魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第147話『英霊強襲』

 横浜論文コンペ午後の部。この辺りになってくると、九校戦でもあれこれ見知った連中が、あちこちに溢れ出す。

 要するに正しい意味ではないが、『文武両道』の面子が、現れだすのだ。

 

「みなさん、色々と魔法を違う方向に進めたいんですね」

「よりよい明日を求めるのは生命の性だ。とはいえ、魔法はどうやっても荒事用のツールであることは間違いないからな」

 

 ダイナマイトを発明したノーベルとて、壮年の頃ならばともかく、晩年には、己の発明が多くの人命を奪ったことを悔いているところもある。

 

 魔法師が世の中に溢れて、核抑止の『人間兵器』としての意義を薄れさせつつある時代。戦略級魔法という、等価交換の原則を無視した『(ソラ)の理』を外れた『技術』が開発された世界においては、それだけではない道を模索したくもなる。

 

 突き詰めれば、そういうことだ。

 

「誰もが望むべき『位置』にたどり着けるわけじゃない。ただ、それを目指さざるを得ない。

 魔法師……魔法使いとしての『進歩』は、最終的には『他の魔法使い』よりも強い力を持つこと―――どれだけ法や倫理で取り繕っても、他を圧倒して『超然』とした『絶対者』になることだけが、魔法師の存在価値なんだからな」

 

「爺ちゃんも言っていた。本来ならば『術』は、全ての人間を高次の世界、仙人さまの領域に近づけるためのものだったはずなのに、ただの人殺道具に成り下がって、生臭い限り―――。

 けれど仙境が失われた現代では、そうすることでしか生きていけない。

 瞑想し、佇む。霞を喰らい、飢えをしのぐことは、もはや出来ないって――――いまいち分からなかったけど………」

 

 頭がこんがらがっている。と言わんばかりに頭を振るリーレイに苦笑してしまう。

 

 だが、言葉を覚えている辺り―――それが大切なことだとは理解しているのだ。

 

 もきゅもきゅとハンバーガーを食べるリーレイ。

 昼食時間は、何処も混んでいる感じだと思っていたが……やはり遠方から来た人間も多いわけで、国際展示場に併設されている飲食店よりは、外のグルメな店で食べたい人間が多かったようだ。

 

 一番、困ったことは……。

 

「セツナの料理が食べられると思っていた人間が多かったことねー。流石に、今回はムリよ」

 

 フィッシュバーガーを口に含む前に、そんなことを言うリーナ。事実、そのとおりだった。

 

 調理場も用意されていない上に、ファストフード店の殆どは、全自動化された機械による簡易調理が徹底されている。

 そんな状況で何が出来るというのか、まぁ港で魚を釣り上げて、太閤秀吉仕立ての焼き魚―――出身によって振り塩を変えるぐらいしか出来まい。

 

「愛梨お姉さんは、それでも構わないみたいなこと言ってましたね?」

 

「彼女のお姉さんと釣りをして、魚をごちそうしちゃったからな」

 

 それでだよ。と苦笑交じりにリーレイに言ってから、ダブルチーズバーガーを食べて、完食とする。

 腹八分か六分。そのぐらいで収めておかないと、今後に触る。そういうことだ。もちろんリーレイには特に言わない。

 

 リーナは軍人としての意識でなのか、流石に六分で留めておいた。

 満腹ゆえの思考の乱れを抑制するためだ。

 

 そうしていると、モノホンの軍人の一団が、一応は私服で来たのだが、どう考えても『自分』目当てで有名人が来ているとしか見れなかったようだ。

 

「響子さんの部隊って、一応は秘密だったのでは?」

「別に知られたからには親兄弟といえども殺さざるを得ない―――なんて、古臭いニンジャ映画や漫画じゃあるまいし、無いわよ」

 

 藤林響子を筆頭に、千葉修次と一色華蘭とがやって来た。所属を明かしたかどうかは不明だが、とりあえず二人は指揮下にあるようだ。

 

