魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
命と家と周囲の環境(生活圏)が無事だっただけまだマシでしょうから、そんなことは言わない方がいいですね。
というわけで新話お送りします。
再生される刹那の過去―――その中に取り込まれた達也も深雪も、どうやら自分たちの存在は幻も同然であり、見せられているものはVRゲームの立体映像のようなものだ。
「以前のドリーム・ゲーム事件みたいなものだ。触媒として使っているのは、香炉ではなく、俺の魔眼だがな」
「成る程。確かにモノを掴むことは出来ない。それどころか、身体もすり抜けるか、とはいえ―――刹那が認識している記憶上の場所以外は移動できないのか」
実際、地下室……刹那曰く『魔術師の工房』から出ようとして壁に手を当てたが、確かな感覚はない。すり抜けようと、出ようとしても―――出ることはかなわない。
専門的に言えば過去視の魔眼にも関わることではあるらしいが、要するに、この地下室で刹那が母親から魔術の教導を受けている際の、地下室以外の場所を『知らない』からこそのプロテクトのようなものらしい。
ともあれ遠坂母子の様子を見ておく……。
「楽しそうですね。それに、刹那くんのお母さんも、嬉しそうですし、何だか見ているこっちが、暖かな気持ちになりますよ」
「魔術師ってのは、自分一代では『到達できない』と分かっているからか、後に続く人間たち……弟子や息子・娘なんかに優しいもんなのさ。勿論、あまりにも芽のない人間であれば、廃嫡というか殺されることもありえるんだけどな」
「だが、お前はどうやらかなり有望な弟子のようだな」
「遠坂家では稀有な優れた男当主だったからな」
遠坂家というのは、どちらかと言えば女の方が 『天才型』であり、男は『努力型』の人間が多い。
どちらが良い悪いの区別があるわけではないが、まぁそんな中でも刹那は異質らしい。
しかし、所詮は自己申告だから、どこまで本当だかは本人のみぞ知ることだが……こうして見ると、刹那は幼い頃の深雪と同じだ。
母親に期待され、そして母親の魔道を純粋に受け継ぐことを望んでいく少年。
自分が、尋常の世人ならざる道を歩むことを自然と受け入れている少年……。
少しだけ羨望の目を向けてしまうのは仕方ない。
「この頃の俺は、純粋に、こんな日々が続くと信じていた。時に故郷である冬木に戻っては、日本の風習とロンドンの風習の違いに感心しながら……毎日が楽しかった。
魔術師としても人としても当たり前の日常が、続くと信じてな」
言葉を区切った時には、地下室から出る刹那と遠坂凛に引っ張られる形で、場所移動が完了する。
地下室から出た上の家。調度品は、古めかしいものが多い。母親が機械音痴であったということを引いても、やはり2095年ではあるべきものの大半はない。
情報を取捨選択出来るはずの『大型端末キャビネット』は無く、『古めかしい薄型液晶テレビ』があって……。
『ジャンマリオと―――』
『イヴェットの―――』
紳士風の伊達男とピンク髪の眼帯少女(?)が、画面に躍り出て―――その後には大量の腐乱死体……ゾンビが周囲に出てくる。
実にシュールな映像だが、今の時代に比べれば実に陳腐な仕掛け。
映像技術で言えば、やはり半世紀以上は前の特撮ゾンビが移りだされており、番組名は―――。
『―――ゾンビクッキング!! さぁ、今日もジャンマリオと、助手の『食人衝動』から正気に戻ったピンク髪ゾンビと一緒に、美味しい料理を楽しみましょう!!』
言いながら2丁拳銃―――当たり前だが、実弾ではないそれを使って、特撮ゾンビを打ち倒すジャンマリオという伊達男。
内容から察するに……料理番組だった。事実として恐ろしいことに料理番組で、それに食い入るように見るのは、幼い頃の刹那だった。
