魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
蛇足です。では新話どうぞ。
「
黒い雷―――、それで構成された俊敏な犬たちが、次から次へと群れを成して『フォックス』の群れへと向かっていく。その速度は尋常ではなく、特化型CADでも容易に狙いは着けられないものだ。
イングランドの民間伝承の一つ。黒い犬の姿をした不吉な妖精。妖精の中でも
日本で言えば黒猫は不吉の象徴などと言われることもあるので、こうした民間伝承はどこでもあるのだが……ブラックドッグ、ヘルハウンドとも言われる黒犬は、死の象徴にも列される。
流石は魔法の本場であるブリテン島だが、彼らは、更に言えば己の仲間を増やそうとする性質もある―――総合すれば強力な魔獣がリーレイの手で使役されて、勢子のようにけしかけていた。
「刹那お兄さん曰く、降霊術と雷霆の複合によって、死者の魂を食らう犬を召喚することが出来るって。霊体の召喚は大陸では馴染みなので」
「それにしたって、こんな数を使役するとは………おまけに速度が尋常じゃない……刹那は本当に魔術師なんだな」
現代魔法において、何かの『カタチ』を取った魔力というのは、無駄ごとだと唾棄されている。
結果だけを求めれば、殺傷能力ということで言えば、確かに直接的な情報改変の方が『効率』はいい。擬似的な犬の魔力体で噛みつかせるよりも、直接的に移動魔法でふっ飛ばした方が容易い。
だが、それとは別の観点もある。即ち―――魔法師の肉体機能は、現実的な話で言えば『現代人のベクトル』にしかあり得ない。
即ち―――果たして猛獣……虎、獅子、豹、熊、猪、鰐、鮫、猛牛―――上げていけばきりが無いが、要するにどう考えても肉体機能で上回るこれらの連中と取っ組み合いをして無傷で勝てるか?
疾走するサラブレッド馬の前に出たって、どうなるか分かったものではない。世界的な寒冷化で数を減じたとはいえ、生態系そのものの構造は変わっていない。
そして人間の身体機能は確実に低下している……。
「お兄さん曰く、古式魔法で言う所の化成体が、イマイチ現代魔法に追い縋れていないのは、獣の構造を『真に理解していない』からだって言っていましたから。鳥の羽は、無為に着いているから飛翔を可能としているわけでもなく、馬の俊脚が高速で動くのは、それを支える胴体があるからだとも」
それらを理解すれば、化成体の魔獣は現実への干渉を格段に上げていく。
事実、鳥を愛し、愛しすぎて、愛ゆえに鳥こそが『地球の王者』などと喧伝する、『黒いガッチャマン』『トリ紳士』がいたとかワケワカメなことを刹那は言っていた。
しかし、その黒い鳥の魔術師は、『鳥の内部構造、フォルム、生体』……隅々を溺愛していたらしい。
理解力……その知識を高めるだけで、魔術は世界と『照応』して格段に高まるのであった。
「言っていたね。同時に人体構造を『模倣』することは、アホほど手遅れだと言いながら、人体構造を理解した上での『強化魔術』を伝授していたか?」
言いながら将輝も爆裂や叫喚地獄で以て、円状に展開している魔獣の軍団をすり潰していく……。しかし―――。
「数が多すぎる。フェイカーのサーヴァント? 王貴人とかが健在の内は、こいつらは無限に
外側からも今にも横浜全てに展開しそうな魔獣を食い止めてくれているが、どうなるやらである。
その時―――将輝の中身をかき乱すほどの魔力反応が4つはあった。
どれも情報次元を粉砕しただけでは飽き足らずに、現実の世界に爆発的なクラッシュを起こすものだった。
「―――勢いが弱まりました……これなら!」
「ったく誰だか知らないけど、もう少しスマートに戦えよな!」
「一つは、深雪さんだと思いますけど?……」
「司波さんは除く!!!」
力説する将輝に少しだけ『ムッ』としつつも、リーレイはフェイカーの召喚した義骸魔獣に対して、攻撃を繰り返す。
そうして終わりの時は近づいていく……。五分かそれ以下の時間の後には、巨大な魔力の爆発と霊子の大拡散が起こり、横浜での闘いは終結するのだった。
† † † †
何のための戦いだったか、さっぱり分からない戦いであった。お互いに因縁など殆ど無かった。
あちらからすれば、俺を父親と同じく見た上での戦いだったろうが、正直言えば、本当に仲間を取り戻したければ、幽幻道士としての技を以て僵尸でも作れば良かったのだ。
「何だか疲れたよ。体力ではなく心の方がな」
「そうは言うけど、ワタシはフィジカルもメンタルも尽きちゃったわよ。早く家に帰ってダラダラしながらにゃんつきたい」
私的な欲望もろ出しすぎるリーナではあるが、気持ちは概ね同じであった。
「なんて破廉恥かつ羨ましすぎる言い分ですか! 替わりなさいアンジェリーナ!!」
「どんな権利があって言えるのよ!
