魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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Q、「なぜここまで投稿が遅れたか?」

A、「天気の子を見てきて、感動していたり、考察したり、バサシちゃん三枚目と弓おっきーを手に入れて忙しかったんだ」(必死)


ということで長らくお待たせしました。まぁお盆で墓参り行った後に、遊びに出かけたりしたテンションで色々とだったわけです。そして眼鏡神の同人誌―――あんた手首骨折している時に、これをやって、しかも―――あのレジェンド達ともデュエルしたというのか!?(汗)

すっごく見覚えあるショルダーガードの赤毛の女魔導士姿のレジェンド、ああっ私の青春よ……あなたの帰還を幾年待っていた事か(必死)

というわけで、色々と訳わからない言動はともかくとして、新話、お届けします。



第138話『異空の下での決闘-Ⅰ』

 都内に購入した刹那の『ガーデン』から『適当』に見繕った花束を手にして、向かったのは、浅野先輩が入院している病院だった。

 

「そういえばワタシたちって、ミスタ・トシカズとは頻繁に顔を合せるけど、ミスタ・ナオツグとは、面と合わせて話をしたことがないのよね?」

 

「九校戦の時には、なんというかニアミスしたからな。彼は基本的にエリカの応援席にいて、あんまり面識はなかったか」

 

 シルヴィアと話していたのを見た時も、すぐさま一昔前のトレンディドラマみたいなチェイスを摩利先輩とやっていたのだから……。

 

 今回、何故か「自分と会いたい」と言ってきた彼の要求に応えると同時に、あちらも摩利先輩と逢瀬をしたいから立川の病院で合流しようという無茶ぶりに、頭を痛めたものだ。

 

 

「摩利先輩の思惑は一つだ。浅野先輩を尋問したいんだろうな。ロクなことが聞けるとは思っていないが、それでも一高としての責務がある」

 

「それと同時にステディとの逢瀬(スキンシップ)をしたいっていうのは、どうなのかしらね?」

 

「思ったよ。だから直接、直談判で俺たちだけでやりますと言ったにも関わらず、『あれ』だもの……まぁ三年としての意地、詰め腹を斬らせなければ、示しがつかないんだろ」

 

 生臭い限りの裏事情を察しつつも、リーナと刹那は紅葉が色づく並木道を歩いていく。

 

 お互いの手にある花束からの匂いを嗅ぎながらも、季節の移り変わりを感じる。思えば怒濤の如く過ぎていった日々である。

 

 

「ココではないけど、一高前の桜並木を思い出すわね」

 

「ああ、あそこも今は、ここぐらい秋色蓮華(オータムリーブス)だもんな……思えば、波乱怒濤の如く過ぎた半年だった」

 

「ホントよね……あの時は、スパイ活動とニホンの魔法師の中に親米魔法師勢力を作り上げろ。とか、その程度の任務だったはずなのに」

 

 見上げると紅葉が、ひらりひらりと落ちながら、地面を彩る。まるで真っ黒なカンバスに赤を埋め尽くさんという落葉の限り。

 

 それを少しだけ物悲しく見ながら、その半年の間に出会った人々の顔は全て鮮明に焼き付いている。そして赤と黒―――その一方で、黄色の紅葉『黄葉』があることで思い出すのは、強烈なまでに自分達に突っかかってきた顔だ。

 

『一色愛梨』……エクレール・アイリと呼ばれる魔法師界のプリンセス。そんな多くの人間から求愛の手を伸ばされているようなのが、手すら伸ばさない……現代魔法師からすれば『カビ臭い血筋』の自分に、何故焦がれるのか理解に苦しむ。

 

 

「今、アイリのことを考えていたでしょ?」

 

「この色合いから連想しない? 想像力って魔法師如何に関わらず人生にとって重要だよ」

 

「ワタシが気付けたんだから、セツナもそうだろうというワタシなりの『想像力』(イマジネーション)の発揮よ」

 

 やっべ先んじられた。少しだけふくれっ面を見せるリーナに、苦笑して『プチョヘンザ』しながら、何となく後ろで警戒しているランサーとオニキスを見ると――――。

 

 

「ぶっは―――!! やっぱり秋は紅葉を肴に、一杯やるのが格別ですねー♪♪」

 

「どぅは―――!! この身体でも呑める私は万能の天才!! ゆえに一曲歌いたい気分!!」

 

「いいですねー! 大老! 『でゅえっと』しましょう! 具体的には紅白で『うえすとりばー』アニキと歌うかのように!!」

 

「(・∀・)イイネ!!」

 

