魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第152話『やぶれ八方』

 

スーツを着込んでフィッティングを終えると、己が一つの戦闘兵器になったような思いに囚われる。

 

無論、それは錯覚でしかないのだが、肉体全てを締め付けるようなその衣服は、いわゆる前時代的な特殊部隊の耐弾と動きやすさを重視した戦闘服を思わせるからだろう。

 

だが、それはある種、自分のような全能を体現する魔法師であっても信奉する現代の『武者鎧』だ……。

 

刹那がはめ直すルーングローブとは違い、銃把をしっかり握るためのタクティカルグローブを手に装着すると、装備は十全となった。

 

更に言えば、オルテナウスアーマーのゴーグルバイザーを首に掛けることで―――十二分となる。

 

「どうだい特尉?」

 

「ええ、自分の設計以上だと思います。何より、オルテナウスの機構を利用したのが、特に」

 

「まぁ刹那くんとリーナがさっぱり使わない『余り』を提供しただけなんですけどね」

 

真田の質問に答えてからの疑問をぶつけると、シルヴィアが答える。

 

USNAスターズでは、既に制式採用されている装備だが、あの二人からすれば『いらない』とのことらしい。

 

達也的には機械がアシストしてくれるところは機械に任せることで、最大級の戦闘を行えることは兵士、戦士としてありがたいことだが……。

 

最後に判断材料となったのは、それがインストール、ポゼッションなどの英霊の力を借り受ける上で邪魔かどうかという点にあった。

 

「ダ・ヴィンチ曰く、元々はあるデザインベイビー……英霊を憑依させる実験の為に作られた存在の戦闘力を上げるために開発されたものらしいです。それを流用することで、我々魔法師にとっても有用な装備になったとのことなので」

 

「成る程、それならばあの二人にとってはいらない装備にもなるか」

 

英霊を憑依させたあの二人の戦闘力は、単騎で戦略級にも匹敵するだろう。

 

感想を出しながら、いざ戦闘に出る時となりそうだ。

 

「状況は混迷を極めつつあるが、座してセイエイ特尉、ミザール少尉の尽力だけを頼りにするのは、同盟国としては好ましくはない。大黒特尉―――柳の部隊に合流した上で、事態の早急な収束を図れ」

 

「了解です」

 

敬礼を一つしてから、大型トレーラーから出た達也は腰に巻いてるベルトのバックルを押して、飛行魔法を発動させた。同時に、達也から遠いとはいえ、横浜に降る流星を見た……。

 

その勢いと威力は凄まじく、地下通路すらも砕くのではないかと思う轟音と衝撃。

 

空中に漂う達也にすら感知できる『物理的揺らぎ』と、『魔力の撹拌』が横浜を襲う。

 

バンカーバスターか、燃料気化爆弾でも投下されたようなそれが、よもや『大怪獣』の体当たりであり投擲であるなど、誰が予想できようか……いや、何人かは予想出来そうではあるのだが、ともあれ―――達也は、指示された通りバイザーに映る柳の部隊の位置まで飛んでいくことにするのだった……。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

そんな深雪のはっちゃけより少し前に、中華街方面に到着した刹那達『遠坂華撃団』は、仕立ての良いスーツに身を包んだ美形の男と―――豪放な限りの男と……どちらも20代だろうが、共闘して劉師傅を追い詰めているのを見た。

 

「爺ちゃん!!!」

 

どちらが大亜の連中であるかなど今更すぎるが、こちらの声に反応する前から注意を向けていた―――ルゥ・ガンフーと、内通者『周』に対して、魔弾―――殆どレーザー光線も同然のそれを放つ。

 

ガトリング・ガンのように魔法陣が束ねられたそれから放たれる光線をまともに受ける気はないのか、その場から退避した―――まずは怪我を負っている劉雲徳師傅と大亜の亡命部隊の回復が先決。

 

それを企図した攻撃は狙い違わず分断を行えた。

 

「お前たちがどれだけ分かっているのかは分からないが、もはやお前たちの戦力の殆どは、フェイカーの生贄に供されたぞ。

それでも、まだそこの男に従うのか!?」

 

ルゥ・ガンフーと周に従う連中を離間するための策。もしかしたらば、フェイカーの存在が知られていない可能性もあったが……それでも、言うだけのことは言っておく。

 

この異常事態の中でも、目の前の男を信じていていいのか? そういう考えをもたせるだけでもいいのだ。

 

「同士……呂―――いったい」

 

戸惑いの言葉を上げたゲリラ…東南アジア系の男の首を、音もなく刈り飛ばしたのは、方天戟を持つ呂剛虎。

 