「いいえ!! これは正当な権利交渉及び權利移譲!! 言うなればアラスカを借り受けた第一次冷戦時代のアメリカのごとく!! ルゥ・ガンフーを倒した一助として、私はセルナと一夜を共にする權利があります!!」
こじつけ―――と強弁を張れないのは、混元傘の能力を完璧に忘れてしまって反射攻撃を受けそうになった一高のボンクラボーイズの片割れゆえ、もう一方のボンクラボーイにヘルプを求めようとするも通信連絡中、どうやら言葉の内容から察するに、フェイカーの義骸魔獣及び腐落兵の出現は止まったようである。
そうしていると、刹那にも連絡が入る。気づいていなかったが、どうやらカノープスたちが横須賀からやってきて、『偽装艦船』を無力化していたらしい。
「プラントゴーレムか、どう思います?」
『十中八九、『あのキツネ』の仕業だろう。船の辛うじての『生き残り』に聞いてみたが、この作戦中にも関わらず病状を悪化させた陳祥山を治療していた所、その陳から木の根っこが次から次へと生え出て―――あとは、ご覧の通りだったわけだ』
「世話掛けました」
『なんの。ユーマもアンジェラの出産が無事に終わったからか、いつも以上に魔法が冴えていたからな。それほどの疲労はないな』
父は強し。そういうことか。と思い、和んでいるもまだ終わりではないだろうと思える。偽装艦船を一刀両断したベンジャミンも『何か』に気づいていた。
サーヴァントの消滅。同時にマスター権限を持っていた魔法師の殺害。
順調に行き過ぎた背景で、『何か』があるのだと気づけた。
そして、それに最初に気づいたのは情報管制を担っていた響子とシルヴィアであり、気づいたことで『悲鳴』を上げた。
魔法師であるならば、それは現実に直視してはいけないものだった。あり得てはいけない『大妖怪』の威容。
数分後には、その強烈なまでの悪意と魔力の波動の前に、感覚が鋭敏すぎるものたちが、頭痛をこらえて、ひどいものは吐き気を覚えた。
「最悪だな……これほどの大魔術を見過ごして戦っていたなんて……」
サルビアの花を介してリフレッシュの奇跡を用いながら、これほどのプレッシャーを放つ存在に成り上がるとは……。
「さて―――どうしたものかな……?」
「倒す気はないのか……?」
頭痛を堪えている達也に、んなことはないと言っておく。だが、横浜にいても存分に分かる強烈な存在感を前に―――俺が勝てるかどうかであろう。
そして非常呼集だ。としてミアが飛行魔法でやって来る。事態を重く見た独立魔装とスターズの思惑とが一致したようだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「無茶するわね。全く」
「だが、お前も同様だろう。市原や中条をあんまりこき使うなよ」
「失礼ね。私は『真摯な説得』の元、やってきただけよ」
その真摯な説得とやらに、『誠実さ』はどれほど含まれているのか。誰もが思いながらも、克人にアーマーを届けに来た真由美のおかげで、再びの戦線に復帰した克人だが、数分もしない内に、無限に湧き出る魔獣とゾンビ兵士は完全に消滅した。
魔力の供給源たるフェイカーを、ランサーのサーヴァント『長尾景虎』が撃破したからだろうが、まるで克人及び真由美が尽力したお陰かのように持ち上げられるのは、あまりいい気分ではない。
