魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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全く関係ないのだが、スレイヤーズ最新刊が発売されました。

けれど買えていないんだ。前回と同じく地元書店が入れてくれない。あの頃と同じく買いたいというのに、スレイヤーズとオーフェンだけは余程の事が無い限りは、電子書籍では読みたくないと思いつつ新話をお送りします。


第162話『まほうつかいの過去──EMIYA Ⅰ』

「ふむ。マスターの過去は中々に楽しいようでいて壮絶ですね」

 

「人は望んだ通りの未来(さき)を辿れるわけではない。なりたいと思った人間になろうとしても、無理だから、己の姿を見つけ出すしか無い―――そういうことなんだよね」

 

なりたいと思った人間。英霊として世界に召し上げられた今の自分とて、なりたい、ありたいと思った自分の姿はある。

 

茶店(きっさてん)の屋上にて佇む長尾景虎は、隣りにいる「鳥」……メジロと白鳥を思わせる衣装の人物を見上げる。

 

現在の喫茶店の中は一種の異界だ。そして英霊としての感覚が訴える。あの少年(司波達也)にマスターの全てを明かすのは、ある種の分岐点になるだろうと思えていた。

 

だから、今の時点での邪魔立てはよろしくない。

 

『まぁ待ちたまえ、そう事を荒立てるのはスマートじゃないよ。

───『トライテン』。君の能力を少し開放したまえ。

匣に『大根役者』が入ってくるというのは、あまりいいものではない。もちろん、『化ける』可能性はあるのだろうが、今は『ステージ』が違いすぎる……』

 

「迷宮を展開するのですか?」

 

『そうだね。幻想種を出すのは彼らが異常に気づいた場合のみ、この場合は、体感時間の感覚を狂わせて、体機能……新陳代謝を低下させておけば、『時間を操作』出来るだろうね。君は己を広げることだけに専念しろ』

 

そうして近づいてくるだろうマスターの友人たちを遠ざけるべく、術を展開する様子を見ながら、ランサー景虎としては……。

 

 

(こういう仲間はずれみたいなのは、どうかと思いますけどね……私も兼続や景勝と一緒に『春画鑑賞』などをしていれば……!)

 

絶対に仲間に入れてくれないこと確実なことを誰かが感じつつも、遠坂刹那の分岐点が語られる……。

 

 

† † † †

 

「最近、あっちこっちで魔力の篭もった素材(マテリアル)が売り買いされていると思えば、お前が出処だったとはな……」

 

「宝石が欲しくて売っぱらっちゃった♪ そう怒るなよ。どうせ大亜の隠し倉庫から押収したんだろ?」

 

半眼で睨みつける達也に対して刹那は『てへぺろ』などをやってきやがった。

 

数日前の戦闘の後始末で大亜が隠し持っていた自立戦車や『人の脳髄』に続いて、『幻想種』の剥製、カーバンクルの額石など……先程まで見せられていたアルビオンでの発掘物と同じものを押収したのだ。

 

そして後で響子辺りに、押収物の『固有名詞』を教えねばならないと達也は、頭のメモ帳に止めておく。

 

 

「こっそりブリテン島に渡っては、『ごっそり』発掘していたのよねー」

 

「リーナも着いていったんですか?」

 

「だってダンジョンよミユキ! ドキがムネムネ、ユメがいっぱい少年少女のハートに光放つ眩きものなのだから!」

 

色々混ざりすぎてはいるが、まぁ言わんとすることは分かる。というかリーナが、こんなに眼を輝かせるとは……。

 

合衆国というのは、人間が持つ矛盾性を体現したような存在であり、彼の国に怪物も魔術とも、全く縁がない。

 

だが、縁がないからといって、知らないとは限らない。要は───どこにでも例外はあるということだ。

 

「それに、まだ浅いところしか発掘できていない。『迷宮の住人たち』ともそれなりにコネクションが無ければ、掘り出したいものも掘れない」

 

「盗掘なんだか発掘なんだか分からないが、あんまり儲けすぎていると刺されるぞ」

 

「売り方良し、買い方良し、そして世間良しだ。どうにも魔法師の企業活動というのは、大体において『一人勝ち』の独りよがりな独占を良しとしちゃうからな。

俺としては、それに一石を投じたいんだよ」

 

