魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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というわけで追憶編です。と言っても詳細にというよりも端折る部分は、端折るので、ご了承ください


追憶編~~Fifth order─Fate/stay night~~
第159話『まほうつかいの過去──倫敦Ⅰ』


「よかったの? タツヤにあんなことを約束して?」

 

「君やUSNAで関わった面子以外にも、俺のことを知ってもらわなければ、いざという時に何も出来ない。何より……俺自身が、これ以上の身元の詳細を隠しきれないという点もある」

 

2095年という爛熟した情報化社会。神代から古代の紀元前の辺りならば、情報というものの『精密さ』は、あまり取り沙汰されなかった。

特に支配者層となれば、詳細な人相をしるしたものがあれば、暗殺のリスクが高まる。

 

だが、もはや人の世は、大通りを行き交う一人一人の人相を詳細に記憶し、同時に巨大な人相書き……データベースが瞬時に個人情報を特定する。

 

無論、そういったソーシャルカメラが無い区画というのもあるにはあるのだが、それでも防犯の安全面から、都市には巨大な監視の目が網のように張り巡らされているのだ。

 

そんな時代において、何の後ろ盾もなく出来るわけがないとして、USNAではやってきたのだ。もしかしたらば、親父ならまた違う方法で『正義の味方』をやっていたかもしれない。

 

付け加えるならば、お袋は無理だ。レコーダー機器を扱うことすら上達しない純粋なまでの魔術師では……。

 

『どんと来い! 魔法師!! 神秘の力で、あんた達機械じかけの連中を完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ!!』

 

宝石乱舞で地獄絵図。もしかしたらば、穏やかな交渉もあるかもしれないが、まぁ……相手の出方次第か。

 

「そういう意味ならば、セツナは上手くやったわよね?」

「君がいてくれたから、矛を収めることが出来たんだ」

 

結局の所、アンジェラもアビーも『リーナには歳が近いパートナーが必要』という一致した進言があったからこその話だと後に聞かされた。

 

リーナの精神安定剤としても機能してくれるからこそ、そういった方向に向かった。でなければ、天文台の執行者たちを撒いてまで、此処にやってきた自分は再びの逃亡生活である。

 

元の木阿弥にならなかったのは、先程から刹那の胸板にすり寄るブルースターのお陰だ。

 

「つまりワタシはセツナの幸運の女神(ヴィーナス)ってことね? タタエなさーい♪」

 

戯けるリーナの言葉に、その髪を撫ですきながら身体を入れ替えて、リーナの身体を下にする。

 

「称えるだけじゃなくて、致しちゃうー♪」

 

「キャー♪♪ セツナが獣性魔術でケダモノに―――♪♪……いつものことだったわ♪」

 

その後には……お互いの身体を重ねる行為が行われるのだった―――それは幼い愛の確かめ方……。

 

 

「―――といった風なことがあって、待ち合わせに遅れてしまっていててて!!」

 

「情事の所為で遅れたとか、例えお天道様が許しても俺と深雪が許さん!!」

 

「というか、現在AM10:28……朝方までシていたんですか!?」

 

「ヨコハマでの切った張ったが激しかったから、燃え上がっちゃった♪ ぎょわ――!! マチナカでの魔法の使用は、キビシイルールがあるのよミユキ―――!!!」

 

待ち合わせ場所たるアーネンエルべ付近にて司波兄妹と合流するも、30分弱の遅刻理由を正直に話しすぎたがゆえに、往年のGS○神のようなことを素でやられてしまう二人。

ともあれ、深刻な話をするのに深刻な心持ちだけでは間が持たない。そもそも深刻に思うかどうかすらわからないのだ。

 

達也と深雪が案の定、緊張しているのを使い魔を使って察した刹那の作戦であった。

 

「てっきり自宅で話すと思っていたんだがな……アーネンエルベでいいのか?」

「ああ、『ここ』でいいんだ。アイネブリーゼでは、ちょっとな」

 

言いながら『OPEN』という掛札がある扉を開けると―――。

 

「こんにちワッフルー、おや、久々な魔法使いの四人さん。いらっしゃーい♪」

 

目の前には黄色……というよりオレンジ色の少女がウェイトレス服で来店を歓迎してくれた。

 

「お久しぶりです。日比乃さん」

「ヒビキー。ひさしぶりー」

 

女子三人のキャピキャピした会話を聞きつつ、この辺りでいつもならば不機嫌そうに刹那やレオに絡んでくるツインテールがいないことに気づく。

 