まさかあの高級中華が、これを元にして作られているのか。そういう驚愕があったのだが……。
「一応言っておくが達也、俺の料理の腕は、親父とお袋からの伝授だ。この二人は俺がいた『時計塔』の魔術師なんだ。うち一人は俺の姉弟子に当たるよ」
「魔術師は秘密主義の集団なんじゃないか?」
「何事にも例外ってのはあるもんでな。如何に魔術師が全能の万能を気取ろうと、『先立つ物は金』という現実を前にしては、金稼ぎの方策が必要になるわけだ」
刹那曰く、アイドル活動をしている魔術師もいて、その路線を引き継いだ『植物科』では、『ウィッチアイドルプロジェクト』なるものも進められているとか……。
カオスな世界だな。と感じながらも……達也は確信をした。間違いなく刹那は並行世界―――もしかしたらば、異世界という表現が正しい世界の住人だ。
「いまは20XX年か……」
「刹那君、アナタのいた世界に、もしかして……魔法師という存在は―――」
何気ないカレンダーの確認でつぶやいた達也の言葉に、少しだけ振るえて深雪は、刹那に問いかけた。
その言葉を受けた刹那は、乾いた笑みを貼り付けながら、口を開く。
「全てを見終わってから―――その方が良かったんだが、お察しの通り、俺がいた『世界』では、こちらで起きた同年のことは殆ど起きていないんだ。……特に『近代』『現代』においては『人理定礎』が定まりきっていないんだろうな。
詳しくは後で話してやるが……俺の世界には、
俺の知る限り遺伝子操作においては、スコットランドで
それは宗教上の慣習に根ざした一種の禁忌的行為だったからだろう。
如何にフィクションの世界では、『クローンやデザインベイビーの製造は2000年代の科学でも可能』と言われても、それを実施するには、人間は幼すぎる。
十字教でも、仏教でも、神道でも、イスラム教でも人は『神が創り給うた『いのち』』であると、おおまかにはそう言っている。
だが、人が人の自然な営み以外で『いのち』を作り上げることは、いるかいないかすら、あやふやな神様の領域に無粋な手を伸ばすことだ。
生きていく上での『必要』があるからこそ、人間を変質させる行為とも違う。適応のための処置ではないならば、それは誰かの『何か』を崩す。
生物が持つ根源的な忌避感を呼び覚ますのである……。
「今は置いておけ。ダ・ヴィンチも交えて話してやる―――」
「ああ……」
達也は自分の表情を認識出来ていない。己の顔は、己で見ることは出来ない。だが身体状況から若干分かることもある。
いまの達也は───『怯えている』。生まれた年代こそ違うが、それでも分かることはある。
達也たちの歴史は―――明らかに『異質』なのだと……
「魔術師は隠棲して真理を求められれば、それでいいんだが、生憎、霞を食べる術を開発するよりも、普通にパンを食って肉食をした方が面倒じゃないんだな」
言うとジャンマリオという男が、珍しくも『たまり醤油』とワインを合わせたステーキの焼き方を実践していた。
ジャンマリオ曰く……。
「タマリソイソースは、ニホンでもあまり作られていないが、伝手があって今回は使えた!!!そのうちアマゾネス・ドットコムでも通販出来るから安心しろよ!!」
そういうことらしい。しかもさり気にスポンサーに対するヨイショまでやっている辺り、魔術師というのも色々なんだなと思えた。
そして、そんなジャンマリオやイヴェットなる、魔術師にして芸能人たる二人を輝いた眼で見ている刹那の将来を少しだけ案じてしまう。
結果はもはや出ているのだが……ここから刹那は、どうなるのか―――。と思っていると、家の『扉』が叩かれた。この際に電子的なインターホンではなく、魔術的な結界作用であると気づけた。
「お父さんだ!」
「出迎えてあげなさい。ジャンマリオさんの仕事をこなしてきたんだから」
「うん!!」
どうやら『たまり醤油』の出処は、刹那の父親であり、少しだけ喜色満面に父親を迎えようとする刹那が―――