刹那が言う『三方よし』の精神に則れば、先程まで見ていた採掘作業の際に出てきた『呪体』は、魔法の先天的素質に欠けた人間であっても、何かを出来るかもしれない。

 

それは、確かに『客』が欲しいものではなくて、『客』の為になるものを売っていることになる。

 

「これでも大地主の孫だからな。商売や、世間さまのことを考えれば、そういうことって必要だろ。

故郷の呉服屋の娘も言っていたしな」

 

女豹にはなれない黒豹だ。と悲しそうに言ってから、刹那は話を進める。

 

「話を続けるとしようか。俺のどうしようもない過去(ウルズ)の話をな……」

 

当時のアルビオン探索は、ある種の特例的事業をノーリッジが請け負っていたからであり、ある特務機関をスルーした上での特例でもあったそうだ。

 

ずばり言えば、呪体の発掘量が段々と心もとなくなってきたのだ。

 

これに関して、貴族主義……魔術師たちの閨閥は、喧々囂々の紛糾を見せたらしい。

 

結果として、分裂をした結果の合議でアルビオンの再発掘は必要だとして、決が取られた……。

 

「魔術師にも、そういった派閥意識なんてあるのか?」

 

「意外でもないよ。人間一つ所に集まれば、何かと『集団』や『仲間意識』『好き嫌い』なんてのは出来上がるものだ。

大は国家の政治体制から、小は学校の仲良しグループまでな」

 

一科、二科の違いなど、正しくやさしいモノだ。場合によっては殺し合いの殲滅戦、一族郎党根絶やしにすることも『ざら』らしい。

 

ある『ロード』の言を借りるならば……。

 

『魔法師の寿命が短いならば、芽の出ない連中(Dランク以下の魔法師)を、呪体(ブースター)にしてしまえ……それでも足りぬなら、一から十に連ならぬ混ざり者の分家(百家本流・支流)を削れ……更に人も魔も注ぎ込み、学術機関など作ってどうする?』

 

そういう言が出てくるかもしれない。そのうち、『よいか、真なる魔法師とは、我らのことだけ(十師族・十大研出身)を指すのだ』などという輩が出てくるかもしれない。

 

選民主義の突き詰めたところを見せられて、さしもの達也もぞわっ、とする。

 

背筋が粟立つのは、その倫理意識が、あまりにも他人の人生を『備品』のように扱うからだ。

 

達也と深雪の『本家』と言える四葉とて、そういった倫理意識を持っていないわけではない。

だが『必要』だからこそ、そうしているのと、『首が回らない』退っ引きならない状況だからこそ、『人食い』してまで、自分たちを衰えさせないという理屈は全く違う。

 

「……お袋は、俺に改造を施した時、どんな心地だったんだろうな?……」

「……悲しんでいたとは思いますよ。だって……でなければ……」

 

司波兄妹の会話に無理に割って入ろうとは思わない。しかし、話は進む。

 

「俺としては魔術師全体の利益とか、そんなことはどうでも良かった。アルビオンの最深層。妖精域に辿り着ければな」

 

「何故、其処にいたろうとしたんだ?」

 

「お袋に、母さんにもっと生きていて欲しかった。だから、俺は聖剣の───『鞘』の加護を求めたんだ。

五つの魔法の一つ、並行世界からの干渉すら阻み、アーサー王に不老の力と全治の加護を与える……『黄金の鞘』をな」

 

刹那の言う通り、それは確かに存在していた。衛宮士郎の記憶の再生の中で見た聖剣の鞘は、父親に『再成』なみの回復力を与えて、かつ『英雄王ギルガメッシュ』の乖離剣……破壊力だけならばマテリアル・バースト以上…恐らく円蔵山にある寺で放たれたのは、本気ではないそれすら防いだ。

 

「伝説ではアーサー王が、花の魔術師『マーリン』から授けられた聖剣。その本質は剣ではなく鞘にこそ真価があった。

親父が、『ダニ神父』(母命名)から撒き散らされた泥を防ぐために、鞘を生み出せたならば……」

 

場面が採掘現場……ランチを取っていた場面から切り替わる。

 

美しかった刹那の母親。快活に、溌剌な様子を見せながらも、優雅な佇まいを忘れない……そんな印象だった刹那の母親───は、少しばかり窶れていた。

 

どうしてこんなことになったのか───ことの発端は、大聖杯解体という所にあったらしい。

 