 霊体化を解いて警戒しておくように言っておいたが、酒盛りをしていたのだった……。

 木々の上、太い幹に足を預けて、雅な麗人のように御猪口を傾けるランサーの姿に、ステッキ状態のままでも酒を飲んでいるオニキス。

 

 ダメだ……こいつら早くなんとかしないと……断酒・禁酒を令呪で設けるなんて、馬鹿げているが、一瞬だけ考えてしまった。

 

 ちなみにいえば母は、召喚したサーヴァントに初っ端から、令呪一画を消費したという話だ。

 

『あの一画で、あいつは私を認識したみたいだけど……せめて、その一画があれば『ブースト』に使えたかもしれない……まぁ考えても仕方ない事よね。

 そして、分かっていたのに―――止められなかったもの』

 

 悲しげに語る母の顔を覚えていて、そして―――。

 

『まぁ、それはともかくとしてー♪ サーヴァントをミニチュアサイズにする術式を開発するわよー。

 もしも何かの拍子で、スラー襲撃事件の如く『召喚』された場合、『召喚』できた場合に備えて……手伝いなさい刹那。

 そんな魔力を消耗する存在と契約しっぱなしだと、すぐに魔力切れになっちゃうんだから』

 

 どうやら母は『再会』を諦めるつもりはなかったようである。まぁマスコットサイズになった『親父』な、正直見ていられないような気もするが……結局手伝った事を思い出した。

 

 そんなこんな思いながら、出会いと別れ―――また出会い。全ては流転の中にあるものだな。と、物思いに耽りながら目的地の入り口が見えると、そこには見知った顔二人以外にもう一人がいた。

 

 知った顔ではない。だが『見覚え』はある顔だった。先程まで話題に出していた人間を思わせる、金色の『貴族』がいた。

 

 

「やっと来たか、二人とも――――いや、むしろもう少し遅くても良かったかな……とか思わなくもない……」

 

「はぁ……で、『修羅場』ですか?」

 

「違う違う。とりあえず自己紹介した方がいいだろ?」

 

 病院前に五人の男女が集合する。ランサーは少し遠く―――並木道から、こちらを見守っている。もちろん気配を殺しながらであるが。

 

 それにしても、これだけ見目麗しい人間が揃うと衆目を浴びるようだ。ここが一種の警察病院みたいなものだとしても、だ。

 

 

「こうして対面するのは初めてかな。千葉エリカの兄で千葉寿和の弟―――千葉修次です。九校戦の時には、話せなくて悪かったね。

 シルヴィアさんにも迷惑を掛けてしまったよ」

 

「お構いなく。USNAからやってきました遠坂刹那です。妹君には、いつもお世話になってます」

 

「同じくUSNAから来ました遠坂アンジェリーナです。ミス・エリカは、誰とくっつくのか楽しく想像させてもらってます」

 

 畏まった挨拶も段々と慣れてきたものだが、別にそんなことはしていない。夫共々とか付け足すな。と思っていると殺気が膨れあがる。

 

 それは、リーナと同じくブロンドヘアーの『人間』。恐らく修次氏とタメだろう人が挨拶してくる。

 

「修次の「学校」のルームメイト。一色『楼蘭』だ。妹が、色々と、世話になっているみたいで嬉しいよ遠坂君」

 

 妹が、色々と、……そこを強調しながら握手をしてきた楼蘭氏の名前から察するに、マダムの趣味が見えて、同時に『疑問』が生まれる。

 

 些細なことかもしれないし、もしかしたらば、修次氏もばらされたくないのかもしれないが、まぁ敢えて言わなくてもいいはず。

 

 しかし、脅しつけるような言い方に何となく不機嫌を覚えてやり返しておく。

 

 

「はぁ……『ローラン』ですか、『ロラン』とも言えますが、随分と外連味ある名前ですね」

 

「ローランが男の名前で悪いかな?」

 

「さぁ? ただ…… 不毀の神刃(デュランダル)を持つには、名前が『可憐』すぎませんかね。『お兄さん』♪」

 

 ロード・エルメロイ『Ⅲ世』こと、ライネス・エルメロイを意識した口調で言ったが―――どうやらむかっ腹を立たせられたようだ。

 

 あからさまに不機嫌を覚えた顔をする『楼蘭氏』に、成功した気分だ。

 

 

「噂に違わないな。君は―――だからこそ愛梨ちゃんに近づけさせたくないんだが」

 

「セツナだって近づきたくて近づいていません! アッチが勝手にやってくるのよ!」

 