その手に持った総重量にして80kgは軽く超えている方天画戟を軽々と振るう様子に恐怖を覚えるものが多数いる中、刹那は干将莫耶を『投影』して握りしめる。

 

「気をつけたまえ。今のルゥ・ガンフーの能力は高すぎる……」

 

「リーナ、治癒術を―――」

 

言うや否や、全員に治癒術の行使を行うリーナを後ろに見ながら、少なくとも戦略級魔法師を圧倒する力はあるようだ。

 

もちろん『上限一杯』の魔法が使えるからと、それが戦闘能力としての優劣につながるかは疑問。しかし、少なくとも震天将軍として知られているこの御老体を追い詰めるほどに、今の殺人魔法師は極まっている。

 

「逃げたいものは逃げろ。どうせこの街は既にフェイカーの儀式場だ。どこに逃げたところで安全圏など無いのだよ」

 

「押し付けた2択なんてスマートじゃないな。チャイニーズ……」

 

その言葉に特に何も答えずに構えを取るガンフー、後衛に周とかいう、この辺では大きな中華レストランのオーナーにして大亜の潜入たちに小屋を貸していた大家。

 

そういう布陣が敷かれると同時―――ぶつかり合いになろうかと緊張した時に……轟音が響く。次いで衝撃が己の身体を盛大に揺らした。

 

紛れもなく『大魔術』の発動。いや、それに収まりきらない強大すぎる神秘……『宝具』の発動が、どこかで行われたのだ。

 

その生まれでた隙を狙って動こうとしたのだが、その時には――――傀儡兵を残して周と呂は去っていった。

 

巨大な魔獣……狼と狐だろうものが置き土産のごとく置かれて、倒れ伏している在日華僑の魔法師達を食い殺さんと涎を垂らしている。

 

「あんまり行儀悪い真似するんじゃないよ。躾がなっていない」

 

「全くですわね。セルナ―――ここは私にお任せを」

 

今度こそ前に出たアイリ。カレイドライナーとしての衣装はドレス風のものであり、ガーネットの人格データが皇帝であるからだろう。

 

真っ赤なドレスに金色が映える少女。白いシースルーのスカートが色々と扇情的すぎるアイリは、刹那が手ずから鍛え上げたアゾット剣を握りながら、柄尻に象嵌されている宝石のオーブをなぞって、レイピアのようなサイズと形状に変化させる。

 

一連の早業と同時に、アイリは動き出す。

 

 

『魔力放出は余が担当しよう! 思う存分戦えい!!』

 

「助かります!!」

 

どうやらカレイドガーネットは、『衣装』に変化することでマスターをサポートするようだ。まぁ刹那とてダ・ヴィンチの格好が似合うかどうかは―――まぁ似合わないとおもう。残念ながら―――。

 

『その機会は君の子どもたちに与えることにしよう。私には見える―――。いずれ双子の金黒美少女たちがカレイドの魔法少女になることが!!!』

 

強く生きろ。我が未来の娘たちよ―――。そんな馬鹿なことを考えながらも、魔弾の輝きでアイリのラッシングを援護する。

 

エクレールという高速移動。九校戦よりも極まったそれが、魔獣の義骸を幾度も幾重にも抉り、深々と貫き―――絶命をさせていく。

 

レイピアの『撓り』を利用した『円』を描く斬撃―――エペ特有の全身が的であるがゆえの攻撃。

 

激しく全身を切り刻み――――。

 

「セルナの愛を受けて進化したアゾットレイピアは――――無敵ですわぁあああっ! モンジョワ―――!!!」

 

受けとらん受けとらん。そういう仕様でしかないんですが、無言で星の魔弾を出すことで、抗議しておく。

 

瓦礫が散らばる中華街の中にて、雷火の剣士が踊り終わると、そこに大型の魔獣がいた痕跡は完全に無くなっていた。

 

「事情の全てを理解しているわけではありませんが、アナタは大亜と日本の魔法師協会を『天秤』に懸けていたんですね? 劉雲徳師傅」

 

「……騙しきれないな。魔宝使い……当初こそ私は、大亜と繋がりつつ、日本の魔法師協会……中でも九島と繋がっていた……俗に二重スパイというヤツだ」

 

回復したもののやはり歳であるからか、立ち上がるまでに時間がかかっていた。

 

だが、立つと同時にしっかりとした姿勢を取る辺りは流石と言えた。

 

震天将軍として中華の大地に立ってきた男……その男が、何故祖国を捨ててまで、こんなことをやっているのか……。

 

