魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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あれが喪服の可能性があるとは、いやはや2090年代の服装と言うものは、すごいな(え)

今回、久々にタグを使ったのですが、もう少しよくしたかったなぁと思ってしまいます。


第144話『それぞれの立場―――祭りの前夜』

 刹那とリーナ、そしてカゲトラを帰すと、九重寺には、いつもの面子―――といえばいい三人が残った。

 

 というよりも達也が残ることを希望したのだ。

 聞きたいことは刹那に対してだけでなく、この作務衣を着た僧職の男にもあったのだから……。

 

「なにか聞きたいことがある。そういう顔だね達也くん?」

 

「ええ。いい機会だから、この際聞いておこうと思いまして……師匠。二学期が始まった直後。おおよそ我々の側からすれば、ダ・ヴィンチ女史の一高就任、生徒会長選挙の頃の話ですね」

 

「あの時、先生は―――二人を呼びつけて、『何』を為さっていたんですか?」

 

「それは秘密―――などとお役所仕事で終わらせるには、二人とも殺気が籠もってるねぇ」

 

 二人の『四葉』としての顔を見て、八雲は苦笑せざるを得ない。確かに、自分と彼らとの関係は良くも悪くもない。

 達也が所属している『軍』の部隊に自分の弟子がいるからこそ、彼らの『秘密』も知っているだけだ。

 

 まさか四葉を連れてくるとは思っていなかったが、それでもこれもまた人生なのだろうなと思うぐらいには、八雲も一廉の人物であった。

 

 そんな蜜月の終わりになるかもしれない二人の問答、苦笑してしまう。

 

 だからこそ、教えるべき情報を―――教えておくことにした。

 

『二重螺旋の階梯を紐解き、世界に亜霊種を解き放って、百の年月を数えた世界へ……。

 螺旋の中に隠されし『杯』に縁を結び、世界に変革を齎すもの訪れる。

 人の理のみを紡ぐ世界に、星の理を説き、那由多の力への扉を叩くもの。

 其の変革者、遥か遠き地より訪れし―――『左手』に世界を穿つ剣を持ち、『右手』に世界を創造する剣を持つ稀人。

 変革者の来訪は、希望だけにあらず。

『世界の裏側に逃亡』した『破滅を望む者達』の希望にもなりえる禁忌の果実。

 光と闇、生と死、希望と絶望―――全ては糾える縄の如く、見えぬものなり……。

 変革者は立ち向かう。

『亡者の王』、『六つの暗黒』、『闇の到来』に立ち合い、『七つ夜の者』と立ち向かった事が、その心を突き動かす。

 恐れるな。恐れれば、それは『獣』を呼び覚ます。人の世(人理)を安定させるために亜霊種を駆逐する。

 世界の破滅と安定は表裏一体―――『完全なるもの』に、『不可能』を告げる『宝石剣』が混沌とした世界を変えていく……』

 

 告げられた言葉は、なにかの呪文のようにも聞こえる。予言詩の類なのだろうが、随分と朗々と唱えられて、二人は息を呑んでしまった。

 

 恐らくこれは、八雲が小さい頃から聞かされていたことの類なのだろう。

 それぐらい何も見ずに諳んじれる類の文章。そして文言の不穏当さに、誰を指すのかを「はっきり」と理解した達也だが、その予言は若干、外れているのではないだろうかと思える。

 

 確かに、予言―――ノストラダムスの大予言、ファティマ第三の予言、聖徳太子の書いた未来記……多くの預言書が残されているが、これらは大した意味を持たない。ある種の『こじつけ』染みたものも多い。

 そもそも現実生活においても、自分が読んでいた、書いていた創作物のネタ、コメディアンの茶化した言動など、様々なところで「リンク」を感じる時はある。

 

 それは無論、その人間が、自分と同じようなモノを見て、同じような感想を抱き、もっと言ってしまえば『パクった』言動なのかもしれない。

 要は―――、真面目に考えると、どういうところで自分の考えや言動が『連結』するかはわからないのである。

 

「いやいや、それも確かに一つだ。恐怖の大王アンゴルモアも、実はモンゴル帝国、『元』の襲来だったのではないか、そういう説もある。

 けれど、達也くん―――君は、ある種の『未来視』をしたはずだ。

 僕に、ここで語ってくれたね?」

 

