魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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とりあえず現在2018年 8月9日時点での日間ランキング17位到達記念ということで皆さんへの感謝をこめて新話を投稿します。


短いですが、読んでいただければ幸いです。

ちなみに作業用BGMにNNG氏の封印指定mad『不協の音色 不実の永遠』をヘビリピで掛けてました。

今回、戦闘シーンなんて皆無なんですが、まぁ昔のクセですね。ではどうぞ。




幕間『2年の出来事―――魔法使いの課外活動』

『それじゃな遠坂。世話になったよ』

 

『――――ええ、本当に……行くのね?』

 

 

 こんなやり取りを何度も繰り返した。そのやり取りの中での心変わりを願った。

 

 いつか違う結論が出るんじゃないかと、蒸し返すたびに、何も変わらぬものが出るだけ。

 

 

 結局の所、早朝、母に乱暴に叩き起こされたことで、来るべき日が来たのだと分かった刹那は、母と同じく悲しい顔が出来ていただろうか―――。

 

 母と会話していた父が、こちらに気付き―――屈んでこちらに視線を合わせてきた。

 

 

『刹那。お前だけは母さんから離れるなよ。父さんは―――少し『遠い所』に行ってくる。長い仕事になりそうなんだ』

 

『はい――――』

 

『父親らしいことなんて、本当―――俺に出来ていたか、分からないんだ。ゴメンな……』

 

 

 謝るべきはそこじゃないはずだ。けれど―――父が悲しい顔をしているのを見て、そんなことはない。と言えない自分がいた。

 

 

『だから―――『刻印、移乗』(トレース・オン)……これが、父さんからお前へのプレゼントだ。もしかしたらば、これがお前を不幸にするかもしれない。けれど、きっとこれはお前を『幸せ』にする力だ。刹那の運命にもきっと逃れらぬものが来る』

 

 

 魔性の運命。魔術師はそこから逃れられない。父と母が本格的に知り合った『戦争』のことを考えて、そんな運命がやって来るなど……とうの昔に分かっていたことだ。

 

 

 左腕ではなく右腕に『輝く』もの……これが、まだ『小さい内』は父は存命だ。そう。魔術師の卵は分かっていた。

 

 

『根源の渦を目指すも、違う道に進むもお前の意思一つだ。だから―――生きていてくれよ』

 

 

 自分の後追いなどするな。そう言えなかった父の苦悩を分かってしまった。させないと断言した母に対して刹那は、何も言えなかった。

 

 

『それでは、行ってくるよ』

 

『はい―――父さん。気を付けて―――』

 

 

 立ち上がり、自分の視界からいなくなったことで初めて目がぼやけた。ああ、分かった。

 

 

 自分は泣いていたのだ。手を振り視界からいなくなるまで父を見ようとしてその姿がぼやけて眼を拭った時には父の姿は無かった。

 

 見えなくなった時に母は崩れた。

 

 

『ごめん―――私じゃアイツは止められなかった……アンタになることを止めたかった。その為に―――『鎹』まで作った……愛していくことが出来たはずなのに―――』

 

 

 顔を手で覆った母は独白する。

 

 どこかの誰か。親しい―――『昔の男』に言うかのような母は嗚咽を止められていなかった。

 

 

『母さん―――』

 

『……刹那、アンタだけはアイツみたいにならないで……、大切なものの為に『戦える』―――『人間』でいて、お願いだから―――』

 

 

 目的の為に何かを捨てるような人間にはならないでほしい。そう泣きながら自分を頭ごと抱きしめる母の抱擁。

 

 慣れていなかったのだろう。すごく痛くて、それでも母の愛情を感じることが出来た。

 

 

 

 だから――――。

 

 

 自分の人生が『喪失』することにあるのだと気付き、どこまでも悲しかった。この人と父を結びつける鎹では無かったことが、とても悲しくてお互いに泣いてしまった。

 

 

