魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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最新刊を流し読みした所、リーナの家族関係もよろしくないものらしい。まぁプラズマリーナの設定だけならば、如何に国民の自由意志を尊重するアメリカとはいえ、十歳の娘っ子を軍隊のスカウトが来たことに反対しないのは変だとは思っていたが……。

劣等生世界の魔法師の『親子』は、とりあえず『ダイの大冒険』を読めと言いたくなる今日この頃、

一万字オーバーの最新話どうぞ。



第150話『動くに動けぬベビーフェイス達』

 一高の控室。吹き抜けとなったステージに色々と言いたいことはあれども、面子は揃っていた。

 

 状況は最悪ではないが、地下からの避難ルートに就いた護衛部隊は、少数のようである。もっとも、スズ先輩(市原鈴音)によれば……。

 

「中条さんを先頭にして、全員がシェルター及び横浜市街からの脱出を試みているようですね。

 梓弓を『戦闘魔法』に改良できる、ダ・ヴィンチ先生作の月女神の鷹弓を使って、機先を制しているそうです」

 

 流石は我らが、一高のビッグ・ボス。体は小さくとも、その志はとんでもない女である。

 

「そんなビッグ・ボスからメッセージです。『四天王の力で全員を五体満足に帰すように、私も可能ならば戻りますので――――全員、家に帰ってくるように』とのことです」

 

「別に織田信長のように神速で帰ってもいいってのに……」

 

「俺達は金ケ崎の退き口の木下秀吉と明智光秀か」

 

 その言葉で気づくと、達也が控室に入ってきた。

 気楽に手を上げてお帰りーと言っておく。苦笑しながらも、入ってきた達也は、一高制服の上を深雪に貸していた。

 

 流石に衆目に晒すには、深雪の美貌とその肢体を晒す衣装は兄として色々とあったのだろう。

 ちなみに言えば、一条はドギマギしながらも、深雪をチラチラと見ている辺り、「ダメだ。コイツ」と思う。

 

「状況を知りたいところだな」

 

 言葉と同時に、刹那を全員が見てくる。別に自分が全てに対して訳知りというわけではないが……。

 

「オニキス」

 

『了解だ。カレイドステッキ48のオルレアン神拳奥義の一つ――――。ドーバー双眼(アイズ)!! 展開』

 

 何を考えて大師父は、このステッキにこんな機能を設定したのか、疑問に思いながらも、便利な機能の一つ。

 周辺状況を探査(スキャン)する機能が展開されて、白い壁に―――マッピングされた位置情報とライブ映像が出されて、映る敵勢力の様子にざわつきが広がる。

 

『見ての通り、現在の横浜は大亜連合軍とフェイカーの現出させた魔術生命体との乱痴気場だ。

 大亜連合軍の目的は、魔法協会への襲撃及び情報窃盗だったのだろうが……既に、彼らの目的は達成不可能だ。

 それでも命令に変更が無い以上、彼らは進み続けるだろうね……』

 

 大亜連合軍及び潜伏ゲリラを示す赤いマーカーが、紫色のマーカー……常に赤いマーカーの数よりも二倍、三倍はある数で、赤いマーカーは消え去っていく。

 その様子は、横に表示されたライブ映像でも確認済みだ。

 

「腐落兵はグールの類か?」

 

『死徒の類だと考えれば、『親』がいてもいいのだが、そこまでのことは出来ないようだ。フェイカーに出来たのは、出来損ないの僵尸と言ったところだね。

 沿岸に停泊してグレネードランチャーを放って来た船も、いまは沈黙状態だ……不気味なぐらいにね』

 

 こうしてみると、当初、予想されていた状況よりも悪い。逃げるにせよ、戦うにせよ……敵は未知の勢力となっている。

 フェイカーが優秀な魔術師であることを考えれば、マスターを裏切って、自分の目的のためだけに動いていることはあり得る。

 

