魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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というわけで、今話で追憶編は終わりとなりますかね。

次話からは少し長い幕間となって、来訪者編は、少しかかりますかね。

具体的にはオーディオドラマのハロウィンパーティーや、レオが主役の未刊行の短編やら、いわゆる日常回で戦闘は殆ど無いかも(汗)

ともあれ、新話どうぞ。


第172話『まほうつかいの過去──epilogue Ⅱ』

場面は再びのロンドン。刹那の容姿は18歳程度だろうか、そのぐらいに成長している。恐らく、アルズベリから二年は経ってしまったのだろう。

 

そんな刹那は、床に伏せている女性の看病をしているようだった。

 

その女性は……またもや刹那にとっての「母親」だった。

 

窓の外の景色。変わらぬロンドンの街並みを見ながら、バゼットは言葉を紡ぐ。

 

『思えば、いつでも私は一人だった。家にいるときも、家出も同然に時計塔にやってきてからも―――けれど、そんな日々に少しだけの安らぎをくれたのが、衛宮の家だった―――。

私は、本当は……アナタをあの穏やかな日々に帰したかった……肩肘張って生きても、何も楽しくないということを……』

 

最後の言葉。遺言のようにそう呟く養母は穏やかな笑みを浮かべていた。思い出の中にある刹那の両親や、多くの人達がまだいた頃の思い出に浸っているのだろう。

 

『ならば、なんで俺を―――追い返さなかったんだ? 今だって、俺のために苦しんでいるってのに……』

 

アルズベリでの無茶が祟ったバゼットは、それに対しても優しい笑顔を『息子』に見せていた……。

 

『……何かを教えるというのは、面白い。自分の分身をこの世に残すようなものです。

子供がいなくても、私のすべてを受け継ぐものがいるならば、それは―――私が生きた証になる……最後には、私も母親代わりというものをしたかったんですよ。甘くなっちゃいましたね』

 

小豆色の髪をした養母との病床ベッドでの会話。

用意した霊薬を全て拒否してでも死に行く定めを負ってしまった女性は、刹那を安堵させるように言うも、刹那は哀しい顔をしたままに、もはや泣き顔を見せている。

 

死に近い男の側にいすぎたせいか、それとも魔術師としての鋭敏な感覚ゆえか―――刹那は『分かっていた』のだ。

 

『そして―――アナタのせいではありません。アナタが傍にいたからと、何が変わりましょうか。そしてアナタの起源が私をこんな風にしたわけではありませんよ。

私は不幸じゃない。本当に―――幸せでした』

 

『俺も、バゼットのことを母親みたいだって思えた。ひとりじゃないのが嬉しかった……きっと、ルヴィアさんやマリー姉さんでは、遠慮が出来てしまったから……本気で俺を鍛えてくれるアンタが大好きだったのに―――』

 

『ありがとう。その言葉を『最後』に聞けて―――嬉しかった……』

 

その言葉を聞いてバゼット(養母)を掴んだ。生きていてくれ。死なないでくれ―――俺を一人にしないでくれ。そんな単純な想いが、口を衝く。

 

 

『いや、だ。嫌だ嫌だいやだいやだいやだ!! なんで、なんで!! みんなみんないなくなってしまうんだよ!!

そんな物分りよくならないでくれよ!! 抗ってくれよ!! 藻掻いてくれよ!!!

なんで―――なんで―――』

 

言葉が途切れて、肩を抑える刹那の姿。痛みに耐えながらもバゼットを見る目は切っていない刹那。その眼から涙が流れる。

 

 

『私からの最後の贈り物です。アナタと共にもう少しだけ家族でいたかった……悔しいですね。最後だと思うと、途端に悲しくなってしまう。

人生はまだまだ続きます。アナタの道を誰かに繋げていってください。それは私の道も、夢も途絶えない。そうなんですから……人が死ぬ時は誰かに―――忘れられた時です。『受け継ぐ』『託す』というのは、そういうことなのです。

忘れないでくださいね刹那―――あなたのもうひとりの『お母さん』の大切な言葉を――――』

 

その時、ルーン文字の転写のように、バゼット・フラガ・マクレミッツの刻印が肩に写し出される。そして力なく眠るように息を引き取ったバゼットの姿。

 