 肩を竦めて呆れるような響子とは反対に、フローラの方は少しばかり申し訳ない様子だ。

 

 今朝の騒動は既に伝わっていたのだろう。

 

「ごめんねー、何ていうか愛梨ちゃんは、いつでもあんな感じで―――」

 

「「「イノシシなんですか?」」」

 

「妹を猪扱いされているのに否定できないこの悔しさ!! どうしようもなくて刹那クンに抱きついちゃう!!」

 

 なんでさ。無言で思いながら、フローラの突進をルーンの障壁で防いでおく。苦笑しながら頬を掻いている修次氏ともども『要件』は分かっていた。

 

「依頼されていた『研ぎ』、『調整』は、済んでいます――――こちらが、ご依頼の品です。ご確認を」

 

 言葉でバーガーショップの机――――大人数が駄弁られる場所に、大きめのジェラルミンケース2つを置いた。

 その際に、銀と金が使用人よろしくの手際で、刹那に変わって開けてくれたのは、リーレイなりのちょっとした稚気だろう。

 

「―――うん。申し分ないな。本当に助かるよ」

 

「今まで使っていた『フルベルタ』よりも扱いやすい……」

 

 真の形態を振るえば、ここいらの連中が驚くだろうが、基底状態ならば、少々珍しい特化型CADを見ている風にしか見えないだろう。

 

 国防軍の剣士隊という部署にいる二人にとって、一番の得物が戻ってきたことは嬉しいのだろう。

 修次さんは若干違うだろうが……。

 

 ともあれ、2つともクチの悪い封印礼装を元にして作った、付与魔術師(エンチャンター)トオサカセツナの一品物である。

 存分に護国の為にズンバラリンしてほしいものだ。

 

「それじゃ代金」

 

「―――確かに」

 

 電子マネー払いで渡された金額は、言っておいた額よりも一割ほど多かった。流石は国防軍や警察……日本の治安機関に一定以上の発言権を持つ家である。

 

 公益ヤクザも同然である。シノギはたんまりあるようだ。

 

「それじゃ私の方も、愛梨ちゃんが迷惑掛けた分も含めて―――」

 

「支払いは電子決済でお願いします」

 

「いやいや、こういうのは誠心誠意、ちゃんと現ナマで手渡さないとね。感謝も謝罪も伝わらないものなのよ」

 

「ファーストコンタクトは最悪だった(ワーストコンタクト)はずなのに、なんでこうなっちゃうのかしらね……?」

 

「今まで男で通していたことで、抑圧されてきたものを出してしまう相手に、刹那くんを選んじゃったのね」

 

 九島の再従姉妹(はとこ)どうしの会話の合間にも、刹那の敷いた防御陣を砕こうと、一色華蘭(フローラ)の爪は突き立てられる。

 

(ブラダマンテとロジェロ―――栄えあるパラディン騎士団のエステ家の出身というのも、あながちウソではないかもしれない)

 

 魔術階位こそ現代魔術のスペックに落とされているが、その身体には、ある種の伝承口伝が伝わっているようだ。

 

 そんなことを解析して分かるも、これ以上は障りますよ。と言って落ち着かせる。

 

「むぅ。あの日釣り上げたウツボの感触を私はまだ忘れていないのに」

 

「すみませんね。あんまり節操ないと思われるのも、読者(?)から受けが悪いので」

 

 メメタァなことを言いながらも、本音を言えば―――年上の女が苦手なのだ。

 

 お袋を思い出して、養母を思い出して、小母を、叔母を思い出して……自分にはあまりにも『高め』すぎた銀髪の姉貴分を思い出してしまうのだ。

 

 星の魔弾を教えてくれたのも、あの人だった。だが周り曰く―――。

 

『私が彼女と会った頃の見立てでは、『5年』もすれば男は放っておかないとか思っていたが、その前に赤子の刹那(キミ)を見て、ショタコン趣味に目覚めたからな……。

 まぁ『変な男』に引っかかるよりはいいんじゃないか? なんだか『男運』悪そうだし、そのまま『爆死』しそうだし、キミにとっても、アニムスフィアの家に婿入りするのは安泰の道だと思うぞ?』