 

 それは―――遠坂刹那にとって古い、旧い、遠く、永い(とおい)記憶で――――現実ではないと認識して覚醒を果たす。

 

 

 † † † †

 

 

 眼を覚ますと同時に、見慣れた天井が視界に入ってきた。

 

 

 いつも通りのアパートメントの天井。何の染みかも分からぬぐらいに汚れている箇所もあるが、それでもどこか―――ロンドンに居た頃の家を思い出して、地脈と『職場』の関係で、ここに決めた。

 

 

 魔術師の工房としては、質素で開放的に過ぎるが―――本格的な『工房』は、『2年』ほど前に殺した初仕事の相手の土地をスターズに借金する形で借り受けた。

 

 

 怨念の浄化に一週間、地脈の安定に一週間。その後、建築業者を呼んでの工事で三か月。

 

 概ね―――満足いくものが出来上がっており、そこには各種の『魔女術』の素材が成長している。

 

 再確認したことで気付いた。気付いたからには、行かなければなるまい。

 

 

「そういや、ホワイトセージの収穫期か」

 

『そうだね。まさか『薬草園』(ガーデン)を作り上げるとは思っていなかったから、今となっては君の先見には驚かされる』

 

「女性隊員には随分と好評だろう? フォーマルクラフトは、確かに『相性』はいいんだが……金がかかる」

 

『世知辛いかぎりだね―――製作者が製作者だけに一言申したいが、まぁいい。もうこの世界に来て二年か―――君も14歳の身体になってきて、何か変化は起こったかな?』

 

 

 そういうオニキス。魔法の杖の言葉で、拳を握りしめながら体の不調をチェックしてから―――この二年間に起きたことを何気なく思い出す。

 

 

 リーナの御両親に挨拶に行く。

 

 何故か父親の方からは、『娘はやらん!』とか言われた。いらないんですけどと言うと『酷いわ! アンジ-をキズモノにして責任を取らないだなんて!!』などと母親からは責められる。

 

 自分の事をなんて説明したんだとリーナを問い詰めると明後日の方向を見ながら口笛を吹く様子。とりあえず今度の御馳走が『遠坂家秘伝の麻婆豆腐』に決まった瞬間だった。

 

 

 リーナの母方の遠い親戚。日本の『十師族』と呼ばれる時計塔で言えば君主(ロード)の一角を担う『九島』の関係者に会う。

 

 リーナの『はとこ』という少年に出会い―――その病状の回復を手助け。見立ては単純に言えば『殺人貴』と同じようなもの。

 

 魔術的には『イスタリ家の呪い』と同じであった。

 

『死』に近すぎる人間がそうなるのか、それとも『死』を纏うからこそそうなるのか―――。

 

 一生、ついて回る『貧血』と同じだと告げるも、人並みに動き回り、魔法行使も出来るぐらいにはなれたことを喜んでいたのに対して―――同行者たる『姉』の視線が鋭くこちらを『刺していたこと』を察知して見せすぎたかと思う。

 

 

 日本の地に降り立つ。

 

 休暇を利用しての『冬木』や『アオザキ』の霊脈などが無いかの確認程度だったのだが、何故かリーナも付いてきて婚前旅行だのなんだの後で部隊内から冷やかされた。

 

 実際、入ってきた温泉と料理の味は格別だったので、まぁ良しとする。

 

 霊脈に関しては、『手つかずの鉱脈』も同然だったので、こっそり及び『ごっそり』確保しておくことで後で利用することに決定。

 

 ちなみに冬木市やそれに類する新都―――『故郷』の形は影一つも見えなかったことに少しの寂しさを覚えた……。

 

 

 飛行魔法の開発を依頼される。

 

 正直、これが難儀した。いまだに形になっているとは言い難いが、一種のプシオン―――感情や気持ちの高ぶり。要は精神的なものを利用する形になると思われる。

 

