魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
横浜の中心に八卦陣を築き上げようとしているフェイカーの傀儡兵。
複雑な命令を受けないはずのこれらが統率されているのは、彼女の姉『妲己』が用立てた
彼女は、かつて異聞帯という場所にて多くの魔獣を調教して飼い慣らすことをしてきた。それは趣味半分、戦略半分の行いであったが、その中で一つのことを結論づけた。
炎の巨人が、氷の魔狼を飲み込んだことで暴走状態……正しき滅びを迎えなかったことで、とんでもない結論を生んだように。
即ち―――
だが、それは本来的にはありえぬこと。カニバリズムが、生命としての忌避を生み出すのと同じく、人間が人間を食らったところで心機能に異変を生み出すだけだ。
かつて狂牛病と呼ばれたものの大半は、屠殺した牛の骨などを砕き潰して細かくした上で、飼料として同じ『牛』に食わせたことが原因だったのだから。
しかし、自然界において共食いは無い現象ではない。ならば哺乳類だけがそうなるのか。魚類、爬虫類、鳥類では無い現象なのか……。
「答えは単純―――即ち、肉を食らわせるのではなく『魂』『精神』を食わせるのです。ソウルイーターとしての特性を持たせた『人間』であれば、簡単に人工の強化兵士は生み出せるのです」
この世界の技術者は何を考えたのか知らないが、あんな不効率な強化人間なんてものを作り上げて、その結果とて丁半博打も同然に、望んだ実験動物が出来上がるかはわからないのだ。
「ならば、もっとお手軽に簡単に、そして強力な強化人間を作り出せばいいのです。私がやったように―――そして魔法師の究極とて、人智の全てを超えた超越者を望むというのならば、その果てにあるのは――――」
紂■陛下を作り上げることに他ならない。
「ご主人さま。アナタの『腹』を引き裂き、『未来』を奪ったものたちは、皆殺しですわ♪
けどそれだけでは終わりません。あなたの身を焼いた業火の熱さ、辛苦、女としての絶望……それらを世界に返して差し上げましょう」
扇を顔前に翳して、世界を破滅に導く手駒の到着を狐は待ち望むのだった。
† † † † †
魔法師は現実を書き換えられる。この定義は、今だに崩れてはいない絶対のものの一つだ。
もちろん、限度はある。やれることとやれないことは当然のごとくある。
いわゆるファンタジーフィクションなどにありがちな、『魔法使い』のごとく『チチンプイプイ』『アブラカダブラ』『テクマクマヤコン』などと唱えただけで、人知を超えた超常能力を発揮出来るわけではない。
死者の蘇生、時間旅行、無から有を作り出す、有質量の零時間転送などなど……上げていけばきりが無い。
ならば、『目の前の現実』は―――果たして何なのか、それに対する答えは、誰もが持っていなかった。
「にゃ――――!!!」
間抜けた掛け声と共に走ってくる、白馬に跨る白武者。
その槍の輝きは一閃しただけで、十もの骸を作り上げる恐るべき手並み。現代の走行機械に逆行するかのような白馬の嘶きと共に、横浜の路面を駆け抜けていく。
そんな白武者を狙って空中から強襲を掛けようとするものを阻むかのように、虚空から魔弾が飛んできた。
巨大な魔法の塊―――ある学生の大会で世界に認知された固有スキル。それは、飛行能力まである―――『魔法戦艦』なのだった。
「そこ動くなよ!!!」
魔軍に取り囲まれたゲリラ兵士。銃弾が効かず、さりとて魔法の発動すら阻まれた中洲のような場所で、『しょんべんちびりながら』応戦していた連中に警告を与える。
同時にマアンナの弓弦を引き絞り、虹色の閃光を地上に降らせる。
射角は、船であり弓であるマアンナを振り回さなければいけないが、それに勝る利点がこれにはある。それは宝石の威力を無限に引き出せることにある。
刹那が母から受け取った魔術刻印の外部展開の技法……七色宝石を最大魔力と共に叩き込むものを、独自に改良していったものだ。
たかだか200年程度の蓄えしか無い魔術刻印だが、どうやら刹那の両親は様々な意味で『数奇な運命』を辿ることが約束された人間だった……。