一高の同輩・後輩たちなどの声を受けながらも―――気分は晴れない。道化に仕立てられたからではなく、まるで大津波の前に海面が穏やかになる。
教育及び災害に対する理解を深めるアニメーションで見たものを連想させて―――次の瞬間には、誰もが身体の不調を訴えて、医療班を組織させて看病させることにした。
魔法力の優劣があまり関係ない上に、克人も吐き気を覚えた真由美に肩を貸さなければいけなくなった。
あまりに圧倒的なプレッシャー。4月にあった八王子クライシスの主犯であった少女と同格ながらも、『大きさ』としてはこちらの方が圧倒的だった。
(『敵』は……海からやってくるのか!?)
正確な位置こそ把握できないが、東京湾を超えて海の向こう側から放たれるものを察して―――スターズ関係者『ミカエラ・ホンゴウ』が飛行魔法で飛んでいくのを見た。
「遠坂とクドウを呼びに行った―――というところか……」
「このままいいところなしで終わらないわよぉ……!! 私は諦めが悪い女なんだから!! うえっぷ!!」
「いいから吐きたきゃ吐け。別にお前が嘔吐したぐらいで、幻滅せん」
「大学に行って、吐くぐらい呑んでも介抱してくれる?……」
「周囲のフォローは俺には無理だが、それぐらいはやってやろう」
エチケット袋を出しながら真由美を直視する克人の姿に、これが真実の愛なのか!? と一高全員が感銘を受けるのだった。
† † † †
案内された場所は港であった。夕焼けが落ちつつあるその風景に、見たことはない、だが、確かに
沈みゆく落日……アーサー王終焉の伝説。カムランの戦い―――その低き
その姿に焦がれた人、それとは『別の時』に『アーサー』と見た夕焼けを見ていた人の記憶が疼く。
(あんたは、この光景に『アーサー』を戻したくなかった。けれど、ただ一人の焦がれた少女を……その腕に抱くことを彼女の全てを穢すとして戒めた)
自分ならば、どんな決断を下していたのだろう。
少しだけ重ねるも、状況は切迫していた。海上にその身を表していた大狐―――推定全長は100mもの大妖怪が、『五つの尾』を夕焼けの中に逆立たせていた。
霊基としてはかなり傷ついている。ランサーが与えた傷が、深いことの証拠。
しかし、サーヴァントとしての姿を捨てて、獣に堕ちた王貴人の咆哮が轟く。それは、失ったものを求めて叫ぶ女の泣き声だ。
『蓼食う虫も好き好きとは良くいったものだが、あれだけの霊基変化をどこに隠し持っていたんだ?』
「劉師傅からの情報提供ですが、大亜が組織した船団の一つには、霹靂塔を使える調整体魔法師が、数十人乗り込んでいたそうです。
恐らく、行き先をロストした艦船の一つが、それだったんでしょうね」
戦争でもおっ始めるつもりだったのかよ。『肉眼』で何とか確認する限り、確かに王貴人《獣》の周囲には艦船の破片が見えている。
生贄の霊性は低いだろうに、それでも何かの魂魄分裂法でもやっていたのだろうか……ともあれ、どう考えても正常な復活ではない王貴人の姿を10キロ先の沖合に見て―――。
この岸壁に激しく打ち付ける波の勢いからして、考えたくない限りだった。