「疑問は多かろう。私としては何としても周と呂の首を取ることで、何とか『鉄血』を示したかったのだが、この腕では『雷公鞭』を振るうことも出来ない」

 

片腕を半ばから完全に失って、リーナによって止血されたものの痛ましい痕跡を見て、誰もの顔が苦渋に歪み、リーレイは振るえながら爺の胸にて泣き腫らしている。

 

「……泣くな。リーレイ、我が腕はこれからの未来に捧げたのだ。我身斬刃身鍛幾星霜―――全未来娘孫世為……」

 

漢語で読まれた震天将軍の『こころ』……それは、光宣の為に何が何でも尽力する九島烈と同じだった。

 

祖父・祖母……物心着いた頃には、そんなものがいなかった自分でも、そういう人はいた。

 

冬木の実家……父方の武家屋敷。い草の匂いを嗅いだ時に、安らいだ自分はやはり日本人だと思いつつ……そして隣には―――厳つい顔をしたヤクザの大親分(現役)がいたりした。

 

その大親分こそが、自分の名付け親だった。

ある意味では、刹那の爺ちゃんとも言えるかもしれない。実の孫、曾孫がいるのに、勝手な話であるが……。

 

 

「もはや霹靂塔など使えぬ私だが、それでも……孫を修羅巷に置きたがるものか……」

 

魔法の才能は『遺伝』する。それはメンデルの法則ほど確実なものではないが、劉師傅が危惧して、日本に亡命した理由。『ジジイ』(九島烈)に頭を垂れてでも求めたものは―――ただ一つだった。

 

「リーレイ、爺ちゃんを大事にしなよ……ここにいなさい」

「刹那哥々(にいさん)はどうするの?」

 

リーレイの質問。泣き腫らした顔を見せながら、問いかける少女に無言で答える。

 

―――この騒乱を収める。自分自身の手で――――。

 

本来ならば、大亜のゲリラを掃討するだけの任務だったはずなのだ。それなのに、状況は二転三転していき……こんなことになってしまった。

 

その責任を果たすべき人間は自分なのだろう。

 

「行くぞ。中央の戦場で―――全てに決着をつける」

 

「モチロンよ! それにしてもミユキってば、とんでもねーことするわ。アンビリーバブルよ」

 

「恐らく、セルナの活躍を奪ってやろうという腹積もりなのでしょうね」

 

楽できるならばいいさ。無言の苦笑で思いながら、深雪の考えとしては、せいぜいバスケやバレーの試合で、恋人からの応援で活躍するのを見て、「これ以上、コイツに点を取らせるな」というやっかみ混じりの……そんな程度の話だ。

 

表現としては、分かりづらい限りだが、概ね深雪の心は分かるのだった。

 

とはいえ、如何にマルタの霊基を宿しているとはいえ、あまり司波深雪(最優の現代魔法師)向きの事態ではない。

 

達也とてフォローに向かっているだろうが……ともあれ、最速で向かうことで、変なことにならないようにするのだった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

横浜に停泊している大亜の工作艦船は、横浜の中央にて使われた攻撃に驚いていた。

 

「バカな! 日本の民警は、気化爆弾でも使ったのか!?」

 

「あるいはバンカーバスターの可能性もありますが……」

 

「どちらでも構わん!! なんということだ……状況が何もわからないぞ!!――――ッ!!!」

 

何もかもが不明な状況に喚き散らした偽装艦船の艦長は、不意の揺れに戦いた。

 

何事か!? そう叫ぶ前に………絶命を果たしていた。見ると、自分を貫く太い樹木の幹が見えていた。

 

「―――」

 

「―――」

 

最後に見えた光景は、ブリッジにいるクルー全員が床から生えた木々に殺されているものだった。

 

もはや、事態は異常を超えて自分たちの知るところとはなり得なかった。

 

そして……体調不良で担ぎ込まれた『陳祥山』の体から発芽した木々が……偽装艦船を奇怪な海に浮かぶオブジェへと変える。

 

その様子を隠れて見ていた―――九重八雲は、不味いか。と思うのだった。

 

「大海に木気、中央に『蠱毒』、東に金気……さてさて不味いことになったかな。とはいえ、僕の火力では、あれだけのデカブツを撃ち落とせないしね」

 

敵の狙いも分かったところで、どうしても対策しきれないことが、どうしても歯がゆいが、それでも、少しは数を減らすことをしなければならないということで、船から飛んでくる『植物人形』(プラントゴーレム)を迎撃するのだった。