両親が死んだからか、その頃から並行世界全ての遠坂凛及び衛宮士郎の記憶と『経験』とが、
もしかしたらば、母か父のどちらか、あるいは両方は『神霊』と関わりを持った世界があるのかもしれない。それが、遠坂及び衛宮の刻印を通じて流れ込んでくるのかもしれない。
多くの疑問をオニキスに問いただすと「んーーー?なんのことかな?(CV 土師○也)」とすっとぼけるのであった。
ともあれ、天の女神イシュタルと地の女神エレシュキガルの宝具を思わせる変容を遂げた魔術刻印は、刹那の必殺の内の一つだった。
まぁ……神代クラスの魔術を展開出来るわけではないので、魔術の強度においては、所詮は現代魔術に収まってしまうのだが……。
ともあれ天空から降り注ぐ流星でゲリラ達を救うと、助けるか否かを判断し損ねていた黒ずくめの集団……達也の同僚だろう相手に『お勤めご苦労さまです。』と軽く言っておく。
「協力感謝する。が、結構な滅茶をするな」
「人命に代えられるものでもないでしょ。それに―――別に血に飢えているわけでもなければ、無駄な血を求めているわけでもないですしね……」
ただ戦いは求めていたのかもしれない。そこだけは魔術師の本能と言えるかもしれない。
相手の魔術との違いを測る戦い。ゆえに―――コヤンスカヤの改造した強化兵士が出てきた時には……内心でのみ舌なめずりをするのだった。
「楯岡曹長、あいつは黒曜の山賀です! 硬化魔法に最適化処置を施されて、その身を『神鉄』以上ともいえる硬度に変化させられるという……」
「ああ、分かっている。その上、60人以上もの共産ゲリラを一年で殺した上に、無関係の人間も作戦上不要なのに追い込んで殺した下劣漢だ」
魔軍の指揮を取っていたのだろう強化兵士、黒曜の山賀とやらが、その身を化け物じみたものに変化させている。
金属の身体に顔以外を埋めて、巨大なアイアンゴーレムかと言わんばかりの身体を見せてくる。
上半身に体積が集中している反面、下半身は若干心もとないが、そこから繰り出される拳は人体破壊の理を生む。
「ようやく同国人を殺せるときが来たかぁ……しかも我が古巣! 国防軍の皆さんじゃないか!! あれだけ任務に忠実だった俺を見捨てて、裁判所で極刑を出したことに抗議もしないなんて、ひでぇよなぁ……だが、この力で―――俺を見捨てたお前らに、復讐してやるぜぇ……!!」
典型的な小悪党。大方、ただ単に人殺しが出来るから国防軍に就いたとか、そんなところだろうか。
マアンナの展開を終えて、グローブを握り直して、踵を地面で叩いて戦闘準備を整える。
「セルナ―――私が前に―――」
「先は長いんだ。余裕ある俺が先んじて戦っておくさ。それに―――硬化で神鉄以上と聞かされては、
ルーンの加護を四肢に発動させて、山賀と相対し合う……。
正直言えば、目の前の相手は―――アイリでは荷が勝ちすぎる。
何より―――殺人に対する忌避感もあるかもしれないのだ。
こちらを見た山賀は、構えを取る。
「一〇一の『巨狼』と戦うことを夢見ていたのだが、その前に、お前のような大物が出てくるとはな……娑婆に出てから、ようやく夢見た死合が出来そうだ!!」
「一撃で終わらせるつもりだ。其れでよければ打ち合ってやるよ」
小悪党な言動をしていたわりには、戦いの技量は素晴らしく高い男だ。
こちらの技量を正確に見抜いて高揚する山賀という男。顔すらも土肌に覆って、赤眼と剥き出しの歯だけが見える化け物じみた姿を完全に取った。
「USNAの魔法超人『プリズマキッド』―――貴様を倒して、我が花道を飾ってくれようぞ!!」
その図体にして、これだけの勢い―――相撲取りのブチカマシの如きものを前にして、刹那も「ハッケヨイ」の勢いで前に出て、拳を合わせた。
互いに前に出した左拳と右拳が、ぶつかり合い―――勝ったのは右拳を突き出した刹那。
砕けた腕を押し退けて山賀の懐に入り込む。巨体ゆえの取り回しのなさ。バックステップをしようとしたゴーレム体の足を蹴り砕く。
一瞬の早業。山賀からすれば、足首に火薬でも炸裂したような衝撃を感じただろう。崩れ落ちようとしている身体の真ん中に『鉄拳制裁』が入る。
ルーンを付与した最大級の打撃。殺人打の一撃が、山賀を絶命させた……。