 

 勘弁願うわ。と心底ありえないと思いながら受けていた、ライネス講師の個人授業の合間の話を思い出す。

 

 歳が近い女性ロードだけに、親近感―――ようするに友情的なものもあったのだろう。同時に彼女の趣味を危ぶんでいた。

 

『まぁよく考えてみれば、だ! あのルフレウス老ですら、オルガマリーと出会った頃には既にジジイだったわけだし、その十年前には、ハタチそこそこの娘と息子がいたわけだ。

これがどういうことか分かるかー?  セツナー?』

 

 蜻蛉の眼を回すかのように、指先を眼前でくるくる回すライネス(あくまな笑み)に、考えたことを口にする。

 

 あのクソ嫌味ったらしい骸骨ロードですら、そういった『趣味』だったのかもしれない。

 ただ単に『母胎』との相性か、権力闘争とかでの人質とかを懸念しただけじゃなかろうかと付け足すと、『敏いな』と苦笑する性悪ロードであった。

 

 閑話休題。

 

 ともあれ―――刹那にとって年上の女は、どうやっても『泣かせてしまう』……扱いが難しい―――けれど、真に情を失えもしない『尊い存在』なのだ。

 

 そんなわけで、最終的にはフローラからのチップ(多め)をいただいて、抱きつかれるのはリーナに抱きしめられる形で回避できた。

 

「横から悪いが、ラン―――遠坂くんは無理じゃないか?」

「無理と言われると余計に私は燃え上がる。簡単な道よりも、困難な道を踏破することに意味を見いだせるんだ」

 

 言っていることは好感が持てるが、そのために他人の男を取ろうとするのは、如何なものかと思う。

 

 いや、本当に……。

 

 拳を握りしめてリーナを見据えるフローラ氏。勘弁してほしい。

 

 

 ……国防軍という来客が去ると、次にやってきたのは一高のインモラルティーチャーの一人。(二人目は小野遥)

 

 人妻で子持ちのくせに、その格好は無いだろうという安宿怜美教諭に連れられてきた……浅野真澄先輩だった。

 

「どうも、お加減は良さそうな模様で」

 

「おかげさまでね。……何か聞いている?」

 

「さぁ? ただ、あんたの試みは『為されてはならない奇跡』だ。

 多分だけど、甲先輩もおんなじ考えだと思いますよ」

 

「あんたがキーくん……甲くんのことを分かってるみたいなこと言わないで―――」

 

「そうですね。口が過ぎました。ですが、これだけは言える……神代の魔術形式は、我々を『殺します』。アナタを誘惑した存在に言っておいてください。

『そんなものはクソくらえ』だとね」

 

「………」

 

 沈黙が降り立つ。その間にも、ハンバーガーを嚥下するリーレイの咀嚼音のみが、刹那の境界に響く。

 

 口汚い言葉だが、それでも―――そうしなければならないのだ。

 

 かつてのスラー襲撃、時計塔の歴史においては『ハートレス事変』などと称されているものの渦中にいた人たちの決断を汚せないから……。

 そんなやり取りで浅野先輩は去っていった。突き放した言い方だが、そうでなければいけないのだ。

 

 千客万来ではあったが、打ち止めらしく、午後の部も始まろうとしている中―――、何かの『匂い』を感じる。

 

「……やってくるかしら?」

 

「来るだろう。これ見よがしに誘っているが、ランサーには屋上にて警戒させている……せめてリズ姉貴と連携出来ればな」

 

 何の因果か、現在の彼女はドイツにいるのだ。今日に至るまで、十文字先輩及び、様々な人間たちに秋波を寄せられても、日本に帰ってこなかったのだ。

 

 そして九大竜王という超絶の術者、練達の術者にもなれる連中が、揃って生徒の警護のみに動くとしてきたのだ。

 

