魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
追記 ちとばかり改行を修正。いい感じの改行のパターンみたいなのが知りたい。
「闘いなんてくだらねぇぜ!! 俺の歌を聴けええええ!!!」
古代中国の様相を見せている異空間にて、黒い琵琶をかき鳴らす男一人。全ての疑似再生サーヴァントが戦う気満々なのに、こいつだけは先程から、琵琶を鳴らしてシャウトを聞かせている。
中々の美声だが、それだけに構ってもいられない。
「サイオンの循環に滞りを来す『魔声』。しかも『魔楽』とのコラボ―――」
『魔家四将の一人、魔礼海だな!?』
オニキスの言葉で拙い知識を思い出すに、それは封神演義における人物だと思い出す摩利だが、それを聞いた魔礼海は笑みを浮かべて、肯定してきた。
「はっはっは!! 神代の時代を越えて、『人理版図』が拡大しきった『世界』時空を超えても、俺の名前は知られているみたいだな! だが、そんなことは関係ねぇ!!
俺は俺のビートを刻むだけだ!!! 俺のビートが有頂天!!」
壮絶なギターリフの如く黒琵琶をかき鳴らす妖怪にして仙人。後に仏教四天王にも昇華される存在が、こんなロックな男だったとは……。
(そういうもんかもな。ある種、源平合戦の発端となった後白河天皇も、
昔から傾奇者……ロックな男というのはいたのである。そんなわけで、この男だけ、何故……一人で戦っているかなど、まぁ分からなくもない。
それは、この地中から現れた魔家四将なる恐るべき使い手+呂剛虎と打ちあっている刹那も同様なのだが
「ミス・シールズ! 何故、援護に向かわないのですか!?」
「ワタシが抜ければ、この妖怪仙人は、アナタたちを殺しに来ますよ? ワタシの対抗魔法あってこそ、この状況は作られているんですから」
一色氏の言い分は尤もであったが、それをやられては、こちらが死んでしまう。クドウが星晶石をマイクのように変化させて、魔礼海のシャウトに対抗しているからこそ、この状況は生まれている。
即ち、自分達三人がいてこそ、この相手は押し止められているのだ。
「イカしたガールズたちがオーディエンスとは、中々に俺の心に響くぜ。何より嬢ちゃんの歌も、俺の霊核に響く! 結構なもんだ!!」
「トーゼンよ! 歌とは戦に死した勇士の勲を紡ぎ、果てぬ夢を唄い、時には女の涙あたりを語ったりするものよ!!
ラブソングだけでなくブレイブソング!
クドウが十文字以上の歌唄いであることは知っていたが、そんな信念があるとは驚きな摩利であったが、なにか違う「影響」を受けているのではないかと思う。
南盾島という場所において、クドウがやったことは摩利も聞き及んでいたのだから……。
「いい心掛けだ! この時代でそれを分かっているとはな。全力でいかせてもらう! そっちの二人は抜けたきゃ抜けな! 礼青も、礼寿、礼紅も、俺以上の功夫だ、味方に助勢しなきゃ負けるぜ?」
それが誘いである。と分かっていても、一色はともかく摩利は修次の助けをしたくてしょうがなかったのである。この空間において専門家とも言える、二人の後輩のどっちからも離れるというのは自殺行為かもしれないが、それでも……摩利は、世界が終わるという時には、愛した男の傍にいたいのだ。
「……クドウ、ここは頼めるか?」
「オフコース! 後輩として先輩の純愛ロードを妨げるわけにはいきませんからね?」
「要らん世話だ!」
言いながら汎用型CADの起動を止めて、武装一体型CADを、制服のスリット部分から出す摩利。
一色もまた『神経攪乱』の為に放っていた汎用型から、特化型にしては外連味ある「小刀」を取り出す。サイズとしてはナイフ程度のものにしか見えないが、それでも、それが名刀の類であると気づける。
「私が、遠坂の方の援護に向かう。君は修次を頼む」
「了解です」
いずれは国防軍の部隊。出来ることならば、シュウと同じ剣術隊、剣士隊に入りたい摩利としては、ここで軽い返答は心証がよくないと思えた。
何より、遠坂の方の戦いは真なる意味での人外魔境だ。そこに挑むならば、なにも問題はない。
ソニックボイスとソニックウェーブの叩きつけあい。敵の思惑は知れないが、それでも摩利と楼蘭は、魔楽響き渡るライブ会場から出ることに成功した。