『あんなものが地上に『這い上がったらば』、確実にこの国一つは丸ごと消失するだろうな。そしてその修正力は、確実に『ニホン』という国そのものを無くした歴史を再編する……』
波の音に混じったオニキスの言葉の不穏さ―――。
それを聞いたリーナは、少しだけイタズラを思い浮かべたように刹那に問いかける。
「逃げたい?」
「そりゃまぁな。君を連れて世界の果てに行って、夫婦プラス双子の娘の家族構成、笑顔が絶えない暖かな家庭でも作って、悠々自適に暮らしたいぐらいだね」
「理想の結婚生活……もう一人ぐらいは欲しいかも♪」
そんなカップルの会話を砕くように、達也は割り込んできた。
「真面目に考えろ……! 方策はあるのか?」
「ある。が―――こうして全員呼びつけているってことは、お前にも試させたいんだろうな」
言いながら、後ろにいる大人たちが一種の火花を散らせているのを親指で指した刹那だが、達也の『とっておき』と自分の『とっておき』では、比べる『山』が違いすぎる。
というか、まるで『俺の父ちゃんパイロットなんだぜ』的な自慢話をしなくてもいいだろうに、面倒くさい大人たちである。
「お前も薄々気づいているんだろうが、俺の『とっておき』では、あの狐には何の効果もない。
よって風間少佐―――、ここは刹那に丸投げしましょう」
「特尉! いや達也!! お前には男としてのプライドは無いのか!?」
「意地はって大怪我するぐらいだったらば、専門家に任せる。生兵法は大怪我の元です」
心底の嘆息という達也のレアな表情を見ながら、友人からここまで下駄を預けられたならば、気合も入るというものだ。
苦笑をしてから岸壁の最前に立ちながら声を上げる。
「聴け!! 不浄の定めによって現世に縛り付けられし、琵琶の仙女よ!! 汝が愛しき白虎を斬刑に処したのは我!!
我が身を切り裂きたくば―――とっとと来やがれ!! 1000年以上も生きてきた……この―――『妖怪地雷女』!!! その腐った血肉を7つの海に灰にしてばらまいてくれるわ!!」
『『『『挑発してどうする―――!!!???』』』』
『『『『バカ―――!!!!』』』』
魔力を込めた言葉は確実にパルスとなって、王貴人に届き―――返礼のように指向性を持った音の波が横浜港全体を灰燼に帰そうとしたが―――。
「――――!!!!!」
跳ね返すようにエリザベート・バートリーをインストールしていたリーナのドラゴンボイスが、それらを跳ね返して10キロ先の大狐を『ひっくり返していた』。
「ナイス!!」
「YEAH!! ああすれば、こっちの思惑通りに―――倒せばいいのねセツナ!?」
『全力で魔術回路を増幅・拡大させた上で回転させていく―――ついでに言えば、この横浜市内の電力ラインも魔力に変換するようにしていく!!』
「一分間!! それだけで十分だ! 倒せるだけ倒してくれリーナ。そうすれば―――俺が『黄金の聖剣』を作り出して、扱うだけの魔力を捻り出せる!!」
「オーケー!! 最後に頼りになるのはワタシだってことを忘れないでよね!!」
門外漢にはいまいち分からない説明だったが、USNAスターズの面子は、その言葉で気づいたらしく―――王貴人が放った狐。
海面を滑るように走ってくる狐の使い魔たちを迎撃するらしく、リーナに続いて飛んでいく。
「一体何が―――」