 なんせ王貴人といえば、殷王朝滅亡の要因の一人なのだから……。

 マスターを傀儡にして心を操ることなど容易かろう。

 

 だが……港での戦いと異空間での戦い―――その戦いで見えた姿は、献身的に尽くす女性の姿だった。

 そういう見せかけ(フェイク)の可能性もあるのだが……。

 

「オニキス、刹那。おまえたちは納得しているかもしれないが、説明してくれないと分からないことが多い。

 お前たちは司 一と兼丸孝夫と会ったんだな? しかも、どちらも俺たちが初めて会った時とは段違いの力を蓄えて――――」

 

「ああ」

 

「俺の知る限り、そいつらは府中刑務所に収監されている、特級の犯罪魔法師及び、魔法に関わる重犯罪人だ。

 火野原も同じくな。……奴らが娑婆に出ている理由が不可解なんだが」

 

「推測はあるんだが、そいつに関しては、俺も同様だ……十師族の関係者が分からない以上、扉の向こうにいる人々に聞こうじゃないか」

 

 その言葉で―――控室の扉の前にいた……アダルト組が緊張するのが達也、刹那ともども理解できた。だが意を決したのか、野戦服姿の響子を筆頭にしてゾロゾロと軍服姿の人が揃い踏みだったりする。

 

「若者たちの会話の邪魔をするような、野暮な大人になるつもりはなかったんだがな。こうも事態が逼迫していては協力を仰がざるを得まい」

 

 などと、九校戦の時に見た顔、達也の軍属としての顔での上役、風間玄信が、アダルト組の中陣で苦笑している様子。

 

 日本の国防軍からは、風間、藤林、一色の三人。昼間に見た修次さんがいないのは気になったが、その次に続いたのはシルヴィアとミカエラ・ホンゴウことミアが、刹那的には今だにスターズの制服と言っていいのか分からぬ黒のスーツで入ってきた。

 その様子から察して、一種の共同作戦なのだと気づく。

 

「火急の案件につき、詳しい自己紹介は省かせていただく。国防陸軍所属の風間玄信です。階級は少佐―――」

 

「貴官があの風間少佐でいらっしゃいましたか。師族会議十文字家代表代理、十文字克人です」

「同じく一条家代表代理、一条将輝です」

 

 風間の自己紹介に対応するように、日本の魔法師界の『ロード』は、公的な肩書を名乗った。

 

 それに対して風間は小さく一礼して、全員を見回せる立ち位置に就いてから、口を開く。

 横浜全景に対しての説明は先程済んだのだが、それに対する国防軍の動きを説明してくれたが……彼らも混乱をしているようだ。

 

 本来ならば、横浜の重要施設などを防衛するために戦線を展開したかったのだろうが、大亜のゲリラ共が、神代の魔術師の贄として食われているのだから……静観していいのか、それともその後に、強大となった存在を相手取るぐらいならば―――。

 

 その二者択一の考えのもと、行動を決定づけられないでいた。

 

「ガウガメラの戦いのペルシア軍も同然だな……」

 

『征服王』率いるマケドニア軍との戦いを、最後まで決断出来なかったダレイオス三世。

 

 史料だけならば、圧倒的兵力を誇るペルシアであったが、不死王ダレイオス三世は、最後まで決戦を挑めなかった。

 

 それは、かき集めた領内の様々な豪族たちの意思を、ダレイオス三世という繋がりだけで維持していたからだ。つまりは―――巨大王朝ゆえの様々な不和や、そんな王朝の領土を次々と脅かして、ここ(ガウガメラ)に至ったマケドニアに対する恐怖などもあったのである。

 

 ここで、相対するマケドニアの王のようになれたならば違ったはず――――。

 

 そんなマケドニアの王は、こんな演説を打ったに違いない……。

 

『皆のもの! よく聞け!! ダレイオスの軍勢は歩兵百万だの風説を流布していたが、見ての通り! 所詮、我が軍の『三倍』程度のものだ。

 予想よりは遥かに少ない――――。

 しかしながら不安に思うものはいよう……。

 だが、ここにいるは余が信じた勇者ばかり! 