「聖遺物、ドリーム・キャスターによる影響ですか?」

「そう。君の高すぎる知能と、ある種『世界を視る』という機能に特化した身体の全ては、友人の未来を十二分に予測した」

 

 即ち『予知夢』。そんなものを九重寺の先代たちは見て、そして信じてきたというのか……。

 

「この予言を残した七夜当主を境にして、僕たちは九重を名乗るようになる。

 当初こそ、先代たちは、この予言を『何のこと』か理解できなかった。だが時を経るにつれて、この予言が『現実』に即したものだと気づいていく―――、あとは、『稀人』の到来を待ち望むばかりだったというわけさ」

 

「けれど遥か遠き地……その御当主にすれば、北米大陸は遠いところだったのでしょうが……随分とピンポイントな」

 

「うーーーん。やっぱり深雪くんは、どこまでいっても『現代魔法師』なんだねぇ」

 

「論理をブレイクスルー(限界突破)するには、中々に頭の固い妹なので」

 

「あれ? 先生、お兄様? 私、なにか勘違いしています?」

 

 頬を掻いて苦笑いをする八雲、同じように苦笑しながらも、少しだけ優しげな達也。

 

 そんな達也ですら……。

 

『過去の英雄を召喚する術があるならば、過去世界から人間一人がやってくるぐらいは出来るよな』

 

 という『微妙』に間違った結論を出して納得してしまっていた。さもありなん、まさか異なる『人類史』を『俯瞰』で観測できる人間などそうそういない。

 彼らにとっては大なり小なり、『魔法師』という存在が『確実』な世界こそが、正しい人類史だと思えているのだから。

 

 ・

 ・

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「明日は速く出るようだな。アラームは早めのセットだぞ」

「イエース! まっかせといて♪ ミルクも完備、ポットの湯のタイマーもオッケー! あーちゃん会長より任された翻訳のための器具も万全!」

 

 流石はマイステディ。何か最近、しっかりしてきてすごく嬉しい反面、お世話し甲斐がなくて残念。

 

 ただ指差し確認までせにゃならんか。やっぱり歴戦の魔法師全てを統括する……総隊長という職をいきなり与えるのは、無理だったのだ。

 言っては何だが、軍の官階に即した職責を与えるべきである。バルトメロイ・ローレライのように、困ったことに一人で突っ走る人間になるのだ。

 

(まぁ俺も人のことは言えないか……)

 

 思い出すに、そういうことである。誰しも未熟者。だからこそ積み重ねていくしかない。

 

 そう述懐していると……。

 

「星晶石ヨシ! 泥棒猫を圧倒する可愛い下着ヨシ! ついでに言えば、セツナとの愛のメモリーも万端!!!」

 

「何をしに横浜に行くんだ―――!?」

 

 頭を痛めそうなリーナの『遠足準備』に遂にツッコミを入れると、ようやく止まるリーナ。

 

「だってー、どう考えてもナニカあるわよ? さっきの大佐からの通信も含めれば、悪い予感がビンビンだわ」

 

「ああ、そりゃ俺だってそう思うが、後半2つは必要なのか?」

 

「大いに必要だわ」

 

「おおう……そこまで自信タップリに言われると何も言えねぇ……。

 まぁ、もう少し仲良くしてくれよ。

 俺に近づく女、全て排除していたらキリなくないか?」

 

「それもまた真理よねぇ……けれど! アカラサマすぎよ! アイリは!!!」

 

 もっともである。最初の出会いが『アレ』だっただけに、嫌われるのが常道だと思えていたのだが、存外、この世界のお嬢というのは苛烈かつ気高い存在ばかりだ。

 

「それに―――セツナだってある意味、お坊ちゃんじゃない。地元じゃ大地主(Real Estate Mogul )の息子だったんでしょ?」

「もう帰れやしない場所でのことに、何の意味があるんだよ? まぁけれど、そういった心は持っておきたいね」

 

 人の所作での優雅さは失われたとしても、気品としての優雅さは持っておきたい。心の優雅さ―――即ち、力あるものとしての責務ぐらいは。

 

「それは誰しも同じだろ? 俺も君も―――な?」

「むうう。いつの間にか後ろから抱きしめられてるぅ。こんなことされたならば、許したくなっちゃうズルい男!」

 