ロード・エルメロイ2世は、アインツベルンとマキリ、遠坂が施した大儀式であり大呪体……英霊召喚を可能とした試みの『原版』たる大聖杯が、既に『退っ引きならない状態』であることを証言した。

 

元々、大聖杯が使い物にならないとしていた『マリスビリー・アニムスフィア』の証言、そしてセカンドオーナーとして土地の管理を請け負っていた刹那の母親のこともあり、『大聖杯解体』という大事業がスタートしたのだが……既にマキリという家は消滅をしており、最後の当主『マキリ・ゾォルケン』の意を汲む分家もいなかったが、問題は『アインツベルン』の方であった。

 

御三家の内の一つであり、『第三魔法』の『成就』ということを何としても成功させたい、見届けたい彼らの妨害もあり、冬木は聖杯戦争ではないのに、結構な魔都になったとか……。

 

「詳しいことは省くが、その際に細心の注意を払っていたにも関わらず、お袋は少しタチの悪い『呪い』に掛けられてな」

 

ロード・エルメロイ2世ほか、教室の人員も総出でかかった。

 

先の第五次でのアインツベルンの『ハーフホムンクルス』に代わり、聖杯の器になった少女『コハル・ライデンフロース』も参加したが―――。

 

「お袋の最大のポカミスだよ。俺が受け持つべき『うっかり』が胎内に残したんじゃないかと、まぁいろいろ考えた。先生やグレイ姉さんたちも少し恨んじまった。

けれど、『それは筋違い』だって分かっていたんだ……」

 

数年は大丈夫だった。このままいけば、刹那が成人するまでは大丈夫だろうと思えていたが……呪いの本質は其処ではなかった。

 

「聖杯の泥……この世全ての悪の呪いは、魔術回路だけでなく刻印にすら食指を伸ばそうとしていた。それを察した母さんは、少々どころかかなり早期から俺に魔術刻印の移植を開始していたんだ」

 

魔術刻印の移植とは、即ち『人体改造』の一つ。如何に子々孫々に適合させていく『臓器』とはいえ、世代を経るごとに血の純度は下がり、その遺伝情報は中々に適合しないものだが、それを適合させるために、『幻想種の骨粉』、一般的には『毒物』ともいえる植物の根の粉末なども呑み込んでいったのだ。

 

「今でもやっているのか?」

 

「まぁな。自分に適した霊脈で瞑想したりしているから、極端に調子を悪くしたり、とんでもない匂いが出ることはないんだけど……注意は払ってる。

リーナの彼氏が『くさいキャラ』だとか、ちょっとアレだろ?」

 

「ワタシとアナタの子供の時を考えたらば、リンお義母様のように香水使いは、ちゃんと教えてあげなくちゃね♪」

 

「どうしよう。もしも『娘』が出来て、『寝る時はシャネル・ナンバー・ファイブ』とか言い出したらば……」

 

今にも泣きそうな刹那の顔。未来に対して幸福すぎるような気がするが、『あの双子』がそう言って、仲間内の息子を誘惑する図は……まぁ見えなくもないのだった。

 

ともあれ、立ち居に衰えは見えないが、やつれているように見える遠坂凛。

 

迷宮探索で手に入れた癒やしの秘石などを、「ちゃんと自分の為に使いなさい。大丈夫よ。母さん―――アンタが、結婚して孫を見るまでは生きてみせるんだから」

 

そう言って優しく断る凛。魔術師としての刹那とて、分かっていることもあるのだろう。けれど、それを覆したかった。

 

「死を克服する奇跡を求めた。もっともっと生きていて欲しかった……けれど───」

 

場面が移る。それは、一組の姉妹の会話だった。

 

どちらも黒髪。そして顔立ちは―――やはり似ていた。

 

「叔母上とお袋の会話だな……」

 

刹那が言う叔母上という女性は、貴人としての服を纏っている、基調としては青と薄紫……宝石の装飾品も結構ある―――。

 

全体的な印象としては、何というかインド神話の女神を思わせる……ゆったりとした服装だからだろうかと思うが、そんな叔母に対して、刹那は口を開く。

 

 

「一見すると、まるで貴族などの上流階級然としているが、魔術師としての戦闘では、グレコローマンスタイルでかかってくる人だ」

 