 余と『これから』も苦楽を共にする一人一人が十人力、否! 百人、千人、万人力の万夫不当の豪傑よ!!

 ゆえに―――いざ決戦という時、万全の力を発揮するためにも―――存分に休息しておくのだ!! 勇者たちよ!!』

 

『陛下より振る舞われた最高位の美酒だ!! 存分に味わえ!! この酒は貴様らの血と共に在る!!』

 

 などと人も馬も万全の『休息』をして、意思決定が完全に決まっていたマケドニア軍は、軍団内の密かな『アイドル』たる『女将軍』から振る舞われた酒に酔いしれながら……。

 

いざ―――イスカンダルと共に―――。

 

 その号令を待って――――不死王率いる軍団に勝利したのである。(ロード・エルメロイ2世・談)

 

 過分に憧れが含まれているのではなかろうかという、刹那の師匠たる人の興奮しての言葉を思い出しながら、この状況は確かに意思決定が出来ない。

 

 軍事的に言えば『浮動状況』に陥らせることで、こちらに明白な行動を取れなくさせているのだ。

 

「ガウガメラの戦いか、確かに―――その通りだな。我々はまだ何も決断出来ていないのだから」

 

「市民の避難誘導は行っているのでしょう?」

 

「もちろんよ。刹那くん」

 

 こちらのつぶやきを耳ざとく聞いていた風間に返答すると、響子がなぜか答えるという始末。どうでもいいことではあるが。

 

「さて、色々と聞きたいことはあるのだが、敵の目的が不明だ。現在、大亜からの亡命魔法師部隊……驚いたことに劉雲徳師傅率いる者たちが、大亜の侵攻部隊と矛を交えて、撃退したのだが……」

 

 マーカーを見ると、中華街を目指して進んでいるのが分かる。腐落兵と魔狼の群れは……方方に散っている。片や、中華街、片や大型のショッピングセンター、片や……神社、また全然関係ない路地に陣取ろうとしている。

 

 戦略的意図を欠いたその行動は、現代魔法師からすれば妙ちきりんな限りだろう。だが、単純な話……その動きは全て、一つの線で構成される。

 

「……『城作り』。横浜全体から魔力を吸い上げて、『大鍋』にしようというのか」

 

『蠱毒の陣。彼女の時代からすれば五芒星や六芒星よりも『八卦陣』を作り上げた方がいいんだろうが、しっかし大掛かりだねぇ。

 アレだよ。壁画作りじゃないんだからさ、もうちょっと、こういうのは、静かに描くべきだよ。

 キャンバスのサイズを考えない作品作りなんて、どうせ銭を貰えないんだからさ』

 

 横浜全体の地脈図と照らし合わせて、現在の横浜を制圧している魔軍の意図を、刹那とダ・ヴィンチは分かったのだが……どうやら説明が必要なようだ。

 面倒くさい説明を省いて、魔軍は横浜全てを魔力炉へと変じて、そこから汲み上げるエネルギー……具体的には、魔力を己のものとするだろうと言っておく。

 

 その言葉にピンとこない者たちが多かった。当然であろうが、しかし……現在のエネルギー波形。既に『入城』した地点のサイオンの濃度が恐ろしく上がっているのを、響子は示してきた。

 

「これは…………!」

 

「計算してみたけれど、国際規格でAランク魔法師が五百人ばかり集まって、戦術級魔法を乱打したぐらいの数値は計測されているわ。

 これらの地点が、既に4つも穿たれている……」

 

 今度は刹那とダ・ヴィンチ(オニキス)が、『?』を浮かべる番だったが、ともあれ危機感は伝わったようだ。

 

「しかし、4つか……速いな。何かの『式』でも予め打ち込まれていたかな?」

 

「式ってのが魔法陣ならば、こんなものをウチの部隊員たちが見つけてきたわよ」

 