 完成形としては―――『黄金色の天使の羽』にも似たものが展開すると思われる。

 

 仮称『ヴィーナス・フェザー』『ガーディアン・エンジェル Twenty』―――そんな風な開発コードで現在、マクシミリアンと共同で研究中。

 

 現在も続行中である。

 

 

 

全てを思い出して刹那は嘆息する。この中に含まれていない想い出は―――更なる嘆息となりえた。

 

 

「その他は切った張ったが多すぎる。ここまで血腥かったかね? 俺の人生は―――」

 

『それこそ君の片方の親の影響だね。諦めることだ』

 

 

 ひどい結論だった。コーヒーメーカーを起動。流石にこの手の機械に関しては、生活に直結するだけに必死で使い方を覚えた。

 

 それも二年間での成果である。

 

 流石に母ほどではない―――と自負している刹那であるが、やはり機械に弱いという性質はトオサカゆえの悪癖か。

 

 

 優雅さも正直、自分の代で廃れただろう。余裕を持って優雅たれ―――だが、バゼットと共に戦場に赴いた刹那としては、それで死んでしまっては元も子もない。

 

『刹那』の一瞬で何かが決まるのならば、多少の行き当たりばったりさが必要だろう。そういう遠坂刹那の人生哲学であった。

 

 

「二年間か―――馴染んだのかね。俺は―――」

 

『受け入れてくれる人が多く、そしてまた君も受け入れてくれることを望んだ……しかし、君の能力の『異常さ』は多くの人間の『関心』を引きすぎる』

 

 

 オニキスの言葉か、それとも飲んだコーヒーゆえなのか苦い顔をしてしまった刹那。

 

 

 リーナの大叔父とも言える人物との邂逅、日本におけるロードの一人との戦い。……『極東の魔王』にして『魔女』との『一瞬の邂逅』。

 

 

 全てが、『勘付かれた』とも言い切れないが、まぁ―――何かと興味を惹くのだろう。バランス大佐だけに全てを圧しつけるには酷だった。

 

 

 嘆息して――――俺なんかに構わず生臭い権力闘争をやっていてくれ。と思う。

 

 具体的には時計塔の『ノーリッジ』以外の連中みたいに――――こういう時に『だけ』は、法政科みたいな『重し』が欲しくなる。

 

 

「魔法師というのはある意味では―――法の『束縛』を受けない存在だからな……」

 

『万人の万人による闘争――――、人間をただありのままに放置すれば、『地獄』が生まれる―――、ある意味では、魔法師が『世俗的』なのは、『人類』にとって僥倖だよ。彼らが『人肉』を食らう『異種族』であったならば、どうなるか』

 

 

 恐ろしい話だ。同時に――――そんな異種族であることが、普通の人間には恐ろしく思えるのもまた理解出来る話だ。

 

 

『「―――『両方の抑止はない』―――」』

 

 

 オニキスと同時に言葉を吐き出して―――ニヒリスティックな空気を霧散させた。同時に――――『結界』を超えられる『合鍵持ち』が、やってきたようだ。

 

 こういう時に、彼女の明るさが嬉しいのだ。

 

 

『セツナ―――! 基地に行くわよ―――!! ハリーハリー!!』

 

 

 もう。そんな時間か。学校に行く体で呼ばれたが、ともあれ―――出かける準備をする。

 

 

「それじゃ―――行くとするか」

 

『ふふふ! 今日こそはロズウェルにて発見された『グレイ』を解剖する時だ!! 宇宙人はいることを証明してやる!! 具体的には『ウサギの耳』をしていたはず!!』

 

 

 意気揚々に家を出る魔法使いと魔法の杖。

 

 

 世界は、もう少し『眠り』の中にあって魔法使いもまた今は―――『眠りながら』動いていくのであった……。

 

 たとえ、互いに出した『終着の結論』(エスカトロジー)がいずれ『否定』されるとしても……。

 


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