距離としては、そこまで離れていない。お互いが向かうべき戦場。修次の援護、及び回復の為に、遠坂も距離を離すことは出来なかった。
そういう意図を感じながら……。
「シュウ!!」
呼び掛けに意味はない。現代魔法において、それは無駄な行為のひとつである。だが、愛しき者の名前を呼ぶことに、力は宿るはずだ。
呪文を失い、いずれは電極を脳髄に仕込んだ神経伝達で口語による会話すら失うかもしれない時代だからこそ……そう信じたいのだ。
単純な魔弾。圧縮した魔力の密度は刹那に及ばず、量では達也、真由美にすら及ばぬが、意味はあったようで、シュウに及んでいた斬撃のいくらかが迎撃できた。
「すまない摩利。助かった」
「一振りで、幾重もの斬撃と
「ああ、君の剣もあれば―――俺は負けない!!」
目の前の魔剣士からは、人数が増えたところで変わるものか、そういう心の声が聞こえてくるも、いいのだ。こうして愛しい人の側で戦ってこそ、女の心意気は上がるのだから。
魔礼青の剣が揺らめく。一振りで12の連撃。それを迎撃するは、修次の持つ巨剣と摩利の分割された剣身。三節構造の小型剣、それを用いて、一種の防壁を張った。
『三節構造の小型剣ね。随分と卦体なものをお持ちで。ランサーの膂力に対抗するための構造変換は難しいですから、ルーンスペルと数秘紋の複数魔術構造で防御してください。
そして、これは一般的な変換とルーンの意味合い(初心者版)ですので、一時間で覚えてください。一時間後には、その紙は焼失するので』
悪魔か!? という恨み言を思い出しながらも、とりあえず覚えられたもので防御を張る。単分子ワイヤー。細く、しなやかで、撓むことがなく、手で器用、俊敏に操れるタイプのそれで繋がれた短冊のような刃から摩利の手は痺れた。
本来ならば伝わらぬはずの、ワイヤーを伝っての攻撃威力の衝撃。膂力及び魔力のほどは伊達ではない。
実体ある剣で斬られたかのような威力を前にしても、シュウの突撃を援護するように、刃節は軽やかに動かす。
魔剣士と魔法剣士の斬撃がぶつかり合う。近距離からでも放てるのか、シュウの体に幾重もの傷が付く。
だが、一刀の重みで何とか小賢しい斬撃を防いでおく。そして、振り下ろす前に、その剣の動きを止めることに成功する。
修次の狙っていたものとは、これなのだなと気づく。
「そうだ。それが対策だ。言うなれば、私の攻撃範囲を狭めれば、中途半端な斬撃は、空撃ちに終わる。
攻撃の「起点」を潰し、剣の可動範囲を狭めればいいだけの話なのだからな」
「だが、そこからの変化もありうるんだろうな?」
「当然だ。人理版図の剣士よ」
狙いは落ちている肩。効くかどうかは分からないが、渾身の魔力を込めて、
ズガン!! 落雷のような音で、肩口に突き刺さる刃。
吹き出る血は、赤ではなく「白」なのは人ならざるものゆえか、分からないが、それでも行動の一手を封じて―――。安堵は出来なかった。
「―――だが、
シュウの巨剣を跳ねあげる膂力、ありえざる筋力及び、出血を意に介していないそれに対して驚愕だけが及ぶのだった……。
振るわれる青雲剣という業物。現代の技術では再現不可能な奇跡の剣を相手に、相思相愛の剣士たちは驚くばかりであった―――。
† † † †
そんな風に剣士二人が破られる前から、刹那は旗色が悪いだろうなと気づいて、速攻でケリをつけることを考えた。
ランサーとフェイカーの戦い。馬上に「立ちながら」槍を振るい、並走するフェイカーの戦車を牽制するランサーは、まだまだ戦える。旗色が悪いのはフェイカーだが、それとて戦車の飛行状態に入れば、どうなるかは分からないのだ。
宝具の発動は、彼女に任意で任せているが、それでも無駄撃ちは不味いことを、戦国武将の感覚として分かっているのだろう。
「
投影した武器は―――手に握られることはなく、刹那の任意のタイミングで放てるようになっている。手には偽装のための「干将莫耶」を握りながら、白虎を維持できなくなった呂剛虎に向かう。
「ガンフーを守れ! 魔将!!」
「よそ見していられるものか!!」
指示を出したフェイカーに苦い顔をした魔家四将の二体。どうやら主従関係としてはうまくいっていないようだ。ならば、なぜこのような連中を寄越したのか……分からないが、強化した肉体で走り出した刹那。
その速度は、尋常の魔法師では出せない類いのもの。墓守の一族。
「させるものかね。行け!!