「それを言われると、こちらとしても何も言えない―――、何でこの男をロジェロとして好きになっちゃったんだ。ウチの妹は……!?」

 

 苦悩をにじませながら後ろで束ねた金髪―――長い尻尾のようなを撫でながら苦悩する『兄君』の姿に、摩利と修次氏は苦笑いをしている。

 

 同時に、これが理由か? とカップルを問い詰める。

 

 

「すまないな。どうしても『ラン』が、妹の心を惑わす不埒ものに天誅を加えたいって、本当にすまない」

 

「天誅は食らってませんけどね」

 

「そりゃまぁ。君とアンジェリーナちゃんのカップルは、有名だからね。一色家の令嬢が横恋慕しているって醜聞……と言われるのは、嫌いかな?」

 

「お構いなく。その辺りは世間様と魔法師の意識次第ですから」

 

 変な所で律儀な修次氏。両手を顔の前で勢いよく叩いての謝罪に平素で返しながら、実体としては分かっていても、それでも納得出来ない一色楼蘭さんの今回の面談となったわけである。

 

 めんどくさいな。同時に『隠し事』を察してしまった刹那としては、この人と愛梨の『お兄さん』が同部屋というのは、色々と不味いのではないかと思う。

 

 主に摩利さん再度の激昂。関わり合いになりたくないと思いつつ、とりあえず浅野先輩の『お見舞い』をしましょうと提案すると、摩利さんが頷いた。

 

 どうせこの後はデートなんだろうなと思いつつ、刹那も久々に『儂の名は。』と『天鬼(雨)の子』を見たくなってしまうのだった。

 

 

映画(シネマ)、見にいきましょう! どうせこの後は直帰みたいなものなのだから、ね♪)

 

 念話で、そんなことを言ってくるリーナ。今日のエルメロイレッスンは、お休みなのだ。

 

 リーレイなどには、昨日の時点で休講を伝えていたので、問題ない。問題があるとすれば……。

 

 

「悩ましい限りだよ……君が極悪非道・無道の限りで以て、女を食い物にするロクでもない男ならば良かったというのに」

 

「一日だけで分かるものでもないのでは?」

 

「そりゃそうだろうけどね……。その花束を見なければ、なんて気の利かない男だとも言えたが」

 

 

 どうやら一色家の後継者は、随分と人を見る目があるのかないのか……分かりかねながらも、妹との仲は良さそうだ。

 

(セツナ、『ミスタ』・ローランってもしかして……)

 

(だと思うよ。まぁあえて言おうとは思わないが……)

 

 ややこしい事情が見えつつある、金髪の『美男子』に対する思索を終えて、病院内に入る。

 

 入ると同時に……違和感を感じる。違和感の正体は―――あからさまな『血の匂い』だ。

 

(マスター、どこにいるかは分からないが、サーヴァントがいる!! 気を付けてくださいにゃー!!)

 

 酔っ払ってんのか、素なのか、判別できないランサーの念話の後に響くサイレン。

 

 非常ベルの音から察した一番は、修次さんだった。

 

「火事じゃない。これは暴対警報だ! 内科病棟にアポが無い男が―――」

 

『『Anfang(セット)―――Es träumt mir von einem Drachen.(脚・悪竜の翼) Mir träumt von einem Drachen.(身・聖竜の鱗)』』

 

 

 修次氏の声を途中にしながら、リーナと手を繋いだことで『回路』を接続して、そのままに呪文を唱えて、察した場所に―――『移動』を果たした。

 

 出たのは内科の入院病棟―――そして狙い通りに相手を挟み打てたことで、すぐさま行動を開始。

 

 通路の真ん中―――明らかに浅野先輩の入院病室に手を掛けている、大柄な男の姿を視認した時には―――魔弾を装填。スナップの魔弾と星刻魔弾が、通路の『左右』から放たれる。

 

 瞠目した大男『呂剛虎』だが、その時には―――側に控えていた美女が、それらを防ぎ切った。糸巻のようなものを振るうことで、蜘蛛の巣のように張られた魔力糸が、魔弾を防いだのだ。

 

 

「今のは……!?」

 

「サーヴァントの武器ともなれば、あんな魔弾程度はすぐさま防がれてしまいますよ」

 

「違うっ! 僕たちごと、この『四階』にまで移動した魔法だ……まさか『空間転移』なのか!?」

 

「そんな所です。原理は、まぁ秘密にしておきましょう。あなた方、現代魔法師では、まず理解出来ないので」

 

