見えなかった……だが、そんなことはどうでも良くなるぐらいに、舞を披露する女に陳は魅了されるのだった。
扇子を使って何かを希うような、仕草一つとってもそれが真に迫ったものであり、全てが終わると同時に―――膝を突いて、頭を下げた女―――。
「周大人より窺っております。本日は、お二方のお相手をさせていただきます――――
拙い面もありましょうが――――ご容赦いただきながら、歓談させてもらいたく、お願いいたします」
頭を上げた『玉藻』と名乗る女性に―――呂剛虎は、完全に『ヤバい女』だと勘付けた。事実、料亭の屋上で警戒をしていたフェイカーが、『……その女は危険。マスター、陳を連れて今すぐ料亭から出るんだ』……などと言ってきた程なのだ。
傾国の美女―――そういう表現が似合いそうな女の登場に、呂は作戦の失敗を予感するのだった。惚けた顔をする陳に歯噛みしつつも、それでも上官である以上は、従うしかないのだった。
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「子供が出来たら、あんな感じなのかしらねー……」
「そういう遠回しな催促を感じる言い方はやめてくれ」
「ダイジョーブ。そう言う時は、『子づくりしましょ』って直接言うから、
とんでもない発言である。小指を立てて満面の笑顔で言うリーナに、逃げ場が無いなぁと改めて思うのだった―――逃げるつもりは毛頭ないのだが。
リーレイを横浜駅で待っていた劉師傅に預けてから、帰ってきて数分後の会話がこれである。話しの流れを引き戻す為にも、劉景徳との会話を想いだす。
「しっかし……大亜の工作員達の狙いが見えないな。ゲリラ作戦を行うにしても半端な戦力だし、かといって、潜入工作員たちばかりを使って起こそうとしている作戦とはなんだ?」
「軍事的観点に立てば、『補給路』『兵站集積所』が必要なはずよね? となれば―――横浜中華街にしかなく、そして『単騎』で『ナパーム』クラスの破壊を起こせるものと来れば、魔法師が大半なんだけどね……」
魔法師の利点とは、結局の所、どれだけ屈強な人間、軍人でも装備・保持できる『火力』に制限があるところを、手荷物程度―――携帯端末一台、銃器型一丁で容易く超越できてしまうことにある。
だが、大亜の魔法師の大半は、未だに実用的とは言いにくい『呪体』で魔法を行使してくる。彼らなりのプライドなのかもしれないが、少なくとも刹那の世界で起きた『湾岸戦争』の後に、軍の近代化を進めた連中の末裔とは思えぬ拙さであった。
「となると……やはり『闇取引』だけでは、フィードバックできないモノを欲しているんだな」
「情報・工学技術・魔法技術……大亜の目的は、魔法工学技術の全て……大それた作戦をやろうとしている割には、何とも面子が……」
「だよなー。やっぱりこういう技術窃盗をするためにはさ、ぱっつんぱっつんのボディと、セクシー&キュートな全身、顔面整形した上で、化粧をこなした上で―――
やはりハニートラップこそが、いつの時代も情報を抜き出す効率のいい作戦なのだ。
そしてこういうことに長けているはずの大亜が、この始末なので――――、そんな無言での追加の思考を続けようとしたのだが、絶対零度の視線を浴びる。
まさか、深雪から二ヴルヘイムでも習ったのかと言わんばかりのその視線を浴びてたじろぐ。たじろぎながらも言葉は続ける。
「もちろん、俺は、そんなものには惑わされないさ、いや―――、一度だけ惑わされたか。ボストンでのことは、今でも覚えているさ。
「んなっ!? だ、だってショウガナイじゃない―――アンジェラのワケワカメな作戦で魔法少女をやった後には、シニカルな表情で海を見つめている
もはや『美少女魔法戦士』という渾名に拘りを無くして、己の姿を『魔法少女』と言ってしまったリーナ。朱くなって恥ずかしがるその様子に、愛を囁いた効果は抜群であった。話を戻すと、そこにランサーは食いつく。
『やはりマスターの言う通り。敵の目的は『略奪』でしょうね。かつて―――忌々しいことですが、堺を抑えたことで、火縄銃を他地域に逃がさなかった織田と同じく、己に無いならば、あるところからいただく―――そういうことですね』