(あからさますぎるぞ。姉貴)

 

 起こり得る事態に対する賽は投げられた。もはや誰にも出目なんて予想がつかない。

 

 そうして横浜論文コンペ午後の部は始まった――――。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「王貴人、首尾の方は如何だ?」

 

「上々だ。ガンフー、しかし……本当にやるのか?」

 

 

 その言葉に剛虎は苦笑してしまう。既に陳は生贄に供される。だが、そんなことはいつでもありえることだ。

 

「かつて、三国志の英傑『周瑜』は、魏から降ってきた人間…偽りの投降をした武将をを戦の神の生贄に捧げることで、勝利を願った。

 故事に照らし合わせれば、陳上校のおかげで『曹操』の軍勢という魔宝使いを倒せるのだ。全ては上々だ……」

 

 ウソをつくな。そんな言葉を返そうとするフェイカー=王貴人であったが、それでもガンフーの眼には、魔宝使いとの戦いしか見えていないのだろう。

 

 ならば、それをサポートするのが、自分の役目だ。

 

『五頭の大狐』に惹かれた戦車を虚空で操る神代の魔術師(仙人)たるフェイカーは、この冬空をあの頃見たものと重ねる。

 

 人が無為に死ぬ時代だった。安定を誇った王朝であったが、かの殷王朝が安定をするまでに多くの人が死に、躯となりて中華の大地に埋まる世界だった。

 

 それは神を恐れぬ人の奢りを戒めるためだったが、それでも人を殺したかったわけではない。

 

 石琵琶の精たる貴人は分かっていた。誰もが、この大地にて歌を紡ぎ、そして明日を望むために生きているのだと……。

 

「ガンフーは、望むものは無いのか?」

 

「俺は人殺しとして育てられてきた道術士だ。感情がないわけではないが、道具として徹することも出来る……ただ唯一、悔やむことがないわけではないな」

 

「それは?」

 

「俺の戦歴の中で一番、泥臭く……そして失うもの多かった戦い。

 東南アジアでの戦い。

 ジャングルの中での戦い―――そこで、一人の男に、一緒に暮らし、育ち、鍛え合い、国……大中華の為に戦うことを誓いあった仲間たちを……」

 

 悲しげな顔。そんなガンフー(マスター)を初めて見た貴人は、それ以上は言わなくてもいいとしておいた。

 

「叶えてやる。アナタの願いは、この横浜の全てを生贄にしてでも、ワタシがこの手で……」

 

「ああ、お前も―――お前の願いの為に、戦うべきだ……弱体のマスターである俺に出来ることなど、そこまで無いだろうがな」

 

 白虎の鎧を纏って、その手に呪宝器という方天戟を持つ呂剛虎は、戦車の御台に乗りながら、戦いの時を待つのだった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 大トリを努めながらも、その役目を全うした三高の吉祥寺に対して惜しみない拍手が届く。

 

 一度は一高の論文に対して、誰もが感嘆としていて、三高は『おまけ』も同然になっていたのだが……。

 

『時に僕は、こういったハーレム野郎から抽出できる様々なエネルギーを、事象に転嫁出来ないかと思います。何かそっちの方が有意義な研究になりそうな辺り、遠坂君の周りは深刻ですねー。

 リア充爆発の魔法を、爆裂を得意とする一条君と研究したくなります。はい笑う所ですよ、ココ』

 

 などとリーナとアイリを脇にしながら、更に言えば壇上にいた十七夜栞から、投げキッスを受けた刹那を見ながら、その言動である。

 

 まぁアメリカ方式の論文発表。いわゆるスポンサーに対する社交性というかユーモラスさを伴ったそれは、門外漢たちにも理解してもらおうという姿勢の表れでもある―――ことをアビゲイルの護衛に就いた時に、刹那とリーナは知らされた。

 

『そういったことの機微を知らぬ研究者は、孤独となりて『おぜぜ』をもらえず、破滅してしまうんだね―』

 