溶解液を放つ白いネズミのような使い魔を解き放つ魔礼寿。
しかし、その動きが、途端に制御不能なものへと変化する。
戦闘の轟音。幾重もの風切り音。ソニックブームとショックウェーブが渦巻く戦場でも、聞こえる弦の音。
リーナと戦っている武将の琵琶の音ではない。それよりもはっきりとした弦楽器の音だ。
「な、なんだ! 僕の花狐貂が、制御出来ない!?」
(『読み取った』限りでは魔剣フルベルタ―――恐らく真作ではないだろうが、随分な業物だな)
愛梨の「兄」。一色楼蘭の持っていた『剣』は、魔力の刻印を用いて一つの楽器を形成するものだった。チェロの大きさを剣を用いて作り上げた魔術武器―――弦が鳴り響く度に、神経インパルスに干渉する魔法が放たれる。
神経攪乱の本懐は、こちらのようだ。愛梨が神経伝達を「高速化」させることに特化したのに対して、この人の方は、正しく魔法を伝達させたようだ。
しかし、対人を想定している現代魔法にも関わらず、小さくても魔獣だろう使い魔に、よく神経伝達出来るものである。
ともあれ、好機だ。
行き掛けの駄賃とばかりに、使い魔を翔び跳ねるように斬殺しながら、刹那は駆け抜ける。
ガンフーを狙っていることが分かった魔礼紅は、傘を前にして迎撃する体制。如何に防御を主眼とした武器とはいえ、それは神話に語られる武器。
そんなもんで叩かれれば、当然無事ではすまない。遠距離戦で獲れないことを悟った愚か者を打擲する術はあるのだ。
「考えが浅いな!!!」
「お前が―――な!
その時、あり得ざる現象が魔礼紅を襲う。迫り来る巨剣―――正しく山一つを切り裂くのではないかと言うほどにありえざる巨大な剣。
剣の中に含まれた含有物なのか、緑色に輝くエメラルドも見える……。
何より含まれている「魔力」の「桁」が違う。今までヤツがどこからか出してきた武器の量が、「50」だとするならば、今、目の前のものは―――「5000」はある計算だ。
それが凡そ数十―――、槍衾のごとく虚空から競りだして、猛烈な勢いで一直線に飛んでくるのだ。
恐怖しながらも混元傘を最大展開……は出来なかった。今までの戦いで、礼紅の宝貝は、限界強度に至っていた……。
それゆえの失態。抜かったことを察しながらも、その巨大な投擲物の乱射を防ぐべく傘を振り回して、跳ね返す。
強烈な圧で身が盛大に揺さぶられる。斬山剣の中に隠れた赤い妖術師。
奇襲のチャンスを狙ったのか―――颶風と共にやってくる剣を防ぐ、防ぐ―――およそ
気付いた時には、自分の跳ね返しで、あっさり崩れ去る大剣を見る。 見たことで気付いた。
「投影魔術による―――ハリボテか!?」
「正解! お前が感じた魔力量は、俺の魔眼による「幻術」だ!!」
行き過ぎたイガリマに乗っていたのだろう刹那の声は、後ろから響いた。
魔眼による意識制圧。それによって見ていたものを錯覚させられた。だとしても、こうも精巧なフェイクを作り上げるとは―――。
(本物を見たことが―――)
振り向き様、傘を翳そうとした魔礼紅の首に半ばまで入り込む黒い陰剣。ざっくりと入ったことで、振り向けず、演劇途中で糸が切れた人形の如く、千鳥足を演じる。
そんな魔礼紅の首を刈り取るべく、白の陽剣を手に迫る刹那。陰剣―――莫耶が入り込んだのとは逆方向から切り込む陽剣「干将」
両側からの圧力を加えられて、疑似サーヴァントの首がゴムまりのように跳ねた。
霊核に対する明確なダメージであったらしく魔礼紅のテクスチャが剥がれ落ちて、傀儡の兵―――、恐らく中華様式だろう髪型が特徴的なオートマタが、四肢をばらばらにして崩れ落ちた。
どうやら、これがトリックのようだ。
「れ、礼紅……!?」
呆然とする魔礼寿。使い魔たる花狐貂の制御も覚束ないでいるところに、刹那は走り込む。
狙われたことを察した魔礼寿。そんな状況だというのに、虎は動かない。
奇襲のタイミングでも図っているのかもしれないが、構わず刹那は走り出す。