かつては『億円』単位(現代の貨幣価値)で取引していた火縄銃を、安価で大量に(それでも高い)『製造』して手に入れていた、信長及び秀吉が天下を掌中に収めたのも無理はない。
火縄銃そのものは自国で生産できたが、やはり『火薬』『火縄』などは、外国からのが良かったようである。
「つーことは、敵さんの目的は、
『そういうことでしょう。ハルノブもまた、自国の金山が枯渇しつつあるから、今川が弱体すると同時に今川の金山を中心に奪い取っていったほどです』
むしろ現代の歴史研究によれば、織田の奇襲作戦にも実は一枚噛んでいた節があるほどに、『ハルノブ』の権謀術数は恐ろしいものであった。
「センゴク時代のニホンは、やはり凄かったのねー。セツナの実家もそんな感じだったのかしら?」
「詳しい文献こそ無いが、俺の実家の地域事情から察するに、大友家に仕えた武士だと思っているよ。そこまで大仰な家だったかは分からないけど」
隠れキリシタンなどやっていたのだから、その可能性は高い。
「まぁ九州は、
『……人が人を治めるのに必要なのは、義や仁ではなく、ある種……人としての欲望を満たしてあげることなのかもしれませんね。全く以て納得出来ませんけど!!』
霊体化しながらも憤慨するという、ランサーの様子に苦笑する。
人間貧すれば鈍す。だからこそ、衣食住満ち足りて礼節を覚える。それが『出来なかった国』だけに、そういう想いは人一倍強いのだろう。
「さてと、どうしたものかな……せめて、フェイカーさえ排除出来ればいいんだが」
「待っていれば食いつくでしょ。いっちゃなんだけど『面』は割れちゃってるし」
「パレードの効果を強制的に解除する……先生が遭遇したヘファイスティオンの『双子』のサーヴァントも、『強制』の『魔眼』を持っていたからな」
油断は禁物。されど、あちらの動き次第だけだというのは、随分とアレである。だが、備えだけは怠ってはいけない。
「ダ・ヴィンチはロマン先生の所に間借りしてるから、ふらっと帰ってくるときは杖の姿だし―――少し工房の『レベル』を上げておくか?」
「侵入される?」
「可能性は無きにしもあらずだ。達也のホームサーバーへのクラックなんざ、目じゃない可能性もある」
物理的な強制的侵入。必要とあらば、それをするだけの心が無いわけではあるまい。
でなければ、四葉の娘を攫って―――なんてことが出来たわけない。そういうわけで―――明日は欠席となるのだった。
「リーナの勝負下着や私物に手を着けられるのは、非常にムカつくからな。一日がかりで工房を万全にしておく」
「同時に『いたすわけね』。ワタシ、知ってるわよ? サーヴァントに対しての魔力供給が覚束ないから、セツナのお父さんとお母さん、そしてセイバーのサーヴァントで、×××したことを♪」
「安心しろ。アレはオヤジがヘッポコすぎたからであり、俺は何一つ不足していない」
オヤジを当てこすった言い方だが、そうでも言っておかないと―――何か、とてもふしだらなことをしそうなのである。
だが、今日のリーナは引かない姿勢だった。
「むぅううう。何かイタシカタないシチュエーションでの方が燃え上がると思えたのに……どちらにせよ、ワタシは築地の
『わ、私は襖の隙間から見ていますね! 毘沙門天への祈りを唱えていますから! 気にせずどうぞ!』
どっちだよ!? と言いたくなる水樹奈々(仮)の言葉に想いながらも、最近……ランサーに気遣って、少しばかりリーナへの労りが少なかったかもしれない。
第一、この東京に設えた遠坂邸(仮)は、浅草の千束地区……数少ないマナスポット、霊脈に築いたものだ。
つまりは、刹那だけでなくリーナの為の工房でもあるのだ……彼女との共同作業無しには、格が上がらない。
「あっ……も、もう……セツナのトウヘンボク!」
「ゴメンゴメン。今夜は離さないから、リーナも俺を離さないでくれよ」
「ウン♪ ……今夜は寝られそうにないわ……セツナのワタシを見つめる情熱的な『眼』は、魔眼以上の魔眼だもの」
ソファーに押し倒す形でリーナの腰に手を回すと、刹那の首に手を回してくるリーナ。
阿吽の呼吸であるやり取りの中で、お互いの瞳に映る自分の姿を見ながら―――夜は更けてゆくのだった……。
† † †
「あれ? リーナと刹那君はまだ履修中?」
「ううん。一応B組に確認しに行ったけど、今日は学校に来ていないって言われた」