「Anfang―――」
ミアの案内でついて来た一色愛梨の戸惑ったような声を聞きながらも、刹那は複数の魔法陣を複層式に展開して、己を魔力炉心の中に置いた。
オニキスのサポート付きで展開された魔法陣の数は、12,24,36,48,60,72,84,96,108……と増えていき、炉心の中で瞑想している刹那の全身に奔る『回路』に魔力を満たしていく。
(こうしてみると、魔術師の肉体は確実に自分たち『魔法師』とは違うのだと気付かされるな)
魔法師ではどうやっても無理そうな『精髄』を丸く絞る……高密度の魔力結晶をいくつも作り出しては、己の身に取り込んでいく作業。
そして横浜に走る電力ライン―――災害からの教訓などで一般化された、地下の電力供給すらも取り込んで魔力に変えているようだ。
その上でリーナたちに倒させている狐の使い魔たちの魔力も吸収している―――何をやるのだろうか? そういう興味を覚えつつも、今は刹那の手助けとして飛行魔法で飛びながらスターズに追いつくように、狐の使い魔を倒すことにするのだった。
そんな様子を傍から見ていた独立魔装の連中に、出動をさせようとした風間だが……もはや自分と響子を除けば、全員が狐狩りに向かっていた。
そこまで暴れたりなかったのだろうか……独立魔装の新人とも言える一色華蘭が、妹君と一緒になって神経攪乱で敵陣を崩していく。
そして、そんな前面の様子とは違い、王貴人が仇敵と見定めた刹那は、巨大なまでの魔力を己に溜め込んでいた。
古式魔法側に己の本分を置いている風間、藤林ですら驚嘆する魔力量……現代魔法では、然程重要視されていない。古式でも魔力量の多寡だけが全てを決めるわけではない。寧ろ、重要視されていない現状において――――その様子は驚嘆するしかなく、魔力を扱う刹那が深く深く『入り込んでいる』。瞑想の様子に寒気を覚える。
そして―――。
「投影・幻創―――」
一言だけの呪文が全てを変える。
† † † †
父の魔術。ある心象世界より派生せし『剣製』の秘術とは、即ちイメージの戦いである。
己で上回れない相手ならば、せめて『勝てるモノ』を創造する。
エミヤの魔術における要諦とは、そこにある。即ち、己で想像できた幻想―――500年単位の血の研鑽を積んできた家系の魔術師ですら、出来上がる千年単位の武具の前では、敗北を喫することもあるのだ。
旧きは新しきに打ち勝つ。魔術世界の道理に照らし合わせれば、親父の技は実に反則極まりない。
もちろん立ち会いの遇し方次第なところもあるのだが、ともあれ―――場合によっては……そういう武器も想像できる衛宮士郎の秘技は―――否が応にも刹那に蓄えられた。
(俺が挑むものとは、自分自身……あの大妖狐を倒せるほどの幻想を結ぶこと―――)
完全に励起する
全ては10秒もしない内に行われていた。だが、刹那にとって無限にも思えた時間の果てに、その手には―――輝ける黄金の聖剣が握られていた……。
握った瞬間、その手に確かな重みを覚えた時に、刹那の内側で何かが『弾ける』感覚を覚えるも―――。
構わずに聖剣を高々と天空に掲げた。黄昏の中でも燦然と輝く剣―――。
朱に染まる世界にても、振り上げた黄金の輝き。
至高の
(どこから出したんだ。あの聖遺物を……!?)