「なんたる拳の奥義。抜かった……魔弾ならぬ魔拳の使い手でもあったか、お前は―――」
「養母が、容赦なく鍛えてくれたんでね。まぁ『食いすぎて胃のもたれ』が過ぎたな……」
こちらの言葉に、心底の苦笑を漏らす山賀。どうやら―――本当に戦いのみを望んでいたようだ。
「全くだ。くそっ……破壊の神―――マヘーシュヴァラ、神狼フェンリルのごとき男との戦いを望んで、あの狐の甘言に乗ったってのに―――ここで終わりか。迷惑な話だろうが―――満足しちまった……楽しかったぜ……」
その言葉と同時に、人間にはあらざるほどの霊基を食らっていたがゆえか、崩壊を始める身体。霊子と魔力に還元されていくさま―――それが戻る先をスキャンするようにオニキスに言うと同時―――。
黒曜石……それ以上の硬さを保っていた男のすべてが崩れて身体すらも土塊に還っていった。
「セルナ、怪我は!?」
「無い―――」
「ワケないでしょ!? あれだけの黒曜石のナックル食らった後に、再び右拳を使ってのボディブローとか!! アリエナイわよ!!」
見ると、加護のルーンを割って痛ましい右手が見えていた。その様子に対してリーナは怒っている。これを躱すためには―――。
「右手を虐めたい気分だったんだ」
「ダディを大事に、このマザコン!!」
オヤジを人身御供にしても無理だったようである。
リーナの治癒(アイリとのじゃんけん勝負後)を受けつつ、ここも『八卦陣』の一角であったわけで、結界の起点をトレースした。
雑というほどではないが隠蔽する気があるのかと言わんばかりの配置に、響子が見せてくれた魔法陣を確認。
「これを魔法陣に突き刺してくれ。念の為、『ドレス』を纏ったままにな」
「
位置情報を教えると同時に『歪な短剣』を突き刺すようにリーレイに指示。数秒後には、ここにあった『澱み』が消え去る。
「――――」
「ここはお任せします。我々『遠坂華撃団!』……大神華撃団みたいに言うな! ともあれ、我々は中華街の劉師傅の救助を優先しますので」
フェイスガードを上げて呆然とした顔をしている楯岡氏に言ってから、刹那たちは中華街に向かう。
途中変な単語を割り込まれたが、ともあれ―――金と銀の双頭の鷲に跨るリーレイを先頭に、一団は横浜の戦いに介入するのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「事態は思った以上に悪いわね……ゲリラとフェイカーのサーヴァントが同調していないのは、僥倖かもしれないけど」
「もしくは、諸共に潰してしまった方が良かったかもしれんな」
藤林曰く、先程から非正規兵たちは、魔軍に取り囲まれてロクなことが出来ていない。
というよりも、持っている銃火器やキャストジャミングの機器が何一つ意味を成していない。
つまり……大亜のゲリラからすれば、細菌、ウイルス汚染で死体が動いている……都市型パニックホラー的な状況に陥っているのだ。
ゾンビと同じく頭をぶち抜けば……という理屈も、持っている火器では火力不足なので無意味。
「協会は何をしているの?」
「どうやら自分たちに被害が出ないのならば、積極的防衛は必要ないと感じて、守りを固めている……」
こういった時に事態を収めるべく尽力するのが、魔法師としての役目のはずだが、事なかれ主義的に『対岸の火事』として見過ごす態度は、克人としては、癪な限りだ。
「真由美、お前は避難ヘリの誘導及び護衛だ。俺は表示された地域の中でも戦闘が激しい所に向かう」
言いながら、刹那が『転送』した朱い槍を数本掲げる克人。
シルヴィアから『説明』を聞いた限りでは、ファランクスすらも
「俺とて、いつまでもただの壁男ではないさ。進化を果たすよ」
そんな真由美の懸念を笑みと共に一蹴する克人。シルヴィアが持ってきてくれたレオナルド・アーキマン……ダ・ヴィンチちゃんの鎧。
米軍制式装備たる『オルテナウス』を纏う克人の姿は、身体の頑健さと相まって、豪傑武者を思わせていた。
「弘一殿とて、娘の無事を一番に確認したいはずだ。連れ回せん」
「そんなことあるわけないわよ」
そんなやり取りの傍ら、達也組の面子も、オルテナウス・アーマーを身に着けて戦場に出ると言わんばかりだ。
