魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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最新刊、出ましたねー。そしてGファン連載の来訪者編のコミックも発売されたようで―――

まだ読めていない状況。だが、色々とリーナ周りが分かってきたようで、設定変更の煽りで変える必要もあるかもしれない。

などなど、不安を感じつつも最新話どうぞ。


第149話『油断の出来ないヴィランズ』

 あちこちに現れた魔狼と屍兵達は、どんな攻撃命令を受けているのか、大亜連合軍のゲリラ兵士たちにも襲いかかっていた。

 敵味方識別機能が無いのは問題だが、それでもこちらにとって脅威とも言える銃兵を無力化してくれているのは、まだ良かった……。

 

 しかし、残った魔狼と屍兵たちが死体漁りをしようとする前に、飛び来る陰陽の双剣はブーメランよろしく、そいつらの首を刈り取り、消滅させる。

 生き残った魔狼と屍兵が、攻撃方向に眼を向けると、そこには誰も居らず……真上の天井に足を張り付かせた―――死神がいた。

 

 降りると同時に、ルーンによる手刀を作り上げて生き残りたちの首を切り飛ばす。

 

「GAAAーーー」

凅れ(とまれ)

 

 魔眼を緑に変えた上で、視界に入った『生物』全てに『停止』を強制する。己の行動全てが止まり、『詰み』になったことで……魔弾が飛んできて魔狼と屍兵は全滅した。

 

 ランサーの戦闘に魔力を回しているので『外付けの魔術回路』ともいえる『魔眼』を全開で回してるのだが、中々に難儀する。

 

「セルナ、大丈夫ですか?」

「無問題、と言いたいところだが、流石に六分ほどは、すっからかんだ」

 

 消耗が激しい原因は、よく分かっていた。だが、だからといって弱音を吐ける場合でもあるまい。

 

 大気中の薄い『大源』(マナ)を取り込むも、賦活はさほどではない。チャージしておいた宝石を開放して取り込んでおく。ランサークラスとはいえ、全力で戦闘させれば、ここまで消耗するとは……。

 

 などと、大亜のゲリラを拘束して、現場を見ていた刹那に不意の通信。どうやら、潮時だとあちらも理解したようだ。

 

『切り上げます! どうやら、完全に逃げの姿勢で構えています!!』

 

(撤退させていいのかランサー?)

 

『問題ありません。針は『浅刺し』、されど『毒』を持っていますから。まぁあえて不満を申せば、今度使う時は十文字槍などの『和槍』に変化させてください』

 

 軍神閣下は、西洋の槍はお気に召さなかったようだ。まぁ矜持を捻じ曲げてでも、『黄色の短槍』を握らせたのだ。

 そのぐらいはするべきだったか。苦笑しながらランサーを呼び寄せる。

 

「エネミーの出現が急速に弱まっているようです。敵の『流れ』も読めました―――場所をナビします」

「頼みます」

 

 シルヴィアの言葉で、ここでの戦いはもう一働きと分かったことで、気合を入れなおす。

 

 そんな中に……。二人の『顔見知り』。されど、友好的ではなかった人間がやってきた。敵かどうかで言えば敵であろうが、殺すほどの因縁があったかといえば……まぁ無かった。

 

「カカカカカ、正しく天啓。私を『殺してくれた』小僧が、目の前に現れてくれるとはな。運命は、時代は―――私に再びの邂逅を齎してくれたようだ」

「御老体。我らの役目は、彼らと戦うことではありません―――お控えを」

 

 何故、ここにいるのか? そういった疑問はいくらでもあった。それよりも何よりも、その恐るべき存在感……霊圧とでも言うべきプレッシャーに気圧されそうになる。

 

「ドクターカネマル……!?」

「司 一……?」

 

 リーナに言われたご老人。スターサファイアを頭に象嵌した杖を持つものは、炯々とした眼を向けてきて……、片や、老人に比べれば若い方の二十代前半程度の男が、『やぁ』と苦笑気味に挨拶してくる……エリカに斬り飛ばされた、無いはずの腕を上げてだ。

 

 緊張が奔る。事情をよく知らない三高の愛梨も、通路の向こう側から現れたこの二人に警戒を走らせる。

 

 まるで幽霊に出会ったかのように、唐突な邂逅を果たしていたのは、刹那たちだけではなかった……。

 

 

 † † † †

 

「ツェルベルス!! ヤールングレイプル!!」

 

 容赦ない拳打の圧が屍兵を吹き飛ばして、その身に纏う死霊特有のサイオンを霧散させる。

 

