魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
とか思いつつ、次話をどうすうるか思案中です。
追記・修正 2019年10月2日 指摘を受けて若干の文章の修正。
マスターの
既に主だった敵将の首は取れている。残るは刹那が相対する大将の首と、ランサーが相対する副将の首さえ落とせば終わり……だが―――。
「何を狙っている玉石琵琶精?」
「明かすと思うかランサー?」
「思いませんね。武士というのはいつでも
自分は―――人の心を完全に分からなかった。
だが―――宿敵たる男の心は少しだけ理解していた。それは、戦場の
けれど……通じ合うことが出来なければ、分からぬことはあるのだ。
「フェイカー……真名・王貴人―――あなたにとってルゥ・ガンフーは余程愛しい存在なのでしょうね。実に羨ましい―――妖怪の類であるあなたに人を愛する心を持てて、私には人を愛する心が持てなかった」
「そこまでいけば、お前は悟りを開くべく仙境に至れば良かったのだ。神仏への信仰のままに、尸解仙にでも至れただろうに」
「それも良かったのでしょうが、悟りを開くには、まだまだ私は現世への未練を断てませんでしたからね。
人としての『当たり前』を知りたかった―――」
言葉で七支の槍をゆるゆると上げて、その穂先を王貴人に向ける。
言葉での突き刺しは、何の意味もなさない。この女にこれ以上の非道秘術を行わせてはならない。
これまでの激突で、王貴人の戦車の車輪から狐馬に至るまで、ボロボロにすることが出来た。魔道の塊たる宝具とはいえ、ここまでのダメージを受ければ、まともな突撃は出来ないだろう……。
(ランサー、宝具の開帳を許す……! 王貴人を仕留めろ!!)
御意。無言でのみ言って、魔力を集中させる。深く深く沈み込む。
己を没入させる作業を行い―――神域の剣士が
対するフェイカーとしては、ここでの『■■』も織り込み済みだが……ダメージ次第では、思惑が狂うだろう。だからこそ、大ダメージを防ぐべく最後の疾走を行うことにした。
「頼むぞ。姉様の分け身……霊獣としての格で負けてはいないのだからな」
所詮、邪悪なるものは、魔に属するものは真正の英雄には勝てないのか。人の時代の招来のためには、我々はいらなくなる存在なのか。
かつて、神、魔、人の境界が未分の時代があった。その中で、人も魔も―――『神域』『神仙』に至ることを望み、己の研鑽に励んでいた時代。
だが、奇しくもそんな時代でも俗世と関わりを断つことは出来なかった。寧ろ、仙人として高度な能力を得たものたちは、下界にてその力を振るって権力の座に着くこともままあった。
そんな時代を終わらせたのは……他ならぬ『一人の仙人』だった。義姉がやりすぎたのは分かる。時の歴代王朝は腐敗を極め、民草の怒りは頂点に達していた……。
だが、それでも求めていたのは……私を――――。
「殷という『異星の交信者』の王を守らんと走り抜けた我が疾走に果てろ―――槍兵!!!」
言うやいなや手綱を叩き、おおよそ100mあまりの距離を踏破して相手を轢殺すべく、魔狐馬を走らせる……。
一瞬にして最大速度に変じたフェイカーの戦車。
緩から急。静から動。
およそ物理法則を無視した疾走を前に、ランサーも腹を決める。
炎と氷の属性を利用した車輪と狐爪の襲撃は、驚異的だ。
如何に最速を誇るランサーと言えども、これほどの打ち手を何度も食らって無傷ではいられない。
ここで仕留める。その覚悟を持って―――ランサーも緩から急へ―――否、『超急』とも言える速度に変じた。
愛馬たる放生月毛と共に―――神速へと変じる。
