魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
ローテンションで本当に申し訳ないです。
はぐれるようにやってくる雑兵の数は、真由美たち待機組にも襲いかかってきた。
雑兵と言っても敵は、生身の人間ではなくゾンビの兵隊に、調教された猛獣のような存在ばかり。生半な魔法では、痛痒すら与えられないのだから警戒は必要だ。
一番激しい戦域は、無論……中心市街なのだが、こちらも楽観出来る状況ではなかった。
北山家及び七草家が呼んだ移動ヘリがやってくるまでは、ここを死守せねばならない。もはやシェルターに入り込むことすら安全とは言い難い状況になったことで、避難民の数はかなり膨れ上がったが……ここを守ることが自分たちに課せられたことだ。
「沢木君は十三束君と後藤君を連れて周辺索敵。同時に先制打で無力化出来るようならば、その時点での対処を―――服部くんは、桐原くんと紗耶香……壬生さんを連れて、正面に陣取ってください。遠距離からの斬撃及び魔法で進行を止めるように」
矢継ぎ早の指示を飛ばす中条あずさの指揮は、少しばかりたどたどしいが、それでも十分に効果はあった。
単純ながらも、そんなことしか出来ない。ある種の戦術マニュアルを復唱しているだけだが、誰もが指示を求めていたので、皮肉にも其れで良かった。
ここまでの異常状況は、正直……真由美でもそんなことを言えなかっただろう。
「鳥飼さんは、空からやってくる存在に注意を向けていてください。平河さん、猫津飼さん。フォローしてあげてください」
同時に、生徒一人ひとりの関係性を読み取った上で、仲良しどうしで組ませることで、一種の安定を誇る事もできる。
能力値だけではない。そういった機微を理解したあずさ会長の指示が、軽快さを生み出していた。
そうして、ノイズだらけながらも、中央の戦域から漏れ出る雑兵をいち早く察知していた真由美と光井ほのかの眼に、不味いものが見えた。
詳細は分からない。だが、どう考えても状況の好転の芽とは言えない。木々の蔦が、グレネードを放った敵船を覆っていき……一高入学時期にみた刹那の
ある意味グレネードよりも恐ろしい無人兵器を出してきたものだ。
港に続々と乗り込んでいく不格好なヒトガタたちの目的などわかり易すぎる。
「あずさ会長! 港の船が―――」
「先制打を加えられますか?」
あずさが確認をしたのは、真由美であった。確かに
「―――な、なんですかあの集団は!?」
光学魔法で衛星写真のようなマップを作り上げていたほのかが驚くほどには、確かに異様なものだった。
中央の戦場で奮闘しているアーマースーツの発展型らしきものを纏う日本の国防軍…独立魔装大隊が『悪魔』であるならば、白鳥のような翼が黄金色に輝く。
……マクシミリアンが発表した『Venus・Feather』…俗称『TYPE:VENUS』を用いて飛行してくるものたちは、確かに『天使』であった。
白い鎧に金の縁取り……中々に派手なものを纏う人間が少数で、その他が紫色……茄子のような色味の鎧を身に着けている。
指揮官と一般兵。そういった区分けなのだろうと推測。答えは―――九校戦でも知った女性から伝えられる。
シルヴィア曰く……。
『ミス・サエグサ。ご安心を、彼らは味方です。横須賀基地に停泊していた原子力潜水艦『ニューメキシコ』から出立してくれたUSNAの魔法師部隊。
まぁ気軽に『キャプテン・アメリカ』と『アイアンマン』と『ワンダーウーマン』がやってきたとでも考えておいてください』
とんだアベンジャーズがやってきたものである。とはいえ、援軍であることは大助かりであるのは間違いない。
木人の侵入を文字通り水際で食い止めて、かつ艦に対する攻撃も実行している。
その見事さは、流石は米軍といえる手並みである。
そんなこんなしている内に、市民及び自分たちが避難するための救難ヘリが飛んできた。