 ケラケラ笑いながら言うアビゲイルの言葉を思い出してから――――、遂に『始まったこと』を確認するのだった。

 

 遅れて―――振動。地震ではない建物を上から揺らす類のそれを受けて、会場に入るは、ロクでもない連中だった。日雇い労働者風の姿。

 

 だが、その手に持つ剣呑な得物は、各国で対魔法師用としても十分な殺傷力を保った―――銃器『ハイパワーライフル』だった。

 

「全員! 動かず大人しくしろ!! デバイスを外して床に置け!!!」

 

 どうやら、現代魔法師御用達のツールさえ無効化すればと思っているらしいのだが……まぁ大甘である。

 

 であるならば―――、俺の『授業』を受けてきた甲斐は誰にもない。

 

「くっくっくっく……実に考えが浅い限りだな―――」

 

 侵入してきたゲリラどもの注意を、あからさまな嘲笑と眼を手で閉じたままに天を仰ぐ仕草とで集める。そうしながら役員席から立ち上がり、ゲリラたちの前に進み出る。

 

「貴様! 無駄口を叩かず!! さっさとデバイスを置かんか!! 我らを嘲るなど、殺されてもいいのだな!?」

 

 六人全員が、大仰な仕草で演じる役者のような刹那に威嚇をする。

 こんな馬鹿者がいることも想定外だったが、それ以上に―――声に『注意』を集められたのも事実だったからだ。

 

「やれるものならばやってみろよ。そんな安っぽい銃器で殺されるようならば、俺は―――そこまでの男だったってことだ。そしていくら魔法師といえども、丸腰の相手に―――」

 

「撃―――」

 

「実に下劣だな!!」

 

 瞬間、正面を向いて銃口全てを向けるゲリラ共を見据える刹那、手で閉じられていた眼は開けられていた。

 

 赤く、紅く、朱い―――両目が。

 

 最速の一工程、視線による術式投射。魔眼と呼ばれる『魅了の視線』が、ゲリラ全員を眼球に捉えている(捕らえている)

 

 体は指一本動かない。

 引き金を引くはずの指先が、石になったかのように固まっている。対魔法師用にアンティナイトも用意していたのだが、それは既に砕け散っていた。

 

 刹那の魔眼という神秘濃度の前に、セファールの欠片は砕け散って、そのまま素の体に束縛がかかる。

 刹那が見えぬ鎖、朱い小剣の重なりのようなものをゲリラに投射していた。拘束は崩れ得ぬほどに強固で、指一本たりとて動かせない。

 

 中には魔法師もいて、サイオンを流そうと試みたが、それすら禍々しいルビーアイ(赤眼)は許さなかった。そしてもはや煮るも焼くも、どうとでもなるゲリラに対して―――『魔弾』が飛ぶ。

 

 流石に殺傷力は落としていたが、刹那の後ろから飛んでくる『腕』の神経を通して放たれる魔弾は、待ってましたとばかりのエイミィを筆頭に、集中砲火となりてゲリラ共を昏倒させた。

 総勢20人ほどの魔弾が、CADなしでも放たれたことは、彼らにとっても、あり得ざる現象だった。

 

 そんな中、崩れ落ちる前に見た、未だに赤眼を輝かす男……少年の顔と名前を一致させた時に、大亜のゲリラは、自分たちは、こんな化け物に関わるべきではなかったのだと、察した。

 

 ……敵は『魔宝使い 遠坂刹那』なのだと――――。

 

 硬い会場ホールの床に勢いよく頭を打って、昏倒するゲリラの最後の思考はそれであった。

 

 一連が終わると同時に、厄介事解決人(トラブルシューター)たる達也が壇上から降りてきた。

 

「―――久々に思い出したな。お前の魔眼の感触を、今更ながら、正面からでないとダメなのか?」

 

 純粋に疑問を投げかけながら、CADを操作して拘束布を発現させて、ゲリラを物理的に拘束する達也。

 瞼を閉じることで『眼』を戻しながら、刹那は答える。

 