 レオが纏う『ゴツい』ナックルグローブは、右手を白銀の籠手で覆い、左手の手甲には歪な刃物があり、白銀の籠手が一団を壊乱させたところに、鋭い刃の切り裂きのようなものが奔る。

 

 またそれが逆の場合もある。使っている魔法は主に硬化魔法なのだが、それと同時に『強化』も走らせている。

 

 強化魔術……自身に掛ける加速魔法よりも汎用性に富んで、決まった定形式はないという……基礎中の基礎でありながら、極めるのは困難と言われている。

 刹那の父親は、これを主に扱う魔術師だったらしく、手解きは受けてきたらしい。更に言えば、その大本は『ロード・エルメロイⅡ世』であり、強化を施した刹那の体は、血流運動すら制御しているようだった。

 

『排泄行動と睡眠を制御することから始めろ。常の身体機能を『逸脱』することよりも、先に『抑制』『調節』するところから、始める』

 

 女性陣(リーナ除き)から少しだけ白い目で見られるも、そうしなければ、いざ『逸脱』したときに常ならぬ魔力の暴走で、五臓六腑にどんな傷が入るか分からない。

 即ち、柔道における『受け身』の必須取得と同じことだと真剣味を以て語る刹那に、最後には白い目はなくなるのだった。

 

 もっとも……。

 

『その『強化』した身体でミッカミバン(スリーデイズスリーナイト)愛し合った時は、溶けちゃうかと思ったほどよ!』

 

 やっぱり最後にはオチが着いてしまったことを思い出して、達也は魔弾を解き放ち、雫案内の大会議室へと向かおうと最後の通路を進もうとした時に―――脅威を感じた。『直感』でしかないもので、深雪の危機を悟った達也は、攻撃対象の排除よりも先に深雪を防衛することにした。

 

 姫抱きで深雪を抱えたあとには、数秒前までいた深雪の足元に火柱が上がる。それなりに高い天井すらも舐める炎の舌に、ぞっとする。

 魔法発動の兆しすら見えなかった。しかし、明らかに深雪を狙った魔法だ。

 

 

 次の瞬間には、十数、否、数十もの火球が虚空から現れて、高速で飛んでくる。

 放たれた火球を消し飛ばす『術式解散』。しかし、そこからすぐさま同じ魔法が、達也を襲う。

 

(どこから魔法を飛ばしているんだ?)

 

 正面出入口は、広いようでいて様々な遮蔽物が存在しており、隠れようとすれば隠れられる。

 しかも、魔狼の強烈なサイオンが、達也のエレメンタル・サイトを阻害するが、流石に『集中』すれば、妖精眼であれば、捉敵出来ないわけではない。

 

 それが通用しない敵が相手。深雪を抱きしめながら、動きを絶やさない達也だが、敵の排除が完了しない限りは、危機は去らない。

 なんだか、「それでもいいです」などと言いそうな深雪だが、狙われてるのはお前だと言っておく。

 

「失礼致します。達也殿―――あなたと御令妹を襲う危機。見えぬ魔法使いの姿は、私が捉敵しましょう」

「出来るのか?」

 

 ようやくのことで地上に降り立った達也と深雪に対して、流体金属のゴーレムは、メイド服のメイドのような調子でそんなことを言ってきた。

 刹那側との通信及び護衛として、リーレイから『着いていくよう』にと指示された……ピクシーよりも人間的な情動を感じさせる『金』というゴーレムメイドに問い返すと……。

 

「容易い限りです。お嬢様はあなた方を助けるようにと私に命じたのですから、お構いなく―――」

 

 言うやいなや、スライムのようなまん丸の姿に変じて、そこから多くの触手をあちこちに伸ばしていく様子。

 自動的な形状記憶合金のように、正面出入口の全てに伸びていくその触手が……。

 

「見敵」

 

 その一言と同時に、銀色の銃の照準を向ける達也。金色の触手の一つが達也の腕に絡みついて、情報を送られた通りに―――その場所に、『魔力遮断』(コード・ブレイカー)の術式を叩き込む。

 

 現代魔法において、あり得ざる結果。いわゆる『エイドス改変』などの『定義』を無視した、『神秘強度』という『防御力』『隠蔽術』に対して、達也が構築した新たな魔法である。

 

 刹那のルーンによる障壁から、アルキメデスなどのサーヴァント……サイオンによって活動する生体など、現代魔法師の『ルール』を無視したそれらに対して、達也が出した回答の一つ。

 