そんな
扉を開けた先にいたのは緑色のジャケット……セータータイプのものを羽織って白シャツ、ジーンズ……肌は『普通の黄色人種』。髪の色は『くすんだ赤色』。
だが顔立ちには、覚えがある。よく見ると刹那にも似ている。
「衛宮士郎……面倒くさい説明を省けば、俺の父親だ。『この時まで』はな」
笑顔で、父親から頭を撫でられている刹那の姿。自分や深雪と違って、父親との仲は悪くないようだ。
「このヒトが───、穂波さんを……けどお兄様が語った人相とは違うような……」
「お前の言う親父さんの魔術を使い続ければ、『ああなる』のか?」
「そうだよ。お袋は語っていた。『それは錬鉄の英雄に近づく業』。決して───自分はそうなるなとも、な」
アットホームなファミリー。そう思わせる映像が途切れて、暗転。
どうやら刹那が就寝中の映像。だが、刹那は聞き耳を立てているし、両親の方へも自分たちは移動できる。
会話は断片的なものだ。自分たちはちょっとした傍観者だが、他人のプライベートというのは、あまり侵すものではないと認識してしまう。
「……どうしても行くのね?」
机の上にワインを乗せながら、それを『ちびりちびり』飲みながら、管を巻くように
それに対して決意を秘めた眼で見返す士郎は、重い言葉で返す。
「ああ、決めたんだ。獅子劫さんやフリューさんも言っていたが、俺はやはり『そうしたいん』だ」
「……『執行者』は、アナタを狙う。バリュエのロードですら、アナタの異常性には気づき始めている。けれど―――今ならば……」
想定されるリスク。しかしそれをヘッジファンドで分散させることも出来るはずだが……衛宮士郎は、それを良しとはしなかった。
「やりようはあるんだろうな。政治の世界は良くわからないが、一成も前生徒会の関連で苦労していたからな。そういう意味では、少しは分かるかな」
魔術師の権力闘争……言葉だけでそう直感しつつ、市井の学校の生徒自治と、そういったマキャベリズムあふれるものを一緒くたにするなと、鋭い目で見る遠坂凛。
先程までの、母として刹那に相対していた姿からは、若干違っていた。
「お袋もこういう所はあったからな……」
「
「まぁ、こういった
達也のつぶやきに対して、リーナが疑問を呈すると、深雪が少しだけ苦笑を浮かばせながら答える。
「補足させてもらうならば、俺のいた世界の魔術原則の一つに、『神秘は決して『俗世』に露呈してはならない』ということがある。
例えば、今回の横浜事変であれば、大亜連合軍が『真っ当な軍事手段』だけで侵攻を開始していれば、神秘の側は、火の粉がかからない限り、余程のことにならなければ、何もしないんだ」
神秘の漏洩。それは力の衰退を招く原因であり、同時に魔術師全体の不利益になるからである。
人間能力の一端と認識されることも多い『魔法』との違いは、ここにあるのだろう。
「つまりお前のいた魔術協会というのは、そういった人間を処罰するために存在している、と?」
「詳しく話せば『色々』とあるが、それもまた一つの『存在意義』だ。ゆえに―――親父は、そういった『道』から外れつつある。
『魔術使い』としての道。俗世にて魔術を用いて、様々なことを行う……多くは紛争地域における『傭兵』としての職種が多いんだがな」
「そういった人間は多いのか?」
「少なくはない『数』はいる。とだけ言っておこう。そういった『軍事利用』という観点でのニーズは、魔法師も魔術師も変わらんよ。
そして俺の父親は───最初っから『魔術使い』だったのさ」
夫婦の話し合いは堂々巡りだ。行かない方がいいのは、誰が聞いたって分かる。
達也たちの世界の常識ならば、止める必要はないことではあるが、この世界の『常識』ならば、粛清の対象になることは間違いないのだから。
それでも何故、この人は……そこまで地獄を見ることに拘るのか―――。