蹄の音すら遠くなるほどの音を全て吸い取る、深々と『桜雪』舞う中を長尾景虎は突き進む。
直線を真っ直ぐ進む二人の魔人。―――国際展示場を狙った時の再現でもある。
しかし、あの時と違う点が勝敗を分けた。少なくともフェイカーの突撃戦術―――あの極大の魔力に風に集まる魔力を用いた上に、『玉藻の前』の魔力すらも利用した突撃に比べれば―――何とも貧弱なものになっていた。
それでも尋常の相手であれば、容赦なく轢殺出来るだろうもの。
しかし―――三大騎士のクラスにある存在を前にして―――それは明らかな失着であった。
そして―――。
「駆けよ、放生月毛!! 毘沙門天の加護ぞ在り!! 八華の備え、軍神変性!! 」
黄金の神気を纏いて越後の龍は駆け出した。
その姿が八柱の神仏に変わったことで、英雄としての動体視力を持つ王貴人は悟る。
―――これは―――詰みだ。と―――。
最初に槍で薙ぎ払う景虎がいた。光り輝く気を以て放たれた一撃が、狐馬の首を刈り取り、次に大鉈のような刀を振り上げられて、次に黄金拵えの太刀が無造作に振り下ろされて―――。
―――鍔無しの曲刀が鮮やかに一呼吸で『三度』振るわれ、浄炎を吹き上がらせる
既に並の人間ならば生きてはいない致命傷の王貴人。疾走を果たすはずの馬は既に消え去っていた。
そんな七体もの軍神による突撃など前座と言わんばかりに―――八体目の軍神は―――。
「毘天八相車懸りの陣!!! 押して通る!!!」
七支の槍に蓄えた
その真エーテルの爆発は光の柱となって天空へと上っていく。
ここにサーヴァント・フェイカーの『脱落』は決まったのだった……。
それを明確に感じ取ったものが二人。一方は、苦衷の表情を浮かべて……一方は、安堵の表情を浮かべて―――。
この乱痴気騒ぎに全ての終わりを告げるべく動き出すのだった。
「お前もサーヴァントのマスターならば感じたな? フェイカー・王貴人は消滅した。お前にマスター権限は無くなっている!!」
令呪ぐらいは残っているかもしれないが、それを移植することも出来る。
第三次で敗れたエーデルフェルトも、監督役に没収されることもなく令呪一画を保存していたぐらいなのだ。(エルメロイⅡ世・談)
手でも腕でも背中でも肩でも―――とにかくあるべき所にあるものを奪い取ってくれる。
「それが―――どうしたぁあああ!!!」
咆哮一声。使われなかった令呪はやはりそのまま残っており、それを利用して呂剛虎は再駆動を開始する。
「令呪ってのは、強大な魔力の塊だからな。その気になれば様々なことに使える呪体なんだ」
「けれど再契約することもあり得るならば、残しておくのが本道とも聞いたわよ。
「その辺りは個人の判断だな。やるぞ!! ここで決める!!」
「オッケー!! ワタシのラブでライブなビートが勝利のマーチよっ♪」
竜翼を生やしたポップでスイートとしか言えない衣装を着込んでいるアンバランスな限りの『エリリーナ』を従えるは、剣で構成された翼、剣翼とでも言うべきものを背にした刹那。そしてそれと並走するは朱きドレスの麗しき令嬢たる愛梨。
てんでバラバラ、不格好な三銃士とでも言うべきその三人の速度に追い縋れるとは思えない。
よって前に出ずに、後ろで援護をすることにしたのだった。というか三人がかりで一人を倒すとか、全員して前に出るとかどうなんだろうと思う。
だが―――今のルゥ・ガンフーは尋常の強さではなかった。
声にならない叫びを上げて、方天戟を振るう白虎の闘士は、一撃一撃ごとに、横浜の街を砕いていく。
魔家四将の武器の性能と魂を食らった呂の乱撃を前に、接近を諦める。それが普通のはずだが――――。