 確かに、サイオンと魔力……どちらもソーサラス・アデプトにとって必須のエネルギー源であり、されど少しだけ似て非なるもの。

 

 その違いは何であるかは分からないが、だが露出しているエネルギーそのものを『分解』することは出来る。

 

 つまり達也のやったことは、動いている情報端末があれば、そのコンセントを無理やり引っこ抜くことで、情報端末の動きを止めるということだ。

 もっとも、当たり前のごとく、その端末に『予備電源』『畜電源』『太陽光変換』などなど、違う『電力確保』の手段が豊富にあれば、意味をなさない術式。

 

 だが、想像の上では何度か成功していた。術式そのものに対する干渉ではなく、術式から放出されている魔力から辿る、違った形での『術式解体』であったのだが……。

 ガラスが砕けるような音で、透明人間の姿がようやく捉えられた。

 

 透明人間は……大胆不敵にも玄関の真正面にいたのだ。

 

「一見すれば、視覚を騙し、殺到する魔狼と屍兵とで、そこにいるとは考えられないが、空気振動、『呼吸音』だけは誤魔化しきれない。同時に、熱源そのものも誤魔化しきれていなかったようですね」

 

 魔狼と屍兵との呼吸音の違いを察知して、そこに小動物ではない『有り得ざるもの』を感じ取れば、ここを走査(スキャン)していた金は感じ取るのだ。

 

「流石に心音を誤魔化して、呼吸と体温も操作できれば良かったのだがなぁ」

 

 現れた男は、真っ赤な髪を炎のように逆立てていた。同時に衣装も中々に、この時代としてはアバンギャルドなビジュアル系バンドを思わせる、黒系統の衣装に鎖や拘束具を着けたものだ。

 更に言えば、その体をふわふわと浮かせることで、エネミーが殺到する空間に、不自然な中洲を作らせないでいた……。

 

 ネタバレがすぎてしまえば、なんて単純なものだと思える。だが、それに気づかせないでいた手並みは、数ヶ月前のこの男ではあり得ない。

 

「陸軍魔法師部隊の元・軍人『火野原 博史』だったか。随分と変わったものだな……」

 

「俺のような小物の名前を覚えていてくれるとはな。嬉しい限りだよ。『あの時』は、キミ達が俺の『古巣』では『有名』だった、『あの司波』だとは気づけず、ご無礼仕ったよ……」

 

 その言葉に、全員の注目が達也と深雪に向けられる。一高に入学する前、ここではないが同じ横浜の施設内で、人為的な火災……魔法師による無差別放火が行われた。

 そんな恐るべきテロ活動をぷちっ、と潰したのが他ならぬ深雪と達也だったのだが、こんな形で因業めぐるとは……そもそも『何故』ここにいるのか?

 

 少なくとも犯罪魔法師が入れられる施設に収監されているはずなのに、ここにいるとは如何なる理由なのか……様々な疑問が巻き起こりながらも、火野原は戦闘態勢に入る。

 

「あの時の礼をさせてもらおうか。進化を果たしたこの俺の火炎魔法……!! 通用するか否かをなぁ!!!」

 

 あの時とは違い、領域干渉によって魔法の不発動を試みるなんてことは、ほとんど不可能。どんな手段を使ったのか、今の火野原は、圧倒的なまでの魔法力を有している。

 

「炎獣・変性」

 

 こちらに火球と火柱の乱舞を叩きつけながら、周囲の魔狼に炎属性を『付与』したともいえる変化。

 

 北欧神話の冥界『ヘルヘイム』の番犬『ガルム』を思わせる変化の後には、そいつらを操ってこちらに吶喊させてくる。

 

 計算された連携攻撃。おまけに執拗に深雪を狙ってくる攻撃が、達也を苛立たせる。

 

「お兄様! 私に構わず火野原の無力化を!」

 

「健気なものだねぇ。実に―――――」

 

 炎の『円輪』を、己の体を中心に幾重にも作り上げて、エリカや、レオなどのステゴロ(肉弾戦)組を近づけさせない火野原の高揚した声が響く。

 円輪は力を作り上げるタービンエンジンのような役割を果たしながら、回転を猛烈にさせていき、巨大な火球を頭上に作り上げていく。

 

 もちろん、その完成を黙って見過ごすわけもなく邪魔立てしようとするも、中々に硬いものだ。

 

「実に忌まわしいな!!! 燃えろ! 燃えろ!! 燃えてしまえぇエエエ!!! 溶鉱炉、解放。 疑似・焼却式ナベリウス!!」

 

 火野原が呪文を唱えたその瞬間、圧倒的なまでの熱量……なんて言葉では表現しきれぬ、恐るべき魔力の圧が、空間を破却するイメージが見えた。

 

 不味い――――これは防ぎきれない。仮にも、これは■■の王の祖のカケラを利用した術……全員が玉のような汗を流して、明確な死のイメージを前に、どのような行動も無為だ……。せめて深雪だけでもと思った瞬間―――。

 

『愛知らぬ哀しき竜よ!! 汝が身を、星のごとく解き放とう!!!