 響子がスクリーンに示した魔法陣は大陸系の呪法陣。間違いなく侵食型の結界術式……これで確定的である。

 しかし、ランサーに勝つためならば、こんな大掛かりをする必要はない。

 

「ランサー、フェイカーは手負いなんだな?」

 

「当然です。刹那のよこした短槍『げい・ぼう』(必滅の黄薔薇)とやらで、ざくざっく、突き穿たせてもらいましたから、血塗れでしたよ」

 

 嬉しそうに言わないでもらいたい、小さい姿で美酒を飲む頭の上の軍神の使い魔。

 実際、フェイカーの追撃から戻ってきたランサーから貰った黄色い槍は……ゲイ・ジャルグ(破魔の紅薔薇)かと見間違わんばかりに『真っ赤っか』であり、それを首検分よろしく見せてきたのである。

 

『獲ったどー!!』などと、言ってきたお虎のことを思い出して、今は癒えぬ傷を前に忸怩たる思いだろう。これがフェイカーの仕業ならば、せっかく汲み上げた魔力も回復にしか使えないならば……。

 

 今は、やつにとって雌伏の時だろう。

 

「……まだまだ見えないことは多いが、こんな横浜全土を魔力の鍋にする所業は見過ごせない。リーレイの爺ちゃんを見殺しも出来んしな」

「刹那哥々(にいさん)……」

 

 それだけは確実なことだ。そんな狭間に割って入るように、再び響子が口を出してきた。

 

「その前に刹那くん。身内の恥を晒すようでなんだけど……あの脱獄囚人たちの変容なんだけど」

 

「コヤンスカヤの仕業でしょうよ。あの女は人間を塵芥の類としか思っていない。

 察するに、囚人同士で殺し合いをして生き残った連中に、それまで殺し尽くした囚人たちの『第2要素』(たましい)『第3要素』(せいしん)を抽出し、集束させた強化人間。

 中々に―――稚拙なものを作ってくれるよ。実に無様だ」

 

 魔術師としての意識で言えば、実に『稚拙』な強化した人造人間を作り上げたものだ。

 

 刹那が作るならば、もう少し『いいもの』を作る。所詮、魔術師なんてのは、己の体を改造していく人種なのだから……。

 そんな刹那の見抜いた結論に、響子も風間も息を詰まらせた。まさか何の証拠も見せない内から、そうやって結論を出されるとは思っていなかったのだろう。

 

 あんまりスプラッターな映像や画像を見せると『これから』によろしくない気がする。

 

 それゆえの『魔術回路』による計算・演算をしたがゆえの結論。事情説明をしている間にも、状況は推移を果たしていく。こことていつまでも安全とは言えないのだ。

 

「まだ状況説明は必要ですか?」

「ああ、部下たちに君と魔法の杖が示したポイントへの到達を遅らせるように指示をした。今は情報が必要だ。セイエイ・T・ムーン、アンジー・ミザール」

 

 風間の言葉に、うんざりとしてくる。こうしている間にも状況は変化をしていく。

 

 色々と不安要素は多いだろうが、事態への対処よりも、こちらの頭の中の情報は全部掻き出しておきたいという風間の態度に辟易する。

 だが、俺が死ぬ可能性が高いのだろう。そう思っている。むしろ、刹那が死んだ場合、対抗策が無くなるのが嫌なのだろう。

 

 そんな刹那の態度と気持ちを察したのか、達也がフォローをしてくれた……。

 

「少佐、確かに刹那の情報源は有用ですが、今は絞るべきです。如何に人間相手の戦いに『我々』が特化しているとは言え、敵は尋常の理では測れぬ存在です。

 あと一つにして、後は現地対応で連絡を取り合いましょう。俺も―――刹那の焦燥が分かりますので」

 

「大黒特尉……分かった。ならば、君に任せよう」

 

「ありがとうございます」

 

 さり気に三人ほどの『肩書』が、さらっと出てしまったが、全員色々と事態の急変についていけない部分はあったので仕方ない。

 