 パタパタと腕を振って逃げようとするリーナを、逃さないように、それでいながらも本気で逃げれば―――という力加減で抱きしめておく。

 抱きしめながら……此処にいる。と耳元で囁いて安心させることは忘れない。

 

「何か大きな騒動が起きるたびに、ワタシはすごく心配なんだから―――」

「分かってる」

「だから―――一人で戦うことを良しとしないでね。これが最後の『確認』よ。ONLY MY LOVE♪」

 

 指差し確認―――そのつもりか、振り向いて人差し指を刹那の唇に当てる妖艶な表情と、ウインク一つを浮かべるリーナに呆然としてしまう。

 

 そうしてから、少しだけ強く抱きしめる……忘れてはならないものは、いつでも側にいるファーストスターなのだから。

 

 そうして―――久々(3日ぶり)に……『致そう』とした時に、襖の『ハザマ』から覗き込む眼が一つ。

 眼は、眼だけでおどろおどろした空気を醸しながら口を開いてきた。

 

「ますたぁああ。明日は、決戦なんですよぉおおお。それなのに『精も根も』尽き果てそうなことをしてどうするんですかぁあああ?」

「「こ、こええええ――――!!!」」

 

 決して大声ではないが、独特の声とサイコな眼で見ながら言ってくるランサーに、二人して飛び退く。

 

「全く、戦の前に後顧の憂いを無くすためだからと、交合するのは確かにあるのでしょうが―――そういうのが、戦における気の迷いとなるのです!!

防人(SAKIMORI)としての勤めを『う゛ぁーじにあ殿』からも言われたならば、それに従いなさい!!」

 

 くわっ! と眼を見開いて『金目』を見せてくるカゲトラ。正直言えば気圧されてしまう。

 

オカン(ヒナタ(?))か!?」「ツバサ(?)か!?」

 

「意味の分からない言動は結構! さぁ、今は寝る時ですよ!! 寝る子は育つ! でなければ、常在戦場で生きていけませんからね」

 

『いやぁ久々に帰ってくると、中々に面白い場面だねぇ。ロマニの自宅から朝帰りならぬ夜帰り―――うん、普通だな。というわけでマスター! 君は寝たまえ!! 明日は否応なく戦争なんだからな』

 

 騒がしい魔法の杖の帰還で、寝たいのにさっぱり寝られないという状況の中、明日には―――誰が望んだか分からない『戦争』が始まり、其の横では―――魔法師たちの未来を決める『戦争』が始まるのだった……。

 

「というわけでマスター、酒に合う肴を所望します♪」

『私にも、一つよろしく頼むよ♪』

 

 寝かせたいのか、寝かせたくないのか―――微妙に分かりづらい一人と一振りに振り回されながらも、その日は近づくのだった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「ではでは『明日』に障りますからな。今日はこの辺りでお暇させていだきますよ。葛葉殿」

「ええ。陳閣下こそ、殷周革命の武王『姫発』殿のような武功を挙げられることお祈りしていますわ」

「ありがたい。但し、横浜には近づかぬよう……よろしくお願いいたします」

「心得ております」

 

 そういうやり取りの後に、酒を傾けていた陳祥山は、い草の香りがある部屋から出ていく。古風な日本屋敷―――それも上客をもてなすような部屋に一人残った女は、薄く笑みを浮かべて、控えていた人間を呼びつける。

 

「お膳立てはしてあげました。後は、あなた次第ですね。貴人」

「……何のために、こんなことを? アナタにとって人間など、ただの雨後の筍のごとき存在のはず。前から思っていたが、アナタのやり方は迂遠すぎる……『妲己姉様』……」

 

「私に噛み付いてくるなんて、可愛い義妹だこと―――簡単な話ですよ。私もご主人さまのために、効率よく『殺したい』だけ。『彼女』の願いはただ一つ……自分に幸なく、『未来』を閉ざした世界など―――焼き尽くされてしまえ。煉獄の釜の中で、全てを燃やし尽くしたい。

 それだけなのですよ――――」

 

 扇を開き、口元を隠した着物姿の狐女は、現れた―――自分の似姿とも言える義妹に言い募る。

 

 義妹は不機嫌さを隠しもせずに睨みつける。多くの(第2要素)を喰らい、その規模は上がっている。うまく行けばランサー相手にもいい勝負は出来よう。

 

