魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
若干、駆け足気味で、説明を省いた場面もあって、いつもより字数は少ないですが、読んでいただければ幸いです。
「お前の魔眼は、この頃、どんな状態だったんだ? こんな………『おぞましい地獄』に向かわなければいけないほどに、切羽詰まっていたのか?」
「まぁ……な。魔眼というのは独立した『魔術回路』なんだ。ともすれば、魔術師……体内に魔術回路を持たない『一般人』にも時に発現するものだ。
そして、独立した『外部の端末』である以上、完全な制御下におけないこともある」
現在における『レトロPC』的に言えば外付けの再生ドライブであり、記録端末なのだが、その制御を接続したPCが完全に出来るとは限らない。特に『中古』などであれば、それによろしくないプログラムがされていることもある。
更に言えば、関係がよろしくない国で生産された端末の基盤すらも危ういのだ。
「俺の魔眼、
赤、橙、緑、白、灰、青……『黒』色に輝く刹那の眼。
今の刹那にとって魔眼は完全に制御下にあるようだ。でなければ、そもそも、ここに来た意味は無いだろう。
アルズベリ村の郊外の何処か、恐らく長いこと魔術協会が『監視』をしていたであろう屋敷の中にて、黒色のローブを纏って雑事に奔走していたであろう刹那。
この中では仮面を付けるのがルールらしく、無個性な仮面を纏っていることで、屋敷の中にいる連中は『サバト』でもやるのではないかという想像すら引き起こす。
しかし、それを台無しにするように、一人の女性が矢継ぎ早に仮面の無個性たちに指示を飛ばしている。
背格好なのか声なのか、何で判断をしているのか……。
とにかく女性一人だけが、まるで屋敷の主人のように振る舞っている。
何よりその女性だけが、普通の衣服を纏っているのだから……。
『普通』と言ったが、古めかしい乗馬用の服にも似ているか、もしくは一昔前のヨーロッパ圏の銃兵の衣服にも似ている……。
赤と白のみで構成された衣服。そして茶色の髪をポニーテールに纏めている様子が、きっちりした印象と気高さを体現した……『貴族』。それを感じさせた。
「この人は?」
「おやおや達也、何だか先程から俺の映像にかこつけて、現れる美女の全てに興味津々すぎやしないかい?
誰かに食指でも湧いたのならば、後で深雪がいないところで言ってみ?」
「茶化すな。そしてもろに聞こえてるぞ」
肩を組んできた刹那に対して鬱陶しく思いつつも、深刻すぎる友人の身の上話なのだ。少しぐらいはそういった楽しみがあってもいいのかもしれない――――異性に情愛ある欲求を持てたならば、そうだったのだが。
如何に刹那の人生の大半に女が関わっていても、深雪の前で他の女性に興味を持ちすぎていたか。
「先に言っておくが、さっきの食屍鬼の群れなんて出会い頭の戦いだ。ここから先は、本当に地獄の一丁目、誰もかれもが修羅巷……こう言っては何だが、魔法師の想像を絶する戦いの連続だよ」
「ワタシは一度、見たけども……アメコミ・ヒーローたちが、バトルロワイヤルをするってこんな感じなんだろうなーとか思えたわ……同時に、その中に混じってセツナも存在感示していたわ――――」
惚けたような顔をするリーナに、心底の苦笑をする刹那。どうやら、そんなふうには欠片も思っていないのだろう。
「ここじゃ俺は、ちょっと戦える程度の『サイドキック』だよ。決して『主役』ではなかった。
この後に、指揮長たる『バルトメロイ・ローレライ』……時計塔院長補佐でもある女に『偵察に行ってこい』と命じられて、数名の大隊関係者……詳しい説明すると面倒くさいが、『クロンの大隊』という吸血鬼殺しに特化した楽団が時計塔にはいるんだよ」
バルトメロイというのは、時計塔の話題が出てくる度に出てきた単語だが、いわゆる『派閥』というものであった。
内の中でも気の合う合わないだったり、こいつとはつるめないなど、そういったものはどこでもあるわけだった。
四葉の
時計塔では派閥が『均衡』しておらず、体裁を保つための合議制の場では既に『貴族主義』が六つも存在している。