そんな状況に―――一色楼蘭は走り込んできた。
「援護させてもらう! 遠坂刹那!!」
魔力の線で刀身を形成させたフルベルタを手にしてやってきた一色楼蘭の姿に、少しの迂闊さを思うも―――、虎への警戒は怠ってはいけない。
その際、虎の持っていた黒い方天戟が、『変化』していることに気付く。
気付いた結果、刹那の注意がそれていることに気づき、楼蘭のやったことに脅威を覚えていた魔礼寿の花狐貂から溶解液が飛んできた。
だから後ろの方で、弦をかき鳴らしていれば良かったというのに、相手の迂闊さよりも己の迂闊さを呪ってから、遠坂の家門を模した魔法陣を楼蘭の前に展開。一手遅いが、重要部―――頭部や腕などへのダメージは避けられた。かかったのは「胸部」付近。
「私のことは構うな! 被弾覚悟で、妖怪将軍を討ち取る!!」
「唯者風情が―――!!」
楼蘭から刹那への言葉で激昂した魔礼寿だが、その時には花狐貂の攻撃が―――魔力の光線に変わっていた。
アオザキの使い魔にも、こういったものがあったそうだが、ともあれ、それらを弾きながらも前進する。
「最後の一歩! 俺が上! あなたは前!!」
「ダッコール!!」
「アメリカ的フランス語」の発音に苦笑いをしてから、刹那は『宙』に己の体を投げた。
まさか、そんな軽業のような真似をしてくるとは思っていなかった魔礼寿だが、花狐貂の数を見くびっている。
瞬間、全身から使い魔の全てを解き放つ―――その数は凡そ100は下らぬ使い魔―――それらで作り上げる一斉砲撃が、目の前の妖術師たちを貫く。
兄弟を、魔礼紅を屠った貴様らに対する返礼だ。
「滅べ!!」
「お前がな!!!」
空中に身を踊らせながらも、その手に得物を握る刹那。一斉砲撃を目論む怒りの妖怪仙人に対する意趣返し。
その手に握った長剣の正体を察した魔礼寿が驚く。驚いた瞬間には、宙で剣を振るって、花狐貂という使い魔全てを切り裂き、焼き払い、灰すらも風に拐わせた。
「青雲剣!? 何故―――」
どすっ!! という音で、真正面から「フルベルタ」を投げ込まれた魔礼寿の言葉が止まる。
「こ、このまま「食われて」―――」
ごっそり体の真ん中を失っても、まだ生きている魔礼寿。それに止めを刺すべく、地に降りる前に一色楼蘭に「二刀」の青雲剣のうちの片方を投げ渡す。地に突き立つ前に、その剣を握った楼蘭は走り出して、魔礼寿の後ろに着地した刹那も、衝撃残る体であっても瞬発で駆け出して―――。
ラッシングの嵐を食らわせた。高速の刺突を繰り出しながら走り抜けた二人、その時には……魔礼寿という存在はなくなっていた。
一つの突きで十の刺突が繰り出される。それが走り抜けるまでに、50は繰り出されたのだ。
死に体であった魔礼寿に耐えられる道理は無かった―――。
そして、その時……言葉が聞こえた。
「もう二人を殺してもらわなければ「完成」には至らない―――」
『どういう意味だと思うマスター!? フェイカーは―――勝とうともしていない。「負けよう」ともしていない! まるで私との戦いを長引かせようとしている風にしか思えない!!』
ランサーが聞かせてきたのは、戦闘の際に彼女が聞いたものを記録する宝石からのものだ。護符としての効果もあるが、
そして聞こえてきた言葉と、呂剛虎の笑みと更に変化した方天戟を目にして、察する。
「謀られたな……オニキス!!」
『ポータルは見つけた。あの殺人貴ほどではないが、現実に帰還することは可能だ。いいんだな!?』
最初っから逃げの一手を徹底しておくべきだった。だが、千葉修次の男気に、剣士としての意地に……仏心を出してしまったのが、この状況だ。
『他人のせいにしちゃいかんよ
たしなめてから、ポータルに何かをして干渉したオニキスによって、途端に空間がぐにゃりと歪みだす。
足元の不安定さ、そして全ての景色が揺らめく、これで『壺』の中身は完成には至らないはずだ……。
「潮時―――といったところか。手間隙掛けた割には、得られたものは二つになってしまった」