 

 

† † † †

 

「うぉおお!! 司波さんという戦場の女神の愛を受けて放つ『爆裂』は―――無敵だぁアアア!!!」

 

受けとらん受けとらん。誰もが一条将輝の言動にツッコみを入れてやりたいところだが、奇襲の要諦は、先手必勝。相手に反撃をさせないままに一撃必殺を行う。

 

魔軍は丁度円陣を敷くようにして横浜の中央市街を制圧していたが、まさか、そのがら空きの中央に突如侵入してこちらの後背を襲うとは思っていなかった。

 

内側から浸透した一高と三高の精鋭部隊ならぬ『愚連隊』の面子は、四方六方八方に散って、魔法を連射していく。

 

エイドス改変の重複で術が不発にならないように、そもそもそれ以前に接近戦などで相手を壊乱させていくので、奇襲は成功していた。

 

だが落ち着けば、指揮をしている連中は『兵』を使って一気に中央を押しつぶしにかかるだろう。それゆえに真由美は―――魔法協会横浜支部にそれとなく『情報』を流していた。

 

―――十師族が、魔軍に挑みかかると……。

 

それは深雪が、こんな手で中央壊乱を行うと思う前からの策略であった。

 

如何に高潔な精神を歌っていても、こういう時に率先して動けない、腰が重い組織……別に協会員全てが戦闘に特化しているわけではない以上、それは仕方ないとしても、この事態を静観しているのは、魔法師のイメージダウンにつながるだろう。

 

それとない『情報』のやり取り。そして―――深雪のタラスク超特急で、横浜の激戦区にいきなり現れた一条と十文字の姿(ビデオ映像ごし)に腰を抜かした魔法協会は即座に行動を開始。

 

国防軍と緊密に連絡を取り合いながら、円状の陣の『半円』部分を『圧迫』するという言葉に、国防軍としても安堵した。

 

 

「以上が、お前の妹が『とんでも』をやった後、5分間の推移だ」

 

「何とも事態が急に展開しましたね。ということは我々はもう『半円』を?」

 

「ああ、同時に『式』という魔法陣を崩す―――。恐ろしいことというか俄に信じがたいが……いや、あのキツネを思い出せば、この世界には、ああいった超常能力者がいるんだな……」

 

九校戦の最終日近くでの戦いを思い出している柳の苦い顔。それを見ながらも、状況に対する最終的な結論を出す。

 

「フェイカーの魔獣……妖狐馬の遺骸は―――ちょうど、『ここ』と『ここ』に等間隔に並べられて『生贄』として捧げられています。

この儀式魔法を用いて、大量の腐落兵(グール)及び義骸魔獣を呼び込んでいると推測。

最終的な目的は……オニキス曰く『フェイカー自身の強化』……詳しくは書かれていませんが、そういうことですね」

 

己自身が強大となるためだけに、このような大掛かりをやったというのか。

 

こんな馬鹿げた作戦で死んでしまい、生贄として供された大亜の軍人たちに、同情を禁じえない。

 

ミカエラ・ホンゴウことミアというスターズの外部協力員曰く、そういう結論。ただオニキスが隠している情報を、なんとなく達也は理解できた。

 

この自分たちが対処をするということすら、フェイカーこと王貴人にとっては織り込み済み。千葉修次氏や、近くにいる一色華蘭女史の遭遇した事態を考えれば……。

 

蠱毒に入り込まれた贄に自分たちも入っているのだろう。

 

「半円を圧迫するだけじゃ面白くはない―――いっそのこと、『遺骸』を潰しましょう」

 

「本気か達也? ミス・ミカエラ曰く、高位の魔獣は、死したとしても魔力を奉じて、強大な存在になるそうだが」

 

「確かに、けれど折角の独立魔装の『飛行魔法』戦術の初お披露目なんです。少しは派手なことをしましょう」

 

「……変わったな。お前」

 

柳の苦笑の言葉。その胸に去来しているものは、何なのか―――。

 

だが、それ以上に他人の都合で『踊らされてる』のは癪な限り。

 

しかし、今は黙って踊るしか無い。どちらにせよ、現れた魔獣もグールも人を襲って自分たちの脅威になるのだ。そして強力になっていけば手を付けられない害獣となる。

 

ならば、知ってて踊ってやる。自分が容易に操れる存在だと思っているならば、その思惑を―――崩してやろうと思う。

 

 

地面の分解と同時の魔弾の一斉掃射によって前面を圧倒しながら―――黒の魔法師たちは、達也を先頭に飛び立つのだった……。

 

 

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