美しい女が再び死ぬ光景……それを見た時に、刹那の泣き声が響いて、病室の外にいた人間たち、オルガマリー・アニムスフィア、オフェリア・ファムルソローネ……ロード・エルメロイ2世などが入ってきた。

 

『セツナ!?』

 

肩を抑えながらも、泣き声を上げる刹那の異常に気付いたオルガマリーが、衣服を切り裂き、肩にある神秘の塊を見てそれに封印を施す。同時に、昏倒を果たす刹那の姿

 

そして、その意味を考えて―――オルガマリーは、別れは近いのだと感じるのだった……。

 

「他者の魔術刻印を使うというのは、封印指定の方のアオザキも使っていたそうだが、俺のような稀有な例は、そうそう無いことだからな」

 

「つまりお前は、この時を以て追う側から『追われる側』になったのか……」

 

「おおよそ三年がかりで、オヤジと同じ立場になっちまった。よっぽどミリョネカリオンの連中は、俺が爛熟した果実に見えたんだな」

 

そして―――遂に、達也たちがいる世界に至る最後の日が再生される。

 

時計塔のどこか……自動清掃のロボットならぬゴーレムが動き回り、生徒たちが話したり何か動き回りながら廊下を歩いていた。

 

その中に刹那も混じっている。

 

だが―――足早にそこから抜けた刹那は―――二人だけの状況で、恩師に鉢合わせた。刹那の記憶の中だけでなく、教科書でもよく見ていた仏頂面の顔に、達也も見慣れた想いを覚えてしまう。

 

『スラーに行くのか?』

 

『ええ』

 

『ついでだ。これをライネスに届けておいてくれ』

 

『これ』と言ってエルメロイ2世が渡したのは、ただの木箱。

古めかしい巻物でも入れておくための、それを受け取った刹那は笑みを浮かべた。

 

 

『何だか。先生が戦争に参加した時みたいですね』

 

『あれ以来、管財課の管理などはかなり密になったらしいからな。決して―――『開けるなよ』絶対に『開けるなよ』。分かったならば『行け』……』

 

そうしてから刹那に背を向けて歩き出すロード・エルメロイ2世。そして受け取った刹那は、恩師の伝説に肖るように、その箱を開けた。

 

 

「一種の『符丁』なんだ。先生を筆頭にノーリッジの講師陣が二重に警告を放つ時は、『それをやれ』ということなわけだ―――」

 

 

言葉通り。映像の中の刹那は『符丁か』と小さくつぶやいてから木箱を開けた。開けた瞬間に……『今すぐ逃げろ。お前に『封印指定』が掛けられた』そっけない文章が、そこにあった。

来るべき時が来たのだと気づき、刹那は、神速で己の工房に舞い戻った。

 

スラーに存在している刹那の住居兼研究室には、既に執行者たちが詰めている可能性もあったが、その姿はなかった……。

 

その理由は―――。

 

 

『貴様ら!! 庇い立てするつもりか!?』

 

『いやいや、このスラーってアルビオンにも繋がったりしますから、実地調査中なんですって、そもそも、如何に天文台と言えども一つの学科の活動拠点に令状もなしに、大量に踏み込むってのはどうなんでしょうねー?』

 

『だから封印令状は―――、ない? おい誰か! 冠位決議で押印された文章は―――』

 

などという声が聞こえたりして、令状を密かに魔術で抜き去っただろうと思える混沌魔術師の言葉が刹那に届く。

 

『俺としては、少しだけ惜しいし、『もったいない』けど。キミはもう少し『先』に行くべきなんだよ。だから―――『世界』を飛び越えるんだ!! セツナくん!!』

 

思念の声が頭に響きながらも、狼のような遠吠えが耳朶を打ち、轟雷が鳴り響きながら、星降の魔弾が昼間に降り注ぐ。

誰もが自分に行け、進めと、前に―――。そう言ってくる。

 

嬉しさが無いわけではない。ただそれでも、俺と別れることがみんな辛くないのか。行ってほしくないと想わないのか?