「蠱毒の陣にて、アナタのマスターとアナタ自信も高まった。あの男は、全ての存在の鍵なのですよ。

 破滅をもたらしかねない『魔王』を抑え込み、人理版図が広まった世界に、新たな『テクスチャ』を植え込むための……ね」

 

 その言葉に、妲己の眼が笑みを作る。それだけで――――もはや、大亜の工作部隊。ガンフーの仮宿は既に崩れ去っている。

 

 陳は死ぬ。今日に至るまで、あの男に投与されていたものは、容易くあの男を『怪物』に変貌させる……。

 

 そんなことは分かっていながら、窓辺に佇む狐を止められなかった貴人は、苦々しい想いで見ながらも……狐は意に介さず、月夜に手を差し伸べた……。

 

「さて、私はアナタの求めるままに、欲した通り、この世に地獄を作り上げます―――そうすれば、アナタの失われた『未来』を、アナタに差し出すことも出来ましょう……アナタが感じた嘆き、痛み、絶望、全てを、抱きしめることもしなかった―――あの男に返すことで……」

 

『朱い月』が中天に浮かぶ世界に、哀しき狐の孤独な嘆きが『真の夜闇』に溶け込む……。

 

 地獄の顕現は起ころうとしていた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「はぁ、折角、都内に来たというのに……セルナと会えないだなんて」

 

「前日入り出来ただけ十分だろ。俺だって司波さんに会いに一高に行きたかったんだからな」

 

 お互い様だ。と言い合う男女二人。どちらも『美』がつく少年少女なのだが、生憎……関係性としては、ただの友人だった。

 

 ホテルの廊下を歩みながら、窓に映る外の様子を視る。

 

 眠らない街、東京―――、徳川家康が海を埋め立て、多くの巨費を投じて、寒村がいくつかある程度も同然だった土地を世界に冠たる巨大都市に変じて―――その基盤は、江戸という時代を超えても今だに根付いて、この土地をその地位から貶めていない。

 

「それで、わざわざ私を呼び出して、二人っきりになりたいだなんて何の用?」

 

 一色愛梨の険ある視線が届くも、構わず一条将輝は、ドリンクサービスにて一色が好んでいるジュースを選択して手渡しておく。

 

 同時に、将輝もドリンクを手にとって口に含みながら話を進める。

 

「華蘭さんのことは、何ていうか災難だったな。ウチのOB達ですら騙されていたことを考えれば、な」

 

「お陰で、お兄様ならぬお姉様は、ひっきりなしに『見合い話』『婚約話』が飛び込んできてるわ」

 

 男ってば単純。と蔑むような愛梨の呆れたような表情に、自分まで一緒くたにされるのは心外だと思いつつ、将輝は話を続ける。

 

「お前も察しての通り、華蘭(フローラ)さんが、千葉さんの兄貴が遭遇した『怪異』は、周知の事実だ……横浜にて、何かが起こると誰もが睨んでいるよ」

 

「誰も、と言いましたが、それは魔法の名家だけ―――、そういうことね?」

 

 今の先輩方に血生臭い鉄火場、修羅場に対する対応力など無いだろう。

 それはナメた言い草、考え……というよりも適材適所。それを考えての話である。

 

 そんなことにならなければいいのだが、現実には何か良からぬものが蠢いているのは間違いない事態なのだ。

 

 即座に刹那を招集して事情を聞きたい十師族だが、それはシャットアウトされた。

 

「私も別に実戦経験あるわけではないのだけれど?」

 

「お前ね。『カレイド』の力を存分に使っておいて、それはないだろう……」

 

 三高での破茶滅茶な日々を思い出して、げんなりするように言う将輝だが、対する愛梨は誇るようにする。

 

「冗談よ。それに……ようやく――――私もセルナと同じ土俵に立って戦えるわ―――」

 

 今までは分からなかった。アンジェリーナの言う力の在り方。そして、遠坂刹那の隣りにいるという意味。

 

「絶対に負けない。振りかざした黄金の輝きは、閉ざされた夜を拓く刃―――」

 

 力の意味を履き違えているあの女には、絶対に負けないのだ。

 

 誰もが待ち望む祭りの日は、近づいていく―――。

 

 

 


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