魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
というわけで、少し傷心ぎみです。(苦笑)
あちこちでは、文化祭の準備のように様々な大荷物を解いたり、広げたりして、とてつもなく忙しない。
午前発表の連中が殆どだが、中にはそれでも間に合わない連中が突貫作業を行っているようにも見える。
「はい。確かに―――それじゃ発表までに、翻訳作業を行わせてもらいます」
「ワタシもいますので
どちらかといえば、リーナが笑顔を見せたほうが安堵するらしく、男の主発表の学校は、そちらの方がつべこべ言わずに提出すること多かった。
最初に行った七高の連中は、あからさますぎた。とはいえ、主研究内容の翻訳作業のためとはいえ、先んじて他校の生徒に見られるのは色々と嫌なものがあるのだろう。
美少女の笑顔で、嫌な表情させずに提出作戦にすることにしたのだ。もっともリーナ一人では、男女混合の研究チームで変な軋轢も生まれそうだが……。
そんなこんなで、午前発表の学校から、それらを受け取り翻訳作業へと勤しもうかと思った時に、金と銀の金属ゴーレム(メイド姿)を引き連れてキョロキョロしている少女を見つける。
「シャオ―、どうしたの?」
「リーナお姉さん、刹那お兄さん」
少し遠くにいたので、リーナが大きめの声で呼びかけると、気づいたシャオことリーレイがやってきて、リーナの髪撫でを受ける。
わしゃわしゃという勢いのそれを受けて、セットした髪を解かれてしまうリーレイ。
「お嬢様」
「私たちにお任せあれ」
決して嫌がっていたわけではないが、それでも髪を解かれたことで、メイド二人は即座に髪を撫で梳いて、己の主人の身支度を完了させた。
「見事なものだな」
「刹那お兄さんのお陰。二人の繊細な動きに『人体構造』の模倣を徹底させろって言っていたじゃない」
「ごもっとも。『トリムマウ』を思い出しちゃったからな。指導に熱が籠もったよ」
呆れるように肩を竦める。とはいえ、ここ最近の弟子の中では一番スジがいいのも事実だった。
やはり現代魔法に沿って力を蓄えてきた人間よりも、古式魔法の中でも、もう少し霊脈にそった力を使う系統の、大陸系の古式は相性が良かった。
ともあれ、何故ここにいるかを問うと、一枚のチケットを提示してきた。
デジタル万能の時代にあって、紙の認証型のチケットは、その実、かなり複製が容易ではないので、招待したい相手を選別できる。
つまりは、リーレイの出したものは、『超VIP』だけが持てるものなのだった。
「へぇ、来賓席のチケットか。こういうのって多分だけど、魔法師―――特に日本の名士なんかに、渡されるものなんじゃないかな?」
「爺ちゃんが、『とある伝手』から譲られたものだって言っていたから、これさえあれば、今日の論文コンペはフリーパスだって」
「九校戦と違って楽しくはないと思うけど?」
「それでも、何かしらの勉強の機会になるから、行って来いって。つまらなければ、帰ってきてもいいって言われた―――。何とか周を捕縛出来るように、爺ちゃんも何かするらしいから……」
敏い子である。孫を危難に遭わせたくなくて、今日……一番、安全な場所に行かせたことを理解しているようだ。
だが、こことて修羅巷からそこまで離れていないのだ。飛び火はあり得る―――よって、劉師傅の意図を汲み取る。
「それじゃ、今日はワタシたちと一緒にいましょう。マイゴになってもマズいからね?」
「それでいい? 疲れたならば仮眠室なんかに連れていけるから、俺としても安心かな」
「多謝! 今日一日よろしくお願いします」
勢いよく頭を下げるリーレイに顔を上げさせてから、金属メイドを引き連れて、適当な作業場所としてカフェラウンジにでも行こうかと思った時に……。
「セルナァアアア!!! 会いたかったですわ―――!!!」
などと警備部隊の腕章を付けた金髪の乙女が、廊下を曲がった先からやって来たのだった。
周囲にいる全員が唖然とするほどに、有名人の相好を崩しながらも、完璧な魔力の『走行』を見て、狙いを悟った全員が納得したのだが……。
「踊り子さんには手を触れないでくださーい♪(怒)」
「そんな道理! 私の無理でこじ開ける!!(怒)」
当たり前のごとく対物障壁を築いて乙女―――、一色愛梨の突進を受け止めるリーナ。
「タチの悪い客にはゴタイジョウ願うわ!!!」
「断固断らせてもらうわよ!!!」
無論、愛梨も五指―――その爪に塗ったマニキュア……ある種の呪的加工を施したものに魔力を通して、リーナが築き上げた『堤』を崩そうとする。
リーレイは、その激突の様に眼を輝かせるも、これ以上は公共の迷惑ということで、仲裁をする。
「待て待て待て! なんでいきなりバトルするよ!! とにかく!! メールやら対面での通話を除けば、久々だな愛梨。元気にしていたようで何よりだよ」