「……幼い俺は、理解が半端だったから何も分かっていなかった。この人は最初っから『壊れていた』……地獄から生き延びた一人。養父という『魔術師』に救われたことで、己の為すべき道を為そうと邁進する人………」
「何をやろうとしていたんだ?」
刹那は苦悩を刻みながら、乾いた顔をしていた。息子というのは、一般的には父親の仕事や目的意識に理解を示そうとするものだ。
司波兄妹にとっては、そういった事は全く無い。
父権性の発露というものが無かった家庭では仕方ない話だが、ともあれ刹那は、見る限りでは、良識的な父母の下で育てられた子供だ。
だからこそ――――。この衛宮士郎が求めていることを聞いた時の刹那の表情は、達也には忘れられなかった……。
「───『正義の味方』───この人は、ただ単に目の前にいる人々を助けたくて、そのためだけに魔術を習ったんだ……」
暗転。再び場面が切り替わる。時間は然程経っていないように見えて、少しだけ刹那は歳を増やしていた。
ロンドンの市街。早朝の少しだけ霧がかかった風景は、正しくロンドンの姿である。
今でこそ、魔法師が海外渡航するのはあまりいい顔をされず、政府からも禁止されているが、リアルタイムのライブカメラもあれば、21世紀前半から多角的に伸びていったインターネット検索サイトであり、総合的なITビジネスを展開する会社の手で、遠くの街の原風景というのは、撮影されているものだ。
そういった観点から達也は、町並みこそ今にも残している大英帝国の面影だが、馬車が走っていたり、昔懐かしの2階建ての路線バスが走っていたりと……。
(2020年代の『正しい歴史』の英国の街並み……)
この世界には魔法師と呼ばれる存在はいない。多くの民族問題・宗教問題や大国のパワーゲームはあれども、人類の営みは人の中に別の人を作らずにいたのだ。
そんな街並みを見てから、刹那たち遠坂家の人々に目を向ける。
「それじゃな遠坂。世話になったよ」
「――――ええ、本当に……行くのね?」
先ほどと同じような言い方。
恐らくこの時に至るまで、こんなやり取りを何度も繰り返した。そのやり取りの中での心変わりを願った。母と息子。
いつか違う結論が出るんじゃないかと、蒸し返すたびに、何も変わらぬものが出るだけ。
結局の所、早朝、母に乱暴に叩き起こされたことで、来るべき日が来たのだと分かった刹那は、母と同じく悲しい顔が出来ていただろうか―――。
横で見ていた達也と深雪、リーナは分かった。刹那は泣きそうな顔をしていたのだ……。覚悟を決めても納得しきれぬ感情が、彼を包んでいるのだと……。
母と会話していた父が、こちらに気付き―――屈んでこちらに視線を合わせてきた。
その姿は少しだけ、達也が見た『錬鉄の英雄』に近づいていた。肌は少しだけ浅黒くなり、髪には白髪が交じるように、されど肉体は頑健なものに見える。
そんな衛宮士郎は、大事なことを言うように言い含めてきた。
「刹那。お前だけは母さんから離れるなよ。父さんは―――少し『遠い所』に行ってくる。長い仕事になりそうなんだ」
「はい――――」
長い仕事―――それは、魔道の怪異を防ぐだけでなく、人間同士の戦いにも参加するフリーランスの『魔術使い』としての道。
屍山血河を防ぎ、時には屍山血河を作る……正義というもののために殺戮者としての道を志すその想いは―――どれほど強いのか……。達也には理解が出来なかった。
そして、それは家族を捨てて……自分を愛してくれる存在を捨ててまで成し遂げたいことなのか? 問いかけられるならば、問いかけたいほどだ……。
「父親らしいことなんて、本当―――俺に出来ていたか、分からないんだ。ゴメンな……」
謝るべきはそこじゃないはずだ。けれど―――父が悲しい顔をしているのを見て、そんなことはない。と言えない刹那がいた。
深雪は、その様子に少しだけ涙を滲ませている。あれほどまでいい家族を作り上げながら、なぜそれを壊せるのか?