 いっけええええ!!! タラスク!!!』

 

『うわぁ! なんか聞き覚えある声!! というか君が召喚されてるとか、予想外だな!!』

 

 こちらの『危難』を察してダ・ヴィンチ女史(杖)が、やってきて、その瞬間の出来事だったのだろう。

 

 巨大な……亀の甲羅とも隕石とも、何とも言えぬものが、魔力体のままに飛んできて、火野原の『ナベリウス』を強制的にキャンセルさせた。その勢いたるや凄まじく、正面出入口は原型を留めていないぐらい破壊されていた。

 

 ここを起点にして、建物が倒壊してもおかしくないのではなかろうか……そんな気すら起こる。

 

 タラスク―――という隕石だか亀なんだか……竜なんだかをぶつけられた強化魔法師は―――無事であった。

 見ると、数名の……『仲間』らしきものたちが、火野原の周囲にいて抱き上げている。

 

 何を話したのかは分からないが、悔しげな顔を見せてから高速で走り抜けていく、火野原を筆頭としたロクでもない連中。

 

 追撃するには、状況があまりにも不可解だ。やろうと思えば出来るとか、そう言う問題ではなかった。

 

「何がなんだか分からないが、状況は泥沼化しているんだろうな……」

「達也さん。どうやら先程の攻撃で、VIP室もボロボロになって、端末なども完全にオシャカだって」

 

 雫の淡々とした声と言葉に―――ここまでやってきた俺達の苦労はなんだったのだと言いたくなる。

 

 そうしていると、金が手のひらを上にして、トレイでも持つかのようにして一体のミニチュアを出してきた。

 

 そのミニチュアは、刹那の姿を模しており、通信機よりもいいものだ。

 

 何よりわかりやすい。金色の流体金属で構成された刹那の姿を見て少しだけ安堵する。

 

 どうにもここまで消滅させてきた屍兵や魔狼の強すぎる残念……プシオンのノイズが、通信機器をオシャカにしていた。

 

『そちらも、どうやら『予想外』なことが起こったようだな。ここからでも、大魔術の匂いは感じたぞ』

 

「ああ、詳しい説明は省くが元・国防軍の強化魔法師が、以前とは段違いの力で、こちらと相対してきた……。そして、それを防いだのが……」

 

「きゃー!!! お、お兄様!! これは一体―――!?」

 

「深雪!?」

 

 見ると、タラスクという亀竜を放った霊体―――恐らくサーヴァントの類だろうものが、深雪の体を包んでいた。

 

『決めたわ。ここまで霊基が薄弱だと、現界するには憑坐が必要―――とりあえず波長と……声が似ているアナタに私は憑依させてもらうわよ。安心しなさい。今回限りの特別サービス。

 マシュの『元・同居人』と違って、私の『啓示』は厳しめ!! 具体的には錆びた手甲で大木六本、叩き折るように!!』

 

 錆びた刀じゃないのかよ。なんてツッコみを入れるのも野暮なくらいに、深雪を包み込む魔力の塊は、深雪を変化させていく。

 

『変則召喚、デミ・サーヴァント、……抑止力か? 案外、俺の『中』から出てきたものだと思っていたんだが』

 

「コラー!! いま、聞き捨てならないことを言いましたよ刹那くん!! もしも、それが本当だとしたらば、これは完全なセクハラですよ!! リーナに言います!!」

 

 確かに刹那の召喚術によって、この女だろう英霊が現れたならば、たしかにセクハラだろうが……。

 

『いや、こっちにも伝わっているから、ミユキの絶叫と変化の様子は、そんなワタシから言えるのは、ただ一言ね……』

 

 次いでリーナのミニチュアが現れて、全身金色の夫婦の様子は面白がるように、こう言い放ってきた。

 

『『ようこそ、神秘集う魔術の総本流―――神秘領域(ミステール)へ♪♪』』

 

「強制招待でしょうが―――!!!! くっ―――なんて力の奔流……これが―――英霊の力を宿すということ……!?」

 