様々な想いが去来しながらも、これ以上留まっていれば兄弟子、姉弟子たちに迷惑が掛かる。けれど自分に『行きたいところ』など無い……。

 

再び自分の大切なものを失うぐらいならば、いっそのこと―――。

 

 

『カレイド奥義! マーヤパンチ!!』

『あべしっ!! な、なにすんだよ!?』

 

普通に羽を使って叩いただけであり、奥義でもなんでもないように思えるが、魔術師としての本能ゆえか、簡易ゴーレムたちに荷造りをさせていた刹那が中断するぐらいの威力はあったようだ。

 

『古式に則り言わせてもらうが、キミはまだ生きているんだ!?

だったらしっかり生きて! それから死ぬべきだ!!

生きたくとも死んでしまった人間をキミは見てきたはずだ。

救いたくとも救えなかった全ての『いのち』を焼き付けてきただろう。

その全てに、『ここで終わり』と胸を張って言えるのか!?

キミの終わりは―――キミだけの終わりじゃないんだ。それを理解するんだ刹那……今は、気持ちを軽くしてもいい―――どこかに行くんだ。それから考えたまえ』

 

『……… 』

 

その時、刹那の手の中にある『棍棒』のような『剣』のようなものが光り輝く。母の遺言に従って財を溜めて溜めて、その上で完成を見た『奇蹟』が、世界跳躍の秘宝を解き放とうとしていた。

 

荷造りは終わった。重要なものは、全て『トランク』に収められた。封印指定になってこそ分かってしまう悲哀。

こういう時に限って、『あれ』も『これ』も持って行きたくなる。その結果、執行者に結界を破られて無残な死体になるのだ。

 

だから―――。

 

 

『お前の言うとおりだ。どこでもいいや―――とりあえず『どこか』へ行こう……』

 

 

そんな人によっては軽い考えで、世界を跳ぶ『魔法』が行われる。

 

 

『―――行ってきます。皆さん―――お世話になりました!!!!!!』

 

最後に見えないが、工房の中から外に対して一礼をした遠坂刹那は―――第2魔法を行使して、世界から消え去った―――その際に映像がかなりブレる。

 

ノイズというわけではないが、達也や深雪では『認識できない』領域に至っていた。

だが音だけは聞こえてきた。音声だけではあるが、威厳がある声と若い声。刹那が言い合う様子が聞こえる。

 

 

『俺の眼に封印措置を施したのは、あんただったんだな?』

 

『まぁな。お主の眼は、『アレ』に似すぎている。実際、ケンカ売られたか?』

 

『面白がるように言うんじゃねぇ。『粗悪な『眼』を持つものがいるようだ。戯れで殺してやりたい』とか小便ちびりそうだった』

 

『それもまた一興だ。良きカッティングになったことは、儂にとってもいいことだ』

 

『結果として俺は、追い出されたわけですがね……』

 

『魔法使いとて定命のさだめからは、そうそう逃れられない。人間をやめる秘儀でもしなければな―――。

短いが、灰色ではない人生。虹色に輝く、その瞬間を生きていけ。

いつか気がつく。お主の人生は、ただ『笑う』だけで全てが変わるのだと―――その眼が導く全てを繋げてみろ』

 

 

笑みを浮かべない人間ではない。

御老体の声に返すそんな不貞腐れ気味の声が聞こえて、そして場面は切り替わる。

 

 

世界の跳躍は終わり―――。

 

遠坂刹那は、この世界に舞い降りた。舞い降りた際の刹那は縮んでいた。

 

錯覚かと想ったが、映像の中の刹那は小さくなっていた。そして、先程までの逡巡など無かったかのように切り替えて、魔法の杖と共に歩き出す。

 

 

「オニキスの言う推測はその通りなのか?」

 

「まぁそうだと思うよ。肉体の最盛期辺りに『よろしくない事』が起こるとしての、世界からの『お節介』か―――あるいは、『お前達』が親近感を出せる存在として年齢調整したのかもな」

 

「俺達と出会うのは必然だったのか……」

 

どちらにせよ。この2095年―――間もなく2100年という節目を迎えつつある時代にて、司波達也及び司波深雪などの存在は良くも悪くも何かの因子となる。

 