 疑問を差し挟むことは出来ない辺りに、色々と理不尽は覚えつつも―――。

 

 達也は、最後の質問を刹那にした。

 

「英霊の力を借り受けることは、『INVOCATION』の類だったな。リーナと刹那がよくやる『夢幻召喚』もその一つ……ならば聞こう。深雪に取り憑いた英霊は―――危険ではないのか?」

 

 その言葉に一条も固唾を飲んでしまう。その可能性が無い限りは、達也は深雪の『守護』のためだけに、ここから離れてしまうだろう。

 それは大隊の戦術プランを崩しかねないものだ。そういう懸念が風間と響子から伝わる。

 

 それに対して答えるのは――――。

 

「それに関しては私が答えるわ。『デストラクト・コード=暗黒のアダム』。私が『この子』(シバ ミユキ)に憑依しているのは、一重にこの子を守るためなのよ」

 

「し、司波さん……? 違う……声音は一緒なのに、全然違う……衣装も露出過多で、目の毒すぎる!!」

 

 達也が貸した一高制服を脱いだ深雪=マルタの言葉と行動に、男は見るな! と言わんばかりに、女性陣が男子の眼を塞ぐ。

 

 解せぬ。と思いつつも、質問に対して彼女は答える。

 

「あなた方には知覚出来ないかもしれないが、この子の命数は、場合によっては『今日』にでも尽きたでしょう。あの炎の悪魔―――ヒンノムの谷(ゲヘナ)より舞い戻りし、哀しき罪科の者の手によって……」

 

 この子という場面で深雪の身体を指し示すマルタの意識は、火野原という男の手で深雪は死ぬ。と言ってきた。

 

「そして、この子の死は、アナタを完全に地獄門の開放者とする。

 ―――『暗黒のアダム』。アナタはこの子の死を以て、世界に原罪を解き放つ。

『彼』が持っていってくれた全てを……『その時』を阻止するために、私は召喚されたわけだけど……この世界の『意識』は、存外鈍いのね。

 超常能力者が、普通に認識されているからかもしれないけど……」

 

『キミが深雪君に憑依しているのは、霊体から肉体をマテリアライズ出来ないからだね。成る程、マシュと同じだな。君が移ったのは『保険』。

 深雪君は命の危険があるということか―――』

 

「そういうことよ、ダ・ヴィンチ。仮にこの子が『もう一度』死ぬような事になったとしても、死ぬのは私の方よ。

『一度』は拾った命……失わせることは、酷というもの―――そして失われれば、本格的に『世界』は『剪定』される―――」

 

 ダ・ヴィンチ(オニキス)聖女マルタ(シバミユキ)の会話。超然とした世界全てを観測した大きすぎる会話の中に、『既知』のことも含まれていることが、事情を知っている者たちを緊張させた。

 

 それは真実なのだと……。

 

 そして達也の疑問は氷解した。

 火野原が、深雪の命を失わせる要因になるかもしれないならば、今度こそ―――自分が仕留めればいいだけだ。

 

 それだけが―――司波達也の行動理念なのだから―――。

 

 だが、その思いは……他ならぬ深雪によって否定された。

 

「それじゃ『交代』するわ。『表層』に出てるだけで力の無駄が多いのだから――――と仰っていましたが……だからといって私を遠ざけるのは無理ですよ。『お兄様』」

 

 言葉の途中から、聖女マルタの意識が沈んだと分かる変容。サイオンの放出の様子が変わったことで理解した達也は―――今の彼女は深雪だと気づいた。

 

「お前も前に出るというのか深雪?」

 

「ええ、聖女マルタは私の命を守るためだけに、ここに来たわけじゃありません。

 こういう時に、戦ってこその魔法師の意味でしょうし―――私があの時……火野原さんを責め立てなければ、こんなことにはならなかったかもしれない」

 

 それは結果論でしかないだろう。だが、そういった人間ばかりだ。

 