「すまないガンフー」
「お前が謝ることではないだろう。王貴人……俺の為に尽力してくれているという、お前を責める言葉はない」
「……帰ろう」
「ああ―――」
「ただで逃がすと思ってるのか……! 俺を、俺の先輩や、友人の兄貴たち―――俺の女を利用しておいて!!」
跳躍か、それともフェイカーの魔術ゆえか―――両方だろうもので遥か頭上に舞い上がったルゥ・ガンフーは、フェイカーの戦車に乗り込んだ。
二人の会話に割り込みを掛けながらも、いざとなればランサーの乗る馬に「飛行」を付与してやろうかと思っていただけに―――。
「ああ、逃がさせてもらう。そもそも―――この空間は私が形成したものなんだからな」
手を翳したことで、虚空に裂け目を作り出したフェイカーは、その裂け目に戦車ごと飛び込んだ。
主を失ったことで、空間が割り砕けて―――現実座標に適した場所に出ることに成功する。
幸いなことに、立川の病院内ではないようだ。どこかの公園。無論、東京都内だろうが……人気がない、無人であることに安堵する。
「どうやらはぐれてしまったようだな」
「修次さんと摩利先輩は、元々デートの予定だったからいいんですけどね……」
一番恐れていたのは、手術中の病室やナース達(女)の更衣室にいきなり現れることだったが、そういった事は避けられた。
取りあえず離れている連中に、連絡を取ろうと思い、端末を弄ろうとした自分に近づいてくる一色楼蘭……その姿を直視することは出来ない。
「色々と助けられたな。ありがとう刹那君……」
「いや、俺の方こそ巻き込んだ形なんで、お構いなく……」
「謙遜しない方がいいね。君は多くの人々を助けられる人間だと感じた。愛梨ちゃんも、それを本能的に分かっていたからこそ、惹かれたんだろう……」
「そりゃどうもですが……想いには応えられませんよ」
「―――残念だな。本当に―――、ところで何で……先程から私の方を「見ないんだ」?」
その理由は明白であったが、この人が気づいていない理由がわからなすぎた。恐らく魔力の「鎧」を着ていて不感になっているからだろうが、それにしても……。
「ちゃんとヒトと話をするときには、相手を見て正面から話をするんだ。分かっていない子じゃないと思っていたんだが……」
当たり前だ。そんなことは母親からいくらでも躾られてきたことだ。まぁ魔眼の訓練や対策で、あまり正面に立つなとも指導されたが……それはともかくとして、今現在の状況を端的に言うと―――かなりピンチである。
「えーと……ですね。ローランさん……端的に言えばですね。俺は、あなたを積極的に見れないんですよ」
「何故だ?」
「見えてはいけないものが見えているからです。ああ、もちろん亡霊にとりつかれているとか、そういった類ではなく、現実に則してのものです―――」
「え?」
呆けるローランさん。その顔を今度こそ真っ直ぐに見つ、赤くなりながら告げることにした。
「あなたの、その……大変に立派な胸が、「乳房」が見えています……男性にあるかもしれない女性化乳房ではないんでしょうね。つまりは―――そういうことです」
周りに知人がいれば、なんと以て回った言い方をすると、普段の遠坂刹那にあるまじき発言をたしなめていた。
一色家長男「一色楼蘭」は、どういう意味合いがあるのかは分からないが―――「女」なのだった……。
ぷるんぷるんと外気に震える己の「象徴」を認識して、段々と赤くなっていき、最後には―――刹那が投影したマグダラの聖骸布を奪うように受け取ってから―――。
泣きながら拳を振りかぶられた……。
「いやああああ―――!!! 年下の男子に初めて裸体を見られたぁあああ!!!!」
「ぶげらっ!!!」
変な悲鳴を上げながらも楼蘭―――『フローラ』さんのアッパーカットで吹き飛ばされる……吹き飛びながらも考えることはひとつ。
―――アイリよりもバストサイズがあるぶんスタイルいいんだな……。
そんなアホなことであった……。