「あれ? いつも五月蝿い緑はいないの?」

 

「今日は用事があって、チカちゃんは休みです。

そんなわけで、ジョージ店長よりアーネンエルベ総監督を引き受けている私が、いつもどおり頼まれたものを『NANDEMO』作っちゃうよ―☆」

 

親指立てて自信満々にサムズアップするひびき。

 

この店、店長いる意味あるのか? そう考えた時期が自分たちにもあったわけで、かぱかぱ自動で開く骨董ものの『携帯電話』を見ながら、案内された四人テーブルに座り込む。

 

対面に司波兄妹。隣にはリーナ……運ばれてきたコーヒーと紅茶。互いに飲みながら何から話すべきかを考えるに……まずは、達也の疑問を解消する方向でいこうと思えた。

 

「達也、お前は俺をどんな存在だと思っている? 俺はお前以上に謎な人間と周囲から思われているはずだ。その疑問に答えるよ」

 

「………そうだな。古式魔法としては、かなり異質なもの―――オカルティズム寄りの深い知識を持っており、そして現代の情報機器に疎い。というかかなりの機械オンチだ……。

色々な情報を重ねていくと……お前は過去の時間からやってきたジョン・タイター(タイムトラベラー)……という結論を出した。師匠(ハゲ)から予言も聞いといたしな」

 

中々に深いところを突いた結論ではある。だが、若干ながら正解ではないと語っておく。

 

不正解を示された気分なのか、怪訝な表情をする達也。

 

「つまり?」

 

先を促されて、紅茶を喉にふくんでから、口を開く。湿らせた喉が紡ぐ真実は……。

 

「確かに俺は、おおよそ西暦で言えば2020年代に生きてきた人間だが、そもそも『ロード・エルメロイ』『時計塔』『魔術協会』なんて存在や単語、ちっとも魔法師のデータでヒットしなかっただろ?

それを踏まえれば、もう少し『深い結論』に至れたんだがな」

 

前置きのような言葉ですら、深雪にとっては衝撃的ではあるのだが、冷静な心地で察した達也はこめかみを叩いて、もう一歩踏み込んだ結論を出す。

 

「……『並行世界』(パラレルワールド)の人間―――そう言えばお前の持つカレイドステッキとやらは、場合によっては『隣り合う世界』からも魔力を収奪出来るんだったな。迂闊も極まった……」

 

「多くのヒントを出してはいたんだが、達也も若干そういった点では頭の血の巡りが悪いね」

 

人の悪い笑みを浮かべながら刹那が言うと、達也も降参するように笑って言う。

 

「論理の飛躍をするには、中々に難しいからな……」

 

深雪が少しだけムッ、とするのを見ながらも、達也は問題の要点はそこではないのだろうと思っておく。

 

確かに驚きの結論ではあるし、それを『事実』と認定することは不可能ではない。

 

だが、それを『真実』とするには、世に出回る魔法関連の『フィクション』を達也も知らないわけではない。

『ホグワーツ』(魔法学校)魔法使いだけの世界(異界)に存在している以上、その可能性も除外は出来ない。

 

現実味はないとはいえ、一時期の達也は、刹那を、魔法の世界からやってきた『魔法少女』ならぬ『ハリー・ポッター』(魔法少年)だと思っていたほどだ……もしかしたら『ヴォルデモート卿』かもしれないが……。

 

ともあれ、それを真実と断言するには、まだまだ遠いと思えたので、少しばかり突っ込んだ話をする。

 

「並行世界があると『仮定』したとして、まずは一つの疑問だが、それは容易い話なのか? そしてそんな能力者が多いのか?」

 

「並行世界に『たった一つの個』として移動できるのは、あるジジイだけ。オニキス、ガーネットを作った『魔法使い』。

キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグという、我が遠坂家の魔術に傾倒した―――大師父というべき存在だ」

 

この世界の魔法師にとって……現代魔法の『不可能領域』が定まっているように、刹那たちの世界でも、『魔術』では『到達不可能な領域』を―――『魔法』と称して敬意を払っている。

 

そう前置いたうえで、達也に告げる。

 

「神代、古代、中世、近代、そして『現代』へ時代が進むたびに、科学文明の進展は神々との接続を断っていき、かつては『神の権能』であった領域を我が物にしていく。

そんな時代にあっても、魔術では到達不可能な領域の御業を保有している者たちを―――『魔法使い』と称して、魔術師たちは、『魔法使い』にならんと真理への希求、探求を続けているのさ―――永遠に報われない希求。『6人目』が現れることすら半ば諦めつつな」