昼時、いつもの面子に二人ほど足りず、何気ないエリカの言葉に返した雫。少しだけ気落ちした様子は、何気ない『裏側』が知れているからだ。
もはや周知の事実。公然の秘密―――少し離れた所では五十嵐鷹輔が、木枯らし、蜩を越えて―――『即身仏』にでもなりそうな勢いで悟りを開こうとしていた。
三高の藤宮の妹との関係はいいのか。と言わんばかりの五十嵐から眼を離すと、レオが問うてきた。
「しかし、二人そろってか、今日のSAKIMORI(仮)による教導は無いのか?」
「サーヴァントの行動半径とマスターとの距離とは、あまり関係が無いらしい。もちろん、他県・他国にまでなると、影響はあるかもしれないが」
都内から都内のどこかに移動するぐらいは問題ない。そう言われていた達也は、チキンカツサンドを頬張りながら、ツルギを送るぐらいは問題ないだろうと思う。
問題は、何で休んでいるかだ。学生の身分で実に『爛れた』『にゃんつき』をしていることの是非はともかくとして、何で『休む』必要があったのかだ。
「まさか、夜から昼までしているとは―――刹那君のフケツ!」
「想像で語るのはどうかと思うな……で、ダ・ヴィンチ女史は何か知っているんですか?」
「まさかここで私に話を振るとは思っていなかったなぁ」
「近づいてきたので、何となく――――」
恐らく論文コンペ関連で、達也が要求していた資料を直接渡しに来てくれたのだろう。
今までは、この魔法の杖が資料を読んでいた。感想などを聞きたい所だが、とりあえず今は刹那とリーナのことを聞くと、苦笑しながら口を開く。
「単純な話。厄介ごとに巻き込まれつつあるので、色々と準備があるのだろう。同時に防衛施設の整備といったところかな?」
「整備、ですか?」
「魔術師にとっての『工房』というのは、作業場、研究所という意味合いだけでなく、一種の処刑場・拠点という意味もあるからね。
南盾島でシラクサの数学者がやったことを、覚えているだろう?」
言われて思い出すに、そう言えばそうだった。しかし、本丸であるわたつみ達のいる研究所に侵入してしまえば、殆どの防衛機構は無かった。
正調にして正統な魔術師たる刹那の工房は、アルキメデスとは違うのだろう……。
「そういうわけで―――朝っぱらから『サル』のように『
「上手い事言ったつもりですか?」
「もちろん。あまりに『性的』すぎる話だから、授業ではやってはいないが、魔術と性行為は、昔から密接な関係がある。
古代ギリシャにおけるヒエロス・ガモスに代表されるように、性行為は古代人たちにとっての『祈祷』の一種でもあった。
生命を『宿し』『産み落とす』というのは、神聖なことなのだとして、『聖婚』と称してきた。
昔の人間の平均寿命なんてのは、当たり前の如く低かったからね。
国、都市による大規模な戦争。もしくは、ちょっとした『風邪』や『怪我』だけでも人は簡単に死んでしまっていた」
それゆえに、その頃の性的風俗感によれば、『大地に人を満たすことは、生命共通の使命』として、祭礼という形を以て、満たしていったのだ。
「今よりも人の魂の『サイクル』が短く、死の訪れが速かった時代。これらの行為で己の分け身を大地に残していくことは、死んだとしても地に、海に、空に――己の分け身と共に生きていくことを願った。
一種の『転生』というやつだね。自分を超える可能性がある存在だからこそ、人は自分の血を残していくわけだ」
成程、納得しつつも『さかる』ことで工房が強化されるという事は―――。
「当然、二人の愛の巣だからね♪ 共同作業することで、フェイカーのサーヴァントを退けられるだけの防備を備える。言うなれば『巣作りメイガス』といったところだね」
最近、ダウトな名称が多すぎる一高の面子。ドラゴン(?)とは違ってメイガスの巣作りは『夫婦共同』でやるべきものらしい。
リーナのことだから、DIYをやれる刹那の手伝いは、積極的にやるのだろう。
そんなダ・ヴィンチちゃんのフライデーすぎる暴露を終えて、今さらながら二人の深すぎる関係性に大半が赤い顔をする中――――。
「やっぱり……ダメなのかな……あの2人の間に入るのは…………」
ぼそっと小さな声でつぶやいた、俯き気味の雫の言葉を、達也と深雪だけが聞いてしまうのだった―――。