十三の学科で合議を行う場において、貴族主義が一致団結してしまえば、その合議の場は一気に票の流れが貴族主義派閥『バルトメロイ』になってしまうのだった。
それとて場合によりけりと刹那が言うからには、『切り崩し工作』など当たり前なのだろう。
「真理を求める魔術師が、政治の場における闘争なんてものにうつつを抜かすのは腑抜けだと俺は思うんだけど、それこそが時計塔のもう一つの顔なわけだ」
「お前が十師族の政争を嫌いがるわけだ。お前には、一から十まで、時計塔のロードの生臭さを感じさせていたんだからな」
そういう達也だが、刹那としては『あの程度』の政治力しか発揮できないならば、むしろ『組しやすい』とも思えるのだ。
まぁだからといってそれを明かすほど刹那も馬鹿ではないのだが。
言っていると、映像の中にも変化が出る。
言われていた通り、
『人蛭どもの祭祀まで刻限はありますが、生意気にも我が領域近くまで侵食している連中を『間引きます』。あなた方には連中の戦力確認をしたのちに、即時の退却を』
鷹狩りの追い込み役をやれ。そんな風な印象を持たせてしまうミス・ローレライの言葉。それに対して刹那は盛大に肩を竦めて、達也の推理を正解とした。
「院長補佐は、なんというか……規律を重視しない独裁者タイプの学級委員長で、本当に……なんかいやな―――ああ、いま分かった。
俺が深雪に苦手意識を持っているのは、深雪がバルトメロイに似てるからだ」
気付いた刹那が、手のひらをゲンコツで叩いてから得心をしていた。言われた深雪としては言い返したい気持ちである。
「そんなに私―――こんな高圧的かつ自分の理屈や規範ばかりを重視して、周りの人から遠巻きに見られるタイプですか?」
「何とも正確な分析。やっぱり似ている」
「そうなのか?」
「彼女は本来は、指揮官及び学院長補佐としての職務や「規律」を守らなければいけないんだが、彼女からすれば、そんな社会性ある立ち居振る舞いよりも、己の感情や矜持の方が優先なんだよな。
大体、いくらとんでもない儀式だからと、貴族主義派閥のトップがわざわざ出向いて、殺し合いに参加するなんてのは無駄ごとだろうよ」
歴代のバルトメロイにはある種の悪癖があるらしい。それは生来の『吸血鬼への嫌悪感・殺意』。
彼らは、その魔術師として『上位』にいる吸血鬼を、抹殺するべき対象として付け狙う。
ゆえに彼女率いる大隊が、『吸血鬼殺し』で『効率いい方法』を実行しようとしても、『そんなもの優雅でないから却下』などと、アンタはいったいなんなんだ!? と言わんばかりに、
「院長補佐からすれば、真に魔術の貴族として貴いものは自分たち、バルトメロイの家のみ。貴族階級も労働階級も等しく、自分たちの下僕という意識なんだろう」
「いやぁ彼女は、あれで良いんだよ。むしろ『彼女』ぐらい堂々として、それで傲岸不遜にいられれば、『彼女』もあんな男に殺されなかっただろうに。まぁ交代が唐突だったからね。同情の余地もあるのだけどね」
不意に差し込まれるダ・ヴィンチ女史の言葉。誰を思い出しているのか、しかしその言葉を聞いた時の刹那の落ち込みようは、凄かった。
恐らく、後半の殺された彼女のほうは、刹那にとって大事な人だったのだろう。
ともあれ、深雪とバルトメロイを重ねてみていくと、不穏な未来が見えるのだ。
「ミユキが一高生徒会長になったらば、ヨツバ当主になれば………」
「ああ、第二の『ぼっち系困ったリーダーちゃん(スペック高め)』が出来上がるわけだ。達也、しっかりフォローしてやれ」
「邪推が過ぎると思えないのは、まぁ価値観が凝り固まっているのは共通しているからだな。
あんまり俺を優先せずに学生生活をしてほしいもんだが」
「いまさら!! 本当にいまさら!! いいですよ!! 誰も味方してくれないならば、優しくしてくれないならば、望み通り一人で鬼になってやりますよ!!!」
遂にキレた深雪だが、達也としても、妹が自分に依存していることが、最近はいいとは思えなかった。
今後、どうなるかは分からないが、深雪は四葉の当主筆頭候補なのだ……。
現在、刹那にだけあれこれ訓告だか、もしくは警告だかを宣うミス・ローレライのように、『特殊能力者』に関心を持つかのようになることはよろしくないと思える。