 

己も求めているだろうに、自嘲している刹那にどこか『空恐ろしいもの』を感じる。

 

「五人の魔法使い……『五大魔法』、お前はそれを知っているのか?」

 

「詳細に知っているのは『2つ』、そして見たことがあるのは『2つ』。もっとも理解は半端かもしれないけどな。一番知っているのは『万華鏡』(カレイドスコープ)……並行世界の運営だ」

 

2本指を立ててから、それを閉じて再び立てる刹那。

 

その詳細を問いただしたい所だが、今の主題ではあるまい。どうやって此処に来たか? ハウダニットは解決した。

フーダニットは、『本人』ではない可能性もあるが、今は置いておく。

 

問題は――――。なぜ『ここ』(2095年の世界)に来たか。

 

その動機、『ホワイダニット』が見えてこない。

 

「やっぱりソレを知りたくなるわよね……ワタシは出来ることならば、口頭のクチハッチョウ(口八丁)で済ませてほしかったわ」

 

「知るのはダメなんですか?リーナ」

 

「……知れば魔法師としてのセオリーを全て崩されるし、アナタ達の中で何が変わるか分かったものではないわ……」

 

「だがお前は知ったんだろ? それはズルくないか?」

 

「ズルくないわよ。ワタシはセツナの未来のワイフ。神秘満ちる遠坂家にヨメイリする身だもの。ダーリンの全てを知るのは、当然の権利だわ♪」

 

((プライバシーの侵害ではないだろうか?))

 

兄妹そろって胸を張って語るリーナに思うも、苦笑いをする刹那の顔。あんまり聞いて楽しいものではなかったのかもしれないが―――。

 

「それでもアナタのことを知る人間がいるのは、気がラクになったでしょ? ボストンでも隠し事されて、その後も―――隠すことが魔術師(メイガス)の常識でも……ヒトとしてのセツナは、親しい人間に何も言えないことに息苦しさを感じる―――そういうメンドウな性格でしょ?」

 

「ホント―――心の税金だよ。俺は……堕落した」

 

自嘲の笑みを浮かべていた刹那。魔術師として真理を探求してきた刹那からすれば、今の刹那は相当に堕落したものだろう。

 

しかし、あの頃―――進み続けた日々に折り合いを付けて、この世界に馴染もうとして、それでも際立つ異常性と、追ってきた過去とが、『あの頃の自分』に揺り戻そうとする。

 

ならば───覚悟を決めるしかない。

 

「達也、ここから先は口で説明するよりも『直接』見たほうがいい。

俺の過去は、お前よりも場合によっては凄惨で救いようのないものかもしれない。不幸自慢したいわけではないが―――傷になる可能性がある。深雪も同じく―――」

 

「構わん。見せろ―――いま……俺はこの上なく友人の全てを知るチャンスが来ている……。それを無駄にしたくない」

 

「友人というよりも実験動物のモルモットに近いんだが……」

 

達也がそこまで刹那の過去に興味を持つ理由が、深雪には分からなかった。

だが、少しだけの共通点を見出すならば、やはり刹那も達也(あに)も、どことなく修羅道を歩く存在だからか……その過去に少し見出したものがあるのだろう。

 

(多分だけど―――まぁ、私も刹那くんがどれだけの人間なのかを知る、いい機会だと思っておきましょう)

 

先程からパカパカ『自動で開く』携帯電話―――骨董品に笑顔で話しかけている(?)日比乃ひびきを不審に思いながらも、気付くと正面にいた刹那の眼が――――赤くなり白くなり……紅白の点滅を見せていた。

 

「今からお前達に、一種の共有魔術を掛ける。それは、俺の記憶を追体験するだけともいえるが……先代当主『遠坂凛』と『衛宮士郎』の刻印も影響した視点も出てくるかもしれない―――――だが、これが俺の真実だ」

 

魔眼が見せる真実。だが、ここには他人もいるというのに―――。

こんな大っぴらなことを―――。

 

だが深雪の逡巡など知らないように、刹那は―――『遷移の魔眼』を輝かせる。

 

「事象・意識固定。―――捕捉対象を認識―――転遷・遷移開始―――私は、その心を彼方に()ばす」

 

その時、四葉の家系として精神干渉系にパラメーター数値を高く伸ばしてきた深雪や達也が、一切のレジストなど出来ずに―――意識を飛ばされてしまうのだった。

 

 

気持ち悪さは無い。だが、どこか波間を漂うゴムボートに乗っている気持ちが数十秒はあったか―――そんな時間が終わると…… そこはアーネンエルベではなかった。

 