「セルナ……私も一日千秋の想いでアナタに焦がれてました……」
「そのまま焼け死ねばよかったのに」
「リーナっ」
手を組んで上目遣いで刹那に言ってくる愛梨に、あからさまな悪態を突くリーナをきつい目で窘めてから、様子を伺う。
見ると愛梨の後ろには沓子もいて、気楽に手を上げてくるので、手をあげて挨拶しておく。どうやら三高の警備部隊に彼女も登録されているようだ。
「警備部隊か、男女差別するわけじゃないが、よくやる気になったな」
「昨今の横浜は、騒がしいですからね。危難に即応出来なければ佐渡ヶ島の二の舞になります」
意識高い愛梨の言動に確かとも言えるが、事態は彼女の想像を超えた修羅場になりそうで、正直言えば巻き込みたくないのだが……。
『フハハハ―!! 意味もなく高笑いを決めて、余は、再登場するのだった!
なんというか高い建物というのはよいものだ!! 東京タワー(?)で対峙しあうのが、アーサーと英雄王ならば、余も東京タワー(?)で、CLA○P作品のお決まりの如く戦うのだ!!」
などと意味不明な言動を決めながら、飛び回る魔法の杖の基部。朝っぱらからテンションたけーな。と思いながら、どうやらそれなりにカレイドライナーとしての力は鍛えてきたようだ。
「成る程。あの魔法少女衣装を着込んでまで、カレイドステッキの『力』は分かったようだな」
「ええ、少しばかり恥ずかしかったですけど、これも愛の試練と思えば……」
「と言いながらも、愛梨は結構、気に入っているようじゃったがな」
「沓子!! 西城君に会えないからと、そのようなことを言わない!!」
そんな理由でツッコミを入れられた愛梨を不憫に思いながら、ジト目を向ける沓子には、レオたちは一高発表の午後からやって来ることを告げておく。
「なにはともあれ、セルナもリアルタイム翻訳員としての勤め、頑張ってくださいね?」
「ワタシにはないのかしらー?」
「セルナの足を引っ張らないでくださいよ、ヤンキー娘」
そして再びガンを着け合う二人。勘弁してほしい想いでいた所に、沓子の疑問が飛んでくる。
「ところでじゃ刹那。お主の後ろにて金属の『化生体』……有り体に言えば『ゴーレム』に体を預けている幼子は、誰なのじゃ?」
確かに、このティーンエイジャーひしめく会場内に、ローティーンになっているかどうかの幼女は奇異に見える。
沓子自身も、場合によってはJCどころかJSにも間違われそうだが、という内心を呑みこんで、沓子に説明しようとした瞬間―――以心伝心。どうやら、リーナと『悪だくみ』が成立したのを感じる。
基本的にはいい子で、真面目すぎるリーナの『あくまっこ』な部分。
言うなれば、『あおいあくま』か『きんいろのあくま』な部分―――要するに女子特有の『稚気』が発動するのだった。稚気の代行はリーレイからであった。
「はじめまして、遠坂レイと言います。いつもパパとママがお世話になっています」
ぺこり。と少女らしいお辞儀に『作ってみせた笑顔』。リーレイとリーナ(刹那の口を閉じる)がおこなったイタズラに対して、沓子はそんなわけないじゃろ。と苦笑してみせたが……。
肝心要のアイリはというと……。完全に空気を凍らせていた。アイリの周囲の空間にひび割れが入ったイメージのあとには―――いつぞや送っておいたアゾット剣を取り出して、わなわなと震える。
「も、もはやセルナを殺して私も死ぬしかないのでは―――」
「待て待て待て!! (本日二度目) なんでそこまで思い詰める!? というか色々と飛びすぎだろうが!?」
そんなわけがないとか、本当に本当なのかを誰何することもなく、アゾット剣を両手で構えるアイリに対して、思いとどまるように言う。
「一応言っておくけど、セツナは致命傷を食らっても、
「なんで煽るんだよ。お前も―――!!」
目のハイライトが消える。いわゆるレイ○目とでも言えばいいぐらいに、今の一色愛梨は正気ではないと感じた。
能面のような顔に、正直怖い思いである。というわけで、懇懇と1分―――いや、5分以上を掛けて説明すると、ようやく落ち着いて、アゾット剣を下ろして胸を撫で下ろす愛梨の姿に安堵する。
「そりゃそうですよね。セルナの歳で、こんな大きな子供がいたらば変ですもの」
「全くもってソノトオリデス」
ただ此処に来る前に、ちょっとした『覚え』はあったりするのだ。いや、あの時の時分は18歳にはなっていたので、ギリギリセーフで『当たってるか』どうかすら定かではないのだが……心残りを一つ思い出す。
『セツナ、アンタが封印指定されるのは仕方ないし、もしかしたらば、ホルマリン漬けにされるのもしょうがないかもしれないけど……とりあえず! アンタが子供の頃から面倒見てきた『お姉ちゃん』に『何か』残していきなさい!!