(あれは―――『分解』出来ない。それどころか―――見た瞬間に眼が焼き付くかと思ったぞ。否、『焼き付いている』! しばらくの間、エレメンタル・サイトは使用不可能だ……)
疑問だらけの近場にいた風間と、ああいったものを出すならば出すと言ってほしかった達也。
そして、ニホンの面子がそう思っている中、スターズの面子は―――。
「勝ったな……」
「油断大敵、大胆不敵、このデッケーフォックスだって妨害行動してきますぜ」
「分かってるさ。全隊!! タイプ・ムーンの『斬撃皇帝』に巻き込まれずに、タイミングが来るまで、エネミーを縛り付けろ!!」
ラルフ・アルゴルの言葉を受けたカノープスが、指示を飛ばす。
そして、刹那は自分たちに構わずに必殺必滅のタイミングで飛ばしてくるだろう。
でなければ、この狐は討滅出来まい。アンジー・シリウスが、雷鳴轟くブレスを吐き出し海水を帯電させることで、水面を滑るようにやってくるフォックスを縫い付ける。
しかし―――フォックスは完全に刹那を敵視した上で、刹那を最大の脅威と見なした。
雷の網を食いちぎり、その巨体を横浜港に飛ばしていく。
速い。そうとしか言えないほどに疾く跳んでいくフォックス―――その姿を確認した刹那は、魔力を収束させていく。
同時に己の身体に古めかしい鎧が纏わりつく……。
「私からのサービスです。最後の戦に臨む
戦国鎧に身を纏いながら、握りしめるは西洋の刀剣。だが、その姿に一切の外連味はなく、ただただ―――戦士としての姿があった。
景虎からの支援を受けながら、刹那は魔力を収束させる。
――――機は満ちたり。
光が集う。まるでその聖剣を照らし飾ることこそ至上の務めであるかのように、輝きは、さらなる輝きを集めていく。
苛烈にして清浄なるその赫灼に、誰もが言葉を失った。
距離の遠近に関わらず刹那を見ていた人間たちは、その姿に蒼き鎧を纏いし、少女騎士の姿を幻視する。
其れは、かつて夜よりも暗き乱世の闇を、払い照らした地上の星。
十二の会戦を経て不敗。その武勇は無双にして、誉れは朽ち果てぬ伝説の騎士。
輝けるかの剣こそは、時代を問わず戦場に散っていくすべての
その意思を誇りと掲げ、その信義を貫き、時空の彼方よりいずれ復活を遂げる常勝の王。
その影を纏いながら、『魔宝使い』は、手に執る奇跡の真名を謳う。
其は――――。
黄金の輝きが振り下ろされる。同時に剣から奔る―――光、光、輝き。
数多もの黄金の輝きは一つの巨大な閃光となって、海を蒸発させながら、割り砕いていく。
光の速度で迫る閃光を前に、王貴人は、躱すことも防御することも出来なかった。その光は、かつて大地に住まう誰もが胸に抱いた想い。
自分を弾き語ることで、戦士の勲を紡いできたものたちも胸に抱いた幻想。そして―――自分のマスター……ルゥ・ガンフーも見てきたものなのだから……。
「もう一度……ガンフーみたいなイイ男に会いたいな……」
総身を焼き尽くす閃光を受けながら、身体の一分子、霊子の一粒にいたるまで焼かれながらのフェイカーの思考とは、それだけだった。
灼熱の衝撃は一瞬。しかし、永劫とも思える時間を体感していた王貴人は―――その時、完全に消滅を果たした。
王貴人という大狐として変性した大魔獣がいた海面に、光の柱が出来上がる。
海から天空を貫き宇宙にまで届かんとする黄金の柱―――否、黄金の樹……『空想樹』とでもいうべきものは、5分以上も海面にわだかまり、光の葉を、種子を横浜全域に撒き散らしていく。
生きとし生ける全てのいのちに『幻想』をイメージさせるその『空想樹』。
黄昏に佇む武者鎧を纏う赤き騎士―――『肌を浅黒くして、髪を白くした遠坂刹那』の姿に、リーナの胸が疼き、『そちら』に向かう未来を回避したい想いを生み出しながらも……。
いつの日か、復活を遂げるブリテンの王『アーサー・ペンドラゴン』の光の全てを景色に、此処に横浜の騒乱は終焉を迎えるのだった………。
というわけで横浜編終了となりました。
いつも通り幕間と言う名のエピローグで後始末とかは描こうかとは思います。
その後は追憶編。まぁ誰の追憶を描くか―――決めてはいるんですが、結構、本作の読者の間には『過去語りいらん』『秘匿の原則絶対遵守』という人もいるので、今から書くのが怖い点もありますね。(苦笑)