「魔眼使いの魔術戦における必須条件なんだ。正面に、相手を全て視界に収めることで、更に言えば相手の目を見ることで、魔眼は意味を持つんだ」

 

 視界からの意識制圧というのは、やはり『暗示』であるから、相手の目を見なければ威力は半減。

 

 言うなれば魔眼使いにとっての魔眼とは、クマ撃ちの『マタギ』の猟銃と同じである。

 マタギたちは、西洋の猟師と違って背後からの射撃などはしない。獲物……特に熊の正面から狙い撃つことが多い。

 

 それは熊の闘争心を煽り、アドレナリンを分泌させることで肉質を高める。そういうことを狙っているのだ。

 急所たる眉間が狙いやすいということもあるが、一流のマタギは、己の命を賭けて正面から熊を狙い撃つのだ。

 

 同時に魔眼も同じである。正面から術式の間隙を縫う形で、相手を縛り付ける。それを企図する相手こそが超一流なのである。

 

「成程な。呆気なく制圧してしまった上に拘束まで終えてしまったが、どうする?」

 

 どうするも、こうするもない。グレネードなんか持ち出してまで戦争ごっこに興じるならば……。

 達也の言葉に、避難しながら―――などと考える間もなく、先程とは段違いの重圧を感じる。

 

 マズい不味い拙い不味い―――最悪の一手をいきなり切ってきたことに、刹那は不意の魔術回路の全力回転をしてしまう。

 

 国際展示場全てを『狙い』に着けた魔力の衝撃、何人かが気づいて見えぬホールの天井を見上げる。

 見上げたところで見えるものではないのだが、だが気づいた以上、上空に有り得ざる脅威を感じたならば、そうするしかないのだ。

 

 マルチスコープという魔法で眼を向けようとする七草真由美。達也とて、精霊の眼を介して見ようとするも、簡単に『弾かれる』。

 

 荒れ狂う魔力が視界を飛ばすことを許さない……。

 

 下手人が誰であるかは分かっているのだが、それにしても圧倒的すぎる魔力。戦略級魔法クラス―――発生するエネルギー総量は、場合によっては殺傷力とイコールではないが、それにしても恐ろしいものだ。

 

 化け物としか言えないその正体を見たいのだが……。

 

「刹那! 『接続』させてくれ!!」

 

「あいよっ!!」

 

 達也は、己の眼を妖精眼にした上で、刹那の『回路』に接続する。

 

 同時に見えてきたもののイメージ。『無数の魚』が泳いでいる大海のごとき『内側』(なかみ)。相変わらず空恐ろしいもので術を行使している男だ。

 右腕の中程に手を添えた達也は、そんな感想を終えてから、刹那の飛ばしている使い魔の視界に『相乗り』させてもらったことで、それを見た。

 

 五頭の大狐に牽かれた巨大な戦車。色々と疑問は多いが、フェイカーのサーヴァントの宝具に違いない。

 

 遥か上空にて、こちらを睥睨しているフェイカーの眼がそのままに狙うは、論文コンペ会場たる横浜国際展示場だろう。

 

 それを睨め付けるように蒼穹を見る金目の槍兵は、力を溜め込んで―――屋上にいた。

 

 刹那が敷設したらしき魔法陣。そしてその屋上には、ダ・ヴィンチ女史と……栗井教官がいたのである。

 

 朗々と何かを唱える二人。恐らく魔力の倍加の為だろうが―――。

 

 それを超えて、フェイカーは戦車ごと急上昇をしていく。ソラから更に宙を目指さんとする流星(ロケット)のような動きで、戦車の魔力が倍加を果たしてく。

 

 底しれぬ力の『溜め込み』(チャージ)からの――――当たり前の急降下爆撃。

 偏西風の魔力(マナ)すらも呑み込む魔力の化け物……。そして―――金色の尾を九つひきながら、金色の流星(破滅の災厄)は蒼穹を引き裂くように落ちてきた……。

 


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