 刹那の後ろで驚愕している千葉修次氏、刹那とは反対方向に移動したリーナは、摩利先輩に同じく言ったようで、恋人同士似たような表情をしている。

 

 そんな風に平素で言っておきながらも、まさか『コイツ』が直々にやってくるとは、刹那は思っていなかった。

 

 人食い虎『呂剛虎』……フェイカーのサーヴァントのマスター。こいつらが、どういう心胆なのかは判別できないが、サーヴァントが全力で戦えば、この建物に安全な場所など無いのだ。

 

 しかも、フェイカーの宝具『仙饗天宴の狐神桃馬』(タマモツインズ・ティアンチイアン)のランクは、対軍宝具でBランク相当はあるのだ。

 

 

 更に言えば……。その先はランサーが言った。

 

「霊基が変化している―――フェイカー、貴様……『ヒト』を食ったな!? ……」

 

 霊体化を解いて刹那の前に出てきたランサーの姿に、二人ほどが驚くが、構わずフェイカーの表情を見る。

 

「私達に通常の食事など無意味。第二(たましい)第三(せいしん)のみが私達の栄養……ならば、分かるだろう。

 雪深い大地で、採れぬ作物の果て、飢餓の末に、ヒトがヒトを食らうこともあった時代の人間だ。なのに私にだけ倫理を問うのか? 『ヴァイシュラヴァナ』、『多聞天』の化身」

 

「戯れるなフェイカー。貴様が戦車を出す前に、我が槍が貴様の首を刎ね飛ばす」

 

 一髪千鈞を引く戦いの緊張感。ここでサーヴァント同士の戦いが繰り広げられる。そして――――浅野先輩の部屋に、もう一人誰かがいることを確認して、安宿先生ではないことを刹那が確認した後に―――ランサーは動いた。

 

 千葉の麒麟児、一色の昇竜とも称される二人の剣客が更に瞠目するほどの速度で接近するランサーの一撃を前に―――フェイカーは……。

 

(オーン)!!!!」

 

 その両手を広げ、腕ごと突き出して、八卦陣をこちらに見せてきた。

 

『マズイ! 異空間誘引宝具だ! 刹那、魔眼で『取り込み』に対抗しろ――――って無理かぁ……こんなマヌケなご主人を持ったオイラのヘマでやんすトホホ……』

 

「あきらめるの早いよ魔法の杖!! そしてキャラがぶれすぎだろ! とはいえ、神代の魔術式なんて―――」

 

 如何に刹那の魔眼が『宝石』のランクにあるとはいえ、七色に明滅する魔眼で、必死に対抗するも……。

 

 最終的に、その内科病棟の廊下にいた人間たち全員を八卦陣は吸い込んで、後には……誰もいなくなったのだ。

 

 

 その様子を『式鬼』を介して見ていた周公瑾は、額に浮かんだ汗を拭ってから病室の外に出た。

 

 浅野真澄に対して行った調略。その精神操作の全ての痕跡を消したまでは良かったが、同じく直接的な『消去』に呂が出てきた―――そこまでは良かった。

 

 だが、その後に『古代の魔法』の如く「現れた」、遠坂刹那など五人の魔法師達には焦った。まさか奴らが、『空間転移』という現代魔法でも再現不可能なものを行って、此処に来るとは思わなかった。

 

 

「一先ずは幸運を拾ったということでいいんでしょうね。もしくは、これすらも『劉閣下』の思惑ならば……」

 

 もはや、あの男は信用に値しない。裏切り者を演じることで、一高及び遠坂陣営を油断させるという計略は偽計ということだ。

 

 あちらに取り入るのだから『お土産』を用意しろという、それすらも演技だった可能性が出てきたのだ。

 

 そんな思案は後でいいだろう。騒ぎを聞きつけた警備部がやってくるまで30秒もあるまい。そうして浅野の病室から出た周公瑾は、次なる計略を巡らすのだった。

 

 

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 異空間誘引宝具……いわゆる『固有結界』とも違うが、ある種の『大魔術』による成果の一つ。あの魔眼蒐集列車のオークション会場が有名どころだろう。

 

『クレタ島の怪物―――半神半人の魔性『アステリオス』の迷宮宝具も、これの種別に入るだろうね。発動条件はただ一つ、『思い浮かべること』。ただそれだけで、人理版図(テクスチャ)にも記録されない規模の『世界』が広がる。

 刹那、キミが良く知る『霊墓』と同じく―――いま、我々は―――ヤツの作りだした異空間にいるんだ』

 