北山家と七草家の資本力を見せつけるヘリの集団を見て安堵するが……優先すべきは自分たちではなく横浜の市民の皆さんだ。
そう伝えてきたのが、
「このまま去ってしまっていいんでしょうか?」
「……あーちゃんの気持ちは分かるけれど、魔法を使えても『戦えない人』も多いわ。その人達のことを考えれば、今は横浜脱出を優先しましょう」
護衛のエスコートとして響子か風間が独立魔装という特殊部隊の面子を寄越したが、騒動の規模に対して、人員が足りていないことは分かっていた。
よって自分たちも、護衛役としてヘリに同乗しなければならないのだ。
(それまでに、この乱痴気騒ぎが収まっていればいいんだけど、また騒動の段階が動けばどうなるかは分からないわよね)
克人、刹那、達也……鍵を握るのは彼らだ。彼ら次第で事態が違ってくる。
横浜及び都内を舞台にした、大亜の策謀すらも呑み込んだ魔性の軍団の策動を台無しにするほどの、何かを待ち望むしか無かった。
† † † †
魔力の炉から出てきた王貴人の姿は以前とは違っていた。ある種の霊格が高まっている様子。
ここで決戦するという意思を感じて―――身を引き絞る刹那。
待機状態であったランサー……長尾景虎を前に出して護衛としておく。建物一つを工房……神殿として回復及び『霊基の再臨』に努めていた王貴人……。
「何故、私がここにいると分かった。『魔法使い』……」
質問が飛んでくるとは予期していなかったが、会頭の治療及びレオ達に少しばかり『小休止』を与えるためにも、ここは話を引き伸ばすのが先決だと感じた。
よって―――『神秘解体』を行う。
「横浜に敷かれた陣を見た時から、これはお前を『神霊』にする大儀式魔術なんだなと気づけた……。
となれば、魔力の収束点にお前がいると断じるのは当然。第一、この『大怪獣』どもが暴れまわっているというのに、無事な建物が残っているなんて不自然すぎるだろ。
『式』による時間逆行で、建物の罅一つすらすぐさま修復されるんだから、な」
言葉の後に、刹那は魔弾を下方のコンクリート外壁、残っていた箇所に打ち出して、少々砕くも―――砕けたコンクリートは、
「気づきませんでした……」
少しばかりしょんぼりする美月の言葉を耳にしながらも、構わずに推理をする。
あちこちが、とてつもない惨状となったアスファルトに降り立つ王貴人ことフェイカーは―――完全に霊基を変質させていた。
もっともゲイ・ボウで付けられた傷は完治していないらしく、魔力の垂れ流しも、若干ある。
「いきあたりばったり……そういう考えしかない。恐らくだが、今回の仕儀……本当ならば大亜と協調して、俺たちに襲いかかっていたんじゃないか?」
「その通りだ。私のマスター……ガンフーは大中華の軍人だ。いつの世でも兵隊は、上の命令に従うものだからな」
言葉の途中で白虎の衣装の男が方天戟を持ちながら現れる。どうやら、この男も八卦炉の中で『改造』を施されていたようだ。
「だが、その目論見は潰えた……『吸血の妖樹』……その種子を植え付けられた上官が死んだ時、ガンフーの真の望みを叶えるために私は『姉様』に頼んだ……」
自分を『神霊』にしてほしいと。その願いの果てに、様々な仕込みが為された―――いや、そうなるように『仕向けられていた』のだろう。
そして王貴人の『姉』。わかり易すぎる。桃色の髪を風に吹かせる……その姿に『ある人物』を重ねる。
「お前とそこの男の私的な事情の為に、何人の命が奪われたかと思うと、反吐が出る。
多くの異能力者……特筆すべき連中を集めに集めて、その上で、その力を己のものとする……。『蠱毒』と成り果てた街から出てくる闇……よぉく知っているだけに、更に反吐が出るよ」
地獄の釜の蓋が開くと分かっていながら、何もしなかったのは『2つのキョウカイ』も同然だった。言うなれば、これはあの地獄の再現だった。