地下室……そう感じさせる石と岩で覆われた部屋。薄暗いが、それでも場を示すに足る灯りはある。

燭台には蝋燭、古めかしい鯨油などで燃やす灯りの元、黒髪の少年……十歳に届くか届かないかが、これまた古めかしい木の机に向かって、何かをやっていた。

 

少年の衣服は、赤い……赤を好んでいるようだが、履いている下は黒のジーンズであることが、この場においては少しだけ異質でもある。

 

古い羊皮紙。描かれた魔法陣の上にて水晶に魔力を込めていた。

 

木の机に広げられた水晶は、割れて砕けたものが2割。その他は見事な造形美に魔力を溜め込んでいた。

 

剣をイメージさせるもの、盾、剣、剣、鏃、鏃……馬を思わせるものもあれば、獅子や鳥をイメージさせるものもある。そして、いま少年が挑戦しているものは……。

 

両手を翳して、魔力の流れを制御している様子。素人目に見ても、それが驚嘆すべき手際であることは達也と深雪にも分かった。

 

水晶に一回で込められるギリギリの魔力を込めながらも、流れを『正しく』することで、水晶を壊さないようにしている。

 

言うなれば、ダムの決壊を防ぐために下流に放水する作業。とても鮮やかで、同時に玄人作業だ。あまりに多すぎては、更に下の街にも影響を出すかもしれない―――だが、そのギリギリを見極めていたのだが……。

 

作ろうとしていた、恐らく……星、ダ・ヴィンチの星という正多面体が砕けて、見守っていた女性が声を掛ける。

 

その姿は達也、深雪も動き出すまで気づかなかった。それぐらい少年に注目していたということでもあるのだが―――刹那とリーナは最初っから、そちらばかりを見ていたのだろう。

 

赤いブラウスに黒いスカートを履いた20代後半―――と言っても前半にしか見えない人が声を掛ける。

 

「やれやれ。教え甲斐がない弟子だこと。失敗ばかりして、それを見た私が、『魔力を一度に注入しすぎた』『平常心を保ちなさい』『魔力を制御するには自分の精神をコントロールしつづけなければいけない』―――」

 

「その制御を誤ると加えすぎた力、誤ったカタチは跳ね返ってきて、自分だけではなく、周りにも害を与える。

常に正しい流れを心掛けなさい―――『常に余裕を以て優雅たれ』でしょ? 耳にタコが出来るよ。『母さん』が話すお祖父ちゃんの話ってさ」

 

「そういじけて言わないの。母さんにとってのいい思い出なんだから。一度ぐらいは失敗しなさい―――『刹那』。

父さんなんて、強化がさっぱり成功せずに砕けて砕けて、全然ヘッポコだったんだから」

 

「無茶言うよ。わざと失敗して自傷する方が変だよ。息子が怪我して嬉しいとか」

 

「それでも、失敗することでしか学べないこともあるのよ。まぁアンタの場合、最大出力の『オド』を手加減すること無く、ナチュラルに完全制御しちゃってるから───母さん、ものすごく心配」

 

言いながら砕けた水晶に手を翳した赤色の女性は、少年―――『刹那』の失敗をフォローするように、ダ・ヴィンチの星を作り上げた。

 

その『滑らかさ』に素直に感嘆する『遠坂 刹那』の様子が、いつもの刹那とは違って司波兄妹には、新鮮に思えた。

そこにいた―――母子。刹那を後ろから抱き寄せていた女性───『遠坂 凛』。何度か教えられていた刹那の母親の姿だった。

 

それは在りし日の遠坂家の影……まだ『遠坂 刹那』が修羅巷に挑む前の姿。

 

『魔宝使い』の追憶が、魔法師達に刻まれる……。

 




今週から不定期にあるかもしれないNGシーンシリーズ。

□今日のNG■

アーネンエルベ来店時……

お虎「オレンジ色の髪に、『ヒビキ』だと……『立花』ではないのか!?」

刹那「いや、こっちの方が『初出』だから、そっちの方が後発、というか大魔術使う可能性あるから周辺警戒よろしく」

お虎「承知しましたマスター。店主(仮)、そこな清酒を一本所望する♪  呑みながら護衛させてもらいましょう」

刹・達・深・リ(酒が置いてある喫茶店ってどうなんだよ!?)

カウンター席に座り御猪口を傾ける美女(ヤンデレ)を見ながら―――魔法使いの過去は、語られる……。

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