ミス・バゼットに保護者権利を奪われて、更に言えば私の家にあんまり寄らなくなるし―――このバカアアア!!
『セツナ』という名前は、不幸の象徴かぁあああ!!!』
などと様々な場面で、暴走しがちな『おでこ』の魔術刻印を輝かせる銀髪の姉貴分を宥めつつ、何度目になるか分からぬ『哀しい愛』をささやくしかなかったりしたのだ。
「「何か覚えでもある
「イイエソンナコトハナイデスヨ」
(なんで片言?)
リーレイのそんな疑問を置いておきながら、愛梨をからかったことを謝らせると、愛梨も苦笑しつつ、許したようだ。
「内弟子扱いとは厚遇の限りですね。ちょっとレイちゃんが羨ましいです」
「ワタシとセツナがシネマクラブデートをした時に知り合ったんだよね?」
それ念押しすることかな? と思うも、リーレイはそれに対して喜色満面で「うん」と頷く辺り、完全に妹分になっちゃっているのだった。
その様子を見て一色愛梨に火が灯る。
「この『だら』が……ええかげんにせんと、本当に後悔させちゃるがいね……!」
鎮火したはずの炎が湧き上がる愛梨の様子に、ビクついてしまう。というか方言出ちゃってるし……、沓子に言語の翻訳を頼む。
「だらって何?」
「わしらの郷里、金沢の方で、『クソ』『バカ』『アホ』など、東北弁で言うところの「ほでなす」とか、そういった意味じゃ―――愛梨はあのビジュアルの割に、地が出る時には方言も出るのじゃ」
けらけら笑いながら説明する沓子に、何とも言えぬ気分になる。
ギャップ萌えというやつだろうか。とはいえ、『ポルカミゼーリア』という言葉と同じだな。と思いつつ、そろそろ職務に戻ろうと思う。
「とにかく、俺も君も、今日は仕事を万全にこなそう! お互いにベストを尽くそう! なっ?」
ということで拳を出す刹那。グータッチをして気合を入れる―――そういうことを企図したのだが……。
「……はい、この手は一生包んでいきます―――」
「なんでだぁああ!?」
両の手。少しだけゴツゴツしている『がんばっている女の子』特有のそれに包まれて、そのまま胸元に持っていこうとする呆けた愛梨に抵抗をする。
「Don't touch My steady!! セツナを誘惑するんじゃないわよぉ!!」
愛梨との間を引き裂くように、セツナを腰ごと引っ張るリーナ。たわわな胸の感触が、ものスゴイのだが、周囲の視線の痛みもプラスされて、
なんかそれどころじゃなかったりするのだった。
「高校生ってスゴイなぁ……私もいつかは、こんな青春を送りたい……」
「お主、肝が太いの……」
そんなこんなしている内に、彼女らの同輩たる一条及び藤宮がやってきて、騒動は収束するのだった。
どうやら騒動を聞きつけて、ストッパーを寄越したようだった。
だが、そんなストッパーですら……。
「司波さんが来たらば、一報くれよ!」
「もれなく達也が付いてきても、構わない?」
「……か、構わない! いや、構わないんだよ!!!」
好漢の面構えを崩して、そこまで断腸の思いで言葉を出さにゃならないのか、と呆れつつも、何とか三高の襲来は去るのだった。とてつもない驚異であったが、ともあれカフェ・ラウンジに向かうことにする。
「なんだか、再び面倒なのにエンカウントしそうなんだよな」
ただ単に歩を進めていっているだけだというのに、なぜだか嫌な予感がビンビンする。魔術回路が自然と励起して、予測演算をしてしまう恐ろしさ。
だが、そんなところでも無ければロクに作業出来ないのも一つなのだった。
そんなわけで、カフェラウンジに入ると同時に見えた光景は―――。
茶の髪色をした美女二人がガン着けあいながら、コーヒーを呑んでいる姿だった。
もう何度目になるかわからない
「と、遠坂くーーん。た、たーすけてぇえええええ!!」