『俺から言えるのは唯一つだ。お前のお得意の魔法(氷結)みたいにせず、『決して止めようとするな』。

 大きな流れの中にある自分をイメージすることで、流れの中でも己の動きを取ろうとすることを覚える―――。

 自分も大きな流れの中にあることを認識することで、自分というカラを破ることで、根底にある力を捉えろ―――己という枠に囚われるな』

 

 イメージ力こそが魔法の原動力。それは魔術世界でも同じだが、刹那のアドバイスは、深雪に一瞬で沁み渡り……落ち着いた表情で瞑想をする様子。

 

 そうして―――英霊の力を宿した深雪の衣装……一高の制服が光り輝き、変化を果たしていく。

 

「成功したのか?」

 

『憑依召喚というのは、いうなれば被術者の波長が英霊と合わなければ、弾かれるだけだ。とはいえ……英霊の魂の格は、通常の人間のスペックを超えているはずだから――――そうか、収監されていた囚人たちが――――』

 

 達也が問いかけたのは、刹那だったのだが、ダ・ヴィンチ=オニキスという魔法の杖の方が先んじて答え、呟きつつ何かに気づいたようだが、それよりも達也は―――妹のことが気がかりであり、そもそも……どんな英霊が深雪に憑いたかすらわからないのだ。

 

 声音から察するに女性なのだろうが、女の英雄となると、達也の脳内ピックアップだとそこまで多くない。

 

 そんなこんなしていると、霊基の統合が済んだのか、深雪の姿が変化を果たした状態で、瓦礫だらけの正面出入口の中に佇んでいた。

 

 その姿は―――荒廃した地上に舞い降りた『聖女』のごとく、神々しいものだった。

 

 元々、様々な『調整』を受けたことで、人間離れした魅力を持っていた深雪だったが、今の彼女のそれは『魔的』なものではなく、神然としたそれであり、現れた深雪の姿は――――。

 

 

「刹那! こっちに司波さんがいるんだな!? ならば俺が駆けつけて――――」

 

 などと、自分たちの通ってきた通路から一条将輝がやって来たことで、その程は分かる。

 

 今の深雪の衣装は、白と赤で構成された赤十字を連想させるもの。修道女を思わせる格好だが、それよりは外連味がたっぷりあるのは、上の胸元を見せてヘソまで露出した箇所があるからでもあり、更に言えば足のロングスカートには、スリットが深く入って動きやすさと色香を思わせる。

 

 赤いニーソックスの丈が、深雪の魅力を強調して―――その手に十字架(ホーリーアンク)(スタッフ)を持っていた……。

 

「これが……聖女マルタの姿と力―――今ならば分かる。アナタが、私に力を託してくれた『意味』が―――」

 

 深雪は先程とは違い―――己の姿と蓄えた力の意味を再確認する様子。

 

 そしてそんな深雪の姿をみた一条は―――盛大な血を流して倒れ伏した……。無論、深雪が何かしたわけではない。

 

 いや、ある意味では深雪が原因ではあるのだが……ともあれ、往年のギャグ漫画のように放水の勢いの『鼻血』を出して倒れ伏した一条将輝に、誰もが唖然としてしまうのだった。

 

『これこそ本当の意味での『クリムゾン・プリンス』だな!』

 

「何を嬉しそうに言っているんだ。お前は? まさか、狙ったわけじゃないよな?」

 

『一条が『司波さんはどこなんだ?』と煩いから、そちらに向かわせたことが、こうなるとは、いやはや分かんないもんだねー』

 

 ウソつけ。と言ってやりたい、刹那の面白がる『あくま』な言動に頭を痛めつつも、こちら側に移動してこいと言われて、VIP室の惨状を確認したことで、渋々ながら合流することにした。

 

 裏目に出た行動だったが、それでも分かったことがある。

 

 フェイカー及び呂 剛虎の行動は、完全に大亜のゲリラ部隊とは目的を異にしている。

 

 三つ巴の戦いになるか、それともゲリラすらも『餌』として何かを目的としているか―――。

 

 全てが分からないままだが、そんな乱痴気騒ぎの中に翻弄されるままなのが、自分たちの立場なのだろう。

 

 自分も大きな流れの中にあるのを認識しろ――――。

 

 深雪に言った刹那の言葉が不意に蘇る。

 

 そうしてから、中華街方向で黒煙が上がったのを眼で認識した達也。

 状況は予断を許さない――――だが、それでも戦うと決めたならば、何も迷わない。

 

 迷わずに戦うことを決める人間を何人も見てきたのだから……。

 

 

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