というよりも、最初っからそのつもりだったようである。
「私は護衛に回ります。正直、攻勢に出られる気がしません」
2年組の大半が、前に出るよりも後ろで待機。即ち、ヘリポートの護衛を優先したのは当然の話なのかもしれない。戦場に出てくる敵は、獣の如き俊敏さと獰猛さ―――何より不死性を体現している。
風紀委員長、千代田花音の言葉に全員が分かったと言っておく。
どうやら大体は別れた形だ……2年で残る千代田、五十里、桐原、壬生の中に、光井、北山が入り――――統括するべき渡辺摩利は……。
「真由美、悪いが私も攻勢に出る―――いや、借りを返さにゃならない剣士がいるんだ」
その言葉に真由美としては少しばかり心細くも感じたが、その原因と言えるだろう一人の剣士が、自分達の近くに現れた。
剣士特有の抜き足差し足で音なく、近づいてきたのは覆面姿の剣士。髪と眼だけは見せた状態の覆面の素顔は―――自ずと理解できた。
「何やってるんですか次兄上……?」
「そのような男は知らんな。今の俺は、血に飢えた剣鬼一匹。魔剣士『魔礼青』との戦いを望むものだ。私戦を演じる以上、千葉の名は―――今は、封じるのみ」
そんな決意を固めた千葉修次氏に対して、プレートアーマー……警察の暴徒鎮圧用装備を纏った寿和がやってきて問いかける。
「―――それ意味あるのか?」
「あると思いたいね。兄貴はどうするんだ?」
「戦うさ。市民を守るのがおまわりさんの役目だからな」
よく見ると、ワイシャツの袖口やブーツに血が着いているのが分かる。アーマーこそ真新しいが、両名ともここまで様々な修羅巷に出ていたのだろう。それを察せられた。
自分達に比べれば疲れがたまって十分ではないというのに、それでもまだ戦う長兄に、弟も妹も何も言わない。
たとえ、いきなり実家から持ち出された秘蔵の剣を渡されたとしても、ごにゃごにゃ言わないぐらいのTPOをエリカもわきまえていた。
「全市民の避難誘導は完了したと強弁を振るえませんが、残るは魔軍の陣取った辺りを何とかしなければなりません。響子さん、こちらはお願いします」
「……分かりました。お気をつけて寿和さん」
「ここも安全じゃありません。アナタも―――」
敬礼し合う響子と寿和。苦笑してエリカは、『場合によってはリーナが遠い親戚になるのかも』など内心でのみ思っておく。
そして、チームが分けられると同時に、どうするかを考える。
「飛行魔法でもあれば、問題ないんだがな。八卦陣の真ん中に現れて、内部から相手を撹乱する……そうしたい」
「はい。八卦陣の真ん中、横浜の中心街に楔を打ち込めれば、そこから相手の側面・背後などを取れるのですが」
データ上に示されたライブ映像と重ね合わせた図陣を見るだけならば、『炉』の中央は完全にがら空きだ。
儀式魔法で魔力を練り上げているのだから当然なのだが……。幹比古としては、ここは確かに弱所ではあると断じれた。
刹那のような思考を持つ人間ならば、ここを狙うのは定石のはずなのだが……。
「刹那のことだから『何がしかのハイブリッドな術式』を眼にしたくて、このままだろうしな」
「悪意的な見方だが、そういうものなのかな?」
レオの苦笑交じりの言葉に疑問符を浮かべる千葉修次。もっとも、刹那とてやろうと思えば出来なかったわけではない。
だが、刹那の最優先事項がリーレイの祖父、まさかまさかの『大亜の戦略級魔法師』などとは思わなかった人間に対する救出なのだから仕方ない。
つまりは――――。
「刹那君の思惑を崩して嫌がらせをするには、ここに突撃を仕掛けるのが一番ということですね。分かりました。では思う存分、やりましょう」
桜色の杖―――九校戦などでもちょくちょく見ていたその魔法武器に十字架の意匠を重ねて変化させた深雪は―――ライダー・マルタの衣装を見せながら、傲岸不遜―――という言葉が似合う調子で言ってのけた。
「み、深雪さん? 大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。美月こそ大丈夫なの? 今から行くのは修羅巷よ」
「月鏡の魔法もありますし、私なりに出来ることがあるならば……」