 能力があっても、その力を世間に認められず、能力が足りなくて外法に頼ったものの、それでも認められず……ままならない人生を送ってきたからこその絶望を―――理解してあげるべきだった。

 

「せめて……誰かが認めてあげていれば。彼の人格を、能力を肯定してあげていれば、救われたかもしれない。断罪を突きつけるだけではなく、話を聞いてあげていれば――――今までそういう人を、見てきたじゃないですか。お兄様?」

 

「―――……そうだったな。本当に―――そうだった……」

 

 力の多寡、在り方、思想……ままならぬ世情に流されるだけの人生。

 

 認めてほしいのに認められなかった人生。魔法師だけでなく非魔法師とて、そうなること(自暴自棄の捨て身)はあり得るのだ。

 

 ならば、否定するだけでは、断罪するだけではダメなのだ。きっとそれは―――多くの『劣等生』たちが求めていたことなのだから。

 

「誰か一人でも、その人を認めていれば、きっと誰かを恨むことは無かったはずです。

 本当ならば、それはもっと速くに気づくべきだった―――『現代魔法師』の誕生も、もっと祝福されているものであったならば、もっと多くの人に望まれているものだったならば―――世界は変わっていたはずです……」

 

 時に魔法は、大地を削り飛ばし、海を割り、空を撹拌させる―――。戦略級魔法の使用とは、人間の『負の能力』の『無限性』の発露だ。

 

 その結果が、多くの人命を失わせ、全ての関係性を断つことになったとしても、魔法師は―――『不感』となれる。それが、人を恐怖させる……。

 

「―――どちらにせよ。英霊マルタを介して私には理解できました。彼は私が止めなければいけない存在です。

 深雪のワガママを許してくださいお兄様。そしてお勤めを果たしてください。今はまだ……魔法師は戦うことでしか社会にいられないのですから」

 

 達也に一礼をする深雪。本当ならば、頑として彼女を遠ざける……避難させるのが、深雪のガーディアンとしての達也の態度だ。

 

 だが、それを言えなかったのだ。だからそれを了解するしかなかった。

 

 何より……。

 

「それでも止めるようならば、『汝、兄を殴ってでも押し通れ。』と聖女マルタからの啓示を受けておりますので」

 

「オーケー、分かった。だからその女の子らしくない『ベアナックル』を見せつけるな。威力も察せられる」

 

 握りこぶしを見せつけて、達也を威圧する深雪。珍しい光景に唖然としてしまう。

 

 あまりにも『ふり〜すたいる♪』すぎる深雪の勢いに、流石の達也も、引き気味である。

 

「危険性が無いのは理解した途端に危険度が上がるとは、これ如何に?」

 

「余計な口出しするもんじゃないな。人の自由意志は捻じ曲げられないもんさ」

 

 刹那の返答に、納得いかない顔をする達也を見ながら、戦うにせよ逃げるにせよ―――もはや自分の役目は決まっているのだ。

 

「大黒特尉―――いや、達也。お前は先行して敵勢を撃破しろ。真田が『スーツ』を持ってきてくれたからな。セイエイ―――」

 

「―――トレース・オン。手土産は置いておきます。俺は先行して中華街方面に行きますので、武器の詳しい使い方は、シルヴィア辺りから説明を受けてください」

 

 風間の言葉を遮るように『対抗策』として控室の壁に、『数十本』もの『破魔の兵装』を武器の飾り棚のように『設置』して置き土産とした。

 一瞬の出来事に更に唖然とするも、その姿が――――プリズマキッドのそれに変化しているのも早業だった。

 

「ワタシもいくわよ。USNAスターズのツインスター(双星)は、二人で一人なんだから♪」

 

「俺じゃお前と『乳合わせ』出来ないんだけど?」

 

「アガートラーム!!」

 

「エクシヴッ!!」

 