思い出して心底苦い表情を浮かべる刹那。
もっとも、居並ぶ『超人』の格はずっと見劣りする……もしも、ここに『原液持ちの六鬼』に『相当』する連中が揃って『照応』していれば―――
そう考えると、ぞっ、としてしまう。
「お前の言う通り、『行きあたりばったり』の計画変更だったのでね……。上手くいく可能性は低かったのだろうな……」
「神霊を世界に固着するという『夢想』を浅野先輩に教えたのは、お前か? キツネか?」
「? 何のことだ? アサノという少女は、ただの大中華が仕立てた
最後の『間違い探し』が終わったことで、息を吐く。吐いたことで、聞きたいことは―――。
「長話は終わったな。もはや俺が国家に尽くす忠義は無くなった。求めるは闘争だけだ……遠坂刹那」
「アンタと因縁なんてないはずなんだけどな」
呂剛虎……その名前ぐらいは自分も知っていたが、この世界で自分に互する術者など然程いない。その中に、コイツは数えられていなかったのだが……今のガンフーは違う。
話を断ち切る形で、王貴人の前に出てきた呂の眼は炯々と輝いている。
「いいや。因縁ならばある……ようやく思い出した。かつて東南アジアでの地域紛争……。
国家に忠誠を誓った俺の同士たち……寝食を共にして同じ釜の飯を食ってきた俺の家族を殺し尽くした―――『赤き英霊』……数多もの剣を振るいし、『阿頼耶識の守護者』……王貴人と接続することで、俺はお前の正体を知った……!! 」
一言ごとに引き裂き砕くための爪と拳を固く固く握っていく作業をするルゥ・ガンフー。
その言葉で、この世界も結構マズい状況はあったのだな。と気づく。
『活かそうとする意思と切り取ってしまおうという意思の相剋……世界に正しい答えなんて無い。とはいえ、虎の仲間とやらを全滅させなければいけないほどの規模の事象なんて……なんだろうね?』
「よほど疾しいことだろうな。投影・現創―――」
オニキスの疑問に答えて呪文一声。手に携えるは、中華ガジェットの極み……その威容は軍神の似姿と讃えられた男の武器だ。
巨大な……一応は槍と言えるものを手にした刹那は、その切っ先をルゥ・ガンフーに向ける。
「親父の因業を子に晴らそうなんてのは、因縁つけとしちゃ三流すぎだろ? けれど降りかかる火の粉は払わねばならないからな」
「俺は仲間を取り戻す……。大中華の大地ではない、あんな蛮夷の地で死んだ仲間の全てを取り戻す奇跡の成就のためにも―――その身を貰い受けるぞ!! 遠坂刹那―――アナザー・英霊エミヤ!!!」
「その名を受け継ぐには―――俺は、魔術師すぎるんだよ!!」
マスター同士の怒号の叩きつけ合いに反応するかのように―――ランサーとフェイカーが前に出る。
常人では到達し得ない。魔法師ですら難しい速度領域に至って武器を叩きつけ合う二人。
炎弾と氷弾―――神代の魔術が叩きつけられるも、それを意に介さずランサーは接近を試みる。アスファルトを容易にドロドロに溶かして地肌を見せる高熱の魔弾、永久凍土を作り出す魔弾を、対魔力のスキルは無に介して近接戦へと持っていく。
無理矢理に己の距離に踏み込む喧嘩腰の態度に銅剣を用いて応じるフェイカー。
現代の人間には及ばない領域に至った魔人たちの戦いが空気を撹拌して魔力を掻き乱し、
だが―――その戦いを号砲として再開の合図となりうる。
全員が、己の敵を邪魔だ。踏み潰してくれると言わんばかりに意気を上げていく。
「セツナ! あの流しのビワ弾きが来たわ!!」
「応じてやれ! お前の歌はいつ聞いても、 俺の心と魂を震わせるよ!!!」
魔礼青が千葉修次氏が相手取っている以上、魔礼海がどこかで出てくると思っていたが、このタイミングでやってくるとは……。
「オレの役目は、ここにいる奴らの戦いのサポートさ。現代魔術的に言えば、魔術回路の
まぁいい。オレの歌を聞くオーディエンスがいる以上は、オレは歌うだけだ!!