「十二の勇士の魂宿せしこの剣達は―――負けない!!」
一振りで数十もの斬撃を繰り広げるそれを、刹那は操る『輝剣』で以て防ぎきり、 呂に斬撃を食らわせられる位置に来た時点で―――。
「輝きを見せろ!! ジュワユーズ!!!」
五大元素の力を集約させたフランベルジェを薙ぎ払うことで、強烈な魔力圧と斬撃が、呂の身体を強かに切り刻む。
どれだけ強固な魔力の鎧も、伝説のシャルルマーニュが振るいし宝具の前では病葉も同然。
血反吐を吐き、それでも方天戟を振るって今度は―――魔礼海の音波攻撃が刹那の追撃を防いだが……。
「ワタシのライヴが全てを変える!! ラブなボイスに聞き惚れなさい♪♪ バートリ☆ヘビィメタル♡エルジェーベト!!!」
南盾島において猛威を振るったソニックボイスが、魔礼海の琵琶音を打ち消していく。
そして、そのままにソニックボイスは、全身から出血をさせたうえで、呂にたたらを踏ませる。
よろめいた所に、刹那の輝剣からのレーザービームと達也の魔弾が飛ぶ。意識を失いつつある所に、この攻撃。
しかし、展開された傘……魔礼紅の持つ混元傘という反射の防御宝具にヒット。
悪い予感が男二人に走ったが……。
男二人のフォローをするかのように、一色愛梨は前に出て、跳ね返された魔力攻撃全てをレイピアで絡め取るように振り回して蓄えた。
早業一閃。
その軽妙さと軽快さとで、細剣を光り輝き螺旋を巻く『槍』にした愛梨。
思惑を崩さんと、『瘟』という言葉で、魔礼寿の花狐貂という無線誘導のレーザー砲台が向かってくる。
小さな羽鼠……そういう表現しか出来ない花狐貂に対して……。
「クレール・ドゥ・リュヌ!!」
十二の剣より花狐貂を焼き尽くす魔力光が飛んできて、壮絶な砲撃戦が演じられる―――しかし、その上空の『戦闘』に構わず吶喊を果たす
刹那の援護を受けて気持ちの高揚するがままに、螺旋の槍を呂に突き出した。
「―――
身体を捻って攻撃を躱したとしても吹き飛ぶ腕一本。
それだけでも生きているわけがないはずなのに、戦闘の意思を吠え叫ぶ呂を相手に追撃として、リーナの持っていた大槍が回転しながら当たる。
だが、それでも崩れない呂を支えているものとは何なのか……。
走り抜けるように攻撃した女二人の後を追うように、刹那が駆け出す。
どんな因縁だか分からないが、呂は刹那を殺そうとしている。それだけは許されない―――として、達也は呂の脚を縫い付けた。
拘束のための抗魔布は、一瞬ではあるが迎撃しようとした呂に停滞を招き、出来上がった隙を狙って赤き魔術師は駆け抜ける。
手にはフランベルジェではなく、3つの柱で構成されたマルスの剣。南盾島の一件で完成を見た刹那のとっておき。
光り輝く柱刃は時には鞭のようなしなやかな形状を取ることもあるが、今の軍神の剣に―――そこまでの機能は必要無い。
魔力を込めた一斬。大上段から振り下ろされたものは、呂が片手で掲げた方天戟という名の模造宝具を真っ二つに割り砕き、そのままに深く袈裟に入る一撃で、呂剛虎という魔法師を絶命させた……。
魔法師としての命脈たる全て、演算領域から魔力に至るまでを一撃で断ち切られた上での死―――。
「これが―――モノを殺すっていうことだ」
それはいつもの刹那ならば、言わないような言葉。どこか、とてつもない死を纏った……人間だけが許される言葉に思える……と達也が思っていると、状況は、少しばかり変化を果たす。
変化は、『良し悪し』。どちらに転ぶかは分からないが、それでも―――。
(一段落はした。と思っておこう)
世紀末世界も同然にボロボロの有様となった横浜を見ながら、達也は珍しくも深い深い溜め息を漏らすのだった……。