 エクシアと言いたかったのだが、赤くなったプリズマリーナの攻撃を受けたことで、変な語尾になってしまった。

 ともあれ、両名とも『多元転身』(プリズムトランス)を終えたことで、出発準備は整っていた。

 

「―――オーダーを発令します。セイエイ・T・ムーン、アンジー・ミザール。あなた方の行動制限を解除。

 持ちうる全戦力で以て、大亜連合及びフェイカー率いる魔軍の壊滅を行ってください。

 私もサポートはします……無茶をせずに二人とも、無事に帰ってきてください。本当に無茶はダメですよ」

 

 参謀本部辺りから、急遽に作られて送られてきただろう指示書を手に、シルヴィアが自分たちに戦う口実を与えつつも、身を案じてくれる辺り……これが響子とのアネキングとしての差だなと思ってしまう。

 こちらの不快な思考を読んだのか、歯ぎしりしてハンカチを噛まんばかりの響子を見ながらも、準備は済んだ。

 

「――――行くのか?」

 

「ああ、地獄を見てくる」

 

「先に行っていろ。俺も直ぐに追いつく―――」

 

 互いの顔を見ずに、拳をぶつけ合い――――それを合図に達也は控室の扉から出ていき、刹那は壁をアゾット剣で切り裂いて外に出る。

 

「――――Minuten vor schweisen」

 

 分厚い壁を大きな六角形に切り裂いて、『分子ディバイダー!?』などという驚きを聞きつつも、その後には修復して壁を塞いだ刹那。あまりにもあまりな壁抜けで―――『四人』が出た。

 

「え?」

 

「爺ちゃんが心配。だから刹那哥々(にいさん)に着いていく!」

 

「私もカレイドライナーとしての力を鍛えてきたのです。置いてけぼりはゴメンですね」

 

『ということで、ネロ祭を乗っ取られた余が力を貸そうではないか! 言うなれば、バトル・イン・ヨコハマと言ったところだな!!』

 

『または、女性ばかりのチーム構成に男が白一点。『サクラ大戦2095』としてもいいんじゃないか?』

 

「サクラと言う名前の人間が一人もいないのに!? って紐育(ニューヨーク)華撃団も巴里(パリ)華撃団もいなかったんだよな……ってそういうことじゃない!! マジで着いてくるのか?」

 

 先程までの、達也とのクールなやり取りを台無しにする会話の応酬をしながらも問うと、愛梨は愚問だと言わんばかりに返す。

 

「当然です。フランスの士族としての血。私の先祖―――シャルルマーニュの騎士であったブラダマンテの力、そして何より私自身の心が、この事態を見過ごしておけないのです」

 

 長い金髪を掻き上げながら言う一色愛梨……プリズマアイリの言葉に、少しだけ感極まる。

 

「ワタシも同様よ。この場で後ろで控えているのは、無理。それは分かっているでしょ?」

 

 誰もかれもが戦う意思を秘めている。これ以上は野暮というものだった。

 

「空を征くぞ! 地上の掃討は、ランサーお前に任せる!」

 

「承知!!! 行くぞ放生月毛!!」

 

 召喚した馬―――戦国の騎馬を駆るランサーが、蹄で蹴る音も高らかに、周囲に散っていた魔狼を蹴散らしながら進んでいく。

 

 その先導に従いながら刹那も飛んでいく。飛行戦力も用意していたのか不細工な竜種のゴーレムが飛んできて、魔弾で消し飛ばす。

 

「ゲートオープン、刻印神船マアンナ!!! ―――さぁ上げていくぞ!! 達也が来る前に仕事を全て終わらせてやる嫌がらせ遂行だ―!!」

 

『『『なんでさ―――!!! YEAH―――!!!』』』

 

 美少女三人の笑いながらのツッコミが入る。

 

 九校戦で見た魔術戦艦を発現させて、軽快に優雅に大胆に―――魔弾を放つ刹那を先頭に、事態は終息かあるいは混乱か、どちらにせよ変化を果たしていくのだった。

 

 

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