とはいえ……それも仕方ないのかもしれない。何を優先するかは、しょせんは人それぞれなのだから―――。
そして偵察任務に出た刹那と大隊関係者たちだが、刹那がいるということが、とんでもない『ババ』を引くことになったのか、刹那曰く『400年ものの死徒』の集団、およそ10人ばかりに出くわすことになった。
賞金首のように、死徒の顔写真やら能力は知れ渡っていることも多い。特に隠棲せずに、あちこちで死の都を作るような手合……死徒の中にチンピラ的なものを設定するならば、こいつらがそういう手合。
説明した刹那だが、状況は悪すぎた。如何に大隊の一人一人が、協会では一部門を任されるに足る術者といえども、この数は恐ろしい。
上級死徒が700年頃から始まるとするならば、その下の中級死徒は300年から500年単位というランク付け。
もちろん超抜能力持ちや特殊能力持ちであれば、吸い上げてきた血の量と数えた齢などは、覆せることもある。
だが、単純な比較で言えば、『物量差』はどんな世界でも恐ろしいものだ。
魔術回路を発現させて遠くの『神殿』にいるバルトメロイに連絡をする隊員。口封じせんと迫る死徒の爪撃を、高密度の魔力弾が腕ごと失わせる。
しかし、吸血鬼の再生能力、おとぎ話にあるような様子。映像の逆廻しのように腕が再生を果たしていく。
復元呪詛―――死徒だけが持つその能力だが、刹那の攻撃はそれを容易くゆるすほど温いものではなかったはず。
『やはり霊地の影響を受けている。赤月が浮かんでいるわけでもないのに、この再生能力。魔法使いの杖としての矜持を見せてくれるわ―――!!』
『落ち着けオニキス。こんなもんは予想通りだ』
映像の中では、興奮する魔法の杖に対して応える刹那に対して、クロンの大隊の連中も盛大に反撃を開始する。
望んではいなかった遭遇戦。しかし、『手柄欲しさ』に襲いかかる死徒たちにその理屈は無く、次第に追い込まれていく。
『退くぞ!! トオサカ、キミもだ!!』
『殿が必要でしょ!? 俺の方は『翁』製造の礼装がありますから、持たせられます!!』
並行世界から魔力を収奪して己に還元出来る刹那は、この中では一番持久力があったわけだが―――。
その時、背走しながら雨あられと魔弾を落としていた刹那と、前進で退いていた大隊関係者の間に壁が出来上がる。
刹那ではない。恐らく眼前の死徒の誰かが『何か』をやったのだ。
一種の結界術、封印術ともいえるだろうが―――それを前にして、刹那は魔弾から剣へと変更しようと右腕の刻印に―――力が集中した瞬間。
草原の中に、黒影を視る。影は―――音もなく接近し、そして超常の輩を次から次へと消去する。
刹那が、その視界の中で気づけたのは魔眼が自然発動したからだ。
そして、かそけき月光の中に動いていく姿。その朧月の中でしか見れない姿。それは正しく―――『死神』であった。
幽鬼……という存在がいるならば、それをさす。
つまりは、常識に対する非常識が魔術師などの神秘の輩ならば、その幽鬼は―――非常識に対する死神だった……。
ようやく気付いた死徒の一体が、爪を突き立てんと真っ直ぐに手刀の形で捉えた死神に向けるも―――死神は非常識極まる体術を用いて、天地を逆さにした状態で飛び上がった。爪から逃れると同時に首を切り落として背後に降り立つと―――。素手の一撃を『ずぶり』と『体に突き刺して』。
その後には……霞のように消え去る死徒の体。
『ば―――』
残されていた首は、戻るべき首から下を失い、同じ運命を辿った。
恐るべき手際の中に、自分と同じ技かと思えた達也だが、違うと断じれたのは、それは魔力を伴わないものだったからだ。
死神は、その蒼輝の眼を、『ぞろり』とした衣服を脱ぎ捨てた刹那に向けてから、こう言い放った。
『あ、あーゆーすぴーく、じゃぱにーず?』
言わんとすることは分かるが、それを聞くならばキャンユースピークジャパニーズ? ではないだろうかと思ってしまう『死神』の姿に、映像の中の刹那同様見ている自分たちも脱力してしまう……。
それは死神―――極東の異能力者『遠野志貴』という、どうしようもないぐらいに『殺人』に特化した存在との、刹那にとって『受け入れがたい』運命の出会いであった。