柴田美月。何気ないことを言っているが、この女も最前線に赴こうという考えを持つウォーモンガーだったりするのである。
というか深雪の言動も、若干いつもの調子とは違う。元々、刹那やリーナよりも『番長』的気質は無かったはずなのに、今の深雪は……一高の女番長的気質を感じるのだ。
「行くのは構わないが、どうするんだ?」
「フェイカーのサーヴァントは良いヒントを与えてくれました。敵の分厚い壁を破るには―――」
言うや否や杖を一振りしたことで、深雪の背後に巨大な獣が現れる。
伝説の通りならば、それは聖女マルタが鎮めた竜。リヴァイアサンとベヒモスの間に生まれしもの『タラスク』『タラスコン』などと言われる竜である。
巨大な竜は犬猫のように尻尾を振りながら、下知を待っているかのようだ。うん、なんでさ。
『ちょっとだけ優しい姐さんだ。』とでも言っているかのように感じる。
ともあれ巨大な魔獣を見た克人は深雪の意図を理解した。フェイカーとランサーのぶつかり合いを見ていただけに……察した。
「そうか、魔獣による一点突破か……」
「はい。タラスクの突破力を利用して中央に一気に向かいます。幻想種の力を利用するならば―――確実に」
怖いことを考えるお嬢さんだ。と男連中が考えつつも、ここで尻込みしては男が廃る。
そんなわけで、深雪曰く甲羅によじ登れと言われて、食われる危険や恐怖を押し殺しながら、
「司波さん! 手を!!」
騎兵の攻撃である以上は、彼女が乗らなければ始まらない。そういう理屈を弁えていたわけではないが、一条将輝が深雪に手を差し出すも……。
「いえ、お構いなく一条さん―――ではしっかり捕まっていてくださいね。西城くんのごとく硬化魔法できちんと姿勢を固定化させて―――余裕があれば、他の人のシートベルトもよろしくおねがいします」
「お、おい司波? 何を考えているんだ――――」
「「「「あ」」」」
その時、聖女マルタの攻撃を見ていた面子が気づく。やばい、この後の展開が確実に分かってしまった。
分かってしまったからこそ――――。
「行きますよ―――せいっ!!!」
軽い掛け声。それと同時にテニスラケットを振り抜く程度の動作。
本当に気軽なもので―――巨大な魔獣が真っ直ぐ上に飛んでいったのだ。
キャッチャーへの『真上ノック』を思わせる見事なものだが、あいにく深雪には野球の知識もない上に、飛んでいるものは硬球でもないのだ。
巨体が舞い上がったことによる豪風をその身に受けながらも、誰もが驚いた。
「「「「えええええ――――!!!!!?????」」」」
あり得ざる現象に、居残り組が仰天の声を上げながらも深雪は、呪文を唱える。
「―――愛を知らない哀しき竜よ―――流星となれ―――
呪文を唱え終わると、光り輝く杖を手に真上にタラスクを追っていき……。
「
その巨大な……全長10mはあろうかという巨竜を―――殴り飛ばしたのである。
もうステゴロである。輝かせた杖は何の為にあったんだよ。とか色々と言いたいことは多かったが、真上への突風が終わると吹き抜けていく風が真由美たち居残り組の身体を揺らす。
殴り飛ばした深雪はといえば……そのタラスクを叩きつける勢いそのままに、飛んでいっている。
少し違うが、桃○白の柱乗りのようなものだろうか、そしてここからでも聞こえる轟音と大地全てを揺らす振動。
ここからでも見える、着弾点で吹き上がる爆炎――――それらを見て一言……。
「……地下道は大丈夫なのかしら?」
「それ以前にタラスクに乗った人間たちが無事かどうかが心配ですね。デビル○ンのジ○メンも同然の突撃ですから」
真由美と鈴音が言い合いながら考えることなど、それだけだった。
吹き上げるきのこ雲……爆発の音に擬音をつけるならば何故か『でちゅー』とつけたくなるその攻撃の成果は―――マルチスコープを向けた真由美がいの一番に知る。
奇襲一発、成功。
八卦陣の真ん中に現れた精鋭部隊は、背後や横っ腹を見せている魔軍に考える暇も与えずに速攻で攻撃を仕掛けていった。
正しく、意思決定が出来ずに最後まで決戦を決められなかったペルシア軍に襲いかかる、マケドニア軍の重装歩兵のごとく……戦士たちは戦いを極めていくのだった……。