「プロレスラー!?」

 

「どういう意味なんだか理解が及ばないが、お前の小母って一体……」

 

達也と深雪が少しばかり驚愕していると、姉妹の会話が進む。

 

『本当ならば、アンタにも継承権はあるんだけど……どうする?』

 

『姉さんの子供、『シロウさん』との間に出来た子供と殺し合いはしたくないですね。それに―――魔術師として『先』に行けるのは、どちらかと言われればセツナくんでしょ?』

 

『けど人間、賢しさだけで生きていけるもんでもないでしょ。魔術師としては失格だけれども』

 

少しばかり日本語のイントネーションが変な妹君。刹那曰く、遠坂の家が、遠縁の外国の魔術師の家に『養子』に出したのが、この人、サクラ・T・エーデルフェルトという女性。

 

本来であれば、遠坂家の魔術刻印の継承権は彼女にもあるのだが、それでも甥っ子と相争ってまで……という考えのなさは何故なのか?

 

「俺にも良くは分からなかったんだよな。ただ……『父親の求める通りなどまっぴら御免』とは言っていたな」

 

いまいち分からなかったが、ともあれ短い姉妹の会話。元々、養子に出した縁者と接触することは、魔術師の世界では、ご法度とまではいかずとも、あまりいい顔はされない。

 

これは一般の家でも同じ。……と言っても上流階級の人間でもなければ、養子縁組などということは殆どないのだが……。

 

 

『ルヴィアは、少しばかり乗り気だったけど、刹那を預けるのは、アニムスフィアか……バゼットに任せるわ。二人も遠坂の人間をエーデルフェルトに寄り付かせるというのも、間が悪いもの』

 

『姉さん……』

 

『万が一ってことよ。私も不老不死じゃないことぐらい、分かっているもの……』

 

暗い顔をして姉を見る妹に、笑みを浮かべながら答える遠坂凛。

 

そして刹那は、エーデルフェルトでもなく、バゼットという荒事仕事の魔術師に師事することになる。

 

場面が切り替わる。

 

『お別れの時ね……大丈夫よ。私の残留思念が刻印に宿る。それは、アナタを守るための最後の仕掛け。

さぁ―――手を出しなさい刹那―――ここからは、あんたが『遠坂家七代目当主』……』

 

病床に伏せて、その顔に『水滴』が落ちていたままの、やつれた遠坂凛の姿が無くなる。

 

見ると、刹那が刻印を掴んで『早送り』をしていた。誰も何も言わない。その感情をよく分かっていたから……。

 

場面は切り替わり、雨に降られたのか濡れたままの刹那の前には、小豆色の髪をした女性がいた。

 

印象としては、千代田花音に近いものがあるのだが、それよりもスマートな女性のイメージ。

言っては何だが、スタイルは完全にこちらの勝ちだろう。

 

絶壁と双丘では、こちらの勝ちだろう。

 

不埒な思考を読んだのか、深雪が達也を睨みつけるも、場面は進む。

 

『……ミス・オルガマリーの庇護に入ると思っていたんですが、こちらに来るとは思っていませんでしたよ』

 

『俺の専門は宝石及び鉱石です。アナタに学びたいと思うのは自然でしょう』

 

タオルを被せられて拭かれる前に、自分で頭を拭く刹那の『生意気な態度』に苦笑をするバゼットという女性。

 

自分の家……工房だというのに、私服ではなくて男物のスーツを着ている女性。もちろん、Yシャツとスラックスだけなのだが、どうにも青少年の教育に悪い女性な気もする。

 

『執行者の道に入ると考えていいんですね?』

 

『それを―――考えていましたから……オヤジの足跡を知るには、その方がいい』

 

『てっきり『リンさん』と同じで、『正当な魔術』を極めていくと思っていたんですけどね……教室に属しながら、そういった荒事も無くはないでしょう』

 

『バゼットさん?』

 

言うや否や、バゼットという女はグローブを刹那に投げ渡す。

 

それを見た瞬間、はっきりと分かった。あの入学時点で戦った時から何度も見てきたルーングローブだと……。

 

『私に師事するということは、即ち『私を超える』ということです。それが出来なければ何の意味もありません。シロウくんの後追いでなくとも、その道を知りたいと思うならば……私は容赦しません!! さぁ、掛かってきなさい!!』

 