闘いなんてくだらねぇぜ!! オレの歌を聴けええええ!!!」
あの時にも思っていたが、とことん『ROCK』な男である。
黒琵琶をかき鳴らして戦場に彩りを与える男の歌が―――なぜか、こちらの調子まで上げてくるのだから、本末転倒なのである。
とはいえ、味気ない戦場にいい音楽が流れてきたものだ。古来より歌は戦の重要な勝因の一つでもある。
唱和の掛け声すら場合によっては歌とも言える。現代では
海軍の将兵たちが、下品な部隊歌を歌うことも一種のイニシエーションとも言える。
ともあれ、魔礼海のシャウトであり戦の歌に対して挑みかかるは、魔法師にして『歌うたい』の少女……。
その美声は、まさしく『放課後ティータイム』もの……オルガ義姉さんの『WHITE ALBUM』と同じく、自分の気持ちを上げてくれる歌だ。
「アンジェリーナに、こんな特技があったとは……」
「魔法師として特別強くなければ、現代の『レディー・ガガ』になっていてもおかしくなかったんだけどなぁ」
もしくは『ティラー・スウィフト』か。ともあれ、人生とは分からぬものだ。
天は二物を与えず……ということが通じない人間である。
というより、シールズの家の人はそれでも良かったみたいな感じであった。むしろ……。そんなことを考えてから、遂に呂と向き合う。
「アイリ、君は―――」
「遠ざけないでくださいな。私も戦ってみせます。守られているだけなのは―――嫌ですから」
そう言って自分に並ぼうとする朱金の少女―――レイピアのアゾット剣を携えた彼女と同時に、刹那は走り出した。
気功の鎧を纏いながら、方天戟を振りかざす白虎。
ルーンの鎧を纏いながら、軍神五兵を振り上げる魔宝使い。
その闘いの始まりと同時にグールと魔獣の壁を駆け抜けてきた
「一先ず、エリカとレオに助太刀するのが妥当か」
れーせーな判断を下した達也だが、あまりにも中央の大混乱を見てからやったことは、大魔神(レオ)に放たれる魔力の矢を分解することだった。
大音声と大轟音が響き合う中央戦場で、達也の敵は―――。
『GAAAAA!!!!』
安物のホラー映画か、有名なジブ○アニメのように復活を遂げた、血と傷だらけの姿を変えた妖狐の祟り神二柱を相手にするのだった。
「混沌だな」
分解できぬぐらいに強烈なサイオン濃度に、一種の『伝承防御』というもので、こちらの攻撃を無為に帰すゾンビ魔獣。
分解は効かない。単純な物理攻撃ですら、圧力を持つサイオンの波動で届かない。
ならば―――どうするか。現代魔法では、これらを対処出来ないのか?
否、神代から現代に遷って、人類は地球上でもっとも繁栄を極めた種族―――霊長となり得た。
その霊長の極みが魔法師であるならば、幻想を人の世に格下げすることも出来るはずだ。
精霊の眼を妖精眼に変化させて、達也の見ている世界を全て変更する。
幻想を見透かす眼を用いて、そこに幻想を否定する魔弾を飛ばす……。
矛盾の体現ともいえる技術の粋。刹那曰く『神秘解体』……ふりがなを付けるならば、『エルメロイ二世』という術が、魔獣に突き刺さる。
「流石に『重い』。同時に『硬い』―――おまけに純度を高めようとすればするほどに、俺が神秘領域に近づいて、無為になってしまう」
言うなれば達也のやっていることは、水と油を混ぜるのに『石鹸水』を使っているようなものだ。
その石鹸水をシャボン玉のように飛ばしてダメージを与えている。
大雑把に言えば、そういうことなのだが……中々に難儀な作業だ。ダメージはあるのだが、物凄くあるかと言えば疑問だ。
「ならば―――『こちら』を使うしか無いか」
ごちる最中にも妖狐は、爪を立てようと、炎で焼こうと達也に迫る。速度としては中々のものだが……飛行魔法で軽やかに空を舞う達也には届かない。
勿論、届かせんと上空に火を吹いてきて、スーツ越しでも熱を感じる。スーツの中に汗と蒸気が籠もるも、構わずに
達也が、そうして魔弾を放っていると―――、一つの勝負に決着がつき、その一方で少しの窮地も生まれようとしていた。
その中、全ての『違反者』に『反則技』で応じられる男は、方天戟の機能だろう幾つもの細かいビームを放つ人食い虎に対して、同じく『方天戟』を変化させて弓矢から太い柱の砲撃―――。
弓砲とでも言うべきもので、呂の使い魔とも言える小動物を全て消去した刹那の動き……即ち『サポート』のタイミングを待つのであった。