「お、お久しぶりです二人ともぉ。He,Help meeeeeeee!」
鬼のような姉。姉という名の鬼のサポーターなのか、小野遥教諭と、ミカエラ・ホンゴウとが泣きそうなぐらい縮こまりながらも、二人の間で小動物となっているのだった。
うん、なんでさ。
とはいえ、あまりにも不憫なので、連絡なしに来日していたシルヴィアと、少し前までは男連れだった藤林響子とにリーナの一喝が飛ぶ。
「もう! そんな風にケンカばかりするならば、二人ともキライになりますよ!!!」
いきなり出てきた『お姉ちゃんキライ』という言葉に、二人は衝撃を受けたようだ。落雷のイメージ図。具体的にはスクリーントーンの効果が背景にあるかのようだ。
もはやアネキングどころかエレキングになりそうな二人は、姉としての立場を堅持するべく、和解を果たして、サンフランシスコ講和条約発効(?)をするのだった。
「キョーコはともかく、シルヴィが来ているだなんてワタシ知りませんでしたよ。ミアもお久しぶりです」
「急に言われたもので。まぁ連絡もなくて申し訳ありませんでした。
しかし、大丈夫です! お二人の勇姿は、余さず撮らせてもらいますよ!!」
「いや、俺たち翻訳係なんですけど?」
勢い込むシルヴィアに言うも、それもまた一つのメモリーと譲らぬ様子である。どんな学校行事であろうとも、自分の関係者がいる場所こそがメインステージ。
そういう理屈なのだろう……殆どオカンのアレなのではあるが……。
「ただの大亜連の部隊ならば、あなたたちと現地協力者でどうにかなりましたが、私とミアは転ばぬ先の杖と思っておいてください」
「それで私まで連れてくるのは間尺が合わない話ですね。こういうのは、『マーブル』と『シグマ』向けなのではないですかね?」
笑顔で言うシルヴィアとは正反対に、恨みがましい表情のミア。
二人の手が空いていなかったからこそ、ミアにお鉢が回ってきたのだろう。恨みがましい眼をしているのは、『パラサイト』の新作映画を見れなかったからだろう。
エクソシストに代表されるように、あの国は
まぁ本物のエクソシストなんてそうそういない上に、エクスキューターどもはろくでもない連中ばかり。地獄だわぁ(泣)
USNAからの口が閉ざされると、そのタイミングを図ったかのように、響子が先程とは少しばかり違った口調で語り始める。
「先程は、寿和さんがいたから口を閉じたけど、事態が『深刻』になっている可能性があるわ―――いざとなれば、『リーレイ』ちゃんは、私に預けなさい。いいわね?」
その響子の言葉の裏側にあったものは、自分に矢面に立てという要請であり、リーレイ……及び劉師傅が繋がっている人間を察することが出来た。
「リーレイはそれでいい?」
「出来れば刹那お兄さんと一緒にいたいですけど……そういうことならば……従います。藤林女史に」
顔見知りであったことに、特に疑問を抱かない。あの御老体ならば、それぐらいは出来そうだからだ。
「それじゃ、何事も起こらないことを祈りつつ、何か食べながら作業するか、つまらないと思うけど大丈夫?」
「
響子やシルヴィアなどよりも、歳が近い自分たちと一緒がいいというリーレイの様子に、頭を撫でてから、ホクザングループ出資のスイーツショップにて甘いパフェを頼むのだった。
とはいえ、完全にリーレイの相手を出来ないわけではなかったのは、刹那もまた年長組に世話されてきたからだろう。
あの頃の自分を思い出す―――人と人は違う形で繋がっていける。その為の発表。達也が言う『魔法師が人間兵器から脱するため』―――その際に、果たして、どれだけその観点に、普通の人々に対する目線が入っているのか。
多少の疑問を含みながらも……論文コンペの午前部門は、滞りなく終わりを迎えて―――波乱を含む午後部門は始まろうとしていくのだった。