「ご高説ありがとう。魔法の杖。信じるか疑うかは分からないが、この空間は、そこまで私に有利には働かない。空間を自在に操る宝貝の創造は、金鰲の最先端だったからな。

 私に出来るのは―――、お前の言った通り、当時……殷・周易姓革命の時代。その頃の中国大陸の様相を思い浮かべるだけだ」

 

 その言葉が偽か真かは分からない。だが、それでもこちらの有利が崩されたことは間違いない。

 

 先程までは、廊下の進行方向二つから挟撃を食らわせられたというのに、そんな位置という『優位』は、ここに誘われた時点で失われた。

 

 

「霧の中、山を駆け下りて奇襲を掛けたことはありましたが……まさか霧よりも深き『仙境』に誘われるとは思いもしませんでしたね」

 

 言いながらも闘志を燃やして―――『殺意』に変換するランサーの、槍を持つ手がゆるりと動く。

 

 そのしなやかな『蛇のごとき緩さ』が……危ないのだ。武芸者としての感覚が鋭い渡辺摩利、千葉修次、一色楼蘭が気付く―――特に摩利は何度かやり合っただけに、これが八華のランサーの『本気』の度合いなのだと恐れを持つ。

 

 現代魔法における『剣術』という戦闘技術において、千葉道場の剣は、正しく日本で上位ないし世界でも通用するものだと思えていたが、この女……『長尾景虎』という越後の軍神の前では、如何にも拙い『子供の遊び』(チャンバラごっこ)にしか見えなくなるのだ。

 

「殺意を滾らせるのはいいんだが、ランサー……何故、私がこの空間にお前たちを招いたのか分かるか?」

 

「ただの気紛れでしょ。アナタたち―――妖怪どもは殷王朝を滅ぼすために、淫蕩と酒肉の贅を極み尽くした愚か者どもなのだから」

 

 暇さえあれば、四六時中酒を飲んでいるランサーには言われたくなかろう。だが、その思惑は分かる。

 全員が暑苦しいコートを脱ぎ捨てて、得物(礼装)を手に戦闘態勢を執る様子……。

 

 殺意が膨れ上がる―――。

 

「先のガンフーとその一味を交えた戦いで、私は不覚を覚えた……。ここまで現代の妖術師が弱いなど、その上、崑崙の道士たちのように総勢で襲い掛かられたならば、簡単にやられるのだとな」

 

「何をやったんだ。君たちは……?」

 

 呆れるような修次の声に、あんたの妹も共犯だ。と言ってやりたいのを呑みこみながら、干将莫耶を投影して手に持っておく。

 

 虎の眼はこちらを見ている。見ながら、その身に白虎のオーラを纏って、刃先・穂先・柄の全てが石のような『鈍色』の方天戟を握ってくる。明らかな戦闘態勢を見て、肌がひりつくのを隠せない。

 

 そして演説は続く。桃色の髪を揺らめかせながら、妲己三姉妹の末女は宣言してきた。

 

 

「ならば、私の『再生』出来る『妖怪仙人』たちを、お前たちにぶつけることで、『数の優位』『力の差』を覆すだけだ!!」

 

悪役(ヒール)が、戦隊ヒーローと同数を揃えてブツケテくるとか、インチキじゃないかしら?」

 

 リーナの嘲笑うような言葉を受けても、更にフェイカーは嘲笑って―――言ってくる。

 

 

「『悪』ゆえにこそ―――私は人類史に刻まれた『英雄』なんだよ」

 

 

 その絶対の嘲笑と言葉を最後に、殺気が突き刺さってくる。

 

 

『来るぞ!! フェイカー=王貴人の出した駒は『四つ』。決して一人で戦おうとするな! 相手は、十師族が30人単位で群れていると思うぐらいの想定をするんだ!!』

 

 無茶苦茶なオニキスの言動だが、そのぐらいの『拙い表現』でしか、目の前の脅威を説明できないのだ。舗装も耕作もされていない荒れ果てた大陸の大地。

 

 幾らかの草木が生えるものの、それすらも枯れ落ちるところ―――地中から、四騎の再生サーヴァントが出てきたのだ。

 

 

「私はフェイカーを抑えます! マスター(ツルギ)、ご武運を!!」

 

 その言葉と共に、虚空から軍馬を呼びだしたランサーが跨りながら槍を突き出し、戦車を呼びだしたフェイカーと、がっぷり四つで戦う。

 

 人外魔境の戦い。余人では想像すら出来ぬ『魔界転生』した英雄たちの戦いを皮切りに、異空の下での戦いは始まる……。

 


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