そこまで『正義の味方』になりたいのか? その想いを吐き出す前に衛宮士郎は、刹那の右腕に手を当てた……。
「だから―――
もしかしたらば、これがお前を不幸にするかもしれない。けれど、きっとこれはお前を『幸せ』にする力だ。刹那の運命にもきっと逃れらぬものが来る」
左腕ではなく右腕に『輝く』もの……これが……父の魔術刻印が、まだ『小さい内』は父は存命だ。そう。魔術師の卵は分かっていた。
「根源の渦を目指すも、違う道に進むもお前の意思一つだ。だから―――生きていてくれよ」
自分の後追いなどするな。そう言えなかった父の苦悩を分かってしまった。『させない』と断言した母に対して刹那は、何も言えなかった。
「それでは、行ってくるよ」
「はい―――父さん。気を付けて―――」
刹那は泣いていた……。手を振り、視界からいなくなるまで父を見ようとして、その姿がぼやけて、同時に自分たちの風景もぼやけたものになる。
この時に、衛宮士郎の後ろ姿を見ていた二人の眼が涙に濡れていたからだろう。
……見えなくなった時に母は崩れた。
「ごめん―――私じゃアイツは止められなかった……アンタになることを止めたかった。その為に―――『鎹』まで作った……愛していくことが出来たはずなのに―――」
顔を手で覆った遠坂凛は独白する。
どこかの誰か。親しい―――『昔の男』に言うかのような刹那の母は、嗚咽を止められていなかった。
「母さん―――」
「……刹那、アンタだけは『アイツ』みたいにならないで……、大切なものの為に『戦える』―――『人間』でいて、お願いだから―――」
目的の為に何かを捨てるような人間にはならないでほしい。そう泣きながら息子を頭ごと抱きしめる母の抱擁。
慣れていなかったのだろう。すごく痛くて、それでも母子の愛情を感じることが出来た。
だから――――。
「この時、気づいたんだ。俺の人生が『喪失』することにあるのだと気付き、どこまでも悲しかった。母と父を結びつける鎹では無かったことが、とても悲しくてお互いに泣いてしまった……」
それは―――遠坂刹那にとって古い、旧い、遠く、
最後に漏らした本音が、どうしようもなく……刹那の『こころ』だと気付けて―――。
再びの暗転。映し出された風景―――そこは……地獄だった……。
「「───」」
達也と深雪が言葉を失ってしまうほどに強烈な光景。そこは戦場であった。
あの沖縄の時に見た光景よりも鮮烈な『死の匂い』。人が焼け死に、どれだけの力で以て倒壊したのか分からぬ建物の下敷きになって死んでいた。
多くの人間は焼殺されていた……『どれだけの熱量』だったのか、煮崩れた角肉のように『とろけて』いるものが多かった。
冷静な心地で見れたのは数秒だけ。気づいた現実の凄惨さに、処理が追いつかない。
「こ、れ―――は―――!?」
実際に熱を感じるわけではない。
だが、あちこちで火が吹き上がり、その真っ只中に放り出された達也であったが、数秒もしない内に、舌が喉に貼り付くぐらいに口の中が乾いていた。
精神のみの存在であっても覚える『肉体的な不調』が、この上なく不快を覚える。ここは地獄だ。あちこちで人の正常な営みが消え去ることの理不尽が、ついぞなき達也の『感情』を呼び戻す。
「み――ゆき……深雪ッ!!!」
「だ、大丈夫ですお兄様……ごめんなさいリーナ。支えてもらって―――」
「気にすることないわ。ワタシも初めて見た時は、同じくなっちゃったから……」
崩れ落ちて手で口を抑えた深雪の背中を擦っているリーナの姿に、少しだけ安堵してから、原因となった刹那を睨みつけると、刹那も申し訳無さそうな顔をしていた。
「すまん。ここをスキップするようにはしていたんだが……どうやら―――」
「ああ、お前の親父さんは、俺をお前に近づけることを許してはいないようだな………」
精神体とでも言うべき刹那の『右腕』が、激しく点滅している。
それは恐らく現実の刹那ともリンクしたものであり……、詳細には分からずとも、何となく分かる。刻印は先祖の意思であるならば、点滅して警告を発するような
そして、炎の中でも目立つ生者の一人。見つけた少年。
くすんだ赤毛……炎のせいで、そう見えていると知らなければ勘違いしてしまっていたかもしれない。
その小学生ぐらいの子供。先程の逆廻しのように、今度は刹那の父親の幼い頃の記憶が蘇った。
そうとしか言えない光景が広がっている……。
「冬木大災害……かつて俺の住んでいた街で行われていた魔術師同士の戦争であり暗闘。闇夜に紛れて行われるはずの闘争の災厄が漏れ出て―――こうなってしまった。
……オヤジは……父さんは、この災害の生き残りの一人なんだ」
地獄を見た男………この世界には魔法がない。否、そもそも魔法があってもこの光景は止められない。
この炎は……明らかに『普通』ではない。そう感じた達也は、魔術師という存在の危険度を上げて、歩き続ける少年が、ここからどうなるのかを『心配』しながら、見ることになる…。