それゆえに世界からのお膳立てという線はありえる。

 

 

「とはいえ、お前からは年上という感覚は無いんだがな」

「そりゃ、俺が世俗と殆ど関わらなかったからだろうな」

 

 

結局、魔術師としての生き方ばかりをしてきた刹那にとって、『超常分野』と『俗世』が共存している世界で、さらに超高度情報化社会では、どうしても前の世界での経験など殆ど役に立たなかった。

 

結果チャイルドマン(大人こども)にならざるを得なかったのだ。

 

呆れながらの結論を出すと、ああそろそろだな。と思えるダ・ヴィンチ=オニキスの人の悪い笑みを見て気づく。

 

彼女も一度は見ているはずなのだが、存外、こういう時はにぶいものだ。

 

路地裏から出て、ストリートの脇にあるショーウインドウを視る刹那を誰もが見て―――はっ! と気づくリーナ。

 

「ストップ!! ストッピングよセツナ―――!!」

 

『止まりなさい!!!』(STOP THE PERSON)

 

 

奇しくも映像の中の音声と重なるリーナの文言。

 

綺麗で透き通るような声を張り上げた少女は、ふっ飛ばしたスケートボードのチンピラ以上に危機的な状況に陥っていた。

 

群衆はいきなり現れたモノスゴイ美少女にして、ものすごく『コミックヒーロー』じみた存在に興味津々であって、通信先にいる存在に対して憂慮しながらも、とんでもないことを言ってのけた……。

 

 

『わ、私はリーナ! 魔法戦士リーナ!』

 

ぶふぉおぁっっ―――――!!!

 

淑女にあるまじき盛大な笑いを吹き出したのは、当たり前のごとく深雪であり、それを見たリーナは刹那の刻印を左腕ごと引っ掴む。

 

 

「こういう場面(シーン)は、気を利かせてスキップしておいてよ――!! お義母様に頼んでスキップしてもらうんだから――!!(必死)」

「それは出来ねー!! 宇宙の掟に則りダメーッ!! 具体的には蒼輝銀河の流離いの用心棒にして、ウェスタンフォームな女神のお袋に則って不許可―!!!」

「刹那のお母さんの法則が乱れる。というか、本当にどんなビッグマムよ!!」

 

 

刹那の刻印を、一昔前の映像記録装置の『リモートコントローラー』のように叩こうとしているリーナだが、そんな様子とは裏腹に、映像の中のリーナと刹那は初めての夫婦の『共同作業』を行って、チンピラを完全に沈黙させた。

 

結果として『美少女魔法戦士プラズマリーナ』爆誕となってしまったわけである。

 

とはいえ、群衆(オーディエンス)から歓声を浴びる少女―――アンジェリーナ・クドウ・シールズを見て、『笑み』を浮かべる少年は、その場を立ち去っていく―――。

 

 

そして場面は飛び、どこかの港が見えてきた。

 

水平線の向こうを見て、シニカルになっている誰かの後ろ姿。視点が少しだけ違う……リーナが刹那の刻印と接続しているからか、リーナの視点に切り替わって……リーナが、何度か深呼吸をしている様子。

 

感じる吐息、顔は上気しているようで吐き出す息は白く視界を染め上げていた。

 

シニカルになっている誰か……刹那はお袋さんの形見を取り出して、それを見ていた。

 

綺麗にカッティングされた宝石。遠坂家秘蔵の宝石を見て―――。

 

『捨てるんですか? そのアクセサリー』

 

そんな何気ない『逆ナン』を以て、この世界における遠坂刹那(まほうつかい)の物語は始まる――――。

 

それは、道端を歩き、石につまづいたような拍子で始まりを告げる、残酷で優しいひとつの出会い。

 

『アンジェリーナ・クドウ・シールズ――――気軽に『リーナ』って呼んで』

『―――遠坂刹那―――、それがオレの名前だ。リーナ』

 

それは遠い遠い……世界すら超えた話。

 

これっぽっちも関わりのない、つまずくコトすら有り得ない二つの人生。

 

けれどそれ故に、眩いばかりの奇跡だった一つの出会い。

 

――――男の子と女の子のお話は、始まったばかりなのです。

 

 


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