『どういう意味だ……!?』

 

『リンさんは、アナタがそんな風に言うことを織り込み済みだったんですよ。芽があるかどうかを見させてもらいます!!! 出来なければ、大人しくノーリッジとキシュアとアニムスフィアを専攻して、学びなさい』

 

 

レオよりも本格的なボクシングスタイルで構える、バゼット・フラガ・マクレミッツ。拳を固める魔術師殺しの魔術師相手に、刹那も強化魔術を駆使して挑むも―――。

 

結果として……刹那は何度かふっ飛ばされたりするのだった。

拳一発で人間一人が吹っ飛ぶ映像など、何の冗談だと言わんばかりだが……。

 

「お前も人の子だったんだな」

 

「俺を何だと思っているんだよ。お前は?」

 

とはいえ、結局の所バゼット・フラガ・マクレミッツは、遠坂刹那という魔術師を己の弟子とすることにしたようだ。

 

それは『狩人』としての道に入ることを意味する。

 

魔術師殺しの魔術師。その苛烈な道の果てに……この世界に来たようだが……。

 

その狭間にて緊急の『着信』が入ったように、顔をしかめる刹那。何か『現実』の方であったようだ。

 

「ちょい待て。どうやらレオエリ幹月愛沓栞の一団が、アーネンエルベに向かっているそうだ」

 

「どうしましょうか?」

 

「仲間はずれを、快く思わないのが数名居るからな。とはいえ、刹那の重すぎる真実を冷静に受け止められるのは、俺と深雪ぐらいなんだよな」

 

「私達が四葉だと分かっても平然としていられそうなのが、西城君だけだというのが、なんとも……」

 

いずれ何かの拍子で公然とした「発表」が為されれば、それはそれで不和を招きかねない。

 

妙なことを考えざるを得ないのは、結局の所……遠坂刹那というのが、完全に魔法師にとっての爆弾になりつつあるからだろう。

 

だが、爆弾があってこそ出来上がることもある。どんなに暗いダンジョンでも、岩盤を砕かなければ、望みの鉱物は手に入らないのだから。

 

「まぁ『協力者』が、それなりに妨害はしてくれるようだな。別にショートカットするつもりは無かったが、それだけは伝えておきたかった」

 

「やましいことしていますって喧伝するのは、どうかと思いますけどね」

 

「そんときゃ、あずさ会長が主催したいって言っているハロウィンパーティのアレコレで、秘密にしたかったって言えばいいんだ。

お前だって賛意を示していたじゃないか?」

 

「そりゃそうですけどね。何というか、刹那くんってウソをついているのに、上手くやると言うか……」

 

「達也にも言ったんだが、完全なウソなんて無理なんだから、少しばかりの真実を混ぜとくことによって、追求を打ち切らせるのさ」

 

真似しないほうがいいよ。と言っておいたが、この兄妹は市井の人間を気取ろうとしても、どうしても異常性の方が際立つのだから、無駄な努力に刹那は思えていたのだ。

 

「ワタシにはウソは付かないでよね? ついたらば、『アレ』だから」

 

「ぜ、善処します。いえ、了解しました。マドモアゼル……」

 

笑顔のリーナに問い詰められて、固まって答える刹那の姿。尻に敷かれとる。と思いつつ、何故フランス語?という疑問を出す。

 

同時に、キックボクシングとルーンを組み合わせた戦いの訓練を行う刹那の映像にも変化が訪れる。

 

最初に見えたのは戦場だ。

 

硝煙と幾多もの火煙が棚引く場所で、赤い外套を纏う少年の姿が見える。

 

その眼が『七色に輝く様』を見て気づく。その体から漂う血の匂いが再生される。

 

封印指定執行者の『遠坂刹那』という姿がそこにあったのだ……。

 

「どれだけ取り繕っても血の匂いをさせるのが魔術師っていう人種さ。それが他人の血でなくとも、自分の血を流してしまう……その中でも、苛烈なのが『狩人』としての道なんだ」

 

何を思っているのか、その血煙漂う戦場にて記憶の中の刹那と、今の刹那は―――青く青く輝き白雲一つ無い蒼穹(あおぞら)を見上げていた……。

 

物語は加速していく……。

 

その手にグローブをしながら『陰陽の双剣』を持つ魔術師の行く先が……見えてきたのだった。

 

 


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